棚卸資産とは、販売するため、または製品をつくるために会社が持っている商品・製品・仕掛品・原材料などの資産で、一般には在庫と呼ばれるものです。決算日に残った棚卸資産の金額は、そのまま売上原価と利益の額を左右します。この記事では、法人税法施行令が定める棚卸資産の範囲と勘定科目、取得価額に含める費用、売上原価の計算式を整理しました。そのうえで、原価法6種と低価法を同じ仕入データで計算して期末在庫額の差を比べ、評価方法の届出期限と、届け出なかった場合に適用される最終仕入原価法、在庫管理システムで評価単価をどう持つかまでを扱います。
まとめ:棚卸資産は期末に残る販売・製造用の在庫、評価方法の選択で利益が動く
棚卸資産は、商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵中の消耗品など、棚卸しをして期末の数量と金額を確かめるべき資産です。貸借対照表では流動資産に表示し、期末の金額が大きいほど売上原価は小さく、利益は大きくなります。
実務で先に決めるのは評価方法です。法人税では個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の6つの原価法と低価法から選び、設立第1期の確定申告書の提出期限までに税務署へ届け出ます。届け出なければ最終仕入原価法が適用される仕組みです。仕入単価が上がっている局面では、方法の違いだけで期末在庫額が1割近く変わる例もあります。
品目数が数百程度で月末にまとめて計算する会社なら、総平均法を表計算で回せます。入出庫のたびに単価を更新する移動平均法を選ぶ会社や、在庫と会計の金額が毎月ずれる会社は、在庫管理システムに評価単価を持たせ、会計へ仕訳で連携する設計を検討してください。
棚卸資産の意味と範囲、法人税法施行令が定める7区分と貯蔵品・有価証券の線引き
棚卸資産に当たるかどうかは「販売や製造のために持っていて、期末に数えて金額を確かめるものか」で決まります。法令の定義と、迷いやすい資産の扱いを先に押さえます。
棚卸資産とは販売・製造のために持つ在庫、貸借対照表では流動資産に表示
法人税法第2条第20号は、棚卸資産を「商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの」と定義しています。棚卸しとは、期末に在庫の数量を数えて金額を確定させる作業のことです。
棚卸資産は、仕入れてから販売するまでの営業の流れの中で現金に戻る資産なので、貸借対照表では流動資産の区分に表示します。決算書の科目名は「商品」「製品」「仕掛品」「原材料」などに分けるか、「商品及び製品」のようにまとめて表示します。
施行令第10条の7区分、商品・製品から消耗品で貯蔵中のものまでの勘定科目
法人税法施行令第10条は、棚卸資産を次の7つに区分しています。帳簿で使う勘定科目もおおむねこの区分に対応します。
| 施行令の区分 | 主な勘定科目 | 典型例 |
|---|---|---|
| 商品又は製品 | 商品・製品 | 卸売業の仕入品、自社工場の完成品 |
| 半製品 | 半製品 | 単体でも販売できる中間品 |
| 仕掛品 | 仕掛品・未成工事支出金 | 製造途中の品、完成前の工事 |
| 主要原材料 | 原材料 | 製品の本体になる鋼材や生地 |
| 補助原材料 | 原材料 | 塗料・接着剤・梱包材 |
| 消耗品で貯蔵中のもの | 貯蔵品 | 未使用の切手・収入印紙・燃料 |
| 上記に準ずるもの | 各社で設定 | 副産物・作業くず |
半製品と仕掛品の違いは、そのまま売れるかどうかです。製造業で月末に仕掛品の金額を出す計算は、完成品換算量で月末仕掛品を求める総合原価計算の記事で設例つきで解説しています。勘定科目の5分類と表示科目の関係は勘定科目の5分類と補助科目・表示科目の違いを整理した記事を参照してください。
棚卸資産に入らないもの、有価証券・事業用の固定資産・販売目的でない土地
同じ物でも、持つ目的で区分が変わります。不動産会社が販売用に持つ土地や建物は棚卸資産ですが、自社の事務所として使う建物は固定資産です。パソコン販売店の店頭在庫は商品、社員が業務で使うパソコンは備品として固定資産に入ります。
有価証券は、法人税法第2条第20号のかっこ書きで棚卸資産から明示的に除かれています。事務用品や切手のような消耗品は、買った時に費用にしていれば資産に計上しません。期末に未使用分が多く残っている場合や、毎期おおむね一定量を買っていない場合は、貯蔵品として資産に戻す処理になります。
受託ソフトウェア開発の仕掛品、未完成案件の原価を期末に資産へ振り替える
