内部監査報告書の書き方で迷う原因は、様式の選び方より「何を書けば要求を満たしたことになるか」が見えない点にあります。2025年1月に適用が始まったグローバル内部監査基準は、最終報告に含めなければならない項目を条文で明示しました。この記事では、その要求事項を逐語で確認したうえで、ひな形の項目配置、監査目的・指摘事項・結論の文例、ISO内部監査での不適合の書き方、被監査部門が出す改善報告書の文例、内部統制監査報告書との違い、保存期間の決め方までをまとめます。
まとめ|報告書に必ず書く項目と文例の要点
グローバル内部監査基準に適合する内部監査では、基準15.1が最終報告の基本項目を定めています。「目標」「範囲」「結論」と、該当する場合の「改善のための提言及び改善措置の計画、又はそのどちらか」です。アシュアランス業務ではこれに発見事項とその重大性・優先順位付け、範囲の制約の説明、ガバナンス・リスクマネジメント・コントロールの有効性に関する結論が加わります。発見事項への対応に責任を負う個人と、改善措置の完了予定日の明記も要求事項です。
ISO9001やISMSの内部監査なら、記載事項はJIS Q 19011:2019の6.5.1が挙げる11項目を土台にし、不適合は要求事項・客観的証拠・不適合の記述の3点で書きます。指摘を受けた部門が出す改善報告書には、原因、改善措置、責任者、完了予定日、効果の確かめ方を書きます。文章面の判断軸は、基準11.2の「正確、客観的、明確、簡潔、建設的、完全かつ適時」です。「改善が必要である」とだけ書くと、改善対象や対応内容が伝わりません。本文と一覧表を通じて、改善対象・対応内容・責任者・完了予定日を明確にします。
グローバル内部監査基準が内部監査報告書に義務づける記載事項
内部監査人協会(IIA)のグローバル内部監査基準は2024年1月9日に公表され、2025年1月9日から適用されています。以下の引用は、IIAが公開する日本語版「グローバル内部監査基準」(日本内部監査協会訳・2024年7月公表)によります。構成は5つのドメイン、15の原則、52の基準で、旧IPPF(2017年版)の「基本原理」「倫理綱要」「基準」などを1冊に統合しました。報告書に直接効くのは、原則15「個々の内部監査業務の結果のコミュニケーション及び改善措置の計画のモニタリング」に属する基準15.1と15.2です。
基準15.1が「含めなければならない」と定める記載項目
基準15.1「個々の内部監査業務の最終的なコミュニケーション」の原文は「個々の内部監査業務ごとに、内部監査人は、個々の内部監査業務に関する以下の事項を含む最終的なコミュニケーションを作成しなければならない。(1) 目標、(2) 範囲、(3) 改善のための提言及び改善措置の計画(該当する場合)又はそのどちらか、(4) 結論。」です。不備の有無を評価するアシュアランス業務では、次の3点が上乗せされます。
- 発見事項、並びにその重大性及び優先順位付け
- 範囲に制約がある場合は、その説明
- レビューした活動のガバナンス、リスク・マネジメント及びコントロールの各プロセスの有効性に関する結論
見落とされやすいのは「範囲の制約」です。往査日程が取れず一部拠点を書面確認に切り替えた、対象期間の証憑が一部欠落していた、といった事情を書かないと、読み手は結論の射程を誤ります。制約の内容、実施できなかった手続、結論への影響を書きます。
責任者と完了予定日の明記という、様式より先に満たすべき要求
基準15.1は「最終的なコミュニケーションには、発見事項への対応に責任を負う個人、及び改善措置を完了すべき予定日を明記しなければならない」と定めています。指摘事項一覧に所管部署だけを書き、担当者名と期限を空欄にした報告書は、この時点で要求事項を満たしません。ひな形を探す前に、自社の様式にこの2つの欄があるかを確かめてください。
