ストックオプションの「個数」は、新株予約権を何個発行するかという数です。ただし、個数だけでは経済的な価値を判断できません。取得できる株式数に加え、行使価格、売却時の株価、行使条件などを確認する必要があります。1個=100株なら10個で1,000株、1個=1株なら10個は10株にすぎません。個数を決める作業は、実際には「1個あたり株式数」「会社全体の発行枠」「1人あたりの株数」を順に決め、最後に税制適格の年間上限と定款の発行可能株式総数で検算する作業です。本記事では、この順番と計算式を、会社法・租税特別措置法の条文と上場企業の開示例に沿って整理します。制度そのものの仕組みはストックオプションの総論記事で扱っています。
まとめ:個数の設計に使う5つの数字と検算
- 1個あたり株式数:1個で取得できる株式数を定める。上場企業の開示例では1個=100株(例:総数2,290個で普通株式229,000株)。
- 会社全体の発行枠:株数で決める。比率は「発行済株式数に対する割合」か「完全希薄化後に対する割合」かで同じ10%でも株数が約11%変わるので、分母をそろえる。
- 1人あたりの株数:目標とする利益額÷(想定売却株価−行使価格)で逆算し、1個あたり株式数で割って個数にする。
- 税制適格の年間上限:権利行使価額の合計は原則年1,200万円まで。1個あたりの行使価額で割ると、1年に行使できる個数の上限が出る。上限を超えて行使すると、その行使全体が非課税の対象外になる。
- 発行可能株式総数:行使期間が始まった新株予約権の目的株式数は、発行可能株式総数から自己株式を除く発行済株式数を引いた残りに収まっていなければならない(会社法113条4項)。
ストックオプションの「個数」と「株式数」の関係
会社法では、新株予約権の内容として「目的である株式の数又はその数の算定方法」を定めます(会社法236条1項1号)。募集のたびに決める募集事項は「募集新株予約権の内容及び数」です(同238条1項1号)。つまり決議では、1個で何株取得できるかと、それを何個発行するかを別々に決めます。
3つの数の関係は次の式で表せます。
- 目的となる株式の総数 = 新株予約権の総数(個) × 1個あたり株式数
- 1個あたりの行使価額 = 1株あたり行使価格 × 1個あたり株式数
- 1人の株数 = 割り当てる個数 × 1個あたり株式数
上場企業の開示で確認すると、ファーストアカウンティング(東証グロース)は2025年4月11日の発行内容確定のお知らせで、税制適格ストック・オプションの総数を2,290個、目的である株式を普通株式229,000株、行使時の出資額を「新株予約権1個当たり184,400円(1株当たり1,844円)」としています。1個=100株で設計されていることが数字から読み取れます。割当ては社外取締役を除く取締役3名に729個、社外取締役3名に69個、従業員7名に1,492個でした。
1個あたり株式数の選び方:1個=100株と1個=1株
1個あたり株式数は会社が自由に決められます。どちらを選んでも受け取る株数は同じに設計できるので、違いは管理のしやすさと、上場後の売買単位との整合です。
| 設定 | 向いている場面 | 利点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1個=100株 | 上場が近い会社 | 行使後の株数が売買単位にそろう | 1個の行使価額が大きくなる |
| 1個=1株 | シード期の非上場会社 | 1株単位で配分を調整できる | 個数と株式数の単位の混同に注意 |
全国の証券取引所は、2018年10月1日に上場内国株式の売買単位を100株に統一しました。1個=100株で、株式分割・併合などによる調整がなければ、行使で得る株式は売買単位の倍数となり、単元未満株が生じません。一方、非上場の初期段階で1株あたりの評価額が高いと、1個=100株では1個の行使価額が大きくなり、少額の配分がしにくくなります。この場合は1個=1株で発行しておき、上場前の株式分割に合わせて目的株式数を調整する方法がとれます。
株式分割・併合に備えた調整条項と端数処理
上場準備の過程では、1株あたりの価格を下げるために株式分割を行う会社が多くあります。会社法236条1項1号が目的株式数の「算定方法」を定めることを認めているため、発行要項に「株式分割・併合のときは目的株式数を分割・併合の比率で調整する」条項を置くのが一般的です。たとえば1個=1株で発行した後に1株を100株に分割すれば、調整後は1個=100株になり、1株あたりの行使価格は100分の1になります。個数そのものは変わりません。
行使で交付する株式に1株未満の端数が出たときは、端数を切り捨てる旨を内容として定めることができます(会社法236条1項9号)。切り捨ての定めがなければ、会社は端数に相当する金銭を交付しなければなりません(同283条。市場価格のない株式は1株あたり純資産額が基準)。非上場の段階で金銭交付の計算が生じないよう、切り捨ての定めを置いておくのが無難です。株式分割・併合で目的株式数を調整するときの端数処理は、これとは別に調整条項で定めます。
会社全体の発行枠の株数換算と配分計画
個人の個数を決める前に、会社全体で何株までストックオプションに使うかを決めます。発行済株式数に対する割合の相場や上場企業の実態はストックオプションの平均付与率の記事にまとめています。ここでは、決めた比率を株数に直す手順を扱います。
