翻訳業の事業計画書は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入欄に沿って書くと、融資面談で聞かれる項目を漏れなく押さえられます。難所は売上の根拠と資金繰りです。翻訳は文字数で料金が決まるため、単価と処理量を掛け算すれば売上は出せます。日本国内の個人翻訳者が源泉徴収義務者から翻訳料を受け取る場合は、源泉徴収によって入金額が減ります。受取人が法人の場合や、支払者に源泉徴収義務がない場合は扱いが異なります。この点を落とした収支計画は、開業後に資金が足りなくなります。
この記事では、フリーランス翻訳者として独立する場合と、翻訳者に外注する翻訳会社を立ち上げる場合に分けて、記入例と収支の設例を示します。インボイス経過措置の令和8年度改正やフリーランス法など、外注体制を組むときに計画書へ書いておくべき制度も整理します。
まとめ:翻訳業の事業計画書で押さえる要点
- 公庫に融資を申し込むなら、創業計画書(記入欄1〜10)に沿うのが最短です。様式には、自分で作った計画書を代わりに出してよいと明記されています。
- 売上は「単価×1日の処理量×稼働日数」で積み上げます。単価は和訳なら原文1ワード、英訳なら原文1文字が一般的な課金単位なので、計画書でも単位を明記します。
- 翻訳の報酬は所得税法施行令320条で源泉徴収の対象です。国内の個人翻訳者が法人の取引先から受け取る場合は、源泉徴収対象額の10.21%(1回100万円超の部分は20.42%)が差し引かれるため、資金繰り表では入金額を税引き後で置きます。
- 翻訳会社を作って免税事業者の翻訳者に外注する場合、2026年10月から仕入税額控除の経過措置が80%から70%に下がっています。一般課税で計算する会社では、外注費に含まれる消費税相当額の3割が控除できず、原価が上がります。簡易課税や2割・3割特例で納付税額を計算する事業者は、仕入税額を実額で積み上げないため、この影響を受けません。
- フリーランス法の対象となる翻訳者への発注では、3条に基づき取引条件を明示します。従業員を使用する発注者などには、原則として受領日から60日以内のできる限り短い期間に支払期日を定める義務があります(4条)。
- AI翻訳の普及は「単価が下がる」とだけ書かず、機械翻訳の出力を人が修正するポストエディットを別メニューにして、単価と品質の区分を計画書に書き分けます。
翻訳業の事業計画書と提出先別の様式
中小機構のJ-Net21が「翻訳業を開業するにあたって法的には資格、手続きなどは必要としない」と説明しているとおり、翻訳業は許認可なしで始められます。事業計画書を求めるのは主に資金の出し手です。個人で独立する翻訳者や小規模な翻訳会社の第一候補は、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金です。新たに事業を始める人と事業開始後おおむね7年以内の人が対象で、融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内と定められています。
公庫は申込時に創業計画書の提出を求めています。各種書式ダウンロードページで配布されている様式には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」とあり、経験や事業内容の詳細が分かる資料の併せ提出も認められています。様式の欄を埋めたうえで、取引先候補の一覧や過去の訳例の一覧を別紙で付けるのが現実的です。
補助金の申請書や、スライド形式で説明する場面では形式が変わります。提出先別の形式の違いは事業計画書をパワーポイント(パワポ)で作る方法|スライド構成例と提出先別の注意点で整理しています。
公庫の創業計画書を翻訳業で埋める記入例
様式の記入欄は10項目です。翻訳業で中身が薄くなりやすいのは2・3・5・9の欄です。
| 記入欄 | 翻訳業で書く中身 |
|---|---|
| 1 創業の動機 | 専門分野と、独立で解決する顧客の不便 |
| 2 経営者の略歴等 | 分野・言語ペア・年間の処理量・使用ツール |
| 3 取扱商品・サービス | 翻訳・チェック・ポストエディットの単価と売上シェア |
| 4 従業員 | 3か月以上継続雇用する予定の人数 |
| 5 取引先・取引関係等 | 販売先(翻訳会社・直接顧客)、外注先、回収条件 |
| 6 関連企業 | 経営中の企業があれば記入 |
| 7 お借入の状況 | 住宅・車・カードなどの残高 |
| 8 必要な資金と調達方法 | PC・CATツール・運転資金と調達先 |
