ストックオプションの希薄化とは、新株予約権が行使されて株式が新たに発行され、既存株主の持株比率と1株当たりの利益・価値が薄まることです。影響の大きさは「何株増えるか」だけでなく、行使価格と株価の差、行使条件、未行使分の残高で決まります。
この記事では、希薄化率の計算式と分母の取り方、潜在株式調整後1株当たり当期純利益(EPS)の試算、会社法・議決権行使助言会社の基準、上場企業が実際に開示している希薄化率の水準、希薄化を抑える発行設計を順に整理します。
まとめ:ストックオプションの希薄化の計算・上限・抑え方
- 希薄化は2段階で起きます。発行時は「潜在株式」として評価に織り込まれ、行使時に発行済株式数が実際に増えます。
- 希薄化率は「増える株式数÷発行済株式総数」で書くのが開示の通例です。資本政策表で使う「完全希薄化後」の分母(潜在株式を含む)と混同すると数字がずれます。
- EPSへの影響は株式数の増加率より小さく出ます。会計基準は、行使代金で自己株式を買い戻したと仮定する「自己株式方式」で計算するためです。
- 法令に「何%まで」という上限はありません。会社法113条4項の発行可能株式総数の枠と、有利発行時の株主総会特別決議が制約になります。
- 実務の目安は、ISSの議決権行使助言基準(成熟企業5%・成長企業10%、既存残高を合算)と、IPO時の潜在株式比率8〜10%前後です。
- 2026年に開示された上場企業3社の例では、1回の発行による希薄化率は0.7%〜4.42%でした。
計算に進む前に、まず希薄化が生じる時点を確認します。ストックオプション制度そのものの仕組みや税制はストックオプションとは?仕組み・税制適格の要件と税金・会計処理をわかりやすく解説【2026年】で扱っています。
ストックオプションで希薄化が起きる仕組みと始まる時点
発行時の潜在株式と行使時の新株発行という2段階
ストックオプションは会社法上の新株予約権です。付与した時点では株式数は増えません。役職員が権利を行使し、会社が新株を発行した時点で発行済株式総数が増えます。
ただし、株式市場や投資家は行使を待たずに評価に織り込みます。上場企業は潜在株式調整後EPSを開示し、未上場企業でも資金調達のバリュエーションは潜在株式を含めた株式数で1株価格を計算するのが一般的です。実質的な希薄化は発行を決議した時点で始まると考えてください。
会社法も発行段階で枠を押さえます。会社法113条4項は、行使期間が始まった新株予約権の目的となる株式数が「発行可能株式総数から発行済株式(自己株式を除く)の総数を控除して得た数」を超えてはならないと定めています。行使期間が始まった未行使分については、行使に備えて授権枠の中に株式数を残しておく必要があるということです(行使期間開始前のものは対象外で、未行使の権利が発行済株式に数えられるわけでもありません)。
なお、行使時に新株ではなく会社が保有する自己株式を交付すれば、発行済株式総数は増えません。ただし議決権のない自己株式(会社法308条2項)が役職員の手に渡るので、議決権ベースの希薄化は起きます。この点は後半の「希薄化を抑える設計」で扱います。
持株比率と議決権への影響:3分の1・過半数・3分の2の境目
発行済株式100万株のうち10万株(10%)を持つ株主は、10万株分のストックオプションがすべて行使されると、10万÷110万=約9.09%に下がります。持株比率の低下幅は小さく見えますが、創業者や経営陣は議決権比率の境目も確認します。以下は議決権制限株式等がなく、定款で決議要件を加重していない場合の目安で、単独否決には総会で反対票を投じる必要があります。
| 議決権の割合 | できること | 根拠 |
|---|---|---|
| 3分の1超 | 特別決議を単独で否決できる | 会社法309条2項 |
| 過半数 | 普通決議(取締役の選任等)を単独で可決 | 会社法309条1項・341条 |
| 3分の2以上 | 特別決議(定款変更・有利発行等)を単独で可決 | 会社法309条2項 |
創業者が68%を持つ会社では、潜在株式が発行済株式の2%を超えた時点で完全希薄化後の持分が3分の2を割り込みます(68÷102≒66.7%、5%なら68÷105≒64.8%)。発行枠を決める前に、この3つの境目に対する余裕を計算しておくべきです。
行使価格と時価の差が既存株主から移る価値
希薄化の経済的な中身は、時価より安い価格で株式が発行されることによる価値の移転です。株価1,000円の会社で行使価格500円のストックオプションが行使されると、1株あたり500円分の価値が既存株主から行使者へ移ります。
