ジェロントロジーとは何か?高齢社会の課題解決に寄与する老年学という学問の定義と意義を詳しく解説
目次
- 1 ジェロントロジーとは何か?高齢社会の課題解決に寄与する老年学という学問の定義と意義を詳しく解説
- 2 ジェロントロジーの歴史と発展:100年超の老年学の歩みと世界・日本における発展の過程を詳しく解説
- 3 なぜ今、ジェロントロジーが必要とされるのか?超高齢社会における老年学の重要性と注目される背景を解説
- 4 ジェロントロジーの学問領域:医学・心理学・社会学など幅広い分野にわたる老年学の研究内容を解説
- 5 ジェロントロジーと人生100年時代:100年ライフを見据えた超高齢社会への備えと老年学の果たす役割を解説
- 6 高齢社会の課題と可能性:人口高齢化がもたらす社会的課題とシルバー世代が拓く未来への可能性を解説
- 7 健康寿命を延ばす取り組み:国の政策から地域の健康増進活動まで健康長寿の実現を目指す取り組みを解説
- 8 ジェロントロジーの資格・学び方:大学で老年学を学ぶ方法から高齢社会検定(高齢社会エキスパート資格)取得まで、具体的な方法を解説
- 9 日本におけるジェロントロジーの実践事例:企業のシニア活用から地域の高齢者支援まで老年学を応用した取り組みを紹介
ジェロントロジーとは何か?高齢社会の課題解決に寄与する老年学という学問の定義と意義を詳しく解説
ジェロントロジー(Gerontology)とは、人の「加齢(年をとること)」と社会の「高齢化」を研究対象とする学問であり、高齢社会の様々な課題を科学的に解決することを目的とする総合的な老年学です。ギリシャ語で「高齢者」を意味する geront と「〜学」を意味する -logy からなる造語で、日本語では一般に「老年学」や「加齢学」と訳されます。ジェロントロジーは、多分野の知見を統合して高齢化に伴う変化や問題に対処する学際的な科学であり、生物学・医学・心理学・経済学・社会学・建築学など自然科学と社会科学の協力によって成立した包括的な領域です。そのため、ジェロントロジーは個人の心身の加齢変化から社会制度まで幅広く扱い、高齢者本人と社会双方の幸福と健康に寄与することを目指します。
ジェロントロジーの意義は、超高齢社会が直面する様々な課題に対し科学的知見に基づく解決策を提供する点にあります。例えば、高齢化で顕在化する健康問題、介護・年金などの社会保障負担、世代間のギャップなどに対し、ジェロントロジーは多角的研究を通じて対応策を導きます。実際、「現代エイジング辞典」では「老年学は人口の高齢化にともなって起きてきた種々の変化や問題を解決するために生物学から社会福祉学まで関連科学の協力によってできた総合科学」と定義されており、高齢社会の課題解決こそがジェロントロジーの使命とされています。またジェロントロジーは、単に高齢者の延命だけでなく「より良く長生きする」ための知見を提供し、高齢者の生活の質(QOL)向上や活躍の場づくりにも貢献します。このようにジェロントロジーは、高齢者個人の幸福と超高齢社会全体の持続可能性を支える基盤となる学問として、その重要性が年々増しています。
ジェロントロジーの歴史と発展:100年超の老年学の歩みと世界・日本における発展の過程を詳しく解説
ジェロントロジーという言葉は 1903年、フランスのパスツール研究所の微生物学者エリー・メチニコフ博士(ノーベル賞受賞者)によって創始されたとされています。20世紀初頭に「長寿に関する研究」にこの名称が付けられて以来、ジェロントロジーは100年以上の歴史を持つことになります。1930年代以降、ジェロントロジー研究は主にアメリカで発展し、第二次世界大戦後の1945年には米国で老年学会(Gerontological Society of America)が設立され、老年学が学問分野として確立されました。特に1980年代にはジョン・ロウとロバート・カーンによる「サクセスフル・エイジング(成功老化)」の提唱(1987年, 『Science』誌発表)を契機に、単なる寿命延長研究から健康寿命の延伸や高齢期の生活の質向上、社会的支援策の研究へとシフトしました。1990年代には米国で「Successful Aging」の研究プロジェクトや関連書籍が出版され、一般にも老年学の重要性が広く認知されるようになります。こうした流れの中で、米国では現在約250の大学・研究機関でジェロントロジーの教育研究が行われるまでに発展しています。
