ケーキ屋の事業計画書は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入欄に沿って作れば、融資面談で聞かれる項目を一通り押さえられます。ただ、公庫が公開している業種別の記入例9件に洋菓子店はありません。飲食店の記入例にある「客単価×席数×回転数」の式も、持ち帰りが中心で、当日売れ残った生ケーキを捨てるケーキ屋にはそのまま当てはまりません。
この記事では、生ケーキとホールケーキを作って売り、店内に数席のイートインを置く店を想定し、売上を3本立てで組む方法を設例で示します。需要の季節の山は総務省の家計調査、原価率と人件費は公庫の「小企業の経営指標調査」で裏付けます。焼き菓子・和菓子が中心の店はお菓子屋の事業計画書の記事で扱っています。
まとめ:ケーキ・スイーツ店の事業計画書で押さえる要点
- 公庫に出す計画書は、創業計画書の記入欄1〜10に沿って作ります。自作の様式でも、10欄が揃っているかを照合すれば記載漏れを防げます。
- ケーキの家計支出は12月に集中します。2025年の家計調査では、二人以上の世帯のケーキ支出は年7,708円で、12月はその月平均の約2.2倍、12月24日の1日だけで12月分の25.6%を占めました。自店の12月の売上は、予約の見込み数と、仕上げ・冷蔵保管の能力の小さい方で決まります。
- 売上は「生ケーキ(仕込み数×販売率×単価)」「ホールケーキ(予約数×単価)」「イートインの飲み物(席数×回転数×単価)」に分けて積み上げます。月平均の欄には12月を含めて年間でならした数字を書きます。
- 原価率は、売れ残って捨てた分まで含めて計算します。設例では材料・包材の比率32%が、廃棄率12.7%を入れると生ケーキで36.6%になりました。公庫の経営指標(菓子小売業・製造小売、70社)の売上高総利益率は中央値65.3%です。
- 菓子製造業の許可だけで、店で買ったケーキに飲み物を添えてイートインで出せます。その場で調理した軽食や料理を出すなど、菓子製造業の範囲を超える営業には飲食店営業の許可が別に必要です。ショーケースから選んでもらって箱に詰める売り方と、包装済みの焼き菓子では、食品表示の義務が違います。
ケーキ屋の事業計画書を公庫の創業計画書で作る理由
個人でケーキ屋を開くときの借入先は、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金が第一候補です。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。創業時に「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」を求める要件は2024年度の制度見直しでなくなりましたが、自己資金の額と貯めた経緯は、計画の実現性を測る材料として面談で確認されます。
公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。全業種の集計です。ケーキ屋は冷蔵ショーケース・冷凍冷蔵庫・オーブンが欠かせず、物件によっては電気容量の増設や給排水の工事も要るため、後の設例では1,320万円になりました。
創業計画書の様式は、公庫の各種書式ダウンロードページでPDFとExcelが配布されています。記入欄は次の10です。
| 欄 | ケーキ屋で書く中身 |
|---|---|
| 1 創業の動機 | なぜこの立地・この商品構成か |
| 2 経営者の略歴等 | 製菓の経験年数・担当工程・製造量、許認可 |
| 3 取扱商品・サービス | 生ケーキ・ホール・焼き菓子・飲み物の売上シェア |
| 4 従業員 | 製造補助と販売のパート人数 |
| 5 取引先・取引関係等 | 乳製品・粉・果物・包材の仕入先と支払条件 |
| 6 関連企業 | 経営者や家族が営む会社があれば記入 |
| 7 お借入の状況 | 住宅・自動車ローンなど個人の借入 |
| 8 必要な資金と調達方法 | 設備資金・運転資金の内訳と調達先 |
| 9 事業の見通し(月平均) | 開業当初と軌道に乗った後の売上・経費・利益 |
| 10 自由記述欄 | 予約の実績、試作品の評価、販促計画 |
