イベント運営会社の事業計画書は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入欄に沿えば骨格はそろいます。他業種と違うのは、同じ「イベント会社」でも、主催者から運営を請け負うのか、自分でイベントを主催してチケットを売るのか、スタッフや機材を貸すのかで、売上の立ち方も、負うリスクも、必要な許認可も変わる点です。融資担当者が確かめたいのは、どの業態で、月に何件・何人を集めれば固定費と返済をまかなえるのか、そして入金までの立替をどう資金手当てするのかです。
この記事では、業態ごとの売上の書き方、日本イベント産業振興協会(JACE)の最新推計の使い方、派遣・警備・消防の線引き、受注件数と動員数から出す損益分岐、自治体案件の支払時期を含む運転資金の考え方を、公庫の創業計画書の記入例までつなげて説明します。
まとめ:イベント運営の事業計画書で押さえる要点
- 最初に業態を決めて書きます。受託型は受託額が売上で外注費が原価、自主興行型はチケット・協賛・出店料が売上で集客リスクを自社で負い、スタッフ・機材供給型は人と物の稼働率で売上が決まります。
- 市場規模はJACEの「2025年イベント産業規模推計」(2026年6月公表)を使います。イベント専業のセグメントは2,676億円で前年比121.4%ですが、2025年は大阪・関西万博で押し上げられた年なので、この伸び率を自社の成長率の前提にはしません。
- 企画・運営の受託そのものに許可は要りませんが、日々または30日以内の雇用で派遣する「日雇派遣」は原則禁止で、警備業務はそもそも派遣できません。雑踏警備を他社から請け負うなら警備業の認定が必要です。
- 損益分岐は、受託型なら「固定費÷1件当たりの粗利」で必要受注件数、自主興行型なら「(開催費−協賛)÷1人当たりの収入」で必要動員数を出し、動員70%・50%の下振れも示します。
- 運転資金の大きな要素は外注費の立替です。自治体案件は、原則として完了通知から検査10日以内、適法な支払請求書の受理から支払30日以内で、前払の有無や期間の特約は契約で確認します。
イベント運営事業の業態別に見る計画書の売上範囲
「イベント会社」と一口に言っても、計画書で書く売上の中身は業態で異なります。創業計画書の「取扱商品・サービス」欄でどれを主力にするかを最初に決め、複数を組み合わせるなら売上の比率で示します。
| 業態 | 売上 | 主な原価 | 主なリスク | 許認可 |
|---|---|---|---|---|
| 受託型(企画・運営) | 主催者からの受託額 | 会場施工・音響照明・人員の外注費 | 立替・赤字受注 | 原則不要 |
| 自主興行型(主催) | チケット・協賛・出店料 | 会場費・出演料・広告費 | 動員不足・中止 | 開催内容に応じた届出 |
| スタッフ供給型 | 派遣料・請負代金 | スタッフの賃金・社会保険料 | 稼働の波 | 派遣なら許可 |
| 機材・備品レンタル型 | レンタル料 | 機材の減価償却・保守 | 稼働率・陳腐化 | 原則不要 |
受託型:受託額と外注費による売上・原価の区分
企業の展示会出展や販促イベント、自治体の祭り・式典などを請け負い、受託額を売上に立てます。会場の施工、音響・照明・映像、運営スタッフ、警備などを外注し、その差額が粗利です。集客の成否は主催者が負うため売上は読みやすい一方、外注費をイベント前後に払い、受託額の入金はその後になるので、受注が増えるほど立替が膨らみます。広告代理店を通した再委託では、売上を総額で書くか手数料で書くかも論点になります。考え方は広告代理店の事業計画書の書き方|媒体費の立替で膨らむ運転資金と、売上をグロスかネットで書く判断【2026年版】と同じです。
自主興行型:チケット・協賛・出店料による開催費の回収