物を作らない業種にも棚卸資産はあります。受託でシステムを開発する会社が、納品・検収の時点で売上を計上している場合、期末に未完成の案件にかかった外注費や開発者の人件費は、その期の費用ではなく仕掛品として資産に計上する扱いです。翌期に検収を受けた時点で、仕掛品を売上原価へ振り替えます。
この処理を怠ると、着手した期に費用だけが立ち、検収した期に売上だけが立って、2期とも利益がゆがみます。案件ごとの工数と外注費を期末に集計できる状態にしておくことが、仕掛品を正しく出す前提です。
棚卸資産の取得価額と売上原価、期首・仕入・期末の3つの数字で利益が決まる仕組み
棚卸資産の金額は「1単位いくらで買ったか」と「期末にいくつ残ったか」の掛け算です。単価に含める費用と、期末の金額から売上原価を出す流れを示します。
取得価額に含める付随費用、引取運賃・関税と購入代価の3%以内の少額費用
法人税法施行令第32条によると、購入した棚卸資産の取得価額は、購入の代価に引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税などの購入のために要した費用を加え、さらに消費や販売のために直接要した費用を足した額です。仕入値だけで在庫単価を持っていると、運賃の分だけ期末在庫が少なく計上されます。
一方、法人税基本通達5-1-1は、買入事務・検収・整理・選別などにかかった費用、販売所への移管運賃、特別な時期まで長期に保管する費用の合計が少額(購入代価のおおむね3%以内)であれば、取得価額に入れなくてよいとしています。社内の検収作業の人件費まで単価に配る必要はありません。
売上原価の計算式と期末棚卸高の仕訳、三分法で決算に振り替える流れ
売上原価は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高−期末商品棚卸高」で求めます。期首に10万円、期中に40万円仕入れ、期末に15万円の在庫が残れば、売上原価は35万円です。期末在庫を1万円多く数えれば売上原価は1万円減り、利益が1万円増えます。
仕入を「仕入」勘定で処理する三分法では、決算で期首の在庫を「仕入/繰越商品」で売上原価に加え、期末の在庫を「繰越商品/仕入」で売上原価から除きます。この2本の仕訳と、ほかの決算整理の一覧は期末商品棚卸高の設例を含む決算整理仕訳の記事にまとめています。
棚卸資産の評価方法6種と低価法、同じ取引で期末在庫額がどれだけ変わるかの計算例
期末に残った在庫の「単価」をどう決めるかが評価方法です。仕入単価が毎回同じなら差は出ませんが、単価が動くと方法ごとに金額が変わります。
原価法の6つの方法、個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法など
法人税法施行令第28条第1項は、原価法として次の6つを定めています。
| 方法 | 期末在庫の単価の決め方 | 向いている在庫 |
|---|---|---|
| 個別法 | 1つずつ実際の取得価額 | 不動産・宝飾品・受注品 |
| 先入先出法 | 先に買った物から出たとみなす | 食品など鮮度管理する品 |
| 総平均法 | 期首と期中仕入の合計を総数量で割る | 単価変動が小さい定番品 |
| 移動平均法 | 仕入のたびに平均単価を更新 | 入出庫をシステムで即時計上する品 |
| 最終仕入原価法 | 期末に最も近い仕入の単価 | 計算を簡単に済ませたい小規模事業 |
| 売価還元法 | 売価の合計に原価率を掛ける | 品目数の多い小売業 |
個別法は、同じ施行令第28条第2項により、一度に大量に仕入れて規格ごとに値段が決まっている物には選べません。ねじや文具のような量産品は、残りの5つから選びます。
仕入単価が上がる局面の計算例、4つの方法で期末在庫額と売上原価を比較
期首に100個(単価1,000円)、4月に200個(単価1,100円)を仕入れ、5月に250個を出荷し、7月に150個(単価1,200円)を仕入れた例で、期末200個の評価額を比べます。仕入総額は50万円です。
| 評価方法 | 期末の単価 | 期末在庫額 | 売上原価 |
|---|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 1,200円 | 240,000円 | 260,000円 |
| 先入先出法 | 150個は1,200円・50個は1,100円 | 235,000円 | 265,000円 |
| 移動平均法 | 約1,166.67円 | 233,333円 | 266,667円 |
| 総平均法 | 約1,111.11円 | 222,222円 | 277,778円 |