報告前に経営管理者が改善に着手していた場合も要求事項があります。「内部監査人が、最終的なコミュニケーション以前に、経営管理者が発見事項に対処するための改善措置を開始又は完了したことを認識した場合、コミュニケーションにおいてその改善措置を反映しなければならない」とされ、講評会から発行までに進んだ是正を反映せずに発行すると不適合です。発行前に内部監査部門長のレビューと承認を受けることも必須です。
適合の声明と不適合時の開示という2つの落とし穴
「本監査はグローバル内部監査基準に適合して実施した」という声明について、基準15.1の考慮事項は、示すことが適切なのは「個々の内部監査業務の監督及び品質のアシュアランスと改善のプログラムの結果によって裏付けられる場合にのみ」としています。品質評価の仕組みが動いていない段階で適合を宣言すると、根拠のない表示になります。
適合しない場合は、省かずに開示する義務があります。開示するのは「不適合となった基準」「不適合の理由」「不適合が個々の内部監査業務の発見事項及び結論に及ぼす影響」の3点です。なお、良好事例の併記は要求事項ではありません。基準15.1が報告書として発行される場合に「含めることがある」とするのは、表題、背景、認識(レビュー対象の活動の良い点及び協力への謝辞)、配付先リストの4つで、良い点はこの任意要素にあたります。
内部監査報告書にそのまま使える項目別の文例
ここからは、基準15.1の各項目に対応するひな形と文例を示します。いずれも購買部門の発注・検収プロセスを想定した架空の例です。実際の監査証拠、適用規程、監査範囲と評価結果に合わせて書き換えてください。承認権限表や職務分掌の設計そのものは購買管理規程と内部統制とは?承認権限・職務分掌の設計とシステムでの不正防止を解説で扱っています。
報告書1部の項目配置(ひな形)
公的な統一様式はないため、基準15.1の必須項目と任意要素を上から並べたものを自社の様式の骨格にします。1枚目には結論に加えて、重大な指摘、範囲の制約、経営層に求める判断を要約し、指摘事項の詳細を別紙に整理すると、判断に必要な情報を把握しやすくなります。
| 欄 | 記入する内容 | 基準15.1上の扱い |
|---|---|---|
| 表題・報告番号・発行日 | IA-2027-03 等の通し番号 | 任意要素(表題) |
| 配付先 | 最高経営者・取締役会・被監査部門長 | 任意要素(配付先リスト) |
| 監査目標 | 何を確かめたかを動詞で書く | 必須 |
| 範囲・期間・手続 | 対象期間・拠点・除外・抽出件数 | 範囲は必須(期間・手続は補足) |
| 範囲の制約 | できなかった手続と結論への影響 | アシュアランスで必須 |
| 結論(総合評価) | 対象プロセス名と評価区分 | 必須 |
| 発見事項 | 状況・規準・原因・影響 | アシュアランスで必須 |
| 重大性・優先順位 | 高・中・低と順位 | アシュアランスで必須 |
| 改善提言・改善措置の計画 | 何をどう変えるか | 該当する場合は必須 |
| 責任者・完了予定日 | 個人名と日付 | 必須 |
| 認識(良い点) | 他部署に展開できる実務 | 任意要素 |
| 基準への適合・不適合 | 適合の声明、または不適合の開示 | 不適合なら開示が必須 |
| 承認 | 内部監査部門長の承認日 | 発行前の承認が必須 |
監査目標・範囲・実施期間の文例
目標は「何を確かめたか」を動詞で終えると、結論と対応が取れます。範囲は含めたものだけでなく、除外したものも書きます。
- 目標:「購買・検収プロセスにおける承認統制及び職務分掌が、購買管理規程に従って整備・運用されているかを確かめることを目標とした。」
- 範囲:「2026年4月1日から2027年3月31日までに計上された国内3拠点の購買取引を対象とした。海外子会社の購買取引及び固定資産の取得は範囲に含めていない。」
- 実施期間:「予備調査を2027年5月11日から5月15日まで、本調査を2027年6月1日から6月12日まで実施した。」
