資金繰り表は、前月の預金残高に今月の入金を足し、支払を引いて、月末に残るお金を3〜6か月先まで並べた表です。この記事では、日本政策金融公庫の記入例が示す5つの手順に沿って、エクセルで資金繰り表を作る流れを初心者向けに順を追って説明します。締め日と支払サイトから入金予定日を関数で出す式、土日祝や年末年始で入金が翌月にずれる補正、試算表から実績を逆算して通帳残高と照らす検算の方法も、具体的な式を交えた説明の対象です。後半では、できあがった表の見方と、エクセル管理が回らなくなる兆候、会計・銀行データの連携で資金繰り表を自動で組む判断基準まで扱います。
まとめ:資金繰り表を作る5手順と、毎月の更新で予定の精度を上げる要点
資金繰り表の作り方は、売上の予測、前月繰越金の入力、入金予定、支払予定、借入と返済の予定、の5手順です。順番を守れば、様式は自社で決めてかまいません。
精度を分けるのは、予定を「売上」ではなく「入金日」で置けるかどうかです。取引先ごとの締め日と支払サイトから入金予定日を式で出し、土日祝や12月31日〜1月3日の銀行休業日で月をまたぐ入金を補正すれば、月別の入金額は明細の集計で埋まります。実績欄は月次試算表から逆算し、翌月繰越金が通帳残高と合うかで毎月検算します。
取引先が数百社に増え、入金予定の転記と検算に毎月2日以上かかるようになったら、表計算で続ける段階は終わりです。販売管理の債権データと銀行の入出金明細を会計システムにつなぎ、資金繰り表を自動で組み立てる構成を検討してください。
資金繰り表の作り方の前提、そろえる資料と月次・日繰りの選び方
作り始める前に決めることは2つです。どの資料から数字を取るかと、月単位で足りるか日単位まで要るかです。
月次試算表・預金通帳・返済予定表など作成前にそろえる4種類の資料
中小企業基盤整備機構のJ-Net21による資金繰り表の使い方の解説は、月次試算表と銀行の預金通帳から可能な限り過去の資金繰り表を作っておくことを勧めています。実績の材料はこの2つです。予定の材料として、取引先別の請求・支払の条件がわかる一覧(締め日・支払サイト)と、金融機関の借入返済予定表を加えます。税金の納付予定と賞与の支給予定もこの段階で書き出しておくと、手順5で慌てません。
月次の資金繰り表で足りる会社と、日繰り表が要る月中の谷がある会社
月末の残高だけを見る月次の資金繰り表で足りるのは、入金と支払がどちらも月末に集中している会社です。一方で、給与を25日に払い、売掛金の入金が月末に来る会社は、月末残高が黒字でも25日時点で残高が足りない月があり得ます。月中の最低残高が月初残高の2割を切る月があるなら、その月だけでも日付単位の日繰り表を作って谷の日を確かめてください。
エクセルで資金繰り表を作る5手順、公庫の記入例に沿った進め方
日本政策金融公庫(国民生活事業)の資金繰り表の記入例(PDF)には、記入の順番が手順①〜⑤として書き込まれています。エクセルで一から作る場合も、この順番をそのまま使えます。
公庫の記入例が示す5手順と、エクセルのシートを3枚に分ける構成
公庫の記入例の手順を、エクセル上の作業に置き換えると次のようになります。
- 予測売上高を置く:確定分、過去の実績、季節性を考え、前年同月の売上高と比べながら月別に入れる
- 前月繰越金を入れる:決算書・試算表・総勘定元帳で期首の現金預金残高を確かめて入れる
- 入金を入れる:前月は実績、以降は予測売上に対する予測回収額を月別に入れる
- 支出を入れる:前月は実績、以降は予測仕入・外注費などの予測支出額を月別に入れる
- 財務収支を入れる:返済予定表から借入と返済の予定額を入れ、新規借入の返済分も加える
シートは「資金繰り表」「入金予定明細」「支払予定明細」の3枚に分けます。資金繰り表のシートには数字を直接打たず、明細シートの集計式だけを置くのが崩れない作り方です。借入返済と税金・賞与は件数が少ないので、支払予定明細の行として同じ形式で入れておけば集計式を増やさずに済みます。
予測売上高を回収予定に置き換える手順と、前年同月比で置く根拠
