監査法人とは、公認会計士法にもとづいて設立され、財務書類の監査証明を組織として行う法人です。設立には5人以上の公認会計士が必要で、社員の75%以上を公認会計士が占めなければなりません。この記事では、監査法人の定義と業務範囲、有限責任監査法人と無限責任監査法人の違い、296法人の規模別シェアや上場会社の監査人交代の状況を、条文と公認会計士・監査審査会の公表資料に沿って整理します。後半では、監査法人に依頼できない業務の線引きと、監査を受ける会社側が整えるべき証憑・仕訳データの仕組みまで踏み込みます。
まとめ|監査法人の定義・設立要件と監査を受ける会社の準備の要点
監査法人は、公認会計士法第1条の3で「監査証明の業務を組織的に行うことを目的として設立された法人」と定義されています。会社法の「会計監査人」や金融商品取引法の「監査人」は、監査を受ける会社から見た役割の名前であり、その席に就く主体が公認会計士個人または監査法人です。
業界は大手4法人への集中が強く、監査業務収入の77.9%を4法人が占めます。一方で上場会社の監査人交代は大手から準大手・中小へ移る流れが続き、交代後に報酬が上がる例も増えました。上場会社を監査できるのは、日本公認会計士協会の上場会社等監査人名簿に登録された事務所だけです。
監査を受ける会社にとっての実務上の要点は一つです。監査法人は独立性の規制により、会計帳簿の記帳や会計システムの整備を被監査会社から請け負えません。証憑・仕訳データ・承認記録を監査に耐える形で残す仕組みは、会社側が自分で用意することになります。
公認会計士法が定める監査法人の定義|組織的監査を担う法人と業務の範囲
監査法人を理解する出発点は、根拠法が会社法ではなく公認会計士法(e-Gov法令検索)だという点です。会社のしくみを定める法律ではなく、監査の担い手を定める法律の中に置かれています。
第1条の3が定める監査証明を組織的に行う法人という定義と業務範囲
公認会計士法第1条の3第3項は、監査法人を「次条第一項の業務を組織的に行うことを目的として、この法律に基づき設立された法人」と定めています。ここでいう次条第1項の業務とは、第2条第1項の「他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすること」です。
監査法人は監査証明のほかに、定款で定めれば第34条の5により次の業務も行えます。
- 第2条第2項の業務:財務書類の調製、財務に関する調査・立案、財務に関する相談(いわゆる非監査業務)
- 公認会計士試験の合格者に対する実務補習
非監査業務は「監査業務に支障のない限り」という条件付きです。しかも同じ会社に監査と非監査業務を同時に提供することには、後述する独立性の制限がかかります。名称についても第34条の3で「監査法人」という文字の使用が義務づけられているため、社名に監査法人とあれば、この法律にもとづく法人だと判別できます。
会計監査人・監査人との関係|会社法と金商法で呼び名が変わる理由
同じ監査法人でも、どの法律の監査を担うかで呼び名が変わります。会社法の計算書類を監査する立場が会計監査人、金融商品取引法の財務諸表と内部統制報告書を監査する立場が監査人です。上場会社では、同じ監査法人が両方の立場を兼ねるのが通常の形です。
会計監査人は会社法上の機関であり、選任・任期・報酬の決め方の根拠となるのも会社法です。機関としての扱いは会計監査人の設置義務・選任・任期を会社法で整理した記事で、社内の監査役とどう役割分担するかは監査役と会計監査人の役割・連携の解説で扱っています。この記事は、その席に就く「法人そのもの」の成り立ちに絞って説明します。
監査法人の設立要件と社員の責任|公認会計士5人以上と有限・無限責任の違い
監査法人は株式会社のような出資者と経営者の分離をとらず、公認会計士である「社員」が出資し、業務を執行し、責任も負う組織です。
社員5人以上の公認会計士と公認会計士比率75%以上という設立の条件
第34条の7第1項は、監査法人を設立するには社員になろうとする者が共同で定款を定め、そのうちに「五人以上の公認会計士である者」を含むことを求めています。社員には公認会計士以外の者(特定社員)も加われますが、第34条の4第3項と公認会計士法施行規則第19条により、公認会計士である社員の割合は75%以上でなければなりません。
