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IPOの事業計画書とは?上場審査で問われる「事業計画の合理性」と提出書類・作り方

IPOの事業計画書とは?上場審査で問われる「事業計画の合理性」と提出書類・作り方

IPO準備の事業計画書は、主幹事証券の引受審査と東京証券取引所の上場審査の両方で読まれる審査資料です。グロース市場には利益の形式要件がなく、その代わりに実質審査基準の1項目として「事業計画の合理性」が置かれています。グロース市場の上場会社は、上場後も「事業計画及び成長可能性に関する事項」を毎年開示するため、申請のために一度作って終わる書類ではありません。この記事では、東証と日本証券業協会の規程・ガイドブックに書かれている確認項目から、何をどの書類で出し、どう作り込むかを整理します。

まとめ:IPOの事業計画書で押さえる要点

  • グロース市場の実質審査基準は5項目で、そのうち1つが「事業計画の合理性」です。スタンダード市場では「企業の継続性及び収益性」の中で事業計画の策定が確認され、形式要件として最近1年間の利益1億円以上も求められます。
  • 申請時には、申請事業年度の年度予算計画書と中期経営計画書を、策定に使った社内資料の写しと一緒に提出します。数字の出どころまで遡って読まれる前提で作ります。
  • 主幹事の引受審査では、利益計画の策定根拠の妥当性・進捗状況・成長性と安定性・配当の考え方の4細目で「業績の見通し」を見られます。調達資金の使途も事業計画との整合で審査されます。
  • 利益・販売・仕入生産・設備投資・人員・資金の各計画が互いに矛盾しないことが、東証のガイドブックに明記された確認ポイントです。
  • 東証は、下方修正を避けるために必要以上に保守的な業績予想を作ることは要請の趣旨に合わないとしています。計画は控えめに置くより、前提と根拠を説明できる形にします。

上場審査で事業計画が問われる根拠:市場別の実質審査基準

事業計画書の役割は、上場する市場によって重みが変わります。東証が公表している上場審査基準の概要を並べると、次のような違いがあります。

項目 グロース市場 スタンダード市場
利益の形式要件 なし 最近1年間の利益1億円以上
事業継続年数 1か年以前から 3か年以前から
事業計画を見る実質審査 事業計画の合理性 企業の継続性及び収益性
申請時の審査資料 Ⅰの部+各種説明資料 Ⅰの部+Ⅱの部

グロース市場:利益基準の代わりに置かれた「事業計画の合理性」

グロース市場の上場審査基準概要は、実質審査を「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「事業計画の合理性」「その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項」の5項目としています。事業計画の合理性の中身は「相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること」です。

形式要件に利益の額がないため、赤字の会社でも申請できます。そのため、将来の利益をどう実現するかは、事業計画の前提と事業基盤の説明で示すことになります。上場審査等に関するガイドラインⅣ5は、計画がビジネスモデル・事業環境・リスク要因等を踏まえて適切に策定されているか(1)と、計画を遂行する事業基盤が整っているか(2)の2点を確認すると定めています。新規上場ガイドブック(グロース市場編)は、事業基盤の例として営業・研究開発の人員、事業拠点や設備、投資資金を挙げ、高い成長可能性そのものは主幹事証券が判断して「上場適格性調査に関する報告書」の別紙で東証に示すとしています。

スタンダード市場:「企業の継続性及び収益性」の中で見る事業計画

スタンダード市場の基準では、実質審査の最初の項目が「企業の継続性及び収益性」で、内容は「継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること」です。ガイドラインⅡ2はこの項目の中で、事業計画がビジネスモデル・事業環境・リスク要因等を踏まえて適切に策定されているかを確認するとしており、事業計画が審査されない市場ではありません。

形式要件の利益1億円は、原則として連結経常利益(非支配株主に帰属する損益を加減した額)で見ます。新規上場ガイドブック(スタンダード市場編)のQ&Aでは、収益性は「上場後一定の期間において安定的に利益が計上できる合理的な見込みがあるかどうか」で判断し、これとは別に予算統制の観点から、予算と実績の乖離を把握する体制や業績予想の修正手続きを申請期の資料で確認するとしています。期初予算と実績の大幅な乖離が恒常化している場合は、策定プロセスに問題がある可能性が高いと見られます。収益基盤の安定性と予算の当て方は、別々に説明を求められると考えておきます。

