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ラベリング理論とは?ベッカーの逸脱理論の意味・具体例と批判、ラベリング効果との違い

ラベリング理論とは?ベッカーの逸脱理論の意味・具体例と批判、ラベリング効果との違い

ラベリング理論とは、ある行為が逸脱かどうかは行為そのものではなく、周囲がその行為と行為者に「逸脱者」というラベルを貼ることで決まるとする社会学の考え方です。アメリカの社会学者ハワード・S・ベッカー(1928-2023)が1963年の『アウトサイダーズ』で示し、犯罪や非行の見方を大きく変えました。この記事では、定義と別名、タンネンバウムからレマート、ベッカーへと続く系譜、少年非行や職場での具体例、そして1970年代に受けた批判と1989年以降の再評価までを、一次文献にあたりながら整理します。心理学やビジネスの文脈で語られる「ラベリング効果」との違いも表で切り分け、顧客セグメントや人事評価のデータを扱う現場で何をどう設計すればよいかまで踏み込みます。

まとめ

  • ラベリング理論は、逸脱を行為の性質ではなく社会の側の反応(ラベル貼り)の産物とみなす視点。社会的反作用理論、インタラクショニスト・パースペクティブとも呼ばれます
  • 提唱者はハワード・S・ベッカー(『アウトサイダーズ』1963年)。ただし源流はタンネンバウムの「悪の劇化」(1938年)、骨格はレマートの一次的逸脱・二次的逸脱(1951年)にあります
  • ラベルが行動を変える仕組みは、マートンの自己成就予言(1948年)と、ラベルに応じて変わる周囲の接し方が組み合わさったものです
  • 1970年代に「ラベルを貼られた全員が逸脱を続けるわけではない」という批判で退潮。1989年以降、再統合的恥づけの理論と追跡調査によって条件つきで支持されています
  • 実務で使うなら「レッテルを貼れば必ずそうなる」という決定論ではなく、否定的ラベルが機会を奪う経路を断つ設計として使うのが妥当です
  • ビジネスで扱う対象は社員だけではありません。顧客に貼るセグメント名や、システムに保存された評価タグも、接点と機会の配分を通じて同じ経路をたどります

批判と再評価の中身から読みたい場合は、目次の「ラベリング理論への批判と1989年以降の研究による再評価をたどる」へ進んでください。

ラベリング理論の定義と別名を犯罪社会学における位置から確かめる

ラベリング理論は、犯罪社会学のなかで逸脱行動を説明する理論のひとつです。日本の犯罪社会学では、社会的反作用理論あるいは社会的反動理論(societal reaction theory)とも呼ばれ、一般にはインタラクショニスト・パースペクティブ(the interactionist perspective)と呼ばれます。この呼称は、藤本哲也「ラベリング理論の学説史的展望」(犯罪社会学研究 第3号、1978年、88-105頁)に明記されています。1940年代から1950年代の犯罪学ではマートンやパーソンズらの機能主義的理論が中心で、逸脱に対する社会の側の反作用には比較的わずかな注意しか払われていませんでした。ラベリング理論は、その空白を突いた視点です。

ベッカーが『アウトサイダーズ』で示した逸脱の定義を原文から読む

ベッカーは1963年の『アウトサイダーズ』(Outsiders: Studies in the Sociology of Deviance, Free Press)で、社会集団は規則をつくり、その違反を逸脱とし、特定の人々にその規則を当てはめて「アウトサイダー」というラベルを貼ることによって逸脱をつくり出す、と論じました。逸脱は行為者が犯した行為の性質ではなく、他者が規則と制裁を「違反者」に適用した結果である、という主張です。ベッカー自身はマリファナ使用者やダンス・ミュージシャンへの参与観察をもとにこの議論を組み立てました。

邦訳は村上直之訳で、1978年10月に新泉社から『アウトサイダーズ ラベリング理論とはなにか』として出たのち、2011年11月に『完訳 アウトサイダーズ ラベリング理論再考』(現代人文社、vii+246頁、ISBN 978-4-87798-494-6)が刊行されました。完訳版には、ベッカーが批判に応答した第10章「ラベリング理論再考」が収められています。

「理論」ではなく「パースペクティブ」と呼ばれてきた学説上の理由

ラベリング理論には、当初から「これは理論と呼べるのか」という指摘がありました。仮説を立てて検証する体系ではなく、逸脱を見るときの視角(パースペクティブ)にすぎない、という批判です。前掲の藤本論文も、ラベリング理論が理論ではなく単なるパースペクティブにすぎないという主張に一歩譲ったうえで、それでも従来の犯罪学に反省と再検討を迫った役割を過小評価してはならない、と述べています。

