児童発達支援の事業計画書は、自治体(指定権者)との事前協議と、日本政策金融公庫などの融資審査の両方で使います。どちらの審査でも見られるのは、定員と人員配置が指定基準を満たしているか、売上が報酬の単位数から積み上がっているか、給付費が入るまでの資金が足りるか、の3点です。この記事では、令和8年6月の臨時改定で新規指定の事業所だけ基本報酬が下がった点も含めて、2026年10月時点の制度で計画書の数字を組む手順を解説します。
まとめ:児童発達支援の事業計画書で先に固める数字
- 開業地の総量規制:児童発達支援は児童福祉法で総量規制の対象です。障害児福祉計画の必要量に達した地域では指定されないことがあるため、物件を決める前に指定権者へ確認します。
- 人員:定員10人(センター以外)なら、児童発達支援管理責任者1人以上(専任・常勤1人以上)と、児童指導員または保育士2人以上(常勤1人以上)が最低ラインです。
- 売上:基本報酬の単位数×地域区分の単価×延べ利用人数で積み上げます。令和8年6月1日以降に新規指定された事業所は、令和9年度改定まで基本報酬が1000分の988になります。
- 資金:給付費はサービス提供月の翌々月に入ります。開業前からの支払と入金を月ごとに並べ、累積の資金不足が最も深くなる月の額を運転資金として確保します。
- 様式:公庫の創業計画書は10欄です。自作の計画書で代替できますが、指定権者に出す事業計画書と数字をそろえます。
児童発達支援の事業計画書を提出する2つの審査
児童発達支援の事業計画書には全国共通の様式がありません。同じ中身を、提出先ごとの書式に合わせて2回使うと考えると整理しやすくなります。
指定権者の事前協議で見られる内容
指定権者は事業所の所在地を管轄する都道府県・指定都市・中核市などです。たとえば栃木県の児童発達支援の指定申請ページでは、事前協議に事業計画書と建物の図面を用意するよう求めており、申請書の提出期限は「指定を受けようとする月の前々月の末日まで」(5月1日指定なら3月31日)です。期限と様式は自治体ごとに違うため、最初の相談で次の3点を確認します。
- 事前協議の受付方法と、指定日ごとの申請期限
- 総量規制の運用状況(新規指定を受け付けているか)
- 発達支援室の面積や手洗い・トイレなど、条例・手引きで上乗せされている設備の基準
公庫の創業計画書の10欄と児童発達支援での書き方
日本政策金融公庫の創業計画書は10欄で構成され、「お客さまご自身が作成された計画書」で代替することもできます。児童発達支援では、欄ごとに次の中身を入れます。
| 欄 | 児童発達支援で書く内容 |
|---|---|
| 1 創業の動機 | 地域で不足している支援と対象児童 |
| 2 経営者の略歴等 | 療育・保育の実務年数、児発管の要件 |
| 3 取扱商品・サービス | 時間区分、定員、送迎の有無、支援の特色 |
| 4 従業員 | 職種別の人数と常勤・非常勤の別 |
| 5 取引先・取引関係等 | 国保連(給付費)と保護者(利用者負担)、回収条件 |
| 6 関連企業 | 申込人・代表者・配偶者が経営する企業 |
| 7 お借入の状況 | 代表者の既存借入 |
| 8 必要な資金と調達方法 | 内装・備品・車両と運転資金、自己資金 |
| 9 事業の見通し(月平均) | 単位数から積み上げた売上と人件費 |
| 10 自由記述欄 | 相談支援事業所や保育所との連携見込み |
「5 取引先」の回収条件は、給付費なら「月末締め・翌月10日までに請求・翌々月回収」と書くのが実態に近い書き方です。公庫が公開している介護サービスの記入例も、介護保険分の回収を「翌々月末日」としています。
開業地を決める前に確認する総量規制
児童発達支援の開業でつまずきやすいのは、物件を契約してから指定が下りないと分かるケースです。児童福祉法21条の5の15第5項は、申請に係る指定通所支援の量が都道府県障害児福祉計画の必要量に達している、または指定によって超えると認めるときは「指定をしないことができる」と定めています。対象となる「特定障害児通所支援」は、児童福祉法施行規則18条の30の2で児童発達支援(肢体不自由児に治療を行うものを除く)と放課後等デイサービスとされています。
