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個人事業主は複数事業・二つ目の屋号を持てる?開業届の書き方と確定申告・事業税・インボイス

個人事業主は複数事業・二つ目の屋号を持てる?開業届の書き方と確定申告・事業税・インボイス

個人事業主は、1人で複数の事業を営めます。屋号も事業ごとに使い分けてかまいません。ただし税金の手続きは「屋号ごと」ではなく「人ごと」に組まれています。確定申告書は1通、青色申告の承認は1つ、インボイスの登録番号も1つで、消費税の1,000万円判定は全事業の合計で行います。

この記事では、2つ目の事業を始めたときに開業届が要る場面と欄ごとの書き方、令和8年からの提出期限、複数事業の確定申告書と決算書の書き方、業種で税率が変わる個人事業税の計算、帳簿の分け方、インボイスと簡易課税の注意点を、所得税法・地方税法・消費税法の条文と国税庁の案内に沿って整理します。

まとめ:複数事業と二つ目の屋号で押さえる要点

  • 屋号は税務署に「登録」する制度ではありません。開業届の屋号欄は参考記載で、複数書いても、後から変えてもかまいません。
  • 事務所を新設・移転したときは開業届の対象です。別の業種を新たに始めたときも、条文上は対象と読めます(出し忘れに罰則はありません)。令和8年1月1日以後の開業等は、その年分の確定申告期限までに出せば足ります。
  • 事業所得の事業がいくつあっても、確定申告書は1通です。事業所得はすべて合算し、赤字の事業があれば黒字の事業と相殺されます。
  • 青色申告特別控除は1人につき1つで、事業ごとに65万円ずつは取れません。令和9年分からは65万円の控除にe-Taxでの申告が必須になります。
  • 個人事業税は業種ごとに税率が5%・4%・3%と分かれ、税率の違う事業を兼ねると所得を按分して計算します。事業主控除290万円は1人に1回です。
  • インボイスの登録番号は1人に1つで、公表サイトに載せられる屋号も1つだけです。消費税の免税点は全事業の課税売上高の合計で判定します。
  • 簡易課税を選ぶなら、事業ごとに売上を区分して記帳します。区分しないと、その売上には低い方のみなし仕入率が当たります。

屋号と事業の関係:1人で複数事業を営むときの前提

個人事業主にとって屋号は、事業で使う呼び名にすぎません。会社の商号のように法人格と結び付いているわけではないので、1人の人がWeb制作では「A Studio」、物販では「B Shop」と名乗り分けても、税法上の納税者は本人1人のままです。

開業届の屋号欄の法的な位置付け

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の記載事項は、所得税法施行規則98条が定めています。氏名・住所・個人番号、開業や事務所の新設・移転・廃止の年月日、事業の概要、事務所等の所在地、「その他参考となるべき事項」で、屋号は法定の記載事項に挙がっていません。届出書の屋号欄は参考情報として記入するもので、書かなくても届出は成立します。

確定申告書にも「屋号・雅号」欄がありますが、国税庁の確定申告書等作成コーナーの案内では、事業に係る屋号や雅号がある場合に入力する任意の欄とされ、入力例では30文字以内です。

屋号の付け方:会社と誤認される文字の禁止と名前の例

個人事業主には法律上の「会社名」はなく、屋号がその役割を担います。名前は自由に決められますが、会社法7条により、会社でない者は名称や商号に「会社であると誤認されるおそれのある文字」を使えません。個人事業主が「株式会社〇〇」「〇〇合同会社」と名乗るのはこれに当たり、英語の「Inc.」「Co., Ltd.」のように会社を示す表記も避けます。

使いやすいのは「〇〇商店」「〇〇デザイン事務所」「〇〇工房」「〇〇Studio」のように、業種や作風を表す語を組み合わせた名前です。2つ目の屋号は、1つ目と並べたときに別の事業だと分かる語を選ぶと、請求書や口座名義の取り違えが減ります。

