居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)の売上は、ほぼ「担当件数×要介護度別の単位数×地域区分の単価」だけで決まります。利用者負担が無く、物販も保険外サービスも基本的に無いので、事業計画書の数字は担当件数の伸び方と人件費でほぼ説明がつきます。この記事では、令和6年度改定の単位数と基準省令の員数から売上の上限を出し、損益分岐の件数と、入金が翌々月になることで必要になる運転資金を試算します。指定申請と日本政策金融公庫の融資で求められる書類の違いも、2026年10月時点の制度で整理します。
まとめ:居宅介護支援の事業計画書で押さえる数字
- 基本報酬は居宅介護支援費(Ⅰ)(ⅰ)で要介護1・2が1,086単位、要介護3〜5が1,411単位(1か月・1人あたり)。利用者負担は無く、全額を国保連へ請求します。
- 介護支援専門員は利用者44人ごとに1人(ケアプランデータ連携システムの利用と事務職員の配置で49人)。ケアマネ1人で開業すると、担当できるのは44件までです。
- 管理者は原則として主任介護支援専門員。令和9年3月31日までの経過措置は既存事業所向けで、新規開業には使えません。
- その他地域・要介護1・2が6割の前提で1件あたり約12,160円。このモデルで固定費を月46.5万円とすると損益分岐は39件で、1人事業所の上限44件との差は5件しかありません。
- 介護報酬の入金はサービス提供の翌々月。月4件ずつ増える想定では、累計の資金不足は開業11か月目に約293万円まで膨らみます。
- 指定申請の記載事項を定める施行規則132条に事業計画書は無く、「事業開始時の利用者の推定数」を書きます。自治体が独自に求める書類は申請先の手引で確認し、融資用の創業計画書と推定数をそろえておきます。
提出先で変わる事業計画書:指定申請と公庫融資
「事業計画書」と呼ばれる書類は、提出先によって中身が違います。居宅介護支援で出番が多いのは、市町村への指定申請と、日本政策金融公庫などへの融資申込みの2つです。
指定申請で求められる記載事項と利用者の推定数
居宅介護支援事業者の指定は、事業所の所在地の市町村長が行います。介護保険法施行規則132条が定める申請書の記載事項は、事業所の名称・所在地、登記事項証明書、平面図、管理者の経歴、運営規程、苦情処理の措置、従業者の勤務体制、介護支援専門員の氏名と登録番号などで、収支計画や資金計画は入っていません。そのかわり7号に「当該申請に係る事業の開始時の利用者の推定数」があり、これが事業計画書の売上計画と直結します。融資用の計画で初月から30件を見込みながら、指定申請で推定数を5人と書けば、どちらかの数字が説明できなくなります。
指定日は自治体ごとに決まっています。たとえば西宮市は原則毎月1日に指定し、6月1日指定なら4月15日が申請の最終締切です(締切日が土日祝日なら前の開庁日)。事前相談や法人設立の期間を加えると、開業希望日の3〜4か月前には動き始める計算になります。
公庫の創業計画書で問われる項目
融資の審査で使うのは、日本政策金融公庫が書式ダウンロードのページでExcel版とPDF版を公開している「創業計画書」です。創業の動機、経営者の略歴、取扱商品・サービス、従業員、借入状況、必要な資金と調達方法、事業の見通し(月平均)を書きます。各欄の埋め方は事業計画書を1枚(A4)で書く方法|公庫の創業計画書10項目の埋め方と数字の根拠で解説しています。公庫は事業計画の内容や経営者の経験も含めて審査しますが、居宅介護支援の計画書で特に崩れやすいのは、「事業の見通し」の売上が担当件数と単位数から計算されているか、黒字化までの運転資金が「必要な資金」に入っているかの2点です。
人員基準と法人要件から決まる開業の形
管理者の主任介護支援専門員要件と経過措置の対象
