人事労務

SAP SuccessFactorsとは?モジュール構成・給与の扱いと国産タレマネとの選び分け

SAP SuccessFactorsとは?モジュール構成・給与の扱いと国産タレマネとの選び分け

SAP SuccessFactors(サクセスファクターズ)とは、SAPが提供するクラウド型の人事システム群です。社員マスタを持つEmployee Centralを中心に、採用、オンボーディング、目標と評価、報酬、後継者計画、学習、給与計算までをモジュール単位で組み合わせて使います。本稿では、SAPの公式教材と仕様書をもとに、モジュールの構成、日本の給与計算をどの製品が担うのか、オンプレミスのSAP HCMの保守期限との関係、導入パートナーが必要になる理由を整理しました。後半では、国産のタレントマネジメントシステムで足りる企業との分かれ目を条件付きで示します。

まとめ:SAP SuccessFactorsの位置づけと導入判断で先に確かめる点

SAP SuccessFactorsは、複数の国にまたがる従業員のデータと人事プロセスを、1つのクラウド基盤にそろえるための製品です。人事評価だけ、学習管理だけといった部分導入もできますが、真価が出るのはEmployee Centralを全社の社員マスタにしたときです。

判断の軸は3つあります。海外拠点を含めて人事データを統合したいか。基幹がSAPで、ECC上のSAP HCMの保守期限が迫っているか。導入パートナーに設定の一部を任せる体制を許容できるか。前の2つが当てはまる企業には有力な選択肢になります。国内だけで従業員が数百名規模、目的が評価や配置の見える化に限られる企業には過剰で、国産のタレントマネジメントシステムの方が早く安く立ち上がる、というのが本稿の結論です。

SAP SuccessFactorsの定義と、2001年創業から続く製品の成り立ち

まず製品の素性と、どこまでを扱う製品なのかを確認します。人事システムという分類全体の説明は人事システムの機能と種類を整理した記事に譲り、ここではSuccessFactors固有の事実に絞ります。

2012年のSAP買収でクラウド人事の中核となった経緯と現在の呼び方

SAPの公式教材「SAP SuccessFactors のご紹介」によると、SuccessFactorsは2001年にLars Dalgaard氏が設立した会社で、SAPは2012年に同社を買収しました。もともとは従業員の目標管理や育成を得意とするクラウドの人材管理サービスで、買収後にSAPのクラウド人事製品の中心に据えられています。

SAPは製品紹介で、この領域をHXM(Human Experience Management)という呼び方で打ち出しています。従来のHCM(人的資本管理)に、従業員の体験やエンゲージメントの観点を足した言い方です。検索では「SAP HXM」と「SuccessFactors」がほぼ同じ製品群を指すと考えて差し支えありません。

コアHR・給与とタレント管理の2系統に分かれるモジュール一覧

同じ教材では、モジュールを大きく2つの系統に分けて説明しています。コアHRと給与計算の系統は社員の基本情報と処遇を、タレント管理の系統は人材の獲得と育成を受け持ちます。

系統 主なモジュール 受け持つ業務
コアHR・給与 Employee Central 社員マスタ・組織・異動履歴
コアHR・給与 ポジション管理・勤怠管理・福利厚生 定員・休暇・勤務時間・手当
コアHR・給与 Employee Central Payroll 給与計算・振込・会計転記
タレント管理 採用・オンボーディング 募集から入社手続きまで
タレント管理 業績および目標・報酬 目標設定・評価・昇給と賞与
タレント管理 後継者とキャリア開発・学習 後継者計画・研修の受講管理

実務でまず押さえるのはEmployee Centralです。他のモジュールはここにある社員・組織・ポジションのデータを参照して動くため、Employee Centralを入れずにタレント系だけを使う場合は、既存の人事システムから社員データを毎日連携する仕組みが別途必要になります。

日本の給与計算を担うEmployee Central Payrollの対応範囲と注意点

人事システムの選定で最も差が出るのが給与です。SuccessFactorsには給与の製品が2つあり、日本でどちらが使えるかを取り違えると、構想そのものがずれます。給与システム全般の比較の観点は給与計算システムの種類と比較の観点を整理した記事で扱っています。

2023年下半期時点で日本を含む50のローカル版を持つECPの中身

SAPが公開しているEmployee Central Payrollの機能範囲の説明(日本語版)では、2023年下半期のリリース時点で、SAPが提供する50のローカルバージョンに日本が含まれています。これとは別に、パートナーが提供するローカルバージョンの数は4つです。システムは39の言語に翻訳され、サービスの可用性は契約上99.7%と明記されています。

機能としては、総支給額から差引支給額までの計算、銀行振込、総勘定元帳への転記、遡及計算、年度末処理、法規制レポートが並びます。計算結果は給与の実行ごとに個別に保存され、変更の監査ができる設計です。なお、この文書にはパッケージと価格は含まれず、SAP Discovery Centerを参照するよう書かれています。