屋号を法的に守る商号登記と商標登録

税務署への届出には、他人が同じ名前を使うのを止める効力はありません。名前の権利まで押さえたい場合は、別の制度を使います。

  • 商号登記:商法11条2項により、個人の商人も商号を登記できます(義務ではなく任意)。登記は営業所ごとに行い、商号・営業の種類・営業所・本人の氏名と住所が記録されます。法務省の登記記録例は、1人の商人が数種の営業について数個の商号を使う場合を想定しています。反対に、同じ営業所で同じ営業に複数の商号を使うことは認められないとされています。
  • 商標登録:商品やサービスの名前として独占的に使いたいなら、特許庁への商標登録が別に必要です。商号登記をしても商標権は生じません。

なお商法12条は、不正の目的で他の商人と誤認されるおそれのある名称を使うことを禁じています。2つ目の屋号を決める前に、同業者の名称と特許庁の商標検索(J-PlatPat)を確認しておくと、後から看板やドメインを変える手戻りを防げます。

2つ目の事業の所得区分と帳簿保存の要件

本業が事業所得でも、2つ目の事業の儲けが自動的に事業所得になるわけではありません。所得税基本通達35-2の注は、帳簿書類の保存がない場合は原則として業務に係る雑所得に当たるとしています(収入金額が300万円を超え、事業所得と認められる事実がある場合を除く)。収入が300万円以下かどうかで決まるのではなく、帳簿を付けて保存していることが前提で、そのうえで事業といえる規模や継続性があるかで判定されます。

雑所得になった事業の赤字は、事業所得の黒字と相殺できません。2つ目の事業も本業と同じ帳簿で記録し、事業として営んでいる実態を残しておくことが、確定申告の扱いを左右します。副業の所得区分の詳しい判定は副業の雑所得と事業所得の区分で解説しています。

二つ目の事業を始めるときの開業届:要否と令和8年からの期限

開業届が必要になる3つの場面

所得税法229条は、次のいずれかに当たったときに届出書を出すよう定めています(手続の案内は国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」)。

  • 新たに不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき事業を開始したとき
  • その事業に係る事務所・事業所などを設けたとき(増設を含む)
  • 事務所・事業所などを移転・廃止したとき

本業と別の業種を新たに始めた場合は、条文の「新たに…事業を開始」に当たると読むのが自然です。国税庁の届出書の書き方も、事業所得の事業を2以上(例として小売業と建設業)営む人を前提に、一部の事業だけを廃止するときの書き方を定めています。会計ソフト会社の解説には「屋号を追加しないなら再提出は不要」とするものもありますが、条文の文言に沿うなら出しておく方が確実です。届出書の事業の概要欄に追加した事業の内容を書き、屋号欄に新しい屋号を書いて提出しておけば、税務署側の記録と実態がそろいます。店舗や作業場を新しく借りたときは、事務所の新設として届出の対象になります。

一方、本業の延長で取扱商品やサービスを増やしただけなら、新しい事業の開始ではないので届出は要りません。なお、所得税法の罰則規定(238条〜243条)は229条の届出を対象にしておらず、出し忘れても罰則はありません。とはいえ、屋号付き口座の開設や融資で控えの提示を求められる場面は多いので、出しておく実益はあります。

2つ目の事業を書き込む開業届の記入欄

様式は1つ目の事業のときと同じ「個人事業の開業・廃業等届出書」です。国税庁の記載要領には職業欄や屋号欄に何を書くかの決まりはなく、事業の概要欄について「できるだけ具体的に記載」とあるだけです。2つ目の事業を届け出るときは、次のように書けば足ります。

欄 2つ目の事業を届け出るときの書き方
届出の区分 「開業」を○で囲む(店舗を借りただけなら「新設」)
所得の種類 事業所得(アパート賃貸なら不動産所得)
開業・廃業等日 2つ目の事業を始めた日
職業 主な事業を先に併記(例:Webデザイナー・雑貨販売)
屋号 使う屋号を併記(任意・空欄でも可)
事業の概要 2つ目の事業の内容(例:ハンドメイド雑貨のネット販売)
その他参考事項 「既存事業に加えて雑貨販売を開始」「屋号の追加」など

職業欄と屋号欄の順番に決まりはありませんが、収入の多い事業を先に書いておくと、確定申告書の職業欄・屋号欄と並びがそろいます。税務署への届出とは別に、2つ目の事業が許可制なら、その許可は事業ごとに取ります。飲食店を始めるなら食品衛生法55条の営業許可(都道府県知事)、中古品の売買を始めるなら古物営業法3条の許可(都道府県公安委員会)が代表例で、開業届を出しても許可の代わりにはなりません。