自社でイベントを主催し、チケット収入、協賛金、出店料、物販・飲食の利益で開催費を回収します。後述の設例では開催費480万円・協賛金100万円・1人当たりの収入4,100円を前提に、927人以上の動員で開催費を回収できますが、これを下回れば赤字を自社が負担します。創業時の計画を自主興行だけで組むと、融資担当者は「1回外したら返済できるのか」を確かめにきます。受託型で固定費を回収し、自主興行は年数回に抑える組み合わせのほうが説明しやすくなります。
スタッフ・機材供給型:人と物の稼働率で決まる売上
運営スタッフを他社のイベントへ送り出し、相手の指揮命令で働かせる場合は、労働者派遣法2条1号の労働者派遣に当たります。派遣と請負の区分は、後述の「運営スタッフの派遣」で説明します。機材・備品のレンタルは、売上が稼働日数×単価で決まり、購入した機材は設備資金として計画書に載ります。どちらも繁閑の差が大きく、閑散期の固定費をどうまかなうかを月別の計画で示す必要があります。
イベント市場の規模:JACE「2025年イベント産業規模推計」の読み方
市場規模の根拠には、日本イベント産業振興協会(JACE)が2026年6月16日に公表した「2025年イベント産業規模推計」を使います。2025年のイベント関連産業は1兆1,478億円(前年比117.2%)、劇映画・音楽コンサート・スポーツ興行などのイベント周辺産業は2兆320億円(同108.4%)で、合計3兆1,798億円(同111.4%)でした。
| セグメント(抜粋) | 2019年 | 2024年 | 2025年 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| イベント専業 | 2,031億円 | 2,204億円 | 2,676億円 | 121.4% |
| 広告関連イベント | 2,217億円 | 1,883億円 | 2,255億円 | 119.8% |
| 警備・印刷・設備・人材派遣・ソフトウェア | 1,382億円 | 1,994億円 | 2,532億円 | 127.0% |
| イベント関連産業 小計 | 9,591億円 | 9,797億円 | 1兆1,478億円 | 117.2% |
計画書で使うときの注意は2つあります。1つ目は、JACEが、大阪・関西万博やジャパンモビリティショーなど大型イベントの開催の重なりを、2025年の市場拡大の背景として挙げている点です。万博が終わった2026年以降の成長率として前年比121%を置くと、根拠のない楽観と読まれます。2019年比(イベント専業で131.8%)や2023〜2024年の伸びと並べ、自社の売上計画は市場の伸びではなく受注件数の積み上げで組みます。
2つ目は、JACEが別に出している有料の「イベント消費規模推計報告書」(2025年版は2026年6月発行)とは系列が違う点です。創業支援サイトなどで引用される「2019年のイベント消費規模17兆4,890億円」は消費規模の系列で、上の産業規模推計は直接費(イベント費用)だけを積み上げ、経済波及効果を含めていません。消費規模と産業規模では対象範囲・推計方法が異なるため、同一系列の数値として比較しないようにします。
派遣・警備・消防の線引き:許認可が要る場面
イベントの企画・運営を請け負うこと自体に、業として必要な許可はありません。許認可が問題になるのは、人を送り出す、安全を請け負う、多数の人が集まる屋外催しを主催する、の3つの場面です。
運営スタッフの派遣:許可と日雇派遣の原則禁止
自社で雇ったスタッフを他社のイベント会場へ送り、相手の指揮命令で働かせるなら労働者派遣事業の許可が必要です。さらに、派遣元は日々または30日以内の期間を定めて雇う「日雇労働者」を原則として派遣できません(労働者派遣法35条の4)。単発の案件が中心のイベントでは、この規定がそのまま事業モデルに効きます。