通常、株価が行使価格以下なら任意に行使する経済的な動機は乏しくなります。ただし、有償SOには株価下落時の行使義務を定める例もあります(後述のアンビスHD第6回)。行使を任意とする一般的なストックオプションでは、株価が行使価格を上回るほど行使益が大きくなる構造で、だからこそ「株価が上がった分の一部を役職員に渡す報酬」として正当化されます。行使価格の決め方はストックオプションの行使価格の決め方|上場・非上場と税制適格で変わる基準【2026年版】で詳しく解説しています。
希薄化率の計算方法と分母の取り方
発行済株式総数を分母にする適時開示の書き方
上場企業がストックオプションの発行を適時開示するときは、次の式で希薄化率を示すのが通例です。
希薄化率 = 新株予約権がすべて行使された場合に増える株式数 ÷ 現在の発行済株式総数
ココペリ(東証グロース)が2026年6月24日に開示した従業員向けストックオプションでは、増加株式数56,300株を2026年5月31日現在の発行済株式総数7,916,230株で割り、「0.7%の割合による希薄化」と記載しています(56,300÷7,916,230≒0.711%)。
完全希薄化後株式数を分母にする資本政策表の書き方
未上場企業の資本政策表や投資契約では、潜在株式を含めた「完全希薄化後(フル・ダイリューテッド)株式数」を分母にすることが多くあります。
潜在株式比率(完全希薄化後ベース)= 潜在株式数 ÷ (発行済株式数 + 潜在株式数)
発行済株式100万株に10万株分のストックオプションを出す場合、前者の式では10%、後者では10万÷110万=約9.09%です。同じ発行量でも1ポイント近く差が出るため、投資家や主幹事証券と「10%以内」を話すときは、どちらの分母かを最初に確認してください。
既存の未行使残高を合算して見る累積の希薄化
1回の発行だけを見て「0.7%なら小さい」と判断するのは不十分です。議決権行使助言会社のISSは、2026年版日本向け議決権行使助言基準で「提案されているストックオプションと発行済ストックオプション残高を合計した希薄化」を判定に使っています。
さらに同基準の注57は、取締役会決議だけで毎年発行できる報酬枠を承認する議案について、「今後10年間にわたり毎年付与可能最大数が付与されると仮定し、希薄化を計算する」としています。毎年の発行が小さくても、枠の上限×10年で評価されるということです。
希薄化率の過小・過大評価につながる計算ミス
希薄化率の算定では、未行使残高、株式分割、自己株式、失効分の反映を確認します。
- 過去に発行した未行使のストックオプション・新株予約権(有償SOや資金調達用の新株予約権を含む)を合算していない
- 株式分割後に、新株予約権1個あたりの目的株式数を調整せずに計算している
- 計算目的に応じた自己株式の扱いを確認していない(発行済株式総数ベースの開示と、自己株式を除く議決権・EPSの計算は区別する)
- 退職などで失効した分を残高から外し忘れ、逆に過大に見積もっている
新株予約権の残高は登記事項でもあります。行使や消滅の変更登記が漏れていると、登記簿と社内台帳で潜在株式数が食い違い、上場審査やデューデリジェンスで指摘されます。手続きはストックオプションの登記|新株予約権の発行・行使・消滅の期限と必要書類・登録免許税を参照してください。
EPSへの影響:潜在株式調整後1株当たり当期純利益の自己株式方式
上場企業は、潜在株式に希薄化効果があるとき「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」を開示します。ストックオプションの扱いは企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」が定めており、ポイントは次の2つです。
- 期中平均株価が行使価格を上回り、希薄化効果がある場合だけ、行使されたと仮定する(権利未確定のストックオプションは、公正な評価額のうち将来の勤務サービスに係る分も払込額に含めて判定する=適用指針第4号22項)
- 行使で払い込まれる金額で、期中平均株価により自己株式を買い戻したと仮定し、差し引きの増加株式数だけを分母に加える(自己株式方式)
当期純利益5億円・期中平均株式数1,000万株(EPS50円)の会社が、行使価格500円のストックオプション100万株分が期首から存在し、権利確定済みで、他の潜在株式がない場合を試算します。
| 期中平均株価 | 行使代金 | 買戻し株数 | 純増株数 | 調整後EPS | 低下率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400円 | (行使しない) | - | 0株 | 開示なし | 0% |