令和8年改正後の提出期限(確定申告期限まで)

令和8年1月1日以後に開業等をした場合、提出期限は「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」です(所得税法229条)。2026年中に2つ目の事業を始めたなら、2027年3月15日の確定申告期限までに出せば間に合います。改正前の「開業から1か月以内」と書かれた解説は、令和7年以前の開業向けです。

注意したいのは青色申告承認申請書の期限で、こちらは改正されていません。ただし青色申告の承認は人単位なので、本業ですでに承認を受けていれば、2つ目の事業のために申請し直す必要はありません(次章)。初めて青色申告にする場合は、その年3月15日まで、1月16日以後に業務を始めたときは開始から2か月以内です(所得税法144条)。本業をすでに白色申告で営んでいる人が年の途中で2つ目の事業を始めても、「新たに業務を開始した場合」には当たらないと解されているので、2か月の猶予はありません。その年の3月15日までに申請すればその年分から青色申告にでき、過ぎていれば翌年3月15日までに申請して翌年分から適用を受けます。

屋号を追加・変更したときの手続き

所得税法229条と施行規則98条が挙げる届出事由は、事業の開始・事務所等の設置・移転・廃止です。屋号の追加や変更はこの中に入っていないので、屋号を変えただけで開業届を出し直す義務はありません。実務で手を入れるのは次の3か所です。

  • 次の確定申告書の「屋号・雅号」欄に新しい屋号を書く
  • インボイス公表サイトで屋号を公表しているなら「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を出す
  • 屋号付きの銀行口座やクレジットカードは、各社の名義変更手続きをする

銀行から新しい屋号を確認できる書類を求められたときは、新しい屋号を書いた確定申告書の控えを使うか、開業届の「その他参考事項」に屋号の追加を書いて任意に提出する方法があります。逆に2つ目の事業だけをやめるときは、開業・廃業等届出書の「所得の種類」欄で廃業の「一部」を選び、やめる事業を括弧内に書いて提出します。

複数事業の確定申告書と青色申告決算書の書き方

確定申告書1通への事業所得の合算

所得税は1年間のすべての所得を1人分にまとめて計算するので、事業がいくつあっても確定申告書は1通です。第一表の事業所得欄には、全事業の収入と所得を合計した金額を書きます。農業は同じ事業所得でも「農業」欄に分けて記入します。

屋号・雅号欄は1つなので、主に使っている屋号を書きます。どの屋号を書いても、所得の計算や税額は変わりません。

所得の種類ごとの決算書の作成単位

青色申告決算書・収支内訳書は、一般用(営業等)・農業所得用・不動産所得用と様式が分かれています(青色申告で現金主義を選んでいる人は現金主義用)。小売業とWeb制作のように「営業等」に当たる事業が2つあっても、一般用の決算書は1部に合算して作成します。国税庁の確定申告書等作成コーナーのFAQのとおり、作成コーナーは青色申告決算書・収支内訳書のデータを1種類につき1件しか読み込めず、一般用を2件読み込ませるとエラー(SSAE040-SUE007など)になります。一般用と不動産所得用の組み合わせなら読み込めます。

事業所得と不動産所得のように所得の種類が違う業務や、農業と農業以外の業務を営む青色申告者は、損益計算書を業務ごとに分け、貸借対照表は全業務を合わせて1つ作ります(所得税基本通達148-1)。営業等の事業同士の損益は決算書には表れないので、帳簿の部門で持っておきます(後述)。

事業の組み合わせ 決算書 確定申告書の記入欄
小売業+Web制作 一般用1部に合算 事業(営業等)
Web制作+農業 一般用+農業所得用 営業等・農業に分ける
Web制作+アパート賃貸 一般用+不動産所得用 事業・不動産に分ける
本業+雑所得に該当する副業 一般用(本業分) 副業は雑所得欄

青色申告の承認と65万円控除は1人に1つ

所得税法143条の承認は「確定申告書を青色の申告書により提出することができる」というもので、事業単位ではなく申告書単位、つまり人単位です。本業で承認を受けていれば、後から始めた2つ目の事業も青色申告の対象になります。

