そば屋・うどん屋の事業計画書は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入欄に沿って書くと、融資の面談で聞かれる項目をひととおり押さえられます。「事業の見通し」欄では、売上・原価・経費の計算根拠と、利益から借入を返せる見通しを数字で示します。
そば・うどん店は原価率が低いので、計画書の利益も出しやすく見えます。ところが公庫の2025年度経営指標では、そば・うどん店の営業利益率は飲食店の中でも低い水準でした。この記事では、その理由を業界数値で確かめたうえで、昼中心の売上の組み方、坪売上による検算、返済と生活費まで賄える売上の逆算を設例で示します。自家製麺や持ち帰り用の麺を売るときの許可の線引きと、そばアレルギーへの備えもまとめました。
まとめ:そば・うどん店の事業計画書で押さえる要点
- 日本政策金融公庫へ出すなら、配布されている創業計画書の記入欄(1〜10)に沿って書きます。自分で作った計画書を代わりに出すこともできます。
- 月の売上は、昼・夜それぞれの「客単価×席数×1日当たりの回転数×営業日数」と、持ち帰りの「単価×1日当たりの件数×営業日数」を合計します。
- 公庫の2025年度経営指標で、そば・うどん店26社の売上高総利益率は平均69.4%(原価率に直すと約31%)と、一般飲食店の65.0%より高い水準でした。
- 一方で人件費率は38.2%と一般飲食店より高く、店舗面積3.3㎡当たりの年間売上高は平均1,675千円・中央値1,165千円と低い水準で、営業利益率は平均-3.9%でした。原価率の低さだけで利益を見込む計画は、面談で根拠を問われます。
- 目標にするのは損益分岐点ではなく、返済元金と生活費まで賄える売上です。設例では月約133万円が必要で、昼の回転数が1.5から1.3に落ちると届かなくなりました。
- 店で打った麺を店で茹でて出すだけなら、飲食店営業の許可に加えて麺類製造業の許可を取る必要はありません。ただし、同じ施設で作った麺を継続的に包装して売るなら、麺類製造業の許可が要ります。
以下、創業計画書の記入欄から順に、数字の組み立て方を説明します。
そば・うどん店の事業計画書と公庫の創業計画書の記入欄
個人や小さな会社でそば・うどん店を開く場合、資金調達の第一候補は日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金です。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。公庫が各種書式ダウンロードページで配布している創業計画書には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」とあります。自作するときも、次の記入欄と同じ項目を入れておくと面談で照合しやすくなります。
| 記入欄 | そば・うどん店で書く中身 |
|---|---|
| 1 創業の動機 | 修業経験から見えた需要と立地 |
| 2 経営者の略歴等 | 勤務先・年数・打ち場や釜場の担当 |
| 3 取扱商品・サービス | 昼・夜・持ち帰りの単価と売上シェア |
| 4 従業員 | 3か月以上雇用予定の人数 |
| 5 取引先・取引関係等 | 製粉会社・製麺所・酒販店と支払条件 |
| 6 関連企業 | 本人・法人代表者・配偶者の経営企業 |
| 7 お借入の状況 | 住宅・車・カードなどの残高 |
| 8 必要な資金と調達方法 | 設備資金・運転資金と調達先 |
| 9 事業の見通し(月平均) | 売上・原価・経費・利益と根拠 |
| 10 自由記述欄 | 許可の取得予定日・アピール点 |
公庫の創業計画書の記入例は、飲食店では洋風居酒屋の1件だけで、そば・うどん店の例はありません。ただ、事業の見通し欄の書き方はそのまま使えます。記入例では売上を「昼900円×25席×0.8回転×26日=46万円」「夜(月〜木)4,500円×25席×0.6回転×18日=121万円」のように時間帯と曜日で分け、原価率35%の根拠を「勤務時の経験から」と書いています。
創業の動機・経営者の略歴と修業先・担当した持ち場