例外は施行令4条にあり、業務では「建築物又は博覧会場における来訪者の受付又は案内の業務」(1項12号)が含まれます。人の側の例外は、厚生労働省の案内によると60歳以上、昼間学生、生業収入が500万円以上ある人の副業、世帯収入が500万円以上ある主たる生計者でない人です。設営・撤去や会場整理を日雇派遣で組むには、まず業務自体が派遣可能かを確認し、そのうえで日雇派遣の例外要件を満たす必要があります。建設業務に当たる設営・撤去や警備業務に当たる会場整理は、年齢・収入等の例外を満たしても派遣できません。派遣で始めるなら許可申請の要件と様式は人材派遣業の事業計画書の書き方|許可申請の様式第3号と融資用の違い、マージンと給与立替から組む収支計画【2026年版】で扱っています。自社が運営を請け負い、自社の責任者がスタッフを指揮する形(請負)なら派遣には当たりませんが、実態が発注者の指揮命令なら偽装請負と判断されます。
雑踏警備・交通誘導:他社から請け負うなら警備業の認定
警備業法は「人若しくは車両の雑踏する場所」での事故の発生を警戒・防止する業務を警備業務とし、それを「他人の需要に応じて行う」営業を警備業と定めています(警備業法2条1項2号・2項)。警備業を営むには都道府県公安委員会の認定が必要です(同4条)。主催者や運営会社から雑踏警備を切り出して請け負う計画なら、認定を前提にするか、認定を持つ警備会社へ外注する前提で原価に入れます。
注意したいのは、運営を丸ごと請け負った中で会場整理をする場合です。警察庁の警備業法等の解釈運用基準は、「他人の需要に応じて行う」を他人との契約に基づき他人のために行うことと説明したうえで、警備業務以外の業務に付随して行われるからといって、直ちに「他人の需要に応じて行う」ものでないとはいえないとしています。主催者が自社のイベントで自社の従業員に場内整理をさせるのとは違い、受託した運営会社のスタッフが雑踏の事故防止を担うなら警備業務に当たり得るので、その部分は警備会社への外注として見積に入れておくのが安全です。
また、警備業務は労働者派遣が禁止されている業務です(労働者派遣法4条1項3号)。警備員を派遣で集めるという計画は書けません。
屋外の大規模催し:指定催しと露店等の届出
2013年8月の福知山花火大会火災を受けて、総務省消防庁は火災予防条例(例)を改正し、「火災予防上必要な業務に関する計画」の提出と、祭礼・縁日・花火大会・展示会など多数の者が集まる催しで露店等を開設する場合の届出を条項に加えました(消防予第42号)。具体的な基準と期限は市町村の条例で決まります。
東京消防庁の管内では、火気使用器具等を使う屋外催しで1日10万人以上の人出が予想され、露店等が100店舗を超えるものが「特定大規模催し」で、そのうち消防署長が指定したもの(指定催し)の主催者は、防火担当者を定めて計画を作らせ、開催の14日前までに消防署長へ提出します。火気を使う露店等を開設する場合は、開設の3日前までに届け出ます(東京消防庁)。他の地域では開催地の消防本部で基準を確認し、準備期間と防火担当者の人件費を計画に入れます。
受注件数・動員数から組む売上計画と損益分岐
イベント運営の売上計画は、市場規模からの割り算ではなく、受託型なら受注件数×平均受託額、自主興行型なら動員数×1人当たりの収入で積み上げます。損益分岐点の式そのものは損益分岐点の計算方法と同じで、イベントの場合は「何件」「何人」に直して書くと融資担当者に伝わります。以下の数字はすべて設例の前提です。
受託型の設例:固定費を回収する受注件数
ディレクター2名の人件費60万円、事務所家賃15万円、車両・通信・ソフトウェアなど15万円、支払利息2万円で、固定費は月92万円とします。1件の平均受託額300万円、外注費の比率70%なら、1件の粗利は90万円です。
| 粗利率 | 1件の粗利 | 損益分岐の受注件数 | 年換算 |
|---|---|---|---|
| 30% | 90万円 | 月1.02件 | 約13件 |
| 25% | 75万円 | 月1.23件 | 約15件 |
| 20% | 60万円 | 月1.53件 | 約19件 |
粗利率が10ポイント下がるだけで、必要件数は年13件から19件へ増えます。受託型の利益は外注比率で決まるので、根拠欄には「前職で担当した同規模案件の外注比率」を書き、見積の段階で粗利率の下限を決めておくことを計画に入れます。
