ADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決手続)は、訴訟以外の方法で民事上のもめごとを収める手続の総称です。あっせん・調停・仲裁がその代表で、それぞれ第三者の役割も結果の重さも違います。この記事では、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法・平成16年法律第151号)と仲裁法の条文、法務省・厚生労働省・最高裁判所が公表している実績値をもとに、3つの手続の違い、相手が応じなかったときに何が起きるか、そして2024年4月に始まった和解への執行力の付与までを整理します。
まとめ:ADR(裁判外紛争解決手続)の要点
- ADR法第1条は裁判外紛争解決手続を「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」と定義しています。裁判所が行う民事調停もこの定義に含まれます。
- あっせん・調停は当事者の合意でまとまる手続、仲裁は第三者の判断に服する合意を先に交わす手続です。仲裁判断は仲裁法第45条第1項により確定判決と同一の効力を持ちます。
- 民間事業者が行う和解の仲介は、当事者双方からの依頼を前提とする手続です(ADR法第2条第1号)。法務省の統計では、令和6年度に終了した認証ADR 10,207件のうち3,723件(36.5%)が相手方不応諾による終了でした。
- 終了までの期間は短く、相手方不応諾による終了を除く既済6,484件のうち4,264件(65.8%)が1か月未満で終わっています。地方裁判所の民事第一審通常訴訟の平均審理期間は令和7年で8.9か月(速報値)です。
- 2024年4月1日から、法務大臣の認証を受けた事業者の手続で成立した「特定和解」は、裁判所の執行決定を得れば強制執行ができます。ただし消費者契約に関する紛争と個別労働関係紛争、家庭に関する紛争(養育費など扶養義務等に係る金銭債権を除く)は対象外です。
ADR(裁判外紛争解決手続)の定義と法律上の位置づけ
ADR法第1条は、裁判外紛争解決手続を「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」と定義しています。条文から読み取れる要件は2つです。ひとつは訴訟手続によらないこと、もうひとつは公正な第三者が関与することです。
この定義に照らすと、当事者だけで交渉する示談はADRに含まれません。第三者が関与していないからです。逆に、裁判所が行う民事調停や家事調停はADRに含まれます。裁判所は関与していても、判決を出す訴訟手続ではないからです。ADRを「裁判所を使わない手続」と説明している解説を見かけますが、条文が区切っているのは訴訟手続かどうかであって、裁判所かどうかではありません。
ADR法は、民間事業者が行う和解の仲介のうち、法定の基準を満たすものを法務大臣が認証する制度を設けています。法務省の「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の概要」によれば、認証制度は平成19年4月1日に施行されました。認証を受けた事業者を認証紛争解決事業者、その事業者が認証を受けた業務として行う手続を認証紛争解決手続と呼びます(ADR法第2条第3号・第4号)。法務省はこの認証制度に「かいけつサポート」という愛称を付けています。
司法型・行政型・民間型の3つの担い手
政府広報オンラインは、ADRを運営主体で司法型・行政型・民間型の3つに分けて説明しています。どれを選ぶかで費用も手続の重さも変わります。
| 類型 | 代表例 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 司法型 | 民事調停、家事調停、裁判上の和解 | 裁判所が行う |
| 行政型 | 公害等調整委員会、国民生活センター紛争解決委員会、都道府県労働局の紛争調整委員会 | 行政機関・行政関連機関が行う |
| 民間型 | 弁護士会の紛争解決センター、士業団体や業界団体のADR機関 | 民間のADR事業者が行う。法務大臣の認証を受けた事業者を認証紛争解決事業者と呼ぶ |
民間型のうち法務大臣の認証を受けているのは、法務省の統計で令和6年度時点の171事業者です。認証制度が始まった平成19年度の10事業者から17倍に増えています。
同じ略語が指す別分野の用語