同じページの業種別の記入例は、洋風居酒屋・美容業・中古自動車販売業など9件で、菓子店は入っていません。売上の根拠を式で書く形は洋風居酒屋の記入例が参考になります。飲食店全般の計画書は飲食店の事業計画書の記事にまとめています。
創業計画書の記入欄ごとの書き方(ケーキ屋版)
創業の動機と略歴:担当工程と製造量による経験の裏付け
略歴欄に「パティスリーで8年勤務」とだけ書いても、担当者は店を回せる経験かどうかを判断できません。「生菓子の仕上げを5年、クリスマスはホールケーキを1日100台担当」「焼き菓子の原価計算と発注を2年担当」のように、担当した工程と量を数字で書きます。売上の設例で使う仕上げ能力と同じ数字が略歴にあれば、計画の前提を経験で裏付けられます。製菓衛生師の資格は開業に必須ではありませんが、あれば食品衛生責任者を講習なしで務められるので、資格欄に書きます。
取扱商品:生ケーキ・ホール・焼き菓子・飲み物の売上シェア
取扱商品欄には、商品の種類と価格帯に加えて売上シェアを書きます。後の設例では、通常月の売上187万円の内訳が生ケーキ69%、ホールケーキ13%、焼き菓子11%、イートインの飲み物7%です。生ケーキの比率が高いほど売れ残りの廃棄が原価を押し上げ、焼き菓子の比率が高いほど作り置きで閑散日の手を埋められます。この比率を書いておくと、原価率と人員計画の説明がつながります。
取引先と従業員:仕入の支払条件と製造・販売の人員
取引先欄には、乳製品・小麦粉・果物・包材の仕入先と、締め日・支払日を書きます。現金仕入れか月末締め翌月末払いかで、必要な運転資金が変わります。従業員欄には、仕込みをする早朝の製造補助と、日中の販売の人数を分けて書きます。設例では、製造補助のパート1人が1日6時間×月25日(時給1,200円)、販売のパートが延べ1日9時間×月25日(時給1,150円)で、人件費は月43.9万円です。12月の短期アルバイトは常勤の人数とは別に、事業の見通しの12月分の経費として見込みます。
ケーキの需要は12月24日に集中する:家計調査で見る季節の山
総務省の家計調査(2025年平均・2026年2月6日公表)には「ケーキ」の品目があります。二人以上の世帯の1世帯当たり支出を、年・月・日の単位で並べると次のとおりです。
| 期間 | ケーキの支出 | 出典の表 |
|---|---|---|
| 2025年の年間 | 7,708円(月平均642円) | 第4-1表 2025年計 |
| 2025年12月 | 1,386円 | 第4-1表 2025年12月 |
| 12月24日 | 354.80円 | 第6-16表 日別支出 |
| 12月25日 | 163.20円 | 同上 |
| 12月24日・25日を除く29日の平均 | 約30円 | 同上から計算 |
12月の支出は月平均の約2.2倍です。その12月分のうち、24日だけで25.6%、24日と25日の2日間で37.4%を占めます。24日の支出は、24日・25日を除く12月の29日間の平均(約30円)の約12倍です。日別支出の表(第6-16表)は月ごとに公表されていて、e-Statの家計調査 2025年12月の統計表一覧からExcelで取得できます。
この数字は、スーパーやコンビニで買ったケーキも含む全国の平均で、繁忙期がいつかを示す資料です。自店の12月の売上がそのまま2.2倍になるわけではありません。計画書では、勤務先で担当したクリスマスケーキの台数や試作販売の反応から見込んだ予約数と、23〜25日に仕上げて冷蔵で保管し、受け渡せる台数を比べ、小さい方の台数に単価を掛けてクリスマスケーキの売上とし、通常の販売分に足して12月の売上にします。需要が24日に集中するので、予約の締め切り日と受け取り時間の枠を先に決めておけば、24日の仕上げ台数を能力の範囲に収め、締め切り後の追加製造による廃棄も抑えられます。
ケーキ屋の売上予測:生ケーキ・ホールケーキ・イートインの3本立て
ケーキ屋の売上は、売り方ごとに上限を決める要因が違うので、3つに分けて積み上げます。設例の前提は、店舗面積15坪(うち売場とイートイン6席が8坪)、月25日営業(平日17日・土日祝8日)、店主のパティシエ1人に製造補助と販売のパートを置く店です。金額は計画の組み方を示すための仮置きで、税込で置いています。消費税の課税事業者になる場合(インボイス登録をする場合を含む)は、納付する消費税も支出に加えます。
