オーガニックレストランの事業計画書は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入欄に沿って書くと、融資の面談で聞かれる項目をひととおり押さえられます。一般の飲食店と違うのは、有機食材をどこからどれだけ仕入れるかが、原価率と売上の両方の根拠になる点です。有機食材への切り替えで仕入単価が上がり、販売価格などを据え置く場合は、原価率が上がり、同じ利益を出すのに必要な売上も増えます。
この記事では、公庫の売上の計算方法と2025年度の経営指標(西洋料理店)を使って月商と原価率を検算し、有機食材の比率を上げたときに必要売上がどれだけ動くかを設例で示します。メニューや店名で「有機」「オーガニック」と表示できる範囲と、農林水産省のオーガニックレストランJASの要件もまとめました。
まとめ:オーガニックレストランの事業計画書で押さえる要点
- 日本政策金融公庫へ出すなら、配布されている創業計画書の記入欄(1〜10)に沿って書きます。自分で作った計画書を代わりに出すこともできます。
- 月の売上は、ランチ・ディナーそれぞれの「客単価×席数×1日当たりの回転数×営業日数」を合計し、公庫の経営指標の坪売上で検算します。
- 公庫の2025年度経営指標で、西洋料理店66社の売上高総利益率は平均66.0%(原価率に直すと約34%)、損益分岐点比率は平均105.0%・中央値102.0%でした。中央値の法人でも損益分岐点に届いていません。
- 有機食材の比率を上げて原価率が34%から40%になると、設例の店では返済と生活費まで賄うのに必要な月商が約239万円から約263万円へ上がります。比率は客単価とセットで決めます。
- 有機JASマークの無い農産物・畜産物・加工食品に「有機」「オーガニック」と表示することは法律で禁止されています。店の有機料理を第三者の認証で示すなら、オーガニックレストランJAS(JAS 0004:2024・有機食材80%以上の料理を原則5品目以上)があり、2026年8月末時点の認証店は全国10店です。
以下、創業計画書の欄ごとの書き方、業界数値での検算、有機食材の原価と仕入計画、表示のルール、資金調達、面談で突っ込まれる弱点の順に説明します。
オーガニックレストランの事業計画書と公庫の創業計画書の記入欄
公庫の創業計画書は、1 創業の動機、2 経営者の略歴等、3 取扱商品・サービス、4 従業員、5 取引先・取引関係等、6 関連企業、7 お借入の状況、8 必要な資金と調達方法、9 事業の見通し(月平均)、10 自由記述欄の10欄で構成されています。様式には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」とあり、自作の計画書でも構いません。自作する場合も、この10欄と同じ項目を入れておくと面談で話が噛み合います。
飲食店の記入例は、公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋)があります。客単価を「昼900円」「夜4500円」と時間帯で分け、必要な資金は合計1,260万円、調達は自己資金と公庫・親族からの借入で組んでいます。オーガニックレストランもこの書き方をそのまま使えます。
創業の動機・経営者の略歴:有機食材を扱った経験の書き方
略歴欄には「勤務先名だけではなく、担当業務や役職、身につけた技能等についても記載してください」と注記があります。オーガニックレストランでは、調理経験に加えて、有機食材の仕入先とのやり取り、季節で入荷が変わる食材に合わせた献立の組み替え、原価管理を担当した経験を具体的に書きます。
公庫の2025年度新規開業実態調査では、回答した開業者のうち、現在の事業に関連する仕事をした経験(斯業経験)がある割合は81.1%で、経験がある人の平均経験年数は15.3年でした。飲食店での経験が短い場合は、農家での研修や有機食材の流通に関わった期間など、計画の弱点を補う経験を動機の欄と結びつけて書きます。
取扱商品・取引先欄:有機食材の仕入先と調達比率
取扱商品の欄には、ランチ・ディナー・ドリンクなどの区分ごとに単価帯と売上シェアを書きます。オーガニックレストランでは、ここに「有機食材を主に使う料理」と「一部に使う料理」の区分を入れておくと、後で原価率の根拠を説明しやすくなります。
公庫の創業計画書「5 取引先・取引関係等」の仕入先欄には、農家・生産者団体・卸の名前と所在地、取引先のシェア、掛取引の割合、支払の締日・支払日を記入します。仕入先が1軒だけだと、天候不順で入荷が止まったときに献立が組めません。面談に備え、仕入先の数と、入荷しないときに切り替える仕入先を説明できるようにしておきます。
