事業計画書をエクセルで作るなら、最初に決めるのは見た目ではなく「どの提出先の様式に数字を流し込むか」です。日本政策金融公庫(以下、公庫)は創業計画書と月別収支計画書をExcelファイルで配布しており、合計や利益の数式があらかじめ組み込まれています。この記事では、その様式の中身を手がかりに、入力シートと計算シートの分け方、売上・支払利息・返済額の計算式、シート間の数字を突き合わせる検算セルまでを数式付きで説明します。
まとめ:エクセルで事業計画書を作るときの要点
- 提出先の様式を先に確認する。公庫は創業計画書と月別収支計画書をExcelで配布しており、自作の計画書で代えることもできる
- 前提(単価・席数・回転数・金利など)は1枚の入力シートにまとめ、売上・損益・資金計画のシートは参照式だけで作る
- 売上は公庫が示す4つの算式(設備能力×設備数、坪当たり売上×面積、客単価×席数×回転数、1人当たり売上×人数)から業種に合うものを選ぶ
- 支払利息は「借入金残高×年利÷12」、元金返済は利息と分けて別行に置く。公庫の様式も利益の下に借入金返済額を別行で持つ
- 「必要な資金の合計=調達の合計」を検算し、利益から元金返済・税金・個人事業主の生活費を賄えるかと、月ごとの資金残高を別々に確認する
提出先別の指定様式と自作計画書の扱い
エクセルで一から作り込む前に、提出先がどの形式で受け取るかを確認します。形式が決まっている提出先に独自レイアウトを出すと、結局は様式へ転記し直すことになるためです。
公庫が配布するExcel様式の中身
公庫の各種書式ダウンロード(国民生活事業)では、創業計画書と月別収支計画書が.xlsx形式で配布されています。2026年10月11日に同ページから取得した.xlsxの設定は次のとおりです。
| 様式 | シート数 | 用紙設定 | 組み込みの数式 |
|---|---|---|---|
| 創業計画書 | 1枚 | A4横 | 必要資金・調達の合計、利益(①-②-③) |
| 月別収支計画書 | 1枚 | A3横 | 12か月の月見出し、経費合計、利益、年間合計 |
創業計画書はシート保護がかかっており、入力欄以外は書き換えられません。数式はいずれも =IF(AND(BD19="",BD20=""),"",SUM(…)) のように「入力が空なら空欄、入っていれば合計」という形で、未入力の欄に0が並ばないよう組まれています。月別収支計画書は開始月をリストから選ぶと、翌月以降の見出しが =IF(D5=12,1,D5+1) で自動的に埋まります。
単位はどちらも万円で、売上高①・売上原価②・経費③(人件費・家賃・支払利息・その他)・利益(①-②-③)という同じ並びです。自作のエクセルでもこの並びに合わせておくと、様式への転記がそのまま済みます。
自作の計画書で代えられる場合
公庫の創業計画書には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」と明記されています。月別収支計画書も「この書類に代わる資料を作成されていれば、そちらをご提出いただいてもかまいません」とあります。ただし様式の欄(創業の動機、経営者の略歴、取引先・取引条件、必要な資金と調達方法、事業の見通し)は審査で確認される項目なので、自作する場合も同じ項目を落とさないようにします。
補助金の電子申請と制度別の提出形式
補助金には、事業計画の本文をエクセルのファイルで添付するのではなく、電子申請システムへ入力する制度があります。ものづくり補助金の23次締切分の公募要領は、本文を電子申請システムへ入力し、補足の図や画像だけを「A4 サイズ 5 ページ以内の PDF」にまとめて提出するよう定めています。小規模事業者持続化補助金の第20回公募要領(第8版)も「申請は、電子申請システムでのみ受け付けます」としています。
事業計画の本文を直接入力する制度では、エクセルで売上計画や経費を積算し、数字と根拠を申請システムへ転記します。電子申請でも資料添付を求める場合があるため、提出方法は制度・公募回ごとに確認します。ものづくり補助金の23次締切分で補足図に収支の表を載せる場合は、補足資料全体をA4サイズ5ページ以内に収めます。他の補助金は、それぞれの公募要領で上限を確認します。
入力・計算・提出用シートの役割分担
同じ数字を複数のシートに手入力すると、変更時の直し忘れで数字が食い違います。前提の数字は入力シート1枚に置き、他のシートは参照式だけで作ります。
