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監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社の違い|2026年の会社法改正動向まで網羅

監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社の違いは、必置となる委員会の数と、取締役の指名・報酬を誰が決めるかという権限の所在に集約されます。本記事では、監査役会設置会社を含む3つの機関設計の全体像から、社外取締役の必要比率、意思決定の機動性、上場区分ごとの選び方、監査役会設置会社からの移行手続きまでを整理します。さらに、上場会社の4割超が監査等委員会設置会社へ移行した2025年の最新動向と、法制審議会で審議中の会社法改正の論点も解説します。自社に最適な機関設計を判断するための材料が一通りそろう内容です。

目次

まとめ:自社に最適な機関設計を見極めるための判断ポイント

監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社の違いは、必置委員会が監査等委員会の1つか、指名・報酬・監査の3つかという構造の差、そして取締役の指名・報酬を取締役会が決めるか社外中心の委員会が決めるかという権限の差に集約されます。経営の主導権と機動性を残したい企業は監査等委員会設置会社、監督の独立性と投資家への説明力を最優先する企業は指名委員会等設置会社が適します。

採用動向では監査等委員会設置会社がプライム市場で監査役会設置会社を逆転し、主流となりつつあります。一方で指名委員会等設置会社は制度見直しの審議が進行中のため、選択の際は現行法を前提としつつ改正の方向性も確認しておくと安心です。自社の上場区分・規模・株主構成、そして移行後の運用体制までを照らし合わせ、形だけで終わらない実効的な機関設計を選びましょう。

監査役会設置会社を含む3機関設計の全体像と両制度の基本的な位置づけ

両制度の違いを理解する前提として、会社法が用意する機関設計の選択肢を押さえておく必要があります。

会社法が定める3つの機関設計と株主総会の特別決議で選ぶ仕組み

大会社かつ公開会社、つまりすべての上場企業は、監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の3つから機関設計を選びます。どの形態を採用するかは定款で定めるため、変更には株主総会の特別決議が必要です。特別決議は議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成を要する要件であり、通常の普通決議より重い手続きとなります。会社法がこの選択制を認めたのは、3つのいずれにも制度としての合理性があり、各社の判断に委ねるべきと考えたためです。

監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の関係性

監査役会設置会社は取締役会と監査役会を別に置く伝統的な形態で、長く日本企業の標準でした。指名委員会等設置会社は米国型のモニタリング・モデルを参考にした形態で、監督と執行を厳格に分離します。監査等委員会設置会社はその両者の特徴を一部ずつ取り込んだ形態です。つまり比較の軸は「監査役という独立機関を置くか」「監督と執行をどこまで分けるか」の2点であり、この2軸の位置づけが3形態の関係性を決めています。

監査等委員会設置会社が「両者の中間形態」と呼ばれる構造上の理由

監査等委員会設置会社が中間形態と呼ばれるのは、監査役会設置会社の「社外監査役を置く負担感」と、指名委員会等設置会社の「指名・報酬委員会を置くことへの抵抗感」の双方を回避する設計だからです。監査役を廃止して監査機能を取締役会内の監査等委員会に統合する点は指名委員会等設置会社に近く、指名・報酬の委員会を必須としない点は監査役会設置会社に近いといえます。法務省もこの2つの負担感の解消を制度創設の背景として挙げています。

2015年施行の改正会社法で監査等委員会設置会社が新設された経緯

監査等委員会設置会社は、2014年(平成26年)改正会社法によって創設され、2015年5月1日に施行されました。同じ改正で、従来の「委員会設置会社」が「指名委員会等設置会社」へと名称変更されています。改正前は公開会社かつ大会社が監査役会設置会社か委員会設置会社かを選ぶ二択でしたが、委員会設置会社はほとんど採用されませんでした。そこで第三の選択肢として監査等委員会設置会社が追加され、社外取締役の活用を促す狙いが込められました。