- 監査手続:「購買担当者及び検収担当者へのインタビュー、購買管理規程及び承認権限表の文書レビュー、発注伝票を月別に各10件、計120件抽出した承認記録との突合を実施した。」
- 範囲の制約:「名古屋拠点は往査日程を確保できず、証憑の電子データによる書面確認に代えた。現物確認を伴う検収実態の検証は実施していないため、同拠点の検収統制に関する結論は書面上の記録に基づくものである。」
指摘事項を状況・規準・原因・影響・改善提言で組み立てる文例
基準14.3「発見事項の評価」は、設定した規準とレビュー対象の活動の状況を比較し、差異があれば根本原因と潜在的な影響を調べるよう求めています。この順に段落を分けると、事実と判断の根拠が混ざらず、被監査部門との認識合わせが早く終わります。重大性・責任者・完了予定日は一覧表側に持たせます。
- 状況(所見):「抽出した120件のうち14件で、発注金額が承認権限表の職位別上限を超えているにもかかわらず、上位者の承認記録が確認できなかった。」
- 規準:「購買管理規程第12条は、500万円を超える発注について部門長の事前承認を必要と定めている。」
- 原因:「購買システムの承認ルートが金額区分ごとに設定されておらず、起票者が承認者を手動で選択する運用となっているため、選択誤りを検知する仕組みが無い。」
- 影響:「権限を超える発注が事前承認を経ずに実行され、不要な支出や取引先との不適切な関係を看過するおそれがある。当該14件の発注金額合計は8,200万円である。」
- 改善提言:「購買システムの承認ルートを承認権限表の金額区分と連動させ、上限超過時に上位者の承認が無ければ発注登録できない制御を実装されたい。」
- 一覧表に記載する事項:「重大性:高(承認上限超過14件、発注額合計8,200万円)/優先順位:1/対応に責任を負う者:購買部長 ○○/改善措置の完了予定日:2027年9月30日」
結論(総合評価)の文例と評価区分の決め方
結論は、監査目標に照らして発見事項の重要性と全体への影響を総合評価したものです。基準15.1は「ガバナンス、リスク・マネジメント及びコントロールの各プロセスの有効性に関する結論」を求めるので、対象プロセス名を入れて評価対象を特定します。
- 不備がある場合:「購買・検収プロセスのコントロールは、確認した範囲では職務分掌及び検収記録の保存について有効な運用が認められた。ただし、名古屋拠点の検収統制に関する評価は書面上の記録に限られる。一方、承認統制については上記指摘事項1のとおり規程に定める事前承認が機能しておらず、改善を要すると判断した。全体として、重要な改善事項を伴う『一部改善が必要』と評価する。」
- 不備が無い場合:「本監査の範囲において、購買管理規程に対する重要な逸脱は認められなかった。購買・検収プロセスのコントロールは有効に整備・運用されていると判断し、『有効』と評価する。」
基準15.1は発見事項の「重大性及び優先順位付け」を示すよう求めるだけで、評価区分の呼称も段数も指定していません。自社で決めるなら3段階を勧めます。判定基準を細かく定義できないうちに5段階にすると、監査人ごとに評価がぶれるためです。「重大な不備が1件でもあれば全体評価を最下位に引き下げる」といった合算ルールを規程に書いておくと、監査人が交代しても評価がそろいます。
曖昧表現を事実に置き換えるNG文例と改善文例
評価語だけで終わる文は、確認した件数、判断根拠の条項、対応期限を示す文に書き換えます。基準11.2の要件のうち「正確」「明確」「建設的」に直結する部分です。
| 避けたい書き方 | 書き換えの方向 |
|---|---|
| 一部に不備が見受けられた | 件数と母数を示す(120件中14件) |
| 適切に運用されているとは言い難い | 逸脱した規程の条項名を示す |
| 早急に改善されたい | 完了予定日を日付で書く |
| 関係部署にて検討を要する | 対応に責任を負う個人を特定する |
| 概ね良好であると認められる | 評価区分の名称で言い切る |