市場ごとの形式基準と売上高の扱いはIPO審査における売上高の位置づけと形式基準・実質基準の関係性で詳しく扱っています。

申請時に提出する事業計画関連の書類

東証の新規上場申請書類一覧では、グロース・スタンダードとも「申請事業年度に係る年度予算計画書」と「中期経営計画書」を、計画策定に際して使用した一連の社内資料の写しを含めて提出します(グロース市場の申請書類一覧)。社内資料の写しまで求められるので、提出用に体裁を整えた計画書だけでなく、売上の積み上げ表や人員計画のシートも審査の対象になります。

開示書類との関係も押さえておきます。どちらの市場も申請日に「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を出し、グロース市場はⅡの部の代わりに「新規上場申請者に係る各種説明資料」を、スタンダード市場はⅡの部を提出します。Ⅰの部の「事業の内容」「事業等のリスク」と事業計画書の前提が食い違うと、そこが質問の起点になります。

財務諸表の監査証明は申請直前2期間分が必要です(東証の上場準備の解説)。直前々期(N-2期)と直前期(N-1期)の実績は監査済みの数字として固まるため、申請期(N期)の予算はこの2期の実績から連続していることが前提になります。準備期間全体の進め方はIPO・上場準備の進め方とは?N-3期からの全体像と名証・福証への上場ルートを2026年最新で解説を参照してください。

主幹事証券の引受審査で見られる「業績の見通し」

取引所の前に事業計画を読むのは主幹事証券です。日本証券業協会の「有価証券の引受け等に関する規則」第16条は、新規公開株式の引受審査項目に「業績の見通し」と「調達する資金の使途」を含めています。同規則の細則第9条が定める業績の見通しの審査細目は次の4つです。

  • 利益計画の策定根拠の妥当性
  • 利益計画の進捗状況
  • 企業の成長性及び安定性
  • 剰余金の配当に関する考え方

「進捗状況」が独立した細目になっている点が重要です。グロース市場のガイドブックは、東証の事業計画の審査について「短期的な計画の達成・進捗状況を確認する趣旨ではありません」としていますが、引受審査の側では利益計画の進捗が細目として明示されています。審査期間中の月次実績が計画から外れていけば、主幹事からは策定根拠の妥当性も同時に問われます。

審査に耐える数値計画の組み立て方

グロース市場のガイドブックは、事業計画の合理性の確認ポイントとして、ビジネスモデルの特徴(強み・弱み)、業界環境や競合、対象市場の規模や成長度合い、需要動向、原材料市場等の動向、主要な取引先、法的規制などの反映を挙げています。数値計画はこれらの定性情報を前提として組み立て、どの前提がどの数字に効いているかを追える形にします。

利益・販売・仕入生産・設備投資・人員・資金の6計画の整合

同ガイドブックは「利益計画、販売計画、仕入・生産計画、設備投資計画、人員計画、資金計画などの各計画が整合的であるかどうか」を確認すると明記しています。計画間の不整合の例は次のとおりです。

  • 売上が前年の1.5倍に伸びるのに、人員計画がほぼ横ばいで、生産性の改善や既存人員の余力といった根拠も示されていない
  • 新拠点の売上を見込んでいるのに、設備投資計画に出店費用が入っていない
  • 利益計画は黒字化しているが、資金計画では運転資金の増加で手元資金が底をつく

部門ごとに計画を作ること自体は問題ではありません。崩れるのは、採用時期・単価・稼働率といった部門間の前提を突き合わせないまま足し合わせたときです。売上計画の数量(顧客数・案件数・店舗数)を起点に、必要な人員・設備・資金の計算式が共通の前提データを参照する構造にします。前提を変更した際に、関連する計画へ反映されることも確認します。

