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ESOP(イソップ)とは?日本版の仕組み・持株会との違い・分配金の計算と税務

ESOP(イソップ)とは?日本版の仕組み・持株会との違い・分配金の計算と税務

ESOP(イソップ)は Employee Stock Ownership Plan の略で、米国では内国歳入法(IRC)401(a)に基づく退職給付制度の一種を指します。日本で「日本版ESOP」と呼ばれるものは米国制度の輸入ではなく、信託を使って組み立てた別のスキームです。両者を同じものとして読むと、税制優遇の有無や退職金との関係を取り違えます。化粧品ブランドのAesopとは無関係です。

この記事では、日本版の2類型の資金の流れ、分配金がどう計算され誰が受け取れないのか、持株会・ストックオプションとの違い、会計処理と課税、労働基準法上の論点を、国税局の文書回答事例や企業の適時開示に当たって整理します。

まとめ:ESOPの要点と、日本版で先に決めるべき論点

ESOPは米国では退職給付制度、日本版ESOPはインセンティブ制度です。

論点 米国ESOP 日本版ESOP
法的な位置づけ IRC 401(a)の適格確定拠出型 信託契約による私的スキーム
専用の税制優遇 あり なし
従業員の拠出 不要 持株会型はあり/株式給付型は原則なし
主な受け取り時期 退職時 信託終了時または受給権の取得時

従業員の立場なら、持株会型の分配金は信託期間中に持株会へ積み立てた額(制度によっては買い増した株数)に応じて按分され、国税局の事例やネクステージのE-Shipのように、自己都合で退職すると受け取れない設計が多いと押さえてください。会社の立場なら、決める順序は「どちらの類型か」→「給付が賃金に当たらない設計か」→「分配金の所得区分と源泉徴収の手当て」です。

ESOPの定義と読み方|米国では退職給付制度、日本版は信託スキーム

読み方は「イソップ」です。「イーソップ」と読まれることもありますが、実務上はイソップで通じます。

米国ESOPの法的定義|IRC 401(a)の適格確定拠出型

米国の内国歳入庁(IRS)は、ESOPを「IRC 401(a)に基づく適格確定拠出型の制度で、ストックボーナスプラン、またはストックボーナスとマネーパーチェスの組み合わせであるもの」と定義しています。IRC 4975(e)(8)が定める適格雇用者証券に主として投資するよう設計されている必要もあります。401(k)と同じ退職給付制度の枠内にある制度です。

規模は日本と比べものになりません。全米従業員オーナーシップセンター(NCEO)の「Employee Ownership by the Numbers」(2026年1月更新・2023年のForm 5500が基礎)では、米国のESOPは6,609プラン・6,411社、うち非公開企業が5,993社、上場企業が418社です。参加者は1,510万人で、日本の従業員持株会の加入者330.2万人(東証2024年度調査)の4倍を超え、保有資産は2兆ドルを超えます。非公開企業のESOPの59%は借入で株式を買うレバレッジ型で、借入で一括取得する点は日本の持株会型と同じ発想です。プラン数では9割超(6,098プラン)が非上場企業ですが、参加者(約1,224万人)と資産(約1.69兆ドル)の8割強は上場企業のプランに集まっています。非上場企業では、オーナーの持株を従業員へ移す事業承継の手段として使われるのが典型です。

名前の似たESPP(Employee Stock Purchase Plan)は別制度です。IRC 423条の適格ESPPは従業員が自分の資金で自社株を買う制度で、購入価格は付与時と行使時の時価のいずれか低い方の85%以上、購入枠は付与時の時価で年2万5,000ドルまで。会社が原資を出すESOPより、従業員が拠出する日本の持株会に近い仕組みです。

日本版ESOPが別物である理由|専用の税制優遇が存在しない

日本版ESOPには、米国のような制度専用の税制優遇はありません。根拠となる単独の法律もなく、会社法・労働基準法・法人税法・所得税法の一般規定の中で適法性を確保する形をとります。

この構造は、2008年11月17日に経済産業省の「新たな自社株式保有スキーム検討会」がまとめた「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」で整理されました(経産省側の掲載は終了しており、リンク先は企業会計基準委員会に提出された写しです)。同報告書は、持株会の限界として「従業員持株会の自社株式保有割合は僅かなものに留まること」「従業員は、従業員持株会から任意に株式持分を引き出すことができること」を挙げ、信託が将来分の株式を一括取得する新スキームの論点を洗い出しています。日本版ESOPは、この持株会の弱点を埋めるために設計されたものです。