ADRという3文字は分野によって指すものが変わります。証券・投資の分野では米国預託証券(American Depositary Receipt)、ソフトウェア開発の分野ではアーキテクチャ決定記録(Architecture Decision Record)を指します。社内のやり取りで「ADR」とだけ書かれているときは、紛争解決の話なのか、投資商品の話なのか、設計判断の記録の話なのかを最初に確かめてください。開発現場での使い方はADR(アーキテクチャ決定記録)とは|書き方・テンプレート・design docとの違いで扱っています。
あっせん・調停・仲裁の役割と拘束力の違い
ADRのなかでよく使われるのがあっせん・調停・仲裁の3つです。違いは、第三者がどこまで踏み込むかと、結果に当事者が縛られるかの2点に集約されます。
| 手続 | 第三者の役割 | 結果の位置づけ | 使われる場面 |
|---|---|---|---|
| あっせん | 双方の主張を整理し、話し合いの場を用意する。和解案を示すこともある | 当事者が合意しなければ成立しない | 労働局の個別労働紛争、証券・金融のトラブル |
| 調停 | 双方から事情を聴き、調停案を示して合意を促す | 当事者が合意しなければ成立しない。民事調停で成立した調停調書の記載は裁判上の和解と同一の効力を持つ | 裁判所の民事調停・家事調停、民間の認証ADR |
| 仲裁 | 審理したうえで仲裁判断を下す | 当事者は仲裁判断に服する。確定判決と同一の効力を持つ | 企業間の契約紛争、国際取引 |
あっせんと調停の境目は法律で厳密に決まっているわけではありません。同じ機関があっせんと呼ぶ手続を、別の機関は調停と呼びます。実務で効いてくるのは、あっせんと調停を分ける線ではなく、この2つと仲裁を分ける線のほうです。
あっせんにおける第三者の役割と合意の要否
あっせんは、中立の第三者が双方の言い分を聴き取り、歩み寄りの余地を探す手続です。第三者が和解案を提示することもありますが、受けるかどうかは当事者が決めます。都道府県労働局の紛争調整委員会が行うあっせんが代表例で、解雇や雇止め、いじめ・嫌がらせといった労働トラブルを扱います。
調停の実施体制と成立したときの効力
裁判所の民事調停は、調停主任1人と民事調停委員2人以上で組織する調停委員会が行うのが原則です(民事調停法第5条第1項、第6条)。裁判所が相当と認めるときは裁判官だけで行えますが、当事者の申立てがあるときは調停委員会で行わなければなりません(同法第5条第2項)。
成立したときの効力は、民事調停と家事調停で条文が分かれます。民事調停法第16条は、合意を調書に記載したときの「その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する」と定めます。家事事件手続法第268条第1項は、同じ場面について「確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第39条の規定による審判)と同一の効力を有する」と定めています。いずれも、そのまま強制執行の根拠になります。民間の認証ADR事業者が行う和解の仲介も、実務上は調停と呼ばれることが多い手続です。
仲裁の拘束力と訴訟を排除する効果
仲裁だけは性格が違います。仲裁法第2条第1項の仲裁合意とは、紛争の解決を仲裁人にゆだね、かつ「その判断に服する旨の合意」です。判断に服すると先に約束してから始める点が、あっせん・調停との決定的な違いになります。
そのため仲裁には強い効果が付きます。第1に、仲裁法第45条第1項により仲裁判断は確定判決と同一の効力を持ちます。第2に、同項ただし書と第46条により、裁判所の執行決定を得れば強制執行ができます。第3に、第14条第1項により、仲裁合意の対象である紛争について訴えが提起されたときは、被告の申立てにより受訴裁判所は訴えを却下しなければなりません。
ただし第3の効果には同項ただし書の例外が3つあります。仲裁合意が無効・取消しその他の事由により効力を有しないとき、仲裁合意にもとづく仲裁手続を行うことができないとき、そして申立てが本案について被告が弁論をし、または弁論準備手続において申述をした後にされたときです。条項さえあれば自動的に訴訟が止まるわけではなく、有効な仲裁合意と適切な時期の申立てが前提になります。
対象にも制限があります。仲裁法第13条第1項により、仲裁合意が効力を持つのは当事者が和解をすることができる民事上の紛争に限られ、離婚と離縁の紛争は除かれます。また、仲裁判断に不服があるときの扱いは通常の上訴とは違い、仲裁法第44条第1項が挙げる8つの事由に限って裁判所に取消しを申し立てられます。この申立ては、仲裁判断書の写しの送付による通知がされた日から3か月を経過したとき、または執行決定が確定したときはできません(同条第2項)。
