棚卸減耗損とは、帳簿上の在庫数量よりも実地棚卸で数えた数量が少ないときに、その不足分を費用として計上する勘定科目です。紛失・盗難・破損・蒸発などで物が実際に失われた分が対象で、金額は「帳簿数量と実地数量の差×取得原価」で求めます。この記事では、計算式と設例、商品評価損と同時に出るときの計算順序、三分法の決算整理仕訳、原価性の有無で変わる損益計算書の表示区分、法人税と消費税の扱いを、原価計算基準と法令の条文に沿って解説する内容です。最後に、在庫管理システムで減耗を月次で把握する設計と、システム化しなくてよい規模の線引きも示します。
まとめ:棚卸減耗損は数量差×原価で出し、原価性の有無で表示区分を決める
棚卸減耗損は数量の不足による損失で、単価の下落による商品評価損とは別物です。計算は、帳簿数量から実地数量を引いた不足数に取得原価を掛けます。評価損も同時に出る場合は、先に減耗損を取得原価で計算し、残った実在庫にだけ評価損を計算します。
表示区分は原価性の有無で決まります。毎期ある程度発生する通常の減耗は売上原価(製造工程なら製造原価)または販売費及び一般管理費、火災・盗難など異常な原因による減耗は営業外費用または特別損失です。原価計算基準は、経費の一つに「たな卸減耗費」を挙げる一方、「異常な」たな卸減耗を原価に算入しない非原価項目としています。
税務では、法人税法第29条が期末に実際に有する棚卸資産で売上原価を計算する仕組みのため、実地数量で期末棚卸高を確定すれば減耗分は売上原価を通じて損金になります。評価損のように損金算入の事実要件はありません。消費税では盗難や滅失は資産の譲渡等に当たらず、減耗損の計上は不課税です。
実務でまず押さえるのは、減耗と記録誤りを分けることです。取り違えや計上漏れによる差異を減耗損にすると、原因が残ったまま毎期同じ損失が続きます。
棚卸減耗損の意味と発生原因|帳簿数量と実地数量のずれが損失になる仕組み
棚卸減耗損は、帳簿棚卸と実地棚卸の両方を行っている会社で初めて金額が分かる損失です。帳簿だけ、または実地だけでは不足数を測れません。
棚卸減耗損の定義と、原価計算基準が「たな卸減耗費」を経費に挙げる位置づけ
商品有高帳や在庫管理システムに記録された入出庫から求めた数量を帳簿棚卸数量、期末に倉庫で数えた数量を実地棚卸数量と呼びます。実地棚卸数量が帳簿棚卸数量より少ないとき、その差は帳簿に記録されないまま在庫が失われたことを意味し、これを費用にしたものが棚卸減耗損です。
1962年に企業会計審議会が公表した原価計算基準は、8「製造原価要素の分類基準」の形態別分類で、経費を「減価償却費、たな卸減耗費および福利施設負担額、賃借料、修繕料、電力料、旅費交通費等の諸支払経費」に細分しています。製造業では材料や仕掛品の減耗を「棚卸減耗費」として製造原価の経費に入れ、商品を扱う卸・小売では「棚卸減耗損」と呼ぶのが一般的です。呼び方が違うだけで、数量不足を費用にするという中身は同じです。
紛失・盗難・破損・蒸発など減耗の発生原因と、記録誤りによる差異との線引き
減耗の原因は、物が実際に失われたかどうかで2つに分かれます。
- 物が失われた差異:紛失、万引きや内部不正による盗難、落下や水濡れによる破損で廃棄した分、液体や揮発性の原材料の蒸発、食品の目減り
- 記録がずれた差異:品番やロケーションの取り違え、入荷や出荷の計上漏れ、返品の二重計上、ケースとバラの単位換算ミス、数え間違い
棚卸減耗損として処理するのは前者だけです。後者は現物が社内のどこかにあるか、そもそも失われていないため、記録を直すことで差異を解消できる状態です。原因を調べずに差異の全額を減耗損にすると、計上漏れのような記録の問題が毎期の損失として固定されてしまいます。工程ごとの原因の探し方は棚卸差異の工程別の原因特定と許容範囲の決め方、数え方そのものは帳簿棚卸との違いと差異率の許容水準をまとめた実地棚卸の記事で詳しく扱っています。
棚卸減耗損の計算式と設例|商品評価損と同時に出るときの計算順序
棚卸減耗損の計算式自体は単純で、迷いやすいのは商品評価損と同時に出たときの順序と、どの単価を掛けるかの2点です。
帳簿棚卸数量と実地棚卸数量の差に取得原価を掛ける基本の計算式
計算式は「棚卸減耗損=(帳簿棚卸数量−実地棚卸数量)×1個あたりの取得原価」です。たとえば、帳簿上は1,000個ある商品Aを期末に数えたら960個で、取得原価が1個500円なら、不足40個×500円=20,000円が棚卸減耗損です。