この論点は言葉遊びではありません。理論として読めば「ラベルを貼られれば逸脱者になる」という因果法則に聞こえますが、視角として読めば「誰が逸脱を定義しているのかを問い直せ」という問題設定になります。後述する1970年代の批判の多くは、前者の読み方に向けられたものでした。

タンネンバウムからレマート、ベッカーへ続く理論の系譜をたどる

ベッカーが提唱者として知られますが、着想は突然生まれたものではありません。藤本論文は、タンネンバウムをラベリング理論の「生みの親」、レマートを「育ての親」といわれると記しています。三者の役割を順に押さえると、理論の射程がはっきりします。

タンネンバウムの「悪の劇化」と烙印づけという理論形成の出発点

フランク・タンネンバウムは『Crime and the Community』(1938年)で、少年の行為をめぐって本人と地域社会の定義が食い違うところから逸脱の過程が始まる、と論じました。彼がこの過程に与えた呼称は「悪の劇化」(dramatization of evil)です。対立が続くと地域社会の態度は硬化し、非難の対象は行為から少年本人へ移ります。周囲の接し方が変わることで少年は自分が「悪い子」と見られていることを自覚し、やがて自分でもそう定義するようになります。タンネンバウムはこの「定義し、特定し、隔離し、記述し、強調し、意識させ、自意識をもたせる」一連の働きかけをタギング(tagging)と呼びました(原著20頁)。

レマートが分けた一次的逸脱と二次的逸脱の理論上の役割と機能の違い

ラベリングの骨格をつくったのは、エドウィン・レマートの『Social Pathology』(1951年)です。レマートは逸脱を二段階に分けました。一次的逸脱は、社会的に受け入れられる役割の一部として合理化されたり処理されたりする初発の逸脱行為を指します(原著75頁)。ほとんど誰もが経験し、一時的で深刻ではないため、レマートはその原因を追いませんでした。彼が注目したのは二次的逸脱、つまり社会の側の反応を受けて本人が逸脱者としての役割を引き受け、逸脱を繰り返すようになる段階です。

ここが実務でも誤解されやすいところです。ラベリング理論は「なぜ最初の逸脱が起きるか」を説明する理論ではありません。最初のつまずきが、その後どう深刻化するかを説明する理論です。

ベッカーの逸脱的キャリアとマスターステータスが持つ影響の強さ

ベッカーは『アウトサイダーズ』で、逸脱的キャリアを三段階で描きました。第一段階は意図的とは限らない最初の規則違反、第二段階は違反が発覚してラベルを貼られる段階、第三段階は逸脱的な集団へ移行する段階です。第二段階でつく「犯罪者」というラベルは、社会のなかで強い烙印性をもつためマスターステータス(master status)となり、その人がもつ他のどんな役割や地位よりも前面に出て、その人を定義してしまいます。第三段階で逸脱集団に加われば、逸脱を支える動機や態度、正当化の語彙まで手に入ります。

もうひとつ、ベッカーが投げかけたのは「そもそも誰が規則をつくるのか」という問いです。彼はモラル・アントレプレナー(道徳事業家)を、規則をつくろうと運動する規則制定者と、できた規則を執行する規則執行者に分けました。前者は世の中の悪を正すために新しい規則を求め、後者は規則の中身より執行と自分の仕事の正当化に関心をもつ構図です。逸脱を「悪い個人の問題」から「規則をつくり適用する側の問題」へ引き戻す視点が、ここにあります。同じく社会の当たり前を疑う手法としては、ガーフィンケルの違背実験が知られています。

ラベルが人の行動を変える具体的な仕組みを自己成就予言から読む

ラベルが本人の行動を実際に変えてしまう中心的な仕組みが、ロバート・K・マートンの自己成就予言です。マートンは1948年の論文「The Self-Fulfilling Prophecy」(The Antioch Review 8巻2号、193-210頁)で、自己成就予言とは初めは状況についての誤った定義であり、それが新しい行動を呼び起こして、もともと誤っていたはずの観念を真実にしてしまうものだ、と定義しました。前提にあるのはW・I・トマスの公理「人が状況を真実であると定義すれば、その状況は結果において真実である」です。