「有機」「オーガニック」と表示できる範囲とオーガニックレストランJAS
JASの表示ルールを確かめずに店名やメニューを決めると、開業後に看板やメニュー表を作り直すことになります。事業計画書のコンセプト欄に書く前に、どこまで表示できるかを確認します。
有機JASマークが無い食材に「有機」と表示できない範囲
農林水産省の有機食品の検査認証制度のページには、「この『有機JASマーク』がない農産物、畜産物及び加工食品に、『有機』、『オーガニック』などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています」とあります。調味料や加工品の商品表示と、注文に応じて提供する料理の表示は区別して確認します。テイクアウトについても、容器包装の有無だけで判断せず、販売形態と表示内容を農林水産省の相談窓口に確認します。
店内で調理して出す料理への表示は、このページでは触れられていません。一方、消費者庁は飲食店のメニューやポスターの表示を景品表示法の対象として扱っており、実際のものより著しく優良であると示す表示は優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)に当たり得ます。有機食材を一部にしか使わない料理を「オーガニック料理」とだけ書くのは避け、どの食材が有機JASの認証品かを料理ごとに書くのが安全です。物販や容器包装の表示ルールは食品表示法の解説も参照してください。
オーガニックレストランJAS:有機食材80%以上の料理と認証店の数
店として有機料理の提供を第三者に認証してもらう仕組みが、農林水産省の有機料理を提供する飲食店等の管理方法(JAS 0004:2024)です。2018年12月28日に制定され、現行版は2024年7月1日改正・7月31日施行です。要件の中心は次のとおりです。
- 有機食材の配合割合が80%以上の有機料理を5品目以上提供する。常時5品目に満たない店は、全ての料理が80%以上であればよい。
- 配合割合は「有機食材の重量÷(有機食材の重量+それ以外の食材の重量)×100」で求め、食塩と水は除く。有機食材には、有機JASの格付表示がある食材のほか、規格3.3で定める同等国の認証食品なども含まれる。
- メニューで配合割合を記号で示す場合、95%以上は記号4個、80%以上95%未満は3個、50%以上80%未満は2個、50%未満は1個で表す。
- 全ての料理が有機料理である場合を除き、看板やメニューで全てが有機料理だと誤認させる表示をしない。規格の注記は、単に「有機レストラン」「オーガニックカフェ」と書く表示をその例に挙げている。
認証を受けた店でも、全料理が有機料理でなければ「オーガニックカフェ」とだけ名乗れないという点は、店名を決める前に知っておくべきです。認証は国に登録された登録認証機関が審査し、店側は運営責任者・調理責任者・顧客対応責任者を置いて、有機食材の受入れ記録や配合計画を残す体制を作ります。
農林水産省のオーガニックレストランJASマップに載っている認証店は、令和8年8月31日時点で東京都4店、埼玉県1店、神奈川県1店、岩手県1店、京都府1店、大阪府2店の計10店でした。認証を取る店はまだ少数です。事業計画書では、認証を取るかどうかを決め、取る場合は認証にかかる費用と準備期間を開業スケジュールと経費に入れます。
業界数値:公庫の経営指標で見る西洋料理店の原価率・人件費・坪売上
オーガニックレストランという区分の統計は公庫の経営指標にありません。洋食中心の店なら、公庫の小企業の経営指標調査(2025年度・飲食店,宿泊業)の「西洋料理店」を比較の基準にします。和食中心なら同じ資料の「日本料理店」を使います。
| 西洋料理店(66社) | 平均値 | 中央値 |
|---|---|---|
| 売上高総利益率 | 66.0% | 65.8% |
| 人件費対売上高比率 | 32.2% | 32.2% |
| 諸経費対売上高比率 | 32.0% | 29.9% |
| 売上高営業利益率 | -2.4% | -0.4% |
| 損益分岐点比率 | 105.0% | 102.0% |
| 店舗面積3.3㎡当たり売上高(年) | 2,054千円 | 1,649千円 |
| 1企業当たり店舗面積 | 137.3㎡ | 89.6㎡ |
売上高総利益率66.0%は、原価率に直すと約34%です。損益分岐点比率は100%を超えると赤字を意味し、中央値が102.0%であることから、調査対象の少なくとも半数は損益分岐点の売上に届いていないと読み取れます。事業計画書で黒字の見通しを書くなら、業界の中央値より売上か原価のどちらかで上回れる理由を書く必要があります。
