システム開発会社の事業計画書では、経営者の経験や事業内容に加えて、「誰から、いくらの仕事を、いつ入金される条件で受けるのか」と「その入金で返済できるのか」が数字で問われます。この記事では、日本政策金融公庫が公開している創業計画書の記入例(ソフトウェア開発業)の数字を読み解き、受託開発とSESのそれぞれで売上・経費・運転資金をどう組むかを設例で示します。SaaSなど自社サービスの計画はSaaS開発の事業計画書の書き方で扱っています。
まとめ:システム開発会社の事業計画書で押さえる要点
- 公庫の記入例(ソフトウェア開発業)は、売上を「300万円/件×1件/月(受注契約書あり)」、原価を外注費30%で組んでいます。契約済みの受注は契約書などを添え、未受注分は営業先・商談状況・見積もりで売上の根拠を説明する構成にします。
- 記入例の月の利益12万円は、2本の借入の元金返済(6万円×2本=12万円)と同額です。利益と返済元金を並べて、返済できるかを確かめる構成になっています。
- 受託開発は「受注単価×件数」、SESは「人月単価×稼働人数」で売上を組みます。SESは人件費が固定なので、1人待機すると利益が単価分だけ減ります。損益分岐の稼働人数を計画書に書きます。
- 運転資金は、作業開始から入金までの月数と、給与・外注費の支払日の差で決まります。記入例は「開発に最短3か月かかる」として、つなぎ資金を920万円見込んでいます。
- SESで客先の指揮命令を受けると偽装請負になります。外注先や自社の受注条件には取適法・フリーランス法の60日ルールが関わるので、取引条件として計画書に書いておきます。
公庫の記入例「ソフトウェア開発業」に書かれている数字
日本政策金融公庫の各種書式ダウンロードページには、業種別の創業計画書の記入例9件が掲載されています。システム開発会社が参照できるのは創業計画書(記入例)(ソフトウェア開発業)です。想定されているのは、ソフトウェア会社に約20年勤めた代表者が、元勤務先からの業務請負を軸に介護・医療施設向けのシステム開発で法人を作るケースです。
| 項目 | 創業当初(月平均) | 軌道に乗った後 |
|---|---|---|
| 売上高 | 300万円 | 390万円(当初の1.3倍) |
| 売上原価(外注費・原価率30%) | 90万円 | 117万円 |
| 人件費 | 100万円 | 140万円 |
| 家賃 | 20万円 | 20万円 |
| 支払利息 | 3万円 | 3万円 |
| その他(光熱費・消耗品費等) | 75万円 | 95万円 |
| 利益 | 12万円 | 15万円 |
売上の根拠欄には「300万円/件×1件/月=300万円(受注契約書あり)」とあり、受注単価の欄は300万〜1,000万円です。人件費は代表者45万円・役員30万円・従業員25万円の合計100万円で、軌道に乗った後は従業員1人の増員と昇給で40万円増としています。取引先は元勤務先が70%、その販売先だった医療法人が30%で、どちらも末日締め・翌月末回収です。
利益12万円と元金返済12万円の一致と返済財源の確認
記入例の借入は、公庫500万円と他の金融機関500万円で、どちらも「元金6万円×84回」です。毎月の元金返済は合計12万円で、創業当初の利益12万円と一致します。記入例の利益欄には「所得税等の税金や借入金の返済元金はここから支払われます」と注記されています。法人の場合、代表者の生活費は人件費(役員報酬)側に入っているので、利益から出ていくのは税金と元金です。
自社の計画でも、まず利益と返済元金を並べます。記入例の単純差額は創業当初がゼロ、軌道に乗った後が3万円です。厳密には、利益から税金を差し引き、経費に含めた減価償却費を足し戻した額(返済財源)と元金を比べ、入出金の時期の差は資金繰り表で別に確かめます。受注のずれに耐えられるかは手元資金と支払予定にも左右されるため、次の章の運転資金と、待機・失注時の手当てを計画書のどこかで説明しておく必要があります。
運転資金920万円の中身:開発3か月分のつなぎ資金
必要な資金1,610万円のうち、設備資金はパソコン・サーバー等一式500万円、事務機器70万円、備品20万円、保証金100万円の計690万円です。運転資金920万円は外注費270万円と諸経費650万円で、「システム開発に、最短でも3ヵ月かかるため、つなぎ資金が必要」と理由が書かれています。外注費270万円は月90万円の3か月分、諸経費650万円も月の経費198万円の3か月分強に当たります。調達は自己資金610万円と借入1,000万円です。