青色申告特別控除も1人につき1つです。事業を2つ営んでも65万円が2回差し引けるわけではありません。控除額の要件は年分で変わります。

年分 65万円の要件 上乗せ・減額
令和8年分 複式簿記+期限内のe-Taxまたは優良な電子帳簿 電子帳簿の要件を満たさない書面申告は最高55万円
令和9年分以後 複式簿記+期限内のe-Tax申告 優良な電子帳簿等で75万円・書面申告は10万円

令和9年分以後は、租税特別措置法25条の2の改正で55万円の区分がなくなり、書面申告では優良な電子帳簿を備えていても控除は10万円に下がります。さらに、簡易帳簿で記帳する人は、前々年分の事業所得または事業的規模の不動産所得のいずれかに係る収入金額が1,000万円を超えると、10万円の控除も受けられません(国税庁の令和9年分以後の改正案内)。事業所得の収入金額は営業等の全事業の合計なので、事業を足して売上が伸びた人ほど影響します。改正の条文の読み方は個人事業主の経費と控除の違い、申告手順の全体は個人事業主の確定申告のやり方で解説しています。

赤字の事業と黒字の事業の相殺の仕組み

同じ事業所得の中にある事業同士は、収入と必要経費を合計して1つの事業所得を計算するので、物販が30万円の赤字でWeb制作が200万円の黒字なら、事業所得は170万円です。これは損益通算ではなく、所得の計算そのものです。

事業所得の全体が赤字なら、給与所得などと損益通算できます(所得税法69条)。ただし損益通算できる赤字は不動産・事業・山林・譲渡の4所得に限られ、2つ目の事業が雑所得と判定されると、その赤字は他の所得と相殺できません。通算の順序は損益通算の対象と順序で解説しています。

個人事業税:事業主控除は1回、税率は業種ごとに按分

所得税は事業をすべて合算するので事業の種類で税率は変わりませんが、個人事業税は業種で税率が決まります。複数事業の組み合わせが税額に直接響くのはこの税金です。課税されるのは地方税法72条の2が定める法定業種だけで、標準税率は物品販売業・飲食店業・デザイン業などが5%、畜産業・水産業・薪炭製造業が4%、あん摩・マッサージ・はり・きゅう等の医業類似業と装蹄師業が3%です(同法72条の49の17)。法定業種に当たらない事業の所得には課税されません。業種の当てはめ方は個人事業税がかからない業種と法定70業種の一覧で解説しています。

事業主控除290万円と兼業時の税率の按分

事業主控除の290万円は、事業ごとではなく1人に1回だけ差し引きます(地方税法72条の49の14)。事業を行った期間が1年に満たないときは月割りになりますが、条文が数えるのは個人として事業を行った月数なので、本業を通年営んでいれば、2つ目の事業を年の途中で始めても290万円のままと読めます。また、大阪府の個人事業税の案内にもあるとおり、所得税の青色申告特別控除は個人事業税の計算では差し引きません。

税率の違う事業を兼ねるときは、控除後の所得を各事業の所得金額の割合で按分し、それぞれの税率を掛けます(同法72条の49の17第2項)。物品販売業の所得が400万円、マッサージ業(医業類似業・3%)の所得が200万円なら、次のとおりです。

計算の段階 物品販売業(5%) マッサージ業(3%)
事業ごとの所得 400万円 200万円
290万円控除後(合計310万円)を所得比で按分 約206.7万円 約103.3万円
税額(概算) 約10.3万円 約3.1万円

合計は約13.4万円です(実際は課税標準と税額に端数処理があります)。2つ目の事業が法定業種に当たらない場合は、その所得は計算から外れ、290万円は法定業種の所得からだけ差し引かれます。物品販売業400万円と法定業種外の事業300万円なら、(400万円−290万円)×5%=5.5万円です。

確定申告書第二表の事業税欄の書き方

個人事業税の申告書を別に出す必要はありません。所得税の確定申告書を出せば事業税の申告をしたものとみなされ(地方税法72条の55の2)、都道府県が第二表の「住民税・事業税に関する事項」の記載から税額を計算します。複数事業の人が手を入れるのは「非課税所得など」欄で、国税庁の令和7年分の手引きは、税率5%以外の事業や課税されない事業の所得があるとき、その番号と所得金額(青色申告特別控除前の金額)を書くよう求めています。