ラベルを貼る行為は、その人に対する予言を与えることにあたります。そして予言は二つの経路で現実になります。ひとつは本人の自己認識の変化、もうひとつは周囲の接し方の変化です。「ミスが多い人」とされた社員に重要な仕事が回らなくなれば、実績を示す機会そのものが消えます。本人がどれだけ意欲を保っても、機会が配分されない限り評価は上がりません。ラベリング理論が扱うのは、この後者の経路、つまりラベルが機会の配分を変えてしまう構造です。周囲の判断が無自覚に偏る点についてはアンコンシャスバイアスの整理も参考になります。

観察されている状態そのものが行動を動かす経路も、混同されやすいので分けておきます。工場実験の解釈から広まったホーソン効果は、注目や関心が向けられた事実が一時的に振る舞いを変えるという説明で、ラベルという記号が貼られたかどうかは問いません。ラベリングの議論の芯は、貼られた記号がその後の扱いを長く規定する点に置かれています。

少年非行・教育・職場に見るラベリング理論の身近な具体例を整理する

ラベリング理論の具体例は、司法の場だけでなく学校や職場にも見つかります。共通するのは、最初の小さな行為よりも、それに対する周囲の反応のほうが結果を左右しているという構図です。

少年非行と司法手続きで押される烙印が将来の生活機会に残す不利益

万引きや喫煙といった初発の行為そのものは、多くの少年が一度は経験します。分かれ目は、それが「非行少年」という公式のラベルに変換されるかどうかです。ラベルがつくと、学校での扱い、進路、交友関係が同時に変わります。前科がある人が就職や住居で断られ続け、孤立の末に再犯に至る経路も同じ構造です。ゴフマンが『Stigma』(1963年、邦訳『スティグマの社会学 烙印を押されたアイデンティティ』)で論じた、烙印を押されたアイデンティティの管理という問題が、ここで現実の不利益として現れます。社会の側の受け入れ方を設計し直す発想としては、ノーマライゼーションの8つの原則が参考になります。

教育現場で教師の期待とラベルが生徒への日常的な指導を変える範囲

教師が特定の生徒に貼るラベルも、指導の量と質を変えます。よく引かれるのはローゼンタールとジェイコブソンの『Pygmalion in the Classroom』(1968年)です。架空の検査名を用いて無作為に選んだ児童を「今後伸びる子」と教師に伝えたところ、その児童の知能検査得点が伸びたと報告されました。ただしこの研究には当初から批判があり、ソーンダイク(1968年)は用いられた知能検査そのものに深刻な欠陥があると指摘しています。ラウデンブッシュが18の実験を統合分析した研究(Journal of Educational Psychology 76巻、1984年、85-97頁)では、期待を与える時点で教師が児童をよく知っているほど効果は小さく、教師と児童が2週間以上接したあとではほぼゼロになりました。詳細はピグマリオン効果の記事で扱っています。

職場と家庭でのレッテル貼りが機会配分を通じて実績の差に変わる過程

職場では「エース」「使えない人」といったラベルが、アサインされる仕事の難度と露出を通じて実績の差へ変わる構造です。家庭でも「しっかり者」「ドジな子」という言葉が、任される役割の範囲を決めます。どちらも本人の能力より先に、周囲が用意する場のほうが変わっている点が共通します。肯定的なラベルの効きめを実験で示したのが、ミラー、ブリックマン、ボーレンの研究です(Journal of Personality and Social Psychology 31巻、1975年、430-441頁)。小学5年生を対象にした研究1では、「あなたたちは几帳面な人だ」と繰り返し伝えた群が、「几帳面にすべきだ」と説得した群や無処置群よりごみを散らかさなくなり、その差は2週間後の観察されていない場面でも残りました。ラベルは「そうあるべきだ」と説くより効いてしまう、という結果です。低い期待が成果を押し下げる逆方向の経路はゴーレム効果として整理されています。

ラベリング効果とピグマリオン効果、スティグマの違いを判断基準から整理する

「ラベリング理論」と「ラベリング効果」は、日本語で隣り合って使われる用語です。ただし、出自の分野が違います。混同すると、社会学の議論に心理実験の結論を持ち込むことになり、話がかみ合わない原因です。主要な用語を分野と主張で切り分けます。