受託開発とSESで変わる売上の式
公庫の売上高の計算方法は、業種の特性に合わせて4つの算式を示しています。受託開発は記入例のとおり受注単価から組み、SESは労働集約的な業種の算式「従業者1人当たり売上高×従業者数」を人月単位に置き換えます。
| 比較軸 | 受託開発(請負) | SES(準委任) |
|---|---|---|
| 売上の式 | 受注単価×件数 | 人月単価×稼働人数 |
| 売上の根拠書類 | 受注契約書・見積書 | 契約書・注文書 |
| 入金のタイミング | 検収後(分割なら工程ごと) | 毎月(月末締めが多い) |
| 主なリスク | 工数超過・検収遅れ | 待機・単価の据え置き |
| 人件費の性格 | 案件の有無にかかわらず固定 | 案件の有無にかかわらず固定 |
受託開発:受注単価×件数と、検収から入金までの時期
受託開発の売上は、記入例のように「1件あたりの受注単価×月あたりの件数」で組みます。開発期間が3か月の案件を月1件のペースで回すなら、常に3件が並行している計算です。この並行件数をこなせる人員と外注先があるかを、従業員欄と取引先欄で裏付けます。
注意したいのは、売上計上と入金の時期がずれる点です。請負契約では、完成して検収を受けてから請求するのが一般的です。着手金や中間金を取り決めない限り、開発期間中の外注費と人件費はすべて先払いになります。契約に分割払いの定めがあれば、計画書の取引先欄に回収条件として書いておくと、運転資金の見積もりが小さくなる理由を説明できます。
SES:人月単価×稼働人数と、1人待機したときの利益
SESの売上は「人月単価×稼働人数」で決まります。代表者と社員2人の3人で始める会社を設例にします(人月単価70万円、社員給与28万円などは設例の前提値で、相場を示すものではありません)。
| 項目(月) | 3人稼働 | 2人稼働(1人待機) |
|---|---|---|
| 売上高(70万円×人数) | 210万円 | 140万円 |
| 人件費(役員35万+社員28万×2+会社負担分12万) | 103万円 | 103万円 |
| 家賃・通信費・その他 | 25万円 | 25万円 |
| 利益 | 82万円 | 12万円 |
人件費は待機中も払うので、1人の待機で利益は単価と同じ70万円減ります。固定費128万円を単価70万円で割ると約1.83人です。この設例では2人が稼働すれば表に挙げた経費を賄えますが、残る12万円で税金や借入利息、返済元金などを賄えるかは、別途設定する借入条件で確認します。計画書には「稼働率(在籍者のうち稼働している割合)を何%で置いたか」と、その根拠になる契約の期間・更新条件を書きます。創業時点で契約済みの人数と、営業中で未確定の人数を分けて書くと、審査担当者が確度を判断しやすくなります。
エンジニアを社員でなく業務委託で集める場合、案件の稼働分だけを支払う契約なら、その費用は売上原価(外注費)に入り、案件間の待機中には発生しません。代わりに1人当たりの粗利は「単価-外注単価」に縮みます。社員中心か外注中心かで損益の形が変わるので、どちらの前提で組んだかを明記します。人件費の集計範囲は人件費率とは?計算式と業種別の目安が参考になります。
入金サイトから逆算する運転資金
システム開発会社の運転資金は、作業を始めてから入金されるまでの月数と、給与・外注費・家賃を払う日の差で決まります。記入例は人件費の支払を「末日締め・翌月25日支払」、取引先からの回収を「末日締め・翌月末回収」としています。
| パターン | 作業開始から初回入金 | 先に出ていく支出の目安 |
|---|---|---|
| SES・月末締め翌月末回収・給与は翌月25日払い | 約2か月 | 給与1か月分+入金前の家賃等+開業準備費 |
| SES・月末締め翌月末回収・給与は当月25日払い | 約2か月 | 月の経費の約2か月分 |
| 受託・3か月開発・検収月の翌月末回収 | 約4か月 | 月の経費の約3〜4か月分 |
