退職所得の受給に関する申告書は、国内で退職金を受け取る居住者が勤務先(退職金の支払者)に出す書類です。これを出すと勤務先が退職所得控除を差し引き、退職金の区分に応じた方法(一般の退職金なら2分の1課税)で税額を計算します。出さないと退職金の額に一律20.42%を掛けた所得税・復興特別所得税が天引きされます。国税庁の計算例では、退職金800万円・勤続10年2か月の人の源泉徴収税額は提出ありで91,890円、提出なしで1,633,600円です。この記事では、令和8年1月1日以後の様式に沿って上部とA欄の記入例、B欄からE欄の書き方、勤続年数別の税額と手取り、中退共の請求書の申告欄、定年再雇用やiDeCo一時金と重なるときの調整、勤務先側の保存期間まで説明します。
まとめ:退職所得の受給に関する申告書で押さえる要点
- 退職金の支払を受ける時までに、勤務先へ出します。税務署には送りません(税務署から求められたときだけ勤務先が出します)。
- 出さないと退職金×20.42%が源泉徴収されます。引かれすぎた分は確定申告で取り戻せますが、戻るのは翌年以後です。
- 1社から初めて退職金を受け取る人は、上部の住所・氏名・個人番号とA欄だけを書けば足ります。B欄からE欄は、同じ年や過去に別の退職金を受け取った人だけが書きます。
- 添付書類は、同じ年に先に受け取った退職金の「退職所得の源泉徴収票」(写しでも可)だけです。
- 退職所得控除額は勤続20年までが1年40万円、20年を超える部分が1年70万円です。勤続10年なら400万円で、退職金がこれ以下なら税金はかかりません。
- 令和8年1月1日以後の様式では、C欄に「前年以前9年内」の区分が加わりました。令和8年1月1日以後にiDeCoなど確定拠出年金の一時金を受け取り、その翌年から9年目までの年に退職金を受け取る人が対象です。
- その年は中退共だけから受け取り、前年以前4年内(令和8年以後のDC一時金は9年内)にも退職金を受け取っていない人は、退職金請求書の左下の退職所得申告書欄に書けば、税務署の様式は要りません。
- 勤務先は受け取った申告書を原則7年、令和8年1月1日以後に支払う確定拠出年金の一時金に係るものは10年保存します。
退職所得の受給に関する申告書の提出先・期限・添付書類
申告書の作成者と提出先|本人が記入し勤務先が保管
所得税法203条1項は、退職手当等の支払を受ける居住者が「その退職手当等の支払者を経由して」、支払者の源泉所得税の納税地を所轄する税務署長に申告書を出すと定めています。ただし同条3項により、支払者が受理した時点で税務署長に提出したものとみなされます。国税庁の手続案内(A2-29)も、支払者は「税務署長から特に提出を求められた場合以外は、税務署への提出の必要はありません」としています。
記入するのは退職者本人です。用紙は勤務先が渡してくれることが多いものの、国税庁ホームページの手続案内A2-29(退職所得の受給に関する申告)に令和8年1月1日以後用のPDFと入力用PDFがあります。勤務先から何も届かないときは、本人が自分でダウンロードして記入し、勤務先に出してかまいません。
提出期限は退職金の支払を受ける時まで、電子提出も可
期限は「退職手当等の支払を受ける時まで」です。退職日ではなく、退職金が振り込まれる日が基準になります。振込日を過ぎてから出しても、その支払にはすでに20.42%で源泉徴収されているため、精算は確定申告で行うことになります。
紙でなく電子で出す方法もあります。国税庁 No.2732 は、支払者が「記載事項の提供を適正に受けることができる措置」「提供した者を特定するための措置」「画面表示・書面出力のための措置」の3点を講じていれば、申告書を電磁的方法で提供できるとしています(所得税法203条4項)。
添付書類は同じ年の退職金の源泉徴収票1部・写しも可
国税庁A2-29の「添付書類・部数」欄に書かれているのは、「その年中に他の退職手当等の支給を受けている場合は、その退職手当に係る『退職所得の源泉徴収票』1部」だけです。所得税法203条1項後段も、支払済みの他の退職手当等がある旨を書いた申告書に、その源泉徴収票を添付するよう定めています。令和8年様式の注意事項2は「退職所得の源泉徴収票(特別徴収票)又はその写し」としているので、原本でなくコピーで足ります。
初めて退職金を受け取る人や、前年以前に受け取っただけの人(C欄だけを書く人)には、国税庁の案内上の添付書類はありません。障害者になったことが直接の原因で退職した人も、様式の書き方2では身体障害者手帳等の交付年月日などをA欄②のかっこ内に「記載」する扱いで、手帳の写しの添付までは求めていません。勤務先が社内の確認のために写しを求めることはあるので、その場合は勤務先の指示に従います。
