個人投資家の確定申告が必要かどうかは、本業の有無と「どの口座で、何を売買したか」の2つで決まります。会社員は給与・退職所得以外の所得が年20万円を超えると申告が必要で、給与のない専業投資家は所得の合計が基礎控除などの所得控除を超えて税額が出るかで判定します。どちらの場合も、源泉徴収ありの特定口座で株式や投資信託だけを売買しているなら、その利益は原則として申告不要を選べます。この記事では令和8年分(2026年1〜12月の取引)を前提に、立場別・口座別・商品別の申告要否と、申告すると戻る税金・増える国民健康保険料の比べ方を国税庁と自治体の案内に沿って整理します。
まとめ:個人投資家の確定申告の要否と判断の要点
- 会社員(年末調整を受ける給与収入2,000万円以下の人)は、給与・退職所得以外の所得が年20万円を超えると確定申告が必要です。源泉徴収ありの特定口座の譲渡益と、申告不要を選んだ上場株式等の配当はこの20万円に数えません。
- 専業投資家は、所得の合計が所得控除の合計を超え、税額が出る場合に申告が必要です。源泉徴収ありの特定口座と申告不要の配当だけなら申告は要りません。一般口座の利益でも、令和8年分の基礎控除104万円(合計所得489万円以下)に収まれば所得税は生じません。
- 専業投資家が源泉徴収ありの口座を申告すると基礎控除の分だけ所得税が戻りますが、申告した所得は国民健康保険料の算定に入ります。横浜市の令和8年度の料率と軽減基準で試算すると、単身で他に所得が無い場合、利益100万円なら申告で約8.2万円得、300万円なら約14.9万円損です(住民税の均等割などは含めない)。
- 申告した株式の所得は合計所得金額に入り、配偶者控除・扶養控除の所得要件(令和8年分は62万円以下)を外れることがあります。
- NISA口座の売却益と配当(株式数比例配分方式)は非課税で申告の対象外、損失は他の口座と通算できません。投資信託の元本払戻金(特別分配金)も非課税です。
- 国内の登録業者等との取引で特例の対象となるFX・CFDは20.315%の申告分離課税、暗号資産と貸付型クラウドファンディングの分配金は令和8年分も雑所得の総合課税で、源泉徴収ありの特定口座のように判定から外す仕組みはありません。
- 令和8年分の申告期間は令和9年2月16日(火)〜3月15日(月)です。損失を繰り越す人は、売買のない年も申告が必要です。
会社員・専業投資家・年金生活者で異なる確定申告の要否の基準
申告が必要かどうかの基準は、給与や年金を受けているかで3つに分かれます。どの立場でも、源泉徴収ありの特定口座の譲渡益と、申告不要を選んだ上場株式等の配当は判定に含めません。
会社員:給与・退職所得以外の所得20万円の判定
国税庁No.1900によると、給与を1か所から受けて全額が源泉徴収されている会社員(給与収入2,000万円以下)は、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円以下なら所得税の確定申告をしなくて構いません。20万円は売却代金ではなく、売却代金から取得費と手数料を引いた「所得」で判定します。源泉徴収なしの特定口座・一般口座の譲渡益、FX、暗号資産、副業の所得はすべてこの合計に入ります。
20万円以下で所得税の申告をしない場合でも、住民税の申告は別に必要です。医療費控除やふるさと納税で還付申告をするときは、20万円以下の所得も申告書に含めなければなりません。副業と合算した判定は副業の雑所得はいくらから確定申告?20万円ルールと控除・事業所得の区分で、住民税の申告が要る人は住民税申告が必要な人・不要な人|副業20万円以下・無収入・退職者の判定と令和8年度からの電子申告で扱っています。
専業投資家:所得が基礎控除などの所得控除を超えるかで判定
給与のない専業投資家には20万円の基準がありません。国税庁No.2020は、所得金額の合計額が所得控除の合計額を超え、その超える額に対する税額が配当控除額などを超える人に申告が必要だとしています。
- 源泉徴収ありの特定口座と申告不要の配当だけ:所得の合計に入らないため、利益がいくらでも原則として申告は不要です(基準所得金額3億3,000万円超の高額所得者の特例を除く)。