日本版ESOPの2類型|従業員持株会型と株式給付型の資金の流れ

一般社団法人信託協会は、従業員向けの株式交付信託を「株式給付型」と「従業員持株型」の2つに整理しています。

比較軸 従業員持株会型 株式給付型(J-ESOP)
株式の取得原資 信託の借入(会社が保証) 会社が信託に拠出する金銭
従業員の拠出 あり(持株会へ毎月拠出) 原則なし
従業員が受け取るもの 信託終了時の残余財産(金銭) ポイントに応じた自社株式
受け取り時期 信託終了時 受給権の取得時(在職時か退職時かは規程で定める)
株価下落時の負担 会社が保証契約で弁済 会社(拠出済みの信託財産)
主な商品名 E-Ship、従業員持株ESOP信託 J-ESOP、株式付与ESOP信託

従業員持株会型(E-Ship等)|信託が借り入れて買い、持株会へ時価で売る

信託が金融機関から借り入れて自社株式を一括取得し、会社がその借入を保証します。信託は信託期間を通じて、毎月持株会へ拠出された金銭の範囲で株式を時価で持株会へ譲渡し、売却代金と受取配当金で借入を返済する流れです。議決権の行使を指図するのは、受益者のために選ばれた信託管理人です。

野村證券と野村信託銀行が開発した「信託型従業員持株インセンティブ・プラン(E-Ship®)」はこの型の代表です。ネクステージが2025年4月25日に公表したE-Shipの導入の開示では、信託期間は2025年4月25日から2030年4月30日まで、株式の取得価格の総額は信託の借入総額として4,400百万円が上限です。株価が下がって借入残が出れば、会社が保証契約に基づいて弁済します。従業員に追加負担が及ばない代わりに、株価下落リスクを会社が引き受ける構造です。

株式給付型(J-ESOP)|ポイント付与と受給権取得時の株式交付

J-ESOPはみずほ信託銀行の商品名で、株式給付型の代表例です。会社が金銭を信託し、信託銀行が市場等から自社株式を取得したうえで、社内規程に基づいて従業員に付与したポイントに相当する株式を給付します。従業員の金銭負担は原則ありません。

森永乳業は2024年5月14日に株式給付信託(J-ESOP)の導入を公表し、「当社は、社員に対しポイントを付与し、一定の条件により受給権を取得したときに当該付与ポイントに相当する当社株式を給付します」と説明しています。信託金額は12億円、信託期間は2024年6月10日から特定の終了期日を定めず制度が続く限り継続する設計で、対象は株式給付規程の受益者要件を満たす社員です。株式給付型の課税や在職時・退職時の違いはESOPとストックオプションの違い|株価が下がったときの価値・課税時期・会社負担を比較で詳しく扱っています。

分配金の計算と受け取れる人|持株会型の残余財産は拠出割合か買い増し株数で按分

「ESOPの分配金はいくらになるのか」「いつもらえるのか」は、持株会型に加入している従業員が最も知りたい点です。計算の基準は信託契約ごとに定めます。東京国税局の文書回答事例「従業員持株会を利用した信託型インセンティブプランに係る税務上の取扱いについて」に実際のスキームの計算方法が書かれており、企業の適時開示にも基準が載っています。

分配金の計算式と試算例

同事例のスキームでは、信託終了時に残った株式を換価し、借入金を返済して残余財産を確定する流れです。そのうち損失準備金を除く部分が、受益者が「本件持株会を通じて信託期間中に購入し増加した当社株式の数を基準とする分配割合」に応じて金銭で交付されます。東急が2024年11月8日に公表した従業員持株ESOP信託の導入の開示は「受益者に対し信託期間内の拠出割合に応じて信託収益が金銭により分配されます」としています。毎月の拠出金で時価の株式を買うので、株数基準でも拠出割合基準でも、信託期間中に多く積み立てた人ほど多く受け取る点は同じです。勤続年数や役職は物差しになりません。

仮の数字で計算すると次のようになります(計算の流れを示すための仮定で、実在の制度の数値ではありません)。

項目 仮定の数値
信託終了時の残余財産(借入返済・損失準備金控除後) 1億円
受益者全員の信託期間中の拠出額の合計 10億円
Aさんの拠出額(月5万円×48か月) 240万円
Aさんの分配金(1億円×240万÷10億) 24万円

24万円は給与所得として会社が源泉徴収したうえで支払われます。残余財産は、持株会への売却代金と配当の累積から、借入の元利金と保証料・信託報酬などの費用を差し引いた残りです。信託期間を通じた売却価格が取得価格を大きく上回らなければ、残余はほとんど出ません。株価が下がって借入が残っても、従業員が負担することはありません。

