事業計画書を1枚にまとめるなら、白紙から項目を考えるより、日本政策金融公庫(以下、公庫)の創業計画書の枠を借りるのが確実です。公庫の様式はA4横1ページに10項目を収めた、融資審査用の1枚版そのものだからです。この記事では、その10項目の埋め方、公庫の記入例から読み取れる数字の作り方、1枚で足りない場面の見分け方を説明します。
まとめ:1枚の事業計画書で押さえる要点
- 公庫の創業計画書はA4横1ページ・10項目。左半分に動機・経歴・商品・従業員・取引先、右半分に借入・資金・収支見通しを置く構成です。
- 公庫は様式の代わりに「ご自身が作成された計画書」の提出も認めています。自作の1枚版では、10項目をそろえたうえで、各欄の数字に計算根拠を添えることが要になります。
- 紙面の半分は数字です。売上は業種に合った算式(単価×席数×回転数など)で示し、必要資金と調達方法の合計を一致させます。
- 月の利益で借入の返済元金と税金を賄えるかを必ず検算します。公庫の記入例では創業当初の利益12万円と返済元金12万円が同額で、税金や売上の下振れに回す余力はありません。
- 投資家向けや補助金申請では1枚版は要約の役割にとどまります。提出先が様式や分量を決めている場合はそちらに従います。
1枚の事業計画書で足りる場面と足りない場面
1枚版で用が済むかは、提出先が何を判断するかで決まります。融資の一次審査や社内の着手判断のように「話を聞く価値があるか」を決める場面では1枚が向いています。逆に、出資の可否や補助金の採否のように書面そのものを採点する場面では、1枚は表紙代わりの要約にしかなりません。
| 提出先 | 1枚で足りるか | 1枚版の役割 |
|---|---|---|
| 公庫の創業融資 | 計画書は足りる | 創業計画書(見積書等は別途) |
| 社内の新規事業の起案 | 初回は足りる | 着手可否の判断材料 |
| 投資家・VC | 足りない | エグゼクティブサマリー |
| 補助金の申請 | 足りない | 様式に書く前の骨子 |
公庫の創業融資では、1枚の創業計画書をもとに担当者が面談で事業を確認します。社内向けでは、初回の相談に使う1枚と、決裁に回す資料とで書く情報が変わります。決裁資料には撤退基準や投資回収の見通しが加わります(社内向け事業計画書の書き方|新規事業の決裁で問われる項目と撤退基準・創業計画書との違い)。投資家は市場規模や資本政策まで見るので、1枚版は詳細資料への入口になります(投資家・VC向け事業計画書の書き方|銀行融資用との違いと審査で問われる数字【2026年版】)。補助金は制度ごとの公募要領が様式や記載項目を定めているので、自作の1枚を出せるかは公募要領で確かめます。
公庫の創業計画書はA4横1ページ:10項目の配置
公庫の各種書式ダウンロード(国民生活事業)では、創業計画書がExcelとPDFで配布されています。PDF版の様式はA4横1ページで、項目は1〜10の番号付きです。左半分に1〜5、右半分に6〜10が並ぶ2段組になっています。
| 番号 | 項目 | 1枚版で書くこと |
|---|---|---|
| 1 | 創業の動機 | 目的と、いま始める理由 |
| 2 | 経営者の略歴等 | 担当業務・役職・技能・資格 |
| 3 | 取扱商品・サービス | 内容と売上シェア、強み、販売戦略 |
| 4 | 従業員 | 3か月以上継続雇用する予定の人数 |
| 5 | 取引先・取引関係等 | 販売先・仕入先・外注先と回収・支払条件 |
| 6 | 関連企業 | 本人や配偶者が経営する企業 |
| 7 | お借入の状況 | 事業・住宅・車・カードなどの残高と年間返済額 |
| 8 | 必要な資金と調達方法 | 設備資金・運転資金の内訳と調達先 |
| 9 | 事業の見通し(月平均) | 創業当初と軌道に乗った後の月次収支 |
| 10 | 自由記述欄 | アピールポイントや相談したいこと |
様式の冒頭には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」と書かれています。末尾には「これまでのご経験や事業内容の詳細が分かる計画書など、参考となる資料がございましたら、併せてご提出ください」ともあります。つまり公庫の想定は「1枚の計画書+必要なら補足資料」です。自作する場合も、この10項目を1枚に配置し、入りきらない根拠を別紙に回すと、担当者が様式と同じ順で内容を確認できます。