| リスクが懸念される | 影響を金額または事象で書く |
「早急に」「可及的速やかに」は、期限を決める責任を読み手に押し付ける表現です。基準15.1に適合する最終報告では、改善措置の完了予定日を設定して明記します。
ISO9001・ISMSの内部監査報告書に書く項目と不適合の書き方
認証維持のための内部監査では、報告書が審査時の記録として見られます。この場合の記載事項はマネジメントシステム監査の指針であるJIS Q 19011:2019が示しており、グローバル内部監査基準とは体系が別です。JIS Q 9001:2015の9.2.2も、監査の結果を関連する管理層に報告すること(d)、遅滞なく適切な修正を行い是正処置をとること(e)、監査プログラムの実施と監査結果の証拠として文書化した情報を保持すること(f)を求めています。監査の進め方そのものはISO内部監査とは|ISO 19011:2026に沿った進め方・チェックリストと規格別の違いで扱っています。
JIS Q 19011:2019の6.5.1が挙げる11項目
報告書の作成及び配付は箇条6.5にあり、6.5.1が作成、6.5.2が配付を扱います。6.5.1が「含めることが望ましい」とする項目は次のとおりです。
- 監査目的/監査範囲及び被監査組織の特定/監査依頼者の特定
- 監査チーム及び被監査者側の参加者の特定
- 監査活動の日時及び場所/監査基準
- 監査所見及び関連する証拠/監査結論
- 監査基準が満たされた程度に関する記述
- 監査チームと被監査者の間の未解決の意見の相違
- サンプリングを行った場合、その性質と証拠が代表的でないリスク
グローバル内部監査基準の基本項目と比べると、「監査依頼者の特定」「未解決の意見の相違」「サンプリングに伴うリスク」が固有です。合意できないときに記載を弱めてよいわけではなく、グローバル内部監査基準の基準13.1も「相互理解が得られない場合、内部監査人は、正当な理由がない限り、個々の内部監査業務の結果のいかなる部分も変更する義務を負ってはならない」と定めています。
国際規格側では、ISO 19011:2026(第4版)が2026年5月27日に発行され、ISO 19011:2018は廃止されました。監査の原則やリスクに基づくアプローチの枠組みは変えず、遠隔監査の手引を拡張した改正です。国内のJISはJIS Q 19011:2019のままです。
ISO内部監査の不適合を書く文例と格付け
JIS Q 19011:2019の3.10は、監査所見を「収集された監査証拠を,監査基準に対して評価した結果」と定義し、注記で「監査所見は,適合又は不適合を示す」としています。注記2には、監査所見がリスクや改善の機会の特定、優れた実践事例の記録につながり得るとあります。現場でよく使う「観察事項」は同規格の定義語ではないため、使うなら社内手順で「不適合ではないが改善の機会がある所見」などと定義しておきます。
6.4.8は、不適合とその根拠となる監査証拠を記録し、不適合を被監査者とレビューすることを推奨しています。格付けについては「定量的なもの(例えば,1から5)も定性的なもの(例えば,軽微,重大)もあり得る」とし、区分を固定していません。報告書の構成は、監査全体の結果を要約する報告書と、不適合1件ごとの不適合報告書に分けると、是正処置の管理単位とそろいます。不適合報告書の1件は、次のように書きます。
- 要求事項:「JIS Q 9001:2015 箇条7.1.5.2 a)(定められた間隔での校正又は検証)及び計測器管理規程第8条(校正周期12か月)」
- 客観的証拠:「製造2課の計測器台帳に登録されたノギス42本のうち3本(管理番号C-12、C-27、C-31)が、校正期限の2027年4月30日を過ぎたまま、6月3日の出荷検査に使用されていた(出荷検査記録No.0603-2)。」
- 不適合の記述:「校正期限を過ぎた測定機器が出荷検査に使われており、測定結果の妥当性が確認できない状態にある。」