生ケーキ:1日の仕込み数×販売率×単価
生ケーキは当日中に売り切る前提なので、売上の上限は仕込んだ数です。設例では、平日に80個を仕込んで85%を販売、土日祝に150個を仕込んで90%を販売するとしました。月の仕込み数は2,560個、販売数は2,236個で、残る324個(12.7%)は廃棄です。平均単価580円で、生ケーキの売上は月約130万円になります。
販売率は収支に直結します。設例で平日・土日とも販売率が5ポイント下がると、仕込み数は同じまま販売数が128個減り、売上は約7.4万円減ります。材料費は仕込んだ分だけかかるので、利益もほぼ同じ額だけ減ります。開業直後は客数が読めず、ショーケースの見栄えを保つために多めに仕込むので、販売率はさらに下がります。後の設例では、開業当初の原価率を軌道に乗った後より3ポイント高く置いています。
ホールケーキ:誕生日の予約と、12月の仕上げ・保管の上限
誕生日などのホールケーキは予約販売なので、作りすぎの廃棄がほとんど出ません。設例では、通常月に平均4,200円のホールケーキを60台(土日祝に多め)と置き、月25.2万円としました。
12月のクリスマスケーキは、予約の見込み数と製造能力の小さい方で台数を決めます。設例では予約の見込みが能力を上回る前提で、能力の側から上限を出しました。スポンジは前日までに焼いて冷凍し、通常の生ケーキの仕込みも前日までに済ませておきます。23〜25日の3日間は、店主と製造補助が1人1時間に4台、2人合わせて8台を仕上げ、1日12.5時間で100台です。冷蔵庫とショーケースで一度に保管できる箱は120箱なので、受け取り時間を分散させれば1日100台は保管できます。この条件から3日で300台を上限としました。平均単価4,800円で144万円です。3日間は短期アルバイト4人に販売と箱詰めを任せ、通常の生ケーキの販売を続けます。通常商品の保管場所は予約品とは別に確保する前提で、これが難しければ3日間は生ケーキの品数を減らし、12月の通常分の売上も下げて計算します。臨時の人件費は、短期アルバイトが1日10時間(8時間を超える2時間は25%の割増賃金)で約16.4万円、ふだん6時間の製造補助が12.5時間働く追加賃金が約2.7万円です。
予約の管理では、受付が上限に達したら止めること、受け取り日時ごとの台数、商品・サイズ・名入れの内容、前払いかどうかを1件ずつ記録します。紙の台帳でもできますが、受付の経路が電話・店頭・Webに分かれると集計がずれやすくなります。受付の上限管理や受け取り時間の割り振りをシステムで行うなら、予約管理システムの開発も選択肢になります。
イートイン:席数×回転数×飲み物の単価
イートインの客は、ショーケースのケーキと一緒に飲み物を頼みます。ケーキの売上は生ケーキに計上済みなので、イートインの欄には飲み物だけを積み上げます。設例では6席で、平日は1日1回転(6人)、土日祝は2.5回転(15人)、飲み物の平均単価550円としました。月の客数は222人、売上は12.2万円です。
公庫の経営指標の喫茶店(35社)では、1客席当たりの年間売上高は中央値で1,298千円です。この指標は店全体の売上を席数で割ったものなので、比べるときは店内で食べたケーキの売上も足します。設例でイートインの客が1人1個のケーキを食べるとすると、飲み物12.2万円に222個×580円の12.9万円を足して月25.1万円、1席当たり年約50万円で、喫茶店の中央値の4割弱です。逆に、軽食や料理まで出して喫茶店並みの席売上を見込むなら、飲食店営業の許可と調理の人手が要ることを計画に書きます。
通常月と12月を含む年間売上・月平均の算出
通常月の売上は、生ケーキ129.7万円、ホールケーキ25.2万円、焼き菓子20万円、飲み物12.2万円の計187.1万円です。焼き菓子は数量の積み上げを省いた仮置きで、実際の計画では品目ごとの数量×単価で積みます。12月は、これにクリスマスケーキの144万円を足して331.1万円になります。年間では2,389万円、月平均は199.1万円で、12月は月平均の1.66倍です。家計調査の2.2倍より小さいのは、12月の上限を仕上げと保管の能力で切っているためです。
