労働者名簿は、労働基準法第107条にもとづいて、従業員を1人でも雇う会社がすべての事業場で作らなければならない帳簿です。賃金台帳・出勤簿と並ぶ法定三帳簿の1つで、記載事項は条文で定められた9項目です。この記事では、労働者名簿の記載事項と様式第19号の書き方、パートや派遣社員の扱い、保存期間の起算日を条文に沿って整理します。後半では、人事システムで労働者名簿を持つときに、変更の履歴を上書きせずに残す項目設計と、Excelの台帳で足りる会社の条件を示します。
まとめ:労働者名簿の作成義務と記載事項9項目、保存期間を先に押さえる結論
労働者名簿は、日日雇い入れられる者を除くすべての労働者について、事業場ごとに作ります。正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員も対象です。記載するのは氏名・生年月日・履歴・性別・住所・従事する業務の種類・雇入れの年月日・退職の年月日と事由・死亡の年月日と原因の9項目で、常時30人未満の事業では業務の種類を省略できます。
書式は自由です。厚生労働省の様式第19号は必要事項の最少限度を示した例で、社員名簿などの社内書式でも9項目がそろっていれば労働者名簿として扱えます。保存期間は法律上5年、経過措置で当分の間は3年で、数え始めは労働者の退職・解雇・死亡の日です。
システムで管理するなら、名簿を1枚の表として上書きで持つのではなく、住所や所属の変更を日付つきで残し、退職日から5年たった人を削除対象に入れる形にします。従業員が数十人で事業場が1つの会社は、Excelの台帳でも法令は満たせます。
労働者名簿とは何かを労働基準法第107条の作成義務と対象者から整理
労働者名簿の作成義務は、労働基準法の中でも従業員の人数に関係なく適用される規定です。最初に、どの範囲の人を載せるのかを確認します。
法定三帳簿の1つとして各事業場ごとに調製する労働者名簿の位置づけ
労働基準法第107条は、使用者に「各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し」、氏名・生年月日・履歴などを記入するよう定めています。続く第108条が賃金台帳、第109条が保存の規定で、出勤簿やタイムカードは第109条の「労働関係に関する重要な書類」として扱われます。法定三帳簿とは、この3つをまとめた呼び名です。
確認すべきなのは、「事業場ごと」という作成単位です。本社と工場、支店のように場所が分かれ、それぞれに労働者がいる場合は、事業場単位で名簿を作ります。本社の人事部が全社分をまとめて管理していても、事業場ごとに名簿を切り出して示せる状態にしておく必要があります。
日日雇い入れられる者を除く対象範囲とパート・派遣社員・役員の扱い
対象から外れるのは、1日単位で雇い入れられる日雇いの労働者だけです。週に数日だけ働くパートやアルバイト、期間を定めた契約社員、試用期間中の社員も名簿に載せます。雇用形態で対象を分けている会社は、パートの名簿が抜けていないかを最初に確認してください。
派遣社員の労働者名簿は、雇用主である派遣元が作ります。派遣先が作るのは労働者派遣法第42条の派遣先管理台帳で、就業した日や始業・終業の時刻を記録する別の帳簿です。取締役などの役員は労働者ではないため対象外ですが、部長などを兼ねて賃金を受け取る兼務役員は、労働者に当たる部分があれば名簿に載せて扱います。
社員名簿・従業員名簿と労働者名簿の違いと1冊で兼ねられる条件
社員名簿や従業員名簿は、社内の連絡や配属の把握のために会社が任意で作る台帳です。名前は違っても、法律が求める9項目がすべて記載され、対象者に漏れがなければ、そのまま労働者名簿として使えます。
兼ねられないのは、正社員だけを載せている名簿や、退職者を削除してしまう名簿です。労働者名簿は退職後も保存が続くため、在籍者の一覧として運用している社員名簿をそのまま流用すると、退職者の記録が残りません。
労働者名簿の記載事項9項目と様式第19号の書き方を項目ごとに確認
記載事項は、法律本体の第107条と労働基準法施行規則第53条に分かれて書かれています。2つを合わせると9項目になります。
法第107条と施行規則第53条が定める9項目の一覧と30人未満で省略できる項目
