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税制適格ストックオプションとセーフハーバールール|非上場株の権利行使価額と1円SOの実務

税制適格ストックオプションは、権利行使時の給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、売却益への20.315%の申告分離課税だけで完結させられる新株予約権です。最大の設計ポイントは権利行使価額で、2023年7月の国税庁通達で示されたセーフハーバールール(特例方式)を使うと、取引相場のない非上場株の1株当たり価額を財産評価基本通達の例で算定でき、純資産がマイナスなら1円での発行も可能になりました。この記事では、税制適格の要件と非適格・有償との違い、純資産価額方式による権利行使価額の算定手順、1円ストックオプションの成立条件、低い行使価額が生む株式報酬費用の会計処理、そして令和6年度税制改正での年間限度額引上げと移行実務までを、非上場スタートアップの制度設計の視点で整理します。

目次

まとめ:非上場スタートアップが押さえる税制適格SOとセーフハーバーの要点

税制適格ストックオプションの効果は、権利行使時に課税されず、売却時の譲渡所得に20.315%が一度かかるだけという点に集約されます。役職員が現金を手にする前の納税負担を避けられるため、権利行使時に最大約55%の給与所得課税を受ける税制非適格との手取り差は大きく開きます。要件は租税特別措置法第29条の2が定めており、付与対象者・権利行使期間・年間限度額・譲渡禁止・保管委託などをすべて満たして初めて適用されます。

制度設計で最も判断を要するのが権利行使価額です。2023年7月の通達により、非上場株はセーフハーバー(特例方式)として財産評価基本通達の純資産価額方式などで算定でき、優先株式での資金調達後でも低い価額を設定できるようになりました。純資産がマイナスなら1円での発行も可能ですが、低い行使価額は会計上の株式報酬費用を生み、上場準備では株価鑑定書の取得や追加監査の論点に直結します。令和6年度改正で年間限度額が最大3,600万円へ引き上げられ保管委託要件も緩和された一方、過去発行分を改正後税制へ移す経過措置は2024年12月末で終了しました。費用計上を許容してインセンティブを最大化するか、公正価値評価で費用を抑えるかは、会社の設立年数と資本構成で答えが変わります。

税制適格ストックオプションの課税の仕組みと非適格・有償型との手取り差

ストックオプションは、役員や従業員があらかじめ定めた価格(権利行使価額)で自社株を取得できる新株予約権です。同じ無償発行でも、租税特別措置法第29条の2の要件を満たすか否かで課税の重さがまったく変わります。

租税特別措置法29条の2が定める税制適格ストックオプションと課税繰延の効果

税制適格ストックオプションは、会社法第238条第1項に基づき無償で付与された新株予約権のうち、租税特別措置法第29条の2の要件をすべて満たすものを指します。通常の新株予約権なら権利行使時点で時価と権利行使価額の差額に課税されますが、税制適格では行使時の課税が株式売却時まで繰り延べられます。

繰り延べの実益は納税資金にあります。非上場株は行使しても売却市場がなく現金が入らないため、行使時課税だけが先行すると役職員は給与など別の原資で納税せざるを得ず、課税を売却時に一本化することでこの資金詰まりを避けられます。

行使時非課税・売却時20.315%という1回課税の流れと税負担の計算例

税制適格の課税は売却時の1回だけです。税率は申告分離課税の20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)で固定され、給与など他の所得の多寡に左右されません。

国税庁のQ&Aの数値例で流れを確認します。権利行使価額200・行使時の株価800・売却時の株価1,000の新株予約権を行使して売却した場合、税制適格なら行使時は課税されず、売却時に売却価格1,000から権利行使価額200を差し引いた800が譲渡所得となり、その20.315%が課税されます。行使時の値上がり益600にも別途課税されない点が、繰り延べの効果そのものです。

税制非適格・有償ストックオプションとの課税タイミングと手取りの違い

税制非適格(無償型)は同じ無償発行でも、行使時に時価と権利行使価額の差額が給与所得として総合課税され、所得税の最高税率45%に住民税10%を加えた最大約55%の負担が生じます。発行会社には源泉徴収義務も発生します。有償型は付与時に新株予約権の時価相当額を払い込むため、行使時は課税されず売却時の譲渡所得課税1回で済みますが、付与対象者が払込資金を用意する必要があります。

