仕入税額控除とは、売上にかかった消費税から、仕入れや経費の支払いにかかった消費税を差し引いて納付税額を計算する仕組みです。控除を受けるには帳簿と請求書等を7年間保存する必要があり、インボイス制度の開始後は請求書等が原則として適格請求書に限られました。この記事では、控除の対象になる支払いとならない支払い、帳簿のみで控除できる取引、課税売上割合95%と5億円で分かれる全額控除の条件、個別対応方式と一括比例配分方式の計算と試算、そして会計システムで税区分をどう持つかを、国税庁の資料をもとに順に扱います。
まとめ:仕入税額控除は保存要件で可否が決まり、課税売上割合で計算方法が分かれる
控除できるかどうかは、帳簿と請求書等がそろっているかで決まります。請求書等は適格請求書が原則で、免税事業者からの仕入れは経過措置により令和8年10月から70%しか控除できません。3万円未満の電車代や出張旅費など、帳簿のみで控除できる取引も法令で決まっています。
いくら控除できるかは計算方法で決まります。課税売上高が5億円以下で課税売上割合が95%以上なら全額を控除でき、どちらかを外れると個別対応方式か一括比例配分方式を選びます。住宅の賃貸や保険診療、金融取引など非課税売上がまとまってある会社が、この分岐の対象です。
会計システムの側では、税率とインボイスの有無に加えて、課税売上対応・非課税売上対応・共通対応の用途区分を仕訳単位で持てるかが分かれ目です。区分を持たずに運用していると、一括比例配分方式しか選べなくなります。
仕入税額控除の仕組み、売上の消費税から仕入の消費税を差し引く計算と対象範囲
消費税は、商品やサービスが取引されるたびに各段階で課税されます。仕入れで払った税を差し引かないと、同じ価格の一部に何度も税がかかります。この累積を防ぐのが仕入税額控除です。
納付税額は売上税額から仕入税額を引いた額、税込1,100万円の売上での試算
一般課税の事業者が、1年間に税込1,100万円の売上を上げ、税込660万円の仕入れと経費を支払ったとします。税率はすべて10%です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 売上にかかる消費税 | 1,100万円×10/110 | 100万円 |
| 仕入れにかかる消費税 | 660万円×10/110 | 60万円 |
| 納付税額 | 100万円−60万円 | 40万円 |
仕入税額控除が無ければ100万円を納めることになり、60万円は二重に負担した形になります。実際の申告では国税7.8%と地方消費税2.2%をそれぞれ分けて計算する方式です。7.8%と2.2%の関係は消費税10%の内訳と22/78で地方消費税を出す理由を整理した記事で扱っています。
控除の対象になる課税仕入れと、給与・土地代・保険料など対象外の支払い
控除できるのは、国内で事業として対価を払って受けた資産の譲受け・借受け、役務の提供のうち、消費税が課税されるものです。商品の仕入れ、外注費、事務所家賃、広告費、ソフトウェアの利用料などが当てはまります。
支払いの中には控除の対象にならないものがかなりあります。従業員への給与は不課税、土地の購入や貸借(1か月未満の貸付けや駐車場を除く)、保険料、支払利息は非課税、印紙税などの租税公課は不課税で、いずれも仕入税額に含めません。一方で、派遣会社への派遣料や従業員に払う通勤手当は課税仕入れになるので、給与と同じ「対象外」で処理すると控除漏れになります。人件費まわりの区分は給与は不課税、派遣料・外注費・通勤手当は課税仕入れになる区分を整理した記事が一覧にしています。
控除する時期は課税仕入れの日、ソフトウェア開発やリース契約で迷う例
控除は、代金を払った日ではなく、課税仕入れを行った日の課税期間で行います。商品は引渡しを受けた日、外注などの役務は提供が完了した日です。決算月の3月に検収した外注費を4月に支払うなら、3月期で控除します。
判断が分かれやすいのは、複数期にまたがる開発やリースです。自社利用のソフトウェアを外部に発注し、完成前の支払いをソフトウェア仮勘定に計上している場合の控除時期は、ソフトウェア仮勘定の消費税の控除時期と仕訳を整理した記事にまとめています。ファイナンス・リースで、リース料総額の税額を契約時に一括で控除するか、支払いのたびに分割で控除するかは、リースの一括控除と分割控除の判定を国税庁通達で整理した記事が扱っています。
仕入税額控除の要件、帳簿と請求書等の7年保存とインボイス制度で変わった点
国税庁のNo.6496は、一定の事項を記載した帳簿と請求書等の両方の保存を控除の要件としています。片方が欠けた取引は、金額が正しくても控除できません。
帳簿の記載事項4つと7年の保存期間、請求書等に含まれる仕入明細書