| 9 事業の見通し(月平均) | 売上・外注費・経費・利益 |
| 10 自由記述欄 | 訳例の実績、品質管理の手順 |
創業の動機と経営者の略歴:専門分野と処理量の記入例
公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業者のうち現在の事業に関連する仕事の経験(斯業経験)がある人は81.1%、経験年数の平均は15.3年でした。審査担当者は、経験が売上に結びつく筋道を見ています。略歴欄は勤務先名だけでなく、担当業務と身につけた技能を書くよう様式に注記があります。
翻訳業なら「医療機器メーカーの社内翻訳者として7年、英日の取扱説明書と添付文書を年間約40万ワード担当」のように、分野・言語ペア・処理量を数字で示します。動機欄は「語学が得意だから」ではなく、「社内では外注していた規制文書の翻訳を、薬機法の用語に通じた立場で直接受ける」といった、顧客の不便と自分の経験を結びつけた書き方にします。
取扱サービスと取引先:課金単位と回収条件の記載
取扱商品・サービス欄には、サービスを最大3つと売上シェア、客単価を書く枠があります。翻訳業では「英日翻訳(原文1ワード○円)」「日英翻訳(原文1文字○円)」「機械翻訳のポストエディット(同○円)」のように、課金単位をそろえて書くと、後の売上計算と矛盾しません。
取引先欄には販売先ごとの掛取引の割合と回収条件(「末日〆翌末日回収」など)を書きます。翻訳会社経由の受注が月末締め翌月末払いの条件なら、月初に納品した分の入金は約2か月後です。この空白期間を前提に運転資金を見積もります。個人の翻訳者として国内法人から受注する場合は、入金額を源泉徴収後で見積もります。法人として受注する翻訳料は、この源泉徴収の対象ではありません。
必要資金と調達方法:見積書に基づく金額の算定
翻訳業は店舗も在庫も要らないため、設備資金はPC・モニター・CATツール(翻訳支援ツール)のライセンスが中心で、資金の大半は運転資金になります。様式の設備資金の行には見積先を書く枠があるので、ツールの見積書や購入予定画面の金額と一致させます。融資を申し込む運転資金は、入金までに必要な外注費や通信費など、事業上の支出から見積もります。個人の生活費は事業資金と分け、自己資金などで確保する資金として別途計算します。
公庫の同調査では、開業費用は平均975万円・中央値600万円で、「250万円未満」と「250万〜500万円未満」で4割以上を占めました。この調査は公庫の融資先を対象とした複数業種の集計で、翻訳者だけの開業費用を示すものではありません。自宅開業では店舗取得費などの不要な項目を除き、自分の必要額を算定します。借りられる上限ではなく、必要額を積み上げて書きます。記入欄ごとの詳しい書き方はパーソナルジムの事業計画書の書き方|公庫の創業計画書の記入例と会員数から組む収支計画【2026年版】でも業種別に解説しています。
文字単価から組む売上計画と収支の設例
事業の見通し欄は、創業当初と軌道に乗った後(○年○月頃)の2時点で、売上・原価・経費・利益を月平均で書きます。翻訳業の売上は「単価×1日の処理量×稼働日数」で積み上げられます。以下の数値は計画書の組み立て方を示す設例で、相場の提示ではありません。単価は自分の直近の受注実績から置きます。
フリーランス翻訳者の設例:源泉徴収後の入金額
英日翻訳を専門とする個人の翻訳者が、原文1ワード12円、1日2,000ワード、月18日稼働で計画する例です。国内法人1社が月額報酬を一括で支払い、請求書では報酬と消費税を明確に区分する前提です。
| 項目 | 月額 | 計算 |
|---|---|---|
| 売上(請求額・税抜) | 432,000円 | 12円×2,000ワード×18日 |
| 源泉徴収額 | 44,107円 | 432,000円×10.21% |
| 入金額(税抜部分) | 387,893円 | 売上−源泉徴収額 |
| 経費 | 60,000円 | ツール・通信・資料・保険など |
| 経費控除後の参考額 | 327,893円 | 生活費・税金・借入返済等の支払前 |
源泉徴収された税額は確定申告で精算されるので、損益上の費用ではありません。ただし入金は確実に減るため、資金繰りでは入金額で計算します。国税庁のタックスアンサーNo.2795では、請求書で報酬と消費税等の額を明確に区分していれば、報酬の額だけを源泉徴収の対象にしてよいとされています。請求書は税抜金額と消費税を分けて書きます。
