ジェロントロジー(gerontology)は、加齢と高齢化を対象にする学際的な学問です。語の由来は1903年の原典まで遡ることができ、学会の構成も検定の要項も公式に公開されています。この記事は原典・学会・主催団体の一次資料だけで組み立て、該当箇所に出典へのリンクを添えました。
まとめ:ジェロントロジーの要点
- 語の由来:1903年、メチニコフが著書のなかで「老年学(gerontology)」と「死生学(thanatology)」を同じ一文で並べて提案しました。原典から確認できるのは、この2つの呼称の提案です。
- 老年医学との関係:日本では日本老年学会が7つの学会の連合体で、老年医学(geriatrics)を担う日本老年医学会はそのうちの1つです。ジェロントロジーは医学を含む、より広い枠です。
- 検定は2つ:本記事で扱うのは日本応用老年学会の「ジェロントロジー検定試験」(受験料4,950円・50問中35問で合格・第24回は2026年10月31日)と、東京大学監修の「高齢社会検定」です。後者は次回日程が公表されていません。
- いま動いている論点:老年学の報告書が「高齢者=65歳以上」という前提そのものを問い直し、その提案は政府の高齢社会白書に引用されています。
以下、それぞれの根拠を順に示します。
ジェロントロジー(老年学)の定義と語の由来
ジェロントロジーは、ギリシャ語で高齢者を意味する geront と、学問を意味する -logy を組み合わせた語です。日本語では一般に「老年学」または「老人学」と訳されます。生物学的な老化から、心理、経済、社会保障、住環境まで、加齢と高齢化にかかわる論点を分野横断で扱う点に特徴があります。
1903年の原典にある「死生学」との同時提案
日本語の記事では「1903年にメチニコフが創始した」と書かれがちですが、原典の記述はもう少し限定的です。エリー・メチニコフの著書『The Nature of Man: Studies in Optimistic Philosophy』(1903年)の298ページに、老いと死の科学的研究は「gerontology と thanatology と呼びうる2つの科学の分野」だという一節があります。巻末索引にも「Gerontology, science of old age」として収録されています(出典:メチニコフ『The Nature of Man』1903年・297〜298頁)。
原典から読み取れるのは、老いの研究と死の研究に対して2つの呼称を提案したという事実です。しかも同じ一文で死生学(thanatology)を並べており、老年学はこのとき「老いと死」を一組で示す構想の片割れとして名づけられました。なお彼がノーベル生理学・医学賞を受けたのは1908年で、この記述の時点では受賞前です。パスツール研究所に所属する免疫学者が、将来の研究分野について述べた箇所にあたります。
「創齢学」は特定団体による言い換え
検索では「創齢学」という語も一緒に出てきます。これは公益財団法人日本ケアフィット共育機構が、サービス介助士の学びの核としてジェロントロジーを説明する際に使っている表現です。同機構は「ジェロントロジーとは加齢に関する体系的な学問で一般的に『老年学/老人学』と訳されています」と一般的な訳語を示したうえで、自らの立場として「自ら『齢』を創造する学問」=創齢学と位置づけています。学界共通の訳語ではなく、同機構の理念を込めた言い換えである点を押さえておくと、他の資料と読み比べたときに混乱しません。
老年医学(geriatrics)との違いと学会の構成
ジェロントロジーと老年医学は同義ではありません。その関係は日本老年学会の構成を見るのが最も早い方法です。
日本老年学会は1959年(昭和34年)11月7日、日本老年医学会と日本老年社会科学会という独立した2つの学会の連合体として発足しました。英語名は The Japan Federation of Gerontological Societies(老年学諸学会の連合)で、医学を担う日本老年医学会の英語名は The Japan Geriatrics Society です。geriatrics(老年医学)は gerontology(老年学)を構成する一分野という関係が、団体名の設計にそのまま出ています。
| 構成学会 | 発足 | 加盟 | 会員数 |
|---|---|---|---|
| 日本老年医学会 | 1959.11.7 | 1959.11.7 | 6,167名 |
| 日本老年社会科学会 | 1959.11.7 | 1959.11.7 | 966名 |
| 日本基礎老化学会 | 1981.5.15 | 1981.10.16 | 322名 |
| 日本老年歯科医学会 | 1990.9.29 | 1991.11.3 | 4,243名 |
| 日本老年看護学会 | 1995.11.23 | 2009.6.18 | 2,851名 |
| 日本老年薬学会 | 2016.1.4 | 2023.6.16 | 1,766名 |
| 日本ケアマネジメント学会 | 2001.7.14 | 2003.6.19 | 2,602名 |