公庫の記入例は、売上高の行と売掛金回収の行を別々に持っています。9月の予測売上高が37,000千円なのに対し、同じ9月の経常収入の合計は55,100千円です(単位:千円)。前月以前の売上が9月に回収されるためで、売上高の数字をそのまま収入の行に入れると、この差が丸ごと誤差になります。
予測売上高は、確定している受注に前年同月の実績を並べて置きます。記入例でも10月の予測45,000千円に対し前年同月は50,491千円で、差が1割を超える月は理由(大口案件の終了、季節要因など)をセルのメモに残しておくと、翌月の予実比較で見直す箇所がすぐにわかります。
入金予定日と支払予定日を取引条件別にエクセルの関数で自動計算する設定例
手順3と手順4を手で埋めると、取引先が増えるほど転記漏れが起きます。請求書や仕入の明細ごとに予定日を式で出し、月別に集計する形にすれば、明細を足すだけで資金繰り表が更新されます。
締め日と支払サイトから入金予定日を出すEOMONTH関数の式
月末の日付を返すEOMONTH関数は、開始日から指定した月数だけ前後した月の最終日を返します。入金予定明細のB列に売上計上日(請求対象日)があるとき、締め日と支払サイトごとの式は次のとおりです。
| 支払条件 | 入金予定日の式 | 計上日2026年10月25日の結果 |
|---|---|---|
| 月末締め翌月末払い | =EOMONTH(B2,1) |
2026年11月30日 |
| 月末締め翌々月10日払い | =EOMONTH(B2,1)+10 |
2026年12月10日 |
| 20日締め翌月末払い | 締め日による月数の分岐式(表の直後に記載) | 2026年12月31日 |
20日締め翌月末払いの式は =EOMONTH(B2,IF(DAY(B2)<=20,1,2)) です。20日締めでは、21日以降の計上分が翌月の締めに回るため、同じ10月の売上でも20日と25日で入金が1か月ずれます。取引先ごとの条件は、売掛金の回収期日と管理体制を整理した記事で扱った取引先マスタから引く形にすると、式を行ごとに書き換えずに済みます。
土日祝と年末年始の銀行休業日にかかる入金日をWORKDAY関数でずらす設定
上の表の3行目、2026年12月31日は木曜日ですが、振込は着金しません。銀行法施行令の第5条が、祝日と12月31日から翌年1月3日までの日、土曜日を銀行の休日としているためです(日曜日は銀行法第15条で休日)。
WORKDAY関数は土日と、別に指定した祝日の一覧を除いて稼働日を数えます。祝日と年末年始の休業日を「休日表」シートのA列に並べ、C列の入金予定日を翌営業日へ送るなら =WORKDAY(C2-1,1,休日表!$A:$A)、前営業日へ寄せるなら =WORKDAY(C2+1,-1,休日表!$A:$A) と記述してください。翌営業日なら12月31日の入金は2027年1月4日(月)に移り、12月の入金が1月の行へ移ります。どちらへずらすかは取引先との契約で決まるので、取引先マスタに「休日時の扱い」の列を持たせてください。月末払いの取引が多い会社ほど、この補正を入れないと月別の入金額が毎月ぶれます。
明細から月別の入金額を集計するSUMIFS関数と資金繰り表への接続
複数の条件で合計するSUMIFS関数を使えば、補正後の入金予定日(D列)が各月に入る明細の金額(E列)を集計できます。資金繰り表のC1セルに月初日(2026年11月1日など)を置いた場合の式は次のとおりです。
=SUMIFS(入金予定明細!$E:$E,入金予定明細!$D:$D,">="&C$1,入金予定明細!$D:$D,"<="&EOMONTH(C$1,0))
この式を横にコピーすれば、各月の売掛金回収の行が埋まります。支払予定明細にも同じ式を置き、区分の列(仕入・外注・人件費・借入返済など)を条件に1つ足せば、公庫様式の支出の各行に振り分けられます。E列には税込の請求額を入れてください。資金繰り表は実際に動くお金の表なので、消費税を含めた金額が正です。
試算表から資金繰り表の実績を逆算する方法と、通帳残高での検算
予定の列が埋まったら、前月の実績を入れます。通帳の明細を1件ずつ仕分ける方法もありますが、月次試算表から逆算するほうが速く、数字の出どころも説明しやすくなります。
売掛金と買掛金の月末残高の増減から当月の回収額・支払額を出す計算式
