定着率とは、ある時点で在籍していた社員や入社した社員のうち、一定期間が過ぎても在籍している人の割合です。法令で決まった定義はなく、「期間後も在籍している人数÷起点の人数×100」で計算します。この記事では、入社年度別の定着率と期首在籍者の年間定着率という2つの計算式、離職率を100%から引いても定着率と一致しない場合がある理由を、同じ在籍データを使った計算例で確認できる構成です。そのうえで、令和7年の雇用動向調査と新卒の離職状況から定着率の目安を組み直し、助成金で使われる離職率の算定式との違いも整理します。最後に、入社年度別・部署別の定着率を人事データから自動で出す設計と、システム化する条件を示します。
まとめ:定着率は起点の集団を固定して追い、離職率と同じ分母で並べる
定着率の計算は、起点の集団を決めることから始まります。「2023年4月に入社した新卒20人」「1月1日に在籍していた100人」のように集団を固定し、その人たちが期間後に何人残っているかを数えます。途中で入社した人は、その集団には加えません。
「定着率=100%−離職率」は、離職率も同じ集団を分母にしている場合にだけ成り立ちます。厚生労働省の雇用動向調査の離職率は、年の途中で入社して同じ年に辞めた人も分子に入れるため、100%から引いた値は期首在籍者の定着率より低く出ます。統計と自社を並べるときは、どちらの式の数字かを先に確かめてください。
目安としては、令和7年の離職率13.7%から換算した年間の定着率がおよそ86%、大卒新卒の定着率は1年後87.9%、3年後66.2%です。社内では入社年度×経過年数の表で定着率を追うと、どの年次で人が抜けているかが分かります。部署別・雇用区分別に毎月出す段階になったら、在籍履歴を持つ仕組みへの切り替えを検討します。
定着率の定義と計算式、離職率との違いを同じ在籍データで確かめる手順
定着率は人事の会議で毎年のように使われる指標ですが、算出の前提が人によって違うまま数字だけが比べられていることがよくあります。最初に、定義の決め方と2つの計算式を押さえます。
法令上の定義がない定着率を「起点・期間・対象者」の3要素で決める理由
定着率は、厚生労働省の統計の用語としても定義されていません。統計で定義されているのは離職率のほうで、雇用動向調査の用語の定義は離職率を「1月1日現在の常用労働者数に対する離職者数の割合」としています。定着率は、各社がこの裏側を見るために使っている社内指標です。
定義がないぶん、算出する側が次の3つを決めて文書に残します。起点は「入社日」か「期首の在籍日」か。期間は1年か3年か、年度末で締めるのか入社日から満1年で数えるのか。対象者は新卒だけか中途も含めるか、パートや契約社員を入れるか。この3つのどれかが年によって変わると、定着率の上下は施策の結果ではなく定義の変更で起きたものになります。
入社○年定着率と期首在籍者の年間定着率、2つの計算式と使い分けの基準
実務で使われる定着率は、ほぼ次の2つに分かれます。
| 種類 | 計算式 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 入社○年定着率 | ○年後も在籍している人数÷入社人数×100 | 新卒・中途の採用の質 |
| 年間定着率 | 期首在籍者の期末残留人数÷期首在籍者数×100 | 既存社員の流出の把握 |
入社○年定着率は、入社した年度ごとの集団(コホート)を追う形です。2023年4月入社の新卒20人のうち、2026年3月末に14人が残っていれば、入社3年定着率は70.0%です。採用経路や配属先ごとに比べると、どこで採った人が残りにくいかが見えます。
年間定着率は、期首にいた全員を起点にします。既存社員がどれだけ辞めずに残ったかを見る指標で、採用の増減の影響を受けません。採用の成否を問うなら前者、組織全体の流出を問うなら後者、と目的で使い分けます。
「100%−離職率」が合わない例:期中入社者の退職で生じる3.0ポイントの差
同じ在籍データで、定着率と離職率を計算してみます。1月1日の在籍者100人、年内の入社20人、年内の退職15人で、退職者のうち3人はその年に入社して同じ年に辞めた人とします。
| 指標 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 厚労省式の離職率 | 15÷100×100 | 15.0% |
