業績賞与とは、営業利益などの業績指標からあらかじめ決めた算式で賞与の総額(原資)を出し、その原資を評価に応じて社員へ配る賞与のことで、一般には業績連動型賞与と呼ばれます。基本給に月数を掛ける方式と違い、会社の業績が下がれば原資も下がるため、人件費を業績に合わせて動かせる仕組みです。この記事では、原資の算定、評価係数の決め方、ポイントによる個人配分を1つの計算例で通し、基本給連動型からの切り替えで問題になる就業規則の変更、社会保険と役員の扱い、表計算で回すと破綻する条件と人事評価・給与システムをつなぐ設計まで解説します。
まとめ:業績賞与は算式で原資を決め、評価ポイントで個人に配る仕組み
業績賞与の計算は3段階です。業績指標から原資を出し、等級と評価で1人ずつのポイントを決め、原資をポイントの合計で割った単価を各人のポイントに掛けます。経団連の2021年調査では、回答企業の55.2%がこの業績連動方式を入れており、指標は営業利益が60.2%で最も多い結果でした。
原資を全員で分け合う仕組みなので、支給日前の退職者が1人出るだけで、残る全員の支給額が変わります。評価の差し戻しや部門ごとの原資が加わると、表計算では再計算の手順を誰も追えなくなります。
基本給連動型から切り替える場合、賞与が下がり得る変更は労働契約法10条の合理性の判断を受けます。対象者が数十人で全社一本の原資なら表計算でも回せますが、部門別原資・評価の差し戻し・在籍按分のうち2つ以上を抱える会社は、評価と給与の間の配分計算をシステムで持つ段階です。
業績賞与の定義と、基本給連動型・決算賞与・役員の業績連動給与との違い
業績賞与は法律上の用語ではありません。賞与のうち、総額の決め方に業績の算式を使うものを指す社内の呼び名です。
原資を算式で決める方式で、経団連の2021年調査では導入企業が55.2%
経団連が2022年4月に公表した2021年夏季・冬季 賞与・一時金調査結果は、「あらかじめ定めた算式によって賞与・一時金の総額(原資)を決定する」方式を業績連動方式と呼んでいます。導入企業の割合は55.2%で、2016年から6年連続で5割を超えました。回答は経団連と東京経営者協会の会員企業349社なので、大企業寄りの数字です。
業績連動の基準にしている指標は、複数回答で営業利益60.2%、経常利益34.3%、生産高・売上高24.9%でした。本業のもうけを示す営業利益が選ばれやすいのは、為替差損益や特別損失のような社員の努力と関係の薄い要素を原資から外せるためです。
労働基準法上の扱いも、確認しておきたい事項です。昭和22年の通達(発基第17号)は、賞与を「支給額が予め確定されていないもの」としています。業績で額が変わる業績賞与は、この定義にそのまま当てはまります。
基本給連動型・決算賞与と比べた賞与原資の決め方と支給時期の違い
| 区分 | 原資の決め方 | 個人額の決め方 | 支給時期 |
|---|---|---|---|
| 基本給連動型 | 個人額の積み上げ | 基本給×月数×評価 | 夏・冬の定例 |
| 業績賞与 | 業績指標×算式 | 原資をポイントで配分 | 夏・冬の定例が多い |
| 決算賞与 | 決算見込みの利益 | 会社の裁量・一律など | 決算前後の臨時 |
3つの違いは、総額を先に決めるか、個人額を積み上げた結果が総額になるかです。基本給連動型は個人額の合計がそのまま原資になるので、業績が悪い期でも基本給の総額に比例した支払いが必要です。決算賞与は利益が出た期に臨時で払う点で業績賞与と似ていますが、損金に入れるための通知と支払時期の要件が別にあり、決算賞与とは:損金算入の3要件と支給日在籍要件、社会保険料・源泉所得税の扱いと通知の管理で扱っています。
役員の業績連動給与は法人税法の要件付きで、社員の業績賞与とは別の制度
役員に業績で変わる賞与を払う場合、社員と同じ算式を使っても税務の扱いは変わります。国税庁のタックスアンサーNo.5211によれば、役員の業績連動給与を損金に入れられるのは業務執行役員に対するもので、同族会社は同族会社以外の法人に完全支配されている場合に限られます。算定方法を報酬委員会などで決め、有価証券報告書等で開示し、指標の数値が確定してから1か月以内に金銭を払う、といった要件も満たさなければなりません。