- 一般口座・源泉徴収なしの特定口座の利益がある:その所得と他の所得の合計が所得控除を下回れば所得税は生じず、申告義務もありません。令和8年分の基礎控除は合計所得金額489万円以下なら104万円です(国税庁No.1199)。国民年金保険料などの社会保険料控除があれば、その分だけ基準は上がります。
- FX・暗号資産の利益がある:源泉徴収が無いため、所得控除を超えれば申告が必要です。
注意したいのは住民税です。住民税の基礎控除は43万円で所得税より小さく、所得税がかからない利益でも住民税の申告は必要になる場合があります。基礎控除104万円の内訳と年分ごとの金額は基礎控除と給与所得控除の違い|令和8年分は104万円・74万円で年収178万円まで所得税ゼロで確認できます。
年金生活の投資家:公的年金400万円以下と20万円の判定
公的年金を受けている人は、年金の収入金額が400万円以下で全額が源泉徴収の対象になっており、年金以外の所得金額が20万円以下なら申告は不要です(国税庁No.1600)。株式の利益の数え方は会社員と同じで、源泉徴収ありの特定口座の譲渡益は20万円に含めません。年金と申告の関係は年金受給者が確定申告しないとどうなる?令和8年分は12月の精算後も申告が要る人がいるで詳しく扱っています。
口座の種類で決まる確定申告の要否と申告したほうが得な場面
株式・投資信託の売却益は、口座の種類で申告の要否が分かれます。
| 口座 | 売却益の申告 | 配当の申告 | 申告時の特徴・留意点 |
|---|---|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり) | 不要を選べる | 不要を選べる | 他口座と損益相殺・損失繰越 |
| 特定口座(源泉徴収なし) | 原則必要 | 上場株式等は不要を選べる | 年間取引報告書で簡易に申告 |
| 一般口座 | 原則必要 | 上場株式等は不要を選べる | 取得費を自分で計算して申告 |
| NISA口座 | 非課税(申告なし) | 受取方法等の条件付きで非課税 | なし(損失は通算不可) |
「原則必要」としたのは、前章の20万円や所得控除の基準に収まれば所得税の申告が不要になるためです。
源泉徴収ありの特定口座で申告を検討する場面
源泉徴収ありの特定口座では、売却のたびに証券会社が20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)を差し引いて納めます。国税庁No.1476によれば、申告するかどうかは口座ごとに選べます。ただし、源泉徴収口座の譲渡損失を申告するときは、その源泉徴収口座に受け入れた配当等も申告不要にできず、あわせて申告します。
申告で得をする典型は、口座をまたいで損益を相殺する場合です。A証券で50万円の利益、B証券で30万円の損失なら、何もしなければA証券で101,575円が源泉徴収されたままです。両口座を申告して通算すると課税対象は20万円で税額は40,630円になり、差額の60,945円が戻る計算です(住民税分15,000円は翌年度の住民税で精算)。もう1つは、給与などから引ききれない所得控除が残っている場合で、専業投資家がこれに当たります。次の「専業投資家が申告すると戻る所得税と増える国民健康保険料の試算」で具体額を示します。
NISA口座の非課税と配当の受取方法の落とし穴
NISA口座で売却した利益と受け取った配当は非課税で、確定申告に書く必要はありません。令和6年以降のNISAは、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の年間360万円まで投資でき、非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)です(国税庁No.1535)。
見落としやすいのは配当の受取方法です。上場株式の配当がNISAで非課税になるのは、証券会社経由で受け取る「株式数比例配分方式」を選んだ場合に限られます。配当金領収証を郵便局へ持参する方式や銀行口座への振込にしていると、NISA口座の株でも20.315%が源泉徴収されます。米国株の配当は、NISA口座でも米国で10%が源泉徴収され、この外国税は外国税額控除の対象になりません。