見落としやすいのが6と7です。関連企業と個人の借入状況は、事業そのものの説明ではないため自作の1枚版から抜けがちですが、返済能力の判断に使われます。住宅ローンやカードローンの残高も含めて書きます。
文章欄の書き方:動機・経歴・商品・取引先
左半分の文章欄は、紙面が小さいぶん「経験と事業のつながり」と「誰に何をいくらで売るか」に絞ります。公庫の創業計画書セルフチェックリストが各欄で問うている内容が、そのまま書くべきことの基準になります。
創業の動機と経営者の略歴:経験と受注見込みのつながり
セルフチェックリストは、動機について「創業への熱意や創業を志すまでの経緯」、略歴について「担当した業務や役職、実績」と「資格・スキル」を問うています。様式の注記も「勤務先名だけではなく、担当業務や役職、身につけた技能等」を書くよう求めています。
公庫の記入例(ソフトウェア開発業)では、略歴に勤務先での年数、医療関連事業部でのプロジェクトリーダー経験、応用情報技術者の資格を並べています。動機には元勤務先について「同社からの受注を得られる運びとなり、事業の見通しが立った」と書き、経験が売上の見込みにつながる道筋を2〜3文で示しています。1枚版では熱意の表現より、この「経験→受注の当て」の一本線を優先します。
取扱商品・サービス:誰に・何を・いくらで売るかの3点
セルフチェックリストの商品・サービス欄は「誰に、何を、いくらで販売するか」から始まり、セールスポイント、ターゲットに合った販売戦略、競合や市場(店舗なら近隣)の調査を問います。1枚版では、商品ごとに単価と売上シェアを数字で書き、強みは競合と比べた一文に留めます。記入例でも、取扱商品は「顧客・財務管理システム開発」「ファームウェア開発」「コンサルティング」の3つに売上シェア(70%・20%・10%)を振っています。
市場規模の一般論を書き込むと紙面がすぐ埋まります。1枚版では、近隣の競合店の数や想定顧客の数など、自分の商圏に引きつけた数字を1つ置く方が判断材料になります。
取引先と取引条件:回収日・支払日と運転資金の関係
取引先欄では、販売先・仕入先・外注先の名称に加えて、締め日と回収日・支払日を書きます。セルフチェックリストも「入金や支払いのタイミングなど、取引形態」を確認項目にしています。記入例では販売先が「末日〆翌月末日回収」、外注先への支払も「末日〆翌月末日支払」です。
この欄は運転資金の根拠になります。掛売りで回収が1〜2か月先になる業種では、売上が立っても手元資金が先に減るためです。記入例が運転資金920万円の理由に「システム開発に、最短でも3ヵ月かかるため、つなぎ資金が必要」と書いているのは、取引条件と資金需要を結びつけた例です。
数字欄の作り方:売上の根拠・必要資金・返済の検算
右半分の8(必要な資金と調達方法)と9(事業の見通し)には、売上の計算根拠、資金の内訳と調達先、月々の利益を書きます。セルフチェックリストも、計算根拠のある売上予測、経費の漏れ、利益からの返済可能性を問うています。ここは文章でなく算式と合計で示します。
売上高の予測:業種別の4つの算式
公庫の参考資料「売上高等の計算方法について」は、業種の特性に応じて次の4つの算式を示しています。
| 向いている業種 | 算式 | 公庫の例(1か月) |
|---|---|---|
| 部品製造・印刷・運送 | 設備の生産能力×設備数 | 50円×500個×2台×25日=125万円 |
| 店舗販売(コンビニ等) | 1㎡当たり売上高×売場面積 | 16万円×100㎡=1,600万円 |
| 飲食・理容・美容 | 客単価×席数×回転数 | 3,950円×2台×4.5回転×25日≒88万円 |
| 自動車販売・清掃など | 1人当たり売上高×従業者数 | 256万円×3人=768万円 |
1㎡当たりや1人当たりの売上高は、公庫総合研究所の「小企業の経営指標」などで業界平均を調べられると資料は案内しています。同じ資料は、1つの方法で決めずに他の方法でも検討し、地域事情を加味して多角的に予測するよう勧めています。1枚版では採用した算式を1行で書き、使った単価や回転数の出所(業界平均、勤務時の実績、受注契約書など)を括弧で添えます。記入例の「300万円/件×1件/月=300万円(受注契約書あり)」がその形です。なお表の理髪店の例は、計算すると88万8,750円で、公庫の資料は万円未満を切り捨てた88万円と表記しています。
必要資金と調達方法:両側の合計の一致
8の欄は、左に必要な資金(設備資金と運転資金)、右に調達の方法を書き、両方の合計を一致させます。記入例(ソフトウェア開発業)の内訳は次のとおりです。