KPIの積み上げによる売上計画の根拠

「前年比130%」という結果を示すこと自体は構いませんが、その内訳を説明できなければ根拠のない数字として扱われます。たとえば継続課金型なら「期首顧客数×期首顧客の年間継続率+期中獲得顧客のうち期末まで継続した顧客数」で期末顧客数を出し、期中の平均顧客数×月額単価×12か月で売上を置きます。受託型なら、引合件数×受注率×平均受注単価で新規受注額を見積もります。売上計画は、期首の受注残も含め、案件ごとの履行義務の充足時期や進捗度に応じて計上期間へ配分します。分解した各KPIに過去の実績値を並べ、計画値との差を説明します。

JPXの成長可能性資料の開示ガイドは、経営指標について採用した理由・実績値・具体的な目標値の記載を求め、例としてユーザー数・ユーザー一人当たりの単価・顧客獲得単価を挙げています。自社で算定する指標なら算定方法も書きます。SaaSであればユニットエコノミクスの考え方で、獲得費用の回収期間まで示すと計画の持続性を説明しやすくなります。

KPIの定義は上場後も同じ方法で測れるものを選びます。事業の変化で指標を追加・変更するときは、変更の理由を記載し、それまでの指標も合理的に算出できるなら記載を続けることが開示ガイドで示されています。

調達資金の使途と事業計画の対応関係

日本証券業協会の細則第9条は、調達する資金の使途の審査細目を「調達する資金の使途の妥当性(事業計画との整合等を踏まえた妥当性をいう。)」としています。開示ガイドも、成長戦略の記載で設備投資計画・マーケティング計画・人員計画・資金計画などに関連付けてIPOの目的を書くことを挙げています。公募の手取金を「採用費」「システム投資」と並べるだけでなく、それが人員計画の何名分に当たり、何期目の売上にどれだけ効くのかを、計画書の数字で追えるようにします。

グロース上場後も続く「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示

グロース市場の上場会社は、「事業計画及び成長可能性に関する事項」を新規上場日に開示し、その後も少なくとも1事業年度に1回以上(うち事業年度経過後3か月以内に1回以上)、進捗を反映した最新の内容で開示する義務があります(JPXの開示FAQ)。事業計画を見直したときなど記載内容に重要な変更が生じた場合は、定期の開示を待たずに速やかに開示します。

JPXの開示ガイド(2025年12月8日改訂版)は、記載項目を次の5つに区分しています。

区分 主な記載内容
ビジネスモデル 事業の内容・収益構造
市場環境 市場規模・競合
競争力の源泉 技術・ノウハウ・参入障壁
事業計画 成長戦略・経営指標・利益計画と前提・進捗状況
リスク情報 主要なリスクと対応策

様式は問われず、決算説明会資料に含めて作ることもできます。TDnetで開示するファイルはPDFに限られ、上限は10MBです。審査に出す年度予算計画書・中期経営計画書と、投資家向けのこの開示資料は別の書類ですが、審査用の計画を作る段階で5区分の情報を揃えておくと、上場日の開示資料はそれを投資家向けに編集する作業で済みます。2回目以降の開示では、前回記載した事項の達成状況と、前回からの更新内容を書きます。

上場直後の下方修正と「保守的すぎる計画」の両方を避ける置き方

上場直後に業績予想を大きく下方修正する事例を受けて、JPXは2015年3月31日の公表資料で、業績予想の公表に際して前提条件やその根拠の適切な開示を要請していく方針を示しました。日本証券業協会の規則も、新規公開直後に重要事実が公表された場合、主幹事が引受審査中の説明に不実がなかったかを検証すると定めています。

ただし、スタンダード市場のガイドブックはこの要請について「上場後の業績予想の修正自体を問題視するものではありません」と明記し、続けて「業績予想の下方修正を避けるため、必要以上に保守的な業績予想を策定することや、上場時期を決算期末まで引き延ばすことは、当該要請の趣旨に合致しません」としています。上場審査で確認されるのは、公表する予想数値の策定背景・前提・根拠が適切に記載されているかです。ここから、申請期の計画は次の考え方で置きます。

  • 成長施策を一律に外さない。織り込むかどうかは、実行体制・予算・時期が計画の中に揃っているかで決める
  • 売上の見込みは、契約済み・商談中・新規開拓のように根拠の種類で分けて積み上げ、それぞれの確度の置き方を説明できるようにする
  • 前提条件(単価・顧客数・採用人数・為替など)は数値で書き、どれが外れると利益がどれだけ動くかを把握しておく

