使用権資産は、借りている機械やオフィスを「使う権利」として貸借対照表に載せる資産です。2027年4月1日以後開始する事業年度から強制適用される新リース会計基準で、借手は原則すべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上します。この記事では、企業会計基準委員会(ASBJ)の条文と設例の数値を使い、使用権資産の定義と旧基準のリース資産との違い、計上額の内訳、開始日から返却までの仕訳、減価償却の期間の決め方、減損と表示・注記、固定資産台帳で持つべき項目を整理します。
まとめ:使用権資産は使う権利の資産、計上額と償却期間の決め方が実務の要点
使用権資産は、借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産です。旧基準のリース資産はファイナンス・リースに限られていましたが、使用権資産はオペレーティング・リースだった事務所の賃貸借なども含むため、計上の対象がはるかに広がります。
計上額は、リース負債に前払リース料・付随費用・資産除去債務に対応する除去費用を足し、受け取ったリース・インセンティブを引いて決めます。リース負債と同額になるのは、それらが無い場合だけです。
償却は、所有権が移転すると認められるリースなら自社所有と同じ耐用年数と方法、それ以外なら借手のリース期間・残存価額ゼロが原則です。減損の対象にもなり、短期リースと少額リースの簡便的な取扱いを選んだものだけが外れます。
実務で最初に決めるのは、貸借対照表の表示方法と、固定資産台帳に取得価額の内訳と償却の根拠を持たせるかどうかの2点です。
使用権資産とは何か:会計基準第10項の定義と旧基準のリース資産との違い
定義は企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」の第10項にあります。2026年10月16日改正版で項番号を確認しました。
使用権資産の定義は原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産
第10項は、使用権資産を「借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産」と定めています。原資産とは、リースの対象になる機械装置や建物、車両そのものです(第9項)。
ポイントは、資産として載るのが機械や建物ではなく「使う権利」だという点にあります。所有権は貸手に残ったまま、借手は5年間なら5年間、その物を使える権利を手に入れます。この権利を、支払義務であるリース負債と対にして計上するのが新基準の考え方です(BC39項)。英語では right-of-use asset と呼ばれ、国際財務報告基準のIFRS第16号と同じ用語です。
旧基準のリース資産との違いは対象範囲・償却期間・表示方法で整理できる
旧基準(企業会計基準第13号)のリース資産と比べると、違いは次のとおりです。
| 比較項目 | 旧基準のリース資産 | 新基準の使用権資産 |
|---|---|---|
| 計上する契約 | ファイナンス・リースのみ | 原則すべてのリース |
| 事務所や店舗の賃貸借 | 通常は賃貸借処理で計上なし | リースに当たれば計上 |
| リース期間の決め方 | 契約上の期間が中心 | 延長・解約オプションを反映 |
| 貸借対照表の表示 | リース資産として一括が原則 | 第49項の2つの方法から選択 |
実務で影響が大きいのは1行目と2行目です。本社オフィスや店舗の賃貸借契約が新たに使用権資産になるため、件数も金額も旧基準のリース資産から大きく増えます。旧基準のファイナンス・リースは、新基準ではそのまま使用権資産に名前を変えて引き継がれると考えて差し支えありません。リース取引の判定方法そのものはリースとは?リース取引とリース資産の意味と判定基準で整理しています。
使用権資産の計上額の内訳:リース負債に前払・付随費用・除去費用を足す第33項
使用権資産の金額は、まずリース負債を求め、そこに調整を加えて決めます。調整項目は会計基準第33項と企業会計基準適用指針第33号に分かれて書かれています。
第33項の算式はリース負債に前払と付随費用と除去費用を足しインセンティブを引く
第33項に沿って算式にすると、次の形になります。
- リース負債の計上額(未払の借手のリース料の現在価値・第34項)
- +リース開始日までに支払った借手のリース料(前払リース料)
- +付随費用(契約締結のための手数料など)
- +資産除去債務に対応する除去費用(原状回復義務など)
- -受け取ったリース・インセンティブ(貸手から受けた入居補助など)