自主興行型の設例:損益分岐の動員数と下振れシナリオ
1回の開催で、会場費80万円、設営・音響照明120万円、出演料150万円、運営スタッフ・警備60万円、広告宣伝50万円、保険・届出・雑費20万円の計480万円がかかり、協賛金100万円が入るとします。チケット4,000円から販売手数料10%を引いた3,600円に、物販・飲食の粗利500円を足すと、1人当たりの収入は4,100円です。
損益分岐の動員数は、(480万円−100万円)÷4,100円で約927人です。想定動員を1,500人とすると、動員70%(1,050人)で利益は約50万円、動員50%(750人)では約73万円の赤字になります。計画書には想定どおりの数字だけでなく、この下振れの2行を並べ、赤字の回で資金が尽きないことを手元資金と借入で示します。中止になった場合に会場費や設営費のうちいくらが戻らないかも、同じ表に加えます。
案件別収支表:イベント業の原価管理の単位
イベント業の収支管理は、会社全体の月次損益だけでは赤字案件が見えません。案件ごとに「見積」「実行予算」「実績」の3列を持つ収支表を作り、費目は会場費、施工・装飾、音響・照明・映像、人件費(社員の工数を含む)、外注スタッフ、警備、備品レンタル、保険、交通・宿泊、広告宣伝に分けます。見積と実績の差が大きい費目が、次の見積で粗利を削っている原因です。
計画書には、この収支表を案件ごとに締めて月次の損益へ積み上げる管理方法を書くと、融資後の面談で実績を示しやすくなります。受注から精算までの案件管理を表計算から仕組みに移す場合は、イベント管理システム開発で相談を受けています。申込や来場者管理を含めたシステムの全体像はイベント管理とは?全工程とシステムの費用相場・無料ツールの限界と導入判断にまとめています。
入金と支払の時間差で決まる運転資金
受託型の運転資金では、外注先への支払から主催者の入金までの立替額が大きな要素になります。これに人件費・家賃などの支出を加え、前受金も反映した月別の資金不足額から必要額を求めます。300万円の案件で外注費210万円を先に払い、入金がイベントの2か月後なら、その2か月間は210万円を自社で抱えます。同じ時期に2件重なれば420万円です。
自治体案件:完了通知から検査10日・支払請求から30日
国の契約では、相手方から給付を終えた旨の通知を受けてから検査を終えるまでが10日以内(工事は14日)、検査後に適法な支払請求を受けてから支払うまでが30日以内(工事代金は40日)と決められています(政府契約の支払遅延防止等に関する法律5条・6条)。この規定は地方公共団体の契約にも準用されます(同14条)。自治体の祭りや式典の入金予定日は、契約上の検査期限と適法な支払請求書の受理後の支払期限から見積もります。10日・30日は原則的な上限であり、最短の入金時期ではありません。同法7条の特約がある場合も確認します。
外注先への支払期日:取適法とフリーランス法の60日
取適法(下請法を改正・改称し、2026年1月1日に施行)の対象となる役務提供委託では、発注側は役務の提供を受けた日から起算して60日以内に支払期日を定めなければなりません(同法3条)。大手の広告代理店からイベント運営を再委託される場合は、自社が受け取る側としてこの期日が根拠になります。期日の数え方は下請法の支払期日とは?60日ルールの起算日と月末締め翌月末払いの扱い、遅延利息の計算で解説しています。
