中古車販売業の事業計画書は、日本政策金融公庫(以下、公庫)の創業計画書の欄に沿って書けば形は整います。審査で差がつくのは中身の数字です。公庫は中古自動車販売業の記入例を公開しており、そこでは平均単価60万円の車を月5台売り、原価率75%、必要資金1,120万円という計画が示されています。
この記事では、その記入例と公庫の経営指標を手がかりに、売上・原価率・在庫に必要な資金の置き方を説明します。古物商許可、中古車の価格表示ルール、消費税とリサイクル預託金の扱いなど、中古車販売ならではの論点も扱います。
まとめ:中古車販売業の事業計画書で押さえる要点
- 様式は公庫の創業計画書(記入欄1〜10)を使うのが早道です。公庫の中古自動車販売業の記入例が業種の見本になります。
- 売上は「平均単価×月間販売台数+部品などの付帯売上」で組み、台数の根拠(固定客・仕入ルート・掲載媒体)を書きます。
- 粗利率は公庫の経営指標で中古自動車小売業の売上高総利益率が平均25.4%・中央値23.5%です。これより高い粗利を置くなら、理由を書きます。
- 月5台の計画なら損益分岐は約4台です。ただし利益から借入の元金返済と生活費を払うため、生活費まで賄える台数で検算します。
- 運転資金の中心は在庫です。「持ちたい在庫台数×平均仕入額」で商品仕入資金を置きます。
- 古物商許可の申請手数料は19,000円です。融資申込時には許認可の取得状況と今後の予定を説明し、営業開始までに許可を取得します。
- 自動車公正競争規約の参加事業者には支払総額表示が求められ、納車整備費用などの商品化費用は車両価格に含めます。
- 古物商が適格請求書発行事業者でない者から販売用の中古車を買い受ける場合は、古物商特例により、一定事項を記載した帳簿の保存で仕入税額控除を受けられます。
公庫の創業計画書と中古自動車販売業の記入例
公庫の創業計画書は、1 創業の動機、2 経営者の略歴等、3 取扱商品・サービス、4 従業員、5 取引先・取引関係等、6 関連企業、7 お借入の状況、8 必要な資金と調達方法、9 事業の見通し(月平均)、10 自由記述欄の10欄で構成されています。様式と業種別の記入例は公庫の各種書式ダウンロードページにあります。様式の冒頭には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」とあり、独自の事業計画書でも構いません。ただし欄の項目は審査で聞かれる内容そのものなので、独自様式でもこの10項目は漏らさないようにします。
公庫記入例の売上・経費・必要資金
公庫の中古自動車販売業の記入例(令和7年4月版)は、自動車販売会社に7年、中古自動車販売会社に5年勤めた二級自動車整備士が、国道沿いの事務所付き土地で独立する設定です。数字を抜き出すと次のとおりです。
| 項目 | 創業当初(月) | 1年後(月) |
|---|---|---|
| 売上高 | 320万円 | 450万円 |
| うち中古車 | 60万円×5台=300万円 | 60万円×7台=420万円 |
| うち部品等 | 20万円 | 30万円 |
| 売上原価(原価率75%) | 240万円 | 338万円 |
| 人件費 | 8万円(専従者の妻) | 18万円(アルバイト1人増) |
| 家賃 | 20万円 | 20万円 |
| 支払利息 | 2万円 | 2万円 |
| その他経費 | 25万円 | 32万円 |
| 利益 | 25万円 | 40万円 |
必要資金は合計1,120万円です。設備資金500万円の内訳は事務所内外装工事(看板含む)200万円、車両1台150万円、その他備品50万円、保証金100万円。運転資金620万円のうち500万円が商品仕入です。調達は自己資金420万円、公庫500万円、信用金庫200万円となっています。
必要資金1,120万円のうち運転資金620万円が約55%を占め、その大部分が商品仕入(500万円・全体の約45%)です。店舗にかける設備資金より、何台分の在庫を持つかで必要資金が決まります。
創業の動機・略歴・取扱商品に書く中身
記入例の創業の動機は「長年の勤務で固定客と仕入ルートを作ってきた」「条件の良い物件が見つかった」という、今独立する理由を具体的に書いています。略歴は勤務先名だけでなく、販売と整備のどちらを担当したか、整備士資格の有無まで書きます。公庫の2025年度新規開業実態調査では、調査回答者の81.1%が現在の事業に関連する仕事の経験(斯業経験)を持っています。この調査は公庫の融資先を対象としており、中古車販売業だけの集計ではありません。業界未経験で申し込む場合は、経験の不足をどう補うか(経験者の採用、整備の外注先)を書いておくと審査の質問に答えやすくなります。