  • 番号1〜3:畜産業・水産業・薪炭製造業(4%)
  • 番号4〜5:あん摩・マッサージ等の医業類似業・装蹄師業(3%)
  • 番号6〜9:林業・鉱物掘採業・社会保険診療報酬等・外国での事業(非課税)
  • 番号10:法定業種に当たらない事業など(課税なし)

上の例なら、マッサージ業の所得200万円を番号4で書きます。2つ目の事業が法定業種外なのに番号10を書かずにおくと、都道府県はその所得を課税される事業の所得と区別できません。法定業種に当たるかどうかの最終的な判断は都道府県が行うので、迷う事業は事務所所在地の県税事務所に確かめてから書きます。

屋号別に損益を見る帳簿と口座の分け方

税務上は合算でよくても、経営判断には事業別の損益が要ります。帳簿を1冊にまとめたまま、どの事業が儲かっているかを見える形にするのが基本です。

会計ソフトの部門機能による事業別損益

主な会計ソフトには、仕訳に「部門」や「タグ」を付けて部門別の損益計算書を出す機能があります。売上と直接経費には必ず部門を付け、通信費や家賃のように両方の事業で使う共通経費は「共通」部門に入れて、期末に売上比や作業時間比で配賦します。按分基準は継続して使うことを基本とし、利用実態が変わって見直す場合は、変更理由と損益への影響を記録します。

たとえば通信費が年12万円で、売上比がWeb制作7対物販3なら、8万4,000円と3万6,000円に配賦します。年の途中で2つ目の事業を始めた場合は、開始日以後の仕訳から部門を付ければ足ります。

事業ごとの口座・クレジットカードの使い分け

口座を事業ごとに分けると、入出金明細を各事業に振り分けやすくなります。ただし、勘定科目や部門の設定、口座間振替の処理は別に必要です。屋号付き口座は、屋号で活動していることを確かめる書類の提出と審査が前提です。たとえばゆうちょ銀行の振替口座では、資料を出して審査を通れば屋号を別名として登録できますが、表記は本人の口座名義と並べた形になり、屋号だけの名義にはできません。必要書類と表記は銀行・口座の種類ごとに確認します。屋号のない個人名義の口座を事業専用にしても、税務上の問題はありません。

クレジットカードも同じ考え方で、事業ごとに1枚を割り当てれば明細の振り分けが要らなくなります。個人事業主向けのカードは本人名義で申し込めるものが多く、屋号がなくても作れます。

インボイスと消費税の事業者単位の判定

消費税とインボイスでは、「屋号を分けたら別の事業者になる」と誤解すると、課税売上高の合算漏れや登録番号の記載誤りにつながります。判定の単位はどちらも人です。

1人に1つの登録番号と公表できる屋号

適格請求書発行事業者の登録番号は事業者ごとに通知されるもので、屋号ごとに番号が付くことはありません。2つ目の屋号で出す請求書にも、同じ「T+13桁」の番号を書きます。登録番号の仕組みはインボイス登録番号とはで解説しています。

見落とされやすいのが公表サイトの屋号です。個人事業者が屋号を公表するには「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を出しますが、国税庁の公表サイトQ&Aは、公表できる屋号と事務所の所在地は一つのみとしています。公表サイトは登録番号でしか検索できず、照会結果に出るのは本人の氏名と、申し出た屋号1つだけです。2つ目の屋号で出した請求書は、取引先が登録番号で照会すると表示名が食い違うので、請求書には屋号と並べて本人の氏名も書いておくと照合で止まりません。

免税点1,000万円の全事業合計による判定

消費税の納税義務は、原則として前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定します。ただし、1,000万円以下でも特定期間の判定やインボイス登録、課税事業者の選択などにより課税事業者になる場合があります。この「事業者」は個人事業者という人単位で、屋号や事業部門ごとではありません(消費税法9条、国税庁タックスアンサーNo.6125)。本業600万円と2つ目の事業500万円なら合計1,100万円で、2年後は課税事業者です。屋号を分けても判定はまとめて行われます。判定の数え方は課税事業者と免税事業者の判定基準を参照してください。