用語 分野 出典・提唱者 中心の主張
ラベリング理論 犯罪社会学 ベッカー 1963 逸脱は社会の反応がつくる
ラベリング効果 心理学・ビジネス ミラーら 1975 ほか ラベル通りに本人が振る舞う
自己成就予言 社会学 マートン 1948 誤った定義が現実になる
ピグマリオン効果 教育心理学 ローゼンタール 1968 教師の期待が成績を上げる
ゴーレム効果 教育心理学 ババッドら 1982 低い期待が成果を下げる
スティグマ 社会学 ゴフマン 1963 烙印がアイデンティティを損なう

実務では「ラベリング効果」という言い方で、部下をほめて伸ばす話として語られることが多くあります。これはピグマリオン効果に近い使い方で、ベッカーの理論が問題にした「誰が逸脱を定義するのか」という論点は含まれていません。社会学の文脈で「ラベリング理論」を引くときは、対象が個人の心理ではなく、規則をつくり適用する側の権力である点を外さないでください。

ラベリング理論への批判と1989年以降の研究による再評価をたどる

ラベリング理論は1960年代に犯罪学の主流の一角を占めたあと、1970年代に強い批判を受けて退潮しました。日本語の入門的な解説では省かれることの多い論点ですが、理論を実務に持ち込むかどうかを判断するうえでは、批判の中身こそが要点になります。

1970年代に決着がつかなかった三つの主要な批判の論点と中身

ウェルフォードは「Labelling Theory and Criminology: An Assessment」(Social Problems 22巻3号、1975年、332-345頁)で、ラベリング理論をシュラグの整理にもとづく9つの前提に分解し、それぞれを当時の実証研究と突き合わせました。結論は、社会と犯罪学者が伝統的に関心を寄せてきた刑事法違反については、当時利用されていた形でのラベリング・パースペクティブは追求する価値のあるモデルではない、というものです。そのうえで彼は、モデルの修正と状況要素のより慎重な分析を進めれば、犯罪学者は現在の形で概念化されたラベリング・アプローチを最終的には切り捨てることになるかもしれない、と結んでいます。批判はこの一文でさらに強まっており、留保ではありません。

ウェルフォードとトリプレット(1993年)は、退潮を決定づけた批判を三つに整理しています。

  • ラベルを貼られた人が全員その後も犯罪を重ねるわけではない。抑止研究はむしろ処罰が再犯を減らす場合を示していた
  • ラベルに対する個人の反応差を無視している。同じ社会的反応に誰もが同じ反応を返す前提は成り立たない
  • あらゆる対応がラベルとなり犯罪を増やすなら、社会は犯罪にどう対応すればよいのか。シューア(1973年)が唱えた急進的不介入は、この問いへの答えとして支持を得られなかった

加えてプラマー(1979年)は、ラベリング理論がその土台である象徴的相互作用論から離れてしまい、ラベルが行動を決定するという誤解を生んだと指摘しています。「レッテルを貼れば必ずその通りになる」という決定論としてこの理論を使うのは、提唱者の意図からも実証研究からも外れた誤用です。人材育成の場面で「ラベリング理論によれば、ほめれば伸びる」と説明するのは、社会学の理論名を心理学の主張に貸しているだけで、根拠になりません。

再統合的恥づけと長期の追跡調査によるラベリング理論復権の流れ

転機は1989年でした。ブレイスウェイトは『Crime, Shame and Reintegration』で、社会統制理論・機会理論・下位文化理論とラベリングを統合し、社会によって犯罪率が違う理由を恥づけ(shaming)の型の差として説明しました。彼は恥づけを、恥じ入る気持ちを本人に引き起こす、あるいは恥づけを知った周囲の非難を呼ぶ意図または効果をもつ、不承認を表明するあらゆる過程と定義したうえで(同書100頁)、二つの型に分けます。再統合的恥づけは、非難のあとに許しの言葉や身振り、逸脱者という認定を解除する儀式によって、本人を法を守る市民の共同体へ戻す努力が続く型です(同書101頁)。もう一方の分離的な恥づけは、戻す努力がほとんど払われず、正当な機会を塞いで犯罪的下位文化を生みます。ブレイスウェイトは相互扶助と信頼で密に結ばれた共同体主義の高い社会の例として日本を挙げ、そうした社会では前者の型が働くために犯罪率が低いと論じました。これは1989年時点の議論で、日本を典型例とする見立ては比較犯罪学のなかで争われている点も付け加えておきます。