店舗面積の8坪で割ると、1坪(3.3㎡)当たりの年間売上は2,986千円です。公庫の経営指標の菓子小売業(製造小売)では、店舗面積3.3㎡当たり売上高が中央値2,234千円、平均3,646千円なので、設例はその間に入ります。中央値を大きく上回る計画を出すときは、予約の見込み客数や試作販売の実績など、根拠を自由記述欄に足します。
公庫の経営指標による原価率・人件費の検証
公庫の「小企業の経営指標調査」(卸売・小売業、2025年度)には「菓子小売業(製造小売)」の表(印刷ページ125)があり、洋菓子店はこの分類に入ります。イートインの部分は同じ調査の飲食店・宿泊業編にある「喫茶店」(印刷ページ12)と比べます。
菓子小売業(製造小売)と喫茶店の指標(2025年度)
| 指標 | 菓子小売 平均 | 菓子小売 黒字企業平均 | 菓子小売 中央値 | 喫茶店 中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 調査対象数 | 70社 | 20社 | 70社 | 35社 |
| 売上高総利益率 | 62.0% | 60.4% | 65.3% | 72.2% |
| 人件費対売上高比率 | 37.2% | 33.5% | 37.7% | 31.0% |
| 諸経費対売上高比率 | 30.5% | 24.6% | 28.0% | 33.3% |
| 売上高営業利益率 | -4.0% | 3.5% | -0.6% | 0.5% |
| 損益分岐点比率 | 109.3% | 100.4% | 102.4% | 99.6% |
| 3.3㎡当たり売上高 | 3,646千円 | 3,795千円 | 2,234千円 | 1,406千円 |
「黒字企業平均」は、表の「黒字かつ自己資本プラス企業平均」の列です。この表から言えることは2つあります。1つ目は、調査対象70社の売上高営業利益率は平均-4.0%・中央値-0.6%と赤字で、損益分岐点比率も平均109.3%・中央値102.4%と100%を超えていることです。損益分岐点比率の読み方は損益分岐点比率の計算式と業種別の目安の記事で解説しています。
2つ目は、黒字の20社は粗利率が平均より低い(60.4%)一方、人件費と諸経費の比率がそれぞれ3.7ポイント、5.9ポイント低いことです。表から読めるのは群ごとの平均の差で、黒字になった原因までは分かりません。それでも、黒字の店は粗利率の高さではなく、人件費と経費の比率の低さで平均を上回っています。計画書でも、粗利率だけでなく、仕込みと販売の人員でその売上を回せるかを説明しておくと、面談での質問に答えやすくなります。
調査の対象は公庫の融資先のうち従業者50人未満の法人で、人件費には代表者の役員報酬も含まれます。個人で開業する計画と比べるときは、店主の生活費を人件費に足してから比率を見ます。設例のパート人件費は売上の23.5%ですが、店主の生活費25万円を足すと36.8%で、中央値の37.7%に近くなります。公庫の人件費には役員報酬のほか福利厚生費なども含まれるので、比べられるのは大まかな水準までです。
廃棄ロスを入れた原価率の計算
原価率は、売れた分ではなく仕込んだ分の材料費を、売上で割って出します。設例の生ケーキは、1個当たりの材料・包材費を売価の32%(約186円)と置きました。仕込み2,560個分の材料費は47.5万円で、生ケーキの売上129.7万円に対する原価率は36.6%です。廃棄率12.7%が、原価率を4.6ポイント押し上げています。
ホールケーキ(予約で廃棄なし・32%)、焼き菓子(ギフト箱込みで33%)、飲み物(設例の仮定で28%。実際の計画では豆・茶葉・牛乳の使用量と仕入単価から積み上げます)を合わせた全体の原価率は35.1%、粗利率は64.9%です。経営指標の中央値65.3%とほぼ同じ水準になります。乳製品や果物は季節と相場で値動きが大きいので、主力商品の材料費が1割上がったら原価率が何ポイント上がるかも、自由記述欄に書いておくと面談で答えやすくなります。
事業の見通し欄の設例と、返済・生活費まで含めた必要売上