逆に、司会者や演出家、カメラマンなど個人のフリーランスへ業務を委託する側に回り、自社がフリーランス法の「特定業務委託事業者」(従業員を使用する個人、または2人以上の役員がいるか従業員を使用する法人)、相手が「特定受託事業者」に当たる場合は、原則として給付の受領日(役務は提供を受けた日)から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その日までに支払う義務があります。再委託で法定事項を明示した場合には、元委託支払期日から30日以内とする特例があります。発注側の義務の範囲はフリーランス法とは?発注者の義務と2026年取適法施行後のシステム対応を解説を参照してください。入金が遅く支払が早い構造なので、着手金(受託額の一部の前受け)を契約で取れるかどうかを、運転資金の前提として計画書に書きます。
中止・事故のリスクを計画書に織り込む方法
イベントは天候、感染症、出演者の事情で中止になり得ます。融資担当者が見るのは「中止の可能性があるか」ではなく、中止になったときに誰がどの費用を負担するかが契約で決まっているかです。
- 受託契約の中止条項:主催者都合・不可抗力・自社都合のそれぞれで、既に発生した外注費をどこまで請求できるかを決めておきます。
- 会場・外注先のキャンセル規定:会場の利用規約は解約の時期に応じてキャンセル料が段階的に上がる形が一般的です。自主興行では、開催何日前に中止を判断すれば損失がいくらで止まるかを表にします。
- 保険:来場者のけがや施設の損壊に備える賠償責任保険、自主興行では中止による損失を補う興行中止保険を検討し、保険料を開催費に入れます。
屋外の自主興行が売上の柱なら、「自主興行型の設例」の下振れシナリオに中止時の損失額を加え、それが手元資金で吸収できる範囲かを示します。
公庫の創業計画書の記入欄ごとの書き方(イベント運営版)
日本政策金融公庫の創業計画書は、創業の動機、経営者の略歴等、取扱商品・サービス、従業員、取引先・取引関係等、関連企業、お借入の状況、必要な資金と調達方法、事業の見通し(月平均)などの欄で構成されています。様式に沿う必要はなく、自分で作った計画書で代えることもできます。欄ごとの埋め方の基本は事業計画書を1枚(A4)で書く方法|公庫の創業計画書10項目の埋め方と数字の根拠で解説しているので、ここではイベント運営に特有の書き方に絞ります。
創業の動機と経営者の略歴:運営実績の件数と規模
公庫の2025年度新規開業実態調査では、公庫が融資した開業者の81.1%が開業した事業と同じ分野の経験(斯業経験)を持っています(日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」)。イベント運営なら、前職で担当した案件の件数、来場者数や予算の規模、ディレクターか現場責任者かという役割を書きます。「イベント制作会社で7年、展示会・販促イベントを年20件、予算100万〜1,000万円規模を担当」のように数字で示し、独立後も取引が見込める主催者や代理店があれば社名を挙げます。
取扱商品・サービスと取引先:業態別の売上比率と回収条件
「取扱商品・サービス」欄には、受託・自主興行・スタッフ供給などの売上比率を書きます。「取引先・取引関係等」欄には、販売先(主催企業・自治体・代理店)の名称と回収条件(例:検収後翌月末払い)、外注先(施工・音響照明・警備)と支払条件を並べます。「入金と支払の時間差で決まる運転資金」で説明したずれは、この欄の回収条件と支払条件の差として融資担当者に伝わります。派遣や警備を自社で行う場合は、許可・認定の取得状況か取得予定の時期を書きます。
必要な資金と調達方法:立替の山を根拠にした運転資金
受託型の設備資金は、事務所の保証金やPC、車両など比較的小さく収まります。機材レンタル型では機材の購入費が設備資金の中心です。公庫の同調査(全業種)では、開業費用の平均は975万円、中央値は600万円です。運転資金は「固定費の数か月分」と一律に置かず、案件が重なる月の立替額と、損益分岐に届くまでの赤字の合計を根拠に書きます。
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、融資限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。
事業の見通し(月平均):受託型の記入例