実証面では、バーンバーグとクローンの研究(2003年)が説得力をもちます。彼らはロチェスター青少年発達研究の男子605名を9年間追跡し、少年期の警察・少年司法による介入が高校卒業の確率を下げ、それが就業を妨げ、結果として成人期の犯罪リスクを高める経路を確認しました。影響は低所得層の男子とアフリカ系でより強く出ています。バーンバーグらの2006年の研究では、少年司法との接触がその後のギャング加入の確率を高めることも示されました。

ここから導ける実務的な結論ははっきりしています。ラベルが人を変えるのは、本人の心が折れるからというより、資格・学歴・就業といった機会が実際に失われるからです。したがって対策も精神論ではなく、機会の側を塞がない設計になります。

顧客セグメントの名づけがマーケティング施策に返る実務上の経路

ビジネスでラベリングを論じるとき、対象は社員だけではない点に注意が必要です。顧客に付けるセグメント名、ペルソナ名、スコアのランクも、たどる経路は同じです。「休眠顧客」「ライトユーザー」と分類した時点で、送るメールの本数、案内する商品の幅、営業が架ける電話の優先順位が変わります。購買が減った原因は本人の関心の低下ではなく、接点の配分が先に減っていた、という順序が起こり得ます。ラベリング理論が指す構造が、そのまま当てはまる場面です。

ペルソナ名とセグメント名がマーケティング現場の判断を縛る場面

セグメント名は社内の共通語になるほど強く効きます。「情報収集層」と名づけられた見込み客に対して、提案資料を送る判断そのものが検討されなくなれば、そのラベルは検証されないまま固定します。ベッカーのいうマスターステータスが、顧客管理の画面のなかで起きている状態です。

混同されやすい概念も整理しておきます。同じ事実でも提示の枠組みによって受け手の判断が変わる現象はフレーミング効果で、変わるのは情報の見せ方です。ひとつの目立つ属性が全体の印象へ広がるハロー効果は、評価する側の認知の歪みを指します。ラベリングが問題にするのは、名づけたあとに接点と機会がどう配られるかという運用の側です。三つは重なる場面もありますが、手当てする場所が違います。

顧客セグメントを固定させないための定期的な見直し運用ルールの置き方

運用側で決めておくと効くルールは、次の三つに絞れます。第一に、セグメントの再判定周期を明示し、直近の行動データで上書きすること。第二に、ラベルの根拠となった行動(閲覧、資料請求、問い合わせ)を画面上でラベルと並べて表示し、判断の材料を担当者へ戻すこと。第三に、除外したはずのセグメントへも一定量の露出を残し、除外の妥当性を後から測れるようにしておくことです。三つ目は、貼ったラベルの正しさを検証できる唯一の経路になります。

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評価データを扱う社内システムがラベルを固定させる具体的な条件

口頭のレッテルは、時間とともに薄れるものです。一方、システムに保存された評価タグやスコアは残り、参照されるたびに再生産されます。人事評価、与信、サポートの顧客ランクなど、判断の履歴をデータとして持つ仕組みでは、ラベリングの経路が設計の問題として立ち上がります。

評価履歴とスコアが人事上の機会配分へ回り込む三つの具体的な経路

ひとつ目は参照の経路です。過去の低評価タグが異動や案件アサインの画面に表示され続ければ、判断者は毎回その情報から始めます。二つ目は集計の経路で、平均や累積のスコアは古い評価を含んだまま現在の順位を決めます。三つ目は学習の経路です。過去の評価を教師データにして予測モデルを組めば、当時の機会配分の偏りをそのまま再現します。評価する側の癖が構造として残る問題は人事評価エラーで整理しており、機械学習を用いる場合の判断材料はAIによる人事評価にまとめています。

過去の認定を解除できる仕組みを社内システム設計へ落とし込む手順

ブレイスウェイトの再統合的恥づけを情報システムの言葉に置き換えると、「認定を解除する手続きをデータ構造に持たせる」という要件になります。実装として現実的なのは、評価タグに有効期限と付与時点を必ず持たせること、集計は直近の数期に限ること、参照画面ではラベルと同時に根拠イベントと更新日を出すこと、閲覧権限を判断に必要な範囲へ絞ることです。いずれも派手さはありませんが、機会の履歴が積み上がるのを止められるのは、この層の設計だけです。

レッテル貼りを避けるために実務で押さえる判断の順序を再確認する

ラベリング理論を教育や人材育成へ持ち込むとき、実務で押さえるべき点を効きめの大きい順に並べます。

最も効くのは、機会の配分の点検です。ある人に難しい仕事が回っていない、研修や異動の候補から外れ続けている、という状態は、口に出されないラベルが実際に効いている兆候です。バーンバーグらの追跡が示すとおり、結果を左右するのは評価の言葉より機会の履歴でした。上司や同僚の言い方を変えるだけの対策は、この経路には届きません。