日本におけるジェロントロジーの歩みは欧米に比べやや遅れましたが、徐々に進展しました。1959年には日本老年医学会と日本老年社会科学会の合同で「日本老年学会」が設立され、医学から社会学まであらゆる分野で老年学研究が推進される体制が整いました。1960年代以降、老年学に関する学術活動(日本老年学会や日本老年医学会での研究発表など)は続いていたものの、一般社会には長らく浸透していなかったようです。しかし21世紀に入り、日本が世界でも類を見ない速度で高齢化が進む「超高齢社会」となったことで、ようやくジェロントロジーが広く注目を集め始めました。近年では桜美林大学大学院や東京大学高齢社会総合研究機構(Institute of Gerontology)に老年学を専門に学べるコースが設置され、順天堂大学などの医療機関・大学でも産官学連携の高齢社会プロジェクトが活発化しています。このように、日本でもジェロントロジー教育・研究の基盤が整いつつあり、人生100年時代を迎える中で老年学の知見を社会に活かす取り組みが本格化していると言えます。
なぜ今、ジェロントロジーが必要とされるのか?超高齢社会における老年学の重要性と注目される背景を解説
ジェロントロジーが近年とりわけ重要視される背景には、日本や世界で進行する急速な超高齢社会化があります。日本は世界で最も高齢化が進んだ国であり、2030年頃には人口の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という本格的な超高齢社会に突入すると予測されています。実際、2020年時点ですでに日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は28.7%に達し、国民の4人に1人以上が高齢者という状況です(女性に限れば高齢化率30%超)。このように高齢者が社会の主要な構成員となる時代において、「高齢者が増える社会をどう設計し支えていくか」「自分自身が80歳、90歳、100歳まで生きるとしたらどのように生きるか」といった課題は、個人・企業・社会全体の大きな関心事となっています。
同時に、日本政府は2017年に「人生100年時代構想会議」を発足させるなど、「人生100年時代」を見据えた社会システムの再構築に乗り出しました。この動きは、イギリスのリンダ・グラットン教授の著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で提唱された「100歳まで生きるのが当たり前になる時代」という考え方がきっかけで広まったものです。平均寿命の伸長に伴い、教育・働き方・社会保障制度などを見直し、長寿社会に適合したライフデザインを構築しようという政策的取り組みが進められているのです。このように国を挙げて超高齢社会への備えが進む中で、その理論的土台となるジェロントロジーへの期待と関心が高まっています。