指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準3条は、常勤の管理者を置き、その管理者を主任介護支援専門員とするよう定めています。主任介護支援専門員でない管理者を令和9年3月31日まで認める経過措置は、令和3年3月31日までに指定を受け、同日時点の管理者が主任でない事業所に限られます(厚生労働省の改正省令)。これから開業する事業所は、開業時点で主任介護支援専門員を管理者に置く必要があります。主任の確保が「著しく困難」なやむを得ない場合の例外は同条ただし書にありますが、使える場面は市町村が判断するため、開業の前提にはしません。
管理者は自事業所の介護支援専門員の職務と兼務できるので、主任ケアマネ本人が1人で管理者と担当ケアマネを兼ねる開業は基準上可能です。
介護支援専門員の員数:44人と49人の境目
同基準2条は、常勤の介護支援専門員を1人以上置き、利用者44人またはその端数ごとに1人とすると定めています。要支援者(介護予防支援)は3分の1人として数えます。国保中央会のケアプランデータ連携システムを利用し、かつ事務職員を置く場合は49人ごとに1人です。
1人事業所で45人目の利用者を受けると、2人目のケアマネが必要になります。事業計画書で1人体制のまま担当件数を50件、60件と伸ばす計画は、基準上成り立ちません。
法人格と事務所の要件
介護保険法79条2項1号は、申請者が市町村の条例で定める者でなければ指定しないと定め、その条例の基準を施行規則132条の3の2が「法人であること」としています。個人事業のままでは指定を受けられないため、株式会社や合同会社を先に設立します。設立の登録免許税は株式会社で最低15万円、合同会社で最低6万円で、これも創業計画書の「必要な資金」に入れます。事務所は、相談に使えるスペースと個人情報を施錠保管できる設備を、平面図で示せる形にしておきます。
単位数と担当件数で組む売上計画
居宅介護支援費の単位数と逓減制
居宅介護支援費は利用者1人につき1か月単位で算定し、ケアマネ1人あたりの取扱件数が一定を超えると、超えた部分の単価が下がります(厚生労働省 単位数表)。
| 区分 | 取扱件数 | 要介護1・2 | 要介護3〜5 |
|---|---|---|---|
| (Ⅰ)(ⅰ) | 45件未満 | 1,086単位 | 1,411単位 |
| (Ⅰ)(ⅱ) | 45件以上60件未満 | 544単位 | 704単位 |
| (Ⅰ)(ⅲ) | 60件以上 | 326単位 | 422単位 |
| (Ⅱ)(ⅰ) | 50件未満 | 1,086単位 | 1,411単位 |
| (Ⅱ)(ⅱ) | 50件以上60件未満 | 527単位 | 683単位 |
| (Ⅱ)(ⅲ) | 60件以上 | 316単位 | 410単位 |
(Ⅱ)はケアプランデータ連携システムの活用と事務職員の配置が要件です。45件目以降が半額近くまで下がるため、ケアマネ1人あたり44件((Ⅱ)なら49件)が、報酬面でも員数基準でも実質的な上限になります。
地域区分別の単価と売上の円換算
1単位の単価は事業所所在地の地域区分で決まり、居宅介護支援は1級地11.40円、2級地11.12円、3級地11.05円、4級地10.84円、5級地10.70円、6級地10.42円、7級地10.21円、その他10.00円です(厚生労働省 地域区分)。同じ40件でも、1級地とその他地域では月の売上に1割以上の差が出ます。所在地の級地を確認してから単価を置きます。
1人開業モデルの月間売上と上限
その他地域(10.00円)で、要介護1・2が6割、要介護3〜5が4割という前提を置くと、1件あたりの平均は1,216単位、約12,160円です。要介護度の構成は地域の認定状況と紹介元によって変わるので、自分の想定に置き換えてください。
| 担当件数 | 月の売上 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 20件 | 243,200円 | 立ち上げ期 |
| 39件 | 474,240円 | 損益分岐(後述) |
| 44件 | 535,040円 | 1人体制の上限 |
| 49件 | 595,840円 | (Ⅱ)算定時の上限 |