| 600円 | 5億円 | 約83.3万株 | 約16.7万株 | 約49.18円 | 約1.6% |
| 1,000円 | 5億円 | 50万株 | 50万株 | 約47.62円 | 約4.8% |
| 2,000円 | 5億円 | 25万株 | 75万株 | 約46.51円 | 約7.0% |
| (単純計算) | - | - | 100万株 | 約45.45円 | 約9.1% |
同じ100万株(発行済株式の10%)でも、EPSの低下は株価が行使価格に近いほど小さく、株価が上がるほど単純計算の9.1%に近づきます。この例では期中平均株価が行使価格以下なら希薄化効果がなく、潜在株式調整後EPSは開示しません。ただし、他に希薄化効果のある潜在株式があれば開示対象になります。「潜在株式比率10%=EPSが10%下がる」という見方は、会計上は過大です。
費用計上の面でも、ストックオプションは付与日の公正な評価額を勤務期間にわたって費用処理するため、利益(分子)が減る形でEPSに影響します。会計処理はストックオプションの会計基準とは?企業会計基準第8号に基づく仕訳・費用計上の実務解説、評価額の計算はストックオプションの評価単価とは?公正な評価単価の計算方法と6つの基礎数値で解説しています。
希薄化率の上限と目安:法令・取引所・議決権行使基準・IPO実務
「ストックオプションは何%まで出してよいか」に対する答えは、どのルールを基準にするかで変わります。数字の性格(法的な制約か、相場か)を分けて整理します。
| 基準 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| 会社法113条4項 | 発行可能株式総数の残り枠まで | 法的な制約 |
| 会社法238条3項・240条 | 有利発行は株主総会の特別決議 | 手続の制約 |
| 東証の第三者割当規制 | 役職員向けSOは対象外 | 適用なし |
| ISS助言基準 | 成熟企業5%・成長企業10%超で反対推奨 | 機関投資家の目線 |
| IPO時の実態 | 潜在株式比率8〜10%前後 | 相場 |
会社法の制約:発行可能株式総数の枠と有利発行の特別決議
会社法には希薄化率の上限そのものはありません。制約は2つです。1つ目は先に触れた113条4項の授権枠で、公開会社は発行可能株式総数を増やす定款変更でも発行済株式総数の4倍までという制限があります(113条3項)。
2つ目は手続です。非公開会社の募集新株予約権は株主総会の特別決議で発行します(238条2項・309条2項6号)。公開会社は原則として取締役会で決められますが(240条1項)、無償発行が「特に有利な条件」に当たる場合や払込金額が「特に有利な金額」の場合は、株主総会で理由を説明したうえで特別決議を経る必要があります(238条3項)。出席株主の議決権の3分の1超が反対すれば、通常の特別決議による有利発行の承認は得られないということです。決議の要否の詳細は新株予約権とストックオプションの違い|関係・目的・課税・会計を比較表で整理にまとめています。
東証の第三者割当規制とストックオプションの関係
上場企業の第三者割当には、希薄化率が25%以上なら独立した第三者の意見取得か株主の意思確認が必要、300%を超えると原則として上場廃止という東証の規制があります(東証の上場制度FAQ)。
役職員向けのストックオプションは、この規制の対象外です。規制の前提となる「第三者割当」の定義(企業内容等開示府令19条2項1号ヲ)から、譲渡禁止の新株予約権を発行者や関係会社の役員・会計参与・使用人に割り当てる方法が除かれているためです(東証FAQ)。社外協力者への付与や譲渡可能な新株予約権は、この役職員向けSOの除外には該当しません。他の除外規定への該当性も確認したうえで、25%基準の適用を判定します。
ISSの基準:成熟企業5%・成長企業10%と業績条件
ISSの2026年版日本向け基準(2026年2月1日施行)は、ストックオプション議案について、既存残高との合計の希薄化が成熟企業で5%、成長企業で10%を超える場合に反対を推奨します。対象者に取引先など社外の第三者が含まれる場合、上限株数が開示されない場合も反対推奨です(社外取締役・社外監査役は社外の第三者に含めない)。
行使価格1円の報酬型ストックオプションと株式報酬には、もう1つ条件が加わります。業績達成が行使条件になっていない場合は反対推奨です。ただし、付与から3年未満の行使禁止や退職前の行使禁止があれば、業績条件がなくても例外的に反対を推奨しません。
同基準の解説は「日本企業、特に大企業において希薄化が過度であるケースは皆無である」とも述べ、重視するのは付与対象者と少数株主の利益が連動する仕組みかどうかだとしています。上場企業が5%の線を気にするのは、株主総会の賛成率に直結するからです。
