監査役に、弁護士や公認会計士のような必須資格はありません。会社法の欠格事由と兼任禁止に当たらない人なら、社内の部長でも外部の専門家でも就任できます。では実際に誰が選ばれているのか。日本監査役協会が2025年に会員企業2,100社から集めた年次調査では、社内監査役は部長・役員経験者、上場会社の社外監査役は公認会計士・税理士と弁護士が中心でした。本記事では、なれる人となれない人の線引きを2026年10月時点の現行条文で確認し、調査データで見る人選の実態、社外監査役の要件、選任の手続と報酬、選ぶべきでない人までを順に解説します。
まとめ|監査役は誰がなる?資格は不要、人選を絞るのは独立性と専門性
- 法律上の資格は不要:法人と一定の刑に処せられた人を除けば就任できる(会社法335条1項・331条1項)。非公開会社は定款で株主に限ることもできる。
- 兼任できない相手がいる:その会社と子会社の取締役・使用人などは監査役を兼ねられない(335条2項)。
- 社内監査役の実像:前職は「監査関係以外の部長等」23.8%、執行役員17.5%、監査関係部長等14.1%。執行側の要職経験者が合計41.0%(上場会社は50.3%)。
- 社外監査役の実像:上場会社では公認会計士・税理士31.2%、会社と無関係な会社の役職員27.8%、弁護士23.3%。
- 選ぶのは株主総会:取締役が議案を出すには現任監査役の同意が要り、普通決議で選任して2週間以内に登記する。
- 避けるべき人選:取締役に意見できない身内・知人と、取締役会に出られない名ばかりの非常勤。
監査役になれる人・なれない人|欠格事由と兼任禁止(2026年10月の現行条文)
「監査役は誰でもなれるのか」に条文で答えると、まず確認するのは欠格事由と兼任禁止です。加えて非公開会社では、監査役を株主に限る旨を定款で定められるため(335条1項・331条2項ただし書)、定款の資格制限も確認します。監査役は取締役の職務執行を監査し、監査報告を作る機関で(会社法381条1項)、業務監査と会計監査の分担は監査役と会計監査人の役割とは?業務監査・会計監査の違いと会社法上の連携を解説で整理しています。
欠格事由|法人と一定の刑に処せられた人(335条1項・331条1項)
会社法335条1項は、取締役の欠格事由を定めた331条1項を監査役に準用しています。現行条文で監査役になれないのは次の人です。
- 法人(1号)
- 会社法・一般社団財団法・金融商品取引法・民事再生法・破産法などの所定の罪で刑に処せられ、執行が終わってから、または執行を受けなくなってから2年を経過しない人(3号)
- それ以外の法令違反で拘禁刑以上の刑に処せられ、執行が終わっていない人。執行猶予中の人は除く(4号)
4号は、2025年6月1日施行の刑法改正で懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたのに合わせ、「拘禁刑以上の刑」と書かれています。古い解説で「禁錮以上」とあるのは同じ線引きの旧表記です。交通事故の罰金刑のように拘禁刑に至らない刑は、4号の欠格事由に当たりません。
兼任禁止の範囲|自社と子会社の取締役・使用人(335条2項)
監査役は、その会社または子会社の取締役・支配人その他の使用人、子会社の会計参与・執行役を兼ねられません(335条2項)。監査する人と監査される人が同じでは監査にならないためです。したがって、現役の経理部長を監査役にするなら、部長職を退いてから就任させます。
一方、親会社の取締役が子会社の監査役になること、他社の役員や別会社の監査役を兼ねることは335条2項の対象外です。ただし親会社の役職員は、後述する社外監査役の要件(2条16号ハ)を満たさないため、社外監査役としては数えられません。
成年被後見人・被保佐人の就任|2021年3月から欠格事由ではなく手続の問題
以前は成年被後見人と被保佐人も欠格事由に含まれていましたが、令和元年の会社法改正(2021年3月1日施行)で331条1項2号は「削除」となりました。代わりに331条の2が、成年被後見人なら成年後見人が本人の同意(後見監督人がいる場合は本人と後見監督人の同意)を得て代わりに就任を承諾し、被保佐人なら保佐人の同意を得て就任する、という手続を定めています。この規定も335条1項で監査役に準用されます。
実際に監査役になっているのは誰か|日本監査役協会 第26回年次調査の前職データ
法律の線引きだけでは「誰がなる」の答えになりません。ここでは、日本監査役協会の第26回 定時株主総会後の監査役等の体制に関する年次調査(2025年12月18日公表)の監査役(会)設置会社版を使います。調査期間は2025年7月7日〜8月7日、回答は協会の法人会員のうち監査役(会)設置会社2,100社(回答率34.9%)で、大会社が64.0%、上場会社が40.8%を占めます。中小の非公開会社より大きめの会社に寄ったデータとして読んでください。