取扱商品の欄には、売上シェア(記入例は中古自動車94%)と、扱う車の価格帯・車種を書きます。記入例の「走行距離が短く状態の良い車」「若年層向けにワンボックスタイプを揃える」のように、仕入の強みと販売ターゲットを結びつけると、売上計画の台数に説得力が出ます。集客は店頭展示と中古車情報サイトへの掲載が基本で、掲載費用はその他経費に入れます。
「競合・市場など」の欄には、商圏の同業者数と自店の違いを書きます(記入例は「近隣に同業者が2社あるものの、取扱商品が異なっている」)。市場全体の数字を添えるなら、日本自動車販売協会連合会の中古車車種別登録台数(年計)で、2025年の中古車登録台数(軽自動車を除く登録車)は3,632,179台、前年比99.2%です。登録車の年間登録台数は前年比でほぼ横ばいです。ただし、販売金額や軽自動車を含む市場全体の動向とは区別し、商圏内で自店が選ばれる理由を示します。
許認可と表示ルール:古物商・支払総額表示・引取業登録
中古車販売の許認可は、計画書の「2 経営者の略歴等」の許認可欄に書きます。記入例では「申請中」に印が付いています。融資の申込時点で許可を取得していない場合は、申請状況や取得予定時期を説明し、融資実行までに必要な手続きを公庫に確認します。
古物商許可の「自動車」区分と取得スケジュール
中古車を仕入れて売るには、古物営業法の許可が必要です。古物営業法施行規則の13区分のうち、中古車は「自動車(その部分品を含む。)」の区分で申請します。申請先は主たる営業所の所在地を管轄する警察署で、警視庁の案内では手数料は19,000円、申請者本人と営業所の管理者それぞれの略歴書・住民票の写し・誓約書・身分証明書が必要です。法人で申請する場合は定款と登記事項証明書が要るため、会社設立を先に済ませます。許可証の交付までの期間は、神奈川県警察の案内で概ね40日です。営業所ごとに管理者1人を選任する必要があり、独立後に自分以外の人を管理者にする場合はその人の書類もそろえます。本人確認や帳簿記録の義務は古物営業法の本人確認義務と古物台帳の解説にまとめています。
支払総額表示と「諸費用」に入れてはいけないもの
2023年10月1日に施行された改正自動車公正競争規約・同施行規則により、規約の参加事業者は、中古車の販売価格を「支払総額」で表示することになりました。非参加事業者にも景品表示法は適用されるため、購入条件を誤認させる表示は避ける必要があります。自動車公正取引協議会の説明では、支払総額は車両価格に、その車を買うのに最低限必要な諸費用を加えた価格です。諸費用に入るのは自賠責保険料・税金などの法定費用、リサイクル預託金相当額、検査登録と車庫証明の手続代行費用で、任意保険料や希望ナンバーの費用のように買い手によって要否が分かれるものは含めません。
自動車公正取引協議会は公取協ニュース76号で、「納車点検費用」「納車整備費用」「納車準備費用」など販売の準備や商品化にかかる費用は、名称にかかわらず車両価格に含めるべきで、諸費用としては不適切だと説明しています。計画書の売上単価は支払総額のうち店の収入になる部分で置き、整備費は原価側に入れます。整備費を諸費用で回収する前提で粗利を置くと、表示ルールに合わない計画になります。
下取車を廃車にするなら引取業登録
下取りや買取で受けた車を中古車として売るだけなら、自動車リサイクル法の登録は要りません。一方、値が付かない車を使用済自動車として解体業者へ渡すと「引取業」にあたり、都道府県知事等の登録が必要です。浜松市の自動車リサイクル法Q&Aは「下取車を中古車として販売する場合は、法の対象外」としたうえで、使用済自動車を引き取るケースに備えて登録を勧めています。買取を仕入の柱にするなら、引取業登録も許認可欄に書いておきます。分解整備などの特定整備を自社で行う場合は、地方運輸局長の認証が別途必要になります。整備を併設する計画の立て方は自動車整備工場の事業計画書を参照してください。
売上予測と収支計画の作り方
売上の算式:平均単価×月間販売台数+付帯売上
公庫の売上高等の計算方法は、販売業の売上を「客単価×客数」で見積もる考え方を示しています。中古車ではこれを「平均単価×月間販売台数」に置き換え、部品・用品やローン・保険の取次手数料などの付帯売上を足します。記入例はこの形で、中古車300万円に部品等20万円を足しています。
台数の根拠は、固定客の数(記入例は約200人)、中古車情報サイトの問い合わせ見込み、前職での販売実績から置きます。開業直後は掲載台数も認知も少ないため、記入例も創業当初5台、軌道に乗った後7台と段階を付けています。
原価率の根拠:公庫「中古自動車小売業」の経営指標との比較