| シート | 入れるもの | 手入力 |
|---|---|---|
| 前提 | 単価・席数・回転数・営業日数・原価率・人件費・家賃・借入額・金利・返済回数 | する |
| 売上計画 | 算式ごとの月間売上 | しない |
| 月別損益 | 売上・原価・経費・利益・元金返済(12か月) | しない |
| 資金計画 | 必要な資金と調達方法、一致チェック | 見積額のみ |
| 返済 | 月ごとの残高・利息・元金 | しない |
| 提出用 | 公庫様式の並びに合わせた転記 | しない |
シート間の参照は =前提!B2 の形で書けます。参照先が増えてきたら、前提シートのセルに「客単価」「席数」のような名前を付けると(数式タブの「名前の定義」)、=客単価*席数 と読める式になり、検算のときに何を掛けているかが追いやすくなります。入力セルだけ背景色を変え、そのセルの「ロック」を解除してからシートを保護します。計算セルはロックしたままにすると、入力欄を編集できる状態で数式の上書きを防げます。
業種別の売上計算式と月間売上の算出例
公庫は記入の参考資料「売上高等の計算方法について」で、業種別に次の4つの算式を示しています。
| 業種の型 | 算式 | 公庫の例 |
|---|---|---|
| 設備が売上に直結(部品製造・印刷・運送) | 設備の生産能力×設備数 | 50円×500個×2台×25日=125万円 |
| 店舗売りが中心(コンビニ等) | 1㎡当たり売上×売場面積 | 16万円×100㎡=1,600万円 |
| 飲食・理容・美容 | 客単価×席数×回転数 | 3,950円×2台×4.5回転×25日=88万円 |
| 労働集約(自動車販売・清掃等) | 従業者1人当たり売上×従業者数 | 256万円×3人=768万円 |
1㎡当たりや1人当たりの売上は、公庫総合研究所の「小企業の経営指標」で業界平均を調べられると同資料に書かれています。資料は「最も適した方法を選び、他の方法もあわせて検討」するよう求めているので、主の算式で出した売上を、別の算式でも出して大きくずれていないかを見ると根拠が強くなります。
月別収支計画書の記入例(洋風居酒屋)では、昼と夜、平日と週末で客単価と回転数を分けて計算しています。前提シートに時間帯ごとの行を作り、売上計画シートで掛け合わせると次のようになります。
' 前提シート(入力) 客単価 席数 回転数 営業日数
' 3行目 昼(月〜土) 900 25 0.8 26
' 4行目 夜(月〜木) 4,500 25 0.6 18
' 5行目 夜(金・土) 4,500 25 0.9 8
' 売上計画シート(万円・1万円未満切り捨て)
=ROUNDDOWN(前提!B3*前提!C3*前提!D3*前提!E3/10000,0) → 46
=ROUNDDOWN(前提!B4*前提!C4*前提!D4*前提!E4/10000,0) → 121
=ROUNDDOWN(前提!B5*前提!C5*前提!D5*前提!E5/10000,0) → 81
記入例の「46万円」「121万円」は、900円×25席×0.8回転×26日=46.8万円、4,500円×25席×0.6回転×18日=121.5万円の端数を切り捨てた値です。記入例の数値を再現する場合はROUNDDOWNを使います。自作の計画では計算途中の端数を保持し、提出時に指定された単位・桁数へそろえます。
月別損益と支払利息・返済額の計算式
月別損益シートは公庫の様式と同じく、売上高①・売上原価②・経費③・利益(①-②-③)の順に並べ、その下に借入金返済額を別行で置きます。原価は「売上高×原価率」、支払利息は公庫の資料どおり「借入金残高×年利÷12」で計算します。個人事業の場合、人件費に事業主本人の分は含めません(家族従業員の分は含めます)。
' 月別損益シート(C列=1か月目、単位:万円。返済シートは円単位)
売上原価 =C5*前提!$B$12 ' 前提!B12=原価率
支払利息 =返済!C3*前提!$B$15/12/10000 ' 返済!C3=月初残高(円)、前提!B15=年利
利益 =C5-C6-C11 ' ①-②-③
元金返済 =返済!C5/10000 ' 返済!C5=その月の元金(円)