配当金の行き先と、分配金を受け取る時期

信託が保有している株式の配当金は、従業員には直接届きません。野村信託銀行のE-Shipの説明のとおり、株式売却代金と並んで借入の元本・利息の返済に充てられ、返済後に残った分が残余財産に含まれます。持株会がすでに買い付けた株式の配当は通常の持株会と同じく持株会に入り、多くの持株会では株式の買付けに充てられます。

分配金を受け取るのは信託が終わった後です。同事例では、信託財産の株式がすべて持株会へ売却された日を受益権確定事由とし、翌日に信託が終了、受益の意思表示の期限を経てから分配金が交付されています。受益の意思に係る確認書を期日までに出さないと受益者として確定しない点に注意してください。

自己都合退職者は対象外|E-Shipのデメリットになりやすい受益者要件

分配金を受け取れる人は限られます。同事例の受益者要件は、受益権確定事由の発生日に従業員か、定年退職・会社都合の転籍・役員就任で退職した者で、かつ生存していること、信託期間中に2年以上持株会に加入し確定日に加入員(加入員だった退職者を含む)であること、受益の意思表示をしていることの3つでした。文書回答の理由欄は「対象受益者に受益権確定事由発生日以前に自己都合により退職した者は含まれず」と明記しています。ネクステージのE-Shipも、受益者適格要件で退会者のうち含めるのを「定年退職、転籍、役員就任によって持株会を退会した者」に限っています。

従業員側から見たデメリットは、この要件に集約されます。信託期間の途中で自己都合で転職すると、持株会で買った株式は手元に残りますが、信託の残余財産の分配は受けられません。株価が取得時の水準から伸びなければ分配金はほとんど残らず、受け取れたとしても退職所得控除の使えない給与所得です。加入を続けるかどうかの判断は持株会はやめたほうがいい?奨励金の手取り額と自社株比率で決める判断基準【2026年】も参考になります。

従業員持株会・ストックオプションとの違い|原資・引き出し・賃金性の3軸

従業員持株会との違い|原資の出し手と、引き出しの自由度

従業員持株会は、従業員自身が給与や賞与から拠出して自社株を買い増す制度で、会社の負担は奨励金にとどまります。株式給付型のESOPは会社が原資を出し、従業員は拠出しません。持株会型のESOPは持株会そのものを残したまま、信託が株式の買い手と株価上昇益の受け皿を担う上乗せの仕組みです。

もう一つの差が引き出しの自由度です。持株会では引き出し単位に達した持分を任意に引き出せるため、長期保有のインセンティブが効きにくくなります。前掲の経産省報告書が持株会の限界として挙げたのがこの点です。

東京証券取引所の「2024年度従業員持株会状況調査結果の概要について」(2026年2月16日公表・2025年3月31日現在)によれば、加入率は40.12%、持株会の株式保有比率は0.91%です。同じ調査の推移表では、2008年3月末(2007年度)の加入率は45.84%、市場価格ベースの保有比率は0.85%でした(経産省報告書も加入率約45.84%を引用)。17年で加入率は5ポイント以上下がり、保有比率はほぼ横ばいです。ESOPが解こうとした「従業員持株会の自社株式保有割合は僅かなものに留まること」という課題は、17年経っても解けていません。

ストックオプションとの違い|権利行使の有無と、利益が確定する時点

ストックオプション(SO)は新株予約権を付与する制度で、従業員が自分の判断で権利を行使して初めて株式を取得します。ESOPは信託が先に株式を取得します。

この差は労働法の評価にも表れます。SOについては、通達(平成9年6月1日基発第412号)が「この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第11条の賃金には当たらない」としています。経産省報告書はこれに沿って整理する一方、ESOPの株式給付は給付時点で使用者の支出が分明なため、賃金性が肯定される要素があるとしました。持株会とSOの比較軸はストックオプションと持株会の違いを5軸で比較|令和6年税制改正と導入判断で扱っています。

会計処理と課税|実務対応報告第30号と国税局の文書回答事例

総額法による自己株式の計上(実務対応報告第30号 第5項・第8項)

会計の根拠は、企業会計基準委員会が平成25年12月25日に公表した実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」です。一定の要件を満たす信託では、企業は期末に総額法を適用し、信託の財産を個別財務諸表に計上します(第5項)。

