勤怠・給与

みなし残業(固定残業代)とは?計算方法・上限時間・違法の見分け方を解説

みなし残業(固定残業代)とは?計算方法・上限時間・違法の見分け方を解説

みなし残業(固定残業代)とは、一定時間分の残業代をあらかじめ定額で給与に含めて支払う制度です。「月給30万円(うち固定残業代40時間分5万円を含む)」のような形をとります。設定した時間内なら実際の残業が何時間でも支給額は変わりませんが、超えた分は別途支払う義務があり、残業代を払わなくてよい制度ではありません。

この制度でつまずくのは、たいてい金額の妥当性です。固定残業代が有効に成立するには最高裁が示した2つの要件を満たす必要があり、金額が法定の割増賃金額に届かなければ、その不足分は未払い残業代として残ります。さらに、割増賃金の基礎から外せる手当と最低賃金の対象から外れる手当は中身が違うため、同じ給与明細を2通りの物差しで検算しなければなりません。この記事では、仕組みと2要件、金額を検算する4ステップ、上限時間の実質的な線、超過分の請求と時効、立場によって逆になるメリットとデメリット、給与明細・求人票での確認方法までを扱います。

まとめ:みなし残業(固定残業代)の要点

  • 成立要件は2つ。通常の労働時間の賃金と割増賃金部分を判別できること(明確区分性)と、その手当が時間外労働の対価として支払われていること(対価性)。
  • 金額の下限は「基礎賃金の時間単価×1.25×設定時間」。これを下回る固定残業代は、不足分について未払いが発生している。
  • 物差しは2本ある。割増賃金の基礎から外せる手当は7つ、最低賃金の対象から外れる手当は6つで、住宅手当と精皆勤手当の扱いが逆になる。
  • 時間数に直接の上限規定はないが、月80時間分は原則無効。イクヌーザ事件(東京高判平成30年10月4日)が公序良俗違反としている。実務の目安は36協定の限度時間である月45時間。
  • 設定時間を超えた分は必ず別途支給。未払いなら請求でき、賃金請求権の時効は当分の間3年(労基法附則143条3項)。
  • 求人票には3項目の明示が求められる。固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代の計算方法(時間数と金額)、超過分を追加支給する旨。

以下、それぞれの根拠と具体的な検算手順を見ていきます。

みなし残業(固定残業代)の仕組みと、有効に成立するための2要件

給与に含まれる残業代の範囲は契約で決まる

労働基準法37条は、時間外労働に2割5分以上5割以下の範囲で政令が定める率(時間外は2割5分)、法定休日労働に3割5分、午後10時から午前5時までの深夜労働に2割5分以上の割増賃金を義務づけています。月60時間を超える時間外労働は5割以上です。

固定残業代がこのうちどれを含むかは、法律ではなく雇用契約と就業規則の定め方で決まります。「時間外労働40時間分」としか書かれていなければ、深夜割増と法定休日の割増は含まれていません。深夜に働いた分、休日に出勤した分は、固定残業代とは別に支払われる必要があります。契約書の文言が「時間外」だけなのか「時間外・休日・深夜」なのかは、明細を確認する前に必ず見ておく箇所です。

明確区分性と対価性|最高裁が積み上げた2つの要件

固定残業代が割増賃金の支払いとして認められるには、次の2つを満たす必要があります。

1つ目が明確区分性です。テックジャパン事件(最判平成24年3月8日)は、月額41万円の基本給に対し「月間総労働時間が180時間を超えた分は1時間2,560円を別途支払い、140時間に満たない分は1時間2,920円を控除する」という契約について、41万円のうち通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分を判別できないとして、基本給に時間外割増賃金が含まれているとは認めませんでした。金額と時間数が分離表示されていなければ、この時点で崩れます。

2つ目が対価性です。日本ケミカル事件(最判平成30年7月19日)は、月額562,500円を基本給461,500円と業務手当101,000円に分けた薬剤師の事案で、手当が時間外労働の対価かどうかは契約書の記載だけでなく、使用者が労働者にした説明の内容、実際の労働時間などの事情を考慮して判断すべきとし、この業務手当を対価と認めました。逆に熊本総合運輸事件(最判令和5年3月10日)は、賃金総額から基本給等を差し引いた残額を割増賃金と称する仕組みについて、形式上は区分されていても実質において時間外労働の対価とはいえず、その支払いによって労基法37条の割増賃金が支払われたとはいえないとしました。対価性を欠く結果、通常の労働時間の賃金部分との判別もできないという経路をたどっています。