次に、注意や叱責をしたあとに戻す手続きを用意します。ブレイスウェイトの区別に従えば、再統合の言葉や場がないまま非難だけが残る状態は、分離的な恥づけそのものです。指摘した本人を次の案件に通常どおり配置する、評価面談で状態の更新を明示的に伝えるといった、実務上の「認定解除」を組み込んでください。

言葉の選び方は、この二つの下に来ます。否定的な指摘は人格に及ばせず、行為の記述にとどめてください。「だらしない人」は本人の全体を定義するマスターステータスになり得ますが、「今回の提出が期限を過ぎた」は行為の記述で終わります。ラベルの烙印性は、対象が人格へ及んだ瞬間に立ち上がります。ただし肯定的な評価は逆で、ミラーらの実験が示したとおり「あなたはこういう人だ」と人物像として伝えるほうが行動は変わりました。ラベルの向きによって、人格に触れてよいかどうかが変わります。

捉え方を言い換えて見方を変える手法(リフレーミング)は、本人の受け止めを軽くする面では働きます。ただし機会の配分そのものには届かないため、順序としては三番目に置いてください。言い換えだけを対策として掲げると、アサインや評価の実態が変わらないまま、言葉づかいの問題へ矮小化されます。

他人にレッテルを貼りがちな人については、性格の問題として片づけないほうが実態に合います。断定的なラベルを口にする人は、評価する立場や機会を配分する立場にいることが多く、ベッカーのいう規則執行者に近い役回りです。対処も同じ枠組みで考えられます。相手の断定を人格評価として受け取らず、具体的な行為の話へ戻すこと、そして機会を配分する立場の人に事実を届けることが現実的です。言い返して相手の見方を変えることを目標にすると、たいてい消耗します。

よくある質問

ラベリング理論の具体例は?

初発の万引きや喫煙が「非行少年」という公式のラベルに変換され、進路や交友関係が変わって逸脱が深刻化する過程が代表例です。前科のある人が就職や住居で断られ続けて再犯に至る経路、職場で「使えない人」とされた社員に重要な仕事が回らなくなる過程も同じ構造で説明できます。顧客管理で「休眠」と分類した相手への接点が減り、購買の機会そのものが失われる場面も同型です。

ラベリングの身近な例は?

家庭で「しっかり者だね」「ドジだね」と言われ続けることで任される役割の範囲が変わる、学級で「問題児」とされた生徒に教師が向ける指導の量と質が変わる、といった場面が身近な例です。いずれも本人の性格が先に変わるのではなく、周囲が用意する機会のほうが先に変わっている点が共通します。

ピグマリオン効果とラベリング理論の違いは何ですか?

ピグマリオン効果は教育心理学の概念で、教師の期待が児童の成績を上げるという主張です(ローゼンタール、1968年)。ラベリング理論は犯罪社会学の視点で、誰が逸脱を定義し、そのラベルが機会をどう奪うかを問題にします。検証の対象そのものが違います。ピグマリオン効果は教室での実験で測る心理現象、ラベリング理論は規則をつくり適用する側の働きを問う社会学の枠組みです。ピグマリオン効果の実験結果でラベリング理論の妥当性を語ることはできませんし、その逆もできません。

ラベリング理論は誰がいつ提唱しましたか?

ハワード・S・ベッカーが1963年の『アウトサイダーズ』で体系化しました。ただし源流にはタンネンバウムの「悪の劇化」(1938年)があり、一次的逸脱・二次的逸脱の枠組みはレマートの『Social Pathology』(1951年)に由来します。日本の犯罪社会学では、タンネンバウムを生みの親、レマートを育ての親と位置づける整理が示されています(藤本、1978年)。

ラベリング理論とラベリング効果は同じですか?

同じではありません。ラベリング理論は犯罪社会学の理論で、逸脱を定義する社会の側の権力を問題にします。ラベリング効果は心理学やビジネスの文脈で「ラベル通りに本人が振る舞う」現象を指す言い方で、この呼称自体に定訳となる原典はありません。近い実験としては、ミラーらが1975年に報告した帰属操作の研究があります。両者は関連しますが、ラベリング理論の名前で「ほめれば伸びる」と説明するのは根拠の取り違えです。

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