民泊の事業計画書は、普通の店舗の計画書と同じ様式で書けますが、売上の天井が法律で決まっている点が違います。住宅宿泊事業法の届出で営業するなら、人を泊められるのは年180日まで。売上計画では、この上限を守ったうえで宿泊日数の根拠を示します。観光庁の宿泊実績は、地域の需要や物件条件と照合する参考資料になります。この記事では、営業形態の選び方、売上と損益分岐の計算、日本政策金融公庫の創業計画書への落とし込み、審査で突かれる弱点の順に整理します。
まとめ:民泊の事業計画書で押さえる要点
- 住宅宿泊事業(届出)は年180日が上限。旅館業の簡易宿所なら日数の上限はないが、許可と建築・消防の要件が重くなる
- 売上は「1泊単価×年間宿泊日数」で組み、宿泊日数は観光庁の宿泊実績(2026年6〜7月は届出住宅あたり15.4日)で検証する
- 家主不在型は原則として登録管理業者への委託が必要。家賃や管理費の条件によっては損益分岐が180日を超え、計画が成り立たないことがある
- 公庫の創業計画書は9つの記入欄と自由記述欄。自作の計画書でも代替でき、売上の計算根拠は別紙で付ける
- 大阪市は2026年5月29日で特区民泊の新規受付を終えた。営業地の条例と制度の受付状況は計画の前提として書く
以下、それぞれの根拠と計算方法を順に説明します。
民泊の営業形態別の手続き・営業日数・運営費
同じ「民泊」でも、どの制度で営業するかで売上の上限、必要な手続き、運営コストが変わります。計画書の数字はすべてこの選択の上に乗るため、最初に営業形態を決めて計画書に明記します。
| 項目 | 住宅宿泊事業(民泊新法) | 旅館業(簡易宿所) | 特区民泊 |
|---|---|---|---|
| 手続き | 都道府県等への届出 | 保健所の許可 | 自治体の認定 |
| 営業日数の上限 | 年180日 | なし | なし |
| 最低宿泊日数 | なし | なし | 条例で3〜10日 |
| 実施できる地域 | 条例で期間制限あり | 用途地域の制限あり | 国家戦略特区の指定区域 |
| 根拠法 | 住宅宿泊事業法 | 旅館業法 | 国家戦略特別区域法 |
簡易宿所の許可要件や用途変更の扱いは、ホテル・ゲストハウス開業の事業計画書の書き方で詳しく扱っています。ここでは、住宅を使って小さく始める人が多い住宅宿泊事業を中心に説明します。
住宅宿泊事業の年180日の数え方
上限の根拠は住宅宿泊事業法第2条第3項で、人を宿泊させる日数が「一年間で百八十日を超えないもの」が住宅宿泊事業と定義されています。数え方は施行規則第3条にあり、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの期間に泊めた日数を数え、正午から翌日正午までを1日とします。暦年でも事業年度でもないため、決算期が12月の個人事業主は、計画書の年間売上と180日の期間がずれる点に注意が必要です。
さらに第18条により、都道府県や保健所設置市は条例で区域と期間を定めて営業を制限できます。東京都新宿区のように、住居専用地域では月曜日正午から金曜日正午まで営業できないと条例で定める自治体もあり、その場合は実質の上限が180日よりかなり小さくなります。物件を決める前に、営業地の条例で営業できる曜日と期間を確かめ、計画書には「条例上の営業可能日数」を書きます。
家主居住型と家主不在型で変わる義務とコスト
住宅宿泊事業法第11条と施行規則第9条により、届出住宅の居室が5を超える場合と、宿泊中に家主が不在になる場合は、住宅宿泊管理業務の全部を登録を受けた住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません。ただし、事業者自身が登録済みの住宅宿泊管理業者として管理する場合や、生活の本拠と届出住宅の位置関係・自主管理する居室数などが法令の例外要件を満たす場合は、委託不要です。また、観光庁の解説では、生活必需品の購入などの一時的な不在は原則1時間(店舗が遠い場合は2時間程度まで)とされ、宿泊者が全員外出している間の不在も委託義務の対象となる不在には当たりません。