類型 付与時 権利行使時 株式売却時
税制適格 課税なし 課税なし(売却時まで繰延) 譲渡所得 20.315%
税制非適格(無償) 課税なし 給与所得課税 最大約55%+源泉徴収 譲渡所得 20.315%
有償 時価相当額を払込(課税なし) 課税なし 譲渡所得 20.315%

同じ付与でも、行使時に現金が入らない非上場段階で給与所得課税を受ける非適格は、最終的な手取りで明確に不利になります。新株予約権ではなく株式そのものを交付する譲渡制限付株式ユニット(RSU)などとの設計比較は株式報酬制度とストックオプションの違いで扱っているため、ここでは課税タイミングの差に絞ります。

セーフハーバールールの定義と2023年7月通達が変えた権利行使価額の算定

税制適格の要件のうち、非上場会社が最もつまずいてきたのが権利行使価額の設定です。セーフハーバールールは、この設定を安全に行うための算定ルールを示したものです。

セーフハーバールールの意味と「従えば適格を否認されない下限」という性質

セーフハーバールールとは、そのルールに従っている限り法令違反や税務上の否認を問われないことを明確にする仕組みを指します。ストックオプションの文脈では、財産評価基本通達の例で算定した株価を下回らない権利行使価額を設定していれば、権利行使価額要件を満たすものとして扱われます。

あくまで下限を示すルールで、算定額をそのまま行使価額にする必要はなく、算定額以上であれば要件を満たします。

権利行使価額要件と取引相場のない株式の算定が不明確だった発行実務の課題

権利行使価額要件は、租税特別措置法第29条の2第1項第3号で「新株予約権に係る契約の締結の時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること」と定められています。上場株なら市場価格を参照できますが、取引相場のない非上場株は時価の算定方法が条文上明示されていませんでした。

その結果、発行会社は税務調査で行使価額が時価を下回ると判定され適格を否認されることを恐れ、行使価額を保守的に高く設定する実務が広がりました。行使価額が高いほど株価上昇後に役職員が得られる差益は小さくなり、本来のインセンティブ効果が削がれていたわけです。

2023年7月通達による原則方式(所得税基本通達)と特例方式の二本立て

国税庁は2023年7月7日、租税特別措置法関係通達29の2-1を改正し、1株当たり価額の算定方法を明確化しました。原則方式は所得税基本通達23〜35共-9の例により算定する方法で、特例方式は一定の条件の下で財産評価基本通達の例(純資産価額方式・配当還元方式など)により算定する方法です。この特例方式が一般にセーフハーバールールと呼ばれます。

根拠資料は国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和5年5月公表・最終改訂令和6年11月)の問7から問9です。原則方式は直近の増資単価や売買実例があればその価格に近づきますが、特例方式を選べば資金調達の影響を受けにくい税務上の評価額で行使価額を抑えられます。

税制適格ストックオプションの要件と令和6年度改正後に満たすべき条件

税制適格として認められるには、租税特別措置法第29条の2第1項の各号をすべて満たす必要があります。一つでも欠けると、その新株予約権は非適格として行使時に給与所得課税の対象になります。ここでは現行(令和6年度改正後)の要件を整理します。

無償発行と付与対象者の範囲(大口株主・監査役を除く取締役・執行役・使用人)

新株予約権は無償で発行され、付与時に金銭の払込みを要しません。付与対象者は次のとおり限定されます。

  • 発行会社またはその子会社(発行会社が議決権の過半数を保有)の取締役・執行役・使用人
  • 認定を受けた事業計画に基づく一定の社外高度人材
  • 上記の者の相続人

大口株主は対象外です。具体的には非上場会社で発行済株式総数の3分の1超、上場会社で10%超を保有する者と、その配偶者・親族などの特別関係者が除かれます。監査役は取締役・執行役・使用人のいずれにも当たらないため付与できず、監査役に株式インセンティブを持たせるなら有償ストックオプションなど別の手段を検討することになります。

権利行使期間2〜10年と設立5年未満の非上場会社における2〜15年への延長

権利行使は、付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までの間に行う必要があります。付与から2年間は行使できないため、その間の株価下落リスクは付与対象者が負います。

令和5年度税制改正で、設立から5年未満の非上場会社が付与するものに限り、行使期間の終期が付与決議の日後15年を経過する日まで延長されました。上場までに時間を要するスタートアップが、行使機会を確保しやすくなっています。