住民税の「退職所得申告書」を1枚で兼ねる様式
様式の正式名は「退職所得の受給に関する申告書 兼 退職所得申告書」です。左上のあて先も「税務署長殿」と「市町村長殿」の2つが並んでいます。後半の退職所得申告書は地方税法50条の7・328条の7に基づく住民税側の申告書で、退職金の支払を受けるべき日(通常は退職日)が属する年の1月1日現在の住所地の市町村長あてに、同じく勤務先を経由して出します。
退職金にかかる住民税は他の所得と分けて計算し、勤務先が天引きします(分離課税・特別徴収)。税率は市町村民税6%(地方税法328条の3)と道府県民税4%(同50条の4)の合計10%です。課税対象は所得税と同じ「退職所得の金額」です(同328条の2)。
申告書を出した場合と出さなかった場合の税額の差
提出ありの計算手順|控除・2分の1・速算表・102.1%
同じ年に他の退職金がなく、一般退職手当等(特定役員退職手当等・短期退職手当等のいずれにも当たらないもの)を受け取る人の源泉徴収税額は、次の4段階で計算します(国税庁 No.2732)。短期退職手当等・特定役員退職手当等の計算は後述します。
- 勤続年数を出す(1年未満の端数は1年に切り上げ)
- 勤続年数から退職所得控除額を出す
- (退職金-退職所得控除額)×1/2 で課税退職所得金額を出す(1,000円未満切り捨て)
- 課税退職所得金額に所得税の速算表を当て、102.1%(復興特別所得税込み)を掛ける
国税庁の例では、退職金2,300万円・勤続29年2か月の人は勤続年数30年、控除額1,500万円、課税退職所得金額400万円で、税額は(400万円×20%-427,500円)×102.1%=380,322円です。速算表の税率区分は所得税の税率7段階と速算表の解説と同じです。同じ退職金額なら、勤続が長いほど控除額が増え、その残りに2分の1を掛けてから税率を当てるので、実効税率は低くなります。
未提出時の一律20.42%|退職金800万円・勤続10年2か月で154万円の差
申告書を出さないと、勤務先は退職所得控除も2分の1も当てず、支払額に20.42%を掛けて源泉徴収します(所得税法201条3項の20%に復興特別所得税を加えた率)。国税庁 No.2732 の例を並べると差は次のとおりです。
| 条件 | 提出あり | 提出なし | 差額 |
|---|---|---|---|
| 800万円・勤続10年2か月 | 91,890円 | 1,633,600円 | 1,541,710円 |
| 2,300万円・勤続29年2か月 | 380,322円 | 4,696,600円 | 4,316,278円 |
提出なしの欄は支払額×20.42%で計算しています。差額は確定申告をすれば戻りますが、還付を受けるのは翌年以後の申告後です。退職金を受け取った直後に使う予定がある人ほど、支払日前に出しておくべき書類です。
住民税側も無関係ではありません。地方税法328条の6第2項は、退職所得申告書が出ていないときも今回の退職金の額で住民税を計算すると定めています。ただし、同じ年に受け取った他の退職金を合算できません。様式裏面の注意事項1は、提出しない場合「市町村民税及び道府県民税については、延滞金を徴収されることがあります」と書いています。
勤続年数・退職金額別の税額と手取り早見表
申告書を出し、同じ年や過去に他の退職金がない一般退職手当等の場合の税額を、上の4段階で計算すると次のようになります。住民税は課税退職所得金額の6%と4%をそれぞれ100円未満切り捨てで出しています。手取りは退職金から所得税と住民税を引いた額で、退職所得の源泉徴収票の「支払金額」から「源泉徴収税額」と「特別徴収税額」を引いた額に当たります。
| 勤続年数 | 退職金 | 課税退職所得 | 所得税等 | 住民税 | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 10年 | 300万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 300万円 |
| 10年 | 500万円 | 50万円 | 25,525円 | 50,000円 | 4,924,475円 |
| 10年 | 1,000万円 | 300万円 | 206,752円 | 300,000円 | 9,493,248円 |
| 20年 | 1,000万円 | 100万円 | 51,050円 | 100,000円 | 9,848,950円 |
| 20年 | 1,500万円 | 350万円 | 278,222円 | 350,000円 | 14,371,778円 |
| 30年 | 2,000万円 | 250万円 | 155,702円 | 250,000円 | 19,594,298円 |