非上場の中小企業では、この要件をほぼ満たせません。役員には確定額を事前に届け出る事前確定届出給与を使うのが通常で、その届出と支給管理は役員賞与とは:事前確定届出給与の届出期限と届出額どおりの支給、社会保険料と給与システムでの管理で整理しています。以下は社員に払う業績賞与の話に絞ります。
業績賞与の計算3段階:原資の算定・評価ポイント・個人配分の通しの計算例
ここからは、社員20人の会社で夏の業績賞与を計算する例を使います。数字は説明用に置いたもので、特定の会社の実績ではありません。
原資は営業利益×配分率と粗利益×労働分配率-既払人件費の2つの型
原資の算式は、大きく2つの型に分かれます。
- 利益配分型:半期の営業利益×配分率(例:営業利益1億2,000万円×15%=1,800万円)
- 労働分配率型:半期の粗利益×目標労働分配率-すでに払った給与・法定福利費などの人件費
利益配分型は社員に説明しやすく、計算も1行で済みます。労働分配率型は、人件費全体を粗利益の一定割合に収める考え方で、月給の昇給が多かった期ほど賞与の原資が減ります。人件費の総額管理を優先する会社に向く型です。
どちらの型でも、原資には会社負担の社会保険料が含まれていない点に注意が必要です。賞与を1,800万円払えば、会社側にもおよそ15%前後の法定福利費がかかります。原資を総額人件費の枠から逆算するときの費目の積み方は人事評価システムの人件費シミュレーション機能とは?昇給・賞与原資の試算に含める費目と給与連携の要件で解説しています。
等級の基準点×評価係数で1人ずつのポイントを出し、合計2,114点にする
個人への配り方として多いのが、ポイント制です。等級ごとに基準点を決め、評価に応じた係数を掛けます。例では基準点を等級3が150点、等級2が100点、等級1が70点、係数をS1.5・A1.2・B1.0・C0.8とします。
| 等級(基準点) | 評価の内訳 | ポイント合計 |
|---|---|---|
| 等級3(150点) | S1人・A1人・B2人 | 705点 |
| 等級2(100点) | A2人・B4人・C2人 | 800点 |
| 等級1(70点) | S1人・A2人・B4人・C1人 | 609点 |
| 合計(20人) | ― | 2,114点 |
等級3のSなら150点×1.5で225点、等級1のCなら70点×0.8で56点です。評価の段階や係数の幅は人事評価制度の側で決めるもので、評価データを等級・係数とともに管理する仕組みは人事評価システムとは?機能・評価手法・選び方と自社開発の判断軸を開発会社が解説で整理しています。評価の段階を付けない会社が賞与をどう決めるかはノーレイティングとは?給与・賞与の決め方と導入前に確認する法令・反証データが参考になります。
1点あたり8,514円の単価で個人額を出し、1,404円の端数が残る理由
原資1,800万円を合計2,114点で割ると、1点あたり8,514.66…円です。1円未満を切り捨てて単価8,514円とすると、個人額は次のとおりです。
- 等級3・S(225点):225点×8,514円=1,915,650円
- 等級2・B(100点):100点×8,514円=851,400円
- 等級1・C(56点):56点×8,514円=476,784円
全員分を足すと17,998,596円で、原資との差1,404円が残ります。残りを翌期の原資へ繰り越すのか、上位評価者に1円ずつ足すのかは、規程か運用ルールであらかじめ決めておく必要がある事項です。決めていないと、担当者が変わるたびに処理が変わります。
この単価は全員共通です。そのため、支給日在籍要件で1人が対象から外れると、全員の額が動きます。等級2・Bの100点の人が支給日前に退職すると合計は2,014点になり、単価は8,937円に上がります。等級3・Sの人は1,915,650円から2,010,825円へ、9万円以上増える計算です。