年間権利行使価額の限度額1,200万・2,400万・3,600万円の3区分と超過時の全額非適格

1人が1年間に行使できる権利行使価額の合計には上限があります。令和6年度改正で一律1,200万円から会社の区分に応じた3段階に引き上げられました。

発行会社の区分 年間の権利行使価額の限度額
設立5年未満の株式会社 2,400万円
設立5年以上20年未満で、非上場または上場後5年未満の株式会社 3,600万円
上記以外(設立20年以上など) 1,200万円(据置)

注意したいのは超過時の扱いです。限度額を超えた場合、超過分だけでなく、その超過を生じさせた回の権利行使による株式取得の全額が非適格となります。限度額は他社から付与されたものも含めた個人単位で判定されるため、複数のストックオプションを保有する役職員は行使順序と数量を事前に計算する必要があります。複数回行使で限度額を2または3で除して判定する際、1円未満の端数は切り上げて計算します。

譲渡禁止規定と取得株式の保管委託・発行会社による株式管理スキームの選択

新株予約権は他人への譲渡が禁止されている必要があり、配偶者や親族にも譲ることはできません。さらに、行使で取得した株式の管理についても要件が課されます。

従来は証券会社等への保管委託が事実上必須で、上場前の会社には高いハードルでした。令和6年度改正により、譲渡制限株式について発行会社自身が区分管理帳簿で株式を管理するスキームを選べるようになり、証券会社への保管委託に代えられます。これにより、上場せずM&Aで権利行使する場合でも、保管・管理要件を満たせば税制適格を維持できると整理されています。

セーフハーバー特例方式による権利行使価額の算定手順と1円SOの成立条件

セーフハーバー(特例方式)の核心は、財産評価基本通達の評価額を行使価額の下限に使える点にあります。優先株式で資金調達したスタートアップでも、普通株式の評価を低く抑えられる場面が多くあります。

特例方式を選べる条件と純資産価額方式・配当還元方式の使い分け

特例方式では、取引相場のない株式について財産評価基本通達の例で評価します。主に使われるのは純資産価額方式と配当還元方式です。配当還元方式は、付与対象者が同族株主等に該当しない場合に使えます。スタートアップは無配が一般的で、配当還元方式では評価額が低額になりやすい傾向があります。

一方、直近6か月以内に増資や株式の売買実例がある場合は、その単価が時価とみなされ、特例方式より高い価額になることがあります。資金調達の直後に付与するか、調達前に付与しておくかで行使価額が変わる点は、設計時に押さえておく論点です。

純資産価額方式による1株当たり価額の4ステップ算定手順(相続税評価額ベース)

純資産価額方式は、Q&A問9に沿って次の手順で1株当たり価額を算定します。

  1. 付与契約時の発行会社の資産および負債を、相続税評価額ベースで算定する
  2. 資産の価額から負債の価額を差し引いて純資産価額を算定する
  3. 算定した純資産価額から、優先株式に分配される純資産価額(残余財産分配優先額)を控除する
  4. 残った普通株式対応分を、付与契約時の発行済株式数で除して普通株式1株当たり価額を算定する

通常の純資産価額方式と異なるのは第3ステップで、優先株式の残余財産分配優先額を控除する点です。VCが参加型の優先株式を保有しているケースでは、この控除が普通株式の評価を大きく押し下げます。

優先株式の残余財産分配優先額を控除して普通株式価額が0円になる典型例

優先株式の残余財産分配優先額が純資産価額を上回ると、普通株式に配分される純資産価額はマイナスとなり、1株当たり価額は0円と算定されます。創業以来赤字が続き当初払込額を超える累積赤字を計上している、増資を優先株式のみで調達している、といった条件がそろう会社で起こりやすい結果です。

多額の資金を調達していても優先株主への分配で先取りされる構造のため、DCF法で算定する公正価値とは桁が違う低い評価になることも珍しくありません。

1円ストックオプションが成立する条件と既存SO保有者との利害調整

普通株式の算定額が0円でも、権利行使価額はゼロにはできず、備忘価額として1円以上を設定します。これが税制適格の1円ストックオプションです。算定額が0円であれば1円で要件を満たせるため、株価上昇分のほぼ全額を役職員のリターンにできます。

運用上の難点は既存保有者との公平性です。通達公表前に高い行使価額で付与を受けた古参の役職員と、1円で付与を受けた新規の役職員との間に、同じ貢献でも手取りに差が生じます。既存分の放棄と再付与、または行使価額の引下げといった調整を、社内の納得を得ながら設計する必要があります。