| 30年 | 2,500万円 | 500万円 | 584,522円 | 500,000円 | 23,915,478円 |
| 38年 | 2,500万円 | 220万円 | 125,072円 | 220,000円 | 24,654,928円 |
同じ1,000万円でも、勤続10年と20年では所得税等が約15.6万円、住民税が20万円違います。勤続10年の人が申告書を出さずに1,000万円を受け取ると20.42%の2,042,000円が引かれ、提出した場合より約184万円多く天引きされます。表は勤続5年以下の短期退職手当等・特定役員退職手当等には当てはまりません。
退職所得控除額と勤続年数の数え方
勤続年数別の退職所得控除額早見表|20年超は1年70万円
退職所得控除額は、勤続20年以下なら40万円×勤続年数、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数-20年)です(国税庁 No.1420)。2年未満でも最低80万円は控除されます。退職金がこの控除額以下なら、所得税も住民税もかかりません。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | 計算式 |
|---|---|---|
| 1年・2年 | 80万円 | 最低保障 |
| 5年 | 200万円 | 40万円×5 |
| 10年 | 400万円 | 40万円×10 |
| 15年 | 600万円 | 40万円×15 |
| 20年 | 800万円 | 40万円×20 |
| 21年 | 870万円 | 800万円+70万円×1 |
| 25年 | 1,150万円 | 800万円+70万円×5 |
| 30年 | 1,500万円 | 800万円+70万円×10 |
| 35年 | 1,850万円 | 800万円+70万円×15 |
| 38年 | 2,060万円 | 800万円+70万円×18 |
| 40年 | 2,200万円 | 800万円+70万円×20 |
20年を境に1年あたりの控除が40万円から70万円へ増えるため、勤続20年と21年では控除額が70万円違います。公務員も民間も、税の計算式は同じです。退職金そのものの額は勤務先の退職金規程で決まり、算定方式の違いは退職金の計算方法と4つの算定方式で扱っています。
勤続年数の端数は切り上げ|含める期間と除く期間
勤続年数は、その勤務先で退職日まで引き続き勤務した期間です。1年未満の端数は1年に切り上げます。国税庁 No.1420 の例では、勤続10年2か月は11年と数え、控除額は440万円になります。
No.2732 は、勤続期間に含める期間と除く期間を次のように示しています。
| 区分 | 期間 |
|---|---|
| 含める | 長期の欠勤や病気休職の期間 |
| 含める | 過去に同じ勤務先で働いた期間 |
| 含める | 退職給与規程で退職金の計算に通算される前の勤務先の期間 |
| 除く | 日額表丙欄(日雇い)の適用を受けていた期間 |
| 除く | 他の勤務先で働くために休職した期間(規程で通算される場合を除く) |
| 除く | 同じ勤務先から前に受けた退職金の計算期間の末日以前(規程で通算される場合を除く) |
税の勤続年数は「1年未満切り上げ」で固定ですが、会社の退職金規程は端数を切り捨てたり月割りにしたりと会社ごとに違います。退職金の額を決める勤続年数と、控除額を決める勤続年数は別物として確認してください。
障害者になったことが直接の原因の退職は100万円加算
在職中に障害者になったことが直接の原因で退職した人は、通常の控除額(80万円未満なら80万円)に100万円を加えます(所得税法30条6項3号)。申告書ではA欄②の「一般・障害」で「障害」を○で囲み、かっこ内に障害の状態や身体障害者手帳の交付年月日などを書きます。ここを「一般」のまま出すと、勤務先は加算なしで計算します。
勤続5年以下の役員は2分の1課税なし・従業員は300万円超の部分に制限
勤続が短い人は、2分の1を掛ける優遇が制限されます。役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る「特定役員退職手当等」は、2分の1を掛けません。ここでいう「役員等」には、法人の役員のほか国会議員・地方議会議員・国家公務員・地方公務員も含まれます。役員等以外として勤務した期間で計算した勤続年数(役員等の期間があればそれも含めて計算)が5年以下の人の「短期退職手当等」は、退職金から控除額を引いた残りのうち300万円を超える部分に2分の1を掛けません(令和4年分以後)。