自宅とは別に借りた部屋で管理業者への委託が必要になる場合は、契約に基づく管理委託費を計上します。売上連動部分は変動費、月額定額部分は固定費に分けます。自宅の空き部屋を貸す場合も、居室数などの委託義務の条件を確認します。居室数が5以下で、宿泊中に委託義務の対象となる不在がなければ、自ら管理し、清掃や鍵の受け渡しの外注費を抑えられます。この違いが次章の損益分岐を大きく動かします。
大阪の特区民泊の新規受付終了と計画への影響
特区民泊は国家戦略特別区域法にもとづく制度で、同法施行令第13条により、自治体が条例で3日から10日の範囲で最低宿泊日数を定めます(大阪市は2泊3日以上)。日数の上限がないため住宅宿泊事業より売上を組みやすい制度でしたが、大阪市は2026年5月29日をもって新規受付を終了し、認定済み施設の居室追加や床面積の増加の申請も同日で締め切りました。認定済みの施設は営業を続けられますが、これから大阪市で始める場合の選択肢は住宅宿泊事業か旅館業の許可になります。大阪府内の八尾市も2025年11月29日以降は新規営業ができなくなっており、特区民泊を前提にした計画は、営業地の受付状況を確認してから立ててください。
180日上限と宿泊実績から組む民泊の売上計画
民泊の売上は、公庫の参考資料「売上高等の計算方法について」にあるサービス業の算式「客単価×設備単位数×回転数」を当てはめると、1泊単価×部屋数×宿泊日数になります。1棟貸しなら部屋数は1です。
観光庁の宿泊実績による計画日数の検証
宿泊日数の根拠には、観光庁が住宅宿泊事業者の定期報告(法第14条で2か月ごとに報告が義務)を集計した「住宅宿泊事業の宿泊実績」が使えます。2026年9月30日公表の2026年6〜7月分では、報告のあった36,197件の宿泊日数の合計が557,439日で、届出住宅あたり15.4日でした。
| 地域 | 届出住宅あたり宿泊日数(2か月) | 61日に対する割合 |
|---|---|---|
| 全国 | 15.4日 | 約25% |
| 北海道 | 21.1日 | 約35% |
| 東京都 | 17.3日 | 約28% |
| 大阪府 | 10.7日 | 約18% |
15.4日は対象期間61日の約25%ですが、販売した日数を分母にする予約稼働率ではありません。6倍すると約92日になるものの、季節差や各住宅の営業状況を反映しないため、年間実績や通年の標準値とは区別します。上限いっぱいの日数を計画する場合も、月別の需要と販売可能日数を示し、年間180日を販売できる根拠を説明します。
宿泊日数の悲観・標準・楽観シナリオ別売上試算
日数は1つに決めず、幅を持たせて書きます。下の表は1泊単価を18,000円と仮定した例です。表の70日・92日・150日は感度分析用の仮定であり、全国の年間平均や推奨値ではありません。実際の標準日数は、地域の季節別需要と条例上の営業可能日数から設定します。
| シナリオ | 年間宿泊日数 | 年間売上(1泊18,000円) |
|---|---|---|
| 悲観 | 70日 | 126万円 |
| 標準 | 92日 | 約166万円 |
| 楽観 | 150日 | 270万円 |
悲観シナリオでは、返済後の資金残高と、不足が生じた場合に充てられる手元資金まで確認します。1泊単価は、同じエリア・同じ定員の掲載物件の料金を時期別に調べ、その一覧を根拠資料として添付すると説得力が出ます。
家主不在型と家主居住型の損益分岐日数
損益分岐日数は「年間固定費÷1泊あたりの限界利益」で求めます。限界利益は1泊単価から清掃・リネン、予約サイトの手数料、管理委託費などの変動費を引いた額です。損益の考え方は損益分岐点比率の計算式と目安でも解説しています。
次の表は、1室を販売する場合の仮定の計算例です。清掃・リネン費は1泊あたりに換算した額とし、チェックアウトごとに発生する費用は平均連泊数で割ります。実際の計画では、光熱費・消耗品・減価償却費なども含め、見積書と契約条件に合わせて計算してください。
| 項目(仮定値) | A 家主不在・賃貸 | B 家主居住・自宅の空き室 |
|---|---|---|
| 1泊単価 | 18,000円 | 18,000円 |
| 清掃・リネン | 6,000円 | 3,000円 |
| 予約サイト手数料(15%) | 2,700円 | 2,700円 |
