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非上場企業のストックオプション活用方法|2024年改正を踏まえた発行設計と落とし穴

ストックオプションは、非上場企業が現金を使わずに役員や従業員へ将来の利益を約束できる新株予約権です。上場やM&Aで株価が上がったときに、あらかじめ決めた価格で自社株を買える権利を渡しておく仕組みで、採用や人材の引き留めに使われます。この記事では発行する側の非上場企業を主役に、無償税制適格・税制非適格・有償・信託型の使い分け、税制適格の要件と2024年(令和6年度)改正で変わった点、行使価格の決め方、発行から登記までの手続き、IPO・M&A・上場できなかった場合の出口までを、租税特別措置法と経済産業省・国税庁の一次情報に沿って整理します。

目次

まとめ:非上場企業のストックオプション活用で先に押さえる設計判断と税制改正の要点

非上場企業がストックオプションを活かせるかは、発行前の4つの判断でほぼ決まります。種類は、役員・従業員には課税が株式売却時の1回で済む無償の税制適格を基本とし、大口株主や社外協力者など対象外の相手には有償を充てます。信託型は2023年5月の国税庁見解で権利行使時に給与所得課税されることが明確になり、今から新規導入する選択肢にはなりません。

税制適格の要件では、年間の権利行使価額の上限が2024年改正で設立5年未満なら2,400万円、設立5年以上20年未満の非上場会社なら3,600万円へ拡大しました。設立5年未満の非上場会社は権利行使期間を15年まで延ばせます。行使価格は、取引相場のない非上場株式に財産評価基本通達の評価額を使えるため(セーフハーバールール)低く設定しやすく、発行後は発行会社自身による株式管理スキームを使えば証券会社へ保管委託せず非上場のまま行使を認められます。以下、この4点を租税特別措置法29条の2の条文に沿って解説します。

非上場企業がストックオプションを発行できる仕組みと新株予約権との関係

ストックオプションは上場企業だけの制度ではありません。株式に市場価格がない非上場企業でも発行でき、むしろ価値が跳ね上がる前だからこそ、低い行使価格で大きな含み益を約束できます。

権利行使価格・権利行使期間・付与株数で決まるストックオプションの基本構造

ストックオプションは3つの数字で性格が決まります。権利行使価格(買える価格)、権利行使期間(いつからいつまで買えるか)、付与株数です。1株100円で5,000株買える権利を渡し、上場後に株価が500円になれば、対象者は合計200万円の含み益を得ます。付与時点で会社から現金は出ず、会社が負うのは将来株式が増えることによる持株比率の希薄化です。

会社法上の新株予約権との呼称の違いと非上場ゆえの発行・行使の前提

法律上の正式名称は会社法236条以下の「新株予約権」で、そのうち役員・従業員へのインセンティブとして発行するものを慣用的にストックオプションと呼びます。発行の根拠は会社法、課税の扱いは租税特別措置法と所得税法で別に決まる二層構造です。非上場株式には市場価格も売買の場もないため、株価は別途算定が必要で、取得株式はIPOやM&Aが起きなければ売る相手がおらず、譲渡制限株式を会社が把握し続ける管理義務も生じます。「権利を渡す設計」と同じくらい「出口と管理の設計」が重いのが非上場の実態です。

無償・有償・信託型まで4種類のストックオプションと非上場企業での向き不向き

ストックオプションは課税のされ方で性格が分かれます。非上場企業が現実に検討するのは、無償の税制適格、無償の税制非適格、有償、信託型の4種類です。

無償税制適格・税制非適格・有償で課税の回数と税率が変わる仕組みの違い

無償型のうち租税特別措置法29条の2の要件をすべて満たす税制適格は、権利行使時は非課税で、株式売却時に譲渡所得課税(20.315%)が1回かかるだけです。要件を欠く税制非適格は、行使時に給与所得として総合課税(最大55.945%)され、売却時にも課税される2回課税で、まだ株を売っていないのに高額の所得税が生じ納税資金に困ります。有償ストックオプションは発行時に公正価値(ブラック・ショールズ・モデル等)を払い込む時価発行新株予約権で、行使時は非課税・売却時のみ譲渡所得課税です。対象者の制限がないため、3分の1超を持つ大口株主や業績条件を付けたい場面でも使えます。

信託型ストックオプションを今から新規導入しない方がよい税務上の根拠

信託型は、創業者などが信託に資金を預け後から貢献度に応じて配分できる仕組みで、上場前後の新興企業を中心に約800社が導入していました。しかし国税庁は2023年5月30日のQ&A(最終改訂2024年11月)で、役職員の権利行使時の経済的利益は労務の対価=給与所得にあたるとの見解を示しました。期待された約20%の譲渡所得課税ではなく最大55.945%の給与課税となり、課税繰り延べという最大の利点が失われています。令和7年(2025年)改正で法人課税信託への課税も整備されました。これから設計するなら無償の税制適格と有償の組み合わせの方が税務リスクは小さく、信託型を新規に選ぶ理由は乏しいというのが現在の実務判断です。