運用は自治体で差があり、圏域ごとに充足率を見て定員増を伴う指定を止めるところや、医療的ケア児・重症心身障害児を受け入れる場合を例外にするところがあります。事業計画書の「創業の動機」で地域の不足を書くなら、障害児福祉計画の見込量と既存事業所の定員を並べて示すと、指定権者にも金融機関にも根拠として通ります。総量規制の対象地域で、医療的ケア児などの例外に当たらない計画は、物件の申込み前に見直すべきです。
定員10人の人員配置と設備の計画
人員基準:児童発達支援管理責任者と児童指導員・保育士
センター以外の児童発達支援事業所では、指定通所支援の人員・設備・運営基準5条により、支援する障害児が10人までなら児童指導員または保育士を2人以上、児童発達支援管理責任者を1人以上置きます。児童指導員または保育士のうち1人以上は常勤、児童発達支援管理責任者のうち1人以上は専任かつ常勤です。管理者は支障がなければ兼務できます。
計画書の人員欄は、この最低人数に休暇・送迎・加配の分を上乗せした人数で書きます。基準の2人ちょうどで組むと、1人が休んだ日は基準を下回ります。児童指導員・保育士は、必要数から1割を超えて減ると翌月から、1割以内でも翌々月から(翌月末までに解消した場合を除く)減算になります。減算率は、児童指導員・保育士の欠如なら適用月から2か月目まで所定単位数の70%・3か月以上続くと50%、児童発達支援管理責任者の欠如なら4か月目まで70%・5か月以上続くと50%です。
設備:発達支援室と自治体の上乗せ基準
同基準9条が求めるのは、発達支援室と支援に必要な設備・備品です。令和6年改正で名称が「指導訓練室」から「発達支援室」に変わりました。1人当たり2.47平方メートルという数値は児童発達支援センターの発達支援室の基準(10条)で、センター以外には国の基準として面積の数値がありません。ただし自治体の条例・手引きで面積の目安を置いている場合があり、建築基準法・消防法の用途変更の要否も別に確認します。
採用計画:児発管の確保とこども性暴力防止法
児童発達支援管理責任者は実務経験と研修修了が要件で、専任・常勤の1人以上が必要なため、採用計画の起点になります。指定申請時には勤務形態一覧表と資格証が必要になるため、計画書には採用時期と、採用できなかった場合の開業月の後ろ倒しを書いておきます。
2026年12月25日にはこども性暴力防止法が施行され、児童発達支援は犯罪事実確認(性犯罪前科の確認)などの措置が義務付けられる対象事業者です。施行後に新たに採用する職員は、内定後かつ業務開始前に国のシステムで確認を終える必要があり、確認書の交付には日本国籍で2週間〜1か月かかるとされています。施行時に在職している職員は施行後3年以内の確認です。開業が施行後になる計画では、内定から勤務開始までにこの期間を組み込みます。
報酬単位からの売上計算と新規指定の988特例
売上の計算式と令和8年6月以降の基本報酬
児童発達支援の売上は「(基本報酬+加算)の単位数×地域区分の1単位単価×延べ利用人数」で計算します。センター以外・主に未就学児・定員10人以下(重症心身障害児・医療的ケア区分の対象児を除く)の基本報酬は、区分1(30分以上1時間30分以下)901単位、区分2(1時間30分超3時間以下)928単位、区分3(3時間超5時間以下)980単位です。
令和8年6月の臨時改定で、令和8年6月1日以降に新規指定された事業所には、令和9年度報酬改定までの間、基本報酬の1000分の988に相当する単位数が適用されることになりました。同じ仕組みは放課後等デイサービス(1000分の982)、就労継続支援B型、共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)にも設けられ、率はサービスごとに異なります。既存事業所は従前どおりです。主として重症心身障害児を通わせる事業所、医療的ケア区分の利用者や強度行動障害児支援加算・人工内耳装用児支援加算・視覚・聴覚・言語機能障害児支援加算を算定する利用者、離島・中山間地域、自治体の公募などで設置する事業所の基本報酬は配慮措置として従前の単価です。これから開業する計画書では、区分2なら928単位×988/1000=約917単位で売上を組みます。
