確定申告や年末調整で目にする「控除」には、所得控除と税額控除の2種類があります。控除額とは税金の計算から差し引ける金額のことですが、差し引く場所が違うため、同じ10万円でも手取りへの効き方はまったく異なります。この記事では税額控除の仕組みを令和8年分の数字で計算し、個人が使える種類と控除率、住宅ローン控除・配当控除の最新の要件までを整理します。
あわせて、令和8年8月5日に基本方針が閣議決定された「給付付き税額控除」についても、政府の一次資料に沿って導入時期と対象範囲を確認します。名前は似ていますが、現行の税額控除とは性格が異なる新しい制度です。
まとめ:税額控除の要点
- 税額控除は算出税額から直接差し引くため、控除額がそのまま減税額になります。所得控除は「控除額×税率」分しか減りません。
- 令和8年分・年収400万円の給与所得者では、10万円の所得控除の効果は5,000円、10万円の税額控除の効果は約5万6,500円(算出税額が上限)です。
- 個人が確定申告で使える税額控除は、住宅ローン控除・配当控除・外国税額控除・3種類の寄附金特別控除が中心です。
- 住宅ローン控除は令和8年度税制改正で5年延長され、入居期限は令和12年12月31日になりました。質の高い既存(中古)住宅の借入限度額と控除期間が拡充されています。
- 上場株式の配当を総合課税で申告して配当控除を受けるかどうかの分岐点は、課税所得900万円ではなく695万円です。
- 令和11年度に導入されるのは「所得に連動したきめ細かな給付」で、閣議決定はこれを本格的な「給付付き税額控除」への第一歩と位置づけています。令和9年度に先行導入されますが、今すぐ申請できる制度ではありません。
税額控除と所得控除の違い
差し引く場所の違いと計算順序
所得税は「収入-必要経費=所得金額」「所得金額-所得控除=課税所得金額」「課税所得金額×税率=算出税額」という順に計算します。所得控除はこの2段目、つまり税率を掛ける前の課税所得を圧縮する仕組みです。基礎控除や社会保険料控除、医療費控除など16種類があります。
税額控除は最後の段階で登場します。算出された税額そのものから一定額を直接差し引くため、控除額の全額が納税額の減少に直結します。算出税額が30万円で税額控除が10万円あれば、納付税額は20万円です。二重課税の排除(配当控除・外国税額控除)や政策目的の誘導(住宅ローン控除)のために設けられており、原則として確定申告が必要です。
両方を使う場合の順序は法律上決まっていて、先に所得控除で課税所得を求め、税率を掛けた後に税額控除を引きます。控除の全体像は会社員・個人事業主が最初に理解すべき控除の基本的な仕組みと2分類もあわせてご確認ください。
令和8年分・年収400万円での節税額の差
令和8年分の給与所得者(年収400万円・独身)で試算します。給与所得控除は124万円なので給与所得は276万円です。ここから令和8年分の基礎控除104万円と社会保険料控除約59万円(協会けんぽ東京支部・40歳未満で概算)を差し引くと、課税所得金額は約113万円になります。税率は5%なので算出税額は約5万6,500円です。なお、これとは別に復興特別所得税2.1%がかかります。
この人が10万円の所得控除を追加で受けると、課税所得は約103万円に下がり、算出税額は約5万1,500円になります。減った税金は5,000円、つまり控除額10万円に税率5%を掛けた分だけです。
一方、10万円の税額控除を受けると、算出税額5万6,500円から直接差し引くため納付税額はゼロになります。減税額は5万6,500円で、所得控除の11倍以上です。ただし税額控除は算出税額が上限なので、引ききれなかった4万3,500円は所得税からは戻りません。
なお、令和8年分の基礎控除は合計所得金額489万円以下で104万円、給与所得控除の最低額は74万円です(74万円は令和8年・9年分限定の時限措置で、本則は69万円)。改正前の数字で計算すると税額が合わなくなるため、基礎控除と給与所得控除の違い|令和8年分は104万円と74万円で年収178万円まで所得税ゼロで最新の金額をご確認ください。
税率によって有利不利が入れ替わる場面
所得税は5%から45%までの7段階の累進税率です。所得控除の効果は「控除額×税率」なので、税率5%の人は10万円の控除で5,000円、税率23%の人は2万3,000円と、同じ控除でも4倍以上の差がつきます。税額控除にはこの差がなく、誰が使っても10万円は10万円です。したがって税率が低い層ほど税額控除の相対的な価値が大きくなります。