事業の見通し欄には、開業当初と軌道に乗った後(設例では開業から1年後)の月平均を書きます。設例の借入は1,000万円、金利は年2.5%と仮置きし、元金は7年で返す前提です。開業当初は売上を通常月の75%、原価率を廃棄の増加で38%と置きました。その他経費には光熱費・広告費・消耗品・保険・減価償却費10万円・決済手数料(売上の2%)が入ります。
| 項目 | 開業当初 | 通常月(補助計算) | 年間の月平均(記入する数字) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 140.3万円 | 187.1万円 | 199.1万円 |
| 売上原価 | 53.3万円 | 65.6万円 | 69.4万円 |
| 人件費(パート) | 35.0万円 | 43.9万円 | 45.5万円 |
| 家賃 | 18.0万円 | 18.0万円 | 18.0万円 |
| 支払利息 | 2.1万円 | 2.1万円 | 2.1万円 |
| その他経費 | 25.8万円 | 27.7万円 | 28.0万円 |
| 利益 | 6.1万円 | 29.8万円 | 36.1万円 |
12月は、クリスマスケーキの売上144万円から材料費46.1万円・臨時の人件費19.1万円・決済手数料2.9万円を引いた75.9万円が通常月に上乗せされます。年間の利益は433.5万円で、事業の見通し欄に書く月平均は表の右列の36.1万円です。通常月の列は、12月を除いた月の姿を確かめるための補助計算です。この利益に現金が出ていかない減価償却費10万円を足した額から、店主の生活費25万円と元金返済11.9万円の計36.9万円を払います。
通常月の余裕は、29.8万円+10万円−36.9万円で約2.9万円です。所得税・住民税・国民健康保険料などを払う前の金額なので、自由に使えるお金ではありません。開業当初は6.1万円+10万円−36.9万円で、毎月約20.8万円足りません。事業そのものは黒字なので、この不足は生活費と元金返済を払った後に生じます。元金の返済を据え置く期間を6か月設けると、当初の不足は月約8.9万円に縮みます。公庫に申し込む運転資金は事業の支払いに充てる資金なので、生活費の不足分(6か月で約53万円)は運転資金に混ぜず、家計の予備として別に残す計画にします。月ごとの入出金の組み方は資金繰り表の見方の記事が参考になります。
損益分岐点も確かめます。変動費を原価35.1%と決済手数料2%の計37.1%とすると、限界利益率は62.9%です。固定費(パート人件費43.9万円・家賃18万円・その他の固定分24万円・利息2.1万円)は計88.0万円で、損益分岐点の売上は88.0万円÷0.629=約140万円です。生活費と元金返済まで賄うには、(88.0万円+36.9万円−10万円)÷0.629=約182.5万円の売上が要ります。通常月の187.1万円はこれをわずかに上回るだけです。仕込み数を変えずに生ケーキの販売率が平日・土日とも5ポイント下がると、売上は約7.4万円減って179.7万円になり、必要な売上に届きません。
開業資金の見積もりと調達方法
必要な資金と調達方法の欄には、見積書の金額をもとに設備資金と運転資金を分けて書きます。創業計画書の様式では、設備資金は店舗・機械・備品など、運転資金は商品仕入や経費支払の資金です。公庫の創業の手引き(美容業編)も、創業時の宣伝広告費や人材募集費、開業後半年程度の赤字補てん資金を運転資金として挙げています。設例の金額は見積もりを取る前の仮置きです。
| 区分 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|
| 設備資金 | 物件取得費(保証金・仲介手数料) | 130万円 |
| 設備資金 | 内装・電気容量増設・給排水工事 | 450万円 |
| 設備資金 | オーブン・ミキサー・冷凍冷蔵庫・急速冷却機 | 350万円 |
| 設備資金 | 冷蔵ショーケース | 120万円 |
| 設備資金 | レジ・予約管理の導入・備品 | 50万円 |
| 運転資金 | 開業前の販促(チラシ・SNS広告) | 30万円 |
| 運転資金 | 材料・包材の初回仕入れ | 30万円 |
| 運転資金 | 開業後3か月分の家賃とパート人件費 | 160万円 |