上場会社が3つの形態のいずれかを選択する際に確認すべき前提条件

選択の前提として、自社が会社法上の「大会社」かつ「公開会社」に該当するかを確認します。大会社は資本金5億円以上または負債200億円以上の会社を指し、公開会社は株式の一部でも譲渡制限のない会社を指します。上場企業はこの両方に当てはまるため、3形態のいずれかと会計監査人の設置が必須です。なお「公開会社」は上場会社という意味ではなく、譲渡制限の有無による会社法上の区分である点に注意が必要です。

両制度の機関構造と必置委員会の数に表れる設計思想の根本的な差異

両制度の最も目に見える違いは、設置が義務づけられる機関の構成です。

指名委員会等設置会社に必置となる3つの委員会それぞれの役割分担

指名委員会等設置会社では、指名委員会・報酬委員会・監査委員会の3つの設置が義務づけられます。指名委員会は株主総会に提出する取締役の選任・解任議案の内容を決定し、報酬委員会は取締役・執行役の個人別報酬を決め、監査委員会は職務執行を監査します。各委員会は取締役3名以上で構成され、その過半数を社外取締役とすることが会社法400条3項で求められます。3委員会が指名・報酬・監査というガバナンスの中核領域を分担する点に、この形態の設計思想が表れています。

監査等委員会設置会社が監査等委員会のみを法定機関とする設計思想

監査等委員会設置会社で法律上設置が義務づけられるのは、監査等委員会のみです。指名や報酬に関する委員会を任意で置くことはできますが、制度上の義務はありません。監査等委員会は3名以上の取締役で構成し、その過半数を社外取締役とします。委員会を1つに絞ることで、社外取締役の確保人数や会議体の運営負担を抑えつつ、取締役会内に監督機能を組み込む狙いがあります。委員会を最小限にとどめる点が、3委員会を必須とする指名委員会等設置会社との設計思想の差です。

執行役を置く指名委員会等設置会社と置かない監査等委員会設置会社

指名委員会等設置会社では業務執行を担う「執行役」を置き、取締役会は監督に専念して業務執行の決定を執行役へ大幅に委任します。これに対し監査等委員会設置会社は執行役を置かず、業務執行は代表取締役と業務執行取締役が担います。執行役を置くか否かは、監督と執行をどこまで分離するかという思想の違いを端的に表しています。指名委員会等設置会社では取締役と執行役の役割が明確に切り分けられる一方、監査等委員会設置会社では取締役が執行も担う構造が残ります。

監査役を設置できるか否かによって分かれる両制度の監査担当者の違い

両制度に共通する重要な特徴として、どちらも監査役を置くことができません。監査役会設置会社では監査役が独立した立場で監査を担いますが、両委員会型では監査委員会または監査等委員会の委員である取締役が監査を担当します。監査担当者が「取締役」である点が監査役との決定的な差で、取締役会で議決権を行使しながら他の取締役を監督できます。監査役のように業務執行から完全に独立した監査機関を持たない代わりに、取締役会内部からの監督を効かせる仕組みです。

取締役の総数と必要な委員会数の関係から見た両制度の組織規模の差

委員会の数が多いほど必要な社外取締役と取締役の総数は増えやすくなります。3形態の構造を整理すると次のとおりです。

項目 監査役会設置会社 監査等委員会設置会社 指名委員会等設置会社
必置の委員会 なし 監査等委員会のみ 指名・報酬・監査の3委員会
監査役 3名以上(半数以上が社外) 置けない 置けない
執行役 なし なし あり
指名・報酬の決定 取締役会 取締役会 各委員会

監査等委員会設置会社は委員会が1つで済むため、指名委員会等設置会社に比べて取締役の総数を抑えやすく、結果として役員報酬の総額も圧縮しやすい傾向があります。組織規模の面で身軽に運用できる点が選好される一因です。