社内監査役の前職|部長クラスと執行側の要職経験者が中心
社内監査役2,338人の前職は、選択肢の中では「監査関係以外の部長等」が23.8%で最も多く、執行役員17.5%、監査関係部長等14.1%、その他の取締役11.8%、専務・常務8.6%と続きます。会長・副会長・社長・副社長・専務・常務・取締役・執行役員という執行側の要職から就いた人は合計41.0%で、前回より3.7ポイント減りました。上場会社に限ると50.3%です。
「その他」(24.8%)の記載例には、親会社やグループ会社の役職員、内部監査出身者、経理担当職員が挙がっています。社内監査役は、経理・総務・人事などの部長を務めた人か、取締役・執行役員を退いた人が就くのが典型だといえます。
社外監査役の前職・現職|上場は会計士・税理士と弁護士、非上場は親会社・大株主も
社外監査役3,606人の前職・現職は、上場会社と非上場会社で顔ぶれが分かれます。
| 前職・現職 | 上場(2,095人) | 非上場(1,511人) |
|---|---|---|
| 公認会計士または税理士 | 31.2% | 17.1% |
| 会社と無関係な会社の役職員 | 27.8% | 18.9% |
| 弁護士 | 23.3% | 15.7% |
| 大株主の役職員 | 6.3% | 18.3% |
| 親会社の役職員(前職に限る) | 0.9% | 15.4% |
| 取引銀行の役職員 | 7.6% | 5.3% |
上場会社では会計士・税理士、無関係な会社の役職員、弁護士の3つで82.3%を占め、協会は「スキルもさることながら独立性を重視する傾向」と分析しています。非上場会社では大株主の役職員(18.3%)と親会社の元役職員(15.4%)を合わせて3割を超えます。調査は経歴の構成を示すもので、就任の経緯までは集計していません。なお、社外監査役の45.3%は兼務先を持たず、3社以上を兼務する人は15.2%でした。
常勤・非常勤と社内・社外の組み合わせ|4タイプの典型像
勤務形態と出身を組み合わせると、監査役は次の4タイプに分かれます。人数は同調査の年額報酬の回答人数で、前職の集計は常勤・非常勤を区別していないため、右列は想定される活動や人選の例です。
| タイプ | 回答人数 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 社内・常勤 | 1,693人 | 社内会議への出席と日常の情報収集 |
| 社外・常勤 | 665人 | 独立性と常駐の両立 |
| 社外・非常勤 | 2,401人 | 会計・法務の専門分野から監査 |
| 社内・非常勤 | 374人 | 親会社の役職員などが子会社で兼務 |
常勤監査役は取締役会以外の会議にも出て日常的に情報を集める役で、社内事情を知る人が選ばれやすくなります。常勤の役割や非常勤との違いは常勤監査役とは|設置義務・任期・報酬と非常勤・社外との違いを2026年版で解説で詳しく扱っています。
監査役を置く会社・置けない会社|会社の形で変わる「誰がなる」
監査役を誰にするかは、そもそも自社が監査役を置く会社か、監査役会まで要るかで変わります。
設置義務と監査役会が必要な会社(327条・328条)
以下の設置義務は、いずれも監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除いた会社に適用されます。取締役会設置会社は監査役を置かなければなりません。ただし非公開会社で会計参与を置く場合は例外です(327条2項)。会計監査人設置会社も監査役が必要です(327条3項)。公開会社である大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上。2条6号)は、監査役会と会計監査人を置く義務があります(328条1項)。
反対に、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は監査役を置けません(327条4項)。監査は取締役で構成する委員会が担うため、仕組みは監査等委員会設置会社とは?仕組み・メリットと2025年プライム逆転までの最新動向と監査委員会とは|会社法404条の権限・構成と監査等委員会・監査役会との違い【2026年】を参照してください。
会計限定監査役なら税理士・経理経験者が現実解(389条)