月18日の稼働を初月から見込むのは楽観的です。創業当初の欄は、既に取引の約束がある翻訳会社からの受注量で置き、軌道に乗った後の欄で稼働日を増やします。1日の処理量は、分野の難度とチェックにかける時間で大きく変わるため、勤務時代の実績から置いた根拠を自由記述欄に書きます。
翻訳会社の設例:外注費率と粗利の計算
顧客から受注し、登録翻訳者に外注して社内でチェックする翻訳会社では、売上から翻訳者への外注費を引いた粗利が事業の中心です。J-Net21「翻訳業」(2020年掲載)は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」による翻訳業の粗利益率として42.9%を挙げています(原典の年版は示されていません)。次の表の粗利率45%は、この水準を参考に顧客単価と外注単価を仮定した設例です。
| 項目 | 月額 | 前提 |
|---|---|---|
| 売上 | 3,000,000円 | 顧客単価×受注量 |
| 外注費 | 1,650,000円 | 売上の55%を翻訳者へ |
| 粗利 | 1,350,000円 | 粗利率45% |
| 人件費 | 700,000円 | 代表とコーディネーター1名 |
| その他経費 | 250,000円 | ツール・家賃・通信・営業 |
| 営業利益 | 400,000円 | 借入の元金返済の原資 |
外注費率は、顧客への単価と翻訳者への支払単価の差で決まります。計画書では「分野Aは顧客単価○円・翻訳者単価○円」のように分野別に書くと、粗利率の根拠になります。社内チェックにかかる人件費は外注費とは別に置き、チェックを省いて粗利を高く見せる計画は避けます。品質事故が起きたときの再翻訳費用は、そのまま利益を削るためです。
翻訳業の収支計画で見落としやすい税と取引のルール
次の3つは、翻訳業に固有の取引の形から生じ、計画書の数字を直接動かすルールです。
翻訳料の源泉徴収:受注者の入金額と発注者の納付事務
所得税法204条1項1号は、原稿料などの報酬を個人に支払う者に源泉徴収を義務づけています。その対象を定める所得税法施行令320条1項には「脚本、脚色、翻訳、通訳、校正」が列挙されており、翻訳の報酬はこれに当たります。税率は1回の支払額100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です。
個人の翻訳者は、取引先が法人や、従業員に給与を払っている個人事業主なら、源泉徴収後の金額を受け取ります。翻訳会社の側では立場が逆になり、個人の翻訳者に外注費を払うときに源泉徴収して、原則として翌月10日までに納付する事務が発生します。外注先が増える場合は、毎月の源泉徴収額の計算・納付と、年間の支払額を集計する支払調書の作成・提出を分けて担当工数を見積もります。公庫の創業計画書では「10 自由記述欄」や別紙に、誰がどの仕組みで処理するかを書いておきます。
源泉徴収は、支払を受けるのが個人である場合の制度です。翻訳者が法人化すると、取引先は源泉徴収をしなくなり、請求額がそのまま入金されます。
インボイス経過措置の縮小:一般課税での外注費への影響
以下は、翻訳会社が一般課税で消費税を計算し、少額特例などが適用されない場合の説明です。インボイス未登録の免税事業者への外注は、原則として仕入税額控除の対象外となります。経過措置として一定割合の控除が認められてきましたが、国税庁の令和8年度改正のリーフレットのとおり、2026年10月1日から控除割合は80%から70%に下がり、2028年10月から50%、2030年10月から30%と段階的に縮小します。
先の翻訳会社の設例で、外注費のうち月82.5万円(税込)が免税事業者への支払だとします。含まれる消費税相当額は7.5万円で、70%控除なら控除できない額は月2.25万円、年27万円です。計画書では、外注先のうち登録事業者の比率と、免税事業者に支払う単価の考え方(据え置くか、交渉するか)を書いておくと、原価の見通しに説明がつきます。
個人の翻訳者の側では、インボイス登録で課税事業者になった人向けの2割特例が令和8年分で終わり、令和9年分と10年分は納付税額を売上に係る消費税の3割とする3割特例に移ります。3割特例は個人事業者だけが使え、法人は対象外です。売上1,000万円を超えたときの扱いは個人事業主が売上1000万円を超えたら消費税はいくら?納税開始は2年後・2割特例は令和8年分までで解説しています。
フリーランス法:外注体制の計画に書く義務