取締役の指名・報酬の決定権限の所在に表れる両制度の最も重要な違い

両制度を分ける最大のポイントは、取締役の指名と報酬を最終的に誰が決めるかという点です。

指名委員会が取締役候補を決定し取締役会が覆せない仕組みの意味

指名委員会等設置会社では、株主総会に提出する取締役の選任・解任議案の内容を指名委員会が決定します。会社法上、取締役会はこの決定を覆すことができません。過半数が社外取締役で構成される委員会に人事の最終権限を委ねることで、経営陣による恣意的な人事を防ぐ狙いがあります。一方で、経営トップが自社の取締役候補を実質的に決められないため、この権限配分が採用への抵抗感の中心的な理由となってきました。

報酬委員会が役員報酬を個別決定する指名委員会等設置会社の特徴

指名委員会等設置会社では、取締役と執行役の個人別の報酬内容を報酬委員会が決定します。株主総会で報酬総額の枠を決め、その配分を取締役会が行う監査役会設置会社とは、決定主体が根本的に異なります。報酬委員会も過半数が社外取締役であるため、代表取締役は自分や他の役員の報酬額を自ら決められません。指名と報酬という経営の要を社外中心の委員会に委ねる構造が、この形態の独立性の高さであり、同時に経営者にとっての心理的なハードルにもなっています。

監査等委員会設置会社で代表取締役が指名・報酬に関与できる理由

監査等委員会設置会社には指名委員会も報酬委員会もないため、取締役の指名や報酬の決定は従来どおり取締役会が行います。したがって代表取締役は、取締役候補の選定にも報酬の決定にも関与できます。社外取締役の関与は監査等委員会の意見陳述という間接的な形にとどまるため、経営トップの裁量を残したままガバナンスを強化できる点が特徴です。人事と報酬の主導権を手放したくない企業にとって、指名委員会等設置会社よりも受け入れやすい設計といえます。

監査等委員会が持つ取締役の選任・報酬に関する意見陳述権の範囲と限界

監査等委員会は、監査等委員以外の取締役の選任・解任や報酬について、株主総会で意見を述べる権利を持ちます。これは会社法399条の2第3項に定められた権限で、人事や報酬に社外の視点を反映させる仕組みです。ただし意見陳述はあくまで意見であり、指名委員会のように議案を決定する権限ではありません。最終的な決定は取締役会が行うため、関与の強さは指名委員会等設置会社に比べて限定的です。この「決定」と「意見」の差が両制度の権限構造を分けています。

経営トップにとっての「人事・報酬の自由度」という観点での比較

人事と報酬の自由度という観点では、監査等委員会設置会社のほうが経営トップの裁量を広く残します。指名委員会等設置会社は人事・報酬の決定権を社外中心の委員会に委ねるため自由度は小さく、その分だけ外部からの監督は強く働きます。どちらが優れているかではなく、自社が「経営の主導権」と「監督の独立性」のどちらをより重視するかが選択の分岐点です。投資家への説明のしやすさを優先するなら前者、機動的な経営を優先するなら後者が向きます。

社外取締役の必要人数と取締役会に占める比率に見られる制度間の相違点

両制度はいずれも社外取締役の登用を前提としますが、求められる人数と比率の考え方が異なります。

監査等委員会設置会社で求められる社外取締役の最低人数と過半数要件

監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役を3名以上置き、その過半数を社外取締役とする必要があります。したがって社外取締役は最低2名から確保すればよい計算です。監査等委員である取締役の任期は2年で、それ以外の取締役の任期1年より長く設定され、短縮もできません。任期を長くすることで監査・監督の継続性と独立性を担保する仕組みです。少人数の社外取締役で制度を満たせる点が、移行のハードルを下げています。

指名委員会等設置会社で各委員会の過半数を社外取締役とする規律

指名委員会等設置会社では、3つの委員会それぞれで過半数を社外取締役とします。各委員会は3名以上で構成されるため、1委員会あたり最低2名の社外取締役が必要です。社外取締役が複数の委員会を兼任することは可能ですが、3委員会すべてを実効的に機能させるには相応の人数が求められます。委員会ごとに過半数要件を満たす必要がある点で、監査等委員会設置会社より社外取締役の確保負担は大きくなりがちです。