この要介護度構成と地域単価では、加算・減算を除く基本報酬は1人体制で月53.5万円が上限になります。(Ⅱ)で5件増やすと売上は約6万円増えますが、事務職員の人件費がかかります。ケアプランデータ連携システムの利用料(年額21,000円)は令和8年度中は無料で、令和9年1月予定の介護WEBサービスへの移行後も利用料は求めないと厚生労働省が案内しています(介護保険最新情報Vol.1529)。費用の中心は事務職員の人件費なので、1人事業所が事務職員を新たに雇ってまで(Ⅱ)を狙っても、採算は合いにくいでしょう。(Ⅱ)は、複数のケアマネで事務職員を共有できる規模になってから計画に入れます。仕組みと算定要件はケアプランデータ連携システムとは|利用要件と導入手順、介護ソフト連携の確認点にまとめています。
加算と処遇改善加算の扱い
加算のうち、立ち上げ期から見込めるのは初回加算(300単位)、入院時情報連携加算((Ⅰ)250単位・(Ⅱ)200単位)、退院・退所加算(450〜900単位)です。どれも件数が読みにくいので、売上計画では基本報酬と分けて保守的に置きます。特定事業所加算は(Ⅰ)519単位・(Ⅱ)421単位・(Ⅲ)323単位・(A)114単位ですが、最も軽い(A)でも常勤の主任介護支援専門員1人と常勤の介護支援専門員1人に加え、介護支援専門員を常勤換算で1人以上置く必要があります。1人開業では算定できないので、2〜3年目の人員計画とセットで書きます。
令和8年6月からは居宅介護支援にも処遇改善加算が新設され、所定単位数の1000分の21(2.1%)を加算します(厚生労働省告示)。賃金改善に充てることが前提の加算なので、利益の源泉としては数えず、売上と人件費の両方に同額を載せます。区分と配分の実務は処遇改善加算とは?令和8年6月からの6区分と配分計算・実績報告の実務を解説を参照してください。
経費・損益分岐点と運転資金の計算
人件費が8割に近い費用構造
令和7年度介護事業経営概況調査では、居宅介護支援の収支差率は令和6年度決算で6.2%、収入に対する給与費の割合は76.2%でした。他の介護サービスと比べても給与費の比率が高く、費用のほとんどがケアマネの人件費です。事業計画書の経費は、人件費を先に固め、残りを家賃・介護ソフト・車両などで積み上げる順で組みます。
1人開業モデルの月の固定費は、次のように置きました(いずれも想定値)。
- 管理者兼ケアマネの給与30万円+社会保険の事業主負担 約4.5万円
- 事務所家賃 6万円
- 介護ソフト・通信 2万円
- 車両・燃料 2万円
- 消耗品・保険・会計など 2万円
合計46.5万円です。介護ソフトは請求と給付管理に欠かせないので、居宅介護支援に対応した製品を選ぶ基準を介護ソフトの選び方|サービス種別・規模で決める要件と2026年度の制度対応【2026年版】で確認しておきます。複数事業所の運営で既製ソフトの帳票や連携が合わない場合は、医療・介護機関向けのシステム開発で業務に合わせる選択肢もあります。
損益分岐となる担当件数
損益分岐の担当件数は「月の固定費÷1件あたりの報酬」で求めます。モデルでは46.5万円÷12,160円=38.2件なので、39件で黒字に転じます。1人体制の上限44件との差は5件で、このモデルでは44件でも70,040円の黒字にとどまります。病欠や入院で数件減るだけで赤字に戻る水準であり、給与30万円を確保しながら1人で利益を厚く残す計画は描けません。事業計画書では、2人目のケアマネを採用する時期と、採用後に1人あたり何件で黒字になるかまで書いておくと、融資の審査で成長の筋道を説明できます。
入金が翌々月になる運転資金
介護給付費は、サービス提供月の翌月1日から10日までに国保連へ請求し、提供月の翌々月に支払われます(東京都国民健康保険団体連合会 請求の手引)。開業月の報酬が口座に入るのは3か月目です。