最も高い最終仕入原価法と最も低い総平均法の差は17,778円で、期末在庫額の約8%にあたります。単価が上がる局面では、新しい単価を期末に残す方法ほど利益が大きく出ます。下がる局面では逆になるため、どの方法が得かは相場の向き次第で、毎期の損得で方法を選び直すことはできません。
低価法と会計基準の簿価切下げ、正味売却価額を下回ったときの評価損
施行令第28条第1項第2号の低価法は、原価法で出した金額と期末の時価のうち低い方を評価額にする方法です。法人税では選択制で、選ばなければ原価法のまま評価します。
会計では選択の余地がありません。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7項は、期末の正味売却価額が取得原価を下回れば正味売却価額で計上し、差額を当期の費用にすると定めています。切り下げた額は第17項により原則として売上原価に含め、翌期に戻し入れるかどうかは第14項に基づき洗替え法と切放し法から選択する決まりです。正味売却価額の算定と商品評価損の仕訳、税務で損金になる場面は正味売却価額の計算式と商品評価損の仕訳を基準の条文で解説した記事で詳しく扱っています。
評価方法の届出と変更、未届出なら最終仕入原価法になる税務上のルール
評価方法は、帳簿の上で決めるだけでは足りません。税務署への届出が要り、変えるときは承認が要ります。
届出の期限は設立第1期の確定申告書の提出期限、事業の種類と区分ごとに選定
国税庁のC1-25 棚卸資産の評価方法の届出によると、新たに設立した法人は、設立第1期の確定申告書の提出期限までに「棚卸資産の評価方法の届出書」を所轄税務署長へ出します。新たに別の種類の事業を始めた場合も、その事業年度の確定申告書の提出期限が期限です。
施行令第29条第1項は、評価方法を事業の種類ごとに、かつ商品又は製品・半製品・仕掛品・主要原材料・補助原材料その他の区分ごとに選ぶよう求めています。卸売と製造の2事業を営む会社なら、卸売の商品は移動平均法、製造の原材料は総平均法という組み合わせも可能です。
届出をしない会社は最終仕入原価法、会計基準との食い違いが生む論点
施行令第31条は、評価方法を選ばなかった場合、または選んだ方法で評価しなかった場合は、最終仕入原価法による原価法で評価すると定めています。これを法定評価方法と呼びます。中小企業で最終仕入原価法が多いのは、届出をしていない会社にこの方法が自動で当てはまるためです。
注意したいのは、企業会計基準第9号が最終仕入原価法を評価方法として定めていない点です。第34-4項は、期末在庫の一部しか実際の取得原価で評価されないことを理由に挙げ、期末在庫の大部分が最終の仕入価格で取得されている場合などに限って容認しています。期末直前に高い単価で少量だけ仕入れると、評価額が跳ね上がる計算です。前述の例で、決算月に10個だけ単価1,500円で追加仕入をすると、期末の210個すべてが1,500円で評価され、期末在庫額は315,000円になります。会計監査を受ける会社や、仕入単価の振れ幅が大きい会社は、届出で別の方法を選んでおくべきです。
評価方法の変更は新方法を使う期の開始前日までに承認申請、採用から3年が目安
施行令第30条により、評価方法を変えるには、新しい方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに変更承認申請書を出し、税務署長の承認を受けます。3月決算の会社が翌期から変えるなら、3月31日までに申請が必要です。
法人税基本通達5-2-13は、今の方法を採用してから3年を経過していない場合、変更理由が合理的でない限り承認しないという運用を示しています。在庫管理システムの入れ替えに合わせて評価方法を変える計画なら、稼働時期と申請期限の両方から逆算して日程を組んでください。
在庫管理システムと会計の評価連携、評価方法ごとに変わる単価の持ち方と判断
評価方法は、在庫管理システムがどのタイミングで単価を計算するかを決めます。方法を選んだ後で「システムが対応していない」と分かる事態を避けるため、方法ごとの要件と、連携を作り込むべき条件を示します。
移動平均法は入庫の都度単価を更新、入出庫の即時計上が前提になる
移動平均法では、入庫のたびに「その時点の在庫金額+今回の仕入額」を数量で割り直し、以後の出庫をその単価で払い出します。入庫の計上が1日遅れると、その間の出庫は古い単価で原価が計算され、後から入庫日を直しても払出単価は自動では直りません。
このため移動平均法は、入荷検品と出荷をハンディ端末などで即時に在庫へ反映している会社に向きます。入出庫を紙の伝票でまとめて入力している会社が選ぶと、月末に払出単価の再計算が必要です。入出庫の記録と在庫指標の基本はJIS定義から在庫管理の業務フローと指標を整理した記事で確認できます。