次世代のSAP SuccessFactors Payrollは英国の早期導入者のみ本稼動

名前が似ている別製品に「SAP SuccessFactors Payroll」があります。同じくSAPのSAP SuccessFactors Payrollの機能範囲の説明では、2023年下半期の時点で本稼動に使えるのは英国の選ばれた早期導入者のみ、米国・カナダ・ドイツはガイド付きテストのみとされています。

つまり、日本の給与をSuccessFactorsで計算するなら、対象はEmployee Central Payrollです。営業資料やブログで「リアルタイム給与計算」といった次世代版の特長を見かけたときは、どちらの製品の話かを確かめてください。仕様書は半年ごとのリリースで更新されるため、検討の時点で最新版を取り寄せることを勧めます。

オンプレミスのSAP HCMの保守期限とSuccessFactorsへの移行の選択肢

SAPのERPを使う企業では、人事もECC上のSAP HCMで動かしている例が少なくありません。SuccessFactorsの検討は、多くの場合この保守期限から始まります。

ECCの保守が2027年末で終わる人事基盤に残された3つの移行先

SAPは2020年2月の発表で、SAP Business Suite 7のコアアプリケーションのメインストリーム保守を2027年末まで、オプションの延長保守を2030年末までとし、SAP S/4HANAの保守は2040年末まで続けると表明しました。ECC上で人事を動かしている企業は、基幹と同じ期限を意識して人事の行き先を決める必要があります。

行き先は大きく3つです。1つ目は人事をSuccessFactorsへ移し、クラウドに寄せる道。2つ目はS/4HANA上で従来型の人事機能を使い続ける道で、SAPの教材はS/4HANAの人事機能(組織管理・人事管理・勤務時間・給与計算)とSuccessFactorsのモジュールの対応を示しています。3つ目は、コアHRと給与だけをオンプレミスに残し、タレント系をSuccessFactorsで使う併用です。基幹側の移行方式はSAP S/4HANAの導入形態と移行方式を解説した記事で、期限の読み方はSAPの2027年問題を整理した記事で詳しく扱いました。

S/4HANAの人事機能とSuccessFactorsの対応表で見る移行の単位

教材の対応関係を移行計画の単位に置き換えると、次のように整理できます。

S/4HANA側の人事機能 SuccessFactors側の受け皿
組織管理(OM) ポジション管理
人事管理(PA) Employee Centralの社員プロファイル
勤務時間(PT) 休暇・時間の記録
給与計算 Employee Central Payroll
タレント管理 採用・オンボーディング・学習・後継者・業績

一度に全部を移す必要はありません。リスクが小さいのはタレント系から先に移し、社員マスタは旧システムから連携する順序です。逆に、給与だけ先にクラウドへ移すと、社員マスタと給与の正がどちらにあるかが曖昧になり、月次の締めで照合作業が増えます。給与はEmployee Centralへの切り替えと同時か、その後に置くのが安全です。

SAP SuccessFactorsの導入体制と費用:パートナー依存と連携の保守責任

SaaSだから自社だけで設定できる、と考えると計画が狂います。SuccessFactorsには、利用企業が触れる設定と触れない設定の境目があります。

設定の約80%はインスタンス側、残り約20%は認定パートナーのみ

SAPの教材では、設定の場を2つに分けています。フロントエンドにあたるインスタンスでは調整と設定の約80%ができ、バックエンドにあたるプロビジョニングで約20%の基本設定を行います。プロビジョニングにアクセスできるのは、権限を持つSAP SuccessFactorsのコンサルタントと導入パートナーだけです。

この分担は運用開始後にも効いてきます。新しいモジュールの有効化や基本設定の変更が必要になるたびに、パートナーへの依頼が発生するためです。契約前に、導入後の保守をどのパートナーにどの範囲で任せるか、社内に残す設定スキルは何かを決めておく必要があります。

連携の保守責任はSAP標準・テンプレート・API開発の3段階で分かれる

前出のEmployee Central Payrollの仕様書は、連携の保守責任を明確に書き分けています。

  • Employee CentralとEmployee Central Payrollの間の事前構築された統合は、SAPが開発・サポート・保守する
  • 他社の福利厚生・勤怠・会計・出張アプリ向けのテンプレートを使った統合は、利用企業が保守する
  • APIで作る独自の統合と拡張は、利用企業が保守する

国内企業では、勤怠を国産のクラウドサービスで続け、その実績をSuccessFactorsの給与へ送る構成がよくあります。この連携は2つ目か3つ目に当たり、半年ごとのリリースで仕様が変わったときの改修は自社の負担です。見積もりで連携が「標準で対応」とだけ書かれている場合は、どの段階の連携かを確認してください。

価格表が非公開のため見積もり前にそろえる人数とモジュールの範囲

SuccessFactorsの価格表は公開されておらず、仕様書もSAP Discovery Centerを参照するよう案内するだけです。比較サイトに出ている1人あたりの目安は、契約単位や時期で変わるため、そのまま予算には使えません。

