シェアードサービスとは、グループ各社がそれぞれ抱えている経理・人事・総務などの間接業務を1つの組織に集め、共通の手順でまとめて処理する仕組みです。集めた先の組織をシェアードサービスセンター(SSC)と呼びます。業務を外部の会社に任せるBPOとは違い、担い手はグループの内側に残ります。
導入の判断で見落とされやすいのは、SSCを子会社にしたあとに効いてくる法律と税務です。社員を派遣で出すなら労働者派遣法の8割規制がかかり、グループ会社から受け取る料金の決め方は寄附金や移転価格の論点になります。この記事では、BPOとの違いと形態の選び方、失敗の典型を整理したうえで、こうした実務上の制約を条文と国税庁の要領から確認します。
まとめ:シェアードサービスの要点
- シェアードサービスは、グループの間接業務を1つの組織(SSC)に集約し、標準化と一括処理で生産性と品質を上げる仕組みです。英語ではShared Services、海外拠点や外部委託まで束ねた形はGBS(Global Business Services)と呼ばれます。
- BPOとの違いは担い手の所在です。SSCはグループ内に知見とデータが残り、BPOは外部の専門会社の仕組みを使えます。
- 本社の一部門として置くか専用の子会社にするかは、対象会社の数、SSC専用の人事制度の要否、会社設立・転籍の負担、グループ外への業務提供の予定で決めます。
- 子会社のSSCから社員を派遣で出す場合、親会社やその連結子会社など法令上の「関係派遣先」への派遣は、派遣就業の総労働時間の80%以下に抑える義務があります(労働者派遣法第23条の2。60歳以上の定年退職者の分は分子から除く)。
- グループ会社から受け取る料金が時価より低いと、差額が寄附金とみなされるおそれがあります。海外の関連会社向けには、国税庁の要領に「総原価+5%」の簡便法があります。
- 失敗の典型は、短期のコスト削減だけを目的にする、業務を集めただけで標準化しない、システムを統一しない、の3つです。
シェアードサービスの意味と英語表記:SSC・GBSの違い
シェアードサービスは、複数の会社や事業部が同じように行っている業務を1か所に移し、まとめて処理する仕組みです。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポート「再注目!シェアードサービスによるグループの生産性向上」(2021年3月)は「グループの管理・間接機能を一つのところに集め、業務の標準化、一括処理等を図る仕組み」と定義し、日本には2000年前後に入ってきて大企業を中心に広がったと説明しています。
集約の対象になるのは、経理(仕訳・支払・経費精算)、人事・給与(給与計算・社会保険手続き)、総務、情報システムの運用、購買など、どの会社でも似た手順で発生する処理です。同じレポートは、経営に直結する企画業務は移管に向かないとしています。一方で、処理業務だけでなく専門的な業務や相談対応、企画の支援まで業務範囲を広げているSSCもあると説明しています。経営方針の決定は各社や本社に残し、それを支える処理と専門的な支援をSSCに集める、という線引きが基本です。
英語表記と略語の使い分け
| 表記 | 意味 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| Shared Services | 集約の仕組みそのもの | 英文の組織説明 |
| SSC(Shared Service Center) | 集約先の組織・拠点 | 社内組織名・子会社名 |
| GBS(Global Business Services) | SSC+外部委託+CoEの総称 | 多国籍企業の本社機能 |
GBSについて、Deloitteは「shared services、outsourcing、centers of excellence(COEs)を包含し、複数の事業部門にサービスを提供する中央集約型のサービス提供モデル」と定義しています。社内のSSC、外部のBPO、専門家集団のCoE(センターオブエクセレンス)を組み合わせて全体を設計する考え方で、SSCはその一部という位置づけです。
起源としては「1980年代の米GEが最初」という説明がよく見られますが、GE自身の資料では確認できません。shared servicesという言葉自体は、1978〜1979年に米国の都市部病院を対象に行われた共同サービスの調査をもとにした論文「Shared services—A recipe for cost-cutting in hospitals」(Long Range Planning誌、1981年12月)にすでに登場しています。起源を特定の企業に結びつける説明は、出典を確かめてから使うのが安全です。
BPO・本社集約・子会社方式との違い
「業務を自部門から切り出す」という点では、シェアードサービスとBPOはよく混同されます。違いは、業務を担う組織がグループの内か外かです。BPOの意味と契約形態はBPOとは?意味と派遣・請負・準委任との違い、偽装請負にならない委託の線引きで詳しく扱っているので、ここでは比較の軸だけを並べます。
