特別条項付き36協定は、臨時的な事情があるときに限って、月45時間・年360時間という限度時間を超える時間外労働を可能にする労使協定です。超えられる幅は労働基準法36条5項と6項で決まっていますが、数え方は欄ごとに違います。月100時間未満は休日労働を含めた合計、年720時間は時間外労働だけの数字です。ここでは条文と様式第9号の2の記載例をもとに、協定に書く項目、上限の数え方、上限を超えたときの扱いを整理します。2026年9月1日からは労働基準監督署が重点的に見る対象も変わりました。
まとめ:特別条項で守る4つの上限と2026年9月からの監督指導の重点
特別条項を結んでも、次の4つは超えられません。いずれも労働基準法36条5項・6項の数字で、協定でこれより緩い定めをしても効力はありません。
- 時間外労働と休日労働の合計が1か月100時間未満
- 時間外労働が1年720時間以内(休日労働は含めない)
- 時間外労働と休日労働の合計が2か月から6か月までのどの平均でも1か月80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えられるのは年6回まで
ただし、新技術・新商品等の研究開発業務(36条11項。届出は様式第9号の3)と、災害復旧・復興の建設事業・自動車運転の業務・医師(労働基準法附則139条から141条)には、この一部または全部が適用されない特例があります。
協定に書く内容は様式第9号の2で決まっており、限度時間を超える事由・健康及び福祉を確保するための措置・割増賃金率・手続の4項目が、通常の36協定に上乗せされます。2026年9月1日からは、監督署が時間数だけに着目して月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、この協定に書いた健康確保措置の実施状況を重点的に確認する運用に変わりました。書いたまま実施していない措置が、そのまま指導の入口になります。
特別条項付き36協定と通常の36協定の違い
限度時間が45時間の人と42時間の人
36協定を届け出れば時間外労働をさせられますが、そこで定められる時間は限度時間の範囲内に限られます(労働基準法36条3項)。限度時間は1か月45時間・1年360時間です。ただし、対象期間を3か月超とする1年単位の変形労働時間制で働く人については1か月42時間・1年320時間と、3時間・40時間ずつ低く設定されています(同条4項)。自社に変形労働時間制がある場合、45時間だけを見ていると回数の数え方を誤ります。
この限度時間を超える枠を作るのが特別条項です。特別条項がない36協定では、月45時間・年360時間が絶対の上限となり、繁忙期であっても超えれば労働基準法32条違反です。36協定そのものの締結手続きや届出先は36協定とは?残業の上限規制と届出、勤怠システムでの上限チェック要件で扱っています。
「臨時的な特別の事情」に書ける事由・書けない事由
条文は特別条項の前提を、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合と定めています(36条5項)。指針5条1項と様式第9号の2の裏面にある記載心得1(1)は、この事由をできる限り具体的に定めるよう求めたうえで、「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」のように恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものは認められないとしています。
厚生労働省が臨時的に必要がある場合の例として挙げているのは、予算・決算業務、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、納期のひっ迫、大規模なクレームへの対応、機械のトラブルへの対応です。予算や決算のように時期が読めるものも例に入っている点が重要で、分かれ目は周期性ではなく、恒常的な長時間労働を招くおそれがあるかどうかです。書ける事由がある一方、抽象的にまとめた協定は、届出の窓口で指摘を受けるだけでなく、後で監督を受けたときに恒常的な長時間労働の追認と評価される材料になります。
特別条項で認められる上限時間の数え方
月100時間未満は休日労働込み、年720時間は時間外労働のみ
この2つは母数が違います。様式第9号の2の2枚目は、欄名に添えられた括弧書きで区別しています。1箇月の欄は「時間外労働及び休日労働を合算した時間数。100時間未満に限る。」、1年の欄は「時間外労働のみの時間数。720時間以内に限る。」です。法定休日に働かせた時間は、月の判定には入り、年の判定には入りません。
| 判定単位 | 特別条項なし | 特別条項あり | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1か月の時間外労働 | 45時間(変形は42時間) | 年6回まで超過可 | 36条3項・4項・5項 |
