結婚式場の事業計画書は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入欄に沿って書くと、融資の面談で確認される項目を漏れなく埋められます。ほかの業種と違うのは、売上が「年に何件の結婚式を施行できるか」で決まり、その件数が土日祝の枠と、半年以上前から始まる受注で縛られる点です。年間の平均件数だけで計画を作ると、開業1年目の受注不足と、キャンセル時の前受金の返金を見落とします。
この記事では、婚姻件数・結婚式場業の売上統計・結婚にかかる費用の調査という3つの一次情報で売上の根拠を作り、施行件数から損益分岐と感度分析を設例で試算します。キャンセル料の決め方を縛る消費者契約法9条と、開業に必要な許可・届出もまとめました。
まとめ:結婚式場の事業計画書で押さえる要点
- 公庫へ出すなら、創業計画書の記入欄(1〜10)に沿って書きます。自分で作った計画書を代わりに出すこともできます。
- 売上は「施行件数×1件当たり単価」です。件数は、会場数×土日祝の日数×1日の施行回数を上限とし、来館数と成約率から積み上げます。
- 単価の根拠には、経済産業省の統計(2024年・結婚式場業の売上高2,292億5,300万円÷取扱件数6万3,190件=1件当たり約362.8万円)と、リクルートの結婚マーケット調査2025(挙式と披露宴をともに実施した人の費用総額 平均298.6万円)を使います。
- 2025年の婚姻件数は48万9,158組(確定数)で、2年連続で増えました。ただし挙式・披露宴を両方行う人は一部で、同調査の披露宴・ウエディングパーティーの実施率は43.1%です。
- 設例(1会場・単価280万円・年96件・固定費 月1,000万円)では、損益分岐は年78件です。単価を10%下げ、件数は10%減の86.4件を86件に切り下げると、変動費率45%の前提では営業利益が約80万円の赤字になります。
- 前受金は資金繰りを助けますが、キャンセル料は消費者契約法9条により「平均的な損害」を超える部分が無効です。キャンセル規定の根拠を計画書に添えます。
結婚式場の事業計画書と公庫の創業計画書の記入欄
公庫が各種書式ダウンロードページで配布している創業計画書は、次の10欄で構成されています。様式には、この書類の代わりに自分で作った計画書を出してもよいと書かれています。銀行や出資者向けに自作する場合も、この10欄と同じ項目を入れておくと面談で話が噛み合います。スライドで作る場合は事業計画書をパワーポイントで作る方法、数字の表を組む場合はエクセルで事業計画書を作成する手順が参考になります。
| 記入欄 | 結婚式場で書く中身 |
|---|---|
| 1 創業の動機 | 業態を選んだ理由・商圏の空白 |
| 2 経営者の略歴等 | 担当した施行件数・成約率・役職 |
| 3 取扱商品・サービス | 挙式・披露宴・料理・衣装・写真の価格帯 |
| 4 従業員 | プランナー・サービス・調理の人数 |
| 5 取引先・取引関係等 | 衣装・装花・写真・引出物の提携先 |
| 6 関連企業 | 経営者や家族が営む会社 |
| 7 お借入の状況 | 経営者個人の借入 |
| 8 必要な資金と調達方法 | 内装・設備・保証金と運転資金 |
| 9 事業の見通し(月平均) | 施行件数×単価と経費、根拠 |
| 10 自由記述欄 | 受注残・キャンセル規定・撤退基準 |
創業の動機・経営者の略歴:婚礼実務の経験と実績件数
略歴欄は勤務先の名前を並べるだけでなく、担当した業務と実績を数字で書きます。プランナーなら年間の担当組数と来館からの成約率、支配人なら会場の年間施行件数と売上の規模です。公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業者の81.1%が開業する事業と同じ分野で働いた経験を持ち、その期間は平均15.3年でした。ブライダルの経験が短い場合は、飲食店やホテルの宴会部門での経験を、料理・サービスの運営能力の裏付けとして書きます。
動機の欄には、なぜその業態でその場所なのかを書きます。「近隣に少人数向けの貸切会場が無い」「駅から徒歩圏で駐車場も確保できる物件が出た」のように、商圏の調査結果と結びつけます。経営者の思いだけで埋めると、後の売上の根拠とつながりません。
取扱商品・サービス欄:業態・挙式形態別の単価構成