翻訳会社が個人の翻訳者に外注する取引は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)の対象になりえます。3条は、業務委託をしたら直ちに給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示するよう求めています。4条は、従業員を使用する発注者などに対し、原則として受領日から60日以内のできる限り短い期間に支払期日を定めるよう求めています。再委託である旨、元委託者名、元委託業務の支払期日を明示した場合は、その支払期日から30日以内のできる限り短い期間とする例外があります。
顧客からの入金が月末締め翌々月払いなのに、翻訳者への支払を60日以内に行うと、その差の期間は会社が立て替えます。運転資金は、顧客別の入金予定日と外注先別の支払予定日を並べ、手元資金が最も少なくなる時点の不足額から見積もります。開業時に用意する発注書の様式と支払サイクルは、公庫の創業計画書の「10 自由記述欄」や別紙に記載します。発注者側の義務の全体はフリーランス法とは?発注者の義務と2026年取適法施行後のシステム対応を解説で整理しています。
AI翻訳を前提としたサービス設計と利用条件
AI翻訳との競合を説明する場合は、受注予定の文書について、人が担う工程とその対価を計画書に示します。「人間ならではの品質」という評価語だけでは説明になりません。単価と工程を分けて書きます。
ポストエディットの単価・処理量・品質水準
機械翻訳の出力を人が修正する作業は、ポストエディット(MTPE)と呼ばれます。2017年に発行された国際規格ISO 18587は、機械翻訳出力を人が完全にポストエディットする工程と、ポストエディターに求める能力を対象にしています。一方、翻訳サービスの規格であるISO 17100(国内規格はJIS Y 17100:2021)は、規格の適用範囲で「機械翻訳出力とポストエディットの組合せは、この規格の適用範囲外である」と定めています。翻訳の品質を示す根拠と、ポストエディットの品質を示す根拠は別物です。
計画書では、通常の翻訳とポストエディットを別のサービスとして取扱サービス欄に並べ、それぞれの単価、1日の処理量、どの品質水準まで修正するかを書き分けます。処理量が増える分だけ単価が下がっても、1時間あたりの売上が維持できるかを数字で示せば、AIの普及を前提にした計画になります。
一方で、法務・医薬の規制文書や、広告・ゲームのように文体と文化的な置き換えが品質を決める分野は、機械翻訳の出力をそのまま使いにくく、人の翻訳とチェックの比重が残ります。どちらの分野を主力にするかで、計画の単価の置き方が変わります。機械翻訳の仕組みと業務での使いどころはAI翻訳とは?仕組み・従来の機械翻訳との違いと業務導入の判断基準【2026年版】を参照してください。
顧客原稿のAI入力に関する契約条件と承認手順
顧客の原稿を機械翻訳サービスに入力すると、そのサービスの規約によっては入力データが保存されたり、学習に使われたりします。機密保持契約で外部サービスの利用を禁じている顧客もあります。計画書には、利用サービスとプラン名、入力内容の保存期間・学習利用の条件、顧客の利用承認手順を書きます。たとえばDeepLの個人情報保護方針は、無料サービスでは入力テキストをニューラルネットワークの訓練と性能向上のために一定期間保存するとし、DeepL翻訳 ProやDeepL API Proでは送信テキストを永続的に保存せず、サービスの向上にも使わないと書き分けています。同じサービス名でも、無料版と有料版でデータの扱いが逆になる例です。外部サービスへの入力が契約で禁じられている原稿は、顧客の許可なく入力しません。品質と並んで、法人顧客が発注先を選ぶ条件になるためです。
品質管理と案件管理の体制・記載事項
翻訳者とチェック担当者の分担・品質管理工程
JIS Y 17100は、翻訳サービス提供者に対し、コアプロセスの管理、資格に関する最低限の要求事項、資源の可用性と管理などを求める規格です。開業時点で認証を取る必要はありませんが、品質管理の項目を考える枠組みとして使えます。公庫の創業計画書の「10 自由記述欄」や別紙には、少なくとも次の3点を書きます。
- 工程:翻訳した人とは別の人が訳文をチェックする手順と、用語集・スタイルガイドの管理方法
- 翻訳者の選定基準:分野ごとの経験年数、トライアルの合否基準、登録時に確認する書類
- 事故への備え:誤訳や納期遅延が起きたときの再翻訳の手順と、契約で定める責任の範囲
契約書は、日本翻訳連盟がお役立ち情報の欄で翻訳基本契約のひな型を公開しているので、顧客向けと翻訳者向けの両方を開業前にそろえておきます。