総平均法・最終仕入原価法は月末や期末の一括計算、表計算で回る規模の目安
総平均法は期間の仕入が出そろってから単価を1回だけ計算し、最終仕入原価法は期末直前の仕入単価を拾うだけです。どちらも計算は期末や月末に一度で済みます。品目数が数百程度までで、仕入データを会計ソフトや販売管理から品目別に出力できれば、表計算で十分に回ります。
ただし、どの方法でも期末の数量は実地棚卸で確定させます。帳簿の在庫数と実際の数が合っていなければ、単価の計算をいくら正しくしても期末在庫額は誤ります。数え方と差異の扱いは帳簿棚卸との違いと差異率の許容水準をまとめた実地棚卸の記事を参照してください。
在庫システムの評価単価を会計へ連携すべき条件と、作り込みが過剰な場面
次のどれかに当てはまる会社は、在庫管理システムに評価単価を持たせ、月次で売上原価と在庫残高の仕訳を会計へ渡す仕組みにしてください。
- 移動平均法を選んでおり、品目数が1,000を超える
- 倉庫や拠点が複数あり、拠点間の移動で単価を引き継ぐ必要がある
- 在庫管理側の在庫金額と会計の棚卸資産残高が毎月ずれ、原因の調査に半日以上かかる
- 月次決算で売上原価を確定させたいが、期末にしか評価額を出せていない
連携の設計で最初に決めるのは、評価方法と単価の計算単位(品目・ロット・倉庫)、入庫に含める付随費用の配り方、会計へ渡す勘定科目と部門の対応です。既製の在庫管理ソフトが自社の評価方法や拠点構成に合わない場合は、当社の在庫管理システム開発で、評価単価の計算から会計への仕訳連携までをまとめてご相談いただけます。
反対に、年1回の決算でしか在庫金額を使わず、品目が100程度の会社が評価計算の仕組みを作り込むのは過剰です。最終仕入原価法か総平均法を表計算で計算し、実地棚卸の精度を上げる方に手間をかけた方が、期末在庫額の誤りは減ります。
よくある質問
棚卸資産について寄せられる質問を5つ取り上げます。
棚卸資産と在庫は同じ意味ですか?
ほぼ同じものを指しますが、使う場面が違います。在庫は倉庫や店舗にある物の数量を管理する現場の言葉で、棚卸資産は帳簿と決算書で金額として扱うときの会計・税務の言葉です。在庫の中でも、販売や製造のために持っていない物(社内で使う備品など)は棚卸資産に入りません。逆に、未使用の切手や収入印紙は倉庫の在庫として数えないことが多いものの、期末に残っていれば貯蔵品として棚卸資産に含まれます。
貯蔵品と消耗品費はどう使い分けますか?
買った時点で使い切る前提の事務用品や切手は、消耗品費などの費用で処理します。期末に未使用のまま残った分を資産に戻す場合の科目が貯蔵品です。毎期おおむね一定量を買い、経常的に消費しているなら、買った期の費用のままにしておく処理も一般に認められています。期末に大量の未使用分がある場合や、翌期に使う分をまとめ買いした場合は、貯蔵品に振り替えて棚卸資産として計上してください。
個人事業主も棚卸資産の評価方法を届け出る必要がありますか?
個人事業主も、所得税の取扱いで同じように評価方法を選んで届け出ます。届け出なければ、法人と同じく最終仕入原価法で評価することになります。原価法の種類はほぼ共通で、低価法を選ぶには青色申告者であることが条件です。開業した年に売上原価が出る事業なら、開業届や青色申告承認申請書と同じ時期に、評価方法の届出書も税務署へ出しておくと手続きが漏れません。
棚卸資産回転率はどう計算し、何を見ればよいですか?
棚卸資産回転率は、売上原価を平均棚卸資産(期首と期末の棚卸資産の平均)で割って求めます。年間の売上原価が3,600万円、平均棚卸資産が600万円なら回転率は6回で、在庫が約2か月分あるという意味です。回転率が下がっていれば、売れ残りや過剰な仕入が増えている可能性があります。売上高で割る計算方法もありますが、毎期同じ式を使って推移を比べることが前提です。売上高と売上原価のどちらで割るかで値が変わる理由や業種別の目安は、在庫回転率の計算式と業種別の目安を解説した記事で整理しています。評価方法を変えた期は期末在庫額が変わるので、比較の際に注意してください。
棚卸減耗損と商品評価損の違いは何ですか?
棚卸減耗損は数量の減少、商品評価損は単価の下落による損失です。帳簿上は200個あるはずの在庫が実地棚卸で195個しかなければ、5個分が棚卸減耗損になります。数は合っていても、品質の劣化や市場価格の下落で正味売却価額が取得原価を下回れば、その差額が商品評価損です。計算の順序は、先に数量差で棚卸減耗損を出し、残った実在庫に対して単価の切下げを行います。数量差の原因の調べ方は棚卸差異の記事で解説しています。
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