結婚式場は業態によって、売上のうち自社で受け持つ部分が変わります。ゲストハウス型や専門式場は挙式・披露宴・料理を自社で提供し、衣装・装花・写真は提携先に任せて紹介手数料を受け取るか、自社で抱えるかを選びます。レストランウェディングは料理が主で、挙式は人前式で済ませることが多くなります。商品欄には、挙式料・料理(1人当たり)・飲み物・会場使用料・衣装・装花・写真の価格帯を分けて書き、どれを自社売上に計上するかを明示します。紹介手数料は外部の商品代と同じ扱いにせず、手数料の額だけを売上に入れます。計算用の仮定として、提携先の衣装30万円を紹介して手数料3万円を受け取るなら、売上に入れるのは3万円です。
挙式の形態(教会式・神前式・人前式)は、チャペルや神殿の設備投資と、牧師・神職への謝礼の有無に関わります。人前式だけなら挙式用の専用設備を持たず、披露宴会場で挙式から通して行えます。どの形態を何割と見込むかは、設備資金の欄と整合させます。
売上の根拠:婚姻件数・結婚式場業の統計・結婚費用の調査
市場の数字は、計画書の「取扱商品・サービス」欄の競合・市場の分析と、売上の見通しの根拠に使います。結婚式場の統計は2025年に切り替わっているので、年と調査名を必ず添えて書きます。
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 婚姻件数(2025年) | 48万9,158組 | 人口動態統計(確定数) |
| 結婚式場業の売上高(2024年) | 2,292億5,300万円 | 特定サービス産業動態統計 |
| 結婚式場業の取扱件数(2024年) | 6万3,190件 | 同上 |
| 1件当たり売上(算出値) | 約362.8万円 | 上の2つから算出 |
| 挙式・披露宴をともに実施した人の費用総額 | 平均298.6万円 | 結婚マーケット調査2025 |
| 披露宴・ウエディングパーティーの実施率 | 43.1% | 同上 |
婚姻件数:2025年は48万9,158組で2年連続の増加
厚生労働省の令和7年(2025)人口動態統計(確定数)の概況では、2025年の婚姻件数は48万9,158組で、前年の48万5,092組から4,066組増えました。同年の概数によると、婚姻件数は2002年以降減少傾向でしたが、2024年から2年連続で増えています。平均初婚年齢は夫31.0歳・妻29.7歳です。とはいえ、昭和47年(1972年)の109万9,984組と比べれば半分以下で、「婚姻が増えたから式場も増やせる」と書ける水準ではありません。商圏の需要は、自治体の人口動態の公表値から市区町村別の婚姻件数を拾い、近隣の会場数と並べて示します。
結婚式場業の売上と件数:特定サービス産業動態統計は2024年で終了
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査の長期時系列表(結婚式場業)では、2024年の売上高が2,292億5,300万円、取扱件数が6万3,190件でした。割り算すると1件当たり約362.8万円です。この統計は調査対象企業の集計で、母集団の復元を行っていません。約362.8万円は対象企業の売上高合計を取扱件数合計で割った参考値で、業界全体や個別会場の平均単価そのものではありません。同じ表の月別の取扱件数は、2024年は11月の8,274件が最多、1月の2,791件が最少で、約3倍の開きがありました。
同調査は2024年12月分で終わり、2025年1月から総務省のサービス産業動態統計調査に統合されました。結婚式場業の売上は特別集計の参考値として公表されていますが、総務省は旧調査と調査設計が異なり「実数値での比較はできない」としています。2024年までの旧統計と2025年以降の値を1本のグラフにつなげると、存在しない増減を描いてしまいます。
結婚費用の調査:343.9万円と298.6万円の調査対象の違い
結婚費用の数字で長く使われてきたのは「ゼクシィ結婚トレンド調査」です。最後の2024年版では、挙式・披露宴・ウエディングパーティーの総額が平均343.9万円、招待客は平均52.0人でした。対象はゼクシィの読者・会員のうち挙式か披露宴を行った人です。