ではなぜ今ジェロントロジーが必要なのかという点ですが、超高齢社会に直面する現在、我々は「高齢者および高齢社会」に関してまだ分からないことだらけであり、その解決のために老年学の知見が不可欠だからです。例えば、「人は年を重ねると具体的に心身がどう変化するのか」「社会全体で高齢者を支えるには何が必要か」「長寿化する未来の暮らしをどう設計すべきか」等に対し明確なビジョンを描けている人は少ないのが現状です。多くの人は80歳、90歳、100歳の自分の生活を想像できず、「そんな先のことは分からない」「考える暇がない」と先送りにしがちです。しかし高齢化の波は確実に押し寄せており、備えなくして持続可能な社会は築けません。ジェロントロジーはこうした未知の課題に科学的知見を提供し、高齢者一人ひとりの将来設計から社会制度の改革まで道筋を示してくれます。言い換えれば、人生100年時代に個人が健やかに充実して生き、社会が活力を保ち続けるためのオペレーティングシステム(OS)の役割を担うのがジェロントロジーなのです。現代の日本において、ジェロントロジーが必要とされ注目されるのは、まさにこうした理由によるものです。
ジェロントロジーの学問領域:医学・心理学・社会学など幅広い分野にわたる老年学の研究内容を解説
ジェロントロジーは極めて学際的な領域であり、高齢化や加齢に関する現象をあらゆる側面から研究します。その範囲は、生物学的・医学的領域から心理学、社会学、経済学、法律学、さらには建築・工学まで多岐にわたります。具体的には、加齢に伴う身体的変化や老年期特有の疾患を扱う生物学・医学分野(老年医学〔geriatrics〕や老年生物学など)、認知機能やメンタルヘルス、人格変化を扱う心理学・認知科学分野、高齢者の家族関係・コミュニティ・社会参加・経済状態などを扱う社会学・経済学分野、高齢者福祉や介護、年金制度といった社会福祉学・政策科学分野、高齢者に適した住宅設計や都市計画を検討する建築学・工学分野(ユニバーサルデザインやジェロンテクノロジー=高齢者支援技術)まで含まれます。ジェロントロジーはこれら諸分野の知識を総合し、高齢期の課題を多面的に研究する総合科学と言えます。
例えば、ジェロントロジーの主要テーマの一つである健康長寿の研究では、医学的アプローチ(生活習慣病予防、フレイル〔虚弱〕対策)と心理社会的アプローチ(生きがいや社会参加が健康に与える影響)を統合的に扱います。また認知症の研究では、神経科学的研究に加え、認知症高齢者のケア方法、コミュニティでの見守りネットワーク構築など社会的支援の研究も含まれます。さらには高齢社会の経済・制度設計も重要なテーマで、年金・介護保険制度の持続可能性や、高齢者雇用・定年延長といった労働経済的課題もジェロントロジーの射程に入ります。ジェロントロジー研究によって得られた知識は、個人レベルでは「より良い老い方・生き方」を指南し、社会レベルでは「高齢者が安心して暮らせる社会設計」に反映されます。
ここで留意すべきは、ジェロントロジーとよく混同される老年医学(geriatrics)との違いです。老年医学は高齢者に多い疾患の診断・治療・予防など臨床医学的側面に特化した分野ですが、ジェロントロジーはそれを包含しつつ、身体的老化現象だけでなく心理的・社会的側面まで含めた包括的アプローチをとる点で異なります。つまりジェロントロジーは、高齢者の全人的な生活の質(Quality of Life)向上を目標に掲げる統合知であり、医療のみならず福祉・環境・経済などあらゆる分野の連携によって高齢社会の課題解決に挑む学問なのです。
ジェロントロジーと人生100年時代:100年ライフを見据えた超高齢社会への備えと老年学の果たす役割を解説
平均寿命が男女とも80歳を超え、人生100年時代とも言われる現代では、個人も社会も「より長くなった人生」を前提に設計を見直す必要があります。ジェロントロジーはこの人生100年時代に備える上で、二つの柱となる知見を提供します。一つは、個人がより良く長生きするためのライフデザインに関する知識です。例えば、「健康寿命」をできるだけ延ばし自立した生活を送るための生活習慣(食事・運動・睡眠・生きがい活動など)や、定年後も社会参加し活躍する方法、高齢期の経済設計(年金や資産運用)、住環境の整備、介護が必要になった場合の対策、さらには人生の最終段階の備え(終活・看取り)に至るまで、長寿時代を充実して生き抜くための具体的な知識がジェロントロジーから得られます。こうした知識は「人生100年時代のライフデザイン」と位置づけられ、自身や家族の将来計画を立てる上で大いに役立ちます。