| 1年の時間外労働 | 360時間(変形は320時間) | 720時間以内 | 36条4項・5項 |
| 1か月の時間外+休日労働 | 100時間未満 | 100時間未満 | 36条6項2号 |
| 2〜6か月平均の時間外+休日労働 | 80時間以内 | 80時間以内 | 36条6項3号 |
下2行は36条6項2号・3号によるもので、限度時間のような協定上の枠ではなく、実際に働かせた時間そのものに掛かる規制です。特別条項の有無を問わず適用されるため、時間外労働が44時間で特別条項を発動していなくても、法定休日労働が56時間あれば合計100時間で違反です。2〜6か月平均は、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均のすべてが80時間以内でなければならず、協定の起算日をまたぐ期間も対象に含みます。
月45時間超は年6回まで(変形労働時間制では42時間超)
回数の枠は36条5項後段にあり、様式でも「限度時間を超えて労働させることができる回数(6回以内に限る。)」と欄名で示されています。数えるのは月45時間を超えた月の数で、45時間ちょうどの月は含みません。1年間は協定の有効期間ではなく、様式に書いた起算日から1年で区切ります。有効期間と起算日がずれている協定では、給与の締め日でも暦年でもなく起算日基準で残り回数を管理します。
対象期間3か月超の1年単位の変形労働時間制が適用される人については、この判定ラインが42時間になります(36条5項後段、様式第9号の2 記載心得1(6))。同じ事業場に通常の労働時間制と変形労働時間制が混在していると、同じ44時間の残業でも、通常の労働時間制の人は回数に数えず、変形労働時間制の人は42時間を超えるため1回を消化します。判定基準を人ごとに切り替える必要があります。
特別条項でも動かせない1日の延長時間
36条5項が特別条項で定められるとしているのは、1か月と1年の時間だけです。1日について限度時間を超える枠を設ける規定はありません。様式第9号の2の2枚目にも1日の欄はありますが、見出しは「1日(任意)」で、厚生労働省の記載例も「(任意)の欄は、記載しなくても構いません」と説明しています。
そのため、1日に働かせられる時間の上限は、1枚目(様式第9号に相当する部分)で協定した1日の延長時間のままです。1日3時間で協定していれば、特別条項を使う月でも1日3時間を超えて延長させることはできません。月の枠だけを見て日々の残業を積み上げると、月次では収まっているのに日単位で協定違反という状態が生じます。
様式第9号の2に記載する4項目と記載例
限度時間を超えて労働させることができる場合の書き方
特別条項に固有の記載事項は、労働基準法施行規則17条1項の4号から7号です。同項ただし書は、この4つを特別条項の定めをしない場合はこの限りでないとしており、裏を返せば特別条項を置くなら4つとも必須です。内訳は、限度時間を超えて労働させることができる場合(事由)、健康及び福祉を確保するための措置、限度時間を超えた労働に係る割増賃金の率、限度時間を超えて労働させる場合における手続です。
事由は業務の種類ごとに分けて書きます。厚生労働省の記載例では、設計は突発的な仕様変更で年4回、検査は製品トラブル・大規模なクレームへの対応で年3回、機械組立は機械トラブルへの対応で年3回と、業務ごとに事由と回数を別々に定めています。全業務を一括りにして「製造業務」とまとめる書き方は、指針4条が求める業務区分の細分化を満たしません。
健康及び福祉を確保するための措置の選び方(①〜⑩)
様式裏面の記載心得1(9)は、次の番号から選んで記入し、右欄に具体的内容まで書くよう求めています。番号だけの記載では要件を満たしません。
| 番号 | 措置 |
|---|---|
| ① | 一定時間超で医師による面接指導 |
| ② | 深夜業の回数を月一定回数以内に制限 |
| ③ | 終業から始業までの休息時間の確保 |
| ④ | 代償休日または特別な休暇の付与 |
| ⑤ | 健康診断の実施 |
| ⑥ | 連続取得を含む年次有給休暇の取得促進 |
| ⑦ | 心とからだの相談窓口の設置 |
| ⑧ | 適切な部署への配置転換 |
| ⑨ | 産業医等による助言・指導や保健指導 |
| ⑩ | その他 |
表は記載心得の記載を要約したものです(②の対象は労働基準法37条4項の時刻、つまり午後10時から午前5時までの深夜です)。厚生労働省の記載例は①③⑩を選び、具体的内容として医師による面接指導の実施、11時間の勤務間インターバルの設定、職場での時短対策会議の開催を記入しています。③の休息時間の設計は勤務間インターバルとは?11時間ルールと勤怠システムの対応要件【2026年版】で詳しく扱っています。なお指針8条が望ましい措置として挙げるのは①から⑨に相当する9つで、⑩の「その他」は様式側で用意された受け皿です。自社の実情に合う措置が9つに無いときは⑩を選び、内容を具体的に書きます。