使う前に前提を押さえておきます。対象は公庫が融資した法人企業で、個人事業は入っていません。人件費には役員報酬も含まれます。店舗面積は厨房などを除いた面積なので、坪売上で検算するときは客席側の面積で割ります。
売上予測:客単価×席数×回転数と坪売上での検算
公庫の売上高等の計算方法は、飲食店営業を含むサービス業の売上を「客単価×設備単位数(席数)×回転数」で求めるとしています。ランチとディナーでは客単価も回転数も違うので、時間帯ごとに式を分けます。
設例として、客席28席・客席側の面積16坪(約53㎡)・月24日営業の店で計算します。
| 時間帯 | 客単価 | 席数 | 回転数 | 営業日数 | 月の売上 |
|---|---|---|---|---|---|
| ランチ | 1,600円 | 28席 | 1.0回転 | 24日 | 約107.5万円 |
| ディナー | 4,200円 | 28席 | 0.5回転 | 24日 | 約141.1万円 |
| 合計 | – | – | – | – | 約248.6万円 |
月商約248.6万円は年間で約2,983万円で、16坪で割ると3.3㎡当たり約186万円です。西洋料理店の中央値1,649千円と平均2,054千円の間に収まります。平均を大きく超える数字になったら、回転数か客単価の置き方を見直すか、上回れる根拠(予約制のコース、周辺の競合店の客数の実測など)を添えます。
客単価には、有機食材を使うことでいくら上乗せできるかが入っています。周辺のオーガニック系の店のメニュー価格と、一般の洋食店の価格を並べて調べ、その差を客単価の根拠として計画書に書きます。
有機食材の原価率と仕入計画:比率を上げたときの必要売上
公庫の売上高等の計算方法は、売上原価を「売上高×原価率」で求め、原価率は業界平均値をもとに販売戦略を加味して決めるとしています。オーガニックレストランの原価率は、有機食材をどの料理にどれだけ使うかで決まるので、業界平均の34%をそのまま使わず、メニューごとに積み上げます。
原価率34%・37%・40%に応じた必要月商の試算
設例の店で、月の経費(人件費55万円、家賃30万円、その他の経費35万円、支払利息2万円)に、借入900万円を7年で返す元金約10.7万円と事業主の生活費25万円を足すと、毎月賄う必要がある額は約157.7万円です。必要な売上は「賄う額÷(1−原価率)」で求めます。この簡易試算では、食材費以外の支出を固定し、その他の経費35万円は減価償却費を含まない現金支出とします。税金・社会保険料等の追加支出は別途資金繰り表に計上します。
| 原価率 | 必要な月商 | 設例の月商248.6万円との差 |
|---|---|---|
| 34%(西洋料理店の平均相当) | 約239万円 | 約9.7万円の余裕 |
| 37% | 約250万円 | 約1.7万円の不足 |
| 40% | 約263万円 | 約14.2万円の不足 |
原価率が6ポイント上がるだけで、必要な月商は約24万円増えます。有機食材の比率を高く書くなら、その分を客単価に乗せるか、席数・回転数の根拠で売上を上積みするかを同じ計画の中で示します。原価率だけ高く書いて売上が業界中央値並みのままでは、返済原資の説明が付きません。
支払利息は公庫の計算方法に従い「借入金残高×金利÷12か月」で出します(設例は年2.5%と仮定)。個人営業の場合、人件費に事業主分は含めず、生活費は利益から出す形で書きます。
契約農家の欠品に備える代替仕入れと季節メニュー
有機農産物は天候で入荷量が変わり、契約農家1軒に頼ると献立が組めない日が出ます。計画書の取引先欄と自由記述欄には、主な仕入先、欠品時に切り替える仕入先(有機農産物を扱う卸や生産者団体)、季節ごとに献立を入れ替える頻度を書きます。
欠品時に有機でない食材で代替する場合は、使用食材に合わせて表示を見直します。JAS認証店では、80%以上の有機料理の提供数などを再確認し、一時的に基準を満たせない場合は規格6.1.2に従って顧客に知らせます。メニューに有機の表示をしている料理の食材を黙って差し替えると、前の章で触れた表示の問題になります。
開業資金と資金調達:公庫の新規開業・スタートアップ支援資金
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)です。2023年度までの旧「新創業融資制度」では、無担保・無保証人で利用する場合の限度額が3,000万円で、創業資金総額の10分の1以上の自己資金があること等が要件でしたが、2024年度の見直しで限度額が引き上げられ、この要件はなくなりました。古い解説にある3,000万円を、現行の融資の上限として計画書に書かないようにします。