記入例は原価率75%(粗利率25%)を「勤務時の経験から」としています。この水準を外部の数字で裏づけるなら、公庫の2025年度「小企業の経営指標調査」(卸売・小売業)が使えます。中古自動車小売業(調査対象305社)の主な指標は次のとおりです。
| 指標 | 平均値 | 中央値 | 黒字かつ自己資本プラス企業平均 |
|---|---|---|---|
| 売上高総利益率 | 25.4% | 23.5% | 24.4% |
| 人件費対売上高比率 | 10.8% | 9.3% | 9.1% |
| 諸経費対売上高比率 | 13.4% | 11.6% | 11.7% |
| 売上高営業利益率 | -1.0% | 0.5% | 1.9% |
| 損益分岐点比率 | 106.4% | 99.7% | 98.1% |
粗利率は平均で25%前後、営業利益率は中央値でも0.5%です。粗利の大半が人件費と諸経費で消え、損益分岐点比率の中央値は99.7%で、約半数の企業は売上が損益分岐点をほとんど上回っていないか、下回っています。計画書で粗利率30%以上を置くなら、整備を自社で行って外注費を抑える、仕入を業者オークションより安い買取中心にするなど、平均より高くなる理由を書く必要があります。逆に経費率を平均より大きく下げる計画も、同じように根拠を求められます。
損益分岐台数と返済原資の計算
記入例の創業当初の数字で損益分岐台数を出してみます。ここでは車両と部品等の粗利率をともに25%、経費55万円を台数によらず一定と仮定します。1台の粗利は15万円、部品等の粗利は5万円です。
損益分岐台数 =(経費55万円 − 部品等の粗利5万円)÷ 1台の粗利15万円
≒ 3.3台 → 月4台
計画の5台は損益分岐を上回っています。ただし公庫の記入例には「所得税等の税金や借入金の返済元金はここ(利益)から支払われます」「個人営業の場合、事業主分の人件費はここに含まれます」という注記があります。利益25万円から元金返済と生活費を払う必要があります。
元金返済は、信用金庫200万円が記入例の「元金3万円×67回」で月3万円です。公庫500万円を7年(84回)で返すと仮定すると月約6万円になり、合計は月約9万円です。利益25万円から元金返済約9万円を引いた残額は約16万円ですが、税金等を支払う前の金額です。勤務時の月給と比較する際も、額面ではなく手取り額でそろえます。
税金等を除き生活費30万円を確保する試算台数 =(経費55万円 + 元金9万円 + 生活費30万円 − 部品等の粗利5万円)÷ 15万円
≒ 5.9台 → 月6台
1年後の7台(利益40万円)なら、元金返済後に約31万円が残ります。生活費を賄えるかは、税金等と妻への専従者給与も含めた家計全体で確認します。
販売が計画どおりに伸びない期間の資金不足を、開業後に残る現預金で補えるかも確かめます。開業資金とは別に確保する生活予備資金は、月次の資金繰り表で区別しておきます。販売台数が計画の5台を下回る場合に備え、仕入を絞って在庫を現金化する手順まで考えておきます。
必要資金と調達方法:在庫台数に基づく運転資金の算定
商品仕入資金の算定:在庫台数×平均仕入額
中古車販売の運転資金は「持ちたい在庫台数×平均仕入額」で置きます。車両にも原価率75%を適用し、その原価をすべて仕入代金とみなす簡易計算では、60万円×75%=45万円、商品仕入500万円は約11台分です。実際には整備費や仕入手数料などを分けて見積もります。月5台の販売に対して2か月強の在庫を持てる計算になります。
在庫が多すぎると資金が寝て、少なすぎると展示台数が足りず問い合わせが減ります。計画書には「展示〇台・回転〇か月」を明記し、売れ残った車をいつ業者オークションへ回すかの基準も書いておくと、在庫リスクを管理する意思が伝わります。在庫が少ない段階から、車両ごとの仕入日・仕入額・整備費・掲載日数を台帳で管理します。台数が増えたら、更新漏れや二重入力を防げる運用かを見直します。台帳が表計算で回らなくなった段階で、在庫管理システムの開発を検討する事業者もいます。
支払と入金のずれも運転資金に効きます。業者オークションの落札代金や個人からの買取代金は短期間で支払う一方、オートローンで売った車は信販会社からの入金を待つことになります。入金までの日数は加盟店契約で決まるため、契約条件を確認して資金繰り表に反映します。資金繰り表の組み方は資金繰り表の作り方で解説しています。
新規開業・スタートアップ支援資金の条件と自己資金
公庫の創業向け融資の中心は新規開業・スタートアップ支援資金です。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。制度ページの注記には「創業計画書のご提出等をいただき、事業計画の内容を確認させていただきます」とあり、計画書が審査の土台になります。
