在庫回転率は、一定期間に在庫が何回入れ替わったかを示す指標で、「売上原価÷平均在庫」で求めます。年間の売上原価が7,000万円、平均在庫が1,000万円なら7.0回、在庫が売れるまでに平均52日かかっている計算です。この記事では、金額ベースと数量ベースの計算式、回転期間と回転日数への換算に加えて、分子を売上高にするか売上原価にするかで値が1.4倍変わる理由を示します。日本政策金融公庫の最新調査による業種別の平均値と中央値を、自社の数字とそろえて比べる手順も解説の対象です。後半では、回転率が下がった原因を品目別に分解する方法と、在庫管理システムで毎月自動で算出する設計までを解説します。
まとめ:在庫回転率は分子と在庫の取り方をそろえ、業種平均より品目別の推移で読む
在庫回転率の基本の式は「売上原価÷平均在庫」で、平均在庫は期首と期末の在庫の平均です。日数で見たいときは「365÷在庫回転率」で在庫回転日数に換算します。ただし日本政策金融公庫の調査など、売上高で割っている公的な統計もあり、そのまま比べると粗利率の分だけ自社の回転率が低く見えます。粗利率30%の会社なら差は1.43倍です。
業種別の目安は、日本政策金融公庫の調査で中央値を見てください。卸売業の商品回転期間は平均1.2か月に対して中央値は0.5か月で、平均値は在庫を多く抱える一部の会社に引き上げられています。
実務で効くのは業種平均との比較より、自社の品目別の推移です。全社の回転率が下がった月に、どの品目・どの倉庫が原因かを掘り下げられる状態を作り、欠品率と一緒に追います。品目数や拠点が増えて手作業の集計が追いつかなくなった段階が、システム化を検討する時期です。
在庫回転率の定義と計算式、金額と数量の2つの算出方法と回転日数への換算
回転率を正しく比べるには、在庫の範囲、分子、平均在庫の取り方の3つを先に決めます。社内で式がそろっていないと、前年との比較すら成り立ちません。
在庫回転率の定義と、棚卸資産回転率・商品回転率と呼び名が分かれる範囲の違い
在庫回転率は、仕入れた在庫が売れて入れ替わる速さを回数で表した指標です。対象とする在庫の範囲によって呼び名が変わります。商品だけを対象にすれば商品回転率、原材料・仕掛品・製品・貯蔵品まで含めた貸借対照表の棚卸資産全体を対象にすれば棚卸資産回転率です。
小売業や卸売業では在庫のほとんどが商品なので、どの呼び名でも値はほぼ同じになります。差が出るのは製造業です。原材料回転率と製品回転率を分けて見れば、調達側で在庫が積み上がっているのか、販売側で売れ残っているのかを切り分けられます。棚卸資産に含まれる勘定の範囲と評価方法は棚卸資産の範囲と評価方法6種を計算例つきで整理した記事で確認できます。
金額ベースと数量ベースの計算式と、年間売上原価7,000万円の会社での計算例
金額ベースは会社全体や部門の評価に、数量ベースは品目ごとの管理に向いています。年間売上高1億円、売上原価7,000万円、期首在庫1,100万円、期末在庫900万円の会社で計算すると次のとおりです。
| 指標 | 計算式 | 計算例 |
|---|---|---|
| 平均在庫 | (期首在庫+期末在庫)÷2 | (1,100万+900万)÷2=1,000万円 |
| 在庫回転率(金額) | 売上原価÷平均在庫 | 7,000万÷1,000万=7.0回 |
| 在庫回転率(数量) | 期間の出庫数量÷平均在庫数量 | 年出庫8,400個÷平均在庫1,200個=7.0回 |
| 在庫回転期間 | 平均在庫÷(売上原価÷12) | 1,000万÷583万=約1.7か月 |
| 在庫回転日数 | 365÷在庫回転率 | 365÷7.0=約52日 |
回転率は高いほど、回転期間と回転日数は短いほど在庫が速く売れていることを示します。数量ベースは値上げや仕入単価の変動に左右されないため、単価の変わりやすい品目の推移を追うときに向く方法です。金額ベースでも、セール期の売価で在庫を評価すると回転率が実態より良く見えるので、在庫は原価で評価します。
期首と期末の平均か月末12か月の平均か、季節で在庫が膨らむ会社の平均在庫の取り方
期首と期末の2時点の平均は手軽ですが、決算日の在庫が年間で少ない時期に当たると平均在庫を過小に見積もります。2月決算のアパレル小売で、期首と期末の在庫がどちらも600万円、秋冬の仕入で月末在庫が最大1,500万円まで膨らみ、12か月の月末在庫の平均が1,000万円だったとします。売上原価6,000万円なら、2時点の平均では10.0回、12か月の平均では6.0回です。