専業投資家が申告すると戻る所得税と増える国民健康保険料の試算
専業投資家は給与が無いため、基礎控除104万円を差し引く先がありません。源泉徴収ありの特定口座の利益を申告すると、総所得金額から引ききれない基礎控除などの所得控除を上場株式等の譲渡所得等から差し引けるので(国税庁「株式等の譲渡所得等の申告のしかた」Q16)、源泉徴収された所得税の一部が戻ります。一方で、国民健康保険料は前年の総所得金額等をもとに計算され、源泉徴収ありの特定口座の所得は申告しなければ算定に含まれませんが、申告すると含まれます。横浜市は「見込まれる税額上の還付分や減額分よりも、保険料の増額分が上回る場合があります」と案内しています(横浜市「株式等の譲渡所得や配当所得などにより確定申告する方へ」)。
どちらが大きいかを、横浜市に住む40歳未満の単身者、所得は源泉徴収ありの特定口座の譲渡益だけ、所得控除は基礎控除のみという前提で計算しました。国保料の所得割は、総所得金額等から住民税の基礎控除43万円を引いた額に、令和8年度の料率(医療分8.33%+支援分2.62%+子ども分0.34%=11.29%)を掛けます(横浜市「令和8年度保険料の料率等について」)。令和8年分の所得は令和9年度の保険料に反映され、その年度の料率は未定のため、令和8年度の料率で代用しています。もう1つ見落とせないのが均等割の軽減です。この試算では、特定口座の所得を申告しなければ国保の算定上の総所得金額等は0円となり、18〜39歳の単身者の均等割合計56,020円には7割軽減が適用されます。ただし、所得状況が不明な世帯は軽減されないため、市から収入申立書等が届いた場合は提出が必要です。令和8年度の基準では、単身の2割軽減は総所得金額等100万円以下、5割軽減は74万円以下で、申告すると軽減が縮むか外れます(横浜市「保険料について」)。
| 譲渡益 | 戻る所得税 | 軽くなる住民税 | 国保の所得割 | 均等割の軽減縮小 | 申告の損得 |
|---|---|---|---|---|---|
| 100万円 | 153,150円 | 21,500円 | +64,353円 | +28,010円 | 約8.2万円の得 |
| 300万円 | 159,276円 | 21,500円 | +290,153円 | +39,214円 | 約14.9万円の損 |
100万円の例は、基礎控除104万円が利益を上回るので源泉徴収された所得税153,150円が全額戻ります。住民税は(100万円−43万円)×5%=28,500円となり、源泉徴収された50,000円との差21,500円が軽くなります。国保料は、所得割が57万円×11.29%=64,353円増え、均等割の軽減が7割から2割に縮むので56,020円×50%=28,010円増えます。300万円の例は、課税対象が196万円で所得税と復興特別所得税は300,174円、源泉徴収された459,450円との差159,276円が戻りますが、所得割(257万円×11.29%)と、軽減が外れる分の均等割39,214円の増加がそれを上回ります。
この前提では、利益がおよそ168万円を超えると申告は損になります((159,276円+21,500円−39,214円)÷11.29%+43万円)。申告すると住民税の均等割と森林環境税もかかるようになり、40〜64歳は介護分2.84%が加わるため、分かれ目はさらに下がります。家族と同じ世帯で国保に入っている人は、軽減の判定が世帯の所得合計で行われるので、結果が変わります。反対に、勤務先の健康保険に入っている会社員は国保の影響を受けないので、損益通算や繰越のために申告しても保険料の不利はありません。申告の前に、住所地の料率で同じ計算をしてください。国保料の計算方法と自治体ごとの差は個人事業主の国民健康保険はいくら?令和8年度の所得別早見表と安くする方法にまとめています。
申告すると変わる扶養・住民税の判定