| 記載事項 | 根拠 | 記入の要点 |
|---|---|---|
| 氏名 | 法第107条 | 改姓したら訂正する |
| 生年月日 | 法第107条 | 年少者・高年齢者の確認にも使う |
| 履歴 | 法第107条 | 入社前の職歴と社内の異動歴 |
| 性別 | 規則第53条第1号 | 様式に欄がある |
| 住所 | 規則第53条第2号 | 転居したら訂正する |
| 従事する業務の種類 | 規則第53条第3号 | 常時30人未満の事業は省略可 |
| 雇入れの年月日 | 規則第53条第4号 | 試用期間の開始日を書く |
| 退職の年月日と事由 | 規則第53条第5号 | 解雇の場合はその理由も書く |
| 死亡の年月日と原因 | 規則第53条第6号 | 在職中に死亡した場合に書く |
第53条第2項は、常時30人未満の労働者を使用する事業について、従事する業務の種類を記入しなくてよいと定めています。省略できるのはこの1項目だけで、事業場の人数が30人を超えた時点から記入が必要です。
履歴・従事する業務の種類・退職の事由で記入が分かれやすい箇所
記入で迷う会社が多いのは3つの欄です。「履歴」は条文に中身の定めがなく、入社前の学歴や職歴に加えて、入社後の異動・昇進を書き足していく運用が一般的です。入社時に書いて終わりにすると、10年在籍した社員の名簿が入社時点の情報のまま残ります。
「従事する業務の種類」は、営業・経理・製造ラインのように、その人が実際に担っている仕事がわかる粒度での記入が必要です。「退職の事由」は自己都合・契約期間満了・定年などを書き、解雇の場合は解雇の理由まで記入するよう第53条第5号が求めています。退職後に離職理由をめぐる問い合わせや争いが起きたとき、ここが最初に確認される記録になります。
様式第19号は最少限度の例示で書式は自由とする施行規則第59条の2
厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーでは、労働者名簿の様式第十九号(第五十三条関係)をPDFで取得できます。欄は氏名・生年月日・性別・住所・従事する業務の種類・雇入れ年月日・退職又は死亡の年月日と事由・履歴で、本籍の欄はありません。
施行規則第59条の2は、労働者名簿や賃金台帳に用いる様式について、必要な事項の最少限度を定めたもので、横書や縦書など異なる様式を使うことを妨げないとしています。1人1枚の縦書きの様式を使う必要はなく、Excelの1行を1人とする一覧表や、人事システムの画面と出力帳票でもかまいません。
労働者名簿の保存期間を5年と3年の経過措置と退職日の起算日から決める
保存期間の規定は、期間そのものより数え始める日のほうが実務で間違えやすい部分です。
第109条の5年保存と附則第143条で当分の間3年となる経過措置の関係
労働基準法第109条は、労働者名簿・賃金台帳・雇入れや解雇などの重要な書類を「五年間保存しなければならない」と定めています。2020年4月の改正で3年から5年に延びましたが、附則第143条が当分の間「三年間」と読み替えるため、現在の法律上の義務は3年です。e-Gov法令検索で確認できる2026年7月17日施行分までの改正を反映した条文でも、この読み替えは残っています。
厚生労働省の改正労働基準法等に関するQ&Aも、第109条の対象として労働者名簿を挙げています。経過措置には終了日が決まっていないため、紙の名簿を3年で廃棄するとしても、データは5年残すように設計しておくほうが、経過措置が終わったときに慌てずに済みます。
起算日は退職・解雇・死亡の日で在籍中は保存期間が始まらない理由
施行規則第56条第1号は、労働者名簿の起算日を「労働者の死亡、退職又は解雇の日」としています。賃金台帳が最後に記入した日から数えるのと違い、在籍している間は保存期間が始まりません。入社から20年たった社員の名簿も、退職するまでは保存期間の外にあります。
2026年3月31日に退職した社員なら、2029年3月31日までが経過措置の3年、2031年3月31日までが原則の5年です。賃金台帳や勤怠記録とは起算日の種類が違うので、書類ごとの保存期間の設計は給与明細の保管期間と賃金台帳の5年・起算日の設計で整理しています。