返済シートでは、返済方法によって元金の式が変わります。公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋)は、公庫からの借入を「元金10万円×70回」と元金均等で書いています。公庫の国民生活事業の返済方法は元金均等のほか、元利均等やステップ返済もあるため、実際の返済条件に合わせて式を選びます。
| 返済方法 | 毎月の元金 | 毎月の返済額 | 700万円・年2.0%・70回の場合 |
|---|---|---|---|
| 元金均等 | 借入額÷回数(一定) | 元金+残高×年利÷12(徐々に減る) | 初回111,667円→最終回100,167円 |
| 元利均等 | PPMTで計算(徐々に増える) | PMTで計算(一定) | 毎回106,030円 |
年2.0%は計算例のための仮の利率です。PMT・PPMT・IPMTは借入額をマイナスで渡すと返済額が正の数で返ります(構文はMicrosoftのPMT関数の解説)。実際の利率は融資制度や返済期間で変わるので、前提シートの金利セルを差し替えて使います。
' 返済シート(元利均等・据置なし・月末払い。B14は借入額(円)、B15は2%などの年利、B16は返済回数。各月の式は借入条件セルを絶対参照)
毎月返済額 =PMT(前提!$B$15/12, 前提!$B$16, -前提!$B$14) ' B14=借入額、B16=回数
うち元金 =PPMT(前提!$B$15/12, C2, 前提!$B$16, -前提!$B$14) ' C2=何回目か
うち利息 =IPMT(前提!$B$15/12, C2, 前提!$B$16, -前提!$B$14)
据置期間がある場合、公庫の記入例どおり据置中の元金返済額は0にし、利息だけを経費に入れます。
数字の食い違いを見つける検算セル
公庫の創業計画書の記入例は、「必要な資金」と「調達の方法」の合計について「金額は一致します」と注記しています。利益の欄には「所得税等の税金や借入金の返済元金はここから支払われます」「個人営業の場合、事業主分の人件費はここに含まれます」とあります。つまり利益は、元金返済と税金、個人事業なら本人の生活費まで賄える水準でなければなりません。この2点を判定するセルを資金計画シートに置いておくと、前提を変えたときの崩れにすぐ気づけます。
' 資金計画シート
必要資金と調達の一致
=IF(B10=E10,"一致","差額 "&TEXT(B10-E10,"#,##0")&"万円")
' 月平均の利益で元金返済と生活費を賄えるか(個人事業)
=IF((月別損益!O13-月別損益!O15)/12-前提!B20>=0,"税引前で黒字","不足")
' O13=年間利益、O15=年間元金返済、前提!B20=月の生活費
' 所得税等は含まないため、見込み額があれば前提!B20に月割りで足す
前提シートの原価率や客数のセルには、データタブの「データの入力規則」で範囲(原価率なら0〜1)を設定しておくと、「35」と打って原価率3,500%になる入力ミスを入力の時点で止められます。
売上が計画を下回ったときの試算
公庫の月別収支計画書には「計画した売上高を下回った場合の資金繰り・資金調達方法」を書く欄があります。エクセルで作るなら、前提シートに「売上達成率」のセルを1つ置き、売上計画シートの式に掛けておくと、80%・70%のときの利益と元金返済の差を数字で示せます。
' 前提!B22=売上達成率(100%、80%などを入力)
=ROUNDDOWN(前提!B3*前提!C3*前提!D3*前提!E3*前提!B22/10000,0)
原価は売上×原価率で連動して減りますが、家賃・人件費・支払利息・元金返済は減りません。達成率を下げて判定が「不足」に変わる境目は、税金等を控除する前の簡易的な収支の目安です。実際の返済余力は、税金や月ごとの入出金も含めて確認します。月ごとの入出金のずれ(掛売りの回収や仕入の支払サイト)まで見るなら、損益とは別に資金繰り表を作ります。作り方は資金繰り表の作り方:エクセルで組む5手順と入金予定日の計算式、自動化の判断【2026年版】で、売上がいくらを下回ると赤字になるかの計算は損益分岐点の計算方法:5つの計算式と決算書からの求め方、エクセルの式と複数商品の計算例【2026年版】で扱っています。
無料テンプレートの入手先と選び方
| 配布元 | 形式 | 中身 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | .xlsx+記入例PDF | 創業計画書・月別収支計画書・設備投資計画書 | 公庫の創業融資 |