訴訟とADRの期間・費用の比較
ADRの利点としてよく挙がる「速い」「安い」は、公表されている数値で確かめられます。ただし比べている母集団が違う点は押さえておく必要があります。
民事第一審の平均審理期間と認証ADRの終了までの期間
最高裁判所が公表している裁判の迅速化に係る検証統計によると、地方裁判所の民事第一審通常訴訟事件の平均審理期間は、令和6年が9.2か月、令和7年が8.9か月(速報値)です。ただし事件類型による差は大きく、第11回「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」では、令和6年の平均審理期間が労働関係16.7か月、医療損害賠償24.9か月、建築瑕疵損害賠償26.9か月と報告されています。審理期間が2年を超える事件も7.6%あります。
認証ADRの統計は、これとは母集団が異なります。法務省が公表している認証紛争解決事業者の取扱件数によると、令和6年度に終了した認証ADR 10,207件のうち、相手方不応諾で終わったものを除く6,484件の所要期間は次のとおりです。ここでいう終了には、和解が成立したものだけでなく、取下げ・離脱や成立見込みなしで終わったものも含まれます。
| 所要期間 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 1か月未満 | 4,264件 | 65.8% |
| 1か月以上3か月未満 | 1,635件 | 25.2% |
| 3か月以上6か月未満 | 392件 | 6.0% |
| 6か月以上1年未満 | 151件 | 2.3% |
| 1年以上 | 42件 | 0.6% |
3か月未満で終わったものが5,899件と91.0%を占めます。訴訟の平均審理期間は判決や和解による解決までの長さ、認証ADRのこの集計は手続が終わるまでの長さであり、同じ物差しではありません。また、この集計からは相手方不応諾による終了3,723件が外されています。
訴え提起・民事調停・民間ADRの申立手数料
申立てのときに納める手数料は、3つの制度で次のように定められています。請求額100万円のケースで並べました。請求額が140万円を超えない請求は、裁判所法第33条第1項第1号により簡易裁判所が第一審の裁判権を持ちます。
| 手続 | 申立手数料(請求額100万円・被告1名) | 根拠 |
|---|---|---|
| 訴えの提起(民事訴訟) | 書面申立て12,500円/電子申立て11,400円 | 民事訴訟費用等に関する法律 別表第二(令和8年5月21日以後の申立て) |
| 民事調停の申立て | 5,000円 | 同 別表第一 一四の項(価額10万円までごとに500円) |
| FINMACのあっせん申立て | 2,090円 | 証券・金融商品あっせん相談センターの料金表(請求額100万円以下) |
この表に載せたのは申立てのときに納める手数料だけで、利用にかかる総額ではありません。裁判所の手続では郵便物の料金等が別に必要になり、民間ADRでは期日手数料や成立手数料を設けている機関があります。弁護士に依頼する場合の報酬も別にかかります。民間ADRの費用は機関ごとに違い、ADR法第28条は認証紛争解決事業者が契約で定めるところにより報酬を受けられると定めているだけなので、利用前に各機関の料金表を確認してください。なおFINMACの場合、あっせんに応じる側の事業者に費用負担はありません。
相手方が応じなかった場合の終了事由と制度ごとの差
民間ADRで最初につまずくのは費用でも期間でもなく、相手が土俵に上がらないことです。ADR法第2条第1号は民間紛争解決手続を「紛争の当事者双方からの依頼を受け」て行う手続と定義しています。条文の段階で双方の依頼が前提になっているため、片方が拒めば手続は成り立ちません。裁判所の調停のように一方の申立てで始まる手続や、有効な仲裁合意がある場合は扱いが異なります。
民間ADRで応じてもらえない頻度は統計に表れています。令和6年度に終了した認証ADR 10,207件の終了事由は次のとおりです。
| 終了事由 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 和解成立 | 5,568件 | 54.6% |