簡易課税の事業区分と記帳の要件

簡易課税制度では、業種ごとにみなし仕入率が90%(卸売業)から40%(不動産業)まで6段階で決まっています。2つの事業が別の区分に当たるなら、それぞれの売上に別の率が適用されます。

ここで売上を事業ごとに区分していないと、消費税法施行令57条4項により、区分していない売上は低い方のみなし仕入率の事業に係るものとして計算されます。たとえば小売業(第2種・80%)とWeb制作(第5種・50%)を営んで売上を混ぜて記帳すると、小売の売上まで50%で計算され、納める消費税が増える結果になります。なお、免税事業者からインボイス登録した人が使う2割特例(令和8年分まで)と、令和9・10年分の3割特例は売上税額に一律の割合を掛ける計算なので、事業区分による率の違いは生じません。

なお、1種類の事業区分の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占めるときは、その事業区分のみなし仕入率を全体の課税売上げに適用できる特例があります(同条3項)。本業の比率が高いうちは、この特例で計算が簡単になります。

屋号を分けるか1つにまとめるかの判断基準

税務上の扱いがほぼ同じである以上、屋号を分ける理由は顧客に対する見え方に尽きます。判断の目安は次のとおりです。

  • 分けた方がよい:顧客層が重ならない(法人向けの受託開発と個人向けの雑貨販売など)、専門性を前面に出したい、片方の事業に許認可や表示義務がありもう片方と混ぜたくない
  • 1つでよい:同じ顧客に関連サービスを売る(Web制作と保守運用など)、2つ目の売上がまだ小さい、ホームページや名刺を2系統で維持する手間を割けない

屋号を分けるべきでないのは、税金を減らす目的で分けようとしている場合です。所得税は合算、消費税は合計で判定、青色申告特別控除は1つなので、屋号を分けても税額は変わりません。個人事業税も、税率は業種で決まり、事業主控除は1人に1回なので、屋号の数とは無関係です。

事業ごとに税金を分けたいなら、法人化して事業の一部を別の納税者に移すしかありません。法人はインボイスの登録番号も別に取得します。切り出すなら、取引先・契約・口座まで事業単位で法人に移すのが前提です。

よくある質問

個人事業主は屋号を2つ以上持てますか?

持てます。屋号は届出で登録される制度ではなく、事業で使う呼び名なので、事業ごとに使い分けられます。開業届の屋号欄に複数書くこともできます。ただし確定申告書・青色申告の承認・インボイスの登録番号は人単位で1つです。

屋号を変更したら税務署に届け出る必要はありますか?

所得税法229条の届出事由は事業の開始や事務所の設置・移転・廃止で、屋号の変更は含まれません。次の確定申告書の屋号欄を新しい屋号にすれば足ります。インボイス公表サイトで屋号を公表している場合は、公表事項の公表(変更)申出書を提出します。

個人事業主の「登録」とは何をすることですか?

個人事業主になるための登録制度はなく、税務署に開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を出すことが一般に「登録」と呼ばれています。提出期限は、令和8年1月1日以後の開業なら開業した年分の確定申告期限までです。青色申告にするなら、別に青色申告承認申請書が必要です。取引先から求められる「登録」がインボイス(適格請求書発行事業者)の登録を指す場合は、別に登録申請書を出します。

屋号がなくても事業用の口座やクレジットカードは作れますか?

作れます。本人名義の口座を事業専用にすれば税務上は十分で、個人事業主向けのクレジットカードも本人名義で申し込めるものが多くあります。屋号付きの口座は、開業届の控えなど屋号を確認できる書類を求められるのが一般的で、可否は各行の審査次第です。

2人で1つの事業を営む場合、個人事業主はどちらになりますか?

個人事業主は1人ずつの納税者なので、「2人で1人の個人事業主」にはなれません。1人が事業主になりもう1人を従業員にするか、2人がそれぞれ開業届を出して共同事業(民法上の組合)にするかを選びます。組合にした場合、利益は出資や寄与からみて合理的な分配割合で各自に帰属し、各自が自分の確定申告で申告します(所得税基本通達36・37共-19)。相手が生計を一にする家族なら、青色事業専従者として給与を経費にする方法もあり、届出はその年の3月15日まで(1月16日以後の開業などは2か月以内)です(国税庁タックスアンサーNo.2075)。

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