帳簿には、課税仕入れの相手方の氏名又は名称、取引年月日、取引内容(軽減税率の対象ならその旨)、税率ごとに区分した支払対価の額を記載します。会計ソフトの仕訳帳と総勘定元帳で、摘要欄に相手先と内容が入っていれば、通常はこの4項目を満たします。
請求書等の範囲は、適格請求書、レシート型の適格簡易請求書、買い手が作成して売り手の確認を受けた仕入明細書等、これらの電磁的記録です。保存期間は、帳簿は閉鎖の日、請求書等は受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間で、6年目と7年目はどちらか一方の保存で足ります。適格請求書の記載事項と、登録番号の確認方法は適格請求書の記載要件と2026年10月の控除変更をまとめた記事を参照してください。
帳簿のみの保存で控除できる取引、3万円未満の電車代や従業員の出張旅費
請求書等の交付を受けにくい取引は、帳簿のみの保存で控除できます。No.6496とインボイスQ&Aの問104が挙げる類型のうち、一般の事業会社で件数が多いのは次の5つです。
- 税込3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(電車・バス)
- 従業員に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当
- 税込3万円未満の自動販売機・自動サービス機からの購入
- 郵便ポストに差し出した郵便物の郵便切手代
- 使用の際に回収される入場券など
このほか、古物商の古物、質屋の質物、宅地建物取引業者の建物、再生資源の買取りも対象で、令和8年9月1日以後は特定金属くずの買受けが加わりました。3万円の判定で基準となるのは、1回の取引の税込価額です。帳簿には、通常の記載事項に加えて帳簿のみ保存の対象である旨を書きます。立替経費の精算でこの特例を仕訳まで通す方法は、経費精算システムで帳簿のみ保存の特例を扱う要件を整理した記事が詳しく扱っています。
税込1万円未満の少額特例、基準期間の課税売上高1億円以下で令和11年9月まで
基準期間の課税売上高が1億円以下、又は特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスがなくても帳簿のみで控除できます。適用期間は令和5年10月1日から令和11年9月30日までで、令和8年度改正の後も期限は変わっていません。
1万円未満かは1回の取引の合計額で判定します。インボイスQ&Aの問112の例では、5,000円と7,000円の商品を同時に買えば12,000円で対象外です。月まとめの請求書は合計でなく、個々の取引ごとに見ます。基準期間は法人なら前々事業年度なので、売上が伸びて1億円を超えた期から特例を使えなくなる点に注意が必要です。
免税事業者からの仕入れは経過措置で70%、令和13年10月以降は控除なし
インボイスを発行できない免税事業者などからの仕入れは、経過措置の期間中に限り、仕入税額の一定割合を控除できます。国税庁の令和8年度税制改正特集によると、割合は令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%で、令和13年10月1日以後は控除できません。1社からの対象仕入れが年1億円を超える部分は対象外です。
割合を判定する日や帳簿への「70%控除対象」の書き方、計算式はインボイスの経過措置の期間と計算方法・帳簿の書き方を整理した記事で取り上げています。
仕入控除税額の計算方法、全額控除・個別対応方式・一括比例配分方式の分かれ目
一般課税の事業者が仕入税額をどれだけ控除できるかは、No.6401に沿って判定します。最初に見るのは課税売上高と課税売上割合の2つの数字です。
全額控除の条件、課税売上高5億円以下かつ課税売上割合95%以上
課税期間の課税売上高が5億円以下で、課税売上割合が95%以上なら、課税仕入れ等にかかる消費税額の全額を控除します。いわゆる95%ルールです。課税期間が1年に満たない場合は、課税売上高を年換算して5億円と比べます。
非課税売上がほとんどない会社は、全額控除の側に入ります。受取利息は非課税売上ですが、本業の売上が数億円ある会社で利息が数万円なら、割合は99.9%台です。課税売上高が5億円を超えた会社は、割合が99%でも全額控除はできず、次の2方式のどちらかで計算します。
課税売上割合の計算式、分母に非課税売上を含め有価証券の譲渡は5%だけ算入
課税売上割合は、課税期間の課税売上高(税抜、輸出免税を含む)を、課税売上高と非課税売上高の合計で割った値です。国税庁のNo.6405は、分母と分子の数え方を次のように定めています。
| 取引 | 分子(課税売上高) | 分母(総売上高) |
|---|---|---|
| 課税売上・輸出免税売上 | 含める | 含める |
| 住宅家賃・土地の譲渡・受取利息など非課税売上 | 含めない | 含める |