たとえば勤続3年の従業員が退職金800万円を受け取ると、控除額は120万円、残りは680万円です。課税退職所得金額は150万円+(800万円-300万円-120万円)=530万円となり、通常どおり2分の1を掛けた場合の340万円より190万円多くなります。申告書ではA欄③の内書に「特定役員等勤続期間」「短期勤続期間」の有無と期間を書き、勤務先がどの計算式を使うかを判断できるようにします。
A欄からE欄の書き方|令和8年様式の欄ごとの記入内容
令和8年1月1日以後の様式は、上部の「退職手当の支払者の」「あなたの」欄と、A欄からE欄の5つのブロックでできています(右下に「07.06改正」と印字されたもの)。どの欄を書くかは、過去や同じ年に別の退職金を受け取ったかどうかで決まります。
| 欄 | 書く人 | 主な記入項目 |
|---|---|---|
| A欄 | 全員 | ①退職年月日、②一般・障害と生活扶助の有無、③今回の勤続期間 |
| B欄 | 同じ年に他の退職金を受け取った人 | ④他の退職金の勤続期間、⑤通算勤続期間 |
| C欄 | 前年以前4年内・9年内・19年内に退職金を受け取った人 | ⑥前の退職金の勤続期間、⑦重複期間 |
| D欄 | 前の退職金の期間が今回に通算されている人 | ⑧⑨通算した前回分の期間、⑩⑪重複の整理 |
| E欄 | B欄かC欄を書いた人 | 前の退職金の収入金額・源泉徴収税額・特別徴収税額など |
初めて退職金を受け取る人の記入例|上部とA欄の記入内容
A欄の見出しには「全ての人が、記載してください。(あなたが、前に退職手当等の支払を受けたことがない場合には、下のB以下の各欄には記載する必要がありません。)」とあります。新卒から勤めた会社を初めて退職する人は、上部とA欄で終わります。2016年4月1日に入社し、2026年3月31日に自己都合で退職して、4月に退職金500万円を受け取る会社員なら、記入内容は次のとおりです。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 年分(表題の左) | 令和8年分 |
| 提出日 | 令和8年3月31日(支払日より前) |
| 税務署長殿 | 勤務先の所轄税務署名(勤務先に確認) |
| 市町村長殿 | 1月1日現在の住所地の市区町村名 |
| 退職手当の支払者の 所在地・名称 | 勤務先の住所・会社名 |
| 同 法人番号 | 空欄(勤務先が記載) |
| あなたの 現住所・氏名 | 退職後の連絡先になる現住所と氏名 |
| あなたの 個人番号 | 12桁(省略できる場合は後述) |
| その年1月1日現在の住所 | 令和8年1月1日の住民票の住所 |
| A欄① | 令和8年3月31日 |
| A欄② 一般・障害 | 「一般」を○ |
| A欄② 生活扶助 | 「無」を○ |
| A欄③ 勤続期間 | 自 平成28年4月1日 至 令和8年3月31日 10年 |
| A欄③ 内書 | 特定役員等勤続期間・短期勤続期間とも「無」を○ |
| B欄〜E欄 | 空欄 |
勤続期間がちょうど10年なので控除額は400万円、課税退職所得金額は(500万円-400万円)×1/2=50万円です。源泉徴収される所得税等は25,525円、住民税は50,000円になります。入社が1日早い2016年3月31日なら勤続期間は10年1日となり、1年未満を切り上げて11年、控除額は440万円になります。
各項目の注意点は様式裏面の書き方1〜3のとおりです。①は退職した日を書きますが、株主総会の決議が要る役員の退職金は、決議で金額が具体的に決まった日を書きます。②の生活扶助は、その年1月1日現在で生活保護法による生活扶助を受けていれば「有」です。「その年1月1日現在の住所」は住民税のあて先を決めるために使われるので、年の途中で転居した人は転居前の住所を書きます。
同じ年に2か所から受け取るときのB欄・E欄と源泉徴収票の添付
同じ年に、会社の退職金と企業年金の一時金、あるいは2社の退職金を受け取る人は、後から受け取る側の申告書にB欄を書きます。④に先に受け取った退職金の勤続期間、⑤に今回分(③)と④を重複させずに通算した勤続期間を書きます。たとえば会社の退職金(勤続2006年4月1日〜2026年3月31日の20年)を先に受け取り、企業年金基金の一時金(加入2016年4月1日〜2026年3月31日の10年)を後に受け取るなら、基金に出す申告書は③が10年、④が20年、⑤が2006年4月1日〜2026年3月31日の20年です。10年と20年を足して30年とはしません。控除額は通算した勤続年数で1回分だけ計算されるため、2か所それぞれから満額の控除を受けることはできません。