| Microsoft 楽しもう Office | Excel(A4) | 事業計画書(金額の自動計算つき) | 社内用・汎用 |
| 京都銀行 | .xls | 資金繰り表、経営改善計画書(個人・年商別) | 既存事業の資金繰り・改善計画 |
公庫の創業融資を申し込むなら、公庫の様式をそのまま使うのが最短です。記入例PDFが業種別に9種類(洋風居酒屋、美容業、学習塾、介護サービスなど)用意されているので、近い業種の記入例を横に置いて書けます。Microsoftの事業計画書テンプレートは様式の縛りがない提出先や社内の計画づくりに向きます。どのテンプレートでも、売上の根拠(上の4算式のどれで出したか)は自分で書き足す必要があります。
PDFにして提出する前の確認
公庫の様式は印刷範囲と用紙(創業計画書はA4横、月別収支計画書はA3横)が設定済みです。ただし入力した文字量によっては欄からはみ出すので、PDFに出力したら文字の欠けと改ページを確認します。自作したブックをPDFにするときは、次の順で確認します。
- シートごとの用紙と向き:ページレイアウトタブの「拡大縮小印刷」で幅と高さを「1ページ」にすると、1シートが1ページに収まる(Microsoftサポート)。12か月を横に並べた月別損益はA4縦では文字が小さくなりすぎるので、A4横かA3横にする
- 複数シートを1つのPDFにまとめる:「ファイル」→「印刷」の設定で「ブック全体を印刷」を選んでからPDFに出力する。「名前を付けて保存」でファイルの種類を「PDF」にする場合も、「オプション」で出力対象をブック全体にする
- 提出用に含めないシート:前提シートや検算セルを見せたくない場合は、提出用シートだけを選んで出力する
- 検算セルの表示:「差額」「不足」が残ったまま出していないか、PDFを開いて目で確認する
エクセルで作らないほうがよい場面
エクセルは数字の計画には強い一方、次の場面では別の手段を選びます。
- 計画本文の直接入力が指定された補助金申請:エクセルで数字を計算し、指定された入力欄へ転記する
- 投資家・社内会議での説明:数字の表をそのまま見せるより、スライドで要点を絞る。構成例は事業計画書をパワーポイント(パワポ)で作る方法|スライド構成例と提出先別の注意点を参照
- 中期の目標や施策を説明する場面:説明資料と数値計画を分ける。3〜5年の収支計画や年度予算の計算にはエクセルを使える。中期経営計画とは?作り方5ステップと年度予算・月次予実への落とし込み方が近い内容です
前提の数字そのものが固まらない、業界の相場がわからないという段階なら、エクセルの作り込みより先に専門家へ相談するほうが早く進みます。誰に何を頼めるかは事業計画書の作成代行は誰に頼む?提出先別に代行できる範囲と費用の見方で整理しています。
よくある質問
事業計画書はエクセルとワードのどちらで作るべきですか?
収支・資金計画の数字はエクセル、創業の動機や事業内容などの文章はワードでも構いません。公庫の創業計画書はエクセル1枚に文章欄と数字欄が収まる様式なので、公庫に出すならエクセルでまとめられます。
公庫の創業計画書を使わずに自作した計画書でも申し込めますか?
申し込めます。様式に「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」と記載されています。様式と同じ項目(創業の動機、経営者の略歴、取引先、必要な資金と調達方法、事業の見通し)を含めておきます。
Googleスプレッドシートで作ってもよいですか?
作れます。この記事のROUNDDOWN・IF・PMT・PPMT・IPMTはGoogleスプレッドシートにも同名の関数があります。提出は提出先が指定する形式(PDFや.xlsx)で書き出します。
月別収支計画書は必ず提出するものですか?
公庫の月別収支計画書は、創業計画書の「事業の見通し(月平均)」を月ごとに書く場合に使う様式で、「可能な範囲でご記入いただき」と案内されています。開業直後の数か月は売上が立ち上がる途中で、月平均では実態が見えにくいので、出せるなら出したほうが説明しやすくなります。
テンプレートの数式を書き換えてもよいですか?
公庫の創業計画書はシート保護がかかっており、数式のセルは書き換えられない設定です。計算を変えたいときは、自作の計算シートで出した結果を様式の入力欄に転記します。