公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業者のうち現在の事業に関連する仕事の経験(斯業経験)がある人は81.1%で、経験年数の平均は15.3年でした。そば・うどん店の略歴欄では「そば店で何年」だけでなく、麺打ち・釜場(茹で)・天ぷら・つゆの仕込みのどこを担当したかまで書きます。様式にも「担当業務や役職、身につけた技能等についても記載してください」と指示があります。
手打ちの店なら、1日に打てる量が昼の客数の上限を決めます。「修業先で1回に何人前を何分で打っていたか」「開店前の仕込みに何時間かかったか」が書ければ、昼の回転数と人員配置の根拠になります。そば打ち教室や趣味の経験だけで開く場合は、提供の速さと仕込みの量を裏付ける材料が弱いので、経験者を雇う計画や、開業前に店で働く期間を書き添えます。
取扱商品欄の業態設定:手打ち専門店・セルフうどん・立ち食い
同じそば・うどん店でも、業態で計画の前提が変わります。
- 手打ちそばの専門店は、昼の客単価と、夜に酒と一品料理をどこまで売るかが売上を決めます。打ち手が1人なら、1日に出せる食数に上限があります。
- セルフ式のうどん店は、客単価が低いぶん、昼のピークにさばける人数と、トッピングの追加で上がる単価が売上を決めます。接客の人手が少ない代わりに、茹で・盛り付けの動線が計画の中心になります。
- 立ち食いそばは、席数ではなく立ち位置の数と滞在時間で客数を見積もります。駅前などの人通りが前提なので、通行量の調査結果が売上の根拠になります。
取扱商品欄の売上シェアは、この業態設定と矛盾しない配分にします。昼の売上シェアを6割と置くなら、昼の客数を打ち場・釜場の人数でさばけるかを確かめ、ここで出した客単価と営業日数を次の章の売上の式に使います。
そば・うどん店の業界数値:公庫の経営指標で見る原価率・人件費・坪売上
売上や原価率が妥当かは、公庫の小企業の経営指標調査(2025年度・飲食店,宿泊業)で確かめます。そば・うどん店は独立した区分があり、そば屋もうどん屋も同じ数字で比べます。調査対象は26社と少ないため、上位分類の一般飲食店(464社)と並べて見ます。
| 指標 | そば・うどん店 平均 | 同 中央値 | 一般飲食店 平均 |
|---|---|---|---|
| 調査対象数 | 26社 | 464社 | |
| 売上高総利益率 | 69.4% | 70.3% | 65.0% |
| 人件費対売上高比率 | 38.2% | 37.4% | 32.9% |
| 諸経費対売上高比率 | 31.4% | 31.5% | 30.7% |
| 売上高営業利益率 | -3.9% | -2.9% | -2.2% |
| 損益分岐点比率 | 106.5% | 104.8% | 104.5% |
| 店舗面積3.3㎡当たり売上高(年) | 1,675千円 | 1,165千円 | 2,220千円 |
| 1企業当たり店舗面積 | 177.6㎡ | 138.0㎡ | 142.9㎡ |
使う前に、調査の前提を3つ押さえておきます。利用の手引きによると、対象は公庫が2025年4〜12月に融資した法人企業で、個人事業は入っていません。人件費には役員報酬・退職金・福利厚生費が含まれます。店舗面積は事務所・倉庫・車庫・厨房などを除いた面積です。手引きは、サンプル数が著しく少ない業種では信頼区間に注意し、上位の分類の数値も参考にするよう求めています。
原価率は低いのに営業利益率が低い理由
表から読み取れるのは、そば・うどん店は原価率が一般飲食店より約4ポイント低い一方で、人件費率が約5ポイント高く、坪売上は平均でも一般飲食店の約75%にとどまるという構造です。調査は理由までは示していませんが、粉から麺を作る業態では材料費が抑えられる一方、打つ・茹でる・天ぷらを揚げるといった手間が人件費に乗ると考えられます。昼に客が集中する店では、夜の席が埋まらない分だけ坪売上も下がります。黒字かつ自己資本がプラスの企業は26社中6社でした。
原価率を30%前後と置くのは業界の実態に沿っていますが、「原価率が低いから利益が残る」とは言えません。人件費率を業界より低く置くなら家族で回す体制を、坪売上を中央値より高く置くなら立地と客数の根拠を示します。