差は1.67倍に達します。季節で在庫が大きく動く業種は、月末在庫12か月の平均を使ってください。月次で回転率を追う場合も、分子に直近12か月の売上原価、分母に直近12か月の月末在庫の平均を使えば、季節の波に振られずに推移を比べられます。
在庫回転率を売上高で割るか売上原価で割るか、分子の違いで変わる値と比較の作法
在庫回転率の解説の多くは売上原価で割る式を示しますが、業種別の目安としてよく引用される日本政策金融公庫の調査は売上高で割っています。この違いを知らずに比べると、自社の在庫が過大だと誤って判断しかねません。
売上原価÷平均在庫と売上高÷平均在庫の差、粗利率30%なら1.43倍になる理由
在庫は仕入原価で評価されているので、同じ原価で測った売上原価で割るのが理屈に合った方法です。一方、売上高は売上原価に粗利を乗せた額なので、売上高で割ると粗利の分だけ回転率が高く出ます。差の倍率は「1÷(1-粗利率)」で決まります。
| 粗利率 | 売上高ベース÷売上原価ベース | 売上原価ベース7.0回のときの売上高ベース |
|---|---|---|
| 10%(卸売の薄利品目など) | 1.11倍 | 7.8回 |
| 30% | 1.43倍 | 10.0回 |
| 50% | 2.00倍 | 14.0回 |
| 70%(化粧品・アパレルの一部など) | 3.33倍 | 23.3回 |
粗利率の高い業種ほど差は広がります。社内の管理では売上原価ベースを使い、外部の統計と比べるときだけ売上高ベースに換算し直す、という使い分けが混乱の少ない運用です。部門間で比べる場合も、粗利率が違う部門を売上高ベースで並べると、粗利率の高い部門の在庫が少なく見えてしまいます。
公庫の統計は税込売上高と貯蔵品込みの在庫で算出、自社の数字を合わせる換算手順
日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」の算出式では、商品回転期間と棚卸資産回転期間を「(期首棚卸資産+期末棚卸資産)÷2÷月商」で求めています。月商は売上高÷12で、売上高は原則として消費税を含む額、棚卸資産は貯蔵品を含めた額です。回転率ではなく月数で公表されている点にも注意が必要です。
先の例の会社(税抜売上高1億円、平均在庫1,000万円)を公庫の式にそろえる手順は次のとおりです。
- 売上高を税込にする:1億円×1.1=1億1,000万円(軽減税率の品目が多い会社は実際の税込額を使う)
- 月商を出す:1億1,000万円÷12=約917万円
- 平均在庫に貯蔵品を足す:梱包資材などの貯蔵品が期首期末とも50万円なら1,050万円
- 月数にする:1,050万円÷917万円=約1.1か月
売上原価ベースの回転期間1.7か月のまま比べると、公庫の値より0.6か月も長く見えてしまいます。他の経営指標でも統計ごとに式が違うものは多く、定義の違いは中小企業庁と公庫で定義が違う指標を整理した財務分析の指標一覧にまとめています。
業種別の在庫回転率の目安、公庫の小企業の経営指標調査で見る平均値と中央値
業種別の目安は、公庫が融資先の従業者50人未満の法人を対象に毎年公表している調査が、業種を細かく分けて毎年更新される公的データです。対象業種は隔年で替わり、2026年11月時点では卸売・小売業や飲食店を含む2025年度調査(2026年8月公表)と、製造業を含む2024年度調査(2025年8月公表)が最新です。
卸売・小売・飲食・製造の商品回転期間と棚卸資産回転期間、平均値と中央値の一覧
主な業種の値を、公庫の業種別経営指標(卸売・小売業、飲食店,宿泊業、製造業)から、調査対象が100社以上の業種を抜き出しました。右端の列は、中央値の月数を「12÷月数」で売上高ベースの回転率に換算した参考値です。
| 業種(調査年度) | 平均値 | 中央値 | 中央値の回転率換算 | 調査対象数 |
|---|---|---|---|---|
| 卸売業(2025年度) | 1.2か月 | 0.5か月 | 24回 | 1,872社 |
| 飲食料品卸売業(2025年度) | 0.8か月 | 0.2か月 | 60回 | 533社 |
| 機械器具卸売業(2025年度) | 1.1か月 | 0.6か月 | 20回 | 421社 |
| 小売業(2025年度) | 1.3か月 | 0.7か月 | 約17回 | 1,712社 |
| 飲食料品小売業(2025年度) | 0.5か月 | 0.2か月 | 60回 | 376社 |
| 織物・衣服・身の回り品小売業(2025年度) | 2.5か月 | 1.8か月 | 約6.7回 | 195社 |