| 合計 | 設備資金1,100万円・運転資金220万円 | 1,320万円 |
| 調達 | 自己資金 / 公庫からの借入 | 320万円 / 1,000万円 |
ケーキ屋の設備で見落としやすいのは、冷蔵ショーケースと冷凍冷蔵庫が24時間動くことによる電気容量と光熱費です。居抜き物件でも、前の業態が物販なら電気容量の増設工事が要る場合があります。物件の申込み前に、使う機器の消費電力を合計して、内装業者に容量を確認してもらいます。
自己資金320万円は、開業資金の24%です。自己資金の要件はなくなりましたが、公庫の2025年度の調査でも開業時の資金調達に占める自己資金は平均で2割強です。通帳で積み立ての経過を示せる金額を書き、親族からの援助は贈与か借入かを分けて書きます。
営業許可と食品表示:イートインと箱詰め販売で変わる範囲
菓子製造業とイートインの飲食店営業の境目
ケーキを作って売るには、食品衛生法施行令第35条第11号の菓子製造業(菓子〈パン及びあん類を含む〉を製造する営業)の許可が要ります。イートインについては、厚生労働省の改正後の営業許可業種の解説資料が「菓子製造業の許可を受けた施設で、客が購入した菓子やパンに飲料を添えて施設内で提供する場合、飲食店営業の許可を要しない」としています。
この範囲に入るのは、店で買ったケーキに飲み物を添えて出す形です。同じ資料は、菓子製造業の許可施設で調理パンを製造する場合も、そうざい製造業や飲食店営業の許可は要らないとしています。一方、注文を受けてその場で調理する軽食や料理を出すなど、菓子製造業の範囲を超える営業には飲食店営業の許可が別に必要になり、施設基準も加わります。どのメニューがどちらに当たるかは工程と提供方法で判断されます。ソフトクリームを扱う場合の扱いはお菓子屋の事業計画書の記事で整理しています。メニュー表と店の図面を持って、物件を決める前に保健所で確認し、その結果を略歴欄の許認可の行に書きます。
消費税の税率も売り方で分かれます。持ち帰りのケーキは軽減税率8%、イートインで食べるケーキと飲み物は10%です。店内と持ち帰りで税込価格をそろえることもできますが、その場合も適用税率は異なります。国税庁の軽減税率制度の資料は、税込同一価格でも販売時に店内飲食か持ち帰りかを確認し、税率ごとに区分経理するよう求めています。計画書の売上は税込か税抜かを統一し、売上にかかる消費税をイートインと持ち帰りに分けて見積もります。飲食料品の税率を引き下げる改正案も示されているため、価格表示の扱いは国税庁の消費税率引下げ特設サイトで最新の状況を確認します。
ショーケース販売・予約ケーキ・焼き菓子ギフトの食品表示
食品表示の義務は売り方で変わります。消費者庁の食品表示基準Q&Aは、食品表示基準が適用されるのは「容器包装に入れられた加工食品」で、容器包装に入れずに売る加工食品には適用されないとしています(加工-3)。客の注文に応じてその場で容器に詰めて売る行為も、容器包装に入れられた加工食品の販売に当たらないとしています(加工-4・例は弁当とそうざい)。ショーケースから選んでもらった生ケーキをその場で箱に詰める売り方は、この形に当たります。
量り売り等をする店が、多忙時に備えてその日の販売見込量の範囲で当日に包装して並べておく場合も、量り売り等の範囲として表示をしなくて差し支えないとされています(加工-192)。ただし同じ回答は、冷蔵などの温度管理が必要な食品は、販売時に要冷蔵である旨などを消費者に正確に伝える必要があるとしています。生ケーキは、保冷剤の時間と「要冷蔵」を口頭か箱のシールで伝える運用を計画に入れます。
あらかじめ包装した焼き菓子のギフトは、容器包装に入れられた加工食品です。同じ店で作って売る洋菓子店は、Q&A(加工-191)が「食品を製造し、又は加工した場所で販売する場合」の例に挙げる「菓子小売業(製造小売)」に当たり、原材料名や内容量などの表示を省略できますが、アレルゲンは省略できません。消費者庁のアレルギー表示のページによると、2026年4月1日にカシューナッツが特定原材料に追加され、表示が義務の特定原材料は9品目になりました。改正府令には経過措置があり、2028年3月31日までに製造・加工する加工食品は改正前の基準による表示も認められますが、これから作るラベルは9品目で設計したほうが作り直しを避けられます。商品ごとに使う原材料を仕入先の規格書で確かめ、ナッツ類を含むかどうかを記録しておきます。通販や他店への卸を計画に入れるなら、表示項目の全体は食品表示法の義務表示とアレルゲンの記事で確認できます。