取締役会全体に占める社外取締役比率が両制度で必ずしも一致しない背景

注意すべきは、委員会内で過半数要件を満たしても、取締役会全体の社外取締役比率が過半数になるとは限らない点です。現行の会社法は、指名委員会等設置会社であっても取締役会の過半数を社外取締役とすることを求めていません。これは制度導入時の平成14年当時、社外取締役の適任者が限られていた事情を踏まえた規律です。そのため両制度とも、取締役会全体に占める社外取締役比率は各社の方針に委ねられており、制度の種類だけでは決まりません。

コーポレートガバナンス・コードが求める社外取締役比率との関係

社外取締役比率は会社法だけでなく、東証のコーポレートガバナンス・コードによっても方向づけられます。プライム市場上場会社では独立社外取締役を3分の1以上、業種・規模によっては過半数選任することが求められ、実際にプライム市場では独立社外取締役を3分の1以上選任する会社が98%を超えています。機関設計の種類にかかわらず社外取締役の充実が進んでいるため、比率の確保はコードへの対応として検討するのが実務的です。

社外取締役の確保しやすさという実務負担の観点から見た両制度の比較

社外取締役の確保しやすさは、移行や運用のしやすさに直結します。委員会が1つで済む監査等委員会設置会社は、最低2名の社外取締役から制度を満たせるため、人材確保の負担が比較的軽くなります。3委員会を機能させる指名委員会等設置会社では、適任の社外取締役をより多く集める必要があり、人材市場の制約を受けやすい構造です。社外人材の採用に確実性を持てるかどうかは、制度選択の現実的な判断材料となります。

意思決定の機動性と経営の自由度から考える両制度の向き不向きと適性

機関設計は監督の強さだけでなく、日々の意思決定のスピードにも影響します。

重要な業務執行の決定を取締役に委任できる条件と意思決定迅速化の効果

監査等委員会設置会社では、取締役の過半数が社外取締役である場合、または定款に定めがある場合に、重要な業務執行の決定の一部を個々の取締役へ委任できます。これは会社法399条の13に基づく仕組みで、取締役会の決議事項を絞り込み、意思決定を迅速化する効果があります。監査役会設置会社では原則として重要な業務執行を取締役へ広く委任できないため、この委任の余地が監査等委員会設置会社の機動性の根拠となっています。

監査等委員会設置会社が意思決定を機動的に行いやすいとされる根拠

監査等委員会設置会社が機動的とされるのは、前述の業務執行の委任に加え、執行役という別機関を介さずに取締役が執行を担えるためです。意思決定から実行までの距離が短く、委員会運営の負担も1つで済みます。社外取締役を活用しながらも、現場の判断スピードを大きく落とさずに運用できる点が、急成長企業やオーナー企業に評価されています。監督強化と機動性の両立を比較的低い負担で実現できることが、採用が伸びる実務的な理由です。

指名委員会等設置会社が執行役への権限委譲で監督に専念する構造

指名委員会等設置会社は、業務執行を執行役へ委ね、取締役会が監督に専念する構造です。執行役は取締役会から委任された範囲で機動的に業務を執行できるため、執行のスピード自体は確保されます。一方で取締役会は人事・報酬・監査を委員会経由で統制するため、監督の独立性が制度的に担保されます。執行と監督を組織として明確に分離したい大企業や、海外投資家への説明責任を重視する企業に適した設計です。

経営の自由度を重視する企業に監査等委員会設置会社が適している理由

経営の自由度を重視するなら、人事・報酬の決定権を取締役会に残せる監査等委員会設置会社が適します。創業経営者が人事の主導権を保ちたいケースや、事業環境の変化に応じて機動的に経営判断を下したいケースで選ばれやすい形態です。社外取締役による監督を取締役会内に組み込みつつ、経営の根幹を社外委員会に明け渡さずに済む点が、自由度と統治の折り合いをつけたい企業のニーズに合致します。