E欄の「B」行には、先に受け取った退職金の支払を受けることとなった年月日、収入金額、源泉徴収税額、特別徴収税額(市町村民税・道府県民税)、支払を受けた年月日、支払者の名称を書きます。金額と支払者の名称は源泉徴収票から書き写せますが、源泉徴収票には実際に支払を受けた日の欄が無いので、支払日は支払通知や入金記録で確かめます。上の例で会社の退職金が1,000万円だった場合、源泉徴収票の金額は所得税等51,050円、市町村民税60,000円、道府県民税40,000円です。基金の一時金が300万円なら、基金は合計1,300万円から通算20年の控除800万円を引いた課税退職所得250万円で税額を出し直し、所得税等155,702円から会社で引かれた51,050円を差し引いた104,652円を源泉徴収します(所得税法201条1項2号)。
添付するのは先に受け取った退職金の「退職所得の源泉徴収票(特別徴収票)」またはその写しです。勤務先は退職の日以後1か月以内に源泉徴収票を交付することになっているので(所得税法226条2項)、先に受け取った側から届いたものを添えます。
前の退職金の期間を通算したときのD欄|⑧〜⑪は1年未満切り捨て
D欄は、今回(A欄③)または同じ年の他の退職金(B欄④)の勤続期間に、前に退職金を受け取った期間が退職給与規程などで通算されている人だけが書きます。同じ会社から前に退職金を受け取った期間を今回の計算に通算した場合や、前の勤務先から退職金を受け取ったうえで、その勤務期間を今回の退職金の計算に通算した場合が当たります。様式裏面の書き方8〜10に沿うと、各欄の中身は次のとおりです。
- ⑧⑨:③または④の勤続期間に通算された、前の退職金の勤続期間
- ⑩:③または⑤の勤続期間のうち、⑧または⑨の期間だけからなる部分
- ⑪:⑦(C欄の重複期間)と⑩を、重なる部分を二重に数えないように通算した期間
A欄・B欄の年数が1年未満切り上げなのに対し、D欄(C欄の⑦も同じ)の年数は1年未満を切り捨てます。重複期間は控除額を減らす側の年数なので、切り捨てにすると退職者に有利になります。
定年再雇用で2回目の退職金を受け取るときの勤続年数
60歳の定年で退職金を受け取り、同じ会社に再雇用されて65歳で2回目の退職金を受け取るケースは、定年時と再雇用終了時の2回、申告書を出します。国税庁 No.2728 は、定年再雇用に伴う退職手当等の収入時期を「定年に達した日」としています。
再雇用後の期間だけで2回目の退職金を計算する規程であれば、2回目の勤続期間には1回目の退職金の計算の基礎になった期間を含めません(No.2732 の除く期間)。規程で定年前の期間を通算して2回目を計算する会社では、D欄に通算期間を書き、重複期間の分だけ控除額が減ります。以下は再雇用期間だけで計算する場合の例です。勤続38年で定年を迎え、再雇用で5年働いた人なら、1回目は38年で控除額2,060万円、2回目は5年で控除額200万円です。2回目は勤続5年以下なので短期退職手当等に当たりますが、退職金300万円なら控除後の100万円が300万円以下に収まるため、2分の1を掛けた50万円が課税退職所得金額になります。
1回目の支払が2回目の年の前年以前4年内にあるときは、C欄に1回目の勤続期間を書きます。再雇用期間だけで計算する規程なら2回目の勤続期間は1回目の期間と重ならないため、控除額は減りません。
令和8年1月以後の様式でC欄に増えた「前年以前9年内」
C欄は、前年以前に退職金を受け取った人が、その勤続期間と今回の勤続期間の重複を申告する欄です。「前年以前4年内」は暦年で数え、2026年に退職金を受け取る人なら2022年から2025年までに受け取った退職金が対象です。令和8年1月1日以後の様式では、判定期間が3つの区分になりました。
| 区分 | 受け取る順序 | C欄に書く前の退職金 |
|---|---|---|
| (1) | (2)(3)以外 | 前年以前4年内の退職金 |
| (2) | DC一時金(令和8年1月1日以後)が先 | 令和8年以後分は9年内、それより前の分は4年内 |
| (3) | 退職金が先、本年にDC一時金 | 前年以前19年内の退職金 |
令和7年12月31日までの様式は、前年以前4年内と、その年にDC一時金を受け取る場合の19年内の2つだけを書き分けていました。(2)が加わったのは、令和8年1月1日以後に受け取る確定拠出年金の老齢給付金の一時金について、判定期間を4年から9年に延ばしたためです(所得税法施行令70条1項2号ロ)。旧様式のまま書くと(2)に当たる人が区分を選べないので、国税庁A2-29から令和8年1月1日以後用をダウンロードしてください。