案件・売上管理の仕組み:単価・源泉徴収・入出金の照合
翻訳業の売上管理では、案件IDを軸に原文の文字数(ワード数)、顧客単価、納期、請求日、入金日を管理します。外注は支払先ごとに単価・報酬額・源泉徴収額・支払日を記録し、同じ案件IDで照合します。表計算ソフトで始めても構いませんが、外注先が増えると、翻訳者ごとの源泉徴収と支払調書、顧客ごとの請求と入金の照合が手作業では追いつかなくなります。別紙の中期計画で外注先を増やす場合は、増加時点の案件数や支払先数に応じた管理方法も書いておきます。公庫の創業計画書に「3年目以降」という専用欄はありません。既製の販売管理ソフトで案件単位の文字数単価や源泉徴収を扱いにくい場合は、販売管理システム開発で翻訳業の取引に合わせた管理を組む方法もあります。
翻訳市場データの出典と計画書への記載範囲
旧来の解説記事には「国内翻訳市場は約○○億円」と書かれていることがありますが、翻訳市場だけを毎年公開している一次統計はほぼありません。矢野経済研究所の語学ビジネス市場に関する調査(2026年10月8日公表)は、2025年度の語学ビジネス市場(主要13分野合計)を前年度比0.3%増の7,933億1,000万円と推計しました。ただし通訳・翻訳ビジネス市場の個別の金額は公開本文になく、「前年度を下回る結果となった」とだけ書かれています。日本翻訳連盟の業界調査も、最新の2024年度版は回答者と会員向けの公開です。
出典を示せない市場規模を書くより、狙う分野の需要を一次統計で示す方が審査では説得力があります。医薬なら治験や承認申請の件数、特許翻訳なら外国への出願件数、インバウンド向けなら訪日外客数のように、自分が受ける文書の発生源の統計を引き、その中で取れる件数を見積もります。
料金水準を示すときは、日本翻訳連盟が公表する翻訳料金(クライアント企業の翻訳発注価格)の目安(税別)が使えます。たとえばコンピューターマニュアルは英日が原文1ワード28円、日英が和文1文字20円、医学・医療・薬学は英日35円・日英30円です。ただし調査年の表示はなく、翻訳会社に初めて依頼する場合の目安なので、翻訳者が受け取る単価とは別物です。
個人の翻訳者から翻訳会社へ移る判断
法人化を検討するときは、売上ではなく所得と税負担で判断します。翻訳業に固有の論点は2つあります。1つは先に述べたとおり、法人になると取引先が源泉徴収をしなくなり、入金額が増えることです。もう1つは、消費税の3割特例が個人事業者だけの制度で、法人では使えないことです。インボイス登録をして3割特例で納税している翻訳者が令和9年や10年に法人化すると、法人では本則課税か簡易課税で計算することになり、納税額が増える場合があります。
外注先を抱える翻訳会社になるかどうかは、法人化とは別の判断です。自分の翻訳量を超える受注があり、チェックとコーディネートに時間を割いても粗利が残るかを、翻訳会社の設例と同じ外注費率の計算で試算してから計画書に書きます。
よくある質問
翻訳業を始めるのに資格や許認可は必要ですか?
許認可は不要です。個人で始める場合は税務署に開業届を出します。開業届の提出期限は所得税法229条の改正で、令和8年1月1日以後は事業を始めた年分の確定申告期限までになりました。青色申告の承認申請期限は、1月1日から15日までの開業ならその年の3月15日、1月16日以降の開業なら開業日から2か月以内です。
公庫の創業計画書は自分で作った計画書でもよいですか?
使えます。公庫の様式に、自身で作成した計画書を代わりに提出してよいと書かれています。様式の10の欄に当たる内容が含まれているか確認してから出します。
翻訳料から源泉徴収されるのはどんなときですか?
支払者が法人や個人事業主などの源泉徴収義務者で、受け取る側が個人のときです。税率は10.21%で、1回100万円を超える部分は20.42%です。翻訳者が法人なら源泉徴収はされません。
事業計画書の売上はどう計算すればよいですか?
「単価×1日の処理量×稼働日数」で積み上げます。単価と処理量は勤務時代や副業での実績から置き、創業当初は既に約束のある受注量で、軌道に乗った後は稼働日を増やした値で書きます。
免税事業者の翻訳者に外注すると何が変わりますか?
発注側が一般課税で、少額特例などが適用されず、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置を利用する場合の説明です。2026年10月1日から2028年9月30日までは70%の控除にとどまり、控除できない3割が原価になります。