4種類を発行目的で選び分ける比較と非上場企業での実務的な優先順位

非上場企業はまず役員・従業員向けに無償の税制適格を基本線とし、対象外の相手にだけ有償を足す順序で考えると整理しやすくなります。

種類 付与時の払込 行使時の課税 売却時の課税 主な向き先
無償・税制適格 不要 課税なし(繰延) 譲渡所得20.315% 役員・従業員・社外高度人材
無償・税制非適格 不要 給与所得 最大55.945% 譲渡所得20.315% 適格要件を外れる役職員
有償 公正価値を払込 課税なし 譲渡所得20.315% 大口株主・社外・業績条件付き
信託型 委託者が拠出 給与所得 最大55.945% 譲渡所得20.315% 新規採用は非推奨

税負担が軽く現金負担もない無償の税制適格を起点にし、適格の枠を外れる相手が出たときに初めて有償を検討する優先順位で十分に設計できます。

非上場企業がストックオプションを活用する目的と見落とされやすいデメリットの重み

発行の目的は「現金を使わずに人を採り、留める」ことに集約されます。ただし効果と裏腹のリスクがあり、その重みは均等ではありません。

現金報酬を抑えて人材を採用・引き留めるインセンティブとしての効果

創業まもない非上場企業は大手と同水準の給与を提示しにくいのが実情です。ストックオプションがあれば、上場やM&Aで数百万円から数千万円規模の売却益が見込めるため、足元の給与差を将来の上振れで補えます。求人検索の条件にストックオプションの有無を設ける転職サイトもあり、採用市場でのアピール材料になります。会社の成長が対象者の利益に直結し、業務への当事者意識も高まります。

価値がゼロになる出口リスクと運用段階で起きる不公平感・行使後離職の失敗

非上場ストックオプションの価値は出口に依存します。行使条件にIPOを置く設計が多く、上場できなければ行使できず、期間経過で権利は消滅して含み益は紙くずになりえます。運用面では2つの失敗が目立ちます。付与数の不公平感は、勤続年数や役職など客観的な基準を先に決めて社内へ説明することで抑えます。上場後に売却益だけ得てすぐ辞める行使後離職は、次章のベスティングで防ぎます。入口だけ整えて運用ルールを後回しにすると、この2つを踏みやすくなります。

誰に何パーセント付与するか|付与対象者の範囲と発行済株式の希薄化を抑える設計

「誰に・どれだけ」を曖昧にしたまま発行すると、税制適格を外したり創業者の持株比率を削りすぎたりします。対象者の可否と総量の2軸で設計します。

役員・従業員・社外高度人材・業務委託で異なる付与可否と大口株主の除外

税制適格の対象は、発行会社およびその関係会社の取締役・執行役・使用人が基本です。監査役、社外の外注先、法人は対象外で、大口株主とその特別関係者(親族・配偶者など)も対象外です。大口株主の基準は非上場会社で発行済株式総数の3分の1超、上場会社で10分の1超で、創業者が大株主なら自分への税制適格付与はできません。業務委託のフリーランス等は原則対象外ですが、2024年改正で範囲が広がった社外高度人材として認定されれば税制適格にできます。対象外の相手には有償を充てるのが現実的です。

付与枠10〜15%を目安にする希薄化試算とベスティングによる定着設計

付与総量は発行済株式総数の10〜15%程度を目安に置き、ベンチャーキャピタル等への資金調達で生じる希薄化を逆算します。シリーズA・Bと増資が進むたび既存株主の持分は薄まるため、資本政策表(キャップテーブル)で上場時点の創業者持株比率から逆算して枠を決め、調達ラウンドごとに見直します。あわせて、一定の勤続期間を満たすまで行使できないベスティング条項を割当契約に盛り込みます。「付与から1年は行使不可、その後毎年4分の1ずつ確定」のように設計すれば、行使後の早期離職を抑え定着を促せます。

税制適格ストックオプションの要件と2024年改正で広がった非上場企業の活用余地

非上場企業の活用方法は、税制適格の要件をどこまで満たせるかで具体化します。要件は租税特別措置法29条の2に定められ、2023年・2024年の改正で非上場企業に有利な方向へ動きました。