個人の計画の人件費には事業主本人の分が含まれません。事業主の生活費を加える比較は資金負担を見るための参考計算であり、役員報酬・退職金・福利厚生費を含む法人の人件費率38.2%と同じ定義にはなりません。坪売上も、契約面積ではなく客席部分の面積で割ります。人件費率の計算と業種別の見方は人件費率とは?計算式と業種別の目安、労働分配率との違い、日次で予実管理する仕組み【2026年版】で解説しています。
小さな店の比較相手:一般飲食店の1〜4人規模
経営指標の従業者規模別の表は、サンプル数が100件以上の業種にしかなく、そば・うどん店にはありません。夫婦とパート1〜2人で開く店なら、上位分類の一般飲食店の「1〜4人」(136社)が規模の近い比較相手です。従業者数には代表者と、3か月以上雇用するパート・アルバイトも数えます。
| 指標(平均値) | 一般飲食店 1〜4人 | 一般飲食店 全体 |
|---|---|---|
| 売上高総利益率 | 65.0% | 65.0% |
| 人件費対売上高比率 | 30.6% | 32.9% |
| 諸経費対売上高比率 | 34.5% | 30.7% |
| 売上高営業利益率 | -4.6% | -2.2% |
| 損益分岐点比率 | 108.0% | 104.5% |
| 店舗面積3.3㎡当たり売上高(年) | 1,642千円 | 2,220千円 |
| 1企業当たり店舗面積 | 86.7㎡ | 142.9㎡ |
1〜4人の店は家賃や光熱費などの諸経費の比率が全体より約4ポイント高く、営業利益率は-4.6%です。坪売上1,642千円は、そば・うどん店の平均1,675千円とほぼ同じ水準でした。小さなそば・うどん店の計画で坪売上を1,700千円より高く置く場合は、平均を上回る理由を立地・客単価・客数から説明する必要があります。
そば・うどん店の売上予測:昼・夜・持ち帰り別の客単価×席数×回転数
公庫の売上高等の計算方法は、飲食店営業を含むサービス業の売上を「客単価×設備単位数(席数)×回転数」で求めるとしています。そば・うどん店は昼に客が集中し、夜は酒と一品料理で客単価が上がる一方で客数は減るので、時間帯ごとに式を分けます。持ち帰りは席を使わないので、件数×単価の別の行にします。
以下は、手打ちそばを中心にうどんも出す店の設例です。契約面積15坪(客席部分約40㎡)・20席・月25日営業・従業者3人(事業主、配偶者、パート1人)とします。
| 区分 | 計算式 | 月の売上 |
|---|---|---|
| 昼(せいろ・天ぷらそば等) | 1,100円×20席×1.5回転×25日 | 82.5万円 |
| 夜(酒・一品・〆のそば) | 2,200円×20席×0.4回転×25日 | 44.0万円 |
| 持ち帰り(天ぷら・そば弁当) | 800円×8件×25日 | 16.0万円 |
| 合計 | 142.5万円 |
1日の客数にすると、昼30人・夜8人・持ち帰り8件です。回転数と件数には、それぞれ根拠を添えます。昼の1.5回転は「近隣の事業所の昼休みと、1人前を茹で上げるまでの時間」、夜の0.4回転は「競合店の夜の入り」、持ち帰り8件は「修業先での持ち帰りの件数」など、数えられる事実で説明します。
坪売上による月商の検算
設例の月商142.5万円を年に直すと1,710万円、客席部分40㎡(約12.1区画分の3.3㎡)で割ると、3.3㎡当たり約1,411千円です。そば・うどん店の中央値1,165千円より約2割高く、平均1,675千円よりは低い水準です。一般飲食店の1〜4人の平均1,642千円も下回ります。ただし、平均以下であることだけでは月商の実現可能性を判断できず、出店地の需要、提供能力、昼・夜・持ち帰りそれぞれの客数の根拠が必要です。
中央値より高い分は、昼の回転数の根拠で説明します。坪売上が平均を大きく上回る計画になったら、回転数か客単価が高すぎないかを見直します。比較は持ち帰りを含めた総売上同士で行います。
原価率・人件費・経費の組み方と返済まで賄える売上
売上原価は「売上高×原価率」で出します。設例の原価率は、経営指標の総利益率69.4%に近い31%としました。そば粉・小麦粉・つゆの材料・天ぷらの具材をメニュー別に原価計算し、取扱商品欄の売上シェアで加重平均した値がこれに近いことを確かめておきます。人件費は、公庫の計算方法にある通り、個人営業では事業主の分を含めず、家族従業員の分は含めます。