SESの設例で給与を当月払いにすると、月の経費128万円の2か月分=約256万円を、最初の入金までに用意しておく必要があります。受託開発では、記入例のとおり開発期間中の経費をまるごと立て替えます。どちらの場合も、待機や検収遅れが1か月出たときに払えるかまで見ておくと、運転資金の借入額に根拠が付きます。月ごとの入出金の組み方は資金繰り表の作り方で解説しています。
契約形態・取引ルールの計画書への記載事項
受託開発とSESでは、契約の形によって守るべき法律が変わります。審査担当者が業界に詳しいとは限らないので、自社がどの形で受注し、外注先とどう契約するかを、事業内容欄や取引先欄で一文ずつ書いておきます。
SESの指揮命令と偽装請負:37号告示の判断基準
労働者派遣と請負の区分は、昭和61年労働省告示第37号が定めています。請負の形で自社の社員を働かせる事業主でも、業務の遂行方法の指示や評価、始業・終業時刻などの労働時間の管理、服務規律や配置の決定を自ら行わなければ、労働者派遣事業を行う事業主とされます。厚生労働省の疑義応答集(第3集)は、準委任契約によるシステム開発でも、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係があれば、契約の形式を問わず労働者派遣事業に当たるとしています。
派遣業の許可を持たずにSESを始めるなら、「客先に常駐しても作業の指示と勤怠管理は自社のリーダーが行う」体制を事業内容欄に書いておきます。1人だけを常駐させる場合も、常駐人数だけで適否は決まりません。自社が業務上の指示や労務管理を行い、客先から独立して業務を処理する実態が必要です。線引きの具体例は偽装請負とは:4類型と37号告示の判断基準、SESの契約形態はSESとは?契約形態と派遣・SIerの違いにまとめています。
取適法の適用条件と受領後60日以内の支払期日
2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(取適法)は、同日以降に発注された取引に適用されます。公正取引委員会のリーフレットによると、対象取引では、検査をするかどうかを問わず、受領日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める必要があり、手形払いは禁止されています。プログラム作成や情報処理の委託では、従業員300人超の委託事業者から300人以下の事業者への発注が、従業員基準による対象です。
創業間もないシステム開発会社は守られる側に立つことが多い一方、計画書の回収条件を「翌々月末」のような長いサイトで書いていると、取引条件そのものを問われかねません。元請の規模と支払条件を確認し、計画書の回収条件と一致させておきます。対象かどうかの判定は下請法の資本金区分とは?取適法の従業員基準と対象かどうかの判定手順で確認できます。
フリーランスへ再委託するときの取引条件の明示と60日以内払い
個人のエンジニアに開発の一部を外注する場合は、フリーランス・事業者間取引適正化等法(2024年11月1日施行)が関わります。外注先が従業員を使用しない個人など、同法の特定受託事業者に該当する場合は、委託後直ちに給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面かメール等で明示します。従業員を使用する事業者や役員が2人以上いる法人は、原則として給付の受領日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定めます。再委託である旨・元委託者の名称・元委託業務の支払期日を明示した場合は、その支払期日から30日以内とする特例があります。
記入例の外注先は「末日締め・翌月末支払」で、取引先からの回収と同じサイトです。回収より先に外注費を払う契約にすると、その差の分だけ運転資金が増えます。外注比率が高い計画ほど、外注先への支払日を計画書に明記しておく意味があります。
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金と審査で見られる点
創業期のシステム開発会社がまず検討するのは、公庫の新規開業・スタートアップ支援資金です。対象は新たに事業を始める方か事業開始後おおむね7年以内の方で、融資限度額は7,200万円です。返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内で、どちらも据置期間は5年以内です。利用には創業計画書などで事業計画の内容を確認されます。