当月の売掛金回収額は、次の式で求められます。
売掛金回収額 = 当月の掛売上(税込)+ 前月末の売掛金残高 − 当月末の売掛金残高
当月の掛売上が3,300万円(税込)、前月末の売掛金残高が4,500万円、当月末の残高が5,000万円なら、回収額は3,300+4,500−5,000で2,800万円です。買掛金の支払額も、当月の掛仕入に前月末の買掛金残高を足し、当月末の残高を引いて出します。
詰まりやすいのは消費税です。税抜経理の試算表では売上高が税抜で、売掛金の残高は税込です。税抜の売上3,000万円をそのまま式に入れると、回収額が300万円少なく出ます。売上高に仮受消費税を足した税込の数字で計算してください。
実績欄の翌月繰越金が通帳残高と合わないときに疑う4つのずれと確認順序
実績欄の翌月繰越金は、月末の現金と全口座の預金残高の合計と一致しなければなりません。合わないときは、次の順で確かめます。
- 貸倒や売掛金と買掛金の相殺など、お金が動かずに債権債務が減った取引が回収額・支払額に混ざっていないか
- 前受金・前払金、未払金(設備購入など)の増減を経常収支か設備の行に入れ忘れていないか
- 定期預金への振替や口座間の資金移動を、入金と支払の両方に二重計上していないか
- 月末が休業日で、月末付けの入金が翌月初に着金していないか
差額が毎月同じ方向に出るなら、試算表の締め方か取引先の支払条件の登録に原因があります。月次決算の締めが遅い場合は、この検算も翌月の中旬までずれ込むため注意が必要です。締めを早める段取りは月次決算を5営業日で締める手順を解説した記事で整理しています。
できあがった資金繰り表の見方、毎月の更新で確かめる3つの数字
資金繰り表は作って終わりではなく、毎月の更新で予定を実績に近づけていく表です。見る数字は3つに絞れます。
最低残高の月・経常収支の符号・予実差で読む資金繰り表の月次の確認手順
1つ目は、予定期間のうち翌月繰越金が最も少なくなる月と、その金額です。月の支払額を下回っていれば、その月より前に借入の相談か支払時期の調整が要ります。2つ目は、本業の収入から支出を引いた経常収支がプラスかマイナスかです。マイナスの月を借入で埋めている状態が3か月続くなら、残高が増えていても資金繰りは悪化しています。3つ目は、前月に置いた予定と実績の差です。売掛金回収の行で予定の1割以上の差が出た取引先は、条件の登録か回収の遅れを確かめます。回収の遅れが見つかったときの打ち手は、請求の遅れや消込の遅れを詰める資金繰り改善の方法を解説した記事にまとめています。
公庫の記入例の数字を使った行ごとの読み方と、経常収支のマイナスを借入で埋める月の見分け方は、資金繰りの意味と資金繰り表の見方を解説した記事で詳しく扱っています。
エクセル管理の限界と、会計・銀行データ連携で自動化する判断基準
ここまでの作り方なら、取引先が数十社の会社はエクセルで十分に回ります。問題は、取引の量が増えたときにどこで破綻するかです。
エクセルの資金繰り表が回らなくなる3つの兆候と転記にかかる工数
次のいずれかが出たら、表計算の資金繰り管理は限界に近づいています。
- 請求書を販売管理から書き出して入金予定明細に貼る作業と、入金の突き合わせに、毎月合わせて2日以上かかる
- 銀行口座が3行以上にまたがり、月末残高の集計を担当者が通帳やネットバンキングの画面から手で拾っている
- 事業部や拠点ごとの資金繰り表を別ファイルで作り、合算のたびに数字が合わない
いずれも、元のデータが別のシステムにあるのに、人が表計算へ移している点が共通しています。入金の突き合わせ(消込)の手間を減らす方法は、入金消込と売掛金照合の業務フローを整理した記事で解説しています。
銀行のオープンAPIと会計・販売データをつないで資金繰り表を組む構成
自動化の骨格は、入金予定を販売管理の請求データから、支払予定を購買・債務のデータから、実績を銀行の入出金明細から取り、会計システムの科目に対応づけて資金繰り表を組み立てる構成です。銀行明細の取り込みには、銀行が顧客の同意に基づいて外部の事業者にシステムへのアクセスを許すオープンAPIが使えます。全国銀行協会の解説によると、2017年に成立した銀行法等の改正で、オープンAPIで銀行と接続する電子決済等代行業者は登録制になりました。