源泉徴収ありの特定口座の所得と申告不要の配当は、申告しなければ合計所得金額に入りません。申告すると入るため、税額以外の判定にも影響します。
配偶者控除・扶養控除の62万円の所得要件
令和8年分から、配偶者控除の対象になる配偶者と扶養親族の所得要件は、合計所得金額62万円以下です(国税庁No.1180・No.1191)。たとえば配偶者控除の対象になっている配偶者が源泉徴収ありの特定口座で80万円の利益を出しても、申告しなければ対象のままです。損益通算などのために申告すると合計所得が62万円を超え、納税者は配偶者控除を受けられなくなります(所得によっては配偶者特別控除の対象になります)。繰越控除を受ける年も、合計所得金額は繰越控除を適用する前の金額で判定します。一般口座・源泉徴収なしの特定口座の利益は申告の有無にかかわらず合計所得に入るので、62万円を超えれば扶養から外れます。扶養控除の要件全体は扶養控除とは?税法上の扶養の条件・金額と配偶者控除との違い【令和8年分】を参照してください。
住民税は所得税と同じ課税方式(令和6年度分以後)
令和6年度分(令和5年分の所得)以後、上場株式等の配当と譲渡所得は、所得税で選んだ課税方式が住民税にもそのまま適用されます。以前のように「所得税は申告して還付を受け、住民税は申告不要にして国保料への影響を避ける」使い分けはできません。前章の試算で住民税と国保料が同時に動くのはこのためです。
投資商品ごとの課税方式と税率
同じ「投資の利益」でも、所得区分と課税方式が商品ごとに違い、損益を相殺できる範囲もそれに従います。上場株式の譲渡損失は申告分離課税の配当と通算できますが、株式とFXの損益は通算できません。
| 商品 | 所得区分 | 課税方式 | 税率 | 損失の繰越 |
|---|---|---|---|---|
| 上場株式・公募投資信託の売却 | 譲渡所得等 | 申告分離 | 20.315% | 3年 |
| 上場株式の配当・公募株式投信の普通分配金 | 配当所得 | 3方式から選択 | 方式による | なし |
| FX・CFD(国内業者・取引所) | 先物取引に係る雑所得等 | 申告分離 | 20.315% | 3年 |
| 暗号資産(令和8年分) | 雑所得 | 総合課税 | 累進課税 | なし |
| 貸付型クラウドファンディング | 雑所得 | 総合課税 | 累進課税 | なし |
株式の売買を継続的に行っていて事業所得や雑所得に当たる場合でも、株式等の譲渡による所得は申告分離課税で、税率は20.315%のままです(国税庁No.1463)。売買回数が多いケースの申告手順はデイトレードの税金と確定申告はいくらから?税率20.315%の計算例と申告しない場合のペナルティ【令和8年分】にまとめています。
投資信託の普通分配金・元本払戻金(特別分配金)と解約益
追加型株式投資信託の分配金は、分配後の基準価額と自分の個別元本を比べて2つに分かれます。個別元本には購入時の手数料や消費税を含めず、追加購入や元本払戻金の受取りに応じて再計算します。個別元本を上回る部分から払われた「普通分配金」は運用益として課税され、公募株式投資信託なら上場株式の配当と同じく20.315%が源泉徴収されます。個別元本を下回る部分から払われた「元本払戻金(特別分配金)」は元本の払い戻しとみなされ、非課税です(国税庁No.2011は非課税所得に「オープン型証券投資信託の特別分配金」を挙げています)。元本払戻金を受け取ると、その額だけ個別元本が下がります。
公募株式投資信託の解約・買取請求・売却による利益は上場株式等の譲渡所得等として扱われ、株式の売却益と同じ口座区分のルールで申告の要否が決まります。公募株式投資信託の普通分配金は、申告不要・総合課税・申告分離課税の3方式から選び、配当控除の率は投資信託の種類によって異なります(後述)。
FX・CFDの先物取引に係る雑所得等と損失の3年繰越