| 株式など有価証券・金銭債権の譲渡 | 含めない | 対価の5%だけ含める |
| 配当・保険金・補助金など不課税取引 | 含めない | 含めない |
| 売上の返品・値引・割戻し | 差し引く | 差し引く |
割合を大きく動かすのは土地の売却です。課税売上高3億円の会社が、ある期に土地を1億円で売ると、割合は3億円÷4億円で75%に下がり、その期は全額控除ができません。株式の売却なら分母に入るのは対価の5%だけなので、1億円を売っても加算は500万円です。土地や社屋の売却を予定している期は、決算前に割合を試算しておいてください。
個別対応方式、課税売上対応・非課税売上対応・共通対応の3区分で計算
個別対応方式では、課税仕入れ等の税額を、課税売上にのみ要するもの、非課税売上にのみ要するもの、両方に共通して要するものに分けます。控除額は「課税売上対応分の全額+共通対応分×課税売上割合」です。非課税売上対応分は控除できません。
区分は仕入れの時点で、その用途に基づいて付けます。商品の仕入れや販売用の広告費は課税売上対応、住宅用マンションの修繕費は非課税売上対応、本社の水道光熱費や管理部門の経費は共通対応、というのが典型です。税務署長の承認を受ければ、共通対応分に課税売上割合ではなく、従業員数比や床面積比などの課税売上割合に準ずる割合を使うこともできます。
一括比例配分方式、区分は不要でも2年間は個別対応方式に変えられない継続適用
一括比例配分方式は、課税仕入れ等の税額の合計に課税売上割合を掛けるだけで控除額を出します。3区分の仕訳が不要なので、経理の手間はこちらが少なくなります。
代わりに制約が2つあります。課税売上割合に準ずる割合は使えません。いったん選ぶと2年間以上継続して適用した後でなければ、個別対応方式に変更できません。逆に、個別対応方式から一括比例配分方式へは、いつでも変更できます。用途区分を付けていない会社は、そもそも一括比例配分方式しか選べません。
仕入税額1,000万円・課税売上割合80%の会社で比べた2方式の控除額の差
課税仕入れ等の税額が年1,000万円、課税売上割合が80%の会社で、用途区分の内訳が違う2つのケースを比べます。
| 内訳(課税対応/非課税対応/共通) | 個別対応方式 | 一括比例配分方式 | 有利な方式 |
|---|---|---|---|
| A社:600万円/100万円/300万円 | 600+300×80%=840万円 | 1,000×80%=800万円 | 個別対応(+40万円) |
| B社:100万円/600万円/300万円 | 100+300×80%=340万円 | 1,000×80%=800万円 | 一括比例配分(+460万円) |
課税売上に結び付く仕入れが多い一般の事業会社は、個別対応方式の方が控除額は大きくなります。逆転するのは、非課税売上にのみ要する仕入れの比率が、非課税売上の比率より高い会社です。B社のように売上の2割にすぎない住宅賃貸のために、大規模修繕などで税額の6割を使った期が当てはまります。この場合、一括比例配分方式なら2年継続の縛りを受けても有利です。毎期どちらが有利かを両方式で試算できるよう、区分自体は付けておくのが安全です。
一般課税以外の計算、簡易課税と2割特例・3割特例で仕入税額を積み上げない方式
ここまでの計算は、仕入税額を実額で積み上げる一般課税の話です。中小の事業者には、仕入れの実額を使わない方式も用意されています。
簡易課税のみなし仕入率、基準期間5,000万円以下で卸売業90%から不動産業40%
基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、事前に簡易課税制度選択届出書を出した事業者は、売上税額にみなし仕入率を掛けた額を仕入税額とみなします。みなし仕入率は、卸売業90%、小売業80%、製造業等70%、その他の事業60%、サービス業等50%、不動産業40%の6区分です。
簡易課税では、仕入先がインボイス発行事業者かどうか、請求書等を保存しているかは控除額に影響しません。ソフトウェア開発や受託業務の多くはサービス業等の50%に当たるため、外注費などの課税仕入れが売上の5割を超える会社では一般課税の方が納付税額は少なくなります。届出は原則として適用を受けたい課税期間の開始前に必要で、2年間は継続適用です。
2割特例は令和8年9月30日を含む期まで、個人事業者は令和9・10年分に3割特例
免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者向けの2割特例は、納付税額を売上税額の2割とする制度で、令和8年9月30日を含む課税期間(個人事業者は令和8年分)で終わります。令和8年度改正で、個人事業者に限り、令和9年分と令和10年分は売上税額の3割を納める3割特例が設けられています。法人は3割特例を使えません。