| 比較軸 | SSC(本社内) | SSC(子会社) | BPO |
|---|---|---|---|
| 担い手 | 本社の一部門 | グループ内の別法人 | 外部の専門会社 |
| 知見・データ | 社内に残しやすい | グループ内に残しやすい | 共有・返還の契約が必要 |
| 費用の性質 | 固定費(人件費) | グループ内の取引 | 委託料(変動費寄り) |
| 統制の手段 | 社内の指揮命令 | 契約・SLA+資本関係 | 契約・SLA |
| 立ち上げの負担 | 中 | 大(会社設立・転籍) | 小 |
| 主な法的論点 | 少ない | 派遣・委託の区分、料金 | 偽装請負、個人情報 |
BPOは委託先の仕組みと人員を使えるため、組織を新たに作る負担は小さく済みます。ただし移管には業務の棚卸しと手順書の整備が必要で、業務の知見は委託先に移りやすくなります。手順書の更新義務や、契約終了時のデータと手順書の返還を契約に入れておくと、知見を委託元に残せます。シェアードサービスは立ち上げに時間がかかりますが、集めたデータと人材がグループ内に残り、経営判断に使えます。両者は二者択一ではありません。SSCで標準化した業務の一部を、さらにBPOへ出す組み合わせもよく取られます。
本社内に置くか子会社にするかの判断
SSCを本社の一部門に置くか、専用の子会社として独立させるかは、導入時に必ず決める論点です。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートは、法人として独立させると、サービスを提供する側と受ける側の間に適度な緊張感が生まれて生産性を上げやすい反面、関係が疎遠になってサービスの品質が下がったり、グループの一体感が薄れたりする場合があるとしています。
判断の目安は次のとおりです。
- 子会社が向く:対象がグループ会社の多数に及び、料金と評価を契約で明確にしたい。SSCの社員に専用の人事制度(処遇・キャリアパス)を用意したい。将来、グループ外の会社からも業務を受けたい。
- 本社内が向く:対象会社が少ない、または本社の業務が大半を占める。転籍や会社設立の負担を避け、まず一部の業務で効果を確かめたい。
同じレポートは、法人格を分けなくても、明確なサービス内容と評価基準を伴った契約を結べば生産性と品質は担保できると指摘しています。本社内に置く場合も、受け手とのサービスレベル合意は文書にしておくべきです。合意の作り方はSLA(サービスレベル合意)とは?定義・SLOとの違い・要件と稼働率保証を解説が参考になります。
子会社型SSCで効く法規制と料金設定
SSCを子会社にすると、グループ会社との関係は「社内の部署どうし」から「別の法人どうしの取引」に変わります。このため、人の出し方と料金の決め方に、本社内のSSCにはない制約がかかります。人を派遣で出すか業務委託で受けるか、料金をどう決めるかは、子会社を設立する前に決めておく必要があります。
派遣で社員を出す場合:関係派遣先への8割規制
SSC子会社が労働者派遣事業の許可を取り、グループ会社へ社員を派遣する形にすると、労働者派遣法第23条の2がかかります。条文は、派遣元を実質的に支配できる関係にある会社など(関係派遣先)への派遣割合を「百分の八十以下となるようにしなければならない」と定めています。
算定方法は同法施行規則第18条の3第4項にあります。
- 分子:1事業年度の、関係派遣先での派遣就業の総労働時間
- 分母:同じ年度の、全派遣先での派遣就業の総労働時間
- 60歳以上の定年で退職した後に雇用している派遣労働者の労働時間は、分子からだけ除く(分母には含める)
- 小数点以下1位未満は切り捨て
関係派遣先の範囲は同条第1項で決まり、SSC子会社が連結子会社なら、親会社とその連結子会社が該当します。判定は派遣先の社数ではなく労働時間で行います。60歳以上の定年退職者を雇い入れて派遣するのでない限り、関係派遣先だけに派遣するSSCはこの基準を満たせません。関係派遣先以外への派遣で総労働時間の2割以上を確保するか、派遣ではなく業務委託で受けるかを最初に決める必要があります。
業務委託で受ける場合:指揮命令の線引き
8割規制は労働者派遣に対する規制なので、SSC子会社が実態としても請負や準委任で業務を受けている場合はかかりません。派遣か請負かは契約の名称ではなく実態で判断され、その基準は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)に定められています。グループ会社の社員がSSCの担当者へ直接、作業の手順や優先順位を指示すると、実態は派遣とみなされる偽装請負のおそれが出てきます。依頼はSSC側の責任者を窓口に通し、作業の進め方はSSCが決める形にしておくことが前提です。委託と派遣の線引きはBPOの解説記事の偽装請負の章で詳しく扱っています。
グループ会社から受け取る料金:寄附金と移転価格
