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IPOに必要な売上高の目安は?東証3市場の上場基準と審査で見られる売上の質

IPOに必要な売上高の目安は?東証3市場の上場基準と審査で見られる売上の質

東証の上場基準で売上高の数値が出てくるのは、プライム市場の「最近1年間の売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上」という代替要件だけです。グロース市場とスタンダード市場には売上高の下限がありません。そこで本記事では、株主数・流通株式時価総額・利益といった他の数値要件と、2030年から適用されるグロース市場の上場維持基準を満たせる会社規模から、売上高の目安を逆算します。

この記事では、JPXの上場審査基準と新規上場ガイドブック(2026年9月15日版)を一次情報として、市場ごとの売上高の目安の出し方と、審査で売上のどこが問われるかを整理します。

まとめ:IPOの売上高の目安と審査の要点

  • 売上高の数値要件はプライム市場の代替要件(売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上)だけ。スタンダードは経常利益1億円、グロースは利益も売上も数値要件なし
  • グロース市場は2030年3月1日以後、上場5年経過後に時価総額100億円以上が上場維持基準になる。売上の目安は「5年後に時価総額100億円へ届く売上規模」から逆算する
  • スタンダード市場へのIPO時の時価総額は中央値84.6億円(東証、2022年〜2025年上半期の49社)。審査の中心は売上規模でなく、上場後2期の利益の見込み
  • 2024年〜2026年7月15日にグロース市場へ上場した113社のうち、売上高10億円未満は21社。この21社の初値からの平均騰落率は-44.8%(楽天証券トウシル掲載の集計)
  • グロース市場で赤字のまま上場する場合、東証は販売計画(売上)の根拠を確認する。ガイドブックは確認の観点を4つ例示している
  • 売上規模より、売上計上基準と実務の一致、予算と実績の乖離、特定取引先への依存のほうが審査で止まりやすい

東証3市場の形式要件で売上高が出てくる箇所

形式要件は、上場申請の入口で数値として満たす必要がある基準です。JPXの上場審査基準概要(プライム・スタンダード・グロース、2023年4月1日現在の表)から、売上高と関係する行を並べると次のとおりです。

項目 プライム スタンダード グロース
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上
時価総額 250億円以上 なし なし
純資産 連結50億円以上 連結で正 なし
利益または売上高 利益2年計25億円/売上高100億円+時価総額1,000億円 最近1年の利益1億円以上 なし
事業継続年数 3か年以前から 3か年以前から 1か年以前から

ここでいう「利益の額」は連結経常利益に非支配株主に帰属する当期純損益を加減した額で、売上高ではありません。

プライム市場の売上高100億円ルートは時価総額1,000億円とセット

プライム市場の利益要件(有価証券上場規程第211条第5号)は「最近2年間の利益の総額25億円以上」か「最近1年間の売上高100億円以上で、かつ時価総額1,000億円以上となる見込み」のどちらかです。売上高のルートは、利益がまだ出ていない大型の成長企業のための代替で、時価総額1,000億円という条件のほうが実質的なハードルになります。売上高100億円を超えただけではプライムに上場できません。

スタンダード市場は売上でなく経常利益1億円

スタンダード市場の形式要件にあるのは「最近1年間における利益の額が1億円以上」で、売上高の下限はありません。売上高が小さくても利益率が高ければ要件を満たし、売上高が大きくても赤字なら申請できません。

グロース市場は利益も売上も数値要件なし

グロース市場の形式要件は株主数150人以上、流通株式1,000単位以上・流通株式時価総額5億円以上・流通株式比率25%以上、500単位以上の公募、事業継続1か年以上です。新規上場ガイドブック(グロース市場編)は高い成長可能性についても「判断の目安となるような数値基準は設けておりません」(Ⅱ Q&A Q1)と明記しています。

実質審査で売上高が問われる箇所

形式要件を満たした後の実質審査では、売上高の大きさそのものより、売上の見込みの根拠と売上の数字の作り方が確認されます。市場によって見る観点が違います。

スタンダード市場:上場後2期に利益を出せる見込み

新規上場ガイドブック(スタンダード市場編)の「企業の継続性及び収益性」(規程第207条第1項第1号)では、上場後一定の期間に安定的に利益を計上できる合理的な見込みがあるかを確認します。ここでいう一定の期間は申請事業年度を含む2期間で、確認する利益は原則として経常利益です。

減益基調の会社や利益額が小さい会社では、損益分岐点の所在とそれを上回れる根拠が問われます。配当収入など本業と関係の薄い営業外収益で営業赤字を埋めて経常黒字にしている場合は、安定的に利益を計上しているとは判断されません(同Q&A Q1)。売上を伸ばしても営業利益が出ない構造では、スタンダードの審査は通りにくくなります。ただし卸売業の仕入割引のように、ビジネスモデル上毎期恒常的に営業外収益が出る場合は、営業赤字でも安定的に利益を計上できていると判断されることがあります。