信託に残る自社株式は、信託における帳簿価額(付随費用を除く)で株主資本の自己株式として計上します(第8項(1))。持株会へ売却した株式の売却差損益、信託が保有する株式への配当金、信託の諸費用の純額は、正の値なら負債に、負の値なら資産に計上します(第8項(2))。信託を通じていても自己株式として株主資本の控除項目に立つため、自己資本比率や1株当たり指標への影響を導入前に試算してください。持株会型では信託の借入金も総額法で貸借対照表に載り、その帳簿価額の注記が求められます(第16項(3))。

持株会型の分配金は給与所得|退職者に渡る分も退職所得ではない

前掲の文書回答事例は、会社の従業員・退職者・子会社の従業員・子会社の退職者に交付される分配金をいずれも給与所得としています。退職者分については、分配金が「他の引き続き勤務している者に支払われるものと同じ基準で計算することとしているため、退職所得には該当しない」と述べています(所得税基本通達30-1)。退職金に近い制度だから退職所得になる、という直感は通りません。

実務上の論点はほかに4つあります。収入すべき時期は受益の意思表示の期限として定めた日で、その日に請求権が確定します。非居住者に交付する場合の国内源泉所得は、計算の基準期間のうち国内勤務期間の割合を乗じた額。支払債務を負い実際に支払うのが親会社なら、子会社従業員の分も親会社が源泉徴収義務者です。法人税では、支払債務が確定する日を含む事業年度に損金算入します。従業員が自分で確定申告する場面は持株会の確定申告のやり方|配当・売却・退会の書き方と取得費【令和8年分】で整理しています。

株式給付型は結論が同じとは限りません。信託協会の「株式交付信託の基本的な税務上の取扱い(別紙1)」は、在職時給付タイプは権利確定日の時価相当額を給与所得、退職時給付タイプは同額を退職所得の収入金額とする整理を示しています。持株会型が退職者分も給与所得とされたのは、在職者と同じ基準で計算され給付事由を退職に紐づけていなかったからです。

給与明細の「ESOP」「イソップ」項目の意味

給与明細の「ESOP」「イソップ」という表記は、会社が付けた給与項目名で、法令や様式に定義はありません。持株会型を導入している会社なら持株会への拠出金の控除、または信託終了時の分配金の支給(給与所得として源泉徴収の対象)を指すことが多く、株式給付型なら株式交付に伴う課税額の調整や、端数を時価換算した金銭の支給を指すことがあります。株式給付型の交付分は、在職中なら給与所得、退職時給付タイプなら退職所得として扱う整理(前掲の信託協会 別紙1)なので、どちらの欄に載っているかも手がかりになります。どれに当たるかは会社の株式給付規程や持株会の案内で確認してください。

ESOPを退職金の代わりにできるか|賃金の通貨払いと強制貯蓄の禁止

結論から言うと、既存の退職金を減らしてESOPに置き換える設計はできないと考えてください。退職時に無償で自社株式を給付する型では、その株式が労働基準法11条の「賃金」に当たると、24条の通貨払いの原則に抵触します。株式は通貨ではないからです。

経産省報告書は、退職時給付型が「福利厚生施設」に当たり賃金に該当しないと整理できる条件として、次の3つをいずれも満たすことを挙げています。

  • 通貨による賃金・退職金を減額することなく、付加的に給付されるものであること
  • 労働契約や就業規則において、賃金・退職金として支給されるものとされていないこと
  • 通貨による賃金と退職金の合算水準が、スキーム導入時点の株価で評価した株式給付と比べて、労働者が受ける利益の主であること

同報告書は、通貨による賃金・退職金を減額して株式給付制度を設ける場合は「貨幣賃金の代わり」に該当すると解さざるを得ないとし、労働契約や就業規則に「退職金として株式を給付する」と定めれば賃金性が肯定されるとの見方も示しています。退職金の「代わり」ではなく「上乗せ」としてしか組めない、というのが実務上の答えです(労働協約で別段の定めをすれば実物給与は可能ですが、効力は協約の適用を受ける組合員に限られます)。

もう一つが労働基準法18条の強制貯蓄の禁止です。持株会型で長期保有を促そうと、持株会の株式の引き出しを一定期間制限する設計を考えることがあります。経産省報告書の整理では、従業員が自分の拠出で買った分に実務上の単位を超える引き出し制限を課すことは原則認められず、制限をかけられるのは会社の奨励金で取得した分に限られます。