1単位の単価は地域区分で決まり、センター以外(主として重症心身障害児を通わせる事業所を除く)の児童発達支援は1級地11.20円から「その他」10.00円までの8段階です。所在地の級地は自治体の手引きで確認します。
稼働率別の月次売上の試算(定員10人・区分2)
設例として、区分2の基本報酬917単位に児童指導員等加配加算(常勤専従・経験5年以上、定員10人以下で187単位)を加えた1人1日1,104単位、月22日営業で計算します。
| 平均利用人数/日 | 延べ人数/月 | 単位数/月 | 売上(その他 10.00円) | 売上(1級地 11.20円) |
|---|---|---|---|---|
| 5人(稼働率50%) | 110人 | 121,440 | 約121万円 | 約136万円 |
| 7人(稼働率70%) | 154人 | 170,016 | 約170万円 | 約190万円 |
| 9人(稼働率90%) | 198人 | 218,592 | 約219万円 | 約245万円 |
この売上は給付費と利用者負担の合計です。利用者負担は原則1割で所得に応じた月額上限があり、満3歳になって初めての4月1日から3年間は無償化の対象として全額が給付費になります。加配加算は基準を超えて職員を置いた場合の加算なので、表の売上を使うなら人件費にも加配職員1人分を入れます。送迎加算(片道54単位)は送迎車と運転者の費用と対で載せます。処遇改善加算(児童発達支援は令和8年6月以降の加算Ⅰイで所定単位の15.2%)は職員の賃金改善に充てる原資なので、売上と同額を人件費側にも計上します。区分と配分の計算は処遇改善加算の6区分と配分計算の解説で扱っています。
計画を崩す減算:支援プログラム未公表
事業所全体の支援プログラムを作成・公表して都道府県へ届け出ていないと、令和7年4月1日から支援プログラム未公表減算として、加算前の所定単位数の85%しか算定できません。こども家庭庁の資料が示すとおり、支援プログラムは5領域(健康・生活、運動・感覚、認知・行動、言語・コミュニケーション、人間関係・社会性)との関連を明確にして作ります。新規指定の申請と同時に届け出る自治体が多いため、開業前に作り終えておきます。
支出計画と損益分岐の延べ利用人数
令和7年障害福祉サービス等経営概況調査では、児童発達支援の収支差率は令和5年度決算8.1%、令和6年度決算7.8%でした。これは既存事業所の決算の平均(収入に各種補助金を含み、物価高騰対策関連補助金は除く)で、新規開業の見込み値ではありません。売上の9割強が費用に消える事業で、最大の費用は人件費です。計画書の支出は、売上見込みより先に人件費と家賃の固定費を確定させてから組みます。
損益分岐の延べ利用人数は「月の固定費÷(1人1日の売上−1人1日の変動費)」で求めます。設例として固定費を月150万円、変動費(教材・おやつ等)を1人1日300円とすると、10円地域の1人1日売上11,040円から150万円÷10,740円≒140人で、22日営業なら1日平均6.4人(稼働率64%)が分岐点です。開業直後から稼働率70%を置く計画は、分岐点との差が小さく、審査で根拠を問われます。人件費の比率の見方は人件費率の計算式と目安、分岐点の余裕度は損益分岐点比率と安全余裕率で確認できます。
開業資金と運転資金:翌々月入金を前提にした見積もり
給付費の請求から入金までの流れ
障害児通所給付費は、請求に関する府令5条により、各月分を翌月10日までに国保連合会へ電子請求します。市町村の支払期日は請求月の翌月末とされているため、4月1日に指定を受けて4月から支援を始めると、4月分の入金は6月です。振込日は都道府県の国保連合会ごとに決まっています。
| 月 | 支援の提供 | 請求 | 入金 |
|---|---|---|---|
| 4月(開業) | 4月分 | - | なし |
| 5月 | 5月分 | 4月分を5月10日まで | なし |