非公開会社で監査役会も会計監査人も置かない会社は、定款で監査役の監査範囲を会計に限ることができます(389条1項)。この会計限定監査役は業務監査の権限(381条〜386条)を持たず、計算書類など会計に関する書類の調査が仕事です。会計書類を読み解く力が職務の中心になるため、候補例としては税理士、経理部長の経験者、財務担当役員のOBなどが考えられます。
注意点が2つあります。1つは、会計に限定する定めがあることも登記事項で(911条3項17号イ)、登記簿で誰でも確認できること。もう1つは、上場準備で会計監査人を置くと限定の定めは使えなくなり、業務監査まで担える人選へ切り替えが要ることです。
社外監査役になれる人|2条16号の要件と監査役会の人数構成
社外監査役は、社外の人なら誰でもよいわけではありません。2条16号の要件を外すと、監査役会の「半数以上が社外」を満たせなくなります。
社外監査役の5要件|就任前10年の経歴と近親者の制限(2条16号)
社外監査役は、次のイ〜ホをすべて満たす監査役です(会社法2条16号)。
- イ:就任前10年間、その会社・子会社の取締役・会計参与・執行役・支配人その他の使用人でなかった
- ロ:就任前10年内にその会社・子会社の監査役だった人は、その監査役就任前10年間も取締役等でなかった
- ハ:親会社等(自然人)本人や、親会社等の取締役・監査役・執行役・使用人でない
- ニ:兄弟会社(親会社等の子会社等)の業務執行取締役等でない
- ホ:その会社の取締役・重要な使用人、親会社等(自然人)の配偶者・2親等内の親族でない
イにより、社内の部長を退職直後に社外監査役へ回すことはできません。非上場会社で多い大株主の役職員は、親会社等に当たらなければ要件上は社外監査役になれます。上場会社がその社外監査役を独立役員として届け出る場合は、東京証券取引所の独立性基準も満たす必要があります。基準の詳細は独立役員とは|要件・独立性基準と独立役員届出書の提出時期【2026年7月改訂対応】で確認してください。
監査役会の構成|3人以上・半数以上が社外・常勤1人以上
監査役会設置会社では、監査役は3人以上で、そのうち半数以上が社外監査役でなければなりません(335条3項)。監査役会は監査役の中から常勤の監査役を選定します(390条2項2号・3項)。3人体制の構成例は「社内常勤1人+社外非常勤2人」ですが、常勤を社外監査役から選ぶことも、全員を社外監査役にすることもできます。
常勤監査役の選定は監査役会の決議で行い、決議は監査役の過半数で決まります(393条1項)。議事録を作り、書面なら出席した監査役が署名か記名押印をします(393条2項)。常勤監査役を選んだ監査役会議事録には、決議の内容と出席監査役を残しておきます。
監査役の選び方と選任手続|同意・株主総会・登記と任期・報酬
候補者像が決まったら、手続に進みます。監査役の選任と解任には、取締役より独立性に配慮した仕組みが組み込まれています。
候補者の選定基準|監視が手薄な領域と必要な専門性
候補者は肩書ではなく、自社で監視が手薄な領域から選びます。粉飾や不適切な会計処理を防ぎたいなら公認会計士・税理士、契約・許認可・労務の法令違反を防ぎたいなら弁護士、現場の情報を拾いたいなら社内の管理部門経験者です。上場準備の会社では、上場審査で監査役による監査体制も確認されるため、社外候補は早めに探し始めます。上場準備の全体像はIPO・上場準備の進め方とは?N-3期からの全体像と名証・福証への上場ルートを2026年最新で解説にまとめています。
社外監査役の候補は、兼務社数と取締役会の開催日程を就任前に確認します。上の調査でも3社以上を兼務する社外監査役が15.2%おり、出席できない日程では383条1項の取締役会への出席義務を果たせません。監査役が見る稟議・会計データを内部統制の仕組みとして整えるなら、IPO準備・内部統制システム支援のような外部支援も選択肢になります。
選任の4ステップ|監査役の同意から登記まで
- 候補者が欠格事由・兼任禁止に当たらないか、社外として数えるなら2条16号の要件を満たすかを確認する
- 取締役が選任議案を株主総会に出すため、現任監査役(2人以上ならその過半数、監査役会設置会社は監査役会)の同意を得る(343条1項・3項)
- 候補者から就任の承諾を得て、株主総会で選任する(329条1項)。議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で決議する。定足数は定款で議決権の3分の1まで下げられる(341条)
- 就任から2週間以内に監査役の氏名を変更登記する(915条1項・911条3項17号ロ)。怠ると100万円以下の過料の対象(976条1号)
監査役は、取締役に対して監査役の選任を総会の議題にするよう、また特定の候補者の議案を出すよう請求できます(343条2項)。株主総会で監査役の選任・解任・辞任について意見を述べることもできます(345条4項)。経営陣が監査役を自由に入れ替えられないようにする仕組みです。