見積もりを取る前に、対象となる従業員数を国別に数え、どのモジュールをどの順で入れるかを決めておくと、パートナー間の比較がしやすくなります。ライセンス料のほかに発生する費用も、見積もりの確認対象です。旧システムからのデータ移行、評価制度や等級の設定、給与の並行稼動、連携の開発がそれで、これらを合わせた総額で判断しないと、国産製品との比較を誤ります。

SAP SuccessFactorsを採るべき企業と国産タレマネで足りる企業の分かれ目

ここまでの事実から、採用の判断を言い切ります。見る条件は、海外拠点の有無、基幹とSAP HCMの状況、従業員規模、導入後の体制の4つです。

多国籍の人事データ統合とSAP HCMの保守期限が重なる企業は採用

採用を勧めるのは、海外に複数の拠点を持ち、国ごとにばらばらの人事システムを1つの社員マスタにまとめたい企業です。50か国以上のローカル版を持つ給与と39言語の画面は、国内製品では代わりが利きません。ECC上のSAP HCMを使っていて、2027年末の保守期限までに人事の行き先を決める必要がある企業にとっても、SAPの対応表に沿って移行の単位を切れる点は大きな利点です。

S/4HANAへの移行とあわせて人事基盤の行き先やSuccessFactorsとの連携の設計を検討したい場合は、一創のSAPコンサルティング・導入支援サービスで、移行計画と一体での進め方から支援しています。

国内のみで従業員が数百名規模なら見送る判断と典型的な失敗パターン2つ

反対に、拠点が国内だけで、従業員が数百名規模、目的が評価や配置の見える化に限られる企業は、SuccessFactorsを見送ります。設定の一部がパートナー経由になる体制と、半年ごとのリリースへの追随は、この規模では得られる効果よりも負担の方が大きいためです。国産のタレントマネジメントシステムなら、人材データベースと評価の機能を短期間で立ち上げられます。製品を問わない選び方はタレントマネジメントシステムの機能・選び方・費用を整理した記事にまとめました。

よくある失敗は2つです。1つは、グローバル標準だからという理由で選び、国内の等級制度や評価の運用を製品に合わせて見直さないまま導入するケースです。設定が複雑になり、パートナーへの依頼費用が積み上がります。もう1つは、Employee Centralを入れずにタレント系だけを契約し、社員データの連携を後回しにするケースです。異動のたびに手作業で社員情報を直すことになり、評価の対象者が実態とずれます。どちらも、契約前に社員マスタの正をどこに置くかを決めていれば避けられた失敗です。

よくある質問

SAP SuccessFactorsについて、検索でよく調べられている疑問に答えます。

SAP SuccessFactorsとSAP HCMは何が違いますか?

SAP HCMは、ECCやS/4HANAの中で動くオンプレミス型の人事機能です。SAP SuccessFactorsは、2012年にSAPが買収した会社の製品を源流とするクラウド型の人事システム群で、SAPが運用するサーバー上で使います。SAPの教材は、HCMの組織管理・人事管理・勤務時間・給与計算が、SuccessFactorsのポジション管理・Employee Central・時間の記録・Employee Central Payrollにそれぞれ対応すると示しています。

SAP SuccessFactorsで日本の給与計算はできますか?

日本の給与計算にも対応可能です。日本の給与を扱う製品はEmployee Central Payrollで、SAPの機能範囲の説明では、2023年下半期の時点でSAPが提供する50のローカルバージョンに日本が含まれています。一方、名前の似たSAP SuccessFactors Payrollは、同時点で本稼動が英国の早期導入者に限られています。日本で使う場合はEmployee Central Payrollを前提に検討してください。

Employee Centralとは何ですか?

Employee Centralは、SuccessFactorsのコアHRにあたるモジュールで、社員の基本情報、組織、ポジション、異動の履歴を管理する社員マスタの役割を持ちます。採用・評価・学習などのタレント系モジュールは、このデータを参照して動く仕組みです。Employee Centralを入れずにタレント系だけを使うことも可能ですが、その場合は既存の人事システムから社員データを連携する仕組みを別に用意する必要があります。

SAP SuccessFactorsの料金はいくらですか?

価格表は公開されておらず、SAPや導入パートナーへの見積もり依頼で個別に決まります。SAPの仕様書もパッケージと価格についてはSAP Discovery Centerを参照するよう案内しています。比較する際は、ライセンス料に加えて、データ移行、評価制度や等級の設定、給与の並行稼動、勤怠など他システムとの連携開発、導入後のパートナー保守の費用を含めた総額で見てください。

SAP以外の会計や勤怠のシステムとも連携できますか?

SAP以外の会計や勤怠のシステムとの連携も可能です。Employee Central Payrollの仕様書では、他社の福利厚生・勤怠・会計・出張アプリ向けのテンプレートと、独自の統合を作るためのAPIが用意されています。ただし、SAPが保守するのはEmployee CentralとEmployee Central Payrollの間の事前構築された統合までで、テンプレートやAPIで作った連携は利用企業が保守します。半年ごとのリリースで仕様が変わったときの改修体制を決めておいてください。

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