第一種金融商品取引業者・登録金融機関を相手にする店頭FX、取引所FX、および特例対象の株価指数・商品等のCFDの差益は「先物取引に係る雑所得等」として、20.315%の申告分離課税になります(国税庁No.1521)。源泉徴収の仕組みが無いため、会社員の20万円以下の申告不要制度などに該当せず、納付すべき所得税が生じる場合は自分で申告します。損失は翌年以後3年間繰り越せますが、損失が出た年から連続して付表を添付した確定申告書を出すことが条件です(国税庁No.1523)。株式の譲渡損失とは区分が違うため、FXやCFDの損失で株の利益を消すことはできません。
暗号資産の総合課税と分離課税への改正時期
令和8年分の暗号資産の売却益は、原則として雑所得の総合課税です。給与などと合算した課税所得に応じて所得税5〜45%、基準所得税額の2.1%の復興特別所得税、原則10%の住民税がかかり、雑所得の損失を給与所得と相殺することもできません。
令和8年度税制改正の大綱では、登録業者を通じた特定暗号資産の譲渡等を所得税15%・住民税5%の申告分離課税とし、損失を3年繰り越せる制度が示されました。適用は「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日以後」の譲渡等です。改正金商法は2026年7月15日に成立しましたが、施行日の属する年の翌年からの適用なので、令和8年中の取引に分離課税は使えません。経費の範囲は仮想通貨(暗号資産)の経費はどこまで?その他雑所得と事業所得で変わる範囲で扱っています。
貸付型クラウドファンディングの分配金の所得区分と源泉徴収
匿名組合契約を使う貸付型(融資型)クラウドファンディングで受け取る利益の分配は、原則として雑所得になり、総合課税の対象です(所得税基本通達36・37共-21)。分配時に所得税と復興特別所得税20.42%が源泉徴収されますが、株式の源泉徴収ありの特定口座と違って申告不要の仕組みは無く、会社員なら20万円の判定、専業投資家なら所得控除との比較に含めます。確定申告では源泉徴収された税額を差し引いて精算するので、所得税率が20%未満の人は申告で税金が戻ることがあります。事業者から届く年間の取引報告書(支払調書)の分配金額と源泉徴収税額を、申告書の雑所得(その他)の欄に転記します。
上場株式の配当金を申告する方式の選び方
上場株式等の配当(大口株主等を除く)は、総合課税・申告分離課税・申告不要の3方式から選べます(国税庁No.1330)。申告する配当は全額についてどちらか一方の方式を選ぶ決まりで、国内株は総合課税・米国株は申告分離課税といった混在はできません。
| 方式 | 税率の目安 | 配当控除 | 株の損失と通算 | 合計所得金額 |
|---|---|---|---|---|
| 申告不要 | 20.315%(源泉で完結) | 不可 | 同一の源泉徴収口座内では可 | 入らない |
| 申告分離課税 | 20.315% | 不可 | 可 | 入る |
| 総合課税 | 累進税率−配当控除 | 可 | 不可 | 入る |
株の譲渡損失がある年は申告分離課税、所得が低い年は総合課税を候補にし、申告不要とした場合の税と保険料の合計負担と比べて決めます。
国内株式の配当控除と総合課税を比較する課税所得695万円未満の目安
国税庁No.1250によると、課税総所得金額等が1,000万円以下なら、国内株式の配当の配当控除は所得税で原則10%です。証券投資信託の分配金は種類により10%、5%、2.5%などに分かれ、対象外となるものもあります。住民税の配当控除は合計2.8%です。国内株式の配当にかかる実質税率は次のようになります。
- 配当を含む課税所得330万円未満(所得税率5%または10%):配当部分の所得税は配当控除で相殺され、住民税の目安は10%−2.8%=7.2%
- 配当を含む課税所得330万円以上695万円未満(同20%):配当部分がこの税率帯に収まる場合、所得税と復興特別所得税10.21%+住民税7.2%=約17.4%
- 配当を含む課税所得695万円以上900万円未満(同23%):配当部分がこの税率帯に収まる場合、13.27%+7.2%=約20.5%で、20.315%を上回る