⑥には前の退職金の勤続期間を書きますが、前の退職金の額がその控除額に満たなかったときは、勤続期間の初日から次の年数(小数点以下切り捨て)が経過する日までの期間を書きます(様式裏面の書き方6)。前の退職金が800万円以下なら「収入金額÷40万円」、800万円を超えるなら「(収入金額-800万円)÷70万円+20」です。E欄には「老齢給付金」の列も追加され、B欄・C欄の退職金が確定拠出年金の老齢給付金の一時金であれば「○」をつけます(書き方11)。
中退共から退職金を受け取るときの請求書の申告欄と申告書
同じ年・4年内に他の退職金が無ければ請求書の申告欄で完結
中小企業退職金共済(中退共)の退職金には専用の手順があります。中退共のFAQ(7-2-9)によると、退職した年に中退共からだけ受け取る人、または中退共が最初の支払者になる人は、C欄に書く前の退職金(前年以前4年内、令和8年以後のDC一時金は9年内)もなければ、「退職金(解約手当金)請求書」の左下にある退職所得申告書欄への記入で足り、税務署所定の申告書は要りません。この欄が空欄だと、中退共も20.42%で源泉徴収します。前年以前4年内に退職金を受け取った人や、令和8年1月1日以後かつ前年以前9年内にDC一時金を受け取った人は、次の節のとおり別に申告書が要ります。
中退共の請求書の記入要領によると、申告書欄に書くのは次の項目です。勤続期間の欄は無く、中退共が把握している加入期間で計算されます。
- 税務署長・市町村長のあて先と「年分」(退職した年)
- 申告書を提出する年月日
- 氏名・現住所・退職した年の1月1日現在の住所(同じなら「同上」)
- 個人番号
- 確認欄:本年中または前年以前4年以内に退職手当を受け取ったことがある人は「有」(記入要領の記載)。令和8年以後かつ前年以前9年内にDC一時金を受け取った人も、FAQでは別に申告書のC欄を書く対象です
会社の退職金や過去の退職金があるときの申告書の書き方
同じ年に会社からすでに退職金を受け取っている人や、前年以前4年内(令和8年以後のDC一時金は9年内)に退職金を受け取った人は、請求書の確認欄を「有」にし、税務署所定の申告書を別に用意します。中退共のFAQは、上部の支払者の名称に「中退共」、A欄に今回の退職日と中退共制度の加入期間を書くよう案内しています。同じ年に会社から受け取っている場合はB欄に会社の勤続期間、E欄の区分Bに会社からの受給内容を書き、会社が発行した「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」のコピーを添付します。前年以前4年内に受け取っている場合や、令和8年1月1日以後に退職し、令和8年以後かつ前年以前9年内にDC一時金を受け取っている場合は、C欄とE欄の区分Cを書きます。
iDeCo・企業型DCの一時金と退職金を両方受け取るときの控除の調整
DC一時金が先・退職金が後の9年内判定と重複期間の調整
確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の老齢給付金を一時金で受け取ると、税法上は退職所得になります。一時金を先に受け取り、その翌年以後9年以内に会社の退職金を受け取ると、退職金の控除額から、DCの加入期間と勤続期間が重なる部分の控除額が差し引かれます。令和8年1月1日より前に受け取ったDC一時金はこれまでどおり4年内で判定します。
DC一時金の金額がDC側の控除額より少ない場合は、前の章の⑥の算式で重複期間を短く数え直します。
次の数値は、令和8年時点の制度が受取時まで変わらないと仮定した試算です。1995年4月入社、2033年3月に勤続38年で退職金2,500万円を受け取る人が、2026年4月にiDeCo(加入2006年4月から20年)の一時金600万円を受け取っていたとします。
- DC一時金600万円は、20年分の控除額800万円より少ない。600万円÷40万円=15年なので、DC側の期間は2006年4月から15年間とみなす。
- 退職金の勤続期間38年のうち、その15年が重複する。15年分の控除額600万円を差し引く。
- 退職金の控除額は2,060万円-600万円=1,460万円。課税退職所得金額は(2,500万円-1,460万円)×1/2=520万円。
同じ人がDC一時金を2025年中に受け取っていれば、令和8年1月1日より前の受取なので4年内で判定し、2033年の退職金には重複調整がかかりません。控除額は2,060万円のままで、課税退職所得金額は220万円です。所得税だけで約50万円、住民税で30万円の差になります。iDeCo固有の勤続年数の数え方(掛金を出した期間だけ数える点)はiDeCoの確定申告と年末調整の解説で扱っています。
退職金が先・DC一時金が後は19年内で判定