| 相手方不応諾 | 3,723件 | 36.5% |
| 取下げ又は離脱 | 724件 | 7.1% |
| 成立見込みなし | 177件 | 1.7% |
| その他 | 15件 | 0.1% |
3件に1件以上が、相手が応じないまま終わっています。この36.5%は認証ADR全体の集計で、離婚協議や金銭の貸し借りなど個人間の紛争も含みます。企業間の契約紛争だけを取り出した数値ではない点に注意してください。
行政型でも構図は同じです。厚生労働省が2026年7月7日に公表した「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、労働局のあっせんの処理終了件数4,220件のうち、紛争当事者の一方が不参加だったものが2,006件(47.5%)、双方が参加してあっせんが開催されたものが1,916件(45.4%)でした。結果は合意の成立が1,141件(27.0%)、合意せず打ち切りが2,814件(66.7%)です。打ち切り2,814件には、不参加によるものと、参加したうえで合意に至らなかったものの両方が含まれます。なお処理終了件数のうち2か月以内に処理されたのは3,064件(72.6%)です。
この構図を変えられる仕組みは2つあります。ひとつは前述の仲裁合意で、紛争が起きてから相手の同意を取り直す必要がありません。もうひとつは金融ADRで、後述のとおり金融機関側に手続に応じる義務が法律上課されています。
認証ADRに認められる法的効果
民間のADR機関はADR法の認証がなくても運営できます。それでも認証を取る事業者が増えているのは、認証紛争解決手続に法律上の効果が付くからです。なお、時効や訴訟手続に関する効果は認証ADRに固有のものではなく、国民生活センター紛争解決委員会のように個別の法律にもとづくADRにも付与されています。
時効の完成猶予(ADR法第25条)
ADRで話し合っている間に時効が完成してしまうと、手続を選んだこと自体が不利益になります。ADR法第25条第1項は、和解が成立する見込みがないことを理由に手続実施者が認証紛争解決手続を終了した場合、依頼した当事者がその通知を受けた日から1か月以内に同じ請求について訴えを提起したときは、時効の完成猶予に関してADRでの請求の時に訴えの提起があったものとみなすと定めています。1か月という期限が付いている点に注意してください。
訴訟手続の中止(第26条)と調停前置の特則(第27条)
すでに訴訟になっている紛争でも、ADRに切り替える余地があります。第26条は、当事者間に訴訟が係属している場合に、認証紛争解決手続が実施されているなどの事由があり、かつ当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所が4か月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する決定をできると定めています。
第27条は逆方向の特則です。民事調停法第24条の2第1項の事件や家事事件手続法第257条第1項の事件(同法第277条第1項の事件を除く)は、訴えの前に調停を申し立てなければならない調停前置の対象ですが、訴え提起前に認証紛争解決手続を試みて和解の見込みなしで終わっていれば、この調停前置の規定は適用されません。ただし同条後段は、受訴裁判所が適当であると認めるときは職権で事件を調停に付することができると定めており、裁判所の調停を必ず省略できるわけではありません。
特定和解の執行決定(第27条の2)
民間ADRの弱点として長く指摘されてきたのが、和解が成立しても相手が履行しなければ別途債務名義を得る必要がある点でした。この点は令和5年法律第17号による改正で変わり、改正後の規定は2024年4月1日から施行されています。
ADR法第2条第5号は、特定和解を「認証紛争解決手続において紛争の当事者間に成立した和解であって、当該和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意がされたもの」と定義します。第27条の2第1項により、特定和解にもとづいて民事執行をしようとする当事者は、債務者を被申立人として裁判所に執行決定を求める申立てをします。同条第10項は、申立てを却下する場合を除き裁判所は執行決定をしなければならないと定め、却下できるのは第11項が列挙する7つの事由(和解が無効である、債務の内容を特定できない、債務が既に消滅している、など)があると認めるときに限られます。