割増賃金率の記載例は35パーセント
割増賃金率の欄について、記載心得1(7)は法定割増賃金率を超える率とするよう努めることと定めています。法定は25パーセント以上ですから、努力義務の対象は25パーセントを超える率で、厚生労働省の記載例は35パーセントを採用しています。ここを25パーセントのままにしても届出は受理されますが、指針が求める水準には届きません。
手続の記載と実施記録の保存期間
手続の欄には、協定の締結当事者間の手続として「協議」「通告」などの具体的な内容を書きます。記載例は労働者代表者に対する事前申し入れです。特別条項を使う月には、この手続を実際に踏んだ記録が必要です。手続を経ずに限度時間を超えれば、協定に定めた発動要件を満たさないまま働かせたことになります。
実務で漏れやすいのが記録の保存です。労働基準法施行規則17条2項は、健康及び福祉を確保するための措置の実施状況に関する記録を、協定の有効期間中と満了後5年間保存しなければならないと定めています。ただし同規則71条により、当分の間はこの「五年間」が「三年間」と読み替えられます。実務では3年ですが、根拠は5年で、経過措置が外れれば延びる性質の期間です。
月60時間超の割増賃金50パーセントと特別条項の関係
1か月の時間外労働が60時間を超えた分は、割増賃金率が5割以上になります(労働基準法37条1項ただし書)。中小企業への猶予は2023年4月1日に終了しており、現在は企業規模を問わず適用されます。特別条項で月80時間の枠を設けている事業場では、60時間までが25パーセント以上、60時間を超えた20時間分が50パーセント以上という二段構えです。
60時間のカウントに入るのは、法定労働時間を超えて延長した時間です。法定休日に働かせた時間は35パーセント以上の割増が別に掛かるため、この60時間には算入しません。一方、法定休日以外の休日(週休2日制の土曜など)の労働は時間外労働として算入します。どちらが法定休日かは就業規則の定め方で変わるため、判定の考え方は法定休日とは?所定休日との違い・割増賃金と勤怠設定を解説で確認してください。深夜(22時から5時)に及べば、37条4項の25パーセント以上がさらに上乗せされます。
協定に35パーセントと書いた場合でも、60時間を超えた部分は法律上50パーセント以上が必要で、協定の率が法定を下回る部分は法定が優先します。固定残業代を採用している場合は、この50パーセント部分まで含めて設計しないと不足が生じます。計算方法はみなし残業(固定残業代)とは?計算方法・上限時間・違法の見分け方を解説で整理しています。なお様式第9号の2に60時間超の割増賃金率を書く欄はなく、割増賃金率の欄に記入するのは限度時間を超えた労働に係る率です。60時間超の50パーセントは、協定の記載とは別に法律上当然に適用されます。
上限を超えた場合の罰則と監督の実態
罰則の条文と2025年6月からの拘禁刑
労働基準法119条1号は、32条・36条6項・37条などの違反について「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」と定めています。多くの解説がいまも「6か月以下の懲役」と書いていますが、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う整理法(令和4年法律第68号)により2025年6月1日から懲役は拘禁刑に置き換わっており、条文上の表記は拘禁刑です。厚生労働省のパンフレットや様式裏面の記載心得には旧表記が残っています。
違反の型は2つに分かれます。協定で定めた時間を超えて働かせた場合は、36協定による免罰の効果が及ばないため労働基準法32条違反です。協定の範囲内であっても、実績が月100時間以上になったり2〜6か月平均で80時間を超えたりすれば36条6項違反です。監督指導結果の注記も、この2つを別の違反として計上しています。上限を超えたあとに協定を届け出直しても、超えた事実は消えません。
令和6年度の監督指導結果に見る違反の内訳
厚生労働省が2025年7月30日に公表した令和6年度の監督指導結果によると、長時間労働が疑われる26,512事業場に監督指導を行い、21,495事業場(81.1パーセント)で労働基準関係法令違反が見つかりました。違法な時間外労働があったのは11,230事業場で、監督指導を行った事業場の42.4パーセントにあたります。