| 項目(月平均) | 金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 売上高 | 142.5万円 | 昼・夜・持ち帰りの合計 |
| 売上原価 | 44.2万円 | 売上×原価率31% |
| 人件費 | 22.4万円 | 専従者8万円+パート1人 |
| 家賃 | 15.0万円 | 契約書の賃料 |
| 水道光熱費 | 10.0万円 | ガス・電気・水道の見積り |
| その他経費 | 12.0万円 | 消耗品・広告・決済手数料・清掃 |
| 支払利息 | 1.5万円 | 700万円×年2.5%÷12 |
| 利益 | 37.4万円 | 事業主の生活費と返済元金の原資 |
パートの給与は時給1,150円×1日5時間×25日で約14.4万円、配偶者の専従者給与を8万円とした仮定です。実際の時給は、出店地域と雇用開始日に適用される最低賃金以上で設定し、その金額で収支を再計算します。茹で釜を一日中沸かしておくそば・うどん店は、ガス代と水道代が膨らみやすいので、水道光熱費は機器の能力と営業時間をもとにガス会社の見積りを取ります。支払利息は、公庫の計算方法にある「借入金残高×金利(年利)÷12か月」で、借入700万円・年2.5%と仮定しています。実際の利率は融資の決定時に確認します。
参考として業界値と並べると、人件費22.4万円に事業主の生活費25万円を足した比率は約33%で、経営指標の38.2%を下回ります。家賃・光熱費・その他経費の合計37万円は売上の約26%で、諸経費の31.4%より低い計画です。どちらも業界より有利な数字なので、家族で回す体制や賃料の安い理由を、計画書の根拠欄で説明できるようにしておきます。
返済元金と生活費から逆算する必要売上
計画書の利益は、所得税などの税金と借入の返済元金を払う前の金額で、個人営業では事業主の生活費もここから出ます。設例では、公庫借入700万円を据置期間なし・元金均等返済で10年(120回)かけて返すと仮定し、返済元金を月約5.8万円とします。生活費と税金・社会保険料に月25万円かかるとすると、利益は月30.8万円以上必要です。
必要な売上は「(経費+必要な利益)÷総利益率」で、(60.9万円+30.8万円)÷69%=約132.9万円です。設例の142.5万円との差は約9.6万円で、売上が7%弱減るだけで届かなくなります。
| 昼の回転数 | 月の売上 | 利益 | 必要額30.8万円との差 |
|---|---|---|---|
| 1.5回転(計画) | 142.5万円 | 37.4万円 | +6.6万円 |
| 1.4回転 | 137.0万円 | 33.6万円 | +2.8万円 |
| 1.3回転 | 131.5万円 | 29.8万円 | -1.0万円 |
| 1.2回転 | 126.0万円 | 26.0万円 | -4.8万円 |
昼の回転数が1.5から1.3に落ちるだけで、返済と生活費を賄えなくなります。昼に売上の6割近くを頼るそば・うどん店では、雨の日や近隣の事業所の休業がそのまま響きます。公庫の新規開業実態調査では、予想月商を達成した開業者は約6割(100〜125%未満が24.5%、125%以上が34.2%)で、残りの約4割は届いていません。計画の段階で回転数を下げた表を作っておくと、面談で「売上が計画を下回ったらどうするか」と聞かれたときに数字で答えられます。月ごとの入出金まで落とし込むなら資金繰り表の作り方:エクセルで組む5手順と入金予定日の計算式、自動化の判断【2026年版】の手順が使えます。
業界の損益分岐点比率106.5%との比べ方
公庫の経営指標の損益分岐点比率は「(営業経費+支払利息)÷売上高総利益率」を売上高で割った値です。設例の経費60.9万円で計算すると、売上の分岐点は約88.3万円、計画売上に対する比率は約62%です。ただし、設例では減価償却費を計上していないため、これは減価償却前の簡易計算であり、公庫の営業経費を用いた損益分岐点比率106.5%とは計算条件が異なります。
減価償却費のほかにも、業界の数字は法人の役員報酬を経費に含めているのに対し、設例の経費には事業主の生活費が入っていないという違いがあります。個人の計画では、会計上の損益分岐点ではなく、生活費・税金・社会保険料・返済元金まで賄える必要売上(設例では計画売上の約93%)で余裕を見ます。この約93%は設例の結果で、個人店全般の目安ではありません。比率の意味と月次での追い方は損益分岐点比率とは?計算式と業種別の目安、安全余裕率の見方と月次で追う方法【2026年版】で解説しています。