| 自動車小売業(2025年度) | 1.6か月 | 1.1か月 | 約11回 | 399社 |
| 調剤薬局(2025年度) | 0.7か月 | 0.6か月 | 20回 | 122社 |
| 一般飲食店(2025年度) | 0.2か月 | 0.1か月 | 120回 | 464社 |
| 製造業(2024年度・棚卸資産) | 0.6か月 | 0.1か月 | 120回 | 2,042社 |
卸売・小売業と飲食店は商品回転期間、製造業は棚卸資産回転期間です。換算した回転率は売上高ベースなので、自社の売上原価ベースの値と比べるときは、前の章の倍率で割り戻してください。たとえば粗利率30%の小売業なら、中央値17回は売上原価ベースで約12回に相当します。
製造業の中央値0.1か月が示す受注生産の実態と、平均値と中央値が離れる業種の読み方
製造業の中央値0.1か月は、月商の約3日分です。半数の会社は、棚卸資産をおおむねこの程度しか持っていません。細かい業種では、一般機械器具製造業(302社)、金属製品製造業(237社)、印刷業(149社)の中央値が0.0か月、つまり月商の1.5日分に満たない水準でした。小さな製造業には、材料を発注元から支給される取引や、受注してから材料を仕入れて短納期で納める取引が多いためと考えられます。
こうした業種では、平均値0.6か月も中央値0.1か月も、見込み生産で製品在庫を持つ会社の目安にはなりません。見込み生産の会社は、同業の中央値と比べるより、自社の前年同月や品目別の推移で判断します。平均値と中央値が大きく離れている業種では中央値を基準にし、自社が平均値に近い場合は在庫を多く持つ側の会社だと読むのが安全です。
在庫回転率が下がる原因を品目別に分解し、欠品とのバランスで打ち手を決める手順
全社の回転率が下がったとき、原因は特定の品目の売れ残り、欠品を恐れた過剰な発注、会計処理による見かけの変動のいずれかにあります。順に切り分けると、打ち手を取り違えずに済みます。
全社の回転率だけでは見えない滞留品、ABC分析と品目別回転日数で原因を絞る手順
最初に、品目ごとの回転日数を出して長い順に並べます。多くの会社では、在庫金額の大半を一部の品目が占めています。在庫金額の累計が全体の2割に達するまでの品目を抜き出し、直近3か月の出庫がゼロの品目と、出庫はあるが回転日数が前年の2倍以上に延びた品目に分けてください。
出庫ゼロの品目は処分や返品の交渉、回転日数が延びた品目は発注量と発注頻度の見直しが打ち手です。売上の大きいA品目は回転日数を短く、売上の小さいC品目はある程度の長さを許容するよう、目標を区分ごとに分けます。品目別の回転日数を資金の改善額に換算する試算は回収・在庫・支払の日数で資金繰り改善の効果を試算する記事で扱っています。
回転率を上げすぎて欠品が増える失敗、安全在庫と欠品率をセットで見る基準
回転率だけを目標にすると、在庫を削りすぎて欠品が増え、売上を落とす失敗が起きます。回転率が前年より上がった月に欠品率も上がっていれば、改善ではなく在庫不足です。回転率と欠品率は同じ表に並べ、欠品率の上限(例:受注件数の2%)を超えない範囲で回転率を上げる運用にしてください。
発注点と安全在庫を品目ごとに決めずに一律で在庫を減らすと、需要の振れが大きい品目から欠品します。需要予測から安全在庫と発注点を決める手順は安全在庫・発注点・リードタイムの決め方を解説した記事が参考になります。
期末の評価損・棚卸差異・決算前の仕入調整で回転率が見かけだけ動く場面
売れ行きが変わらなくても、会計の処理で回転率が動く場面があります。見落としやすいのは次の3つです。
- 商品評価損:正味売却価額が取得原価を下回った在庫を切り下げると、期末在庫が減って回転率は上がります。売れたわけではありません。
- 棚卸差異:帳簿より実地棚卸の数量が少なく減耗損を計上すると、同じく期末在庫が減ります。
- 決算前の仕入抑制:期末だけ仕入を止めて在庫を絞ると、期首期末の平均が下がり、回転率は実態より良く見えます。
評価損や減耗損は回転率の計算から外し、評価損計上前の在庫で計算した値も併記する形です。評価損の計算方法は正味売却価額と商品評価損の仕訳を解説した記事で確認できます。決算前の仕入抑制による見かけの改善は、前の章の月末12か月平均を使えば打ち消せます。
在庫回転率を在庫管理システムで毎月自動算出する設計と、システム化の判断基準
回転率を経営指標として使うなら、全社の値から品目・倉庫まで掘り下げられる構成にします。全社値だけを毎月報告しても、「下がった」という事実しか伝わりません。