この2要件の意味するところは明確です。「名目上は分けてあるが、残業が増えても減っても総額が動かない」給与体系は、区分の形を整えていても対価性で否定されます。手当の名称が何であれ判断は実質で行われるため、「営業手当」「業務手当」といった名前だけで安心も心配もする必要はありません。

みなし残業・固定残業代・見込み残業の呼び分けと、みなし労働時間制との違い

みなし残業、固定残業代、見込み残業、定額残業代は、いずれも同じ制度を指す呼び方の違いです。法律上の正式名称はなく、就業規則では「固定残業手当」「時間外手当(定額)」などと表記されます。「見込み残業」は求人票や社内の口頭説明で使われることが多い言い方で、制度としては固定残業代とまったく同じものを指します。呼称が違うだけで有利・不利が変わることはないため、確認すべきは名称ではなく時間数と金額です。

紛らわしいのはみなし労働時間制で、これは別の制度です。みなし労働時間制は事業場外労働のみなし労働時間制と裁量労働制(専門業務型・企画業務型)の総称で、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた時間を働いたものとみなす仕組みです。労働時間そのものをみなすのがみなし労働時間制、労働時間は実測したうえで残業代の支払い方を定額にするのがみなし残業(固定残業代)で、対象が違います。

固定残業代の金額が適正かを検算する4ステップ

「基本給が低くて固定残業代が大きい」という不安は、次の順で数字を当てれば判定できます。月給25万円(基本給20万円+固定残業代40時間分5万円)、所定労働時間160時間、東京都勤務のケースで実際に計算します。

手順1:基礎賃金の時間単価を出す(除外できる手当は7つだけ)

割増賃金の基礎となる賃金からは、労基法37条5項が家族手当と通勤手当を、労基則21条が別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を除外しています。合わせて7つで、これは限定列挙です。ここに入っていない役職手当、資格手当、精皆勤手当、営業手当などは基礎に算入しなければなりません。

また、除外できるかどうかは名称ではなく実質で判断されます。全員に一律定額で支給している「家族手当」は、扶養人数と無関係なので除外できません。

例では除外対象の手当がないため、基礎賃金は基本給20万円です。時間単価は200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円となります。なお月によって所定労働時間が異なる場合は、労基則19条により1年間における1月平均所定労働時間数で除します。

手順2:設定時間分の最低額を出す

時間外労働の割増率は2割5分以上なので、40時間分の固定残業代として最低限必要な額は次のとおりです。

1,250円 × 1.25 × 40時間 = 62,500円

実際の固定残業代は5万円ですから、12,500円足りません。この差額は未払い残業代として請求できます。不足があっても固定残業代の定め全体が直ちに無効になるわけではなく、支払われた額が割増賃金に充当され、不足分の支払い義務が残るという扱いが基本です。

手順3:固定残業代を除いた基本給が最低賃金を満たすか確認する

最低賃金法4条3項と同法施行規則1条2項1号により、所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金は、最低賃金の対象となる賃金に算入しません。固定残業代は最低賃金の計算から外して比較します。

例では200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円です。東京都の地域別最低賃金は現行1,226円なので、いまはぎりぎり上回っています。ただし東京地方最低賃金審議会は令和8年8月5日に時間額1,280円(54円引上げ)とする答申を行い、令和8年10月1日の発効が予定されています。発効後、この例の1,250円は最低賃金割れになります。基本給を据え置いたまま最低賃金だけが上がると、去年は適法だった給与体系が今年は違法になるという事態が起きます。

令和8年度の改定は全国で進んでおり、令和8年7月28日の第75回中央最低賃金審議会がAランク54円・Bランク56円・Cランク56円の目安を答申しました。目安どおりに各都道府県で改定された場合の全国加重平均は1,176円(前年度から55円増、引上げ率4.9%)です。金額と発効日は都道府県ごとに異なるため、勤務地の最新額は厚生労働省の地域別最低賃金一覧で確認してください。月給・日給・歩合給それぞれの時間額への換算式と、年間休日によって合否が分かれる計算例は最低賃金の計算方法|月給・日給・歩合の時間額換算と除外手当の判定にまとめました。