| 必要な資金 | 金額 | 調達の方法 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 設備資金(PC・サーバー、事務機器、備品、保証金) | 690万円 | 自己資金 | 610万円 |
| 運転資金(外注費、家賃を含む諸経費) | 920万円 | 公庫からの借入 | 500万円 |
| 他の金融機関からの借入 | 500万円 | ||
| 合計 | 1,610万円 | 合計 | 1,610万円 |
公庫の記入例には、設備資金について見積書を添付し、支払済みなら領収書や請求書を付けるよう注記があります。セルフチェックリストは、見積金額を相場や相見積もりで検証したか、事業開始後の運転資金(半年程度の赤字補てん資金など)を検討したか、自己資金が少なく借入依存の計画になっていないかを問います。記入例の自己資金比率は610万円÷1,610万円で約38%です。公庫は2024年4月1日の発表で、創業融資の「創業資金総額の1/10以上の自己資金」という要件をなくしました。要件がなくなっても、借入に頼り切った計画は返済の検算で不利になるので、自己資金の額と出所は1枚の中で明示します。
公庫の創業向けの主力融資である新規開業・スタートアップ支援資金は、融資限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(据置期間はいずれも5年以内)です。返済期間を何年で組むかで、次の検算の結果が変わります。
月の利益と返済元金・税金の検算
9の事業の見通しは、創業当初と軌道に乗った後の2列で、売上高・売上原価・経費(人件費、家賃、支払利息、その他)・利益を月平均で書きます。記入例の数字は次のとおりです。
| 項目 | 創業当初 | 軌道に乗った後 |
|---|---|---|
| 売上高 | 300万円 | 390万円 |
| 売上原価(外注費・原価率30%) | 90万円 | 117万円 |
| 経費合計 | 198万円 | 258万円 |
| 利益 | 12万円 | 15万円 |
公庫の記入例は利益欄について「所得税等の税金や借入金の返済元金はここから支払われます」と注記しています。記入例の借入は公庫と銀行の2本で、いずれも「元金6万円×84回」です。返済元金は月12万円となり、創業当初の利益12万円と同額です。この数字のままだと、利益から払う所得税等や売上の下振れに回す分が残りません。自分の計画では、返済元金に税金の見込みを足した額を利益が上回るかまで確かめます。
利益が返済元金と税金の合計を下回るなら、返済期間を延ばす、借入額を減らす、経費を見直す、のいずれかが必要です。売上を根拠なく引き上げて帳尻を合わせると、売上の算式と矛盾して面談で崩れます。支払利息は「借入金残高×年利÷12か月」で借入ごとに計算して合計するよう、公庫の参考資料に書かれています。なお、個人事業の場合は事業主本人の人件費を経費に含めないため、利益から生活費も賄う前提で検算します。黒字化に必要な売上の水準は、損益分岐点の計算方法:5つの計算式と決算書からの求め方、エクセルの式と複数商品の計算例【2026年版】で確かめられます。
1枚型フレームワークとの違い:ビジネスモデルキャンバス・リーンキャンバス・経営デザインシート
「1枚で事業を表す」書式には、ビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバス、内閣府の経営デザインシートもあります。どれもA4やスライド1枚に収まりますが、融資用の1枚版の代わりにはなりません。資金の調達方法と返済の欄がないためです。
| 書式 | 主な用途 | 資金・返済の欄 |
|---|---|---|
| 公庫の創業計画書 | 融資審査 | あり(8・9) |
| ビジネスモデルキャンバス | 事業の仕組みの整理 | なし(コスト構造・収益の流れのみ) |
| リーンキャンバス | 新規事業の仮説検証 | なし(コスト構造・収益の流れのみ) |
| 経営デザインシート | 将来像からの戦略の構想 | なし |
ビジネスモデルキャンバスは、顧客セグメント・価値提案・チャネル・顧客との関係・収益の流れ・主要リソース・主要活動・主要パートナー・コスト構造の9つのブロックで事業の仕組みを描きます(ビジネスモデルキャンバスとは?9つの要素の書き方と記入例、リーンキャンバスとの違い)。リーンキャンバスはこれを新規事業向けに組み替え、課題・ソリューション・主要指標・圧倒的な優位性などを置いた書式です。経営デザインシート(全社用)は1ページの様式で、自社の目的・特徴と経営方針のもと、資源・ビジネスモデル・価値・外部環境を「これまで」と「これから」に分けて書き、移行のための戦略を考えます。