食品衛生責任者とHACCPの手引書
許可を受けた施設には食品衛生責任者を置きます。製菓衛生師・調理師・栄養士などの資格がなければ、都道府県などが行う講習会を受けて就任します。衛生管理は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が対象で、厚生労働省の業界団体作成の手引書のページに、全日本菓子協会・日本洋菓子協会連合会など5団体が作成した「菓子製造業における衛生管理計画作成の手引書」(2024年6月4日改訂)が掲載されています。生クリームやカスタードを使う生ケーキは、冷却と保管の温度記録が管理の中心になります。計画の作り方はHACCPの7原則と飲食店の衛生管理計画の記事で解説しています。
融資面談の前に点検するケーキ屋の計画書の欠陥
- 生ケーキの仕込み数と販売数が同じ:廃棄を見込んでいない計画です。販売率を置き、捨てた分の材料費を原価に入れます。
- 月平均の欄に12月の売上を書いている:12月を含めて年間でならした数字を書きます。12月を除いた通常月の数字は、資金繰りを確かめる補助計算として手元に残します。
- クリスマスケーキの台数に根拠がない:仕上げの人数と時間当たりの台数、冷蔵で保管できる箱数から上限を出し、その範囲で予約を締め切る計画にします。
- イートインの売上にケーキを二重に計上している:ケーキは生ケーキの欄にまとめ、イートインの欄には飲み物だけを積みます。
- イートインのメニューに料理が入っているのに許可が菓子製造業だけ:飲食店営業の許可と施設基準を確かめ、許認可欄と設備資金に反映します。
- 店主の生活費が計画のどこにもない:個人事業では利益から生活費と元金を払います。経営指標と比べるときも、生活費を人件費に足してそろえます。
よくある質問
ケーキ屋の開業資金はいくら必要ですか?
設例では、15坪の店舗でイートイン6席を置く前提で1,320万円(設備資金1,100万円・運転資金220万円)でした。公庫の2025年度新規開業実態調査では全業種の開業費用が平均975万円・中央値600万円で、設例はこれを上回ります。居抜き物件か、電気容量の増設が要るかで工事費が変わるため、見積書をもとに書きます。
ケーキ屋を開業するのに必要な資格や許可は何ですか?
必要なのは、保健所の菓子製造業の許可と、店ごとに置く食品衛生責任者です。製菓衛生師の資格は必須ではなく、資格がなくても講習会を受ければ食品衛生責任者になれます。イートインでその場で調理した軽食や料理を出すなど、菓子製造業の範囲を超える営業をする場合は、飲食店営業の許可も必要です。
イートインを置くと飲食店営業の許可が必要ですか?
菓子製造業の許可を受けた施設で、客が買ったケーキに飲み物を添えて出すだけなら、飲食店営業の許可は要らないと厚生労働省の資料に書かれています。調理パンの製造も菓子製造業の許可で足りますが、その場で調理する軽食や料理を出すなら飲食店営業の許可が必要です。最終的な判断は保健所が行うので、メニュー表と図面を持って事前に相談します。
クリスマスケーキの売上は事業計画書にどう書けばいいですか?
事業の見通し欄は月平均なので、12月の売上をそのまま書かず、年間でならした数字を書きます。台数は、仕上げの人数×時間当たりの台数と、冷蔵で保管できる箱数から上限を出し、予約の見込み数と比べて小さい方を採り、その範囲で予約を締め切る前提にします。家計調査では、2025年12月のケーキ支出のうち24日が25.6%を占めており、受け取り日を23日や25日に分散させる工夫も計画に書けます。
焼き菓子やパンが中心の店でも同じ書き方でいいですか?
創業計画書の記入欄と、売上を上限と需要の小さい方で決める考え方は同じです。焼き菓子は作り置きができるので、売上の上限はオーブンの焼成能力で決まり、廃棄も生ケーキより少なくなります。焼き菓子・和菓子の店はお菓子屋の事業計画書、パンの店はパン屋の事業計画書の記事で扱っています。