実地数量が帳簿より多い場合は計算結果がマイナスになり、減耗損ではなく棚卸差益の扱いになります。品目ごとに差を出してから合計し、ある品目の不足を別品目の超過で相殺しないことが前提です。相殺すると取り違えのような記録誤りが合計値の中に埋もれ、原因を追えなくなります。
商品評価損と同時に発生するときは数量差を先に原価で評価する計算順序
期末の正味売却価額が取得原価を下回った場合、数量の不足と単価の下落が同時に起きます。このときは先に棚卸減耗損を取得原価で計算し、続いて実地数量にだけ評価損を計算します。失われた40個はもう手元にないため、その40個に時価下落の評価損を計算する必要はありません。
先ほどの商品Aで、期末の正味売却価額が1個450円だった場合は次のとおりです。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 帳簿棚卸高 | 1,000個×500円 | 500,000円 |
| 棚卸減耗損 | (1,000個−960個)×500円 | 20,000円 |
| 商品評価損 | 960個×(500円−450円) | 48,000円 |
| 貸借対照表の商品 | 960個×450円 | 432,000円 |
帳簿棚卸高500,000円から減耗損20,000円と評価損48,000円を引くと、貸借対照表の432,000円と一致します。縦軸に単価、横軸に数量をとった図で考えると、右端の不足分の帯が減耗損、残った実在庫の上側の帯が評価損です。評価損側の正味売却価額の算定方法と仕訳は正味売却価額の計算式と商品評価損の仕訳を基準の条文で解説した記事に委ねます。
単価に使う評価方法(移動平均法・先入先出法)で減耗損の金額が変わる点
計算式の「取得原価」は、会社が選んだ棚卸資産の評価方法で決まる単価です。同じ40個の不足でも、移動平均法なら期末時点の平均単価、先入先出法なら直近に仕入れた分の単価が残っている前提で計算します。仕入単価が上がり続けている品目では、先入先出法のほうが減耗損が大きく出ます。
評価方法の種類と届出のルールは棚卸資産の範囲と評価方法6種の計算例をまとめた記事で扱っています。減耗損の計算では、期末棚卸高の評価と同じ単価を使い、減耗分だけ別の単価にしないことを守れば足ります。
棚卸減耗損の仕訳例|三分法の決算整理で売上原価へ振り替える手順
多くの中小企業が使う三分法(仕入・売上・繰越商品の3勘定)での決算整理仕訳を、前章の商品Aの数字で追います。
三分法で期末商品棚卸高を振り替え、減耗損と評価損を計上する仕訳の流れ
期首商品300,000円、当期仕入2,000,000円、期末の帳簿棚卸高500,000円とします。決算整理は次の順で行います。
- 期首商品を仕入へ振り替える:借方 仕入 300,000円/貸方 繰越商品 300,000円
- 期末の帳簿棚卸高を繰越商品へ振り替える:借方 繰越商品 500,000円/貸方 仕入 500,000円
- 棚卸減耗損を計上する:借方 棚卸減耗損 20,000円/貸方 繰越商品 20,000円
- 商品評価損を計上する:借方 商品評価損 48,000円/貸方 繰越商品 48,000円
- 原価性がある場合は売上原価へ含める:借方 仕入 68,000円/貸方 棚卸減耗損 20,000円・商品評価損 48,000円
2の段階で帳簿棚卸高を使うのが要点で、実地の金額をいきなり繰越商品に入れると減耗損が仕訳に現れません。5まで行うと、売上原価は300,000円+2,000,000円−500,000円+68,000円=1,868,000円、貸借対照表の繰越商品は432,000円になります。原価性がない減耗は5で振り替えず、棚卸減耗損のまま営業外費用や特別損失に残します。決算整理仕訳の全体は期末商品棚卸高の設例を含む決算整理仕訳の記事、借方と貸方の書き方の基本は仕訳の書き方の5手順をまとめた記事を参照してください。
実地数量が帳簿より多い棚卸差益の仕訳と、先に記録誤りを疑う理由
実地数量のほうが多いときは、借方に繰越商品、貸方に棚卸差益(または雑収入)を計上して帳簿を実在庫に合わせます。たとえば10個多く、取得原価が500円なら5,000円です。
ただし、物が自然に増えることはありません。差益が出たら、入荷の計上漏れか、別品目との取り違えをまず疑います。同じ日に似た品番で同数の不足が出ていれば、取り違えの可能性が高いと判断できます。この場合は差益と減耗損の両方を計上せず、記録を直して両方の差異を消すのが正しい処理です。