順序が逆で、本年にDC一時金を受け取る人は、前年以前19年内に受け取った会社の退職金をC欄の区分(3)に書きます。こちらは令和8年改正の前から変わっていません。
どちらの順序でも、後から受け取る側に出す申告書のC欄とE欄に先の受取内容を書くので、先に受け取った側の源泉徴収票は保管しておいてください。受取時期をずらして控除を確保する計画では、9年内の判定が受取年単位である点に注意します。2026年にDC一時金を受け取った人なら、2027年から2035年までに受け取る退職金が9年内の判定対象になり、2036年以後なら対象外です。判定対象でも、DCの加入期間と勤続期間が重ならなければ控除額は減りません。
退職金を受け取った年の確定申告・年末調整・源泉徴収票
出し忘れて引かれすぎた税金を確定申告で取り戻す手順
申告書を出さずに20.42%で源泉徴収された人は、確定申告で精算します(国税庁 No.1420)。退職所得は分離課税なので、収入金額・所得金額・税額は申告書の第三表(分離課税用)と同表の「退職所得に関する事項」欄に書き、源泉徴収税額は第二表の「所得の内訳(所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額)」欄に書きます(国税庁「退職所得の記入方法等」)。退職所得の源泉徴収票を手元に置いて作成します。他に申告義務がない人の還付申告は、退職した年の翌年1月1日から5年間出せます。期限の数え方と必要書類は還付申告の期限と会社員が出すべき場面で解説しています。
申告書を出していても退職所得を確定申告書に書く場面
申告書を出していれば退職所得の税額は源泉徴収で完結するため、退職金だけなら確定申告は不要です。ただし国税庁A2-29の注2は、医療費控除や寄附金控除の適用を受けるなどの理由で確定申告書を出す場合には「退職所得の金額を含めて申告する必要があります」としています。退職所得を書き漏らすと、控除の計算に使う所得の合計が変わります。
逆に、申告書に前の退職金を書き漏らして控除額が多く計算された場合は、確定申告では直せません。国税庁の質疑応答事例「退職所得の受給に関する申告書に支払済の退職手当を記載しないで提出した場合の是正方法」は、この徴収不足を「確定申告で精算することはできません」とし、支払者が誤りを知った時点で直ちに不足税額を徴収して納付するとしています。退職者が記載漏れに気づいたら、勤務先に訂正を申し出ます。
年の途中で退職した年の給与の確定申告と年末調整
3月や9月など年の途中で退職した人は、退職金とは別に、その年の給与の精算を考えます。年末調整の対象は「その年の1月1日から12月31日まで」に支払が確定した給与です(国税庁 No.2668、所得税法190条)。退職金は退職所得なので、年末調整には入りません。
- 年内に再就職し、年末まで勤務する人:新しい勤務先に扶養控除等申告書を出していれば、年末調整の対象になります(その年の給与総額が2,000万円を超える人などは除かれます)。前の勤務先に扶養控除等申告書を出して受けた給与は合算するので、前の勤務先の「給与所得の源泉徴収票」を新しい勤務先に出します。確認できないと年末調整はできず、確定申告で精算します(No.2674)。
- 年内に再就職しなかった人:死亡退職、著しい心身の障害による退職、12月分の給与を受けた後の退職、その年の給与が136万円以下のパートタイマーなどの退職を除き、退職時の年末調整の対象になりません(No.2665)。給与の源泉徴収税額が多めのままのことがあるので、給与所得の源泉徴収票を使って確定申告で精算します。
この確定申告書を出すときは、前の節の注2どおり、退職所得の金額も含めて記入します。
退職所得の源泉徴収票が届く時期と手取りの読み方
勤務先は、退職の日以後1か月以内に「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を退職者に交付します(所得税法226条2項)。令和8年1月1日以後に支払うべき退職金からは、役員に限らずすべての受給者分を税務署にも提出することになりました(国税庁 No.7421)。勤務先側の作成・提出の実務は退職金の源泉徴収票の発行実務、法定調書全体の提出範囲は法定調書の種類と提出範囲で扱っています。
源泉徴収票の「支払金額」が退職金の総額、「源泉徴収税額」が所得税等、「特別徴収税額」が市町村民税と道府県民税です。支払金額からこの3つを引いた額が振り込まれた手取りに一致するかを確かめ、源泉徴収票の区分の行のうち「所得税法第201条第3項…適用分」に金額が入っていれば、申告書が出ていない扱いで計算されています。心当たりがないときは、申告書の受理状況を支払者に確認してください。
勤務先の受理・保存と人事担当者の確認事項
保存期間は7年、令和8年以後のDC一時金は10年