| 100%−厚労省式の離職率 | 100−15.0 | 85.0% |
| 期首在籍者の年間定着率 | (100−12)÷100×100 | 88.0% |
| その年の入社者の年末定着率 | (20−3)÷20×100 | 85.0% |
差の3.0ポイントは、期中入社の3人です。厚労省式の離職率は彼らを分子に入れますが、分母の1月1日の人数には入っていません。期首在籍者の定着率では、3人は分子からも分母からも外れます。
採用を増やした年ほど、このずれは大きくなります。離職率の分母を4通りに変えた計算は離職率の計算方法:厚労省の式と分母の選び方、入社3年以内・月次の算出例で示しており、定着率を離職率から逆算する場合は、そこで選んだ分母が「期首在籍者のみ」のときだけ100%からの引き算が正確になります。
公的統計から換算する定着率の目安:雇用動向調査と新卒3年以内の離職状況
定着率そのものを集計した公的統計はありません。目安が必要なときは、離職率の統計を100%から引いて換算します。換算のたびに、元の統計の分母を意識しておく必要があります。
令和7年の離職率13.7%を年間定着率86.3%と読み替えるときの注意点
令和7年の入職と離職の推移では、常用労働者全体の離職率が13.7%、一般労働者が11.4%、パートタイム労働者が19.9%でした。100%から引くと、それぞれ86.3%、88.6%、80.1%になります。
ただし前の章のとおり、この離職率には期中に入社して同じ年に辞めた人が含まれます。期首在籍者の年間定着率に直すと、86.3%より高めの値になるはずです。自社の年間定着率が88%で、換算値の86.3%を上回ったとしても、それだけで「全国より定着している」とは言えません。比べるなら、自社も厚労省と同じく「1年間の離職者÷1月1日の在籍者」で離職率を出し、離職率どうしで並べるほうが確実です。産業別や規模別の比べ方は離職率の平均は13.7%:令和7年の産業別・規模別の値と自社比較の目安で整理しています。
大卒1年目12.1%・2年目11.9%・3年目9.9%から作る新卒定着率の曲線
新卒の定着率は、厚労省の新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)から組み立てられます。令和7年10月24日に公表されたもので、3年以内の離職率は大卒33.8%、高卒37.9%です。同じ公表の別紙3に1年目・2年目・3年目の内訳があり、そこから定着率の曲線を作ると次のようになります。
| 経過 | 大卒の離職率 | 大卒の定着率 | 高卒の離職率 | 高卒の定着率 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 12.1% | 87.9% | 17.9% | 82.1% |
| 2年目 | 11.9% | 76.0% | 11.5% | 70.6% |
| 3年目 | 9.9% | 66.2% | 8.5% | 62.1% |
3年目の定着率は、公表された3年以内の合計値を100%から引いています。資料には、合計が四捨五入の関係で年目別の和と一致しないことがあると注記されています。
この曲線から読めるのは、大卒でも2年目の離職が1年目とほぼ同じ大きさだという点です。高卒は1年目の離職が17.9%と突出しています。自社の新卒定着率を比べるときは、3年後の1点だけでなく、1年後と2年後の値も並べると、どの年次に手を打つべきかが分かります。入社1年目の離職が多い会社が見直すのは、入社前から3か月までの受け入れの工程です。工程の組み方はオンボーディングとは?意味と入社前〜3か月の工程、システム化する範囲の判断で扱っています。
産業別の定着率の目安:宿泊・飲食76.3%から金融・保険93.4%までの差
雇用動向調査の産業別の入職と離職から換算すると、令和7年の年間定着率は宿泊業・飲食サービス業で76.3%、情報通信業で89.6%、金融業・保険業で93.4%でした。最も低い産業と高い産業で17.1ポイントの差があります。