監査証明の業務を執行し、法人を代表できるのは公認会計士である社員だけです(第34条の10の2、第34条の10の3)。監査法人は主たる事務所の所在地で設立登記をした時点で成立し、成立の日から2週間以内に内閣総理大臣へ届け出ます(第34条の9、第34条の9の2)。
無限責任監査法人と有限責任監査法人の違い|責任範囲・登録・資本金
社員の責任の範囲によって、監査法人は2つの形態に分かれます。違いは次のとおりです。
| 比較項目 | 無限責任監査法人 | 有限責任監査法人 |
|---|---|---|
| 社員の責任 | 全社員が連帯して無限責任 | 出資額が上限 |
| 業務担当社員の指定 | 任意(指定社員) | 証明ごとに必須 |
| 業務開始の要件 | 設立登記と届出 | 内閣総理大臣の登録 |
| 最低資本金 | 定めなし | 社員数×100万円 |
| 名称の表示 | 監査法人 | 有限責任の表示が必要 |
有限責任監査法人でも、担当に指定された社員(指定有限責任社員)は、その証明に関する債務を法人財産で払いきれない場合に連帯して責任を負います(第34条の10の6第8項)。有限責任の法人は第34条の24で登録が義務づけられ、最低資本金は公認会計士法施行令第22条で社員の総数に100万円を掛けた額とされています。社名に「有限責任」とあるかどうかは、監査契約の相手方の責任構造を確かめる最初の手がかりになります。
数字で見る監査法人の業界構造|296法人の規模別シェアと監査人の交代
ここからの数値は、公認会計士・監査審査会が2026年7月に公表した令和8年版モニタリングレポートの主なポイント(PDF)によります。レポート本体と公表資料の一覧は公表ページにまとまっています。
大手4法人が監査業務収入の77.9%を占める寡占構造と規模区分
令和6年度の集計で、監査法人は296法人、所属する公認会計士は14,625人、監査証明業務は22,443社、監査業務収入は4,303億円です。このうち大手監査法人(4法人)は法人数では1.4%にすぎませんが、監査業務収入の77.9%、所属公認会計士の71.4%、監査証明業務数の52.2%を占めます。
上場国内会社の会計監査人を規模別に見ると、2026年3月末時点で大手56.6%、準大手15.9%、中小27.5%です。2022年3月末は大手63.8%、中小20.5%だったため、4年で中小の比率が7ポイント上がりました。監査審査会の区分は「大手」「準大手」「中小規模監査事務所」の3段階で、各社の特徴や選び分けは別の記事で扱います。
上場会社の監査人交代は133件|大手から中小へ移る流れと報酬の変化
監査事務所を変更した上場国内会社は、2026年6月期で133件でした。2022年6月期の236件から、204件、200件、205件と高い水準が続いたあとで減っています。規模別には、大手から準大手または中小規模監査事務所へ移る傾向が続いています。
交代の理由として多いのは、監査報酬の増額提示、事業規模に見合った監査対応と報酬の相当性、継続監査期間の長期化です。現任の監査人が契約の継続を辞退する件数も多く、人員を確保できないことを理由に挙げる例があります。レポートが指摘しているのは、より小規模な事務所へ移っても監査報酬が下がるとは限らず、異動後に報酬が増えた例が前年度より多いということです。「中小に替えれば安くなる」という前提で交代を計画すると、見込みが外れる可能性があります。
上場会社等監査人登録制度|2023年4月開始・130事務所が登録
公認会計士法第34条の34の2により、上場会社の財務書類を監査する公認会計士・監査法人は、日本公認会計士協会の上場会社等監査人名簿への登録を受けなければなりません。日本公認会計士協会の制度ページによれば、制度は2023年4月1日に運営を開始しました。みなし登録の経過措置の審査は2025年7月に完了し、2026年6月末時点で130事務所が登録されています。
登録済みの事務所は協会の登録上場会社等監査人情報で検索できます。上場を目指す会社が監査法人を選ぶときは、提案を受ける前にこの名簿で登録の有無を確かめるのが最初の作業です。上場準備で受ける監査の期間や証明の要件はIPO準備で求められる法定監査の解説にまとめています。
監査法人の独立性による業務制限|被監査会社が同時に依頼できない業務の範囲