- 格付け:「軽微(社内の格付基準の「手順は運用されているが個別の逸脱がある」に該当。3本で測った出荷品への影響の確認結果によっては見直す)」
- 被監査部門の確認:「6月12日の最終会議で製造2課長が事実を確認した。」
7.1.5.2は、測定機器が目的に適さないと分かった場合に、それまでの測定結果の妥当性を損なうかを明確にするよう求めています。この例では、3本で測った出荷品の扱いが確認対象に入ります。当該3本の使用停止と再校正は「修正」、期限切れを見逃した管理方法を変えるのは「是正処置」で、JIS Q 9001:2015の10.2.1は両者を別の処置として書き分けています。報告書でも別の欄に分けてください。
ISO 9001:2026移行時の監査基準欄と版表記
ISOは2026年9月16日にISO 9001:2026(第6版)を発行しました。倫理的行動と品質文化の位置づけ、リスクと機会の扱いの明確化、解説を収めた附属書Aの新設が主な変更で、内部監査を求める箇条9.2の中核要求は維持されています。IAFの業務を2026年1月1日に承継したGlobal Accreditation Cooperation Incorporated(Global ACI)の移行要求文書「Global ACI-TECH-3-TR Transition Requirements for ISO 9001:2026」(発行日2026年9月4日、適用日2026年9月16日)は、移行期間を3年とし、移行期限を2029年9月30日としています。
報告書で判断が要るのは「監査基準」欄の版です。JIS Q 9001の2026年版は、発行時期が日本産業標準調査会・日本規格協会から公表されていません。国内認証の適用版はJISの発行だけでは決まらず、認証機関の移行対応によります。当面は現に認証を受けている版を書き、新版への対応を確かめる内部監査では、移行審査前でも新版を監査基準として明記します。上の文例で「JIS Q 9001:2015 箇条7.1.5.2」と版まで書いたのはこのためです。
ISMS(ISO/IEC 27001:2022)の内部監査報告で加わる観点
ISMSの内部監査では、ISO/IEC 27001:2022の9.2.2に従い、監査結果の関連する管理層への報告と、監査プログラムの実施及び監査結果を示す文書化した情報が必要です。加わるのは、附属書Aの管理策が適用宣言書のとおり実装されているかという観点で、「管理策8.9(構成管理)について、標準構成からの逸脱を検知する仕組みが未整備である」のように所見欄に管理策番号を添えると、審査時に追跡しやすくなります。確認観点はISMSの内部監査とは?箇条9.2の要求事項と進め方・管理策別の質問例、重大・軽微の判定と是正処置報告書はISMSの不適合とは?重大・軽微の判定基準と是正処置報告書の書き方・記入例にまとめています。
内部統制監査報告書・監査役監査報告書との判別
名称が似た5つの文書は、作成者と根拠条文で切り分けられます。法定文書でないのは内部監査報告書だけで、社内規程に基づく内部文書です。
| 文書 | 作成者 | 根拠 | 主な提出先 |
|---|---|---|---|
| 内部監査報告書 | 内部監査部門 | 社内規程・内部監査基準 | 最高経営者・取締役会 |
| 内部統制報告書 | 経営者 | 金商法24条の4の4 | 内閣総理大臣(有報と併せて) |
| 内部統制監査報告書 | 公認会計士・監査法人 | 金商法193条の2第2項 | 投資家(開示) |
| 監査役監査報告 | 監査役・監査役会 | 会社法381条1項 | 株主総会 |
| 会計監査報告 | 会計監査人 | 会社法396条1項 | 株主総会 |