もう一つの柱は、社会全体が超高齢社会を持続可能に発展させるためのデザインに関する知識です。ジェロントロジーは、高齢者がマジョリティとなる未来社会の制度・政策設計にも貢献します。具体的には、年金・医療・介護など社会保障制度の在り方、高齢者に優しい住まい・都市計画(バリアフリーやコンパクトシティ等)、高齢者の移動手段確保(公共交通や自動運転技術の活用)、世代間交流を促す地域コミュニティづくり、さらにはロボット技術・ICTを活用した高齢者支援システム(ジェロンテクノロジー)の開発など、多方面にわたります。例えば東京大学高齢社会総合研究機構が編纂した『東大がつくった高齢社会の教科書』では、医療・介護から住宅・交通・法制度・テクノロジーに至るまで網羅的に「超高齢社会のデザイン」について解説されています。このようにジェロントロジーは、100年ライフを見据えた個人の人生設計と社会の制度設計の両面で指針を示し、超高齢社会への備えに不可欠な役割を果たしています。
さらに人生100年時代においては、「エイジレス社会」というコンセプトも注目されています。これは年齢にかかわりなく誰もが能力・意欲に応じて活躍できる社会を目指す考え方で、ジェロントロジーの理念とも合致します。少子高齢化で労働人口が減少する中、健康寿命が延びた高齢者がその経験知(結晶性知能)を活かして経済活動や地域貢献を続けることは、本人の生きがいになるだけでなく社会全体の活力維持にもつながります。ジェロントロジーは高齢者の就労継続や社会参加の効果、必要な支援策についての研究も進めており、人生100年時代における「生涯現役社会」の実現にも貢献しているのです。
高齢社会の課題と可能性:人口高齢化がもたらす社会的課題とシルバー世代が拓く未来への可能性を解説
急速な高齢化は日本社会に様々な課題を突きつけています。主な問題として、まず医療・介護分野の人材不足が深刻です。高齢者が増える一方で現役世代が減るため、介護職や医療従事者の確保が難しくなりつつあります。また、高齢者が増大することで年金・医療・介護給付費などの社会保障制度の財政負担が拡大し、制度維持のための現役世代の負担増が避けられない状況です。加えて、生産年齢人口の減少による経済活動の鈍化も懸念されており、市場規模の縮小や労働力不足が経済成長を下押しする要因となります。高齢者本人に目を向けると、退職後に社会との関わりが減ることで生活の質(QOL)の低下や、生きがいの喪失が起こりやすくなります。一人暮らし高齢者の増加に伴い、高齢者の孤立化も重要な課題で、周囲との交流が減ると心身の健康悪化や認知症の発見遅れ、さらには孤独死のリスクが高まります。さらに、高齢者間でも元気で裕福な人と要介護状態で経済的に厳しい人の格差が拡大しており、この高齢者の中の不平等への対処も求められています。
しかし一方で、人口高齢化は課題だけでなく新たな可能性や社会の変革機会ももたらします。まず、高齢者は豊富な経験と知識(いわゆる結晶性知能)を持っており、それを次世代に伝えたり社会に還元したりすることで大きな価値を生み出せます。例えば企業では、シニア世代の知見を活かした技術指導や人材育成が行われたり、顧客対応にベテランの落ち着きを活かす例もあります。近年注目されるシニア起業や社会貢献活動も、高齢者が第二の人生で新たな役割を果たす可能性を示しています。健康で意欲ある高齢者が増えている背景には、医療進歩などで健康寿命が延伸し、70代でも元気に働ける人が増えていることがあります。これは労働力不足への貴重な戦力となり得るだけでなく、高齢者自身の自己実現にもつながります。実際、日本政府は高年齢者雇用安定法を改正し70歳までの就業機会確保を企業に努力義務化するなど、シニア世代の活躍推進に舵を切っています。