監査法人は、監査する相手から独立していることを法律で強く求められます。この規制は、監査を受ける会社が監査法人に何を頼めるかを直接左右します。
施行規則第5条の非監査業務制限|記帳代行や会計システム整備を頼めない理由
第34条の11の2は、大会社等の監査をしている監査法人が、同じ会社から特定の非監査業務で継続的な報酬を受けている場合、その会社の監査証明を行ってはならないと定めています。対象業務は施行規則第5条に列挙されています。
- 会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務
- 財務又は会計に係る情報システムの整備又は管理に関する業務
- 現物出資財産などの証明又は鑑定評価に関する業務
- 保険数理に関する業務
- 内部監査の外部委託に関する業務
理由は単純で、自分で作った帳簿やシステムを自分で監査すれば、自己点検になるからです。実務の結論は明確で、上場会社や大会社は、会計システムの構築・運用や記帳の外注を自社の監査法人に任せられません。監査法人は監査の過程で不備を指摘できますが、直す作業は会社側か、監査と利害関係のない別の外部業者が担います。
同じ社員が監査を続けられる期間|7会計期間と大規模法人の5会計期間
第34条の11の3と施行令第16条・第17条により、大会社等の監査では、同じ社員が監査関連業務を行えるのは連続7会計期間までで、その後2会計期間は関与できません。大規模監査法人が上場会社を監査する場合、筆頭業務執行社員などは連続5会計期間が上限で、その後5会計期間は関与できません(第34条の11の4、施行令第19条・第20条)。
上場準備会社も、上場日の前の一定期間に監査関連業務を受けていれば大会社等とみなされ、この期間計算に含まれます(第34条の11の5)。上場の数年後に担当社員が交代することは、契約時点で予定しておく必要があります。担当者が替わると、前任との口頭の合意は引き継がれません。判断の経緯を文書で残しておく会社ほど、交代による手戻りが小さく済みます。
監査を受ける会社側が整える証憑と記録の仕組み|監査対応の工数を減らす設計
監査の手間の大半は、監査法人が求める資料を会社が探し、出し、説明する作業です。ここは会社側の仕組みで大きく変わります。
監査法人が求める資料|仕訳データ・証憑突合・残高確認の3系統
令和8年版モニタリングレポートは、大手監査法人で仕訳分析ツール、証憑突合ツール、債権・債務残高確認システム、電子監査調書システムが導入済みであると整理しています。準大手でも仕訳分析ツールと電子監査調書は導入済み、証憑突合と残高確認は導入中です。
監査法人がツールで分析するということは、会社側に次の形でデータを出すことを求めるという意味です。
- 仕訳データ:一定期間の全件を、起票者・承認者・起票日時つきで抽出したもの
- 証憑:請求書・契約書・検収書などを、仕訳と対応づけて取り出せる状態
- 残高確認:売掛金・買掛金の相手先別残高と、確認状の送付先の一覧
紙やPDFのばらばらな保管では、1件ずつ探す作業が期末ごとに発生します。上場後は期末監査に加えて半期のレビューや内部統制監査が重なるため、この差は年を追うごとに広がります。
仕訳データと承認記録を全件で出せる会計・ワークフロー側の要件
監査に耐える仕訳データの条件は、手入力の修正が追えることです。具体的には、仕訳ごとに起票者・承認者・日時が残り、修正や削除をしても変更前の値と操作者が履歴に残ること、期間を指定して全件をCSVなどで抽出できることです。稟議や経費精算のワークフローを使っているなら、承認番号を仕訳側に持たせ、承認記録から仕訳へ、仕訳から承認記録へ双方向にたどれる形にします。
この仕組みは、J-SOXの全社統制・業務処理統制で求められる証跡とほぼ重なります。内部統制全体の枠組みは内部統制の4つの目的と6つの基本的要素の解説で整理しています。先に述べたとおり、この整備は監査法人には頼めない領域です。一創では、監査対応で求められる証跡を前提に会計・承認・証憑管理の仕組みを設計するIPO準備・内部統制システム支援を提供しています。
証憑と取引の紐づけ|電子帳簿保存法の検索要件と監査の突合を両立する保存
電子帳簿保存法の電子取引データの保存では、取引年月日・取引金額・取引先で検索できることが要件になっています。監査の証憑突合も、仕訳の日付・金額・相手先から原本を引き当てる作業です。つまり同じ3項目で証憑を引ける保存にしておけば、税務と監査の両方に一度で対応できます。