手順4:深夜・休日を含む契約なら割増率を積み増す

契約書が固定残業代に深夜労働や法定休日労働を含めていると書いてある場合、手順2の割増率を引き上げて再計算します。深夜の時間外労働は時間外2割5分+深夜2割5分で5割、法定休日の深夜労働は休日3割5分+深夜2割5分で6割です。

時間外分だけの単価で計算した固定残業代に深夜・休日まで含ませている契約は、この時点で不足が出ます。ここは実務で見落とされやすく、契約書の文言と実際の勤務実態がずれている典型例です。

「割増賃金の基礎」と「最低賃金の対象」で、除外される手当は一致しない

手順1と手順3で別々のリストを使ったことに気づいたでしょうか。この2つは似ているようで中身が違い、しかも一部が逆になっています。厚生労働省の富山労働局が「『割増賃金の基礎となる賃金』と『最低賃金の対象となる賃金』は同じ?」という表題の資料を出しているほど、実務で混同されている論点です。

手当・賃金 割増賃金の基礎 最低賃金の対象
家族手当 除外 除外
通勤手当 除外 除外
別居手当 除外 算入
子女教育手当 除外 算入
住宅手当 除外 算入
精皆勤手当 算入 除外
役職手当・資格手当・営業手当 算入 算入
臨時に支払われた賃金 除外 除外
賞与(1箇月超ごと) 除外 除外
時間外・休日・深夜の割増賃金 算入対象外 除外

ずれが出るのは住宅手当と精皆勤手当です。住宅手当は割増賃金の基礎から外せますが(労基則21条3号)、外せるのは住宅に要する費用に応じて算定される手当に限られます(平成11年3月31日 基発第170号)。家賃に定率を乗じるもの、費用を段階的に区分して額を増やすものが該当し、全員一律定額の住宅手当や住宅の形態ごとの定額支給は除外できません。そして住宅手当は最低賃金の対象からは外れないため、最低賃金の充足判定では賃金に加えて数えます。精皆勤手当はその逆で、割増賃金の基礎には算入しなければならない一方、最低賃金の対象からは除外されます(厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」)。

この非対称を知らないと、検算が両方向に狂います。住宅手当を最低賃金の判定でも除いてしまえば、実際は最低賃金を満たしている給与を違法と誤認しかねません。逆に精皆勤手当を割増賃金の基礎から抜くと、時間単価が低く出て固定残業代の不足を見逃すことになります。給与明細を検算するときは、同じ手当欄を2回、別の物差しで読む必要があります。

みなし残業時間の上限|条文上の上限と、裁判例が引く実質的な線

36協定の限度時間は月45時間・年360時間

固定残業代として設定できる時間数そのものを制限する条文はありません。上限は時間外労働の側から間接的に決まります。

労基法36条4項は、36協定で延長できる時間の限度を1箇月45時間、1年360時間(対象期間3箇月超の1年単位変形労働時間制では月42時間・年320時間)と定めています。臨時的な特別の事情があって特別条項を結ぶ場合でも、同条5項により1年720時間以内、休日労働を含め1箇月100時間未満、月45時間を超えられるのは年6箇月以内です。さらに同条6項は、休日労働を含む単月100時間未満と、2箇月から6箇月までの各平均で80時間以内を、協定の有無にかかわらず守るべき絶対的な上限としています。詳しくは特別条項付き36協定の仕組みと限度時間を超えられる要件で整理しています。

したがって、固定残業代を月45時間分までに収めておけば、通常の36協定の枠内で運用できます。45時間を超える設定は、特別条項の締結と年6回の制限を前提にしなければ成り立ちません。