受け取った申告書は、税務署長から提出を求められるまで勤務先が保存します(所得税法施行規則77条6項)。保存の終期は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年です。令和8年1月1日以後に支払を受けるべき確定拠出年金の老齢給付金の一時金に係る申告書は10年になります(国税庁 No.2503)。2026年中に退職金を支払った分なら、2027年1月11日から数えて7年です。
個人番号が書かれた申告書は、保存期間が過ぎ、個人番号関係事務に必要がなくなった時点で、個人番号をできるだけ速やかに廃棄・削除します(国税庁 マイナンバーFAQ Q1-19)。電子で受け付けた場合は、画面表示と書面出力ができる状態で同じ期間保存します。
個人番号の記載を省略できる帳簿の要件
所得税法施行規則77条2項により、勤務先が、退職前に扶養控除等申告書など(所得税法198条4項各号の申告書)の提出を受けて作成した、受給者の氏名・住所・個人番号、作成の基礎とした申告書の名称・提出年月を記載した帳簿を備えていれば、退職者は申告書に個人番号を書かなくてかまいません。帳簿の記載と氏名や個人番号が違うときは省略できません。
受理時に照合する3点と記載漏れの典型
人事・経理担当者が受理時に確認するのは、次の3点です。
- A欄③の勤続年数が入社日・退職日と一致し、1年未満が切り上げられているか
- 同じ年や前年以前4年内(DC一時金が絡めば9年・19年内)に受け取った退職金がB欄・C欄に書かれているか。同じ年の分(B欄)があれば源泉徴収票が添付されているか
- 特定役員退職手当等・短期退職手当等に当たる期間がある人の内書が「有」になっているか
2点目の記載漏れは、源泉徴収不足につながります。同じ年の退職金の合算や過去年分との勤続期間の重複調整が必要なのに記載がないと、税額を過少に計算し、前の節のとおり勤務先が後から不足税額を徴収することになります。採用時に前職の退職年を聞いていない会社は、退職手続きの案内で「過去の退職金の有無」を質問項目として明示しておくと漏れを防げます。申告書の電子受付や10年保存の管理を自社の人事システムに組み込む場合は、人事・労務管理システム開発で退職手続きの画面と保存期限の管理をまとめて設計できます。
よくある質問
退職所得の受給に関する申告書は誰が作成するのですか?
記入して出すのは退職金を受け取る本人です。勤務先は用紙を渡し、受け取った申告書をもとに税額を計算して保存します。用紙は国税庁ホームページの手続案内A2-29からも入手でき、令和8年1月1日以後に退職金を受け取る人はその年の様式を使います。中退共から受け取る人は、退職金請求書の退職所得申告書欄で代わりになる場合があります。
退職所得の受給に関する申告書の期限はいつですか?
退職金の支払を受ける時までです。退職日ではなく、退職金が支払われる日が基準です。支払後に出しても、その支払分は20.42%で源泉徴収済みのため、差額は確定申告で精算します。退職金の支給日が決まったら、それより前に勤務先へ出してください。
退職所得申告書を出さなかったらどうなりますか?
退職金の額に20.42%を掛けた所得税と復興特別所得税が源泉徴収されます。退職金800万円なら1,633,600円で、申告書を出した場合(勤続10年2か月で91,890円)との差は約154万円です。引かれすぎた分は確定申告で戻ります。他に申告義務がない人の還付申告なら、翌年1月1日から5年以内に出せます。申告義務がある人は通常の確定申告期限までに申告します。
令和8年の退職所得の申告書は何が変わりましたか?
C欄に「前年以前9年内に確定拠出年金法に基づく一時金の支払を受けた場合」の区分が加わり、E欄に「老齢給付金」の列が追加されました。令和8年1月1日以後にDCの老齢一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合の判定期間が、前年以前4年内から9年内へ延長されたためです。会社の退職金を先に受け取り、DCの老齢一時金を後に受け取る場合は、引き続き前年以前19年内で判定します。DC一時金を受け取っていない人の書き方は従来と変わりません。
申告書を出していても確定申告が必要になるのはどんな場合ですか?
申告書を出していれば退職所得の税額は源泉徴収で完結するため、退職金だけなら確定申告は不要です。ただし医療費控除や寄附金控除のため、あるいは年の途中で退職して年末調整を受けていない給与を精算するために確定申告をする年は、退職所得の金額も申告書に含めます。前に受け取った退職金を書き漏らして控除額が多く計算された場合は、確定申告では精算できず、勤務先に訂正を申し出て勤務先が不足税額を徴収・納付します。