配当を含む課税所得が695万円未満なら、配当控除の対象となる国内株式の配当は総合課税が有利になる目安です。ただし配当が合計所得金額に入るため、国保加入者は保険料の増加分と比べてから決めてください。外国法人の配当(米国株・米国ETF)と、REITなど投資法人の分配金は配当控除の対象外です。方式ごとの税額計算は総合課税とは?対象の8所得と税額の計算手順、配当で選ぶ分岐点【令和8年分】で比較しています。
米国株・米国ETFの配当と外国税額控除
特定口座で受け取る米国株の配当は、米国で10%が源泉徴収された後、国内で20.315%が課税されます。この二重課税は、確定申告で外国税額控除(国税庁No.1240)を受ければ、控除限度額の範囲で取り戻せます。控除を受けるには配当を申告し(総合課税か申告分離課税)、「外国税額控除に関する明細書」を添付します。限度額を超えた外国税は翌年以後3年間繰り越せますが、使えるのはその後の年に控除限度額の余裕が生じ、明細書を添付して申告した場合に限られます。NISA口座で受け取った配当の外国税は対象外です。
株の譲渡損失を3年繰り越す毎年の申告とゼロ申告のやり方
上場株式等の譲渡損失は、同じ年の上場株式等の配当(申告分離課税を選んだもの)と通算でき、それでも残った損失は翌年以後3年間繰り越せます(国税庁No.1474、措法37条の12の2)。条件は、損失が出た年に付表と計算明細書を添付して申告し、その後も繰越控除を受けるまで毎年連続して申告することです。No.1474は「上場株式等の譲渡がなかった年も」申告が必要だと明記しています。
取引の無い年に出す、いわゆるゼロ申告の手順は次のとおりです。
- 前年の申告書の控えから、付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」の翌年へ繰り越す損失額を確認する
- 確定申告書等作成コーナーで「株式等の譲渡所得等」を選び、その年の取引は0のまま、前年から繰り越した損失額を入力する
- 作成コーナーで作成された申告書第一表・第二表と繰越用の付表を提出する。第三表なども作成された場合は併せて提出する(給与や年金の申告もある人は同じ申告書にまとめる)
繰り越した損失は上場株式等の利益にしか使えず、未上場株などの一般株式等の利益からは控除できません。NISA口座の損失も対象外です。申告を忘れた年がある場合は、期限後申告で要件を満たせるか税務署に確認してください。他の所得区分との通算の順序は損益通算とは?対象の4所得と順序・計算例、第四表の書き方をわかりやすく解説で解説しています。
個人投資家が差し引ける費用の範囲:取得費・手数料・借入金の利子
株式を譲渡所得として申告する投資家が売却代金から差し引けるのは、取得費と、売却の委託手数料などの譲渡費用です(国税庁No.1463)。これに加えて、措法37条の10第6項3号により、その年に売却した株式を取得するための借入金の利子のうち、その年の所有期間に対応する金額も差し引けます。
投資の勉強に買った書籍、パソコン、セミナー代は、この範囲に入りません。経費の幅が広がるのは、株式の売買が事業所得や雑所得に当たる場合と、FX・暗号資産・クラウドファンディングのように雑所得などとして申告する場合で、その所得を得るために直接必要だった費用を、投資に使った割合で按分した部分だけ差し引けます。
確定申告の期限・必要書類とe-Taxでの入力順
令和8年分の確定申告書は令和9年2月16日(火)から受け付けられ、申告期限と納付期限は3月15日(月)です。還付申告だけなら、2月16日より前の1月から提出できます。手元に用意する書類は次のとおりです。
- 特定口座:証券会社が翌年1月頃に交付する特定口座年間取引報告書
- 一般口座:売買ごとの取引報告書と、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
- 配当・分配金:上場株式配当等の支払通知書、外国税額控除を受けるなら外国税の額がわかる書類
- クラウドファンディング:事業者の年間取引報告書(分配金と源泉徴収税額)
- 損失の繰越:前年の付表