このうち最も金額が大きいのはリース負債で、その計算に使う割引率の決め方は新リース会計基準の割引率で扱っています。オフィスや店舗の賃貸借で原状回復義務について資産除去債務を計上するときは、同額を使用権資産の帳簿価額に加えます(適用指針第28項)。
返還されない敷金や借地権の権利金も使用権資産の取得価額に含まれる場面
算式に出てこない支出でも、適用指針で使用権資産に含めると決められているものがあります。
差し入れた敷金のうち、契約上返還されないと決まっている金額(いわゆる敷引)は使用権資産の取得価額に含めます(適用指針第34項)。返還される部分は従来どおり敷金として計上します。借地権の設定に係る権利金等も使用権資産に含め、原則として借手のリース期間で償却します(第27項)。ただし旧借地権や普通借地権の権利金には、償却しない扱いを選べる経過的な定めがあります。
建設協力金のように将来返還される差入預託保証金は、支払額と現在価値の差額を使用権資産に含めます(第29項)。不動産を多く借りている会社ほど、使用権資産の取得価額は「リース負債と同額」から離れていきます。
使用権資産とリース負債の金額が一致しない理由と開始日以降に開いていく差
開始日の時点で両者がずれるのは、前の2つのh3で見た調整項目があるからです。調整項目が無い契約でも、開始日の翌日から差は開きます。
使用権資産は定額法で毎期同じ額だけ減りますが、リース負債は利息法で返済されるため、初期は元本の減り方が遅いのです。後で見る設例9-1では、1年目の期末に使用権資産の帳簿価額が39,454千円、リース負債の残高が40,962千円となり、1,508千円が両者の差額です。この差は5年目の期末にゼロへ戻ります。負債側の測定と流動・固定の区分はリース債務とは?リース負債との違いと仕訳で詳しく扱っています。
使用権資産の仕訳を設例9-1で追う:開始日・支払日・決算日の処理と初年度の費用
ASBJの適用指針の設例9-1は、機械装置を5年間、月額1,000千円の毎月末払いで借り、追加借入利子率が年8%、付随費用ゼロという条件です。所有権移転条項も購入オプションも無いリースです。
リース開始日の仕訳は使用権資産49,318千円とリース負債の両建てで計上
60か月分の60,000千円を年8%で割り引いた49,318千円が、リース負債と使用権資産の計上額です。
(借)使用権資産 49,318千円 (貸)リース負債 49,318千円
付随費用があれば、この仕訳とは別に使用権資産に加えます。仮に仲介手数料300千円を現金で払った場合は「(借)使用権資産 300千円(貸)現金預金 300千円」となり、使用権資産は49,618千円、年間の減価償却費は9,924千円に増えます(300千円は本記事の仮定です)。
支払日と決算日の仕訳は利息3,644千円と減価償却費9,864千円が初年度の費用
毎月の支払では、1,000千円をリース負債の返済と支払利息に分けます。第1回の4月30日は、利息が49,318千円×8%×1/12で329千円、元本返済が671千円です。
(借)リース負債 671千円/支払利息 329千円 (貸)現金預金 1,000千円
減価償却は、借手のリース期間5年・残存価額ゼロ・定額法で、設例は3か月ごとに2,466千円を計上しています。
(借)減価償却費 2,466千円 (貸)減価償却累計額 2,466千円
1年目を合計すると、支払利息3,644千円と減価償却費9,864千円で費用は13,508千円となり、支払額12,000千円より1,508千円多く出ます。5年間の費用総額は支払総額と同じ60,000千円です。満了日に原資産を返却したら、減価償却累計額49,318千円と使用権資産49,318千円を相殺して消します。累計額の表示方法は減価償却累計額とはで確認できます。
使用権資産総額に重要性が乏しい会社の簡便法:利息を控除せず60,000千円で計上
未経過の借手のリース料の期末残高が、その残高と有形固定資産・無形固定資産の期末残高の合計に占める割合が10%未満なら、使用権資産総額に重要性が乏しいとされます(適用指針第41項)。
この場合は、利息相当額を控除せずに借手のリース料の総額で計上する方法を選べます(第40項(1))。設例9-1なら、開始日に使用権資産とリース負債を60,000千円で計上し、支払利息は計上せず、減価償却費だけを年12,000千円計上します。利息の計算表が要らなくなるので、リースが少ない会社は判定を先に行う価値があります。
使用権資産の減価償却:所有権移転の有無で変わる耐用年数と残存価額の決め方
償却の定めは会計基準第37項と第38項の2本です。どちらを使うかは、原資産の所有権が借手に移転すると認められるかで決まります。
所有権移転外は借手のリース期間を耐用年数とし残存価額をゼロとする第38項
大半のリースはこちらに当たります。償却方法は定額法等から企業の実態に応じて選べ、自社所有の資産と同じ方法にする必要はありません。耐用年数は借手のリース期間、残存価額はゼロが原則です。