取引先が数百社あり、入金予定日を請求書単位で持たせたい、休日補正を取引先ごとの契約どおりに反映したい、といった要件は、市販の会計ソフトの資金繰り帳票では持ちきれないことがあります。その場合に必要なのは、既存の販売管理・会計システムとの連携部分を作り込む開発です。一創の会計・経理システム開発では、債権債務データと銀行明細の連携から資金繰り表の自動作成までを含めた設計の相談を受けています。
自動化を見送るべき会社と、先に整える取引先マスタの2つの条件
取引先マスタに締め日と支払サイトが登録されていない会社は、自動化を見送ってください。予定日を計算する元がないため、システムを作っても予定欄を人が手で打ち直す運用に戻ります。取引先が50社未満で銀行口座が2本以内の会社も、開発費に見合う削減時間が出ないので、この記事の関数で組むエクセルの表で十分です。
自動化へ進むなら、先に2つを整えます。取引先ごとの締め日・サイト・休日時の扱いを全件登録すること、入金消込の実績から実際の回収日数を出して登録値とのずれを直すことです。この2つがそろった時点で、連携の開発に着手する価値が出ます。
資金繰り表の作り方・初心者の進め方・管理方法についてよくある質問
資金繰り表を初めて作る方から寄せられやすい疑問に答えます。
資金繰り表を初心者が作るとき、最初に何から始めればよいですか?
前月末の通帳残高を確かめ、前月1か月分の入金と支払の実績を表にするところから始めてください。予定の列を埋める前に実績を1か月作ると、自社にどんな入出金の行が要るかが先にわかります。そのうえで、日本政策金融公庫の記入例の手順どおりに、予測売上高、入金予定、支払予定、借入と返済の予定の順で3か月先まで埋めてください。最初から行を細かく分けすぎず、経常収入・経常支出・財務収支の3区分で始めるほうが続きます。
資金繰り表の数字が損益計算書の売上や利益と合わないのはなぜですか?
合わないのが正常です。損益計算書は売上を計上した月に数えますが、資金繰り表は代金が口座に入った月に数えます。掛売りなら回収サイトの分だけ月がずれ、在庫の仕入代金や借入の元金返済は、損益計算書の費用に出ないまま資金繰り表では支出になります。消費税も、損益計算書が税抜でも資金繰り表は税込の金額です。差が出た理由を行ごとに説明できれば、表は正しく作れています。
資金繰り表はどのくらいの頻度で更新すればよいですか?
月に1回、月次決算で残高が確定した直後に更新するのが基本です。前月の予定欄を実績に置き換え、翌月以降の予定を見直し、さらに1か月先の列を足します。残高に余裕がない時期や、大口の入金・支払が集中する月は、週に1回、入金予定明細の着金状況だけでも確かめてください。更新日を「月次決算の確定日の翌営業日」のように決めておかないと、表は2〜3か月で止まります。
銀行に融資を相談するとき、どんな資金繰り表を出せばよいですか?
日本政策金融公庫は、実績1か月と予定3か月を並べた様式の記入例を公開しており、代わりの資料を作っていればそれを出してもよいとしています。社内で作った表を出す場合も、前月繰越金・経常収入・経常支出・財務収支・翌月繰越金の構成がそろっていれば読み取ってもらえます。借入を申し込む月の財務収支に、その借入と返済の予定を入れた表を用意してください。残高が苦しくなった段階で確かめる事項は資金繰りが苦しいときに経営者が最優先で確認すべきポイントにまとめています。
会計ソフトの資金繰り表機能があれば、エクセルで作る必要はありませんか?
実績の集計だけなら会計ソフトの帳票で足ります。ただし、会計ソフトに入っているのは記帳済みの取引なので、予定の入金日は請求書の段階で別に持たせる必要があります。販売管理から入金予定を連携できる製品か、予定の手入力を受け付ける製品かを確かめてください。予定を持てない場合は、この記事の入金予定明細をエクセルで作り、会計ソフトの実績と組み合わせる運用が現実的です。
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