2割特例を使っていた法人は、次の期から一般課税か簡易課税で申告します。一般課税に移ると、この記事で扱った帳簿・請求書等の保存と控除額の計算がその期から必要です。切替先の選び方と届出の期限は2割特例の終了後の切替先と簡易課税の届出期限を整理した記事で扱っています。
会計システムで仕入税額控除を回す設計、用途区分と税区分と取引先マスタ
仕入税額控除の結果は、仕訳1本ごとに付いた税区分の集計で決まります。申告書の段階で直せる部分はわずかで、日々の入力の段階で区分が正しく付いているかがすべてです。
税区分は用途区分×税率×インボイス有無の組み合わせで持つ設計
個別対応方式を使う可能性がある会社は、税区分を「課税売上対応・非課税売上対応・共通対応」の用途区分と、10%・8%の税率、インボイスあり・経過措置70%・帳簿のみ保存の別の組み合わせで持ちます。すべてを掛け合わせると18通りですが、自社で発生する組み合わせだけを有効にすれば十数区分に収まります。
計算方式の選択は、仕入税額を取引ごとに積み上げるか、課税期間の合計から割り戻すかにも及びます。売上で積上げ計算をした会社は仕入れも積上げ計算に限られるなど、組み合わせの制限があるので、割戻し計算と積上げ計算の違いと組み合わせ制限を整理した記事で確認してから税区分の設計を固めてください。
一創の判断:入力時の選択で足りる会社と、購買連携で区分を自動判定すべき会社
課税売上割合が毎期95%以上で課税売上高も5億円以下の会社は、用途区分を持つ必要がありません。市販の会計ソフトで、税率とインボイスの有無を正しく選べば足ります。システムの改修は不要です。
改修を検討すべきなのは、非課税売上が恒常的にあるか、5億円を超えていて、しかも購買管理や経費精算、販売管理から会計へ仕訳を自動連携している会社です。連携データに用途区分の項目が無い、取引先マスタにインボイス登録番号の列が無い、納品日や検収日ではなく請求日しか持っていない、のいずれかに当たれば、仕訳を後から人手で直す運用になります。部門や案件のコードから用途区分を自動で付け、取引先マスタの登録状況から控除割合を決める連携の設計は、会計・経理システム開発で相談を受けています。
よくある質問
仕入税額控除について、検索で多い質問をまとめます。
仕入税額控除ができないものには何がありますか?
消費税が課税されていない支払いは控除できません。従業員への給与や賞与、租税公課、寄付金などの不課税取引、土地の購入や賃借、保険料、支払利息、住宅の家賃などの非課税取引が該当します。課税仕入れであっても、帳簿と請求書等の保存が無いものは控除できません。インボイスの無い免税事業者からの仕入れは、令和8年10月から令和10年9月までは70%だけ控除できます。
仕入税額控除の95%ルールとは何ですか?
課税売上割合が95%以上で、かつ課税期間の課税売上高が5億円以下なら、仕入れにかかる消費税を全額控除できる取扱いのことです。どちらかを満たさないと、個別対応方式か一括比例配分方式で計算し、非課税売上に対応する部分は控除できません。平成24年4月以後に始まる課税期間から5億円の条件が加わり、大きな会社は割合が高くても全額控除の対象外になっています。
個別対応方式と一括比例配分方式はどちらが有利ですか?
課税売上に結び付く仕入れが中心の会社は、個別対応方式が有利です。住宅賃貸の修繕費など、非課税売上にのみ要する仕入れの比率が非課税売上の比率を上回る期は、一括比例配分方式の方が控除額は大きくなります。一括比例配分方式は2年間継続しないと個別対応方式に戻れないため、翌期の見込みも含めて試算してから選んでください。
免税事業者から仕入れた場合も仕入税額控除はできますか?
経過措置の期間中は一部を控除できます。令和8年10月1日から令和10年9月30日までの課税仕入れは70%、その後は50%、30%と下がり、令和13年10月1日以後はゼロです。適用には、区分記載請求書と同じ事項が書かれた請求書等の保存と、帳簿への経過措置の適用を受ける旨の記載が必要です。1社から年1億円を超える部分には使えません。
簡易課税を選んでいれば請求書の保存は不要ですか?
納付税額の計算には請求書等を使わないため、仕入れのインボイスの有無で税額は変わりません。ただし、法人税や所得税の経費の証拠書類として請求書や領収書の保存は引き続き必要です。基準期間の課税売上高が5,000万円を超えて簡易課税を使えなくなった期は、一般課税に戻り、帳簿と請求書等の保存が控除の要件になります。判定は2期前の基準期間で行うため、ある期の課税売上高が5,000万円を超えたら、その2期後の一般課税に向けて記帳の準備を始められます。
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