借手のリース期間には、行使が合理的に確実な延長オプションの期間が入ります(第31項)。普通借家契約のオフィスで延長を見込むと、契約書の2年ではなく10年で償却することもあり得ます。満了後に再リースを予定する機器の扱いは新リース会計基準の再リースで設例とともに整理しています。
購入オプションの行使が合理的に確実なら経済的耐用年数で償却する第37項と設例10
次のいずれかに当たるリースは、所有権が移転すると認められるリースです(適用指針第43項)。
- 契約期間の終了後または中途で、所有権が借手に移転する
- 借手による購入オプションの行使が合理的に確実である
- 原資産が特別仕様で、返還後に他へ貸すことも売ることも難しい
この場合は自社所有と同じ償却方法を使い、耐用年数は経済的使用可能予測期間、残存価額は合理的な見積額です。設例10は、設例9-1と同じ条件に満了時1,000千円の購入オプションを足し、経済的耐用年数8年・見積残存価額10%としています。購入オプションの現在価値を足した使用権資産は49,990千円となり、同じ式で計算すると年間の減価償却費は約5,624千円です。設例9-1の9,864千円と比べ、1年あたりの償却費はおよそ4割少なくなります。
リース期間の見直しや条件変更で使用権資産の帳簿価額を加減する場面
使用権資産の金額は、開始日に決めたら終わりではありません。延長オプションの行使が合理的に確実になった、契約を延長した、といった場面ではリース負債を見直し、その修正額を使用権資産に加減します(会計基準第39項〜第42項、適用指針第45項・第46項)。
加減した後は、新しい帳簿価額を残りの期間で償却し直します。原資産の一部解約のように範囲を縮小する条件変更では、使用権資産の帳簿価額を減らし、その減少額とリース負債の修正額の差を損益に計上します(適用指針第45項(2)①)。見直しが多い会社では、変更前と変更後の償却額の履歴を台帳に残しておかないと、前期の数字を監査で説明できなくなります。
使用権資産の減損と貸借対照表の表示・注記:決算書でどう見えるかを押さえる
使用権資産は固定資産と同じく減損の対象で、表示と注記にも独自の定めがあります。決算書の作成者が押さえる範囲を確認します。
使用権資産も減損の対象:減損適用指針第61項と短期・少額リースの除外
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第143項は、借手が計上する使用権資産は減損会計基準の対象になると明記しています。第61項によれば、使用権資産を含む資産グループの減損の兆候の把握・認識の判定・測定は通常の資産に準じて行い、減損損失は各構成資産に配分します。
典型は不採算店舗です。店舗の建物附属設備や什器と並んで、店舗の賃貸借の使用権資産も同じ資産グループに入るため、閉店を決めた段階で使用権資産にも減損損失が配分されます。一方、短期リースや少額リースの簡便的な取扱いを適用したリースの使用権資産は対象外です(第62-2項)。
表示は原資産の科目に含めるか使用権資産として区分するかを第49項で選ぶ
会計基準第49項は、使用権資産の表示を次の2つから選ぶとしています。
- 自社所有なら表示したであろう科目(建物、機械装置など)に含める方法
- 有形固定資産や無形固定資産などの区分の中に「使用権資産」として区分する方法
固定資産に「使用権資産」という新しい大区分を設ける案は、審議の過程で見送られました(BC59項)。前者を選ぶと決算書では所有資産と見分けがつかなくなるため、どちらを選んでも台帳では「使用権資産かどうか」と「原資産の科目」の両方を持つ必要があります。財務指標への影響は新リース会計基準の影響で数値に沿って示しています。
注記に要る科目別の帳簿価額・増加額・減価償却額を台帳から集計する手順
使用権資産について、適用指針は次の注記を求めています。
- 貸借対照表で区分表示していない場合、原資産の表示科目ごとの帳簿価額(第99項(1))
- 当期の使用権資産の増加額(第102項(2))
- 原資産の表示科目ごとの減価償却の金額(第102項(3))
どれも、契約1件ごとの使用権資産を原資産の科目で集計しないと作れない数字です。期中に追加された契約と、見直しで加算された額を「増加額」に含めるかの社内ルールも、初年度の決算前に決めておきます。
使用権資産を固定資産台帳で管理する設計:所有資産と同じ台帳に載せるかの判断
使用権資産の計算は契約から始まり、償却と減損は固定資産の仕組みで行います。台帳の持ち方を決めないまま適用初年度を迎えると、注記と監査対応で手が止まります。
固定資産台帳に追加する使用権資産の管理項目と取得価額の内訳列の持ち方
所有資産の台帳項目に加えて、使用権資産には次の列を持たせます。
- 使用権資産の区分フラグと、原資産の表示科目