リクルートは2025年度から調査を「結婚マーケット調査」に再編し、対象をゼクシィの会員から全国20〜49歳の男女に広げました。2026年1月22日に公表された結婚マーケット調査2025の概要報告書では、挙式と披露宴・ウエディングパーティーをともに実施した人の費用総額が平均298.6万円(最多の価格帯は300〜350万円)、招待客は平均57.2人でした。別集計では、国内で挙式と披露宴・ウエディングパーティーを1回ずつ実施した人の招待客1人当たり費用は平均7.3万円です。これは各回答者の費用を人数で割った値の平均で、298.6万円を57.2人で割った値ではありません。挙式のみの人は平均140.4万円、食事会のみの人は平均39.5万円です。報告書は過去データとの時系列比較には適さないとしているので、「343.9万円から298.6万円へ下がった」とは書けません。
計画書で効いてくるのは実施率です。同じ調査で、結婚を機に何らかのウエディングイベント(挙式・披露宴・食事会・写真撮影のいずれか)を行った人は73.5%、披露宴・ウエディングパーティーは43.1%、挙式は48.9%でした。披露宴会場の需要を概算する際は、43.1%を参考値として使えます。ただし、これは2024年4月〜2025年3月に結婚した20〜49歳の回答者を対象とし、実施予定者も含む全国の推計値です。商圏の年齢構成、地域外での施行、婚姻から施行までの時間差を調整します。少人数の食事会や写真撮影だけの層を取りに行くなら、その単価(食事会のみで平均39.5万円)で別の売上行を立てます。
公庫の経営指標:結婚式場業の単独区分の欠如
ほかの業種では、公庫の小企業の経営指標調査で原価率や人件費率を検算できます。ところが2025年度の同調査(サービス業)には結婚式場業の単独区分がありません。「冠婚葬祭業」は77社のうち71社が葬儀業で、売上高総利益率69.7%などの数字は葬儀業の姿です。結婚式場の計画書の検算には使わず、上場している結婚式場運営会社の決算と、提携先の見積もりで原価率を組みます。
売上予測:来館数・成約率・施行件数の積み上げ
売上の式は「年間の施行件数×1件当たりの単価」です。件数は需要からの積み上げと、会場の物理的な上限の両方で押さえます。
施行件数の上限:会場数×土日祝の日数×1日の施行回数
結婚式は土日祝に集中します。土日祝が年に約120日とすると、披露宴会場1つで1日2回施行できれば、土日祝の枠は年240件です。年96件を計画するなら、この枠の40%を埋める計算になります。平日の施行や、ナイトウエディングで1日3回目を入れる計画は、実績が出るまで上乗せしない方が安全です。会場を2つ持てば枠は倍になりますが、内装と人件費も増えるので、枠の何割を埋めれば固定費を賄えるかを会場数ごとに比べます。
来館数と成約率から逆算する集客の目標
施行件数は、来館数×来館からの成約率×(1−キャンセル率)で積み上げます。設例では来館成約率を30%、成約後のキャンセルを5%と置きました。この前提で年96件を施行するには、成約が約101件、来館が年約337組(月約28組)必要です。成約率とキャンセル率は業界の一般値ではなく、経営者が前職で担当した会場の実績を書き、根拠として欄外に添えます。実績が無い数字を置くなら、成約率を低めにした保守シナリオを別に作ります。
受注から施行までの時間差と開業前の先行受注
結婚式は、来館して成約してから施行するまで数か月から1年以上空きます。上場の結婚式場運営会社エスクリは、2025年3月期決算短信で、2025年3月期の受注件数の影響により2026年3月期の施行件数が前期より減る見通しだと説明しています。受注の増減が翌期の売上に遅れて出る業種です。
先行営業を行わずに開業する式場は、受注残ゼロから始まります。開業直後の施行を確保するには、建物の完成前から内覧なしで予約を取る先行営業(模型・パース・提携会場での相談会など)を、何月から何組と計画書に書きます。開業後の数か月は施行が少ないまま家賃と人件費が出ていくので、この期間の赤字を運転資金に織り込みます。月ごとの入出金は資金繰り表の作り方の手順で組み、施行月と入金月がずれる分を表に出します。
損益分岐の施行件数と感度分析
結婚式場は家賃・人件費・減価償却といった固定費が重く、件数が少し足りないだけで赤字になります。設例で損益分岐を確かめます。
設例の前提:1会場・単価280万円・年96件