2024年度の制度拡充で、創業時に創業資金総額の10分の1以上の自己資金を求める要件はなくなりました(公庫の2024年4月1日公表資料)。ただし記入例でも1,610万円のうち610万円を自己資金で賄っており、要件がなくても自己資金の額は返済余力として見られます。公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。これは全業種の数字で、SESと受託開発を分けた金額ではありません。自社の必要資金は、設備費と最初の入金までに出ていく支払額を積み上げて説明します。
元勤務先からの受注:契約締結済みと取引先の集中
記入例の販売戦略欄は「元勤務先からの業務請負(契約締結済)を軸に、並行して営業を行い受注の幅を広げる」です。創業時点で契約がある点は強い裏付けになりますが、売上の70%が1社に集中しています。自社の計画でも、元勤務先からの受注を軸にするなら契約書を添付し、残りの30%をどこから取るのか、営業先の業界と件数を書きます。元勤務先との間に競業避止の取り決めがある場合は、受注が抵触しないことを確認してから書きます。
事業計画の見直し条件:稼働率・単価・取引先集中・売上計上
次のいずれかに当てはまる計画は、審査で売上の根拠を突かれやすくなります。数字を変えるか、根拠の説明を足してから提出します。
- 稼働率100%で全月を組んでいる:SESでは契約の切れ目に待機が出ます。設例のように1人待機で利益が単価分減る構造なら、待機月を織り込んだ年平均で示します。
- 人月単価を前職の請求単価のまま置いている:前職の単価は会社の看板と体制込みの金額です。自社名義で受ける単価は、契約済みの注文書か見積書で示します。
- 1社依存で、その契約期間が書かれていない:記入例でも70%が1社です。契約期間と更新条件、残りの営業先を併記します。
- 受託の売上と入金を同じ月で組んでいる:売上をどの月に計上するかは契約内容と会計処理で決まりますが、入金は回収条件どおり検収後です。売上の計上月と入金月を分けて、運転資金を計算します。
社員を抱えるSESとして事業を組むか、受託開発を中心にするかで、計画の数字は大きく変わります。開発リソースの提供形態を比べたい場合は、当社の開発リソース提供・SESの進め方も参考にしてください。
よくある質問
システム開発会社の事業計画書のテンプレートはありますか?
日本政策金融公庫の書式ダウンロードページに、創業計画書の様式と業種別記入例(ソフトウェア開発業)があります。様式は10欄(創業の動機から自由記述欄まで)で、公庫の様式に代えて自分で作った計画書を出すこともできます。エクセルで収支表を作る手順はエクセルで事業計画書を作成する手順を参照してください。
SESの事業計画書では稼働率を何%で置けばよいですか?
一律の基準はありません。創業時点で契約済みの人数を稼働、未確定の人数を待機として計算し、そのうえで年平均の稼働率を示すのが確実です。設例では、固定費128万円を単価70万円で割った約1.83人が損益分岐で、3人在籍なら稼働率約61%が赤字にならない下限です。
受注が決まっていなくても創業融資は受けられますか?
受注がなくても申し込めますが、売上の根拠が弱くなります。公庫の記入例は「受注契約書あり」を前提に売上を組んでおり、契約書や見積書、引き合いのある取引先名で裏付けるのが基本です。受注がない場合は、営業先のリストと、売上が立つまでの運転資金を厚めに見積もった計画にします。
自己資金はいくら必要ですか?
新規開業・スタートアップ支援資金には、2024年度から自己資金の割合の要件がありません。ただし記入例では必要資金1,610万円に対して自己資金610万円を入れています。自己資金が少ないほど借入と毎月の返済元金が増え、利益で返済できる水準が上がる点に注意します。
システム開発会社は補助金で開発費や人件費を賄えますか?
補助金は対象経費と公募期間が決まっており、採択も確実ではありません。融資の返済計画を補助金の入金前提で組むのは避け、採択されたら上乗せになる形で書きます。開発会社が使える制度の一覧はシステム開発で使える補助金一覧にまとめています。