また、高齢者が社会参加を続けることは地域コミュニティの維持・活性化にも寄与します。シニア世代がボランティアや地域活動に参加すれば、その経験と時間を地域の支え合いに活かせます。例えば子育て支援ボランティアや見守り隊への参加は、若い世代との交流を生み双方の世代にメリットがあります。こうした活動は高齢者本人にとっても役割と生きがいを与え、心理的・身体的健康の維持に繋がるという研究報告もあります。さらにシルバー市場(高齢者向けの商品・サービス分野)の拡大も大きな可能性です。高齢者は一定の資産と購買力を持つ層でもあり、医療・福祉関連ビジネスや生活支援サービス、シニア向け住宅や旅行商品など、多くの新産業・イノベーションの機会が生まれています。例えばICTを活用した見守りサービスや、フレイル予防のためのフィットネスプログラム、介護ロボット等は今後需要が高まる分野でしょう。
このように、高齢社会は課題と可能性が表裏一体となった状況と言えます。ジェロントロジーは、課題面では科学的エビデンスに基づく対策を提示し、可能性面では高齢者の能力発揮や新たな価値創造の道を模索することで、より良い超高齢社会の実現に貢献しています。
健康寿命を延ばす取り組み:国の政策から地域の健康増進活動まで健康長寿の実現を目指す取り組みを解説
日本では「健康寿命(健康上の問題なく日常生活を送れる期間)」を延ばすことが重要な政策目標となっています。平均寿命と健康寿命の差(不健康な期間の長さ)を縮め、できる限り多くの人が生涯自立した生活を送れるようにすることが、超高齢社会のQOL向上と医療・介護費抑制の両面で不可欠だからです。この目標に向け、国レベルでは総合的な戦略が策定されています。厚生労働省は2019年に「健康寿命延伸プラン」を策定し、2040年までに健康寿命を2016年時点よりも男女ともに3年以上延ばし、男性で75歳以上、女性で77歳以上にするという具体的数値目標を掲げました。この実現に向けて、政府は国民の健康づくりを促進する様々な政策を展開しています。代表的なのは「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動)で、栄養・運動・休養など生活習慣の改善目標を掲げ全国的な健康増進活動を推進しています。また厚労省は「スマート・ライフ・プロジェクト」という啓発キャンペーンも展開し、国民に対し「毎日プラス10分の運動」「1日350gの野菜摂取」「定期健診の受診」「禁煙」など具体的なアクションを呼びかけています。例えば運動習慣では「+10分の早歩き」を推奨し、野菜摂取や健診受診の重要性も周知するなど、誰もが日常生活で取り組みやすい形で健康寿命延伸を支援しています。
一方、地方自治体や地域レベルでも独自の創意工夫による健康長寿プロジェクトが進められています。各自治体は地域の実情に合わせ、住民の健康づくりを支援する多様な取り組みを展開中です。例えば、静岡県は「ふじのくに健康長寿プロジェクト」として歩数に応じてポイントが貯まる健康アプリを導入し運動習慣づくりを支援しています。また山形県は野菜摂取量日本一を目指す「ベジ王国やまがた」運動を展開し、郷土料理を通じた減塩・栄養改善に取り組んでいます。自治体によっては、高齢者が集まって楽しく体操や趣味活動を行う通いの場(サロン)を設置したり、地域のボランティアが高齢者宅を訪問してフレイル予防のアドバイスをする事業もあります。総じて、運動・食生活の改善や社会参加の促進、さらにはコミュニティづくりによって住民が健康づくりに取り組みやすい環境整備を図ることで、地域全体で健康寿命を延ばそうというアプローチが各地で取られています。
さらに、最近ではICTや先進技術を活用した健康増進も注目されています。例えば熊本県荒尾市では、スマートシティの一環として住民の健康データを可視化・管理し、AIが個々人に合った健康アドバイスを提供する実証事業が行われています。こうしたデジタルヘルスやリモートモニタリングの導入も、今後の健康寿命延伸策として期待されています。このように国から地域まで、多層的かつ包括的な取り組みにより、一人ひとりが生涯にわたって生き生きと暮らせる「健康長寿社会」の実現が目指されています。