| 管理委託費(20%) | 3,600円 | 不要 |
| 1泊の限界利益 | 5,700円 | 12,300円 |
| 年間固定費 | 126万円(家賃月8万円ほか) | 12万円(保険・通信の増分) |
| 損益分岐日数 | 約221日 | 約10日 |
Aは損益分岐が221日で、180日の上限を超えています。どれだけ集客しても住宅宿泊事業の枠内では黒字にならない計画です。この形になったら、家賃の安い物件に替える、日数の上限がない簡易宿所の許可を取る、民泊で使わない期間をマンスリー賃貸などの賃貸運用に回す、のいずれかで構造を変えます。家賃を払って借りた部屋を家主不在で住宅宿泊事業に使う計画は、180日上限と管理委託費の二重の制約を受けるため、損益分岐を計算する前に融資を申し込むべきではありません。
表のBの仮定では、約10日で表に計上した費用を回収できます。ただし、実際の黒字化は、追加の光熱費や設備の減価償却費などを含めて判断します。初期投資を自己資金で賄える規模なら、融資を受けずに始めて実績を作り、その実績を次の物件の計画書の根拠にする進め方が堅実です。
初期費用と運営費の洗い出し
初期費用と運営費は、漏れがあると資金ショートに直結します。計画書の「必要な資金」欄には、次の項目を見積額とともに並べます。
- 設備資金:家具・家電・寝具、内装の改修、鍵の電子化、消防用設備
- 運転資金:開業から入金が安定するまでの家賃・光熱費・清掃費
- 届出・許可関連:消防法令適合通知書の取得に伴う設備工事、図面作成、専門家への依頼費
- 運営費:清掃・リネン、予約サイト手数料、管理委託費、損害保険料、消耗品、宿泊税(課税する自治体の場合)
消防用設備は見落としやすい費用です。国の住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)は、届出の際に消防署が交付する消防法令適合通知書を併せて提出するよう求めています。必要な設備は家主居住か不在か、宿泊室の床面積などで変わるため、物件を契約する前に管轄の消防署に相談し、工事費を見積もってから計画書に入れます。
宿泊税も民泊に広がっています。東京都は2027年4月1日から住宅宿泊事業と特区民泊を宿泊税の課税対象に加え、1人1泊13,000円以上の宿泊料金に3%を課税します(13,000円未満は免除)。京都市は2026年3月1日から民泊を含む宿泊の税額を改定し、札幌市も2026年4月1日から住宅宿泊事業の届出住宅を課税対象にしています。宿泊税は宿泊者から預かって納める税ですが、料金に上乗せすると価格競争力が落ちるため、1泊単価の設定と申告の手間を計画に織り込みます。
公庫の創業計画書に民泊を書くときの欄ごとの要点
日本政策金融公庫の創業計画書は、1〜9の記入欄と10の自由記述欄で構成されています。様式には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」とあり、自作の計画書でも代替できます。民泊の場合は、様式に収まらない売上の根拠を別紙にまとめて添付するのが現実的です。
| 欄 | 民泊で書く内容 |
|---|---|
| 1 創業の動機 | 物件と立地を選んだ理由、営業形態 |
| 2 経営者の略歴等 | 宿泊・接客・不動産管理の経験 |
| 3 取扱商品・サービス | 定員・間取り・1泊単価・想定客層 |
| 4 従業員 | 3か月以上継続雇用の予定人数 |
| 5 取引先・取引関係等 | 予約サイト、管理業者、清掃業者 |
| 6 関連企業 | 申込人・法人代表者・配偶者が経営する企業 |
| 7 お借入の状況 | 住宅ローン等の残高と年間返済額 |
| 8 必要な資金と調達方法 | 設備・運転資金の見積と調達内訳 |
| 9 事業の見通し(月平均) | 売上・原価・経費・利益と計算根拠 |
| 10 自由記述欄 | 条例上の営業可能日数、強み |
3の欄には、届出住宅の住所と、家主居住型か不在型かを必ず書きます。9の欄は月平均で書く様式なので、年間の宿泊日数を12で割った月の宿泊日数を使い、繁忙期と閑散期の差は別紙の月別計画で示します。公庫の参考資料では、個人営業の場合は人件費に事業主本人の分を含めないとされているため、自分で清掃する場合も自分の人件費は経費に入れません。