SSC子会社がグループ会社から受け取る料金を時価より低く設定し、その差額が実質的な贈与と認められると、税務上の問題が出ます。法人税法第37条第8項は、経済的な利益の供与の対価がその時の価額より低いとき、実質的に贈与と認められる差額を寄附金に含めると定めています。法人による完全支配関係(100%の資本関係)がある内国法人どうしでは、低い料金でサービスを提供して利益を供与した側(この例ではSSC子会社)で、その寄附金が損金に算入されません(同条第2項)。
海外の関連会社にもサービスを提供する場合は、移転価格税制の対象になります。国税庁の移転価格事務運営要領3-10は、会計・税務・法務や債権債務の管理などがグループ内の役務提供に当たるかを、受け手にとって「経済的又は商業的価値を有するものかどうか」で判断するとしています。3-11には簡便法があり、中核事業に直接関連しない支援的な役務で、無形資産を使わないなどの要件をすべて満たせば、総原価を合理的な方法で配分した額に「100分の5」を加算した金額を独立企業間価格として扱えます。総原価には、担当部門や補助部門の一般管理費などの間接費も含める点に注意が必要です。
料金の水準について、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートは、被サービス提供会社との契約は人件費相当ではなく付加価値相当とし、互いの緊張感を保つべきだとしています(導入当初は人件費相当額でも可としています)。実務では、件数や処理時間などで原価を配分する方式を決め、その根拠を契約書と計算資料に残しておくと、税務と社内の納得感の両方に対応できます。具体的な処理は顧問税理士に確認してください。
導入の進め方:計画から業務移管までの5段階
三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートは、新規導入の手順を「計画策定」「業務調査、改善方針策定」「詳細設計」「業務引継」「業務移管」の順で示し、その後のKPIによるモニタリングまでを図にしています。以下は、それをもとに記事側で5段階に整理し直したものです。
- 計画策定:導入目的・期待効果・対象業務・対象会社を決め、最終形までのスケジュールを描く。
- 業務調査と改善方針:業務の棚卸し、工数調査、業務フロー分析で現状を把握し、移管する業務を選んで概算の効果を見積もる。
- 詳細設計:新しい業務フロー、システム化、コスト試算、KPI、要員体制と運営ルールを決め、移行計画を作る。
- 業務の引き継ぎと移管:マニュアルを整え、担当者のスキルを移し、システムを順次導入する。
- モニタリングと拡大:KPIで評価して改善点に対応し、追加で移管する業務を検討する。
はじめからすべての業務を移すのではなく、対象業務や対象会社を段階的に増やす進め方もあります。最初の対象には、件数が多く、各社の手順の違いが小さい業務(経費精算・支払処理・給与計算など)を選ぶと、効果が早く数字に出ます。業務フローの描き直しから始めるなら、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の考え方が土台になります。
シェアードサービスが失敗する典型パターン
同じレポートには、導入支援の経験から挙げた注意点が並んでいます。失敗に直結するものを整理すると次のとおりです。
- 短期のコスト削減だけを目的にする:「短期的なコスト削減のみの目的では頓挫する」とされています。標準化・ガバナンス強化・管理部門の専門化を含む、中長期の取り組みとして位置づける必要があります。
- 業務を集めただけで標準化しない:各社の手順のままSSCに移しても、担当者が同じ部屋に集まっただけで生産性は上がりません。移管と同時に手順を統一します。
- システムを統一しない:会計や人事のシステムが各社でばらばらだと、標準化は進みません。システムの統一は計画の早い段階から組み込みます。
- SSCを余剰人員の受け皿にする:下請け的な扱いでは人材が育たず、品質も上がりません。業務処理の専門家集団として位置づけ、評価します。
- 対象を最初から広げすぎる:一度に多くの業務を移すと、移管時のトラブルが重なります。
- ボトムアップで進める:各社の手順を変える話なので、トップダウンでないと進まない、または最適な形にならないとされています。
同じレポートは、削減効果が最も大きいのはグループ本社であり、グループ会社で効果を出すには、その会社の管理・間接機能のほとんどを引き受けなければ大きな効果は上がらないとも指摘しています。ここから言えるのは、グループ会社が数社しかなく、それぞれの業務が事業ごとに固有で、システムを統一する予定もない企業には、SSCの新設は向かないということです。その場合は、業務単位で給与計算のアウトソーシングや経理アウトソーシングを使うほうが、立ち上げの負担に見合う効果を得やすくなります。
国内のシェアードサービス会社の例:NTTと日立
シェアードサービスを導入している大手企業は多く、専用の子会社を持つグループもあります。公式の会社概要で沿革が確認できる、2グループの3社を挙げます。
| 会社 | 設立・沿革 | 担う業務 |
|---|---|---|