制度ページには自己資金比率の数値要件は示されていませんが、自己資金の額と形成過程は説明できるように準備します。2025年度新規開業実態調査では、開業時の資金調達額は平均1,219万円で、うち自己資金は平均279万円(22.9%)でした。記入例は1,120万円のうち自己資金420万円(約38%)で、退職金80万円も記載しています。通帳で積み立ての経緯を示せる資金を、自己資金として書きます。
税金と預託金の扱い:古物商特例・リサイクル預託金
適格請求書発行事業者でない個人から買い取った中古車には、適格請求書(インボイス)がありません。それでも古物商許可を受けた事業者が、販売用の棚卸資産として適格請求書発行事業者でない者から買い受けた場合は、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けられます(国税庁のインボイス制度Q&A 問106)。帳簿には相手方の氏名・住所、仕入年月日、車の内容、支払った金額、帳簿のみの保存で控除できる仕入れに該当する旨を書きます(同 問110。住所は古物台帳に記載義務がある取引の場合)。古物台帳だけで必要事項がそろわない場合は、特例対象である旨などを記載した帳簿と合わせて保存します。仕入税額控除に用いる古物台帳は、消費税法上の7年間の保存期間にも対応させます。
売り先によっては、自分がインボイスを出せるかも問題になります。一般の個人客は適格請求書を必要としませんが、業者オークションへの出品や法人の社用車の販売では、買い手から適格請求書を求められることがあります。課税事業者として登録するかどうかで納める消費税も手取りも変わるため、売り先の構成を決めた段階で判断し、収支計画に反映します。
リサイクル料金が預託済みの中古車を売買すると、預託金相当額を旧所有者から新所有者へ引き継ぎます。自動車リサイクル促進センターの資料では、このリサイクル料金等相当額は金銭資産に位置付けられ、消費税は非課税です。買取時に払った預託金相当額は仕入原価とは分けて資産として持ち、販売時に買い手から受け取ります。売上や原価に混ぜると原価率がずれるため、計画書の平均単価と原価率は預託金相当額を除いた金額で置きます。
審査前に見直す中古車販売の計画書の弱点
- 粗利率を30%以上に置いているのに、平均(25.4%)より高くなる理由がない。
- 月間販売台数を開業初月から最大値で置き、段階を付けていない。
- 運転資金を「数か月分の経費」だけで置き、在庫に必要な資金が抜けている。
- 利益から元金返済と生活費を払う前提が抜け、損益分岐だけで黒字と判断している。
- 整備費を諸費用で回収する前提で粗利を置いている(支払総額表示のルールに合わない)。
- 買取を仕入の柱にするのに、廃車になる車の処理(引取業登録)を考えていない。
どれも記入例と経営指標を横に置けば自分で気づける弱点です。特に在庫資金と返済原資の2つは、他業種の計画書の書き方をそのまま流用すると抜けやすい箇所です。
よくある質問
中古車販売業の事業計画書のテンプレートはどこで手に入りますか?
公庫の各種書式ダウンロードページで、創業計画書の様式と中古自動車販売業の記入例を無料で入手できます。独自の計画書でも構いませんが、創業計画書の10欄の内容は含めてください。
中古車販売の開業資金はいくら必要ですか?
在庫の台数で大きく変わります。公庫の記入例は設備資金500万円・運転資金620万円の合計1,120万円で、運転資金のうち500万円が商品仕入です。1台の仕入代金を45万円と仮定すれば約11台分に相当します。自宅や小さな事務所で在庫を数台に絞れば少なく、展示場を借りて20台以上並べるなら多くなります。
古物商許可が下りる前に融資を申し込めますか?
申し込めます。記入例でも許認可欄は「申請中」です。ただし許可が下りないと営業できないため、許可の見込み時期と開業日の関係を説明できるようにしておきます。
個人事業主と法人で計画書の書き方は変わりますか?
欄の構成は同じです。個人事業主は事業主本人の生活費を人件費に含めず利益から払うため、利益が生活費と元金返済を上回っているかを確認します。法人は代表者の役員報酬を人件費に入れ、常勤役員の人数を従業員欄に書きます。
中古車販売の資金繰りで気をつけることは何ですか?
仕入代金の支払日がローン販売代金の入金日より先になる契約では、売上が伸びても手元資金が減ることがあります。例えば、仮に10日支払い・25日入金なら、その間の15日分の資金を確保します。在庫台数の上限を決め、信販会社からの入金日を資金繰り表に入れておくことが基本です。