月80時間分の固定残業代は原則無効とした裁判例

時間数が長すぎる設定について、裁判所は踏み込んだ判断を示しています。イクヌーザ事件(東京高判平成30年10月4日)は、基本給のうち一定額を月80時間分相当の時間外労働の対価と定めた合意について、厚生労働省のいわゆる過労死基準を引き、1箇月当たり80時間程度の時間外労働が継続することは脳血管疾患や虚血性心疾患等を発症させるおそれがあるとしたうえで、そのような長時間労働を恒常的に行わせることを予定して対価を定めることは公序良俗に違反し無効とするのが相当と判示しました。長時間労働を恒常的に行わせる予定ではなかったことを示す特段の事情があれば例外とされますが、原則は無効です。

「月80時間分の固定残業代はブラックの可能性がある」という表現をよく見かけますが、実際には可能性の問題ではなく、原則として無効という司法判断が出ている水準だと理解しておくのが正確です。求人票で60時間分、80時間分といった設定を見たときは、その時間を毎月働く前提で人員計画が組まれていると読むべきです。

設定時間を超えた分の残業代|計算と請求、時効は3年

固定残業時間を超えて働いた分は、超えた時間について別途割増賃金が発生します。ここに例外はなく、「固定残業代を払っているから追加はない」という運用は労基法37条違反です。

計算は手順1で出した時間単価をそのまま使います。先の例(時間単価1,250円、固定残業代40時間分)で、ある月の時間外労働が55時間だった場合、超過は15時間です。

1,250円 × 1.25 × 15時間 = 23,437.5円(この月の追加支給額)

加えて、手順2で判明した固定残業代の不足12,500円も同じ月に発生しています。この2つは別々の未払いなので合算し、35,937.5円を請求することになります。なお55時間という時間外労働は36協定の限度時間である月45時間を超えているため、特別条項がなければこの残業自体が労基法36条違反です。

請求にあたって重要なのが証拠と期限です。労基法115条は賃金請求権の時効を5年としていますが、附則143条3項により当分の間は3年とされています(退職手当のみ5年)。3年より前の分は原則として請求できなくなるため、心当たりがあるなら早めに動く必要があります。

証拠として有効なのは、タイムカードや勤怠システムの打刻記録、給与明細、雇用契約書、就業規則、業務用PCのログイン・ログオフ記録、業務メールの送信時刻などです。使用者には労働時間の状況をタイムカードやパソコンの使用時間の記録等の客観的な方法で把握する義務があり(労働安全衛生法66条の8の3、労働安全衛生規則52条の7の3。2019年4月施行)、勤怠管理で法律上義務づけられている記録と管理項目で解説しています。記録が残っていないこと自体が使用者側の不利になります。退職後は社内システムにアクセスできなくなるので、在職中に手元へ控えておくのが現実的です。

会社が支払いに応じない場合の相談先は、労働基準監督署、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、労働組合、弁護士、社会保険労務士です。労働基準監督署は労基法違反に対する行政指導を行いますが、個別の金銭請求を代理するわけではありません。金額の回収まで進めたい場合は、弁護士への相談が現実的な選択肢になります。

みなし残業のメリットとデメリットは、立場によって逆になる

労働者側|収入は安定するが、時間単価は下がりやすい

労働者にとっての利点は、月ごとの収入が読めることです。繁忙期と閑散期で残業時間が上下しても支給額が動かないため、家計の見通しが立ちます。残業が少ない月は、実質的に時間単価が上がったのと同じことになります。

不利益は基本給の圧縮に集約されます。月給の額面が同水準でも、固定残業代の比率が高いほど基礎賃金の時間単価が下がります。時間単価が下がれば超過分の残業代も下がり、賃金規程が基本給連動になっている企業では賞与と退職金の算定基礎まで連動して低くなります。月給25万円でも、基本給20万円+固定残業代5万円と、基本給23万円+固定残業代2万円では、後者のほうが時間単価は高くなります。

企業側|計算は減るが、労働時間の把握は減らない

企業側の利点は人件費の予測が立つことと、毎月の残業代計算の変動が減ることです。ただし計算が不要になるわけではありません。超過分の算定にも36協定の上限管理にも実測値が要るため、労働時間の客観的な把握は制度導入後も続きます。むしろ、設定時間を超えたかどうかを毎月判定する分だけ、確認の手数は増えます。

不利益は、残業が発生しない月にも固定残業代を支払い続けることです。閑散期の人件費が下がらないため、残業がほとんど発生しない職種に導入すると、単純な人件費の上乗せになります。