IPO時の潜在株式比率8〜10%前後という相場
未上場企業で語られる「10%以内」は法令ではなく、主幹事証券や投資家との協議で形成された相場です。プルータス・コンサルティングの2025年IPO調査では、2025年の新規上場60社のうちSOを導入していた53社の潜在株式比率は平均9.2%・中央値9.4%で、15%以上は7社、最大は25%でした。分母は有価証券報告書提出時の発行済株式総数です。調査ごとの数値と、従業員1人あたりの付与割合はストックオプションの平均付与率は何%か|最新調査の発行率と個人の付与割合で比較しています。
注意したいのは、平均を上回る会社もIPOしている点です。平均は上限ではありません。比率が高い会社は、上場後の行使・売却による需給悪化を投資家に説明できるかが問われます。
上場企業の開示例に見る希薄化率の水準と説明の型
上場企業はストックオプションを発行するとき、適時開示で希薄化率とその合理性を説明します。2026年に開示された3社の例を並べます。
| 会社(市場) | 開示日 | 種類・対象 | 希薄化率 |
|---|---|---|---|
| ココペリ(グロース) | 2026-06-24 | 従業員82名 | 0.7% |
| アンビスHD(プライム) | 2026-02-13 | 有償SO・取締役と従業員 | 2.55% |
| PR TIMES(プライム) | 2026-08-06 | 有償SO・グループ役職員161名 | 4.42% |
ココペリは「希薄化の割合は極めて限定的」として、潜在株式の発生と希薄化の規模を合理的と判断しています。
アンビスホールディングスの有償ストックオプションは、全部行使時の増加株式数が発行済株式総数98,112,000株の2.55%に相当するとし、取締役が株式を保有することが企業価値・株主価値の向上に資するという理由で希薄化を合理的としています。代表取締役に割り当てる第6回には業績・株価目標の行使条件に加え、株価が一定水準を下回った場合に行使を義務付ける条件を付けており、株価下落のリスクも既存株主と共有する設計です(取締役・従業員向けの第7回には行使義務はありません)。
PR TIMESの有償ストックオプションは、新株予約権6,000個(1個100株)がすべて行使された場合の増加株式数が発行済株式総数13,589,146株の4.42%に相当すると開示しました。そのうえで、あらかじめ定める業績目標の達成を行使条件にしており、目標達成が株主価値の向上に資するとして希薄化への影響を合理的としています。
3社に共通する説明の型は「希薄化率の数値→行使条件や対象者→株主価値との結びつき」です。希薄化率が数%に達する場合は、行使条件と企業価値向上の関係を具体的に示すのが、上場企業の実務になっています。
希薄化を抑えるストックオプションの発行設計
業績条件と権利確定期間で行使のタイミングを絞る設計
行使条件に業績目標や株価条件を付けると、条件を満たさなければ行使されず、希薄化も生じません。PR TIMESの例のように、条件の達成そのものが株主価値の向上と結びつくため、株主への説明もしやすくなります。
権利確定(ベスティング)を「付与から2年後に25%、以後1年ごとに25%」のように分割すると、行使可能になる時期を分散できます。ただし、確定済みの権利が同時期に行使・売却される可能性は残ります。税制適格ストックオプションは付与決議の日後2年を経過するまで行使できないため(措置法29条の2)、確定期間をそれより短く設計しても、実際に行使が始まるのは2年経過後です。
退職時の失効と発行枠の再利用
付与契約に「退職時は未行使分が失効する」と定めておけば、退職者の分の潜在株式は消え、その枠を後から入る人材に再付与できます。発行枠そのものを増やさずに済むので、累積の希薄化を抑える効果は大きいです。
会社法287条により消滅した新株予約権は、登記前でも権利としての残高から除きます。登記簿上の残高も一致させるため、変更登記が必要です。台帳と登記の整合は、先に触れた計算ミスの原因にもなります。
自己株式の交付で発行済株式総数を増やさない方法
行使時に新株ではなく自己株式を交付すれば、発行済株式総数は増えず、発行可能株式総数の枠も消費しません。上場企業は市場から買い付けた自己株式をストックオプションの交付に充てることができます。