融資制度と借入額の考え方
創業時に使われることが多いのは、公庫の国民生活事業の新規開業・スタートアップ支援資金で、融資限度額は7,200万円です。ただし限度額は制度の上限で、実際に借りられる額は計画書の返済能力で決まります。返済財源の簡易な目安は、税引後利益に減価償却費を足した額です。悲観シナリオでも、そこから借入金の年間返済元金と、個人事業では事業収入から賄う家計費を差し引いて資金が残るか確認してください。支払利息は利益の計算時に経費に含めます。売上規模は物件数や単価で変わります。家具家電や改修費に充てる自己資金と開業後に残す運転資金を分け、借入額は返済後の資金残高から検討します。
審査で突かれる民泊事業計画書の弱点
民泊の計画書で否決や減額につながりやすいのは、制度上の制約を数字に反映していない箇所です。
- 年間宿泊日数を180日に近く設定しているのに、季節別需要や営業可能日数に基づく計算根拠が書かれていない
- 家主不在型なのに管理委託費が経費に入っていない
- 賃貸物件で、貸主から転貸と民泊利用の承諾を書面で得ていない
- 分譲マンションで、管理規約が住宅宿泊事業を禁止していないか確認していない
- 条例で営業できない曜日・期間があるのに、180日で売上を計算している
賃貸人の転貸承諾と、管理規約に住宅宿泊事業を禁止する定めがないことは、住宅宿泊事業法施行規則第4条で届出書の記載事項になっており、届出の段階でも確認されます。承諾書や規約の該当条文の写しを計画書に添付すると、審査担当者が抱く「本当に営業できるのか」という疑問に先回りできます。
開業後の運営体制と計画書への記載事項
金融機関は、開業後に法令どおり運営できるかも見ています。住宅宿泊事業者には、宿泊者名簿の備付け(法第8条)、届出住宅ごとの標識の掲示(法第13条)、2か月ごとの宿泊日数等の定期報告(法第14条)、周辺住民からの苦情への対応(法第10条)が義務づけられています。計画書の自由記述欄や別紙では、誰がどの業務を担うか、苦情の連絡先をどう示すかを具体的に書きます。
複数の予約サイトに掲載する場合は、予約の重複と180日の超過を防ぐ仕組みも必要です。在庫を一元管理するサイトコントローラーの仕組みとPMS・予約エンジンの役割分担や、名簿と本人確認の実務をまとめた旅館業法の宿泊者名簿と本人確認を参考に、運営に使う道具まで計画書に書いておくと、運営体制の説明に具体性が出ます。
よくある質問
民泊の事業計画書にテンプレートはありますか?
日本政策金融公庫の創業計画書の様式(Excel・PDF)が公庫のサイトで配布されており、民泊でもそのまま使えます。様式には民泊専用の欄がないため、営業形態、条例上の営業可能日数、宿泊日数の根拠は別紙で補います。
民泊の稼働率は何%で計画すればよいですか?
観光庁の宿泊実績では、2026年6〜7月の届出住宅あたりの宿泊日数は15.4日で、2か月の約25%でした。この2か月分の実績だけでは、年間の標準日数は決められません。営業可能日を分母とする稼働率と暦日ベースの割合を区別し、季節別需要、立地、価格設定から月別の宿泊日数を積み上げてください。
賃貸物件で民泊の融資は受けられますか?
貸主から転貸と民泊利用の承諾を書面で得ていることが前提です。家主不在型では管理委託費と家賃が重なり、損益分岐が180日を超えることがあるため、まず損益分岐日数を計算し、上限内に収まることを示してください。
民泊の事業計画書に180日規制はどう書けばよいですか?
4月1日正午から翌年4月1日正午までの期間で180日以内という数え方を前提に、年間宿泊日数を上限内で設定します。条例で営業できる曜日や期間が限られる地域では、その期間内の営業可能日数と法定の180日を比較し、少ない方を上限として書きます。
特区民泊で新しく開業できますか?
大阪市は2026年5月29日で特区民泊の新規受付を終えたため、これから新規申請することはできません。ただし、期限までに申請し、その後に認定を受ける施設には経過措置があります。他の特区でも制度の運用が変わることがあるため、営業地の自治体で受付状況を確認してから計画を立ててください。