無償付与・行使期間・行使価額など税制適格を満たす主要要件の一覧

税制適格と認められるには、複数の要件をすべて満たす必要があります。代表的なものを整理します。

項目 要件の内容
付与形態 取締役等へ無償で付与されること
対象者 取締役・執行役・使用人・社外高度人材(大口株主とその特別関係者・監査役・法人は対象外)
権利行使期間 付与決議日後2年経過日から10年経過日まで(設立5年未満の非上場会社は15年)
権利行使価額 付与契約締結時の時価以上
年間行使価額の上限 原則1,200万円(会社区分により2,400万円・3,600万円へ拡大)
譲渡制限 新株予約権そのものを譲渡できないこと
株式の保管・管理 証券会社等への保管委託、または発行会社自身による株式管理

1つでも欠けると税制非適格になり行使時に給与課税が生じます。要件は付与時に満たすものと行使時・行使後に満たすものが混在するため、発行して終わりではなく行使まで通して管理します。

2024年改正の上限3,600万円・15年延長・発行会社による株式管理スキーム

一律1,200万円だった年間の権利行使価額の上限が、2024年(令和6年度)改正で会社区分により拡大しました。設立5年未満は2,400万円、設立5年以上20年未満で非上場の会社(または上場後5年未満)は3,600万円です。施行は2024年4月1日で令和6年分以後の所得税に適用され、既発行分への適用に設けられた経過措置は2024年12月31日で終了済みです。権利行使期間は、令和5年度(2023年度)改正で設立5年未満の非上場会社が10年から15年へ延長され(租税特別措置法29条の2第1項第1号)、長期の出口を見据えた設計が可能になりました。さらに2024年改正で、譲渡制限株式について発行会社自身が株式を管理する方法が新設され(同項6号ロ)、証券会社への保管委託に代えて選べるようになりました。これにより非上場のままでも行使を認める設計が現実的になり、特にM&A時に機動的に対応できます。上場会社には恩恵が乏しく、実質的に非上場会社向けの緩和です。

非上場株式の行使価格の決め方とセーフハーバールールを使う場面の判断基準

非上場には市場株価がないため、行使価格をいくらに設定するかが活用の成否を左右します。低すぎれば税制適格を外し、高すぎればインセンティブが弱まります。

付与契約時の時価以上という要件とセーフハーバールールの適用条件

税制適格の要件として、権利行使価額は付与契約締結時の1株あたりの時価以上でなければなりません。自社株でも任意に安くはできないのが原則です。非上場株式の時価は市場価格がないため純資産価額方式やDCF法などで算定しますが、2023年7月7日の国税庁Q&Aで、取引相場のない株式は相続税の財産評価基本通達の例(純資産価額方式等)で付与契約時の株価を算定してよいことが明確化されました。これがセーフハーバールールです。純資産ベースの評価は時価算定より低くなりやすく、低い行使価格を設定して含み益を大きくできます。適用は付与契約時の評価が前提で、後から引き下げる契約変更には株主総会決議など別の要件が伴います。

本源的価値と会計処理の関係と優先株の評価額を流用すべきでない場面

会計上は本源的価値(発行時の株価−行使価格)を権利確定までの期間にわたり費用計上します。行使価格を発行時の株価と同額にすれば本源的価値はゼロになり費用計上は不要です。非上場企業では行使価格を時価に合わせて本源的価値をゼロにし、損益への影響を避ける整理が多く採られます。注意したいのは、ベンチャーキャピタルへ優先株を高い価格で発行した直後に、その発行価格をそのまま行使価格へ流用するケースです。行使価格が跳ね上がり従業員の含み益がほとんど残らないため、優先株と普通株の価格差を算定し普通株の評価額を参照して決めます。「直近の調達価格=行使価格」という安易な設定は典型的な失敗例で、株価算定書の作成を専門家に依頼するのが安全です。

発行決議から登記までの手続きの流れと発行後に必要な株式管理・法定調書

設計が固まったら手続きに移ります。発行までの会社法上の流れと、発行後に続く管理・申告の義務を分けて押さえます。

株主総会の特別決議から2週間以内の変更登記までの発行手続きの順序

非上場企業がストックオプションを発行する基本の流れは次のとおりです。

  1. 株主総会の特別決議で募集事項(内容・数、無償発行の旨、払込金額または算定方法、割当日など)を決定する
  2. 対象者へ案内し、申込みを受けて新株予約権を割り当てる(譲渡制限株式を扱う非上場企業は割当ても特別決議で決定)
  3. 有償の場合は募集要項で定めた期日までに払込みを受ける
  4. 発行の効力発生から2週間以内に変更登記を申請する