会員数はいずれも2025年4月現在の公表値です。医学・社会科学・基礎老化・歯科・看護・薬学・ケアマネジメントという顔ぶれが、そのまま老年学の守備範囲を示しています。2026年1月31日改定の会則第2条も、本会はこの7学会をもって構成すると明記しています。なお日本老年精神医学会は2024年1月までの加盟で、現在の構成学会には含まれません(出典:日本老年学会「学会概要」)。
この入れ子関係は海外の定義でも同じです。米国の Gerontological Society of America は、ジェロントロジーを「生涯にわたる加齢の過程と人々についての研究」と定義したうえで、老年医学(geriatrics)は高齢者の疾病の予防と治療を扱う医学の一分野であり、より広いジェロントロジーという領域の一部であると説明しています。同学会は1945年にニューヨークで設立され、6,000名超の会員と50か国以上の参加を公表する、加齢分野で最も古く最大の学際組織です。
老年学による「高齢者は65歳以上」の見直し提案
ジェロントロジーが抽象的な学問に見えないのは、成果が制度の前提に届いているからです。日本老年学会と日本老年医学会は平成29年3月の「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」で、75歳以上を高齢者の新たな定義とすることを提案しました。さらに日本老年学会は令和6年6月の「高齢者および高齢社会に関する検討ワーキンググループ報告書」でその意義を確認し、年齢にかかわらず希望と能力に応じて参加と活動ができる「エイジフリーな社会」を目指すべきだと提言しています。
この2つの報告書は、内閣府の令和8年版高齢社会白書のコラム「『高齢者』とは」で紹介されています。白書はまず、高齢者という語には文脈や制度ごとに一律の定義がないと述べ、高齢社会対策大綱の「65歳以上を一律に捉えることは現実的ではない」という記述を引いたうえで、便宜上の用語として使うと断っています。そのあとに学会の2つの報告書を挙げる、という構成です。
前提を問い直す背景には人口構造があります。令和8年版高齢社会白書によれば、令和7年10月1日現在の総人口は1億2,322万人、65歳以上人口は3,622万人で高齢化率は29.4%です。内訳は65〜74歳が1,495万人(12.1%)、75歳以上が2,127万人(17.3%)で、すでに75歳以上が65〜74歳を上回っています。将来推計では65歳以上人口が令和25年に3,953万人でピークを迎え、令和52年には高齢化率38.7%、75歳以上の割合25.1%に達します。65歳以上1人に対する15〜64歳人口の比率は、昭和25年の12.1人から令和7年には2.0人になり、令和52年には1.3人と見込まれています(人口の比率であって、実際に扶養している人数ではありません。出典:内閣府「令和8年版高齢社会白書」表1-1-1・図1-1-2)。人口推計の全体像は2030年問題とは?少子高齢化の推計データで見る影響・対策と2040年問題との違いで扱っています。
ジェロントロジー関連の2つの検定と受験情報
「ジェロントロジー 資格」で調べると複数の名称が出てきて混乱します。ここでは検索結果に頻出する2つの検定を取り上げます。運営団体もテキストも別物で、現在の受験可否も異なるので、混同しないでください。
ジェロントロジー検定試験(日本応用老年学会)
一般社団法人日本応用老年学会が主催し、東京都健康長寿医療センター・東京商工会議所・桜美林大学・大阪大学が協力する検定です。第24回は2026年10月31日(土)に東京会場(桜美林大学 新宿キャンパス)と大阪会場(大阪大学 中之島センター)で実施され、申込受付は2026年8月4日から9月29日までとなっています。個人受験は年2回(春は3月頃、秋は10月頃)で、会場受験のほかにLEC(東京リーガルマインド)のCBT試験がセットになった対策講座、人数がまとまれば日程・会場を指定できる団体受験も選べます。要項は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受験資格 | 学歴・年齢・性別・国籍による制限なし |
| 出題方法 | 四肢択一式 |
| 試験時間 | 90分 |
| 出題数 | 50問 |
| 合格基準 | 100点満点中70点(35問正解)以上 |
| 出題範囲 | 新公式テキスト『すぐわかる! ジェロントロジー』 |
| 受験料 | 4,950円(税込み) |
合格率や難易度の区分は公表されていませんが、出題範囲が公式テキスト1冊に限定され、合格ラインが7割で、四肢択一という3点は学習計画を立てる材料になります(出典:日本応用老年学会「ジェロントロジー検定試験 試験概要」)。合格者は「ジェロントロジー・コンシェルジュ®」として認定されます。さらに、介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・管理栄養士などの国家資格や公的資格の保持者、高齢社会対応に資する分野で修士以上またはそれと同等の専門知識を持つ人、福祉住環境コーディネーターやサービス介助士など認定対象の民間資格・検定の合格者が、検定に合格したうえで申請すると、上位区分の「ジェロントロジー・マイスター®」として認定・登録されます(認定・登録料5,000円)。修士と同等かどうかは、申し出があれば検定委員会が審査します。既存の専門性にシニア特化の知識を重ねる設計で、ファイナンシャル・プランナーなどが想定例として挙げられています。