賃借した建物にチャペルと披露宴会場を1つずつ持つ式場を想定します。1件当たりの売上は、経産省の統計の約362.8万円と結婚マーケット調査の298.6万円を目安に、会場外で手配される費用を除いて280万円としました。変動費(料理・飲み物の原価、衣装・装花・写真・引出物の仕入、外注費)は売上の45%と置きます。エスクリの2025年3月期の連結売上原価率は約45.0%(売上高約261億7,900万円・売上原価約117億9,300万円)です。決算上の売上原価率は変動費率と同じではないので、本設例の45%はこれを目安に置いた計算用の仮定です。同社の連結には建築不動産の事業も含まれるため、自社の数字は提携先の見積もりで組み直します。固定費は家賃350万円・人件費450万円・広告宣伝費100万円・減価償却費60万円・その他40万円の月1,000万円、年1億2,000万円です。
| 項目(年間) | 設例の値 | 計算 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2億6,880万円 | 280万円×96件 |
| 変動費 | 1億2,096万円 | 売上高×45% |
| 限界利益 | 1億4,784万円 | 売上高×55% |
| 固定費 | 1億2,000万円 | 月1,000万円×12 |
| 営業利益 | 2,784万円 | 限界利益−固定費 |
| 損益分岐の売上高 | 約2億1,818万円 | 固定費÷55% |
| 損益分岐の施行件数 | 年78件(月6.5件) | ÷280万円 |
損益分岐点の式そのものは損益分岐点の計算方法にまとめています。事業の見通し欄(月平均)には、年96件を12で割った月8件・月商2,240万円を書き、施行が土日祝と季節に偏ることを根拠欄で補います。
単価・件数の下振れによる営業利益の感度分析
以下は変動費率を45%に固定した試算です。件数10%減は96件×90%=86.4件を86件に切り下げており、実際の減少率は約10.4%です。値引きで単価だけが下がり、1件当たりの仕入・外注費が下がらない場合は、この表より利益が悪化します。
| シナリオ | 単価 | 件数 | 営業利益 |
|---|---|---|---|
| 計画 | 280万円 | 96件 | 2,784万円 |
| 単価10%減 | 252万円 | 96件 | 約1,306万円 |
| 件数10%減 | 280万円 | 86件 | 1,244万円 |
| 単価・件数とも10%減 | 252万円 | 86件 | 約−80万円 |
片方だけの下振れなら黒字が残りますが、両方が同時に起きると赤字です。単価が252万円に下がると、損益分岐は年87件に上がります。単価の下落と件数の減少は、招待客数が減る年や近隣に新しい会場ができた年に同時に起きやすいので、計画書には両方が下がるシナリオを必ず載せ、そのとき削れる固定費(広告宣伝費、パートの人件費)と、撤退や業態変更を検討する基準(例:2期連続で年80件未満)を書きます。
返済原資:税引後利益・減価償却費と元金返済額の比較
公庫借入7,200万円を設備資金に充て、民間借入5,800万円も含めて全額を据置期間なしの15年(180回)・元金均等返済と仮定すると、元金返済は月約72万円、年約867万円です。公庫の運転資金融資を利用する場合は、その返済期間を別に設定します。元金は経費にならないので、返済原資は税引後の利益に減価償却費(年720万円)を足した額です。計画シナリオでは、営業利益2,784万円から想定する利息と税金を差し引き、減価償却費を足した額を年約867万円の元金返済と比べます。一方、単価・件数とも10%減のシナリオでは利益が出ず、減価償却費だけでは元金に届きません。差額を運転資金の手元資金で何か月持ちこたえられるかを、資金繰り表で示します。
集客計画:ブライダルフェア・ポータルサイト・SNS
来館を年約337組集める手段を、経路ごとに分けて計画書に書きます。経路別に「月の来館組数」「1組当たりの広告費」「来館からの成約率」を置くと、広告費の予算と売上計画がつながります。
- ブライダルフェア:模擬挙式・試食・会場見学をまとめた来館イベントです。開催頻度と1回当たりの受け入れ組数が、来館数の上限になります。
- ポータルサイト・情報誌:式場情報の掲載を通じて来館予約につなげる経路です。掲載料は固定費として広告宣伝費に入れ、掲載経由の来館組数で割った1組当たりの費用を管理します。