業績賞与を導入・変更するときの就業規則・社会保険・源泉所得税の扱い
計算の仕組みが決まっても、規程と保険・税の扱いを外すと制度として回りません。
基本給連動型から切り替える変更は労働契約法10条の合理性で判断される
賞与の定めを置く会社は、労働基準法89条4号により、その内容を就業規則に書く義務があります。業績賞与なら、原資の算式、使う指標と期間、ポイントの基準点と係数、支給日在籍要件、端数の扱いが書くべき項目です。
「基本給の2か月分」と定めていた会社が業績賞与へ切り替えると、業績次第で支給額が下がる人が出ます。労働契約法9条は、合意なく就業規則の変更で労働条件を不利益に変えることを原則として禁じ、10条は、不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的な場合に限って変更を認めています。
実務では、原資の下限(例:基本給の1か月分の総額)を置く、2〜3期は旧方式との差額を補う経過措置を設ける、算式と過去の試算を説明会で示す、といった手当てで不利益の程度を下げます。下限も経過措置もなく、赤字の期に原資を0にできる規程へ一度に変えるのは避けるべきです。賞与の原資を毎月の給与へ組み替える見直しを検討する場合は、賞与の給与化とは:社会保険料・残業代単価・就業規則への影響と給与システムの改修範囲で社会保険料と残業代単価への影響を解説しています。
四半期ごとに払う業績賞与は社会保険で賞与でなく報酬として扱われる
社会保険では、支給回数で扱いが変わります。日本年金機構の「従業員に賞与を支給したときの手続き」によれば、賞与として標準賞与額の対象になるのは年3回以下の支給で、年4回以上払うものは標準報酬月額の対象です。業績を四半期ごとに締めて年4回払う設計にすると、賞与支払届ではなく、算定基礎届などを通じて毎月の保険料に反映させる扱いになります。
年3回以下なら通常の賞与と同じで、1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に料率を掛け、支払日から5日以内に賞与支払届を出します。健康保険の年度累計573万円・厚生年金の1か月150万円の上限の判定は賞与の社会保険料:標準賞与額の計算と573万円・150万円の上限、令和8年度の料率と給与システムでの管理で解説しています。
源泉所得税も通常の賞与と同じく、前月の給与と扶養親族等の数で決まる算出率を掛けます。業績賞与だからといって計算が変わることはありません。
業績賞与を表計算で回すと破綻する条件と、評価・給与システム連携の設計
業績賞与の算式自体は単純です。破綻するのは、算式の入力になる「誰が対象で、何点か」が支給日の直前まで動き続けるからです。
在籍者の変動・評価の差し戻し・部門別原資・端数の4条件で崩れる
表計算で回している会社が詰まるのは、次の4つが重なったときです。影響の大きい順に並べます。
- 在籍者の変動:支給日前の退職、算定期間中の入社・休職による按分で、合計ポイントと単価が毎回変わる
- 評価の差し戻し:二次評価や調整会議で1人の評価が変わると、全員の額を再計算することになる
- 部門別原資:部門ごとに営業利益から原資を出すと、異動者をどちらの部門の原資で払うかの規則が要る
- 端数の扱い:単価の切り捨てで残る数千円の処理を、毎回手で決めている
1と2だけでも、表計算では「どの版の評価と在籍者で計算した額か」が分からなくなります。給与計算の担当者が受け取った額を手で打ち直す運用なら、なおさら取り違えの危険が増す状態です。全社一本の原資で対象者が30人程度までなら表計算で対応できる範囲です。部門別原資が加わった時点で、計算の版管理を表計算で続けるのは無理があります。
人事評価から配分計算を経て給与システムへ渡すデータ項目と確定の手順
システムで持つ場合、人事評価システムと給与システムの間に「配分計算」の層を置き、次の項目を回ごとに保存します。
- 原資:算定期間、使った指標と実績値、算式、部門別の内訳、下限・上限の適用有無