差の一部はパートタイム労働者の比率によるものですが、それだけではありません。同じ表の一般労働者に限っても、宿泊業・飲食サービス業の離職率は21.5%(定着率に換算して78.5%)、金融業・保険業は6.3%(同93.7%)です。全産業の平均86.3%を基準に「うちは定着率が低い」と判断する前に、同じ産業・同じ就業形態の値と比べてください。
人材確保等支援助成金の離職率要件から見る、制度上の定着の測り方と社内定義の差
定着の数字が社外の制度で直接問われる場面があります。厚労省の人材確保等支援助成金の雇用管理制度・雇用環境整備助成コースは、制度を導入した後に離職率が下がったことを支給の要件にしています。ここでの算定式は、社内の定着率とは集計対象となる人の範囲が異なる点に注意が必要です。
雇用保険の資格喪失者を期首の被保険者数で割る助成金の離職率算定式
同コースのパンフレットでは、離職率を次の式で算出するとしています。
- 分子:所定の期間に、離職によって雇用保険一般被保険者の資格を失った人数
- 分母:所定の期間の初日における雇用保険一般被保険者数
- 除外:定年退職、重責解雇、役員への昇格、本人の事情による労働時間の短縮で資格を失った人、一部の雇用期間満了
- 単位:事業主単位(同じ事業主のすべての雇用保険の事業所を合算)
分母が期首の人数で、定年退職を除く点は、社内の年間定着率の定義に近い形です。違いは、雇用保険の一般被保険者だけが対象になる点です。週の所定労働時間が20時間未満のパートなど、雇用保険に入っていない人は分子にも分母にも入りません。
10人以上は1ポイント低下・評価時30%以下:社内の定着率と並べる注意
離職率の目標は、雇用保険一般被保険者が10人以上の事業所では計画時から1ポイント以上の低下、1〜9人では計画時を上回らないことです。加えて、評価時の離職率が30%以下である必要があります。計画時離職率は計画の認定申請日の12か月前の月の初日から前月末まで、評価時離職率は計画期間の末日の翌日から12か月間で算出します。
たとえば期首の被保険者40人のうち、12か月間に6人が資格を失い、そのうち1人が定年退職なら、離職率は5÷40×100で12.5%です。評価時に達成すべき離職率の水準は11.5%以下です。社内で定年退職を含めた定着率を出している会社は、この数字と社内資料の数字が合わないことを前提に、助成金用の集計を別に作ります。障害者の雇用に関わる助成金の要件と勤怠データの揃え方は障害者雇用の助成金一覧:月いくら・支給要件と申請書類を勤怠データで揃える方法にまとめています。
入社年度別・部署別に定着率を自動算出するデータ設計とシステム化の判断
定着率を年1回、全社で1つ出すだけなら手作業で足ります。入社年度別・部署別・雇用区分別に毎月見るようになると、集計の手順そのものを仕組みにしないと定義がぶれます。
入社年度×経過年数のコホート表で定着率の曲線を毎月更新する手順
入社年度別の定着率は、縦に入社年度、横に経過年数を置いた表で管理します。架空の会社の例です。
| 入社年度 | 入社人数 | 1年後 | 2年後 | 3年後 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年度 | 20人 | 90.0% | 80.0% | 70.0% |
| 2023年度 | 25人 | 88.0% | 76.0% | 未到来 |
| 2024年度 | 18人 | 83.3% | 未到来 | 未到来 |
表を縦に読むと、1年後の定着率が年度を追うごとに下がっていることが分かります。2024年度は18人中3人が1年以内に辞めており、1人の退職で5.6ポイント動く人数なので、単年で結論を出さず次の年度と合わせて見ます。
- 社員ごとに入社日・退職日・入社区分(新卒・中途)を持つ一覧を用意する
- 入社日から入社年度を、退職日から「入社後何年目に辞めたか」を計算する列を足す
- 入社年度ごとに、経過年数の時点で在籍している人数を数えて入社人数で割る
- まだその経過年数に達していない欄は空欄にして、0%と区別する
4つ目を守らないと、2024年度の3年後が0%と表示され、平均値が大きく崩れます。
部署別の定着率で異動者を脱落と数えないための起点部署の固定方法
部署別の定着率では、起点の部署をどう決めるかで数字が変わります。営業部に配属された新卒が2年目に企画部へ異動した場合、営業部の定着率から見れば「いなくなった人」になるからです。