原価性の有無で変わる棚卸減耗損の表示区分|売上原価・販管費・特別損失の判断
同じ棚卸減耗損でも、損益計算書のどこに載せるかで売上総利益や営業利益が変わります。判断の軸は原価性、つまり毎期の営業活動で避けられずに発生する減耗かどうかです。
毎期経常的に出る減耗は売上原価か販管費、製造工程なら製造原価に入れる判断
毎期ある程度の量で発生し、通常の業務の範囲内と言える減耗は原価性があると判断します。小売店の少量の万引き、倉庫内の小さな破損、液体原料の通常の蒸発などが典型です。表示先は次の考え方で決めます。
- 商品の減耗:売上原価の内訳に含めるか、販売費及び一般管理費に表示する
- 製造工程の材料・仕掛品の減耗:棚卸減耗費として製造原価の経費に含める
- 販売店舗での減耗が多い小売業:販売活動の費用として販売費及び一般管理費に置く例もある
売上原価と販管費のどちらに置くかは会社が決め、毎期同じ区分を続けることが前提です。年によって区分を変えると、売上総利益率の推移が減耗の表示替えだけで動いてしまいます。
原価計算基準の非原価項目が示す「異常なたな卸減耗」と営業外費用・特別損失
原価計算基準の5「非原価項目」は、原価に算入しない項目の(二)として「異常な状態を原因とする価値の減少」を挙げ、その例に「異常な仕損、減損、たな卸減耗等」と「火災、震災、風水害、盗難、争議等の偶発的事故による損失」を並べています。倉庫火災で在庫を失った、大規模な盗難で一度に多額の在庫が消えた、といった減耗は原価性がなく、売上原価には入れません。
| 減耗の性質 | 例 | 表示区分 |
|---|---|---|
| 経常的・少額 | 少量の万引き、通常の蒸発 | 売上原価または販管費 |
| 製造工程で経常的 | 材料の目減り、仕掛品の破損 | 製造原価(経費) |
| 異常だが臨時でない | 管理不備による多めの紛失 | 営業外費用 |
| 臨時かつ多額 | 火災、大規模な盗難、災害 | 特別損失 |
なお、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」の第17項は、収益性の低下による簿価切下額(評価損)を売上原価とし、臨時の事象に起因しかつ多額なら特別損失とする規定です。対象は評価損で、数量の減耗を直接定めたものではありません。減耗損の表示を「第9号で決まっている」と説明するのは誤りなので、社内の会計方針には原価性の判断として書いておきます。
棚卸減耗損の税務処理|法人税の損金算入と消費税で課税仕入れにならない理由
税務では、減耗損と評価損の扱いがはっきり分かれます。経理担当が混同しやすいのはこの章です。
法人税法第29条の期末棚卸資産と、評価損に要件を課す第33条の違い
法人税法第29条第1項は、売上原価を計算する基礎になる期末棚卸資産を「当該事業年度終了の時において有する棚卸資産」と定めています。期末に実際に有する在庫は実地数量なので、実地棚卸の数量で期末棚卸高を確定すれば、失われた分は売上原価を通じて自動的に損金になります。減耗損という科目を別に立てても立てなくても、所得の額は変わりません。
評価損については、損金に算入できる条件が別です。同法第33条第1項は、資産の評価換えで帳簿価額を減額しても原則として損金に算入しないと定め、第2項で災害による著しい損傷など政令で定める事実が生じた場合に限って損金算入を認めています。会計上は正味売却価額の下落で計上した評価損でも、税務では要件を満たさず加算調整になる場合があるため、両者の区別が必要です。評価損側の税務要件は商品評価損の仕訳と税務の扱いを扱った記事で整理しています。
減耗損で税務調査の論点になるのは、実地棚卸の記録そのものです。棚卸表の原本、数えた日と担当者、差異の原因調査の記録を残しておかないと、在庫の過少計上による所得の圧縮を疑われても反証できません。
消費税法基本通達5-2-13により減耗損の計上は不課税として扱う理由
消費税法基本通達5-2-13は、棚卸資産について廃棄をし、または盗難もしくは滅失があった場合、それらは資産の譲渡等に該当しないことに留意すると定めています。減耗した在庫は誰かに売ったわけではないので、売上にかかる消費税は生じません。
会計ソフトで棚卸減耗損を入力するときは、税区分を「対象外」や「不課税」にします。課税仕入れの区分のまま入力すると、仕入税額控除を二重に数える誤りになります。その商品の仕入時に課税仕入れとして処理済みであることが前提です。