- SNS・自社サイト:会場の写真と施行事例を継続して出す経路です。広告費は小さくても、投稿の頻度と撮影の人手を人員計画に入れます。
- 紹介・提携:ドレスショップ、写真スタジオ、ホテルの宴会部門などからの送客です。紹介料を払う場合は、成約1件当たりの額を変動費に入れます。
結婚マーケット調査2025では、写真撮影の実施率は61.5%、スタジオ撮影は43.9%です。これらには挙式や披露宴との併用者と実施予定者が含まれ、写真撮影のみの割合は16.3%です。フォトウェディングを会場の平日の売上に組み込むなら、写真スタジオの事業計画書の書き方の「撮影枠×単価」の式で別の売上行を立てます。
前受金とキャンセル料:消費者契約法9条の「平均的な損害」
結婚式場は、成約時に申込金を受け取り、挙式の前に代金の大半を受け取る契約が一般的です。前受金は資金繰りを助けますが、会計上は施行するまで売上ではなく負債です。エスクリの2025年3月期の連結貸借対照表では、契約負債が約10億3,400万円計上されています(前期は約17億3,800万円)。前受金を運転資金とみなして計画を組むと、キャンセルや延期が重なった月に返金で資金が足りなくなります。
キャンセル料の決め方は、消費者契約法9条1項1号の制限を受けます。解除に伴う損害賠償の予定や違約金は、解除の事由や時期の区分ごとに、同種の契約の解除で事業者に生じる「平均的な損害」の額を超える部分が無効です。挙式の1年以上前の解約で、まだ料理の仕入も人の手配もしていないのに高額のキャンセル料を取る規定は、この「平均的な損害」を超えるおそれがあります。9条2項は、事業者が解約に伴う損害賠償や違約金の支払を請求する場合に、消費者から説明を求められたとき、算定根拠の概要を説明する努力義務を課しています。
計画書の自由記述欄には、キャンセル料を時期ごとに区分した表と、その額を何から計算したか(その時点で発生済みの仕入・外注費、再販できなかった場合の逸失利益)を書いておきます。融資の担当者にとっては、前受金の返金リスクを事業者が把握しているかの判断材料になります。
開業資金と資金調達:新規開業・スタートアップ支援資金
設例の開業資金は、内装工事9,000万円・厨房と音響照明の設備2,000万円・什器備品600万円・保証金400万円の設備資金1億2,000万円に、開業前後の人件費・家賃・広告宣伝費として運転資金3,000万円を足した1億5,000万円です。調達は自己資金2,000万円、公庫7,200万円、民間金融機関5,800万円としました。新築や既存建物の購入では、土地・建物の取得費と工事費を物件ごとに見積もり、この設例とは分けて必要資金を計算します。
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。結婚式場は公庫の限度額だけでは足りないことが多く、民間金融機関の融資(信用保証協会の保証付きを含む)と組み合わせる前提で、それぞれの借入額と返済額を必要な資金と調達方法の欄に分けて書きます。
内装と設備は複数社の見積もりを添え、自己資金の額と貯めた経緯も説明できるようにしておきます。宿泊施設を併設する計画なら、旅館業の許可と稼働率の根拠が別に要るので、ホテル・ゲストハウス開業の事業計画書の要点も合わせて確認してください。
人員計画:プランナー・サービス・調理の人数と離職
人員は、プランナー(来館対応と打ち合わせ)、サービス(当日の配膳・進行)、調理、事務・営業の4つに分けて書きます。プランナーの人数は「1人が同時に担当できる組数」と年間の成約件数から、サービスと調理は「1日の施行回数×招待客数」から逆算します。土日祝に人手が集中するので、正社員で平日の打ち合わせと事務を回し、当日のサービスはパート・アルバイトや配膳会社で厚くする組み方が一般的です。配膳会社への委託費は、件数に連動する変動費に入れます。
厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、結婚式場業を含む「生活関連サービス業,娯楽業」の離職率は20.1%、入職率は21.3%でした。一般労働者は離職率16.1%、パートタイム労働者は25.1%です。結婚式場業だけの率ではありませんが、毎年2割近い人が入れ替わる前提で、採用費と新人の教育期間を人件費に織り込みます。
開業に必要な許可・届出:飲食店営業許可・用途変更・消防