グロース市場:赤字上場で確認される販売計画(売上)の根拠

グロース市場の実質審査は「事業計画の合理性」が中心です。ガイドブックは「短期的な黒字化実現は必要ありません」としたうえで、上場時点で赤字を計上する計画なら、販売計画(売上)について、例えば次のような観点からも確認するとしています(Ⅵ Q&A Q1)。

  • 販売実績に乏しい場合、販売先を確保できる見通しがあるか
  • 市場規模・シェア・競合状況と自社の製品やサービスの特徴から、販売計画を合理的に説明できるか
  • 過去実績を大きく上回る販売拡大を計画している場合、その要因を説明できるか
  • 販売パートナーとの契約や許認可の取得など、前提となる事象が整っているか(その見込みがあるか)

赤字上場で問われるのは、いまの売上高ではなく、事業計画の売上の伸びを裏付ける材料です。事業計画書の作り方はIPOの事業計画書とは?上場審査で問われる「事業計画の合理性」と提出書類・作り方で解説しています。

売上計上基準と実務の不一致、予算の営業目標化

両市場に共通して、売上の数字を作る過程が見られます。グロース市場編も、売上計上基準などの会計処理基準が実態に即しているか、運用が恣意的になっていないかを確認すると書いています。スタンダード市場編のQ&Aには、出荷基準を採用しているのに実務では検収時に売上計上している例が載っており、規程と実務の乖離は「早急に規程の内容もしくは実務での運用等を改善していただくことが必須」とされています(Q32)。不整合で財務諸表の訂正が必要になるような誤りがあれば、さらに重く扱われます。

予算と実績の大幅な乖離が続く会社では、予算の策定プロセスが詳しく確認されます。実績が恒常的に予算を下回るケースについて、ガイドブックは予算が「いわゆる営業目標的なもの」になっている可能性を挙げています(Q30)。実現できるかを検討しないまま売上目標を予算に置くと、乖離が恒常化し、策定プロセスを詳しく確認されることになります。期末への売上の付け替えなど不正な計上の典型は架空売上の定義と粉飾決算における位置づけ・売上計上基準との関係にまとめています。

特定取引先への依存は開示すべきリスクとして扱われる

グロース市場編は、開示すべきリスク情報の例として「仕入、販売等において、ある特定の相手先に依存しており、継続的な取引が困難になる可能性がある場合、あるいは代替先を見つけることが困難である場合」を挙げています。依存度が何%を超えたら不可という数値基準はガイドブックにありません。審査で問われるのは、その取引先を失ったときの影響と代替策を説明し、開示できるかどうかです。

市場別に売上高の目安を見積もる方法

数値要件が無い市場では、他の要件と上場後の基準から売上規模を逆算します。

グロース市場:5年後に時価総額100億円から逆算する

グロース市場の時価総額基準は、2025年12月8日施行の規程改正により、2030年3月1日以後「上場から5年経過後、事業年度末に時価総額100億円以上」へ変わります(改善期間は1年)。ガイドブックは、時価総額100億円未満の規模で上場する会社について、主幹事証券会社に「当該上場維持基準への適合を意識した評価」を求め(Ⅱ Q&A Q1)、東証の審査でも取締役会での議論や投資家への開示の状況を確認するとしています(同Q5)。

時価総額を売上高で割った倍率(PSR)を置くと、5年後に必要な売上高の水準が計算できます。

5年後のPSR 時価総額100億円に必要な売上高
2倍 50億円
3倍 約33億円
5倍 20億円
10倍 10億円

PSRは業種や金利環境で大きく動くため、この表は計算例です。自社に近い上場企業のPSRを主幹事証券会社と確認し、そこから上場時と上場後5年の売上計画を組み立てます。

スタンダード市場:経常利益1億円とIPO時時価総額の中央値84.6億円

スタンダード市場では、形式要件の経常利益1億円が最初の線です。東証が2025年9月2日の市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の資料で示した数字では、スタンダード市場へのIPOは年10〜20社程度で、2022年〜2025年上半期にスタンダード市場へ上場した49社のIPO時の時価総額は中央値84.6億円(テクニカル上場とTOKYO PRO Market経由を除く)でした。40億円未満で上場した会社も7社(14%)あります。

売上高は業種の利益率で大きく変わるので、まず経常利益1億円を安定して出せる売上規模を自社の利益率から計算し、そのうえで上場後2期の利益計画が立つかを確かめるのが順序です。

プライム市場:利益25億円ルートと売上100億円ルート

プライム市場に直接上場するには、時価総額250億円以上・流通株式時価総額100億円以上・連結純資産50億円以上を満たしたうえで、利益2年計25億円か、売上高100億円かつ時価総額1,000億円のどちらかが必要です。この水準に届かない場合は、グロースかスタンダードに上場した後、市場区分の変更でプライムへ移る道もあります。