透明性の高いガバナンスを志向する企業と指名委員会等設置会社の相性

透明性の高いガバナンスを最優先するなら、指名委員会等設置会社が最も適合します。人事・報酬・監査を社外中心の委員会が担うため、経営陣の利益相反が構造的に抑えられ、投資家への説明力が高まります。グローバルに資金調達を行う企業や、株主構成に占める海外投資家比率が高い企業では、この説明のしやすさが採用の動機になります。監督の独立性を制度として外部に示せることが、この形態の強みです。

上場区分・企業規模・株主構成の3点から整理する制度選択の実務的な判断基準

どの制度を選ぶべきかは、自社の上場区分・規模・株主構成を照らし合わせて判断します。

プライム・スタンダード・グロース別に見た機関設計選択の考え方

上場区分によって、求められるガバナンス水準と現実的な選択は変わります。プライム市場では社外取締役の充実が強く求められ、監査等委員会設置会社への移行が顕著に進んでいます。スタンダード・グロース市場では、社外人材の確保負担を抑えられる監査等委員会設置会社が選ばれやすい傾向です。指名委員会等設置会社は人材・運用負担が大きいため、区分を問わず一部の大企業に限られています。自社の区分で標準的な選択がどれかを把握することが出発点です。

オーナー企業や同族企業において監査等委員会設置会社が選ばれる傾向

オーナー企業や同族企業では、監査等委員会設置会社が選ばれる傾向が強くあります。人事と報酬の決定権を取締役会に残せるため、創業家や経営トップが経営の主導権を保ちながら、社外取締役による監督を取り入れられるからです。指名委員会等設置会社のように人事権を社外委員会へ委ねる形態は、こうした企業の経営方針と相いれにくいケースが多くなります。経営の連続性を保ちつつガバンナンスを強化したいニーズに合致する点が選好の理由です。

外国人投資家比率の高い企業が指名委員会等設置会社を選ぶ主な動機

外国人投資家比率の高い企業では、指名委員会等設置会社が選ばれる動機が生まれます。米国型のモニタリング・モデルに近い構造であるため、海外投資家にとって監督の独立性が理解しやすく、説明コストが下がるからです。指名・報酬の決定を社外中心の委員会が担う点は、グローバルなガバナンス基準と整合します。投資家との対話やエンゲージメントを重視する企業ほど、この形態の説明力を評価する傾向があります。

自社が大会社かつ公開会社に該当するかで変わる選択肢の前提確認

制度選択の前に、自社が大会社かつ公開会社に該当するかを必ず確認します。両方に該当する場合は会計監査人の設置が必須となり、3形態のいずれかを選ぶことになります。非上場でも大会社に該当すれば監査役会や委員会型の選択が論点になり、逆に中小の非公開会社では機関設計の自由度が広がります。自社がどの区分に属するかで取り得る選択肢の幅が変わるため、形態の比較に入る前段としての確認が欠かせません。

制度選択で陥りやすい「形だけの移行」という失敗パターンの回避

制度選択で最も避けたいのは、要件を形式的に満たすだけの「形だけの移行」です。よくある失敗には次のようなものがあります。

  • 社外取締役を最低人数だけ置き、実質的な議論をさせない
  • 監査等委員会を設けても監査スタッフや内部監査部門と連携させない
  • 委任範囲を広げたものの、取締役会の監督機能を空洞化させる

機関設計の変更は監督の実効性を高めるための手段であり、形態を変えること自体が目的ではありません。移行後にどう運用するかまで設計することが、選択を成功させる前提です。

監査役会設置会社から移行する際の手続きとスケジュール上の実務ポイント

多くの企業が直面するのが、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行です。

移行に必要な定款変更と株主総会の特別決議という必須の法的手続き

機関設計の変更は定款の変更にあたるため、株主総会の特別決議が必須です。特別決議は議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成で成立します。あわせて監査等委員となる取締役の選任議案も付議し、監査役の廃止と監査等委員会への移行を一体で決議します。普通決議で足りる通常の取締役選任とは要件が異なるため、議案の組み立てと賛成票の見込みを事前に精査しておく必要があります。