ただし、自己株式には議決権がなく(会社法308条2項)、EPSの分母からも除かれています。交付すれば議決権のある株式が増えるので、交付直前と比べれば議決権比率もEPSも希薄化します。希薄化を相殺しているのは、事前の自己株式取得で株式数を減らした分です。その取得には分配可能額の範囲内という財源規制があり、現金も使います。行使価格と取得価格の差額分の価値も既存株主から移るので、自己株式の交付は希薄化を消す手段ではなく、株式数の増加を買戻しで打ち消す手段と考えてください。
ストックオプション・プールで発行枠を管理する方法
未上場のスタートアップは、2024年に始まった産業競争力強化法21条の19のストックオプション・プール制度を使えます。設立15年未満の株式会社が経済産業大臣と法務大臣の確認を受けると、株主総会で新株予約権の内容と数の上限を決めたうえで、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任できます。通常の会社法239条3項にある「割当日は決議の日から1年以内」という制限がかかりません。
希薄化の観点では、株主総会が最初に上限株数を決めるので、既存株主は最大の希薄化を前もって知ったうえで承認できる点が利点です。採用のたびに株主総会を開かずに済む一方、上限は資本政策の段階で慎重に決める必要があります。確認を受けるには、総株主の議決権の3分の2以上を持つ株主が発行条件等について合意していることなどの省令要件があります。
希薄化を理由にストックオプションを見送るべき場面
次の条件に当てはまるなら、ストックオプションの追加発行は見送るか、現金報酬や業績連動賞与に切り替えるべきです。
- 創業者の完全希薄化後の持分が3分の2または過半数の境目に近く、次の資金調達でさらに下がる見込みがある
- 既存の未行使残高だけで潜在株式比率が10%前後に達しており、上場までに採用する幹部層への枠が残らない
- 普通株式の評価額に比べて著しく低い行使価格での追加付与を予定しており、付与の対価となる勤務・業績条件を既存株主に説明できない
3つ目には税制面の問題も重なります。行使価格が税務上の付与契約時の1株当たり価額を下回ると、税制適格の価額要件を満たしません。未上場株式では、直近の調達株価だけで判定せず、認められる評価方法を確認します。導入の判断全体はストックオプション導入の目的と手順|経営者が先に決める5項目と見送る判断も参考にしてください。上場準備に合わせた資本政策や新株予約権の管理体制づくりは、IPO準備・内部統制システム支援で相談を受け付けています。
ストックオプションの希薄化に関するよくある質問
ストックオプションの希薄化とは簡単に言うと何ですか?
ストックオプションが行使されて新しい株式が発行され、既存株主の持株比率や1株当たりの利益が下がることです。たとえば発行済株式100万株の会社で10万株分が行使されると、10%を持っていた株主の比率は約9.09%に下がります。行使前でも潜在株式として株価やバリュエーションに織り込まれるため、実質的な影響は発行を決めた時点から始まります。
ストックオプションの希薄化率は何%までが目安ですか?
法令上の上限はなく、会社法113条4項の発行可能株式総数の枠が制約になるだけです。実務の目安は、未上場企業ならIPO時の潜在株式比率8〜10%前後、上場企業ならISSの基準である成熟企業5%・成長企業10%(既存の未行使残高を含めた合計)です。分母を発行済株式数にするか完全希薄化後株式数にするかで数字が変わるので、比較するときは計算式をそろえてください。
ストックオプションを発行すると株価は下がりますか?
発行の発表だけで必ず下がるわけではありません。希薄化率や業績条件は投資家の判断材料になりますが、それだけで発表後の株価反応の大きさは判断できません。一方、潜在株式が多い会社では、行使された株式が市場で売られることによる需給の悪化が意識されます。上場企業が適時開示で希薄化率と合理性を説明するのはこのためです。
自己株式を使えばストックオプションの希薄化は起きませんか?
起きます。自己株式を交付しても発行済株式総数は増えませんが、議決権のない自己株式が議決権のある株式に変わるため、交付直前と比べて既存株主の議決権比率やEPSは希薄化します。時価より安い行使価格で株式を渡す以上、差額分の価値も既存株主から行使者へ移ります。希薄化を打ち消せるのは、交付に先立って自己株式を買い戻した分だけで、その取得には現金と分配可能額の範囲内という財源規制が伴います。
行使されていないストックオプションも希薄化に含めますか?
含めます。ISSは提案分と発行済の未行使残高を合計して判定し、資本政策表や投資家のバリュエーションも未行使分を潜在株式として数えます。ただし、会計上の潜在株式調整後EPSでは、期中平均株価が行使価格を下回るストックオプションは希薄化効果がないとして計算に含めません。退職などで失効した分は残高から外します。