内訳は入れ子です。違法な時間外労働があった事業場のうち、時間外・休日労働が最長の労働者で月80時間を超えていたのは5,464事業場(48.7パーセント)、そのうち月100時間超が3,191事業場、さらにそのうち月150時間超が653事業場、月200時間超が124事業場でした。違法な時間外労働の11,230事業場に次いで多いのが、過重労働による健康障害防止措置の未実施で5,691事業場(21.5パーセント)、賃金不払残業の2,118事業場(8.0パーセント)を大きく上回ります。時間数の是正だけでなく、健康確保の措置を取っているかどうかが摘発の主要な軸になっていることが読み取れます。
2026年9月1日に変わった監督指導の重点
厚生労働省は2026年8月19日、時間外労働等に係る相談・支援と監督指導を見直すと公表しました。日本成長戦略および経済財政運営と改革の基本方針2026(いずれも2026年7月21日閣議決定)を踏まえたもので、2026年9月1日から実施されています。
監督署側の変更点は明確です。時間外・休日労働の時間数だけに着目して1か月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、各事業場が36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認し、確認した状況に応じた指導を行うとされました。ただし過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合は、引き続き必要な指導が行われます。あわせて働き方改革推進支援センターに、36協定や特別条項の締結や柔軟な労働時間制度の活用を支援する専門相談窓口が置かれ、同センターと労働基準監督署(労働時間相談・支援班)とのチームによるアウトリーチ型の訪問支援も始まりました。
この変更は、特別条項の作り方に直接効きます。これまでは時間数のみに着目した指導が行われる場面がありました。これからは、協定に書いた①から⑩の措置を実施しているかどうかが確認の中心です。面接指導を選んだのに申出の仕組みが無い、11時間の勤務間インターバルを書いたのに勤怠記録で退勤から出勤までの間隔を追えない、といった状態は、そのまま指摘の対象です。書ける措置ではなく、記録に残せる措置を選ぶ。これが特別条項を作り直すときの実質的な判断基準に変わりました。措置の実施記録を勤怠データから作れる状態にしておけば、確認への対応がそのまま日常の管理になります(勤怠管理とは?法律上の義務と管理項目・勤怠管理システム比較の観点を解説)。
よくある質問
特別条項がない36協定では、月45時間を超える残業は一切できないのですか
できません。特別条項を定めていない場合、協定で設定できる時間は限度時間(月45時間・年360時間、対象期間3か月超の1年単位の変形労働時間制では月42時間・年320時間)の範囲内に限られます。これを超えて働かせれば労働基準法32条違反です。災害その他避けることのできない事由による臨時の必要がある場合は33条の許可・届出という別の制度がありますが、繁忙は該当しません。
特別条項付き36協定を締結すること自体は違法ではないのですか
違法ではありません。労働基準法36条5項が正面から認めている定め方です。ただし条文は、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的にという限定を置いており、恒常的な長時間労働を前提にした運用は認められません。指針5条2項も、限度時間を超える場合の時間外労働を限度時間にできる限り近づけるよう努めることを求めています。なお36協定は労働基準法上の免罰効果を与えるものなので、個々の労働者に残業を命じる権利は就業規則や労働契約の定めから生じます。
特別条項を発動するときに必要な手続は何ですか
協定に書いた手続をそのとおりに行います。労働基準法施行規則17条1項7号で、限度時間を超えて労働させる場合における手続が必須記載事項とされており、記載心得は協議・通告など具体的な内容を書くよう求めています。厚生労働省の記載例は労働者代表者への事前申し入れです。届出は年に1回でも、この手続は限度時間を超える月ごとに必要です。
月99時間の時間外労働は、特別条項があれば問題ないのですか
単月では協定の範囲内でも、平均と回数で引っかかります。休日労働が1時間でもあれば月100時間に達して36条6項2号違反です。仮に99時間で収めても、翌月が62時間なら2か月平均80.5時間となり36条6項3号違反です。年単位でも、月45時間を超えられるのは年6回までなので、80時間から99時間の月を6回作ると480時間から594時間を消化し、残り6か月は45時間以内に抑えたうえで年720時間に収める配分が必要です。
特別条項を結んだら、就業規則も変更する必要がありますか
時間外労働をさせる旨の根拠規定が就業規則に無い場合は変更が必要です。加えて、限度時間超の割増賃金率を法定より高く設定したときは、賃金規程にも反映しておかないと支払いの根拠が協定だけになり、運用が不安定です。就業規則の変更届と36協定の届出は別の手続なので、同時に進めるとしても書類は分けて用意します。