残業しなかった月も固定残業代は支払われる

支払われます。固定残業代は「その時間分の残業をしたら払う」ものではなく、実際の残業時間にかかわらず定額で支払うことを約した賃金だからです。残業ゼロの月に固定残業代を差し引くのは、労働契約で確定した賃金の一方的な減額にあたり、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)に反します。

一方で、固定残業時間の分だけ会社にいることを義務づけられるわけでもありません。所定労働時間を終えれば帰れます。「40時間分の固定残業代をもらっているのだから40時間は残業しろ」という指示に法的な根拠はなく、業務がないのに在社を強要するのは制度の趣旨を取り違えた運用です。制度が長時間労働の口実になっている職場では、時短ハラスメント(ジタハラ)が起きる構造と相談先で挙げたような、業務量を放置したまま時間だけを問題にする歪みが同時に起きていることが多くあります。

「固定残業代の会社はやめとけ」と言われる条件

制度そのものは適法で、避けるべき対象ではありません。避けるべきなのは、次の条件に当てはまる会社です。

  • 設定が月45時間分を超えている(36協定の限度時間を超える残業を常態として織り込んでいる)
  • 超過分が支払われた実績がない、または明細で確認できない
  • 求人票に「残業代込み」としか書かれておらず、時間数と金額が示されない
  • 手順2の検算で、固定残業代が基礎賃金×1.25×設定時間を下回っている

逆に、設定が月20時間から30時間程度で、超過分が毎月支給され、時間数と金額が契約書に明記されているなら、残業代の支払いを平準化しているだけです。この場合に警戒する理由はありません。判断材料は制度の有無ではなく、設定時間と超過分の運用実績の2つに絞られます。

給与明細・雇用契約書・求人票での確認方法

給与明細に固定残業代の項目が見当たらないとき

給与明細では、固定残業代は「固定残業手当」「みなし残業手当」「定額時間外手当」「業務手当」「営業手当」などの名称で、支給欄に基本給と並んで表示されます。時間数まで明細に書く義務はないため、金額しか載っていないことも珍しくありません。

明細に該当しそうな項目がない場合、可能性は2つです。1つは固定残業代制を採っていない場合、もう1つは基本給に含めていると会社が考えている場合で、後者は前述の明確区分性を満たさないため、固定残業代として有効に成立していない可能性が高いといえます。

確認先は雇用契約書(労働条件通知書)と就業規則・賃金規程です。ここに時間数と金額の両方が書かれていなければ、その固定残業代は明確区分性の要件を満たしません。就業規則は労基法106条により労働者への周知が義務づけられているので、閲覧を求められます。欠勤や遅刻早退があった月に控除がある場合の計算は勤怠控除の計算方法と端数処理の実務で扱っています。

固定残業代なしの求人はどう読むか

「固定残業代なし」は、残業した分だけ実績に応じて支払う実績払いを意味します。基本給に残業代が含まれないため、同じ月給の求人と比べると基礎賃金の時間単価が高くなり、残業1時間あたりの単価も上がります。

どちらが有利かは残業時間で決まります。残業が設定時間より多い職場では、実績払いのほうが手取りは増えます。固定残業代制でも超過分は支払われるので理屈上は同額になるはずですが、実際には超過分の請求が漏れる、申告しづらい空気があるといった理由で差がつきます。逆に残業がほとんど発生しない職場では、固定残業代制のほうが働いていない時間の分まで受け取れるため有利です。

求人を比較するときは月給の額面ではなく、固定残業代を除いた基本給を並べてください。「月給28万円(固定残業代45時間分7万円含む)」と「月給25万円(固定残業代なし)」なら、基本給は21万円と25万円で、後者のほうが高くなります。

求人票の「残業代込み」表記と、明示が求められる3項目

求人票の「月給25万円(残業代込み)」という表記だけでは、何時間分がいくら含まれるのか判断できません。求人時の労働条件明示は職業安定法5条の3と同法に基づく指針が定めており、さらに厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークは、若者雇用促進法に基づく指針を踏まえたリーフレットで、固定残業代を賃金に含める場合は募集要項や求人票に次の3つをすべて明示するよう求めています。