高齢社会検定(未来社会共創センター)
もう一方が「高齢社会検定」です。2013年3月に創設された一般社団法人高齢社会検定協会(会長:小宮山宏、代表理事:秋山弘子)が始めたもので、合格者に民間資格「高齢社会エキスパート」の称号を付与します。出題は『東大がつくった高齢社会の教科書』からで、テキストと検定の両方を東京大学高齢社会総合研究機構が監修しています。受験時には総論と個人編の「個人コース」、総論と社会編の「社会コース」、すべてを含む「総合コース」から選びます。第1回から第4回(2013〜2016年度)までの合格者は1,400名を超えたと公表されています。
運営主体は変遷しています。2017年4月に高齢社会検定協会を改組して高齢社会共創センターが創設され、2020年9月に現在の一般社団法人未来社会共創センターへ改称しました。同センターは現在も「ジェロントロジーに関する基礎知識の普及・啓発に向けた検定事業(高齢社会検定事業)」を自らの事業として掲げています。ただし公開情報で具体的な開催告知として確認できる直近は2021年6月に受付を開始した第9回で、次回日程や現行の受験料は公表されていません。受験を検討する場合は同センターへ直接問い合わせてください。
受験と独学の目的別の選び分け
取得時期を決めて動く必要がある人、たとえば異動や昇格の要件として年度内に何か1つ取りたい場合は、次回日程が公表されていない高齢社会検定を計画の前提に置かないでください。日程が確定しているジェロントロジー検定試験に絞るのが確実です。逆に、資格の取得ではなく人生設計と社会制度を体系的に読むことが目的なら、受験せずに『東大がつくった高齢社会の教科書』だけを入手する選択もあります。どちらの検定も業務独占資格ではなく、名乗れること自体が業務範囲を広げるわけではない点は共通です。
企業がジェロントロジーを事業に使う場面
研究と実務の接点として設けられているのが、2009年4月に設置された東京大学高齢社会総合研究機構の「ジェロントロジー・アカデミー」です。高齢社会の課題と自社の事業との接点に関心を持つ企業が学ぶ場と位置づけられ、座学とグループ討議を組み合わせて8つのテーマを扱います。テーマは高齢者地域就労の仕組みの開発、フレイル予防産業の創出、生活支援産業の創生、地域包括ケアシステムを支える民間事業開発、人・まち全体をつなぐ情報システム開発、ジェロンテクノロジーの開発普及、金融関連および法、住宅地再生の標準化です。
この8テーマの並びは、老年学が想定する事業領域の見取り図としてそのまま使えます。就労・予防・生活支援・ケア・情報・技術・金融・住宅という区分は、自社の既存事業がどこに接続するかを考える出発点になります。市場としての捉え方はシニアマーケティングとは?3,622万人市場の分け方と実装要件、予防領域で頻出する概念はロコモティブシンドロームとは何か?高齢社会で注目される運動器症候群の定義・特徴・課題まで徹底解説が参考になります。
よくある質問
ジェロントロジーとは何ですか?
加齢と高齢化を対象とする学際的な学問で、日本語では一般に老年学または老人学と訳されます。生物学的な老化、心理、社会科学、医療・看護・薬学、住環境などを分野横断で扱います。
ジェロントロジーの資格の難易度はどのくらいですか?
合格率は公表されていません。日本応用老年学会のジェロントロジー検定試験は、四肢択一式50問を90分で解き、100点満点中70点(35問正解)以上で合格です。出題範囲は公式テキスト『すぐわかる! ジェロントロジー』に限定され、受験資格の制限はありません。
ジェロントロジー検定と高齢社会検定は同じものですか?
別の試験です。ジェロントロジー検定試験は日本応用老年学会が主催し、合格者をジェロントロジー・コンシェルジュ®として認定します。高齢社会検定は2013年度に高齢社会検定協会が創設し、東京大学高齢社会総合研究機構が監修、合格者に高齢社会エキスパートの称号を付与する仕組みで、現在の運営は未来社会共創センターです。
ジェロントロジストという資格はありますか?
gerontologist は特定の資格名ではありません。Gerontological Society of America は、ジェロントロジーが多分野にまたがるためさまざまな分野の専門職が自らをジェロントロジストと名乗ると説明しています。日本で検定の合格者に付与される認定名として公表されているのは、ジェロントロジー・コンシェルジュ®、ジェロントロジー・マイスター®、高齢社会エキスパートで、いずれも民間の認定です。
ジェロントロジーはどこで学べますか?
大学では東京大学高齢社会総合研究機構や、ジェロントロジー検定に協力する桜美林大学・大阪大学などが関連する教育研究を行っています。企業向けには東京大学高齢社会総合研究機構のジェロントロジー・アカデミーがあり、個人が独学で始める場合は各検定の公式テキストが入口になります。