逆転するのは、所得控除と税額控除を選べる制度で税率が控除率を上回るときです。認定NPO法人等への寄附は「(寄附金額-2,000円)×40%」の税額控除と所得控除の選択制なので、所得税率45%の人は所得控除を選んだほうが有利になります。税率40%ではほぼ同額、40%未満であれば税額控除のほうが大きくなります。
個人が使える税額控除の種類と控除率
主要な税額控除の対象者と控除率の一覧
個人が確定申告で使う税額控除には、次のようなものがあります。
| 税額控除の種類 | 主な対象者 | 控除率・控除額 |
|---|---|---|
| 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除) | 住宅ローンで住宅を取得した人 | 年末残高×0.7%(最長13年) |
| 配当控除 | 総合課税で配当所得を申告した人 | 配当所得の10%または5% |
| 外国税額控除 | 外国で所得税に相当する税を納めた人 | 控除限度額の範囲内 |
| 分配時調整外国税相当額控除 | 投資信託等の分配金を受け取った人 | 分配時に調整された外国税相当額 |
| 政党等寄附金特別控除 | 政党・政治資金団体へ寄附した人 | (寄附金額-2,000円)×30% |
| 認定NPO法人等寄附金特別控除 | 認定NPO法人等へ寄附した人 | (寄附金額-2,000円)×40% |
| 公益社団法人等寄附金特別控除 | 公益社団法人等へ寄附した人 | (寄附金額-2,000円)×40% |
| 認定住宅等新築等特別税額控除 | 認定住宅等を自己資金で新築等した人 | 標準的な性能強化費用の10% |
| 住宅耐震改修特別控除・住宅特定改修特別税額控除 | 耐震・バリアフリー・省エネ改修等をした人 | 標準的な工事費用の10% |
寄附金の3種類には所得税額の25%という上限がありますが、枠は2つに分かれています。政党等寄附金特別控除は単独で所得税額の25%、認定NPO法人等と公益社団法人等の2つは合計で所得税額の25%です。
下の2つは「投資型減税」と呼ばれ、住宅ローンの有無にかかわらず自己資金の工事でも使えます。住宅ローン控除とは選択適用になる組み合わせがあるため、両方を試算して有利なほうを選びます。なお、試験研究費の特別控除やDX投資促進税制のような法人向けの税額控除は法人税の制度なので、個人事業主の所得税には適用されません。
年末調整で済む控除と確定申告が必要な控除の線引き
税額控除のうち年末調整で処理できるのは、住宅ローン控除の2年目以降だけです。初年度の住宅ローン控除、配当控除、外国税額控除、寄附金特別控除はすべて確定申告が必要になります。会社員でもこれらを使いたい場合は自分で申告することになります。申告書では、所得控除を差し引いて算出した税額の下、第一表の「税額の計算」欄に各税額控除を記入します。
還付を受けるための申告は、その年の翌年1月1日から5年間できます。過去に適用を忘れていた税額控除も、5年以内なら遡って申告して取り戻せます。すでに確定申告を済ませた年分に漏れがあった場合は、還付申告ではなく更正の請求という手続きになり、期限は法定申告期限から5年以内です。
控除しきれない「控除余り」の行き先
税額控除は算出税額が上限なので、控除額のほうが大きいと余りが出ます。住宅ローン控除の場合は、所得税から引ききれなかった額を、課税総所得金額等の5%(最高9万7,500円)を限度に翌年度の個人住民税から控除できます。住民税側の仕組みは住民税はいくら?年収別早見表と均等割・所得割の内訳、市民税所得割額の確認方法【令和8年度】で確認できます。
外国税額控除は、所得税の控除限度額を超えた分を復興特別所得税と住民税の限度額の範囲で追加控除でき、それでも余る場合は翌年以降3年間繰り越せます。逆に外国所得税額が限度額を下回った年は、その差額を3年間の繰越控除限度額として使えます。配当控除と寄附金特別控除には繰越の仕組みがないため、余った分は切り捨てになります。
住宅ローン控除は令和8年度税制改正で5年延長
令和8年入居分の借入限度額と控除期間
住宅ローン控除は令和8年度税制改正で5年間延長され、入居期限は令和12年12月31日までになりました。控除率0.7%と最長13年という骨格は変わりませんが、国土交通省「令和8年度税制改正概要」によれば、質の高い既存住宅の借入限度額と控除期間の拡充、床面積要件の緩和が行われています。令和8年に入居する場合の借入限度額と控除期間は次のとおりです。
| 住宅の区分 | 新築・買取再販 | 既存(中古) | 控除期間 |
|---|---|---|---|
| 認定長期優良住宅・認定低炭素住宅 | 4,500万円(5,000万円) | 3,500万円(4,500万円) | 13年 |
| ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円(4,500万円) | 3,500万円(4,500万円) | 13年 |
| 省エネ基準適合住宅 | 2,000万円(3,000万円) | 2,000万円(3,000万円) | 13年 |
| その他の住宅 | 支援対象外 | 2,000万円 | 10年 |
カッコ内は子育て世帯等に適用される借入限度額で、子育て世帯等とは「19歳未満の子を有する世帯」または「夫婦のいずれかが40歳未満の世帯」を指します。従来は控除期間10年だった既存住宅も、認定長期優良住宅・低炭素住宅とZEH水準省エネ住宅であれば13年に拡充されました。ただし新築の省エネ基準適合住宅は令和10年入居分から支援対象外になるため、新築でこの区分に該当する場合は入居時期に注意が必要です。
床面積要件は原則40平方メートル以上に緩和されました。ただし合計所得金額1,000万円超の人と、子育て世帯等への上乗せ措置を利用する人は50平方メートル以上が必要です。所得要件は従来どおり合計所得金額2,000万円以下です。
初年度の確定申告と2年目以降の手続き
住宅ローン控除は初年度に必ず確定申告が必要です。確定申告書と住宅借入金等特別控除額の計算明細書に加えて、登記事項証明書、売買契約書または工事請負契約書の写し、省エネ性能を証明する書類を添えます。
年末残高の証明方法は令和4年度税制改正で変わりました。国税庁によれば、金融機関等が税務署に「年末残高調書」を提出し、税務当局から納税者へ年末残高情報を提供する調書方式に移行しており、令和6年1月1日以降に居住を開始した人については、対応が完了した金融機関から順次この方式になります。借入先が調書方式に移行済みであれば、あらかじめ金融機関へ「住宅ローン控除の適用申請書」を提出することで、従来の年末残高証明書の添付・提出は不要になります。未移行の金融機関からの借入れでは、従来どおり年末残高証明書が必要です。
初年度の申告を済ませると、翌年以降は税務署から控除期間分の申告書がまとめて届きます。給与所得者はこれを勤務先に提出すれば年末調整で処理できます。個人事業主は控除期間中ずっと確定申告が必要です。繰上返済で返済期間が10年未満になると控除を受けられなくなる点など、住宅ローン控除の要件と手続きの詳細は住宅購入前に押さえたい住宅ローン控除の基本的な仕組みと最新の適用要件で解説しています。
配当控除は課税所得695万円が分岐点
控除率10%・5%が適用される区分
配当控除は、法人税を課された後の利益から支払われる配当に個人の所得税を課すことによる二重課税を調整する制度です。控除率は課税総所得金額1,000万円以下の部分に対応する配当所得で所得税10%・住民税2.8%、1,000万円を超える部分では所得税5%・住民税1.4%になります。総合課税を選んで申告した国内法人からの配当だけが対象で、申告分離課税や申告不要制度を選ぶと適用されません。
総合課税と申告分離課税の実効税率の比較
どちらが有利かは実効税率を比べて判断します。申告分離課税は一律20.315%(所得税15.315%・住民税5%)です。総合課税では累進税率から配当控除を引いた率になり、復興特別所得税は配当控除を差し引いた後の所得税額に2.1%が乗ります。
配当所得を加えた後の課税総所得金額が695万円未満(正確には6,949,000円まで)なら所得税率20%なので、(20-10)×1.021+(10-2.8)=17.41%となり、20.315%より有利です。6,950,000円以上になると所得税率が23%に上がり、(23-10)×1.021+7.2=20.47%で申告分離課税をわずかに上回ります。したがって分岐点は課税所得695万円です。
「900万円が分岐点」という説明を見かけますが、これは住民税だけ申告不要制度を選べた時代の話です。令和4年度税制改正により、令和6年度の住民税(令和5年分の所得)以後は所得税と住民税で異なる課税方式を選べなくなったため、住民税の負担増を切り離せなくなりました。総合課税を選ぶと合計所得金額が増えて国民健康保険料などにも影響するため、自営業の方や退職後の方は社会保険料まで含めて比較してください。課税方式そのものの違いは申告分離課税の対象となる所得の種類と総合課税との根本的な違いで整理しています。
給付付き税額控除は令和11年度に向けて制度化へ
閣議決定された導入スケジュール