失敗しやすいのは、電帳法対応を経理部門だけで先に済ませ、仕訳番号との対応を持たない保存にしてしまう例です。検索はできても、監査法人に「この仕訳の証憑」を出すたびに日付と金額で探し直すことになります。保存システムを選ぶ段階で、仕訳番号または伝票番号を証憑側に記録できるかを確かめてください。
監査法人との契約を判断する条件|上場準備で急ぐ会社と任意監査を見送る会社
監査法人との契約は、義務があるから結ぶ場合と、任意で結ぶ場合に分かれます。任意の場合、時期を誤るとコストだけが先に立ちます。
監査契約を急ぐべき会社の条件|上場予定時期と会社法上の大会社
契約を急ぐべきなのは、上場を2〜3年以内に予定している会社です。上場申請には直前2期分の監査証明が必要で、その前に課題を洗い出すショートレビューを受けるのが通常の順序です。交代の理由として契約継続の辞退が多かったとおり、監査事務所側の人員には余裕がありません。上場時期から逆算して、N-3期には候補の監査法人と接触しておきます。全体の工程はIPO・上場準備の進め方とN-3期からの全体像で確認できます。
もう一つは、資本金5億円以上または負債200億円以上の会社法上の大会社です。会社法第328条により会計監査人の設置が義務づけられるため、規模がこの基準に近づいた段階で準備を始めます。
任意監査を見送ってよい場面|上場予定がなく大会社でもない会社
上場の予定がなく、大会社にも当たらない会社が、信用力の向上だけを理由に監査法人の任意監査を受けるのは過剰です。監査報酬が毎期発生するうえ、社内の資料準備の工数も継続的にかかります。金融機関から決算書の信頼性を問われている程度であれば、まず月次決算の締め日程と証憑の保存方法を整えるほうが、少ない費用で同じ効果に近づけます。
例外は、出資を受ける契約や親会社の方針で監査証明の取得が条件になっている場合です。条件が契約書に書かれているなら、見送る余地はありません。条件がなく「念のため」という理由しかないなら、契約は上場や規模拡大の見通しが立ってからで間に合います。
よくある質問
監査法人について、検索でよく調べられている疑問に答えます。
監査法人と会計事務所・税理士法人の違いは何ですか?
監査法人は公認会計士法にもとづき、財務書類の監査証明を組織的に行う法人です。税理士法人は税理士法にもとづき、税務申告の代理や税務相談を行います。会計事務所は法律上の名称ではなく、公認会計士や税理士の個人事務所を広く指す呼び方です。上場会社や大会社の法定監査を行えるのは、公認会計士または監査法人に限られます。
日本に監査法人はいくつありますか?
公認会計士・監査審査会の令和8年版モニタリングレポートによると、令和6年度の集計で296法人です。そのうち大手監査法人は4法人で、法人数では1.4%ですが監査業務収入の77.9%を占めます。上場会社を監査できる上場会社等監査人名簿の登録事務所は、2026年6月末時点で130事務所です。
有限責任監査法人とはどういう意味ですか?
社員全員が有限責任社員であると定款に定めた監査法人です(公認会計士法第1条の3第4項)。社員は原則として出資額を上限に責任を負います。ただし各証明の担当に指定された社員は、その証明に関する債務について連帯して責任を負います。有限責任監査法人は内閣総理大臣の登録を受けないと業務を始められず、最低資本金は社員数×100万円です。
監査法人は会社の誰が選びますか?
会計監査人としての監査法人は株主総会で選任します。ただし、株主総会に提出する選任・解任・不再任の議案の内容は、取締役ではなく監査役(監査役会設置会社では監査役会)が決めます(会社法第344条)。監査を受ける経営陣が監査人の人事を握らない設計で、報酬の決定にも監査役の同意が必要です。
中小企業も監査法人の監査を受ける必要がありますか?
上場しておらず、資本金5億円以上または負債200億円以上の大会社にも当たらない中小企業には、監査法人の監査を受ける法律上の義務はありません。ただし上場を目指す場合は直前2期分の監査証明が必要です。出資契約や親会社の方針で監査が条件になっている場合も、任意監査を受けることになります。
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