分母の取り方で変わる発行枠の株数
「発行枠10%」は、分母を何にするかで株数が変わります。発行済株式100万株で、今回の発行枠以外に潜在株式がない会社を仮定すると次のとおりです。完全希薄化後の計算結果は1株未満を切り捨てています。
| 比率の定義 | 計算式 | 発行枠 |
|---|---|---|
| 発行済株式数に対して10% | 100万株 × 10% | 100,000株 |
| 完全希薄化後に対して10% | 100万株 × 10 ÷ 90 | 111,111株 |
完全希薄化後とは、ストックオプションなどの潜在株式がすべて行使された後の株式数を分母にする考え方です。同じ10%でも、完全希薄化後ベースの111,111株は発行済株式数ベースの上限100,000株を約1万1千株上回ります。投資契約が「発行済株式数に対して10%以内」と定めているのに完全希薄化後ベースで枠を決めると、契約の上限を超えます。株主間契約や投資契約の条項がどちらの分母を使っているかを、最初に確認してください。希薄化率の計算や投資家との交渉はストックオプションの希薄化の記事で詳しく扱っています。
一度に使い切らない:枠の配分計画
発行枠は上場までの全期間で使う予算です。シード期に枠の大半を配ると、後から採用するCFOや事業責任者に渡す株が残りません。非公開会社で新たな募集事項や委任の上限を定めるには、原則として株主総会の特別決議(会社法238条・239条・309条2項6号)が必要で、投資契約で投資家の事前承諾を求められていることも多く、交渉の材料になります。今いる人に配る分、次の資金調達までに採る人の分、上場直前の採用に残す分に分けて、採用計画の人数と役職から逆算します。会社法239条で取締役会へ発行を委任できるのは割当日が決議から1年以内の募集に限られるので、配分計画は少なくとも年単位で区切って決議を取り直す前提で組みます。決議の要否や委任の範囲は新株予約権と会社法上の位置づけの記事で整理しています。
目標利益額からの1人あたり付与個数の逆算
個人の個数を「CXOは何%」と比率だけで決めると、本人に価値が伝わりません。候補者への説明では、持分比率に加えて想定利益額を示す方法があります。上場時などの株価を仮定して株数を逆算し、その利益額の実現を保証するものではないことも伝えます。
- 必要な株数 = 目標とする利益額 ÷(想定売却株価 − 1株あたり行使価格)。この式は想定売却株価が行使価格を上回る場合に使います。
- 割り当てる個数 = 必要な株数 ÷ 1個あたり株式数(目標利益額以上を確保する試算では端数を切り上げ、発行枠内に収まるかを確認)
計算例を示します。数値は説明用の仮定です。行使価格が1株500円、上場時の想定株価が3,000円、目標の利益額が1,000万円とすると、必要な株数は1,000万円÷(3,000円−500円)=4,000株です。1個=100株なら40個になります。税金や行使時の払込金の資金繰りは別に考える必要があり、この式が示すのは税引前の利益です。
行使価格は発行条件として定めます。税制適格にするには、原則として付与契約時の1株あたりの価額以上に設定する必要があります。行使価格の決め方はストックオプションの行使価格の記事、非上場株の時価の考え方は税制適格とセーフハーバールールの記事を参照してください。
役割と入社時期で差をつけるポイント制
対象者ごとの利益額の設定や配分理由の説明が負担になる場合は、共通の評価項目を使うポイント制を検討できます。役職ごとの基礎点に、入社時期(早いほどリスクを負っている)と担当領域の重要度を掛けたポイント制にしておくと、配分の根拠を社内に示せます。ポイント1点あたりの個数は、その回に配る個数をポイント合計で割って決めます。例えば説明用の仮定として、配分枠100個・合計50点なら1点あたり2個となり、10点の対象者には20個を配分します。割り切れない場合は、整数への丸め方と残余の配分ルールを先に定めます。ポイント表を作るときは、次回以降の採用者にも同じ表を当てはめられるか(後から入る人の点が極端に低くならないか)を確かめてください。
税制適格の年間上限による行使可能個数の検算
税制適格ストックオプションにする場合、1人が1年間に行使できる権利行使価額の合計に上限があります(租税特別措置法29条の2)。会社の設立後の年数や上場状況は付与決議日時点で判定します。上限は原則1,200万円で、令和6年度改正により、設立5年未満の会社は2,400万円、設立5年以上20年未満で非上場または上場後5年未満の会社は3,600万円に引き上げられています(条文上は1,200万円の枠に対し、行使価額を2分の1、3分の1にして数える仕組みです)。
同じ上限区分・行使価額の権利だけを行使する場合、年間の行使可能個数は「年間上限÷1個あたりの行使価額」の小数点以下を切り捨てて求めます。他の付与分も行使する場合は合算し、上限区分が異なる場合は各行使価額を所定の方法で換算して判定します。
| 1個あたり行使価額 | 上限1,200万円 | 上限3,600万円 |
|---|---|---|
| 50,000円(500円×100株) | 240個 | 720個 |
| 184,400円(1,844円×100株) | 65個 | 195個 |