- 取得価額の内訳(リース負債・前払・付随費用・除去費用・インセンティブ)
- 償却の根拠(第37項か第38項か)と、借手のリース期間の決定理由
- 見直し・条件変更の日付と、帳簿価額への加減額の履歴
- 減損の対象外か(短期・少額の簡便的な取扱いの適用有無)と資産グループ
- リース負債の契約番号(リース負債の返済表との突合キー)
実務でまず入れるべきは、取得価額の内訳と契約番号です。内訳が無いと除去費用の見直しを反映できず、契約番号が無いと使用権資産とリース負債の差を契約単位で説明できません。
所有資産と同じ固定資産台帳で回る会社と契約台帳を別に持つべき会社の条件
リースが機器中心で数十件、見直しがほとんど起きない会社は、既存の固定資産台帳に上の列を足せば回ります。この規模で専用のリース管理を入れるのは過剰です。
一方で、店舗や営業所の賃貸借が数百件ある、延長オプションの見直しや賃料改定が毎月起きる、という会社は、契約台帳を起点に使用権資産とリース負債を同時に再計算し、固定資産台帳と会計システムへ渡す構成が必要になります。固定資産台帳だけで持つと、リース負債の返済表と使用権資産の帳簿価額が別々に修正され、差の説明がつかなくなるからです。一創の会計・経理システム開発では、既存の固定資産管理や会計システムに合わせて、契約台帳から使用権資産の計算・仕訳・注記の集計までをつなぐ開発の相談を受けています。導入方式の比較は新リース会計基準のシステム対応、固定資産側の機能は固定資産管理システムとはで整理しています。
使用権資産についてよくある質問と表示区分・税務処理など決算実務での答え方
使用権資産を調べている経理担当者から出やすい質問に答えます。
使用権資産は有形固定資産と無形固定資産のどちらに入りますか?
表示区分を決める基準は原資産です。会計基準第49項の表示方法では、建物や機械装置を借りているなら有形固定資産、ソフトウェアのライセンスのように無形の資産なら無形固定資産の区分に入ります。原資産の科目に含めるか、各区分の中に「使用権資産」の科目を立てるかは会社が選びます。借地権は、有形固定資産である土地に関する使用権資産として扱われます(適用指針BC7項)。これまで借地権を無形固定資産に計上してきた会社は、表示区分の見直しが要るかを確かめてください。
使用権資産の勘定科目名は旧基準の「リース資産」のままでもよいですか?
第49項は表示の方法を定めるもので、社内の勘定科目名までは指定していません。ただし、区分して表示する方法を選んだ場合は「使用権資産」として表示するので、総勘定元帳の科目も合わせておくと決算書との対応がわかりやすくなります。旧基準のリース資産を引き継ぐ経過措置もあり、適用初年度の期首残高の作り方は新リース会計基準とは?変更点と経過措置で整理しています。
使用権資産の減価償却費は税務でもそのまま損金になりますか?
損金になるかの判断基準は、契約の税務上の区分です。法人税法第64条の2のリース取引に当たる契約は、使用権資産の減価償却費として経理した金額は、税務上も償却費として扱える金額です。一方、税務上の賃貸借取引に当たる契約は、令和7年度改正で新設された法人税法第53条により支払うリース料が損金になるため、減価償却費と支払利息は否認して別表で調整します。設例の数値での調整は新リース会計基準と国税庁の対応で追っています。
少額のリースや1年以内のリースも使用権資産を計上しますか?
計上しない方法を選べます。借手のリース期間が12か月以内で購入オプションの無い短期リース、リース1件あたりの金額が一定以下の少額リースは、簡便的な取扱いを選ぶと使用権資産とリース負債を計上せず、リース料を費用にできます(適用指針第20項・第22項)。少額の判定には、契約1件あたりの金額に重要性が乏しいリースと、新品時の原資産の価値が少額のリースの2つの方法があります。後者は、IFRS第16号の開発時に新品時5千米ドル以下程度の資産を念頭に置いたものと説明されています(適用指針BC45項)。前者で使われてきた300万円の基準額の位置付けは新リース会計基準の300万円基準で扱っています。
中小企業も使用権資産を計上する必要がありますか?
新リース会計基準の強制適用の対象は、上場会社や会社法上の大会社などで、2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されます(会計基準第58項・早期適用は2025年4月1日以後開始する事業年度から)。中小企業の会計に関する指針などで処理している会社は、従来どおり賃貸借処理を続けられる場合が多く、使用権資産を計上しないことがあります。自社が対象かどうかは親記事の適用対象の章で確認してください。
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