売上規模が小さいグロース上場の株価

形式要件だけを見れば、売上高が数億円でもグロース市場には上場できます。ただし上場後の株価は売上規模で差が出ています。楽天証券のトウシルに掲載されたティー・アイ・ダヴリュ藤根靖晃氏の集計(2026年8月29日公開)では、2024年〜2026年7月15日にグロース市場へ上場した113社の初値から集計時点までの平均騰落率は、売上高50億円未満で-23.5%、20億円未満で-29.9%、10億円未満(21社)で-44.8%でした。売上高100億円以上の群も平均はマイナスで、113社全体の単純平均は-10.0%です。著者は、市場全体の傾向を見る目的のため個々の企業の事業内容・ビジネスモデル・成長可能性は考慮していないと断っています。

上場時の売上高が小さく株価が初値から半分近くまで下がれば、5年後に時価総額100億円という上場維持基準はさらに遠のきます。売上高10億円未満で、5年後に売上を数倍にする根拠(契約済みの販売先、許認可、既存顧客の継続率など)を示せない段階なら、上場を急がず売上を積んでから申請するほうが、上場後に上場維持基準へ抵触するリスクを下げられます。

売上高が目安に届かない会社の選択肢

上場時期を後ろ倒しして売上と管理体制を積む

上場申請には最近2年間の財務諸表について登録上場会社等監査人の監査が必要で、申請期に入ってからも予算と実績の乖離の把握体制や業績予想の修正手続きが確認されます(スタンダード市場編Q&A Q3)。売上の伸びを読み切れないまま申請期を決めると、予実の乖離が審査で問われやすくなります。準備期間の全体像はIPO・上場準備の進め方とは?N-3期からの全体像と名証・福証への上場ルートを2026年最新で解説を参照してください。月次決算や予実管理の仕組みが追いつかない場合は、IPO準備・内部統制システム支援のように基幹システム側から整える方法もあります。

TOKYO PRO Marketと地方市場の上場基準

TOKYO PRO Marketは特定投資家向けの市場で、東証自身が「形式基準(数値基準)はなく」と説明しており、東証が認証したJ-Adviserが上場適格性を調査・確認します。投資家が特定投資家に限られるため、一般投資家から公募で資金を集める用途には向きません。地方の取引所という選択肢もあり、東海で上場するなら名古屋証券取引所がおすすめ|単独・重複上場と市場選びを2026年版で解説と福岡証券取引所で上場するメリットと注意点|東証との違い・3市場を2026年最新動向で解説で各市場の基準を比べています。

売上が立つ前のディープテック企業の上場枠

製品化前で売上がほぼない研究開発型企業でも、グロース市場に上場する道は残されています。ガイドブックは、機関投資家から大規模に資金を調達している場合に投資家の評価を前提として事業計画の合理性を確認するとし、例として「上場前から100億円程度の資金調達実績がある、上場時の時価総額が1,000億円程度の水準に達する場合」を挙げています(Ⅵ Q&A Q2)。売上の代わりに、目利きのある投資家の評価が審査材料になる枠です。

IPOの売上高に関するよくある質問

IPOに売上高はいくら必要ですか?

グロース市場とスタンダード市場には売上高の数値要件がありません。プライム市場だけが、利益2年計25億円の代わりに「売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上」を認めています。グロースについては、本記事では2030年以降の上場維持基準(上場5年後に時価総額100億円)から必要な売上高を逆算する方法を紹介しています。

赤字でもIPOできますか?

グロース市場なら可能です。ガイドブックは短期的な黒字化は不要としつつ、赤字のまま上場する場合は販売計画・投資計画・資金計画の合理性を確認するとしています。プライム市場も、売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上の見込みがあれば利益要件に代えられます。スタンダード市場は最近1年間の利益1億円以上が形式要件です。

グロース市場の時価総額100億円の上場維持基準はいつから適用されますか?

2030年3月1日以後、上場から5年を経過した会社の事業年度末の時価総額に適用されます(基準を下回った場合の改善期間は1年)。新規上場の審査でも、時価総額100億円未満で上場する会社は、この基準への適合を意識した成長戦略を取締役会で議論し、投資家へ説明しているかが確認されます。

売上高100億円あればプライム市場に上場できますか?

売上高だけでは上場できません。売上高100億円のルートは時価総額1,000億円以上の見込みとセットで、ほかに株主数800人以上、流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、時価総額250億円以上、連結純資産50億円以上なども必要です。

TOKYO PRO Marketに売上高の基準はありますか?

ありません。数値の形式要件はなく、J-Adviserが上場適格性を確認します。投資家は特定投資家に限られるため、一般向けの公募で資金を集める市場ではありません。

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