移行スケジュールを定時株主総会から逆算して組み立てる際の注意点

移行は定時株主総会で決議するのが一般的なため、スケジュールはその開催日から逆算して組みます。一般的な流れは次のとおりです。

  1. 取締役会で移行方針と機関設計案を決定する
  2. 定款変更・監査等委員選任の議案を確定する
  3. 招集通知に議案と社外取締役候補の情報を記載する
  4. 定時株主総会で特別決議により移行を決定する
  5. 決議後2週間以内に変更登記を申請する

社外取締役候補の選定や招集通知の記載準備には時間を要するため、株主総会の数か月前から着手するのが安全です。

既存の社外監査役を社外取締役へ移行させる際の人選と任期の調整

移行では監査役を廃止するため、既存の社外監査役の処遇が論点になります。実務上は、社外監査役を監査等委員である社外取締役へ横滑りさせる対応が多く取られます。ただし監査役と取締役では権限も任期も異なり、監査等委員である取締役の任期は2年と定められています。新たに社外取締役を招く場合は適任者の探索に時間がかかるため、人選と任期の起算を移行スケジュールに織り込んでおくことが重要です。

移行に伴う変更登記の期限と申請で必要となる主な添付書類の確認

株主総会で移行を決議した後は、原則として2週間以内に変更登記を申請します。申請には株主総会議事録や定款、就任承諾書などの添付が必要で、社外取締役に該当する旨の登記も行います。期限を過ぎると過料の対象となり得るため、決議後の事務手続きを滞りなく進める体制が求められます。登記事項に漏れがあると後日の補正が必要になるため、司法書士など専門家と連携して書類を整えるのが実務的です。

移行後に運用が形骸化しやすい監査等委員会の実効性を確保する論点

移行後に課題となりやすいのが、監査等委員会の実効性の確保です。監査役と異なり監査等委員は常勤が義務づけられていないため、日常的な情報収集の仕組みを意図的に作らないと監査が形骸化します。内部監査部門や会計監査人との連携体制、取締役会への報告ルートの設計が鍵です。形態を変えただけで監督が強化されるわけではなく、運用面の手当てまで含めて設計することが、移行を実質的な成果につなげる条件となります。

2025〜2026年の採用動向と進行中の会社法改正が制度選択に与える影響

制度選択は、最新の採用トレンドと改正の方向性を踏まえて検討することが欠かせません。

上場会社全体で監査等委員会設置会社が4割を超えた最新の採用状況

監査等委員会設置会社の採用は急速に拡大しています。2025年7月時点で、全上場会社約3,801社のうち監査等委員会設置会社は44.9%にあたる1,705社にのぼり、前年から84社増えました。一方で監査役会設置会社は52.6%の2,000社と、前年比で115社減少しています。導入から10年で全体の4割を超える水準に達したことは、この形態が日本企業に広く受け入れられたことを示しています。採用が増え続けている事実は、選択を検討する際の有力な参考材料です。

プライム市場で監査役会設置会社を逆転した監査等委員会設置会社の伸長

プライム市場では、監査等委員会設置会社が779社(48.0%)となり、761社(46.9%)の監査役会設置会社を社数で逆転しました。前年から監査等委員会設置会社が53社増え、監査役会設置会社が74社減るという対照的な動きです。専門家の間では、遅くとも2027年にはプライム市場で監査等委員会設置会社が圧倒的多数になるとの見方が示されています。プライムでの主流交代が現実味を帯びている点は、上位市場を目指す企業にとって無視できない潮流です。

指名委員会等設置会社が約2.5%にとどまり続ける構造的な背景

採用が伸びる監査等委員会設置会社に対し、指名委員会等設置会社は2025年7月時点で96社、全上場会社の2.5%にとどまります。前年比でわずか1社増という横ばいです。人事・報酬の決定権を社外中心の委員会へ委ねる構造への抵抗感や、3委員会を機能させる人材・運用負担の重さが、普及が進まない構造的な背景です。制度としての評価は高い一方で、採用企業が限られるという二面性を理解しておく必要があります。