ここまで見てきた税額控除は、納める税金がある人の税額を減らす制度です。先ほどの例では算出税額5万6,500円に対して10万円の税額控除を使っても、引ききれない4万3,500円は戻ってきませんでした。この引ききれない分を現金給付として受け取れるようにするのが「給付付き税額控除」の考え方で、日本ではまだ実施されていません。
政府は令和8年8月5日、社会保障国民会議の「中間とりまとめ」(令和8年7月29日)を踏まえた「『給付付き税額控除』の制度導入の基本方針」を閣議決定しました。同方針は、負担(税・社会保険料)と現金給付を総合的に捉えて純負担率を調整する「所得に連動したきめ細かな給付」を行う新たな制度を令和11年度に導入するとしています。ただし方針は「税額控除と給付の組合せとすることについては、将来的に給付のみと決め打ちすることなく」検討を継続するとしており、令和11年度に始まるのは給付であって、税額控除と組み合わせた最終形はまだ確定していません。
本格導入までのつなぎとして、令和9年4月1日から2年間、軽減税率の対象である飲食料品に係る消費税率を1%に引き下げます。あわせて、飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲内で、公的機関が保有する所得情報を活用した「所得に連動したきめ細かな給付」を令和9年度に先行導入し、全体として飲食料品に係る消費税の実質ゼロ化を実現する構成です。
対象となる人の範囲
基本方針は、就労インセンティブの向上と「年収の壁」への対応の観点から、給付を「個人単位」とし単身者も対象とすると明記しています。対象は一定の勤労性の所得があり、一定の税・社会保険料負担がある人です。
勤労性の所得には事業所得と給与所得に加えて業務に係る雑所得も含まれ、個人事業者やフリーランスも対象になります。ただし事業所得と業務に係る雑所得は「就労とみなせるような一定額以上の場合に」含めるとされています。就労していて、税・社会保険料負担から年金受取額を差し引いた純負担が現役並みである中低所得の高齢者も対象です。
給付額は所得に応じて決まり、勤労性の所得が一定水準に達するまで逓増させ、その後は定額、総所得が一定額を超えると逓減して消失する設計です。18歳以下のこどもの人数に応じた加算も行われます。ただし令和9年度の先行導入では経過的な措置として、配偶者の所得を勘案する例外措置を設けず、加算の対象も15歳以下のこどもになります。また非課税ライン以下の所得は把握に執行上の課題があるため定額とされています。制度の名称についても、一律の給付との違いが伝わるよう「実態に即した制度の名称とすることを含め、必要な対応に努める」とされており、最終的な名称は変わる可能性があります。
なお「年収の壁」への配慮として設けられる加算は、第3号被保険者制度の見直しや被用者保険の適用拡大によって壁が解消するまでの時限措置と位置づけられています。現行の壁の金額は年収の壁【2026年最新】178万円・136万円・130万円の一覧と手取りの分岐点で確認できます。
よくある質問
税額控除と所得控除はどちらが得ですか?
同じ控除額なら、ほとんどの場合で税額控除のほうが有利です。所得控除は「控除額×税率」しか税金が減らないのに対し、税額控除は控除額の全額が減税になるためです。例外は所得控除と税額控除を選べる寄附金の制度で、所得税率が控除率(認定NPO法人等は40%)を上回る人は所得控除が有利になります。
給付付き税額控除はいつから始まりますか?
令和8年8月5日の閣議決定では、「所得に連動したきめ細かな給付」を令和11年度に導入するとされています。それまでのつなぎとして、令和9年4月1日から2年間は飲食料品の消費税率が1%になり、令和9年度にこの給付が先行導入されます。税額控除と組み合わせた形にするかは継続検討で、2026年9月時点で申請できる制度はまだありません。
税額控除は年末調整でも受けられますか?
年末調整で処理できるのは住宅ローン控除の2年目以降だけです。初年度の住宅ローン控除、配当控除、外国税額控除、寄附金特別控除は確定申告が必要です。
控除しきれなかった税額控除はどうなりますか?
住宅ローン控除は課税総所得金額等の5%(最高9万7,500円)を限度に翌年度の住民税から控除されます。外国税額控除は3年間の繰越しができます。配当控除と寄附金特別控除には繰越しの仕組みがなく、余った分は切り捨てになります。
ふるさと納税は税額控除ですか?
ふるさと納税は所得税では寄附金控除という所得控除として扱われ、住民税では基本分と特例分の税額控除として処理されます。所得税と住民税で経路が分かれる点が特徴です。計算方法と上限額はふるさと納税の仕組み|所得税・住民税の控除割合と上限額の計算方法で解説しています。