避けるべきなのは、成長性を見せるために中期計画の後半だけを急角度で伸ばす「ホッケースティック型」の計画です。後半の伸びを支える施策・人員・資金が前半の計画に現れていなければ、6計画の整合で崩れます。

グロース市場の上場維持基準の見直しと事業計画

グロース市場の時価総額の上場維持基準は、現行の「40億円以上(上場後10年経過後から適用)」から、2030年3月1日より「100億円以上(上場5年経過後から適用)」に見直されます(東証の上場維持基準の詳細)。東証は2025年9月26日にこの見直しの制度要綱を公表しています。

新規上場への影響として押さえるべきなのは開示です。東証の説明資料では、上場時に見込まれる時価総額が100億円未満の会社は、上場日に開示する「事業計画及び成長可能性に関する事項」に、見直し後の上場維持基準への適合を意識した成長戦略を記載する必要があります(2025年12月末日以後に新規上場申請を行う会社から適用)。100億円到達に向けた財務予測などの定量的な分析までは必ずしも求められていません。それでも、上場5年後の姿を成長戦略として語れない事業計画では、この記載が埋まりません。

予実管理を回す体制と仕組み

引受審査の細目に「利益計画の進捗状況」があり、スタンダード市場では予算統制も確認される以上、事業計画書の根拠を継続的に点検するには、月次の予実管理が必要です。月次決算を締める早さ、差異を部門・KPI単位まで分解できること、差異の理由と対策を取締役会の議事録に残していることが、審査で計画の説明力を支えます。予算・予実の基本的な進め方は予実管理とは?予算管理との違い・進め方4ステップとエクセル脱却の判断を解説で、中期計画から年度予算への落とし込みは中期経営計画とは?作り方5ステップと年度予算・月次予実への落とし込み方で解説しています。

表計算ソフトの計画を部門間で回していると、版の取り違えや前提の不一致が起きやすく、審査の質問に過去の版まで遡って答えることも難しくなります。会計システムの実績と計画を同じ基盤で持つ構成はNetSuiteとは?機能・料金構造とIPO準備企業に選ばれる理由を解説のようなERPで実現できます。業務システムや内部統制の整備を含めて準備を進める場合は、IPO準備・内部統制システム支援で要件整理から相談できます。監査法人とのやり取りの進め方は監査法人とは?公認会計士法の定義・設立要件と監査を受ける会社の準備を解説が参考になります。

よくある質問

IPO準備でいうN期・N-1期とは何ですか?

N期は上場申請を行う事業年度(申請期)、N-1期はその直前期、N-2期は直前々期です。東証への申請には申請直前2期間分の監査証明が必要なため、N-2期とN-1期の財務諸表は監査済みの実績として固まります。

上場準備の事業計画にはどんなKPIを入れればよいですか?

売上を分解する指標(顧客数・顧客単価・継続率・受注件数など)を、過去の実績値と目標値を並べて入れます。グロース市場の成長可能性資料では、経営指標について採用した理由・実績値・具体的な目標値の記載が求められるため、上場後も同じ定義で測れる指標を選びます。

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)と事業計画書はどう関係しますか?

Ⅰの部は開示を前提とした書類で、事業の内容や事業等のリスクを記載します。事業計画書はこれとは別に、年度予算計画書・中期経営計画書として審査資料に提出します。Ⅰの部に書いたリスクや事業の説明と、事業計画書の前提が一致していることが確認されます。

上場後に業績予想を下方修正すると問題になりますか?

東証は修正自体を問題視しないとしており、下方修正を避けるために必要以上に保守的な予想を作ることも趣旨に合わないとしています。上場審査で確認されるのは、上場日に公表する予想の策定背景・前提・根拠が適切に記載されているかです。

赤字でもグロース市場に上場できますか?

グロース市場の形式要件には利益の額がないため、赤字でも申請はできます。その代わり、実質審査の「事業計画の合理性」で、計画がビジネスモデルや事業環境を踏まえて策定され、遂行する事業基盤が整っているかを確認されます。

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