記載事項の変更を遅滞なく訂正する義務と義務違反時の30万円以下の罰金
第107条第2項は、記入した事項に変更があった場合は「遅滞なく訂正しなければならない」と定めています。転居や改姓、異動のたびに名簿を直す必要があり、作成して終わりの帳簿ではありません。
作成・訂正・保存を怠った場合は、第120条第1号により30万円以下の罰金の対象になります。同条第4号は、労働基準監督官の臨検で帳簿書類を提出しないことや、虚偽の記載をした帳簿を提出することも罰金の対象としています。臨検の場で名簿を出せなければ、作成していないのと同じ扱いになりかねません。
労働者名簿を電子で作成・保存するときの要件とほかの帳簿とのあわせ調製
労働者名簿は紙で作る必要はありません。ただし、電子で持つ場合には満たすべき条件があります。
厚生労働省が示す電子保存の4要件と臨検ですぐ出せる状態の作り方
厚生労働省の労務関係の書類をパソコンで作成して保存する場合のFAQは、次の4つを要件にしています。
- 法令で定められた記載事項を備え、画面に表示して印字できること
- 労働基準監督官の臨検時などに、必要な事項をすぐに示して提出できること
- 誤って消去されないこと
- 長期にわたって保存できること
実務で差が出るのは2番目です。事業場を指定して、在籍者と保存期間中の退職者を含む名簿を、9項目がそろった形でその場で出力できるかを確認してください。人事システムの入れ替えで旧システムを止めるときは、4番目を満たすために退職者を含む過去分を書き出して残します。
年次有給休暇管理簿・賃金台帳とあわせて調製できる施行規則第55条の2
施行規則第55条の2は、年次有給休暇管理簿・労働者名簿・賃金台帳を「あわせて調製することができる」と定めています。1つの台帳やシステムに3つの記載事項をまとめて持ち、それぞれの帳簿として出力してよいという意味です。
あわせて持つ場合も、保存期間の起算日は帳簿ごとに違う点は変わりません。年次有給休暇管理簿の記載項目と保存の扱いは年次有給休暇管理簿とは?記載3項目と保存期間で解説しています。
人事システムで労働者名簿を持つときの項目設計と既製品・Excelで足りる条件
ここからは、条文の要件を人事システムのデータの持ち方に置き換えます。「システムで一元管理できる」だけでは、どの項目をどう持てば名簿の要件を満たすのかが決まらないためです。
上書きせずに履歴を残す人事マスタの項目設計と法定9項目の対応表
労働者名簿をExcelの1行で持つと、転居や異動のたびにセルを書き換えることになり、以前の住所や所属が消えます。「遅滞なく訂正」は最新の状態にすることを求める規定ですが、履歴の欄に異動歴を書き足していく運用とは相性が悪く、いつ何が変わったかを後から説明できません。人事システムでは、変わる項目と変わらない項目を分けて持ちます。
| 持たせる単位 | 主な項目 | 対応する法定項目 |
|---|---|---|
| 従業員の基本情報 | 従業員番号・氏名・生年月日・性別 | 氏名・生年月日・性別 |
| 住所の履歴 | 住所・適用開始日 | 住所 |
| 所属・職務の履歴 | 事業場コード・部署・職務・適用開始日 | 従事する業務の種類・履歴 |
| 入社前の経歴 | 学歴・職歴・期間 | 履歴 |
| 雇用の記録 | 雇入れ日・退職日・退職事由・解雇理由・死亡日と原因 | 雇入れ・退職・死亡の年月日と事由 |
氏名も改姓で変わるため、履歴として持つと名簿の出力時点の氏名と旧姓の両方を追えます。名簿は、出力する日付時点で有効な行を各履歴から拾って組み立てる帳票として作ります。
事業場コードを持たせて事業場ごとの名簿を出力する設計と転勤時の扱い
第107条の「各事業場ごとに」を満たすには、所属の履歴に事業場コードを持たせ、事業場を指定して名簿を出力できるようにします。部署だけで管理していると、同じ営業部でも本社と大阪支店に分かれている人を事業場別に分けられません。
転勤した社員は、異動日を境に転出元と転入先の両方の名簿に記録が残ります。転出元では異動日以降も保存期間中の記録として出せるようにし、転入先では異動日から在籍者として表示します。導入を検討している製品が、事業場を指定した名簿出力と、異動日をまたいだ記録の表示に対応しているかは、デモの段階で実際の転勤者のデータを入れて確かめてください。