法務省の比較表でも、強制執行力の欄は裁判が「ある」、認証ADRも「ある」と記載され、特定和解について裁判所の決定を得ることで強制執行ができる旨の注記が付いています。制度開始年度である令和6年度の実績は、成立した和解5,568件のうち特定和解が180件でした。
執行決定の対象から外れる4つの類型(第27条の3)
ここが実務で最も取り違えやすい部分です。ADR法第27条の3は、次の4類型の特定和解には執行決定の規定を適用しないと定めています。
- 消費者契約法上の消費者と事業者との間で締結される契約に関する紛争に係る特定和解
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第1条に規定する個別労働関係紛争に係る特定和解
- 人事に関する紛争その他家庭に関する紛争に係る特定和解(民事執行法第151条の2第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権に係るものを除く)
- 調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律第2条第3項の国際和解合意に該当し、同法の適用を受けるもの
つまりADR法にもとづく執行決定が使えるのは、主に事業者間の紛争です。消費者契約に関する紛争や個別労働関係紛争で認証ADRを使う場合、和解が成立してもこの執行決定の道はありません。家庭に関する紛争については、養育費など民事執行法第151条の2第1項が掲げる扶養義務等に係る金銭債権だけが例外的に対象になります。なお、執行決定が使えないことと債務名義を一切得られないことは別で、執行認諾文言付きの公正証書を作成するなど、別の方法を検討する余地は残ります。
金融ADRに固有の応諾義務と特別調停案
「金融ADR」「損保ADR」と呼ばれる手続は、ADR法の認証制度とは別の枠組みで動いています。根拠は金融商品取引法や銀行法などの業法で、内閣総理大臣の指定を受けた指定紛争解決機関が担います。金融庁が公表している一覧では、生命保険協会・全国銀行協会・信託協会・日本損害保険協会・保険オンブズマン・日本少額短期保険協会・日本貸金業協会・証券金融商品あっせん相談センター(FINMAC)の8団体が指定されています。
違いは、金融機関側に義務が課される点にあります。金融商品取引法第156条の44第2項第2号は、指定紛争解決機関との手続実施基本契約の内容として、加入業者が手続に応じるよう求められたときは「正当な理由なくこれを拒んではならない」ことを定めています。さらに同条第2項第5号と第6項は特別調停案の仕組みを置き、顧客が受諾しない場合や一定期間内に訴訟が提起された場合などの例外を除き、加入業者は特別調停案を受諾しなければならないとしています。
| 比較軸 | 認証ADR(ADR法) | 金融ADR(業法上の指定紛争解決機関) |
|---|---|---|
| 相手方の応諾 | 任意。令和6年度は既済の36.5%が不応諾で終了 | 加入業者は正当な理由なく拒めない |
| 和解案の受諾 | 双方の任意 | 特別調停案は例外を除き加入業者が受諾する義務を負う |
| 対象 | 認証の範囲内の民事紛争 | 金融機関とその顧客との間の業務関連紛争 |
不動産や土地境界の分野では、一般社団法人日本不動産仲裁機構や各地の土地家屋調査士会が認証紛争解決事業者として法務省の一覧に掲載されています。一方で「医療ADR」のような呼び名は取り扱う分野を示す通称であり、運営主体が認証を受けているかどうかは機関ごとに異なります。利用を検討するときは、運営主体と根拠となる制度を個別に確認してください。
契約条項でADRを設計するときの判断
企業間の取引でADRが効くのは、関係を続けたい相手との紛争です。訴訟は公開が原則で、期日は公開の法廷で開かれ、判決も公にされます。取引先や求職者が必ず知るとまでは言えませんが、第三者が争いの存在を知る可能性はADRより高くなります。ADRは非公開で進むため、取引を継続しながら着地点を探せます。
そのうえで、設計は紛争が起きる前に済ませておくのが要点です。紛争が起きてから相手の同意を取りに行くと、応諾が得られずに終わる余地が残ります。契約段階で検討する選択肢は3つあります。
- 仲裁条項を入れる。有効な仲裁合意があり、相手が本案について弁論をする前に申し立てれば、仲裁法第14条第1項により訴えは却下されます。判断に服する合意なので、不服申立ては同法第44条第1項の8事由による取消しに限られます。