集計の定義は、起点の部署で固定する方式にそろえます。入社時(年間定着率なら期首)の所属部署にその人を属させ、会社に在籍している限りは異動後も「定着」として数える方式です。会社を辞めたときだけ脱落にします。部署ごとの人の出入りを見たいなら、定着率とは別に異動の件数を集計します。
この方式には、所属の履歴を「いつからいつまで」の形で持つデータが必要です。人事マスタの所属欄を上書きしていると、起点の部署が分からなくなります。在籍履歴の項目は兄弟記事の離職率の計算方法で、人事データの分析全体の進め方はピープルアナリティクスの手法と進め方で扱っています。
Excelのコホート表で足りる規模と定着率の算出をシステム化する条件
従業員が300人未満で、新卒と中途の入社年度別定着率を年1回見るだけなら、Excelの社員一覧とコホート表で足ります。入社日と退職日さえ正しく入っていれば、上の手順は関数で組めます。この段階でダッシュボードを開発するのは過剰です。
システム化を検討するのは、部署別・雇用区分別・採用経路別の定着率を毎月見たい、人事・勤怠・採用管理のデータが別のシステムにあり毎回手で突き合わせている、所属の履歴が残っておらず起点の部署を再現できない、といった条件が重なったときです。まず既製の人事システムの集計機能で足りるかを確かめ、履歴の持ち方が合わない場合に作り込みを検討します。経営会議で見る画面の構成は経営ダッシュボードの指標の決め方と構築方式が参考になります。
入社年度別・部署別の定着率を人事データから自動で算出する仕組みは、一創の人事・労務管理システム開発でご相談いただけます。今の人事データで起点の部署や入社区分を再現できるかの確認から進めます。
よくある質問
定着率について、人事担当者や経営者からよく寄せられる質問をまとめました。
定着率は何%なら高いといえますか?
全業種に共通する基準はありません。令和7年の雇用動向調査から換算した年間の定着率は、宿泊業・飲食サービス業の76.3%から金融業・保険業の93.4%まで開いています。正社員中心の会社なら一般労働者の換算値88.6%、新卒なら大卒の1年後87.9%・3年後66.2%がひとつの目安です。人数が少ない会社では1人の退職で数ポイント動くため、2〜3年分をまとめて比べてください。
看護師の定着率の平均はどのくらいですか?
日本看護協会の2025年病院看護実態調査を紹介した労働政策研究・研修機構の記事によると、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%、新卒採用者は8.4%、既卒採用者は16.1%でした。100%から引くと、定着率はそれぞれ89.0%、91.6%、83.9%の換算です。病院での比較は、雇用動向調査の医療・福祉より、この調査の値を使うほうが条件が近くなります。
障害者雇用の定着率はどのくらいですか?
障害者職業総合センターの調査研究報告書No.137(2017年4月)では、ハローワークの紹介で就職した障害者の就職後1年時点の定着率は、障害者求人で70.4%、一般求人で障害を開示した場合49.9%、開示しなかった場合30.8%でした。調査時期が2015年度からの2年間と古い点には注意が必要です。比べるときは、求人の種類と障害の種類をそろえてください。
新卒と中途の定着率は分けて出すべきですか?
分けて出してください。新卒は4月に一斉に入社するため入社年度で集団を作りやすく、厚労省の新卒の統計とも比べられます。中途は入社月がばらばらなので、入社日から満1年・満3年の時点で在籍しているかを一人ずつ数えて集計する方式です。両者を合算すると、中途採用を増やした年に1年後の定着率が動き、新卒の受け入れが改善したのかどうかが読めなくなります。
定着率を上げるには何から手を付ければよいですか?
最初に確認するのは、入社年度×経過年数の表から分かる「どの年次で抜けているか」という点です。1年目に偏っているなら入社直後の受け入れの工程、2年目以降に崩れているなら配置や評価の側に原因がある可能性が高くなります。社員の意識を数字で見る手段としては、組織サーベイの種類と選び方が参考になります。施策を決める前に、定着率の定義を固定して翌年と比べられる状態にしておくことが前提です。
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