| NTTビジネスアソシエ(現NTT ExCパートナー) | 1991年NTTリビング設立、1999年商号変更、2023年7月1日に経営統合 | 経理・財務、人事・給与、福利厚生、年金・健康保険 |
| NTTビジネスアソシエ西日本 | 2002年4月1日設立 | NTT西日本グループの人事・給与・総務・福利厚生・経理 |
| 日立マネジメントパートナー | 2006年4月設立(日立製作所100%) | 財務・人事関連業務 |
NTTの例は、社宅の手配・管理代行の会社として1991年に設立されたNTTリビングが、1999年にNTTビジネスアソシエへ商号を変え、NTTグループのシェアードサービス会社として経理・財務、人事・給与などへ業務を広げたものです。2023年7月1日にはNTTラーニングシステムズと経営統合し、NTT ExCパートナーとなりました。地域会社向けにはNTTビジネスアソシエ西日本があり、資本金の51%をNTT西日本、49%をNTT ExCパートナーが持っています(2026年10月時点の会社概要)。
日立マネジメントパートナーは、日立製作所の人事ソリューションセンタと、日立トリプルウィンの財務シェアードサービス部門を統合して2006年4月に設立されました。グループ内に既にあった人事と財務の集約組織を統合し、新会社として立ち上げた例です。
M&A後の統合とGBSへの拡張
M&A後のPMIでSSCが果たす役割
三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートは、シェアードサービスは事業再編と連動して行うことでより効果を発揮し、企業買収後の経営統合にも有効だとしています。買収した会社の経理や給与計算をSSCの手順とシステムに載せ替えれば、統合後の数字の集計とガバナンスを早く揃えられます。ただし、被買収会社の業務手順やシステムの違いを調べないまま移すと、前述の「集めただけで標準化しない」失敗をそのまま繰り返します。移管の前に、業務の棚卸しと手順の差の洗い出しを済ませておくことが前提です。
GBSと生成AI:Deloitteの2025年調査
Deloitteが続けている調査は、旧称「Global Shared Services and Outsourcing Survey」から現在の「Global Business Services Survey」へ名称が変わっています。第14回にあたる2025年版は、2024年第3四半期から第4四半期に実施され、30か国を超えるリーダーの回答を含みます。
発表資料によると、回答した組織の約50%がGBSで20%を超える削減を達成しています。生成AIについては、回答者の約58%が取り組みを始めたか計画中と答え、66%が調査時点から3年間のうちに投資する予定と答えていました。導入が進んでいる機能は財務とITです。SSCで業務とデータを1か所に集めておくことが、自動化の対象を選びやすくする前提になっています。
よくある質問
シェアードサービスとは簡単に言うと何ですか?
グループ各社がばらばらに行っている経理や給与計算などの事務処理を1つの組織に集め、同じ手順でまとめて処理する仕組みです。集めた組織をシェアードサービスセンター(SSC)と呼びます。本社の一部門として置く場合と、専用の子会社にする場合があります。
シェアードサービスとBPOの違いは何ですか?
業務を担う組織がグループの内か外かの違いです。シェアードサービスはグループ内の組織が担うため、知見とデータが社内に残ります。BPOは外部の専門会社に業務プロセスごと任せる形で、組織を新たに作る負担は小さい一方、知見が委託先に蓄積されやすいため、手順書の更新とデータ返還を契約で定めておく必要があります。SSCで標準化した業務の一部をBPOに出すように、両方を組み合わせる企業もあります。
シェアードサービスは英語で何と言いますか?
英語でもShared Servicesです。集約先の組織はShared Service Center(SSC)と呼びます。海外拠点や外部委託、専門家組織(CoE)まで含めて全体を設計する形はGlobal Business Services(GBS)と呼ばれます。
シェアードサービスを導入している大手企業はどこですか?
専用の子会社を持つ例として、NTTグループのNTTビジネスアソシエ(2023年7月にNTT ExCパートナーへ統合)とNTTビジネスアソシエ西日本、日立グループの日立マネジメントパートナーがあります。いずれも経理・財務や人事・給与などを担っています。子会社を作らず、本社の一部門としてSSCを置いている企業も多くあります。
中堅企業でもシェアードサービスを導入する意味はありますか?
グループ会社が複数あり、各社で同じ事務処理を重複して行っているなら意味があります。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2021年3月のレポートも、シェアードサービスは大企業だけのものではないとし、当時の動向として中堅企業や小売・卸売業でも導入が進んでいると述べています。一方、会社数が少なくシステムを統一する予定もない場合は、業務単位の外部委託のほうが負担に見合います。