| 6月 | 6月分 | 5月分を6月10日まで | 4月分 |
運転資金の積み方
運転資金は、月ごとの支払と入金を並べ、累積の資金不足が最も深くなる月の金額で見積もります。支払側には指定前に雇う職員の給与と家賃、開業後の人件費・家賃・変動費、借入の元金返済を入れ、入金側は給付費を提供月の翌々月に置きます。開業月の利用者は体験利用や受給者証の手続きを経てから増えるため、立ち上がりの月数は長めに置きます。月ごとの入出金は資金繰り表の作り方の手順で、入金予定日を翌々月にずらして組むと資金の谷が見えます。返戻や請求遅れがあると入金はさらに1か月以上ずれます。
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金
公庫国民生活事業の新規開業・スタートアップ支援資金は、新たに事業を始める人や開業後おおむね7年以内の人が対象で、融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置5年以内)です。据置期間を開業後の立ち上がり期間に合わせると、入金がない月の返済負担を抑えられます。
支援プログラムと地域ニーズに基づく事業の特色
計画書の「取扱商品・サービス」と「セールスポイント」は、支援プログラムの中身と一致させます。個別支援中心か集団支援中心か、時間区分は1〜3のどれを主にするか、言語・コミュニケーションや運動・感覚のどの領域に専門職を置くかを書き、それが地域の不足とどう結びつくかを示します。
「療育に力を入れる」「質の高い支援」のような抽象的な表現は、指定権者にも金融機関にも根拠として扱われません。近隣事業所の定員と時間区分、相談支援事業所や保育所等からの紹介見込みを数字で書いたほうが、利用者獲得の計画として読まれます。
審査で根拠不足と見られる計画書の4つの欠陥
- 開業月から稼働率80%以上:受給者証の取得と契約に時間がかかるため、初月から定員近くまで埋まる前提には、契約見込みの利用児童数などの根拠が求められます。
- 旧単価のまま:令和8年6月以降の新規指定なのに基本報酬を988特例前の単位で計算している計画は、売上が過大になります。
- 入金を当月で計算:給付費の翌々月入金を織り込まない資金計画は、入金のない期間の支払が抜け、運転資金を過少に見積もることになります。
- 人員が基準ちょうど:児童指導員・保育士を2人だけで組むと、欠勤や退職のたびに基準を下回り、減算のリスクを抱えた計画になります。
請求・記録・加算管理を回す体制も計画書に一行入れておくと、運営の実現性を説明しやすくなります。ソフトの選び方は障害福祉ソフトと介護ソフトの制度差を参照してください。
よくある質問
児童発達支援の事業計画書に決まった様式はありますか?
全国共通の様式はありません。指定権者の事前協議では自治体の様式や手引きに従い、公庫の融資では創業計画書(10欄)か自作の計画書を使います。数字は両方でそろえてください。
児童発達支援の開業資金はいくら必要ですか?
物件の状態や送迎車の有無で大きく変わるため、内装・備品・車両などの設備資金と運転資金に分けて見積もります。運転資金は、給付費が翌々月に入る前提で月ごとの入出金を並べ、累積の資金不足が最も深くなる月の額で決めます。
児童発達支援は利益が出ますか?
令和7年経営概況調査では、児童発達支援の収支差率は令和6年度決算で7.8%です。令和8年6月以降の新規指定は基本報酬が1000分の988になるため、稼働率と人件費の見積もりで利益が大きく変わります。
放課後等デイサービスの事業計画書とは何が違いますか?
対象が就学児になるため、時間区分や学校休業日の扱い、送迎の組み方が変わります。総量規制はどちらも対象で、令和8年6月以降の新規指定に適用される基本報酬の特例は、放課後等デイサービスでは1000分の982です。詳しくは放課後等デイサービスの事業計画書を参照してください。
指定申請から開業までどのくらいかかりますか?
申請期限は自治体ごとに違い、栃木県の例では指定を受けたい月の前々月末日が期限です。事前協議の期間、物件の改装、採用、申請期限を指定希望日から逆算して積み上げ、計画書のスケジュールに書きます。