任期・解任・報酬|任期4年と株主総会で決める報酬の水準
任期は、選任後4年以内に終わる事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までです(336条1項)。取締役と違い、定款で任期を一律に短くすることはできません。例外は補欠として選任された監査役で、定款で定めれば任期を前任者の残任期間までにできます(336条3項)。非公開会社は定款で10年まで延ばせます(336条2項)。解任には株主総会の特別決議が要り(339条1項・309条2項7号)、正当な理由なく解任された監査役は会社に損害賠償を請求できます(339条2項)。
報酬は、定款に額の定めがなければ株主総会の決議で決め、監査役が2人以上いて各人の額が決まっていないときは、その範囲内で監査役の協議で配分します(387条1項・2項)。水準は前掲の第26回調査で次のとおりでした(ストック・オプションと退職慰労金を除く年額)。
| タイプ | 最も多い価格帯 | 分布の目安 |
|---|---|---|
| 社内・常勤 | 1,000万円以上1,200万円未満(14.2%) | 1,000万円以上が77.6% |
| 社外・常勤 | 600万円以上700万円未満(11.4%) | 回答665人 |
| 社外・非常勤 | 200万円未満(25.0%) | 500万円未満が67.0% |
| 社内・非常勤 | 200万円未満(54.0%) | 回答374人 |
回答企業の64.0%が大会社のため、この分布を中小企業の相場としてそのまま当てはめることはできません。監査役にストック・オプションを付ける場合の決議と税制は監査役にストックオプションは付与できる?報酬決議・税制・議決権行使基準を解説で解説しています。
監査役に選ぶべきでない人|身内の形式就任と動けない非常勤
欠格事由に当たらなくても、選ぶべきでない人はいます。判断の基準は、取締役に対して独立して意見を言えるか、監査に必要な時間を確保できるかの2点です。
取締役に意見できない身内・知人|名ばかり監査役
社長の親族や古い友人を頭数合わせで監査役に据えるのは避けてください。取締役の配偶者は社内監査役としてなら法的に就任できますが、取締役の不正に気づいても報告や差止め(385条1項)をためらう関係では、監査は形だけになります。2条16号ホにより、取締役の配偶者や2親等内の親族は社外監査役にもなれません。
専門性も時間も足りない非常勤|任せきりで機能しない人選
会計監査人のいない会社でただ1人の監査役になる人には、計算書類を自分で読み、事業の報告を求めて調べる力が求められます(381条1項・2項。会計限定なら389条4項)。会計の知識がないまま就任すると、この職務を果たせません。逆に、多忙な専門家を迎えても、取締役会に出られなければ383条1項の出席と意見陳述ができません。就任前に、年間の取締役会日程と監査計画、往査に要する日数を示し、候補者の稼働可能日と照らし合わせておきます。
監査役は誰がなる?に関するよくある質問
監査役は誰でもなれますか?
必須資格はなく、法人と一定の刑に処せられた人(335条1項・331条1項)を除けば就任できます。非公開会社では、定款で監査役を株主に限っている場合もあります。ただし、その会社や子会社の取締役・使用人との兼任はできず(335条2項)、社外監査役として数えるには2条16号の要件を満たす必要があります。
監査役は役員ですか?
役員です。会社法329条1項は、役員を取締役・会計参与・監査役と定めています。ただし業務を執行する立場ではなく、取締役の職務執行を監査する立場のため、自社の取締役や従業員を兼ねることはできません。
監査役は誰が選ぶのですか?
株主総会が選びます(329条1項)。取締役が選任議案を出すには現任監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意が必要で(343条1項・3項)、取締役だけでは決められません。
監査役になるにはどうすればよいですか?
社内からなる場合は、取締役や使用人の地位を離れたうえで株主総会で選任されます。社外からなる場合は、公認会計士・税理士・弁護士の資格や、内部監査・経理・法務の実務経験が評価されやすく、日本監査役協会の調査でも上場会社の社外監査役の過半がこれらの専門家です。
監査役は他社の役員や監査役を兼任できますか?
会社法上、他社の役員や別会社の監査役との兼任は禁止されていません。禁止されるのは、その会社と子会社の取締役・使用人などとの兼任です(335条2項)。社外監査役の45.3%は兼務先を持たない一方、3社以上の兼務も15.2%あります。