- 飲食店営業許可(食品衛生法):披露宴で料理を提供するには、保健所の飲食店営業の許可が要ります。厨房の設備基準を満たすよう、内装の設計段階で保健所に相談します。施設ごとに食品衛生責任者も置きます。
- 建築確認・用途変更(建築基準法):集会場や飲食店は、建築基準法の別表第一に掲げる特殊建築物です。既存建物を集会場や飲食店などの用途に変更する部分の床面積の合計が200平方メートルを超える場合は、原則として87条1項により確認申請(許可ではなく建築確認の手続き)が必要です。ただし、政令で指定する類似用途相互間の変更は除かれます。用途区分と申請の要否は、契約前に建築士と所管行政庁へ確認します。
- 消防(消防法):消防法施行令の別表第一の集会場や飲食店に当たる建物は、収容人員が30人以上なら防火管理者を選任します(施行令1条の2第3項)。使い始める前に、市町村の火災予防条例による防火対象物の使用開始届を消防署へ出します。
これらの手続きの日程は、開業日と先行営業の開始日を決める前提になります。工事の完了から許可が出るまでの期間を計画書の開業スケジュールに入れておきます。
面談で突っ込まれる結婚式場の計画の弱点
- 件数を枠の上限から逆算している:土日祝の枠を8割埋める計画は、必要な来館組数と成約率の裏付けが無いと通りません。
- 単価を統計の値のまま置いている:約362.8万円や298.6万円は検算用の参考値です。自社の価格表と招待客数から積み上げた単価を書きます。
- 先行受注なしで開業1年目から通年の件数を見込んでいる:開業前に獲得した予約と開業後の受注を分けて施行件数を見積もり、件数が少ない期間の運転資金を示します。
- 前受金の返金余力を確保していない:前受金は資金繰り表には入金として載せますが、施行前は売上に計上しません。時期別の返金額を書き、返金に備える資金を残します。
- 統計の年と調査名が混ざっている:ゼクシィ結婚トレンド調査(2024年まで)と結婚マーケット調査(2025年から)、特定サービス産業動態統計(2024年まで)とサービス産業動態統計(2025年から)は比べられません。
よくある質問
結婚式場の事業計画書はどんな様式で作ればよいですか?
公庫の融資を受けるなら、公庫の創業計画書(記入欄1〜10)が基本です。様式には自分で作った計画書を代わりに出してもよいと書かれているので、自作する場合も10欄と同じ項目を入れ、事業の見通し欄の数字の根拠(施行件数・単価・来館数・成約率)を添えます。
結婚式1件当たりの売上はいくらで見込めばよいですか?
経済産業省の統計では、2024年の結婚式場業の売上高÷取扱件数が約362.8万円でした。結婚マーケット調査2025では、挙式と披露宴をともに実施した人の費用総額が平均298.6万円です。経産省の値は調査対象企業の売上高と取扱件数から算出した参考値で、リクルートの値は対象者の支出額の調査結果です。自社の単価は価格表と想定招待客数から積み上げ、両者は集計対象の違いを踏まえて参照します。
結婚式場の利益率はどのくらいですか?
公庫の経営指標には結婚式場業の単独区分がありません。上場企業の例では、エスクリの2025年3月期のブライダル関連事業の売上高は209億5,000万円、セグメント利益は約11億6,500万円で、売上高に対する比率は約5.6%でした。ただし、全社費用などの調整前の数値であり、単独式場の営業利益率や業界平均ではありません。固定費が重いので、件数と単価がともに下がると赤字になりやすい業種です。
結婚式場の開業資金はいくら必要ですか?
賃借した建物の内装を整える場合でも、内装・設備・保証金と運転資金で億単位になることがあります。公庫の新規開業・スタートアップ支援資金の融資限度額は7,200万円なので、民間金融機関の融資や自己資金と組み合わせます。内装と設備は複数社の見積もりで積み上げます。
キャンセル料はいくらに設定してもよいですか?
消費者契約法9条1項1号により、解除の時期などの区分ごとに、事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効です。挙式日までの残り期間で区分し、その時点で発生している仕入・外注費などから額の根拠を作ります。キャンセル料の支払を請求する際に消費者から説明を求められた場合は、算定根拠の概要を説明するよう努める義務もあります。