ジェロントロジーの資格・学び方:大学で老年学を学ぶ方法から高齢社会検定(高齢社会エキスパート資格)取得まで、具体的な方法を解説
ジェロントロジーを体系的に学ぶ方法として、大きく大学で専門教育を受ける道と、資格試験や講座で学ぶ道があります。
まず大学で学ぶケースでは、日本ではまだ老年学を専攻できる学部・大学院は限られていますが、いくつかの教育機関がジェロントロジー教育を提供しています。例として、東京大学の高齢社会総合研究機構(Institute of Gerontology)は国内有数の老年学研究拠点であり、社会人も対象にした講座やワークショップを開いています。また桜美林大学大学院では老年学を専攻するコースを設置しており、実践的なジェロントロジー教育を行っています。他にも順天堂大学など医学系大学で老年医学・老年学の講義があるほか、筑波大学や日本福祉大学などで高齢社会に関する研究科・科目が用意されています。2014年には文部科学省のプログラムとして東京大学でジェロントロジーのリーディング大学院(GLAFS: Graduate Program in Gerontology)が創設され、幅広い分野の大学院生に対して老年学の総合教育が提供されました。しかしながら、現状では「ジェロントロジー学科」がある大学はまだ多くなく、学びたい場合は上記のような専攻プログラムや、関連する分野(社会福祉学、看護学、社会学など)で高齢社会をテーマに研究する形が一般的です。最近は慶應義塾大学に金融ジェロントロジー研究センターが発足するなど、新たな切り口で老年学を扱う動きも出ています。将来的には日本でも米国のように多数の大学でジェロントロジー教育が受けられることが期待されます。
一方、社会人や学生が資格試験や講座を通じてジェロントロジーを学ぶ方法もあります。中でも代表的なのが「高齢社会検定試験」です。この検定は一般社団法人未来社会共創センター(東京大学の教授陣が中心となって設立)によって2013年度から毎年実施されている試験で、ジェロントロジーの基礎知識を体系的に学び身につけたことを証明するものです。公式テキストとして先述の『東大がつくった高齢社会の教科書』が用いられ、東京大学(東京会場)や大阪会場で年1回試験が行われています。合格者には団体認定資格である「高齢社会エキスパート」(総合級)が付与されます。2020年度までに8回開催され、累計で2,400名以上が合格しており、金融機関や自治体職員、高齢者施設のスタッフなど幅広い分野の人々がこの資格を取得しています。高齢社会検定はジェロントロジーのエッセンスを短期間で効率よく学べる手段として評価が高く、仕事や地域活動にジェロントロジーの知見を活かしたい人に適しています。実際、合格者からは「高齢者向けの商品開発に知識を活用できた」「自分の親の介護に役立った」等の声が寄せられているようです。
この他にも、日本産業ジェロントロジー協会(JIGA)が認定する「産業ジェロントロジー・アドバイザー」資格や、各種の民間講座(認知症サポーター養成講座など高齢者支援に関する研修)が存在します。産業ジェロントロジーとは企業の人材マネジメントにジェロントロジーを活かす分野で、「一社に一人シニア人材活用の専門家を」という理念のもとJIGAが企業内研修を進めています。こうした資格講座を通じて、働く現場で高齢従業員の能力開発や世代間コミュニケーション改善に努める人材も育成されています。
総じて、ジェロントロジーを学ぶ道は多様ですが、自分の目的に合わせて選ぶことが大切です。大学で専門的に研究に携わる道もあれば、資格取得により基礎知識を習得して実務に活かす道もあります。それぞれの立場で老年学の知見を深める人が増えることは、結果的に高齢社会をより良くしていく力になるでしょう。