- 対象者:社員番号、等級、所属部門、在籍月数と按分率、支給日在籍の判定結果
- 評価:評価記号、係数、確定日時と確定者(差し戻し後の版番号)
- 配分結果:ポイント、単価、個人額、端数の処理先
確定の手順は、評価の確定→在籍者の確定→配分計算→人事部の承認→給与システムへの取り込み、の順に一方向で流します。給与システムに渡すのは承認済みの個人額だけにして、取り込んだ後は配分側の版を固定する手順です。給与システム側では、受け取った額から社会保険料・雇用保険料・源泉所得税を引く通常の賞与計算を行います。その工程は賞与計算の方法:支給額の決定から社会保険料・源泉所得税・賞与支払届までの手順と令和8年の計算例で通しています。
製品の標準機能で足りる会社と、配分計算を個別に組むべき会社の境界
人事評価システムの多くは評価結果の出力まで、給与計算システムの多くは確定した賞与額の取り込みからを受け持ちます。全社一本の原資で、等級×評価係数の単純なポイント制なら、評価システムが出す係数を給与システムの賞与計算式に入れるだけで済む仕組みです。製品側の機能は給与計算システムとは?機能・種類・比較の観点から個別開発の判断まで解説で整理しています。
部門別原資、異動者の原資の振り分け、在籍按分と支給日在籍の判定、評価の差し戻し後の再計算と版管理のうち、2つ以上が必要な会社は、製品の設定では表せない部分が手作業で残ります。一創の人事・労務管理システム開発では、既存の評価システムと給与システムはそのまま使い、間に入る配分計算と承認の流れを個別に組む形から設計します。社員が数十人で原資が全社一本なら、個別開発は過剰です。
よくある質問
業績賞与について、導入の検討段階でよく出る質問に答えます。
業績賞与と決算賞与は何が違いますか?
業績賞与は、夏・冬など定例の賞与の総額を業績の算式で決める仕組みです。決算賞与は、決算で利益が見込めた期に臨時で上乗せして払う賞与で、定例の賞与とは別に支給されるものです。決算賞与を決算期の損金に入れるには、支給額を各人に通知し、通知した事業年度末の翌日から1か月以内に払うなどの要件があります。業績賞与は通常の賞与として払った期の損金になります。
業績が悪い年は業績賞与をゼロにしてもよいですか?
就業規則に原資の算式があり、その算式の結果が0になるなら、0とする扱いは規程どおりです。ただし、それまで基本給連動型で毎期払っていた会社が、下限のない業績賞与へ切り替えた直後に0にすると、労働契約法10条の合理性が争われやすくなります。原資の下限や経過措置を置いたうえで、算式と実績値を社員に開示しておくのが現実的です。
業績賞与の原資はどの利益指標で決める会社が多いですか?
経団連の2021年調査では、業績連動方式を入れている企業の指標は営業利益が60.2%、経常利益が34.3%、生産高・売上高が24.9%でした(複数回答)。営業利益は本業の成果を表し、為替や特別損失の影響を受けにくいため選ばれています。売上高だけを基準にすると、値引きで売上を伸ばした期にも原資が増えるので、利益指標と組み合わせるのが通常です。
業績賞与にも社会保険料や源泉所得税はかかりますか?
業績賞与も社会保険料や源泉所得税の対象です。年3回以下の支給なら通常の賞与と同じく、標準賞与額に料率を掛けた社会保険料と、支給総額に料率を掛けた雇用保険料、前月の給与で決まる算出率による源泉所得税を引きます。年4回以上払う設計にすると、社会保険では賞与ではなく報酬として標準報酬月額の対象になる点だけが異なります。
役員にも業績に連動した賞与を払えますか?
払うこと自体はできますが、法人税で損金に入れられる業績連動給与は、業務執行役員を対象に、算定方法を報酬委員会などで決めて有価証券報告書等で開示するといった要件を満たすものに限られます。同族会社は完全支配関係の条件もあるため、非上場の中小企業ではほぼ使えません。中小企業の役員賞与は、事前確定届出給与で額を届け出て払うのが一般的です。
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