法制審議会で進む指名委員会等設置会社制度の見直しという改正論点

会社法は現在、法制審議会の会社法制(株式・株主総会等関係)部会で改正審議が進んでいます。論点の一つが指名委員会等設置会社制度の見直しです。取締役の過半数が社外取締役である場合に、取締役の一部で構成される指名委員会だけが選任議案を決める仕組みは合理性が乏しいとの指摘があり、委員会の権限の在り方が検討されています。2025年6月13日に閣議決定された規制改革実施計画では、令和8年度内の結論を目指すとされています。

現行法と中間試案段階の改正案を区別したうえで選択を検討する重要性

ここで重要なのは、改正はまだ施行されていないという点です。2026年3月18日の部会会議で「中間試案」が取りまとめられ、現在はパブリックコメントの段階にあります。法制審議会から法務大臣への答申は2027年3月までと見込まれており、制度選択は現行法を前提に判断するのが原則です。ただし指名委員会等設置会社の検討企業は、将来の権限見直しの方向性も視野に入れておくと、改正後の運用変更に備えやすくなります。

よくある質問:制度選択・移行・社外取締役に関する実務的な疑問

機関設計の選択や移行を検討する際によく寄せられる質問をまとめました。実務での判断に役立ててください。

監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社はどちらが多く採用されていますか?

圧倒的に監査等委員会設置会社が多く採用されています。2025年7月時点で、全上場会社約3,801社のうち監査等委員会設置会社は1,705社(44.9%)にのぼる一方、指名委員会等設置会社は96社(2.5%)にとどまります。プライム市場では監査等委員会設置会社が779社と監査役会設置会社を社数で逆転しており、今後さらに差が広がると見られています。採用数の面では監査等委員会設置会社が主流です。

監査等委員会設置会社では監査役を置くことはできますか?

置くことはできません。監査等委員会設置会社も指名委員会等設置会社も、監査役を設置できない点は共通しています。監査機能は、取締役である監査等委員で構成される監査等委員会が担います。監査役との違いは、監査担当者が取締役会の議決権を持つ取締役である点で、取締役会の内部から監督を効かせる仕組みです。監査役会設置会社から移行する場合は、既存の監査役を廃止する手続きが必要になります。

指名委員会等設置会社で代表取締役は取締役の報酬を決められますか?

決められません。指名委員会等設置会社では、取締役・執行役の個人別報酬を報酬委員会が決定し、その過半数は社外取締役で構成されます。そのため代表取締役が自分や他の役員の報酬を決めることはできません。同様に取締役の選任議案も指名委員会が決定し、取締役会は覆せません。これに対し監査等委員会設置会社では、指名・報酬を取締役会が決めるため、代表取締役が関与できる点が大きな違いです。

監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行は難しいですか?

比較的移行しやすい形態とされています。委員会が監査等委員会の1つで済み、必要な社外取締役も最低2名から確保できるため、3委員会を要する指名委員会等設置会社より負担が軽いからです。手続きとしては定款変更と株主総会の特別決議、決議後2週間以内の変更登記が必要です。既存の社外監査役を監査等委員である社外取締役へ移行させる対応も多く、人選と任期の調整を計画的に進めれば実務上の障害は大きくありません。

進行中の会社法改正で指名委員会等設置会社の制度は変わりますか?

変わる可能性がありますが、現時点では未施行です。法制審議会で指名委員会等設置会社制度の見直しが審議されており、取締役の過半数が社外の場合の指名委員会の権限の在り方などが論点となっています。2026年3月に中間試案が公表され、現在はパブリックコメントの段階です。答申は2027年3月までと見込まれており、制度選択は現行法を前提に判断するのが原則です。改正の方向性は参考情報として押さえておくとよいでしょう。

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