日本におけるジェロントロジーの実践事例:企業のシニア活用から地域の高齢者支援まで老年学を応用した取り組みを紹介
ジェロントロジーの知見は、日本の様々な現場で実践に活かされています。その一つが企業におけるシニア人材の活用です。少子高齢化による人手不足に対応するため、多くの企業が定年延長や再雇用制度の拡充など高齢者雇用の推進に取り組んでいます。例えばイオンリテール株式会社では、60歳定年を迎えた社員を引き続き正社員として雇用するための「エルダー社員」制度を創設しました。この制度では、定年後も役割が変わらない場合は給与待遇も現役時代と均衡に保つなど、一律に処遇を下げず公正を期しています。さらに店舗現場では定年を過ぎても管理職登用の道を開き、モチベーションを維持してもらう工夫をしています。このようにジェロントロジーの観点(高齢期の特性を理解し意欲・能力を最大限引き出す)を踏まえ、人事制度を柔軟に見直す企業が増えています。また、日本産業ジェロントロジー協会のように、高齢従業員の安全管理や能力開発に関する研修を提供する団体もあり、企業内に「ジェロントロジーアドバイザー」を置いて世代間ギャップの課題解決に当たる動きもあります。「超高齢社会の日本では一社に一人は産業ジェロントロジーの専門家が必要だ」との声もあり、高齢者の雇用・活躍を支える仕組みづくりが進んでいます。
一方、地域社会での高齢者支援の取り組みにもジェロントロジーの知見が応用されています。例えば、ある自治体では認知症の早期発見・支援を目的に、地域包括支援センターを中心とした包括的なネットワークづくりを行っています。具体的には、医療機関や介護事業者だけでなく、民生委員や近隣住民、商店街とも連携し、「認知症サポーター養成講座」を開催して地域ぐるみで見守る体制を構築するケースがあります。ジェロントロジーの研究で明らかになった認知症予防の知見(例えば社会的交流が認知症リスクを下げることなど)を活かし、サロン活動や趣味の集まりで高齢者の孤立を防ぐ試みも各地で見られます。また、テクノロジーの活用も注目です。近年、「ジェロンテクノロジー(Gerontechnology)」と呼ばれる、高齢者の生活機能を拡張・支援する技術開発が盛んです。その一例として、センサーやIoTを用いた見守りシステムがあります。高齢者宅に設置したセンサーで日常動作をモニタリングし、異常があれば家族や地域スタッフに通知する仕組みは、独居高齢者の安心安全を支えるものです。その他にも、VRを使った認知機能訓練や、ロボットスーツによる移動支援、スマートフォンアプリで服薬や体調を管理するツールなど、ジェロントロジーのエビデンスに基づいた技術が実用化されています。こうした技術と老年学の融合によって、高齢者の社会参加や自立を後押ししようという取り組みも各地で検討・導入されています。
さらに、コミュニティに目を移すと、高齢者自身が主役となって地域課題を解決する実践も増えています。例えば「シルバー人材センター」は高齢者が登録会員となり、地域の軽作業や講師活動などで能力を発揮する場ですが、全国各地で約70万人以上(※)の高齢者が参加し、生きがいを得るとともに地域に貢献しています。自治体によっては、高齢者が子育て支援ボランティアとして保育園を手伝ったり、逆に学生と高齢者がペアになって買い物支援やパソコン学習をする「世代間交流プロジェクト」を立ち上げたりする例もあります。これらはジェロントロジーの理念である「世代間の協働」を体現するもので、若者にとっても高齢者にとってもプラスの効果をもたらします。
このように、日本におけるジェロントロジーの実践事例は多岐にわたりますが、その根底にあるのは「高齢者を社会の一員として活かし支え合う」という発想です。老年学の知見を現場で活かすことで、高齢者がより安心して暮らせる社会、そして高齢者がより輝ける社会を実現する取り組みが各方面で進んでいるのです。