2行目は前述の開示例の行使価額を当てはめた計算で、上限1,200万円なら65個(65×184,400円=11,986,000円)が1年あたりの上限になります。注意したいのは、上限を超えた部分だけが課税されるのではないことです。その年の行使価額の合計が上限を超えることになる行使は、その行使全体が非課税の対象から外れます。年間の権利行使価額の合計が上限を超えないことは、税制適格の要件として付与契約に定めておく必要があります(同条1項2号)。1人に1年分の上限を超える個数を割り当てる場合は、複数年に分けて行使する前提で、本人に年ごとの行使可能個数を示しておきます。
個数とあわせて、付与決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日まで(設立5年未満の非上場会社は15年)の行使期間、非上場会社で発行済株式の3分の1を超えて持つ大口株主を対象にしないことなども税制適格の要件です。要件の一覧は国税庁のストックオプションに対する課税(Q&A)で確認できます。
発行可能株式総数(授権枠)の不足判定と拡大手続き
個数を決めたら、定款の発行可能株式総数で最後の検算をします。会社法113条4項は、行使期間の初日が到来した新株予約権について、行使で交付される株式の数が「発行可能株式総数から発行済株式(自己株式を除く)の総数を控除して得た数」を超えてはならないと定めています。行使期間がまだ始まっていない新株予約権はこの計算から除かれます。税制適格の行使は付与決議の日後2年を経過した日以降に限られ、実際の開始日は発行要項で定めます。その開始日に枠が足りている必要があります。
計算例です。発行可能株式総数400万株、発行済株式100万株の会社なら、残りは300万株です。この中にストックオプションの目的株式数と、行使期間内の他の新株予約権の目的株式数が収まっているかを確認します。資金調達で発行済株式が増えると残りは減るので、次の調達後の株数でも計算しておきます。
足りないときは定款を変更して発行可能株式総数を増やします。定款変更は株主総会の特別決議です(会社法466条・309条2項11号)。公開会社が増やす場合は、変更後の総数が発行済株式数の4倍を超えられません(同113条3項)。すべての株式に譲渡制限がある会社が増やす場合にこの制限はありませんが、上場準備で譲渡制限を外して公開会社になる定款変更のときにも4倍の制限がかかります(同項2号)。上場前に広げた枠は、公開会社になる時点の発行済株式数の4倍以内に収まるかも確かめておきます。
個数の決め方でよくある失敗と防ぎ方
個数の設計で起きる失敗は、計算の前提の取り違えと、将来の株数変化の見落としに集約されます。
- 分母の取り違え:投資契約の「発行済株式数に対して10%」を完全希薄化後ベースで計算し、上限を超える枠を決議してしまう。契約条項の定義を先に読みます。
- 年間上限を超える割当て:1人に上限を超える個数を渡し、行使制限を設けない。一度に行使されると、その行使全体が税制適格の対象外になります。
- 授権枠の見落とし:調達で発行済株式が増え、行使期間の開始時に113条4項の残りが足りない。行使期間開始の前に株主総会で定款変更が必要になります。
- 調整条項の欠落:株式分割の調整条項がなく、上場前の分割後に1個あたり株式数と行使価格の関係が説明できなくなる。発行要項の段階で調整式と端数の切捨てを定めます。
- 初期の配りすぎ:創業メンバーに枠の大半を渡し、上場前に採る幹部へ渡す株が残らない。枠を時期別に分けて予約しておきます。
決議から付与契約、登記までの流れはストックオプション導入の目的と手順の記事とストックオプションの登記の記事にまとめています。上場準備の段階で、個数を含む資本政策と社内の管理体制を一緒に整えたい場合は、IPO準備・内部統制システム支援もご相談ください。
ストックオプションの個数に関するよくある質問
ストックオプションの「個数」とは何ですか?
発行する新株予約権の数です。1個で何株を取得できるかは別に定めるため、取得できる株式数は「個数×1個あたり株式数」で計算します。決議や割当契約では個数と目的株式数の両方を確認してください。
1個あたり何株にするのが一般的ですか?
設定例には1個=100株や1個=1株があります。上場後の売買単位に合わせたい場合は1個=100株を候補とし、1株単位で配分したいシード期の会社は1個=1株を選び、株式分割のときに調整条項で目的株式数を増やします。
上場前に株式分割すると個数や株数はどうなりますか?
発行要項に調整条項があれば、個数は変わらず、1個あたりの株式数が分割比率で増え、1株あたり行使価格は同じ比率で下がります。1個あたりの行使価額の合計は分割の前後で変わりません。
完全希薄化後ベースとは何ですか?
ストックオプションなどの潜在株式がすべて株式になった後の株式数を分母にして比率を計算する方法です。同じ10%でも発行済株式数ベースより枠の株数が多くなるため、投資契約の上限条項がどちらの定義かを確認します。
従業員1人に何個渡せばよいですか?
目標とする利益額を(想定売却株価−行使価格)で割って株数を出し、1個あたり株式数で割って個数にします。株価は仮定なので、結果は利益を約束する数字ではありません。上場企業の実際の付与割合はストックオプションの平均付与率の記事で確認できます。