セーフハーバー適用で生じる株式報酬費用の会計処理と上場準備への影響

低い行使価額はインセンティブを高める一方、会計上は費用を生みます。上場準備の局面では、この費用の扱いが監査の論点になります。

本源的価値(株価−権利行使価額)の発生で必要になる株式報酬費用の計上

非上場会社のストックオプションは、本源的価値(付与時の株価から権利行使価額を差し引いた額)で会計上の費用を測定できます。従来は行使価額を株価と同額にする実務が大半で、本源的価値はゼロとなり費用計上は不要でした。

セーフハーバー方式で行使価額を株価より低く設定すると、その差額が本源的価値として生じます。たとえば付与時の株価が100で行使価額が1なら、本源的価値99が費用計上の対象になり、行使価額を抑えるほど計上額は増えます。

株式報酬費用の期間按分と相手科目・税務上は損金不算入となる扱い

本源的価値は、付与から権利確定までの対象勤務期間にわたって株式報酬費用として期間按分し、相手科目を新株予約権として計上します。上場を条件に行使できる設計など、付与時点で行使時期が定まらない場合は、発行時に全額を一括計上することもあります。

株式報酬費用は会計上の費用であって現金支出を伴わず、しかも税制適格ストックオプションについては税務上の損金になりません。会計利益は減るものの法人税は減らないため、利益計画への影響をあらかじめ見込んでおく必要があります。

IPO準備企業で論点化する株価鑑定書の取得費用と追加監査報酬

上場準備企業では、過年度に発行したストックオプションの株式報酬費用の妥当性が会計監査で検討されます。付与時の株価の根拠として独立した第三者による株価鑑定書の取得を求められることがあり、その費用や追加の監査報酬が発生します。

行使価額を低く抑える判断は、設計段階のインセンティブ効果と、上場準備で生じる費用計上・鑑定・監査のコストをあわせて評価する必要があります。発行時に安易に1円とせず、想定する上場時期から費用負担を試算しておくのが実務的です。

セーフハーバー方式を採用すべき会社と公正価値評価を選ぶべき場面の判断軸

セーフハーバー方式は万能ではありません。会社の状態によっては、あえて公正価値で評価したほうが合理的な場面があります。ここは条件を切り分けて判断します。

セーフハーバー方式が有効に働く会社の条件(赤字継続・優先株調達・上場前段階)

セーフハーバー方式が効くのは、純資産価額方式で普通株式の評価が低くなる会社です。創業以来の赤字が続き、増資を優先株式で行い、上場までに時間のある非上場スタートアップが典型例にあたります。こうした会社では、行使価額を1円近辺まで下げてインセンティブを最大化する設計が理にかないます。

レイター期で年間1,200万円の旧限度額では人材獲得が難しかった会社も、令和6年度改正の3,600万円枠と組み合わせることで、付与できる新株予約権の数を増やせます。

公正価値(DCF等)評価を選び費用計上を避ける判断が合理的になる場面

近い時期の上場が見込め、過大な株式報酬費用が利益計画や上場審査上の説明負担になる会社では、行使価額を公正価値に近い水準へ引き上げ、本源的価値をゼロに近づける選択が合理的です。費用計上と鑑定・監査コストを避けられます。

直近に増資や売買実例があり、その単価が時価とみなされる会社も、セーフハーバーで無理に下げると否認リスクを抱えるため、実例価格に沿った設定が安全です。

セーフハーバー方式を採用すべきでない場面と陥りやすい失敗パターン

純資産価額方式でも評価額が高く算定される会社では、セーフハーバー方式を選ぶ意味は薄く、ここでは採用しないと判断してよい場面です。黒字を計上し純資産が厚い、優先株式の優先分配が小さい、といった会社では行使価額が大きく下がらず、費用計上だけが残るためです。

失敗が多いのは、上場時期を詰めずに1円で発行し、上場準備に入ってから多額の株式報酬費用と鑑定・監査コストに直面するパターンです。もう一つは、限度額や行使順序を計算せずに付与し、行使の段になって限度額超過でその回の全額が非適格になるケースです。発行前に評価額・費用・限度額の3点を試算しておくことが、後戻りを防ぐ最低条件になります。