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  • 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

同リーフレットが示している記載例は次の形式です。

①基本給(××円)(②の手当を除く額)/②□□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)/③○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給

厚生労働省は同リーフレットで、ハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に関する申出・苦情のうち、最も多い内容が「賃金に関すること(固定残業代を含む)」だと示しています。3項目のうち1つでも欠けている求人は、応募前に時間数と金額を質問する対象です。面接の場で「基本給はいくらで、固定残業代は何時間分ですか」「超過分は別途支給されますか」と聞けば足ります。答えられない、あるいは曖昧にされる場合は、その時点で判断材料になります。

企業が導入する際に押さえる就業規則の書き方と運用

導入側の実務では、就業規則・賃金規程に次の要素を書き切ることが出発点です。手当の名称、固定残業代に相当する時間数、支給額、その手当が時間外労働(および含めるなら休日・深夜労働)の対価であること、設定時間を超えた場合は別途割増賃金を支払うこと。この5点が揃っていれば、明確区分性の形式要件は満たせます。

ただし熊本総合運輸事件が示したとおり、規程を整えるだけでは対価性は担保されません。賃金総額が残業時間と無関係に固定されるような設計にすると、規程の文言に関係なく割増賃金の支払いとは認められません。導入時に総額を据え置いたまま基本給を割って固定残業代を捻出する設計は、不利益変更の問題と対価性の問題を同時に抱えます。

設定時間の決め方は、直近1年の時間外労働実績の中央値付近に置き、恒常的に超過する部署では時間数を上げるのではなく人員配置を見直すのが筋です。最低賃金は毎年改定されるため、手順3の検算を改定のたびに回す運用も要ります。スーパーフレックス制度の仕組みと運用上の注意点のような時間配分の柔軟化と組み合わせる場合は、清算期間の総労働時間との関係を賃金規程で整理しておく必要があります。

よくある質問

みなし残業はなぜダメだと言われるのですか?

制度自体は適法です。批判の対象になるのは運用で、設定時間の超過分を支払わない、基本給を圧縮して見かけの月給を高く見せる、長時間の残業を前提とした時間数を設定する、といった使い方が問題視されています。とくに月80時間分の設定はイクヌーザ事件で原則無効とされており、制度の悪用と評価される水準です。

みなし残業がある会社はホワイト企業ではないのですか?

時間数と金額で判断できます。設定が月20時間から30時間程度で、超過分が毎月きちんと支給され、求人票に3項目が明示されているなら、残業代の支払いを平準化しているだけで問題はありません。逆に45時間を超える設定、超過分の不払い、求人票の「残業代込み」表記のみ、のいずれかがあれば警戒する材料になります。

みなし残業は何時間までなら認められますか?

時間数を直接規制する条文はありませんが、36協定の限度時間である月45時間・年360時間が実務上の目安です。これを超える設定は特別条項の締結を前提とし、年6箇月以内という制限もかかります。月80時間分の設定は裁判例で原則無効とされています。

固定残業代40時間分は多すぎますか?

違法ではありませんが、多めの部類です。36協定の限度時間45時間に近く、毎月40時間の残業を織り込んだ人員計画になっていると読むのが自然だからです。40時間分の設定自体を問題視するより、直近1年で実際の残業が40時間を超えた月が何回あったか、そのとき超過分が支払われていたかを確認してください。超過が常態化しているなら、設定時間ではなく業務量が問題です。

みなし残業の落とし穴はどこですか?

基本給の圧縮です。月給の額面が同水準でも、固定残業代の比率が高いほど時間単価が下がり、超過分の残業代に加え、基本給連動の賃金規程であれば賞与と退職金の算定基礎まで低くなります。求人を比較するときは月給ではなく、固定残業代を除いた基本給を並べてください。

固定残業代が法定額に足りない場合、制度全体が無効になりますか?

金額不足の場合は、支払われた固定残業代が割増賃金に充当され、不足分の支払い義務が残るという扱いが基本です。一方、明確区分性や対価性を欠く場合は固定残業代の定め自体が割増賃金の支払いと認められず、支払われた額が基礎賃金に組み込まれて残業代を計算し直すことになるため、企業側の負担は大きく変わります。

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