混同が多いのは内部統制報告書と内部統制監査報告書です。金商法24条の4の4は、政令で定める有価証券報告書提出会社に、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保する体制を「評価した報告書(以下「内部統制報告書」という。)」の提出を求めています。経営者自身の自己評価です。193条の2第2項は、その内部統制報告書に「その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人」の監査証明を受けるよう定めており、これが内部統制監査報告書です。内部監査部門はどちらの作成主体でもありません。制度の全体像はJ-SOX(内部統制報告制度)とは?対象企業・3点セット・罰則と2023年改訂後の実務を解説、統制の枠組みは内部統制とは?4つの目的・6つの基本的要素とJ-SOX・会社法の違いを解説で扱っています。
監査役監査報告は、会社法381条1項と会社法施行規則129条1項が記載事項(監査の方法及び内容、事業報告が会社の状況を正しく示しているかの意見、取締役の不正行為や重大な法令・定款違反の有無など)を定めます。会計監査報告は会社法396条1項が根拠で、作成者は会計監査人とは?設置義務・監査役との違いから選任・任期・2024年登録制度まで会社法で解説で整理した会計監査人です。社内の報告書に「内部統制監査報告書」の名称を流用すると、外部監査人の意見と誤認されます。上場準備で内部監査の体制と報告の流れを整える段階なら、IPO準備・内部統制システム支援のように、様式と承認経路をシステム上で固める方法もあります。
報告後のフォローアップ・改善報告書と保存期間の決め方
グローバル内部監査基準は、改善措置の実施確認までを内部監査人の要求事項に含めています。報告書は発行して終わりではありません。
基準15.2が求める3つの確認手続
基準15.2「改善のための提言又は改善措置の計画の実施の確認」は、次の3つを「確立された方法に従って」実施するよう求めています。
- 改善措置の計画の実施の進捗状況を問い合わせること
- リスク・ベースの方法を用いてフォローアップ評価を実施すること
- 追跡システム上で経営管理者の改善措置の状況を更新すること
手続の深さは発見事項の重大性に応じて変えてよく、全件を同じ密度で再往査する必要はありません。期日どおりに進んでいない場合は「経営管理者から説明を受け、文書化し、その問題を内部監査部門長と協議しなければならない」とされ、内部監査部門長は、最高経営者が対応を遅らせることでリスク許容度を超えるリスクを受け入れたかを判断します。追跡表の列は、基準15.2の証拠の例にある発見事項・改善措置の計画・状況・内部監査による確認の4要素に、基準15.1を踏まえて責任者と完了予定日を加えた6列が実務的です。
内部監査改善報告書の書き方と文例
内部監査改善報告書(改善計画書)は、指摘を受けた被監査部門が、どう対応するかを書いて内部監査部門へ出す文書です。グローバル内部監査基準の用語でいえば、経営管理者が作る「改善措置の計画」を文書にしたものにあたります。監査人が書く内部監査報告書とは作成者が逆です。ISO規格の運用で使う是正処置報告書も被監査部門が書きますが、こちらは不適合を起点に、JIS Q 9001:2015の10.2.1に沿って原因の除去と是正処置の有効性のレビューまでを記録します。先の購買の指摘事項に対する改善報告書は、次のように書きます。
- 対象の指摘:「内部監査報告書 IA-2027-03 指摘事項1(承認上限超過の発注14件)」
- 原因分析:「承認者を起票者が手動で選ぶ運用で、金額区分との照合をシステムが行っていなかった。」
- 暫定措置:「改修完了までの間、500万円を超える発注は、購買課長が部門長の事前承認記録を確認した後に発注する。承認記録がない案件は発注を保留する。」
- 改善措置:「購買システムの承認ルートを承認権限表の金額区分と連動させる改修を2027年8月31日までに行い、9月1日の発注から適用する。」
- 責任者・完了予定日:「購買部長 ○○/2027年9月30日」
- 効果の確かめ方:「10月の発注全件を承認権限表と照合し、金額区分に応じた承認者による発注前の承認を購買課が確認する。結果は11月10日までに内部監査室へ報告し、内部監査室が証拠を確認する。」