役員への付与は報酬にあたるため株主総会決議事項です。臨時に開きにくい場合は定時株主総会のタイミングと合わせて設計します。

新株予約権原簿の管理と特定株式等の異動状況に関する調書の提出義務

発行が完了したら、会社は遅滞なく新株予約権原簿を作成し維持する義務があります。原簿には対象者の氏名・住所、付与内容(数や権利行使価格など)を記載します。発行会社自身による株式管理スキームを採用する場合は、行使で交付した株式を権利者ごとに帳簿で記録し、他の同一銘柄株式と区分して改ざんできない形で管理します。さらに法定調書として、株式を管理する場合は「特定株式等の異動状況に関する調書」を毎年1月31日までに、付与した場合は付与に関する調書を翌年1月31日までに所轄税務署長へ提出します。発行段階で年次の提出スケジュールを管理体制に組み込み、判断に迷う点は税理士・司法書士へ確認します。

IPO・M&A・上場できなかった場合まで出口別のストックオプションの取り扱い

非上場ストックオプションは出口の設計で価値が決まります。IPO・M&A・出口なしの3つで整理します。

IPOによる上場時とM&AによるEXIT時の行使しやすさの違い

最も想定される出口がIPOです。上場すると株式は振替制度の対象となり保管委託要件は当然に満たされ、対象者は行使して取得した株式を市場で売却し、税制適格なら売却時の譲渡所得課税(20.315%)が1回かかるだけです。出口がM&Aになる例も増えていますが、改正前は保管委託要件のため非上場のまま行使するのが難しく障害でした。2024年改正で発行会社自身による株式管理が認められ、非上場の段階でも税制適格を保ったまま行使しやすくなりました。買収側がストックオプションを買い取る場合もあり、税制適格か非適格かで課税が変わるため、譲渡や買取の方法は事前に整理しておきます。

上場できなかった場合に権利が消滅する条件と退職者の行使可否の設計

見落とせないのが、出口が来なかった場合です。行使条件をIPOに限定していると、上場できなければ行使できず、期間経過で権利は消滅します。設立5年未満の非上場会社が行使期間を15年まで延ばせるのは、この出口待ちの猶予を広げる意味があります。退職者の扱いも先に決める論点です。行使条件を「在職中のみ」とすれば退職後は行使できず定着を促せますが、貢献に報いて退職後一定期間の行使を認める設計もあります。退職後の行使可否は訴訟に発展した例もあるため、割当契約で明確に定めておきます。

よくある質問

非上場企業のストックオプションについて、発行側・対象者側からよく寄せられる質問に答えます。

非上場企業のストックオプションに確定申告は必要ですか?

税制適格なら権利行使時には課税されず、確定申告も原則不要です。申告が必要になるのは取得した株式を売却して譲渡所得が生じたときで、その年分について申告します。税制非適格は、行使時の給与所得が年末調整で完結しない部分について申告が必要になることがあり、売却時にも譲渡所得の申告が生じます。種類によって申告のタイミングと回数が変わる点に注意してください。

監査役にもストックオプションを付与できますか?

付与自体は可能ですが、監査役は税制適格ストックオプションの対象者に含まれません。監査役へ無償で付与すると税制非適格となり、権利行使時に給与所得課税が生じます。税負担を抑えて監査役へインセンティブを渡したい場合は、有償ストックオプションを検討するのが現実的です。対象者の役職によって適格・非適格が分かれる典型例です。

ストックオプションの行使資金が用意できない従業員にはどう対応しますか?

権利行使には行使価格×株数の現金が必要で、資金が用意できないと権利を使えません。対応の中心は、行使価格を低めに設計しておくことと、行使と同時に株式を売却して資金を回収できるようIPO後の行使を前提にすることです。税制非適格では行使時に給与課税も重なり負担が大きくなるため、無償の税制適格を選んで行使時課税を避けることが、資金問題の緩和にもつながります。

すでに導入した信託型ストックオプションは見直すべきですか?

2023年の国税庁見解で信託型は権利行使時に給与所得課税されることが明確になり、想定していた節税効果は失われています。導入済みの企業では、行使時の課税や源泉徴収の扱いを専門家に確認し、必要に応じて制度の組み替えを検討する例が増えています。実際に信託型を廃止し、有償と税制適格の組み合わせへ移行した企業もあります。今後の新規付与分は別の種類で設計するのが無難です。

ストックオプションと株式報酬制度(RSU・譲渡制限付株式)の違いは何ですか?

ストックオプションは「買う権利」で、対象者が行使価格を払って初めて株式を取得します。株価が行使価格を下回れば行使する意味がありません。RSUや譲渡制限付株式は一定期間後に株式そのものを無償で受け取る仕組みで、株価が下がっても価値はゼロになりません。下振れに強い代わりに会社の費用負担は大きくなります。非上場企業は現金負担なく発行できるストックオプションを使う例が多いですが、設計目的に応じて使い分けます。

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