- 協議前置・調停前置の条項を入れる。訴訟の前に特定のADR機関での手続を経る旨を定めます。相手が応じない場合の次の手順も併せて書いておきます。
- 認証ADRを使う前提で、和解時に民事執行ができる旨の合意(特定和解)まで想定しておく。事業者間の紛争であれば執行決定の道が開きます。
逆に、認証ADRだけに依存すべきでない場面もはっきりしています。相手が消費者である契約に関する紛争と、従業員との個別労働関係紛争は、ADR法第27条の3により執行決定の対象外です。請求額が大きく履行の確実性を最優先する取引や、相手の応諾が見込めない相手方との取引では、仲裁条項か執行認諾文言付きの公正証書など、債務名義を確保できる手段を契約時に決めておくほうが確実です。契約時に決めておく事項は、利用する機関、手続の種類、費用の負担、応諾が得られなかった場合の取り扱いの4点です。
どの条項を置くかは契約類型ごとに争点が違います。システム開発であれば検収と追加費用が争点になりやすく、契約形態の選び方は委託とは?委任・請負・受託との違いと発注者が押さえる契約の選び方で整理しています。発注者と受注者の力関係が絡む場面では下請法とは?システム開発の委託で押さえる4義務・11禁止行為と2026年改正(取適法)が関係します。紛争が訴訟まで至った実例は基幹システム刷新の失敗事例と回避策|出荷停止と訴訟に至った5件を工程別に分解で扱いました。
なお、社内の対立や部門間の衝突は、ADRの対象になる民事紛争になる前の段階です。この段階の扱いはコンフリクトマネジメントとは?意味と5つの対応モード、対立が業績に与える影響を参照してください。
よくある質問
ADRとは何の略ですか?
Alternative Dispute Resolutionの略で、日本語では裁判外紛争解決手続と訳されます。ADR法第1条は「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」と定義しています。なお証券分野では米国預託証券、ソフトウェア開発ではアーキテクチャ決定記録を指す同じ略語があります。
あっせんと調停と仲裁はどう違いますか?
あっせんと調停は当事者が合意しなければ成立しない手続で、第三者は話し合いを助ける役割です。仲裁は第三者の判断に服する合意を先に交わしてから始める手続で、仲裁法第45条第1項により仲裁判断は確定判決と同一の効力を持ちます。あっせんと調停の境目は法律上厳密ではなく、機関によって呼び方が分かれます。
相手がADRに応じない場合はどうなりますか?
民間事業者が行う和解の仲介は当事者双方からの依頼にもとづく手続(ADR法第2条第1号)のため、相手が拒めば手続は開始しないまま終わります。令和6年度に終了した認証ADR 10,207件のうち3,723件が相手方不応諾による終了でした。あらかじめ仲裁合意をしている場合と、金融ADRのように業法で応諾義務が課されている場合は扱いが異なります。
ADRで成立した和解に強制執行力はありますか?
2024年4月1日から、認証紛争解決手続で成立した和解のうち、民事執行ができる旨の合意がされた特定和解については、裁判所の執行決定を得ることで強制執行ができます(ADR法第27条の2)。ただし第27条の3により、消費者契約に関する紛争、個別労働関係紛争、家庭に関する紛争(扶養義務等に係る金銭債権を除く)などは対象外です。裁判所の民事調停で成立した調停調書は、民事調停法第16条により裁判上の和解と同一の効力を持ちます。
ADRの費用はいくらかかりますか?
機関ごとに異なります。ADR法第28条は認証紛争解決事業者が契約で定めるところにより報酬を受けられると定めているだけで、金額は法定されていません。参考として、FINMACのあっせん申立金は請求額100万円以下で2,090円です。裁判所の手続は請求額100万円の場合、民事調停の申立てが5,000円、訴えの提起が書面申立て12,500円・電子申立て11,400円(被告1名)です。いずれも申立手数料だけの額で、郵便物の料金等や弁護士報酬は別にかかります。
ADRはどのくらいの期間で終わりますか?
法務省の統計では、令和6年度に終了した認証ADRのうち相手方不応諾による終了を除く6,484件の65.8%が1か月未満、91.0%が3か月未満で終わっています。この件数には和解が成立したものだけでなく取下げや離脱も含まれます。比較として、地方裁判所の民事第一審通常訴訟の平均審理期間は令和7年で8.9か月(速報値)です。