そば・うどん店の必要資金:製麺の設備と茹で場の初期投資
そば・うどん店の必要資金で業態ごとの差が出るのは、麺を自分で打つか、製麺所から仕入れるかです。手打ちなら打ち台・のし棒・麺切り包丁などの道具と打ち場の広さが、機械打ちなら製麺機の購入費と置き場所が要ります。製麺所から仕入れるなら製麺の設備はいりませんが、原価率は上がります。設例の必要資金は次の通りです。金額は設例で、計画書には見積書の数字を書きます。
| 区分 | 内訳(設例) | 金額 |
|---|---|---|
| 設備資金 | 店舗内外装工事(打ち場を含む) | 400万円 |
| 設備資金 | 厨房機器(茹で麺機・フライヤー・冷蔵庫・洗浄機) | 230万円 |
| 設備資金 | 手打ちの道具(打ち台・のし棒・包丁・こね鉢) | 50万円 |
| 設備資金 | 排気・ガス・給排水の工事 | 80万円 |
| 設備資金 | 什器・備品・レジ | 50万円 |
| 設備資金 | 保証金 | 90万円 |
| 運転資金 | 仕入・経費の支払い(月の支出の約1.4か月分) | 150万円 |
| 合計 | 自己資金300万円・親族からの贈与50万円・公庫700万円 | 1,050万円 |
公庫の2025年度新規開業実態調査では、全業種の開業費用は平均975万円、中央値600万円で、資金調達額の平均1,219万円のうち自己資金は279万円(22.9%)でした。設例の1,050万円は平均に近い水準ですが、内装と厨房の見積書を添えて、金額の理由を示します。
居抜き物件で確かめる茹で釜・ガス・排水の能力
居抜き物件は内装工事費を抑えられますが、前の店がそば・うどん店でなければ、茹で釜を置く前提の設備が足りないことがあります。次の点を設備業者とガス会社に確認し、増設が要るなら見積もりを設備資金に入れます。
- ガスのメーターと配管の容量が、茹で麺機とフライヤーを同時に使える大きさか
- 茹で湯を捨てる排水と、天ぷら油を含む排水を受けるグリストラップがあり、清掃できる位置と容量か
- 茹で釜の湯気と天ぷらの油煙を外へ出す排気の能力があるか
- 手打ちなら、打ち台を置いて粉を扱える広さと、客席から見せるかどうかの配置
確認結果は、機器の型番と能力、既存設備の仕様、追加工事の見積額として残します。前掲設例の排気・ガス・給排水工事80万円も仮置きの金額なので、この確認で得た見積額に置き換え、必要資金の根拠にします。
そば・うどん店の許認可と、自家製麺・そばアレルギーの扱い
そば・うどん店の開業で必ず要るのは、保健所の飲食店営業の許可と、店ごとに1人置く食品衛生責任者です。HACCPに沿った衛生管理の計画と記録も求められます(要件はHACCP義務化はいつから?2021年6月完全施行後の対象範囲と記録保存の実務要件)。許可の申請予定日と取得予定日は、自由記述欄に書いておきます。
自家製麺と持ち帰り販売:麺類製造業の許可が要る場合・要らない場合
厚生労働省の営業許可制度の見直しに関するQ&A(問5)は、飲食店営業の許可を持つラーメン店が自家製麺に切り替える例について、「飲食店営業者が自ら麺を製造し、これを調理し提供する場合には、追加的に他の営業許可を取得する必要はありません」と答えています。短期間のうちに消費されることを前提にテイクアウト用として売る場合も、基本的に追加の許可は要らないとしています。そば・うどん店が店で打った麺を店で茹でて出すのも、同じ考え方です。
線を引いているのが、厚生労働省の営業許可に関する関連通知(令和5年12月27日改正)です。麺を製造して調理・提供する施設は飲食店営業の許可で足り、麺類製造業の許可を重ねて取る必要はないとしたうえで、「同様の施設において、継続的に、製造した麺を包装し販売する場合、麺類製造業の許可を要すること」と定めています。打ち立ての生そばを袋に入れて毎日店頭で売る、生麺を土産物として並べる、他の店やスーパーへ卸す、といった計画はこちらに当たり得ます。