ESOPのメリット・デメリット|機能する企業と見送るべき企業

メリットとデメリットを同量で並べても判断はできません。実務で効く順に書きます。

機能する条件|上場かつ既存の賃金・退職金を維持したまま原資を出せること

ESOPが機能するのは、上場していて株式に流通市場があり、既存の退職金・賃金水準を維持したまま追加原資を出せる企業です。この条件が揃うと、株主構成の安定化、従業員への中長期インセンティブ、信託管理人を通じた議決権行使という効果が同時に取れます。持株会型なら従業員の拠出は通常の持株会と変わらず、株価上昇益だけが上乗せされるので、従業員の追加負担なしに業績と報酬を連動させられます。東急の取得株式の総額5,539百万円、ネクステージの借入上限4,400百万円のように、数十億円規模の自社株を信託に持たせても資本政策上の問題が出ない規模が目安になります。

見送りを推奨するケース|非上場・退職金の付け替え・株価低迷

非上場企業には見送りを推奨します。株式の流通市場がないので株価評価と買取義務の設計が制度の中心課題になり、インセンティブ効果より事務負担が上回るためです。非上場での落とし穴は非上場企業で持株会を導入するデメリット|株価評価・配当・支配権の落とし穴と回避策で扱っています。

退職金原資の付け替えを前提にしている場合も、前章の3要件を満たせず通貨払いの原則に抵触するリスクを抱えます。株価が長期的に低迷している企業では、持株会型の借入残を会社が一括弁済することになり、業績が悪い局面で追加のキャッシュアウトが発生します。野村信託銀行もE-Shipの留意事項で「委託者は、借入金に関する保証人として、対象株式の価格下落リスクを負うことになります」と明示しています。制度が最も苦しいときに会社を追い詰める設計です。株式を実際に交付せずにインセンティブだけを設計したい場合は、ファントムストックとは?仕組み・税金・会計処理とストックオプションとの違い【2026年】も比較対象に入ります。

導入の進め方|制度設計から信託設定までの実務手順

  1. 類型の決定。既存の持株会の有無と原資の出し方から、持株会型か株式給付型かを決めます。
  2. 規程の整備。株式給付規程や受益者要件(加入期間、自己都合退職者の扱い)を定めます。ここの文言が賃金性と所得区分を左右します。
  3. 会計・税務インパクトの試算。総額法による自己株式計上の影響と、分配金の源泉徴収事務を確認します。
  4. 信託契約の締結。株式給付型は信託金額、持株会型は借入額と会社保証の範囲を決めます。
  5. 取締役会決議と適時開示。信託金額(取得株式の総額)・信託期間・受益者要件が開示項目になります。
  6. 従業員への説明。受益者要件、分配・給付の時期、給与所得として源泉徴収されることを周知します。

商品名は金融機関ごとに違い、りそな銀行の従業員持株会支援信託(ESOP)のように同じ持株会型でも呼称が異なります。名称ではなく、資金の出し手と給付物、受益者要件で比較してください。

よくある質問

ESOPの読み方は? 化粧品ブランドのイソップとは関係ありますか?

読み方は「イソップ」で、Employee Stock Ownership Plan の頭文字です。オーストラリア発の化粧品ブランドAesopとは無関係で、Aesopの株価や株主優待を調べている場合は本記事の対象ではありません。なお東京証券取引所は従業員持株会状況調査の英文表記に Employee Stock Ownership Plan を用いており、日本の従業員持株会も英語ではESOPと訳されます。

日本版ESOPに税制優遇はありますか?

制度専用の税制優遇はありません。日本版ESOPは信託契約による私的スキームで、会計は実務対応報告第30号、課税は所得税法・法人税法の一般規定に従います。

ESOPを導入している企業にはどこがありますか?

導入企業は適時開示で確認できます。持株会型では、東急が2024年11月に従業員持株ESOP信託(取得株式の総額5,539百万円)、ネクステージが2025年4月にE-Ship(借入総額の上限4,400百万円)の導入を公表しています。株式給付型では森永乳業が2024年5月にJ-ESOPの導入を公表しました。TDnetで「E-Ship」「従業員持株ESOP信託」「株式給付信託」を検索すると、ほかの導入企業の開示も見つかります。

非上場企業でもESOPを導入できますか?

制度上は可能ですが、実務では推奨しません。株価の評価と退職者の株式の買取りが制度の中心論点になるためです。米国では非上場株式の評価に独立鑑定人を使うこと(IRC 401(a)(28)(C))と、退職者が会社に公正な評価式での買取りを求められる権利(IRC 409(h))が法定されており、評価と買戻しの仕組みが制度に組み込まれています。

ESOPを導入すると従業員持株会は廃止になりますか?

持株会型は持株会を前提とする設計なので、廃止ではなく併存します。株式給付型は持株会と独立した制度なので、持株会を残したまま追加で導入できます。

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