使い分けははっきりしています。事業の構想を固める段階ではキャンバス類で「誰の何の課題を、どう解いて、どう稼ぐか」を詰め、その結論を公庫の10項目に書き写して数字を足すのが1枚版の作り方です。キャンバスの「収益の流れ」と「コスト構造」は、9の事業の見通しで算式に置き換えます。キャンバスだけを融資の窓口に持ち込むと、必要資金・調達方法・返済の根拠が欠けたままになります。
1枚に入らない根拠の別紙:見積書・月別収支計画書・契約書
1枚版の弱点は、根拠を書くスペースが足りないことです。文字を詰めて小さくするより、根拠を別紙に回す方が読み手に親切です。公庫の様式は末尾で参考資料の併せ提出を案内しています。これとは別に、公庫のお申込手続きのページは、設備資金を申し込む場合の見積書を必要書類に挙げています。
- 見積書・領収書:8の設備資金の金額の根拠
- 月別収支計画書:9の月平均を月ごとに展開したもの(公庫が様式と記入例を配布)
- 受注契約書や取引の内諾書:売上の算式で使った件数・単価の裏付け
- 資格の証明や実績の資料:2の略歴の裏付け
1枚目は「結論と主要な数字」、2枚目以降は「その数字の出所」と役割を分けます。売上の算式・資金の合計・月の利益の3つは1枚目に残し、削るのは内訳や出所の説明に限ると、1枚目だけ読んだ担当者にも判断材料が残ります。ExcelやPowerPointで作る場合の体裁はエクセルで事業計画書を作成する具体的な手順と必要シートの全体像と事業計画書をパワーポイント(パワポ)で作る方法|スライド構成例と提出先別の注意点にまとめています。口頭で1枚の要点を伝える練習には、エレベーターピッチとは?30秒=約150字で作る構成テンプレートと例文の型が使えます。
提出前に見直す1枚版の失敗パターン
1枚版は情報量が少ないぶん、1か所の矛盾が目立ちます。提出前に次の5点を確かめます。
- 売上高が「月商300万円」のように結果だけで、算式と単価・件数の出所がない
- 必要資金の合計と調達方法の合計が一致しない
- 創業当初の利益が月々の返済元金を下回っている
- 取引条件が掛売りなのに、運転資金がゼロか極端に少ない
- 7の借入状況に住宅ローンやカードローンを書き漏らしている
どれも数字同士の整合の問題で、文章を磨いても解消しません。セルフチェックリストの最後の問いも「全体を通して、整理されているか見直しを行っていますか」です。作成者以外の人に、売上の算式から利益と返済までを電卓で追ってもらうと見つかりやすくなります。
1枚の事業計画書についてよくある質問
1枚の事業計画書だけで公庫の融資は申し込めますか?
計画書は1枚で足ります。公庫の創業計画書の様式自体がA4横1ページです。ただし申込に必要な書類は計画書だけではありません。お申込手続きのページでは、インターネット申込を基本に、創業計画書のほか設備資金の場合の見積書、法人なら履歴事項全部証明書、本人確認書類などを挙げています。郵送で申し込む場合は、これらに借入申込書を添えます。申込後の面談で内容を確認されるので、1枚に書いた数字の根拠は別紙や口頭で説明できるようにしておきます。
公庫の様式を使わず自作の1枚でもよいですか?
よいです。様式に「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」と明記されています。自作する場合も、関連企業や個人の借入状況を含む10項目を落とさないようにします。
開業前で実績がない場合、売上の根拠はどう書けばよいですか?
業種に合った算式(客単価×席数×回転数など)を使い、数値の出所を添えます。公庫の資料は「小企業の経営指標」の業界平均を調べる方法を案内しており、記入例では「受注契約書あり」「勤務時の経験から」と出所を書いています。
1枚の事業計画書のテンプレートはどこで入手できますか?
公庫の各種書式ダウンロードのページで、創業計画書のExcel版とPDF版、業種別の記入例(2025年4月版で9業種)、月別収支計画書の様式が配布されています。融資以外の用途でも、この様式を下敷きにすると項目の抜けを防げます。
補助金の申請に1枚の事業計画書は使えますか?
提出できるかは制度ごとの公募要領で決まります。公募要領が様式や記載項目を定めている場合は、自作の1枚ではなくその様式に書きます。その場合でも1枚版は、様式に書き込む前に事業の骨子と数字を固める下書きとして使えます。