「事業の見通し(月平均)」欄は、創業当初と1年後または軌道に乗った後の2列で、売上高・売上原価・経費・利益を書きます。受託型の設例を当てはめると次のとおりです。
| 項目 | 創業当初(月0.8件) | 軌道に乗った後(月1.5件) |
|---|---|---|
| 売上高(受託額) | 200万円 | 450万円 |
| 売上原価(外注費70%) | 140万円 | 315万円 |
| 経費:人件費 | 30万円 | 60万円 |
| 経費:家賃 | 8万円 | 15万円 |
| 経費:支払利息 | 2万円 | 2万円 |
| 経費:その他 | 10万円 | 15万円 |
| 利益 | 10万円 | 43万円 |
根拠欄には「平均受託額250万円(創業当初)・300万円(軌道後)×件数、外注比率70%」と式で書きます。運転資金1,000万円を据置なし・元金均等で84回返済する設例では、毎月の元金返済額は約11.9万円となり、創業当初の利益10万円を上回ります。返済可能性は、減価償却費などの非資金費用、税金、売掛金・買掛金の増減も反映した資金繰り表で確かめます。据置期間を使うのか、借入額を減らすのか、件数が月1件を超える時期をいつと見るのかを、計画書の中で答えておきます。
融資面談の前に点検するイベント運営の計画書の欠陥
- 業態が書かれておらず、受託額と自主興行のチケット収入が同じ「売上」に混ざっている。
- 市場規模の伸び率(2025年の万博需要を含む前年比)を、そのまま自社の売上成長率に使っている。
- 単発のスタッフを日雇派遣で集める前提になっている、または雑踏警備を認定なしで請け負う前提になっている。
- 自主興行の動員数が想定どおりの1本だけで、下振れと中止の場合の損失が示されていない。
- 外注費の支払時期と受託額の入金時期のずれが資金繰り表に反映されておらず、運転資金の根拠がない。
- 創業当初の利益が元金返済額に届かないのに、据置期間や件数の増え方で説明していない。
よくある質問
イベント会社を始めるのに資格や許可は必要ですか?
イベントの企画・運営を請け負うこと自体に、業として必要な許可はありません。スタッフを派遣するなら労働者派遣事業の許可、雑踏警備を他社から請け負うなら都道府県公安委員会の警備業の認定が必要です。屋外の大規模な催しを主催する場合は、開催地の火災予防条例に基づく計画の提出や露店等の届出が求められることがあります。
イベント運営の利益率の目安はどのくらいですか?
この記事の設例では、外注費だけを売上原価とし、自社人員や機材の費用を経費に置くため、粗利率を「1−外注費の比率」で計算しています。自社人員の労務費や機材費を売上原価に含める場合は、それらも差し引いて計算します。設例の粗利率は30%で置きましたが、20%まで下がると損益分岐の受注件数は年13件から19件に増えます。計画書では、前職で担当した案件の外注比率など、自分の実績に基づく数字で置き換えてください。
イベント業の収支はどう管理すればよいですか?
案件ごとに「見積」「実行予算」「実績」の3列を持つ収支表を作り、会場費・施工・音響照明・人件費・外注スタッフ・警備・保険などの費目に分けて記録します。案件を締めるたびに月次の損益へ積み上げると、どの費目が粗利を削っているかが見えます。
イベント会社の開業資金はいくら必要ですか?
受託型は設備が小さく、必要資金の中心は外注費の立替に充てる運転資金です。案件が重なる月の外注費の合計と、損益分岐に届くまでの赤字の合計から逆算します。参考までに、公庫の2025年度新規開業実態調査(全業種)では開業費用の平均が975万円、中央値が600万円です。
イベント運営の事業計画書のテンプレートはありますか?
日本政策金融公庫の創業計画書の様式が公庫のサイトからダウンロードでき、自分で作成した計画書で代えることもできます。イベント運営では様式の欄だけでは損益分岐や下振れシナリオを書ききれないので、案件別の収支表と月別の資金繰り表を添付資料として付けます。