確定申告書等作成コーナーでは、給与などの入力とは別に「株式等の譲渡所得等」の画面で、年間取引報告書の金額を口座ごとに入力します。マイナポータル連携に対応した証券会社なら、年間取引報告書のデータを自動で取り込めます。スマートフォンでの手順はe-Taxのスマホ対応機種一覧はどこ?Android・iPhoneの条件と確定申告のやり方【2026年10月】を参照してください。
申告漏れ・期限超過で課される無申告加算税と延滞税
申告義務があるのに期限までに申告しなかった場合は、原則として無申告加算税が課され、納付が遅れた税額には延滞税もかかります。ただし、一定の要件を満たす期限後申告では無申告加算税が課されない場合があります。無申告加算税の税率は申告のタイミングで変わります(国税庁No.2024)。
| 申告のタイミング | 納付税額の50万円以下の部分 | 50万円超300万円以下の部分 | 300万円超の部分 |
|---|---|---|---|
| 調査の事前通知前に自主申告 | 5% | 5% | 5% |
| 事前通知後・決定の予知前 | 10% | 15% | 25% |
| 決定の予知後の申告・税務署の決定 | 15% | 20% | 30% |
延滞税の割合は暦年ごとに決まり、令和8年中の期間は納期限の翌日から2か月以内が年2.8%、2か月を過ぎると年9.1%です。ただし、令和8年分所得税の納期限は令和9年にあるため、その納付遅延には令和9年以後の各年の割合を使います。FX・暗号資産は原則として源泉徴収されません。匿名組合型の貸付型クラウドファンディングでは分配時に源泉徴収されますが、それだけで納税が完結するわけではないため、申告要否の確認が必要です。申告していない年に気づいたら、事前通知が来る前に期限後申告をすれば加算税は5%で済みます。計算方法は延滞税の計算方法|令和8年は年2.8%と9.1%、起算日と1,000円未満切捨てで、加算税と延滞税の合計額の試算は追徴課税とは?加算税・延滞税の税率と本税50万円の計算例【令和8年】で扱っています。
よくある質問
株で20万円儲けたら確定申告は必要ですか?
口座によります。源泉徴収ありの特定口座での利益なら、原則として申告不要を選べます。源泉徴収なしの特定口座や一般口座での利益で、年末調整を受けている会社員(給与収入2,000万円以下)なら、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円を超えたら申告が必要です。ちょうど20万円なら「20万円以下」に当たり、所得税の申告は不要ですが、住民税の申告は別に必要です。
専業投資家で源泉徴収ありの特定口座だけなら確定申告は不要ですか?
原則として不要です。源泉徴収ありの特定口座の譲渡益と申告不要の配当は所得の合計に入らないため、利益の額にかかわらず申告義務はありません(基準所得金額3億3,000万円超の特例の対象者を除く)。ただし申告すると基礎控除104万円の分だけ所得税が戻ることがあり、国保加入者は保険料の増加と比べて決めます。横浜市の料率と軽減基準による単身・40歳未満の試算では、利益がおよそ168万円を超えると申告で損になり、それ以下でも住民税の均等割などを含めると差は縮みます。住所地の料率で計算してから決めてください。
NISAの損失は特定口座の利益と損益通算できますか?
できません。国税庁No.1535は、NISA口座内の売却損は「ないものとみなされ」るとしており、特定口座・一般口座の利益や配当との損益通算も、翌年以後への繰越控除もできません。NISAで含み損が出ている銘柄を売っても、課税口座の税金は減りません。
投資の利益で扶養から外れることはありますか?
あります。令和8年分は合計所得金額62万円を超えると、配偶者控除・扶養控除の対象から外れます。一般口座・源泉徴収なしの特定口座・FX・暗号資産の利益は合計所得に入ります。源泉徴収ありの特定口座の利益は、申告しなければ入りませんが、損益通算などのために申告すると入ります。
FXや暗号資産の利益も20万円ルールの対象ですか?
対象です。FX・CFDは申告分離課税、暗号資産は令和8年分は原則として総合課税と課税方式は違いますが、どちらも給与・退職所得以外の所得として20万円の判定に入ります。FXの利益15万円と暗号資産の利益8万円なら合計23万円で、確定申告が必要です。