在庫管理システムで棚卸減耗損を月次把握する設計|原因コードと会計連携の判断
棚卸減耗損を年1回の決算でまとめて知ると、原因を調べる手がかりがほとんど残っていません。減耗をいつ、どの品目で、なぜ起きたかまで記録できる仕組みがあれば、損失の削減策まで打てます。
実地棚卸の差異を原因コード付きで登録し、減耗と記録誤りを分けて仕訳へ渡す設計
在庫管理システムで差異を扱うときは、差異の数量だけでなく原因コードを必ず持たせます。原因コードは、紛失・盗難・破損・蒸発の「減耗系」と、取り違え・計上漏れ・単位換算ミスの「記録誤り系」に分け、減耗系だけを棚卸減耗損の仕訳データとして会計へ渡します。記録誤り系の差異については、元の入出庫伝票を訂正する処理の対象です。
さらに「経常」「異常」のフラグを差異ごとに持たせると、原価性の判断を表示区分まで機械的に反映できます。月次の循環棚卸と組み合わせる方法なら、減耗が特定の棚や時間帯に偏っていないかを毎月確認することが可能です。原因コードの設計と差異の承認フローを含めた仕組みは、在庫管理システム開発として既存の販売管理や会計とつなぐ形で構築できます。
減耗損の自動仕訳を会計システムへ連携すべき条件と、手入力で済む規模の見極め
システム化が必要かどうかは、差異の件数と棚卸の頻度で決まります。
- 連携する価値が高い:拠点や倉庫が複数ある、管理品目が数千SKU以上ある、循環棚卸で毎月差異が出る、差異の承認者が現場と経理で分かれている
- 連携しなくてよい:年1回の一斉棚卸だけで、減耗の発生が毎期数件程度、在庫の評価を表計算で一括計算している
後者の規模で減耗損の自動仕訳だけを作り込むのは過剰です。棚卸表の差異欄に原因を書き、決算時に1本の仕訳を手入力すれば十分に回ります。判断の分かれ目は、差異の原因調査に月に何時間かかっているかで、経理と倉庫の担当者が毎月まる1日以上かけて突き合わせているなら、原因コードと連携の仕組みを入れる段階です。
棚卸減耗損の勘定科目・許容範囲・計上頻度について決算前によくある質問
棚卸減耗損の呼び方、勘定科目の使い方、計上の頻度など、決算の前によく出る質問に答えます。
棚卸減耗損と棚卸減耗費は何が違いますか?
中身はどちらも数量の不足を費用にしたもので、違いは使う場面です。原価計算基準は製造原価の経費として「たな卸減耗費」を挙げており、製造業が材料や仕掛品の減耗を製造原価に入れるときは棚卸減耗費と呼ぶのが一般的です。商品を扱う卸・小売で売上原価や販管費、営業外費用などに表示するときは棚卸減耗損と呼ぶことが多く、会社の勘定科目マスタでどちらかに統一しておけば足ります。
棚卸減耗損の勘定科目を使わず、仕入勘定に直接含めてもよいですか?
原価性のある減耗であれば、実地の金額を期末商品棚卸高として振り替え、減耗分を仕入に残す処理でも売上原価と利益の額は同じになります。ただし減耗の金額が帳簿上に残らないため、毎期の減耗の推移を追えず、表示区分を変えるときに組み替えもできません。少額でも棚卸減耗損の科目で一度計上し、そこから仕入へ振り替える方法をおすすめします。
棚卸減耗損の許容範囲はどのくらいが目安ですか?
業種や品目で減耗の出方が大きく違うため、一律の割合で決めるのはおすすめしません。生鮮食品や揮発する液体と、精密部品とでは、通常の減耗の水準がまったく異なります。過去数期の減耗率と、決算への影響額を見て品目ごとに許容範囲を決める考え方は、棚卸差異の許容範囲の決め方を扱った記事で解説しています。
棚卸減耗損は毎月計上する必要がありますか?
法人税の申告で必要なのは期末時点の実地数量なので、年1回の決算での計上でも足ります。月次決算で利益を正確に把握したい会社や、循環棚卸で毎月一部の品目を数えている会社は、差異が判明した月が計上のタイミングです。月次で計上すると、期末に一度に多額の減耗損が出て利益が急に下がる事態を避けられ、原因調査も記憶が新しいうちに進められます。
個人事業主でも棚卸減耗損を計上しますか?
在庫を持つ個人事業主も、期末に在庫を実地で数えてその金額を期末商品棚卸高にすれば、減耗分は売上原価に含まれて必要経費になります。青色申告決算書では、売上原価の欄で期首と期末の棚卸高を記入する形のため、棚卸減耗損を独立した科目として書かないのが一般的です。棚卸表は帳簿書類として保存しておきます。
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