令和6年度税制改正の3つの変更点と過去発行ストックオプションの移行実務

令和6年度税制改正は2024年4月1日に施行され、改正後の税制は令和6年分以後の所得税に適用されます。要件緩和の改正であり、使い勝手が向上しました。

限度額引上げと株式管理スキーム創設が解いた人材獲得とM&Aイグジットの課題

年間権利行使価額の限度額を最大3,600万円へ引き上げたのは、企業価値が高くなったレイター期での人材獲得力を高めるためです。あわせて、譲渡制限株式について発行会社自身による株式管理スキームを創設し、証券会社への保管委託に代えられるようにしました。

この管理スキームにより、上場前でも権利行使後の株式を発行会社が管理でき、M&Aによるイグジット時に役職員が機動的に権利行使できるようになりました。従来は非上場段階での行使が事実上困難で、M&Aで報酬を実現できない懸念がありましたが、その隘路が緩和されています。

社外高度人材への付与要件の緩和(実務経験年数の短縮・撤廃と対象人材の拡大)

社外高度人材への付与要件も緩和されました。上場会社の役員等の経験者に求める実務経験年数が3年から1年に短縮され、国家資格保有者や博士の学位を持つ者については実務経験要件そのものが撤廃されています。非上場企業の役員経験者なども新たに対象へ加わりました。

認定対象企業の側でも、ベンチャーキャピタル等から最初に出資を受ける時点での資本金5億円未満・従業員900人以下という要件が廃止され、社外の専門家を株式報酬で巻き込みやすくなっています。

2024年12月31日で終了した経過措置と過去発行ストックオプションの現状

改正には経過措置がありました。2024年3月31日以前に締結した契約について、2024年4月1日から12月31日までの間に、年間限度額の引上げと発行会社自身による株式管理スキームに関する契約変更を行い改正後の要件を定めれば、改正後税制の適用を受けられるという内容です。

この経過措置は2024年12月31日で終了しました。2026年時点では、過去発行分について当初契約の範囲を超えて限度額を引き上げるような契約変更はできません。これから検討する会社は、新規発行を前提に改正後の枠組みで設計することになります。

税制適格ストックオプションとセーフハーバールールに関するよくある質問

制度設計と権利行使の現場で繰り返し寄せられる疑問を、要件と国税庁Q&Aの内容に沿って整理します。

税制適格ストックオプションを行使したとき確定申告は必要ですか?

権利行使の時点では課税されないため、行使だけなら確定申告は不要です。確定申告が必要になるのは、取得した株式を売却したときです。売却益は申告分離課税の譲渡所得となり、20.315%の税率で申告します。特定口座(源泉徴収あり)で売却した場合は申告不要を選べることもありますが、損益通算や繰越控除を使うなら申告が有利になります。課税方式の全体像は申告分離課税の仕組みを参照してください。

セーフハーバールールで発行した1円ストックオプションは上場審査に通りますか?

1円ストックオプション自体が上場審査で否認されるわけではありません。論点は会計面で、低い行使価額が生む株式報酬費用を適切に計上し、付与時の株価の根拠を説明できるかどうかです。上場準備の過程で株価鑑定書の取得や追加の監査対応を求められることがあるため、発行時から株価算定の根拠資料を整えておくことが審査を見据えた備えになります。

監査役に税制適格ストックオプションを付与できますか?

付与できません。税制適格の付与対象は取締役・執行役・使用人と一定の社外高度人材、その相続人に限られ、監査役はいずれにも該当しないためです。監査役に株式インセンティブを持たせたい場合は、付与対象者の制限がない有償ストックオプションなどを検討することになります。発行は会社法上可能でも、税制優遇は受けられない点に注意が必要です。

信託型ストックオプションは税制適格として扱われますか?

税制適格ではありません。国税庁は2023年5月30日、信託型ストックオプションについて、実質的に発行会社が役職員に付与し役職員に金銭負担がないことなどから、権利行使時の経済的利益は労務の対価として給与所得課税の対象になるとの見解を示しました。導入済みの会社では、税制適格ストックオプションへの切り替えを含めた見直しが必要になる場合があります。

高い権利行使価額で発行済みのストックオプションを後から引き下げられますか?

原則として、契約で定めた事項を変更すると税制適格に該当しなくなります。ただしQ&A問10では例外が示されており、2023年7月の通達改正後に行使価額を引き下げる契約変更を行い、変更後の行使価額が同通達の要件を満たしているときは、税制適格として認められるとされています。否認を恐れて高く設定していた実務に配慮した取扱いです。なお、変更後の行使価額が付与決議で定めた事項に反する場合は、株主総会・取締役会での変更決議も必要になります。

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