計画書では、持ち帰りの売上を「調理済みの料理(天ぷら・弁当など)」と「包装した麺」に分けて書きます。後者を入れるなら、売り方と施設の図面を持って管轄の保健所に事前に相談し、麺類製造業の許可の取得予定日と、包装・表示の費用を計画に入れておきます。設例の持ち帰りを天ぷらと弁当にしているのは、この許可を前提にしないためです。
そばアレルギーへの対応:同じ釜・同じ打ち場で起きる混入
そばは、容器包装された加工食品でアレルギー表示が義務づけられた特定原材料の一つです。特定原材料は、消費者庁の2026年4月の「食品表示基準について」改正でカシューナッツが加わり9品目になりました。一方、消費者庁のパンフレット「外食・中食を利用するときに気をつけること」は、「外食・中食では、食物アレルギーに関する情報提供が義務づけられていません」としたうえで、意図しない混入の例として「そば粉や小麦粉が舞うことによる混入」を挙げています。
そばとうどんを両方出す店では、茹で湯や打ち場の共用に加え、器具や舞った粉を介した混入も確認します。釜や打ち場を分けても混入がなくなるとは言い切れないので、原材料、調理工程、対応できる範囲と残る混入リスクを客に伝えます。釜や打ち場を分けるかどうかと、メニューや店頭で伝える内容を開業前に決めておくと、面談で衛生管理の体制を聞かれたときにも具体的に答えられます。茹で釜を分けるなら、厨房機器の見積りと必要資金にその分を入れます。
面談で突っ込まれるそば・うどん店の計画の弱点
面談に備え、客単価・原価率・提供能力・自己資金の根拠を確認します。次のような計画は、数字や説明の組み直しが必要です。
- 原価率の低さだけで利益を出している。そば・うどん店の総利益率は平均69.4%ですが、人件費率は一般飲食店より高く、坪売上は低い水準で、営業利益率は平均-3.9%です。人件費と家賃を含めた収支で説明します。
- 打てる量を超える客数を置いている。手打ちの店は、開店前に打てる人前の数と、ピークの1時間に茹でて出せる数で客数を示します。
- 昼に売上の大半を頼っているのに、昼の回転数の根拠がない。近隣の事業所数や通行量、競合店の昼の入りを数えた結果を添えます。
- 自己資金の出どころが説明できない。新規開業・スタートアップ支援資金では2024年度に「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」という要件がなくなりましたが(公庫の2024年4月1日公表資料)、自己資金の額と貯め方は今も確認されます。
飲食店全般で計画書のどこが見られるかは飲食店の事業計画書が創業融資の審査結果を大きく左右する具体的な理由、表計算で数字をつなげる作り方はエクセルで事業計画書を作成する具体的な手順と必要シートの全体像にまとめています。
よくある質問
そば・うどん店の原価率の目安はどのくらいですか?
公庫の2025年度経営指標のそば・うどん店では、売上高総利益率が平均69.4%で、原価率に直すと約31%です。中央値は総利益率70.3%(原価率約30%)でした。ただし26社と標本が少ないので、一般飲食店の総利益率65.0%(原価率35%)もあわせて見ます。
うどん屋の事業計画書にもそば・うどん店の数値は使えますか?
使えます。公庫の経営指標の区分は「そば・うどん店」で、そば屋とうどん屋を分けていません。セルフ式のうどん店は客単価が低く回転数が高いので、坪売上で検算するときは客席部分の面積と昼の客数の根拠を丁寧に示します。
そば・うどん店の開業資金はいくら必要ですか?
物件と、麺を自分で打つかどうかで大きく変わります。公庫の2025年度新規開業実態調査では全業種の開業費用は平均975万円・中央値600万円でした。そば・うどん店は内装・厨房機器・製麺の設備の見積書をもとに積み上げます。
自己資金がなくても公庫の創業融資は受けられますか?
新規開業・スタートアップ支援資金には、2024年度から自己資金の割合の要件がありません。ただし新規開業実態調査では、開業時の資金調達額の22.9%(平均279万円)が自己資金で、審査では自己資金の額と準備の経緯も見られます。
自家製麺を出すのに麺類製造業の許可は必要ですか?
店で打った麺を店で調理して出すだけなら、飲食店営業の許可に加えて麺類製造業の許可を取る必要はありません。ただし厚生労働省の関連通知は、同じ施設で作った麺を継続的に包装して販売する場合は麺類製造業の許可が要るとしています。麺の持ち帰り販売や卸を計画するなら、管轄の保健所に事前に確認します。