品目マスタ・入出庫履歴・原価単価を結び、月末在庫の12か月平均で出す構成
品目別・倉庫別の回転率を毎月出すには、品目マスタ(品目コード、ABC区分、評価方法)、入出庫履歴(日付、倉庫、数量、出庫理由)、月末時点の在庫数量と原価単価の3つを、同じ品目コードで結びつけます。月末の締め処理で在庫数量と単価の写しを保存しておけば、直近12か月の月末在庫の平均をいつでも計算できます。
出庫理由は「販売」「廃棄」「社内使用」に分けて記録します。廃棄を出庫数量に含めると、売れていない在庫まで回転したように見えるからです。入出庫と引当の基本的な仕組みは入出庫管理と引当の仕組みを解説した在庫管理システムの記事、受注や発注のデータと在庫を連携する構成は受発注と在庫を連携する仕組みと発注点の計算を解説した記事で整理しています。既存の販売管理や会計ソフトを残したまま、回転率や欠品率を自動で集計する仕組みから相談したい場合は、在庫管理システム開発で個別に設計します。
システム化が見合う条件と、表計算のままで足りる品目数・拠点数の目安
次のうち2つ以上に当てはまれば、システム化を検討してよい段階です。
- 管理する品目が500を超え、品目別の回転日数を毎月出せていない
- 倉庫や店舗が2拠点以上あり、拠点間の移動が回転率の計算から漏れている
- 月末の在庫集計と回転率の算出に、担当者が毎月2日以上使っている
- 滞留品に気づくのが、実地棚卸や決算の評価損の計上時になっている
一方、品目が100以下で倉庫が1か所なら、会計ソフトの在庫残高と出庫数量を表計算に貼り付けて回転率を出す運用で足ります。この規模で専用の仕組みを作っても、集計にかかる時間は月に数時間しか減りません。入出庫の記録が当日に入力されていない会社も、システム化は見送ります。記録の遅れたデータから出した回転率は信用できないため、まず入出庫をその日のうちに記録するルールを定着させ、そのうえで残った集計の手間をシステムで解く順番にします。
よくある質問
在庫回転率について、計算や目安で迷いやすい点をまとめました。
在庫回転率と在庫回転期間の違いは何ですか?
同じ比率を逆から見た指標です。在庫回転率は「売上原価÷平均在庫」で、1年間に在庫が何回入れ替わったかを示します。在庫回転期間は「平均在庫÷月間の売上原価」で、在庫が何か月分あるかを示します。回転率6回なら回転期間は12÷6で2か月、回転日数は365÷6で約61日です。仕入や支払のサイトと比べるときは、月数や日数で表す回転期間が便利です。
在庫回転率の目安は何回ですか?
業種によって大きく違います。日本政策金融公庫の2025年度調査で商品回転期間の中央値を売上高ベースの回転率に換算すると、卸売業24回、小売業約17回、衣服などの小売業約6.7回、一般飲食店120回でした。売上原価で割る自社の値と比べるときは、粗利率30%なら1.43で割り戻します。業種の目安は出発点にとどめ、自社の前年同月と品目別の推移で判断してください。
在庫回転率はエクセルでどう計算しますか?
品目ごとに1行とし、A列に品目名、B列に年間売上原価(または年間出庫数量)、C列に期首在庫、D列に期末在庫を入れます。E列に「=B2/AVERAGE(C2:D2)」と入れれば回転率、F列に「=365/E2」と入れれば回転日数が出ます。季節で在庫が動く場合は、C列とD列の代わりに12か月分の月末在庫を並べ、AVERAGE関数で12か月の平均を取ってください。
在庫回転率を上げる方法はありますか?
まず品目別の回転日数を出し、出庫のない滞留品を処分や返品で減らします。次に、回転日数が延びている品目の発注量を減らし、発注の頻度を上げる手順です。仕入先のリードタイムが短くなれば、安全在庫も少なくて済みます。ただし欠品率が上がっていないかを毎月確かめ、欠品の上限を決めたうえで在庫を減らしてください。売れ筋の欠品は回転率の改善分以上に売上を失います。
在庫回転率と総資産回転率はどう違いますか?
総資産回転率は「売上高÷総資産」で、在庫だけでなく現金、売掛金、設備などすべての資産が売上をどれだけ生んでいるかを示します。在庫回転率はそのうち在庫の部分だけを取り出した指標です。総資産回転率が下がったとき、在庫回転率と売掛金回転期間を見れば、どの資産で資金が寝ているかを特定できます。総資産回転率の計算と業種別平均は総資産回転率の計算式と業種別平均を解説した記事で扱っています。
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