モデルで、開業月の担当件数を4件とし、毎月4件ずつ純増して10か月目に40件に達し、各月の報酬が2か月後に入金されると置くと、累計の資金不足は11か月目に約293万円で底を打ちます。11か月間の固定費の支払い511.5万円に対し、入金は218.9万円にとどまるためです。この額に法人設立費用、事務所の敷金、PCや複合機などの初期費用を足し、さらにモデルに入れていない税金や借入の返済、請求の返戻による入金遅れの余裕を見込んで、自己資金と借入の額を決めます。件数の伸びが月2件なら、底はさらに深く、遅くなります。紹介元の地域包括支援センターや医療機関に開業前から挨拶回りをしておくことが、資金計画上も効いてきます。
公庫融資の制度と自己資金の示し方
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、新たに事業を始める人や事業開始後おおむね7年以内の人が対象で、融資限度額は7,200万円です(公庫 融資制度一覧)。居宅介護支援の借入額は限度額よりはるかに小さいので、問われるのは限度額ではなく返済の根拠です。資金不足の底の額と時期を月別の資金繰り表で示し、自己資金がどこまでを賄うか、借入の返済が何件の時点から可能かを、上の損益分岐と同じ前提でつなげておきます。
開業計画に反映する制度改正と施行時期
令和6年度改定後も、居宅介護支援の事業計画に効く変更が続いています。1つ目は前述の処遇改善加算2.1%で、算定には届出と賃金改善の計画・実績報告が必要です。2つ目は令和8年の介護保険法改正で、介護保険法改正とは?令和8年法律第51号の施行日と介護システムの改修項目のとおり、介護支援専門員証の有効期間と更新研修は公布から1年6月以内に廃止されます。ケアマネ本人の更新負担は軽くなる一方、事業者にはケアマネの従事開始・終了の都道府県知事への報告と研修受講機会の確保が求められます。研修費と勤務時間の扱いは、人件費の欄で見込んでおきます。
3つ目は介護予防支援です。令和6年度から居宅介護支援事業者も市町村の指定を受けて介護予防支援を直接行えるようになり、その報酬は472単位です。要支援者は員数・件数の計算で3分の1人として扱われるので、要介護者だけでは44件に届かない地域では、売上の補完策として計画に入れる価値があります。
よくある質問
居宅介護支援事業所の指定申請に事業計画書は必要ですか?
介護保険法施行規則132条の記載事項に、事業計画書や収支計画は含まれていません。ただし「事業の開始時の利用者の推定数」の記載が求められ、自治体が独自に事業計画の提出を求める場合もあります。申請先の市町村の手引で確認し、融資用の計画と推定数をそろえておきます。
ケアマネ1人で居宅介護支援事業所を開業できますか?
できます。管理者は自事業所の介護支援専門員と兼務できるので、主任介護支援専門員が1人で管理者とケアマネを兼ねる形は基準を満たします。ただし担当できるのは44件まで(ケアプランデータ連携システムの利用と事務職員の配置で49件)で、特定事業所加算も算定できません。その他地域・要介護1・2が6割という前提のモデルでは、44件の基本報酬は月53.5万円です。
主任ケアマネでなくても開業できますか?
創業者本人が主任ケアマネでなくても、主任介護支援専門員を管理者として配置すれば開業できます。要件が課されるのは管理者で、令和9年3月31日までの経過措置は令和3年3月31日以前に指定を受けた事業所に限られるため、新規開業では主任の管理者が必須です。主任の確保が著しく困難な場合の例外規定はありますが、適用は市町村の判断です。
居宅介護支援事業所の開業資金はいくら必要ですか?
初期費用に加えて、黒字化までの運転資金が要ります。月の固定費46.5万円・毎月4件ずつ増加という前提では、入金が翌々月になる影響で累計の資金不足が約293万円に達しました。固定費と件数の伸びを自分の想定に置き換え、月別の資金繰り表で底の額を求めてください。
居宅介護支援に利用者の自己負担はありますか?
ありません。居宅介護支援は利用者負担のない給付で、報酬の全額を国保連へ請求します。そのため売上の回収漏れは起きにくい一方、入金は提供月の翌々月になります。