開業費用の目安と、必要な資金欄の書き方
2025年度新規開業実態調査では、全業種の開業費用は平均975万円・中央値600万円でした。資金調達額は平均1,219万円で、金融機関等からの借入が平均827万円(67.9%)、自己資金が平均279万円(22.9%)です。
必要な資金欄は、設備資金(内外装工事、厨房機器、什器・備品、保証金)と運転資金(仕入、家賃、人件費などの支払い)に分け、見積書のある項目は見積先を書きます。設例の店なら、内外装600万円・厨房機器250万円・什器備品80万円・保証金150万円の設備資金1,080万円に、運転資金220万円を足して1,300万円、調達は自己資金400万円と公庫900万円という組み方です。開業後の入出金の予定は資金繰り表の作り方の手順で月ごとに組んでおくと、運転資金の額の根拠になります。
有機農業向けの交付金と飲食店の開業資金
農林水産省のみどりの食料システム戦略推進交付金には有機農業向けの事業がありますが、令和8年度の有機転換推進事業の対象者は、慣行農業から有機農業へ転換する農業者と、就農後3年以内の有機農業の新規就農者です。産地づくりの事業も、事業を行うのは市町村や市町村が参画する協議会です。飲食店が内装や厨房機器の開業資金に充てる制度ではないので、資金計画の調達欄には入れません。開業資金は公庫などの融資と自己資金、自治体の創業向けの補助金で組みます。
面談で突っ込まれるオーガニックレストランの計画の弱点
本記事では、返済原資を検算する観点から、原価率と売上の根拠を先に点検し、続いて仕入れの継続性と自己資金の出どころを確認します。
- 原価率と客単価の不整合:有機食材の比率を高く書きながら、原価率を業界平均の34%前後に置いている。メニューごとの原価の積み上げが無いと、面談で崩れます。
- 売上の根拠が「オーガニック需要の伸び」だけ:国内の有機食品市場は、農林水産省の有機農業をめぐる事情(令和8年4月)で2017年1,850億円、2022年2,240億円、2025年3,595億円(物価上昇を補正すると2,766億円)と推計されていますが、全国の数字は出店地の客数の根拠になりません。周辺の競合店の客数や、出店地の昼間人口・通行量の実測を書きます。
- 仕入先が1軒:欠品時の代替仕入先が無い。
- 自己資金の出どころが説明できない:自己資金の割合の要件はなくなりましたが、いつからどう貯めたかを通帳で説明できるようにしておくと、計画を実行する力の裏付けになります。
集客計画は、開業前の告知と地図検索での見つけてもらい方まで書いておくと、売上の立ち上がりの根拠になります。地図検索の運用は飲食店のMEO対策で解説しています。飲食店の事業計画書全般の考え方は飲食店の事業計画書が創業融資の審査結果を大きく左右する具体的な理由、表計算での作り方はエクセルで事業計画書を作成する具体的な手順と必要シートの全体像にまとめています。
よくある質問
オーガニックレストランの原価率の目安はどのくらいですか?
公庫の2025年度経営指標の西洋料理店では、売上高総利益率が平均66.0%で、原価率に直すと約34%です。約34%は比較の基準であり、有機食材を使う店の下限ではありません。自店の原価率は、メニューごとの原価と販売価格から算出し、売上シェアで加重平均して決めます。
有機JASの認証が無いとオーガニックレストランと名乗れませんか?
店内で調理して出す料理について、農林水産省が有機の表示規制の対象として明示しているのは農産物・畜産物・加工食品で、店名そのものの扱いは明示されていません。ただしメニューの表示は景品表示法の対象で、実態より著しく優良と示せば優良誤認に当たり得ます。オーガニックレストランJASも、全料理が有機料理でない店が単に「有機レストラン」と書くことを誤認表示の例に挙げています。
オーガニックレストランの開業資金はいくら必要ですか?
物件と内装で大きく変わります。公庫の2025年度新規開業実態調査では全業種の開業費用は平均975万円・中央値600万円で、公庫の洋風居酒屋の記入例は1,260万円でした。内外装と厨房機器は見積書をもとに積み上げます。
自己資金がなくても公庫の創業融資は受けられますか?
新規開業・スタートアップ支援資金には、2024年度から自己資金の割合の要件がありません。ただし新規開業実態調査では、開業時の資金調達額の22.9%(平均279万円)が自己資金でした。面談では、自己資金をいつからどう準備したかを説明できるようにしておきます。
事業計画書は公庫の様式で出さないといけませんか?
公庫の創業計画書の様式には、自分で作った計画書を代わりに出してもよいと書かれています。自作する場合も、記入欄1〜10と同じ項目を入れ、事業の見通し欄の数字の根拠を添えます。