「再発防止に努める」「周知徹底する」だけの改善報告書は、内部監査部門が完了を確かめる手がかりがありません。何を、いつまでに、誰が変え、どう確かめるかが揃っていない報告書は差し戻してください。
内部監査報告書の保存期間と設定根拠
内部監査報告書の保存年限を直接定めた法令はありません。法定されているのは開示書類の側で、金商法25条1項5号は内部統制報告書とその添付書類の公衆縦覧期間を5年としています。これは開示書類を一般に閲覧させる期間であり、社内文書である内部監査報告書の保存期間ではないので区別します。
保存期間は自社で決めることになり、隣接する制度の年限に合わせるのが安全です。上場企業やIPO準備企業なら、内部統制報告制度の評価記録と歩調を合わせて5年以上を社内規程に定めておくと、後年の説明要求に耐えられます。ISO認証に関する記録は、適用される要求事項と自社の監査プログラムに照らして決めます。監査調書や証拠資料は報告書より機微な情報を含むため、保存期間とあわせてアクセス権限も規程で分けます。
内部監査報告書の書き方に関するよくある質問
内部監査報告書のひな形やテンプレートはどこで入手できますか?
公的機関が配布する統一様式はありません。グローバル内部監査基準も基準15.1の考慮事項で「最終的なコミュニケーションのスタイル及び様式は、組織体によって異なる」「内部監査部門長は、ひな型及び手続を提供することがある」としており、様式は各組織が設計します。外部のひな形を流用するなら、上の項目配置の表と突き合わせ、責任を負う個人と改善措置の完了予定日の欄があるかを確かめてください。この2つが欠けたひな形は要求事項を満たしません。
指摘事項が無い場合、内部監査報告書はどう書けばよいですか?
基準15.1の必須項目のうち「改善のための提言及び改善措置の計画」には「該当する場合」の限定が付いていますが、目標・範囲・結論は指摘の有無にかかわらず必要です。結論欄に「本監査の範囲において重要な逸脱は認められなかった」と対象プロセスを特定して書き、実施した監査手続と抽出件数を残します。「問題なし」とだけ記した報告書では、基準15.1が求める目標・範囲・結論を十分に説明できません。実施手続と判断の裏付けは、基準14.6に沿って監査調書にも残します。
内部監査報告書は誰に提出しますか?
基準15.1は「内部監査部門長は、結果が十分に考慮されることを確実なものとすることができる関係者に、最終的なコミュニケーションを配付しなければならない」と定めています。提出先は役職名で固定されていませんが、改善措置を指示できる立場の人に届くことが条件です。一般には最高経営者、取締役会(または監査委員会)、監査役等、被監査部門の責任者が配付先になります。配付先は表紙の配付先リストに書き、範囲を社内規程で決めておきます。
内部監査計画書や実施通知書は報告書とどう役割が違いますか?
作る時点と目的が違います。年間の内部監査計画は基準9.4「内部監査の計画」が扱い、どの領域をいつ監査するかを事前に決める文書です。実施通知書は個別の往査前に被監査部門へ出すもので、基準13.1の「内部監査人は、個々の内部監査業務の目標、範囲及び時期について経営管理者とコミュニケーションをとらなければならない」という要求に対応します。通知書に書いた目標・範囲と報告書の目標・範囲がずれていないかは、発行前レビューで確かめる点です。
監査報告の文言で「重大な不備」と「不備」はどう使い分けますか?
グローバル内部監査基準は発見事項の重大性と優先順位付けを求めるだけで、区分の呼称を定めていません。一方、J-SOXでは「開示すべき重要な不備」が制度上の用語です。内部監査報告書で独自の区分名を使うなら、制度上の用語と読み違えられないよう、社内規程で各区分の定義と判定基準を先に定めてください。定義なしに「重大」と書くと、読み手が開示義務のある不備と受け取るおそれがあります。