退職日から5年後に削除対象へ入れる仕組みと個人情報保護法第22条
保存期間を過ぎた退職者のデータを残し続けることも、リスクにつながる運用です。個人情報保護法第22条は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めることを事業者に求めています。退職者の情報が人事システムに残り続け、不正アクセスで流出した可能性が公表された事例は人事システムからの退職者データ流出と保存期間の設計で取り上げています。
システムでは、退職日から5年が過ぎた人を年度末に削除対象として一覧で出し、担当者が確認して一括で削除する流れにします。労働者名簿の項目にマイナンバーは含まれず、様式にも欄がありません。マイナンバーは名簿と別の領域で権限を分けて持つ設計が必要で、その要件は人事管理システムのセキュリティ要件とマイナンバーの区分管理で整理しています。
Excel台帳で足りる会社と人事システムの開発を検討すべき条件
事業場が1つで従業員が30人前後までの会社は、Excelの台帳で労働者名簿の要件を満たせます。退職者を別シートに移して削除しないこと、住所や異動の変更日を列で残すことの2点を守れば十分です。従業員数に応じて増える人事データと、Excelから移る時期の目安は人事管理システムを中小企業が選ぶ基準で解説しています。
既製の人事システムで足りないのは、事業場が多く出向や兼務が混ざる会社、グループ会社ごとに人事データが分かれている会社、旧システムの退職者データを入れ替え後も保存期間中は参照し続ける必要がある会社です。こうした条件で、履歴を残す人事マスタや事業場別の帳票出力を作り込む場合は、人事・労務管理システム開発として既存の給与・勤怠システムとの連携から相談いただけます。
よくある質問
労働者名簿について、人事・労務の担当者から寄せられやすい質問をまとめました。
労働者名簿と賃金台帳の違いは何ですか?
労働者名簿は誰を雇っているかを記録する帳簿で、氏名・住所・雇入れ日・退職日などを1人ごとに持ちます。賃金台帳は労働基準法第108条にもとづき、賃金の計算の基礎になる労働日数や労働時間、支給額と控除額を賃金の支払いのたびに記入する帳簿です。保存期間はどちらも5年(当分の間3年)ですが、起算日は名簿が退職日、賃金台帳が最後の記入日と違います。
アルバイトやパートも労働者名簿に載せる必要がありますか?
必要です。第107条が対象から外しているのは日日雇い入れられる者だけで、週の勤務日数や労働時間の長さは関係ありません。学生のアルバイトや短時間のパート、期間を定めた契約社員も、雇い入れた時点で名簿に載せます。雇用形態ごとに台帳を分けている会社は、事業場ごとに全員分を出力できるかを確認してください。
労働者名簿に本籍やマイナンバーは書く必要がありますか?
書く必要はありません。施行規則第53条の記載事項に本籍は含まれず、厚生労働省の様式第19号にも本籍の欄はありません。マイナンバーも記載事項ではなく、番号法で利用目的が社会保障・税の手続きなどに限られています。労働者名簿に入れると閲覧できる人の範囲が広がるため、名簿とは分けて管理してください。
派遣社員の労働者名簿は派遣先と派遣元のどちらが作りますか?
労働者名簿を作成するのは、雇用主である派遣元です。派遣先が作るのは労働者派遣法第42条の派遣先管理台帳で、派遣就業をした日や始業・終業の時刻、従事した業務などを記録します。派遣元も同法第37条の派遣元管理台帳を作る義務があり、労働者名簿とは別の帳簿として持ちます。
労働者名簿は入社後いつまでに作ればよいですか?
第107条に作成期限の日数は書かれていませんが、雇い入れた労働者について調製する義務なので、入社の手続きと同時に作るのが前提です。雇入れ年月日や住所は入社書類から転記できるため、雇用契約書や労働条件通知書の手続きと同じ流れで名簿を作る仕組みにすると漏れが防げます。入社書類の電子化の要件は労務管理システムで雇用契約手続きを完結させる要件で扱っています。
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