70:20:10フレームワークとは?企業が注目する人材育成モデルを徹底解説

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70:20:10フレームワークとは?企業が注目する人材育成モデルを徹底解説

70:20:10フレームワークとは、人材の成長に寄与する学習の源泉を「経験・薫陶・研修」の3つに分け、その割合を「70%:20%:10%」と示した人材育成モデルです。企業の人材育成戦略の基盤として世界的に広く活用されており、実践的な経験を重視しながらも指導(フィードバック)や研修を組み合わせるバランスの取れたアプローチとして注目されています。本記事では、この70:20:10モデルの基本概念から各要素の意味や効果、導入によるメリット、さらに実践事例や導入ステップ、成功のポイントまでを徹底解説します。

70:20:10モデルにおける7割の業務経験・2割の薫陶・1割の研修という学習内訳とは?

70% – 業務経験(OJT)

日々の業務を通じた経験からの学習です。新しい課題への挑戦、問題解決、成功・失敗体験など、実務そのものから得られる知識やスキルがこれに当たります。日常業務の中での試行錯誤や達成感、悔しさといった体験が主体的な成長を促し、最も大きな学びの源泉となります。

20% – 薫陶(人からの学び)

上司・先輩からの指導、フィードバック、メンタリングやコーチングなど、他者との関わりから得られる学習です。他者からの助言によって自分では気づけない視点を得たり、行動に対する客観的なフィードバックを受けることで、経験からの学びを深めることができます。

10% – 研修(形式的学習)

研修やセミナーへの参加、書籍やeラーニングによる学習など、体系立てられたフォーマルな学習機会から得られる知識です。業務の基礎知識や最新の専門知識、理論的フレームワークを習得し、自身の経験を補完・体系化する役割を果たします。
このように、人材育成の70:20:10モデルは個人の成長に影響を与える3要素の大まかな内訳を示しています。ただし、この比率は「研修がたった10%だから重要度が低い」という意味ではありません。むしろ経験からの学びを効果的にするために、薫陶や研修が不可欠であり、研修や先輩からの指導によって得られた気づきがあるからこそ、日々の業務経験がより深い学びにつながるのです。

企業が70:20:10モデルに注目するのはなぜか?その背景と理由を探る

企業がこのモデルに注目する背景には、人材育成の常識が転換しつつあることがあります。従来は研修中心の人材育成が主流でしたが、現場での実践的な成長機会の重要性が見直されてきました。1990年代に米国のリーダー育成研究で実務経験の重要性が科学的に示されたことは、当時座学中心だった企業研修への疑問を投げかけ、大きなインパクトを与えました。この研究結果により、「教室で学ぶだけでなく、現場での挑戦や上司からの指導が欠かせない」との認識が広がり、企業は研修投資の効果を高めるために現場学習やメンタリングに力を入れるようになったのです。
また、ビジネス環境の変化も理由の一つです。変化の激しい現代では、新しい知識やスキルを机上で学ぶだけでなく、現場で即戦力として身につけるスピードが求められます。70:20:10モデルは、オンザジョブでの成長を促進しつつフォーマル研修で理論武装し、フィードバックで軌道修正するという即応性の高い人材育成を可能にするため、多くの企業が注目しているのです。事実、このモデルは発表後にグローバル企業を中心に広く受け入れられ、人材育成の基本的な考え方として世界的なスタンダードになっています。企業はこのモデルを通じて、研修と実務を連動させた効率的・効果的な育成に取り組み、人材の成長スピードと事業成果への貢献度を高めようとしているのです。

70:20:10フレームワークの導入によって企業が期待できる効果とメリット

70:20:10モデルを導入することにより、企業は人材育成面で様々な効果とメリットを期待できます。第一に、社員の成長スピードの向上です。日常業務で挑戦機会を与えられた社員は、机上の学習のみの場合に比べて迅速に実践的スキルを身につけることができます。例えば、新任マネージャーに研修だけでなく実際のプロジェクトリーダー経験を積ませれば、短期間でリーダーシップ能力が飛躍的に向上します。また、研修で学んだ知識をすぐに現場で試すことで定着率が上がり、研修投資の効果を最大化できます。
第二に、組織内の学習文化醸成というメリットがあります。70:20:10モデルでは上司や先輩が部下育成に関与し、フィードバックや指導を日常的に行うため、組織全体で「教え・学び合う」風土が育ちます。その結果、社員同士が知見を共有し合ったり、業務の後にチームで振り返りを行ったりする習慣が根付き、ナレッジシェアが活発になります。例えば「週次ミーティングの最後に今週学んだことを共有する」といった簡単な取り組みでも、組織全体の学習意識を高める効果があります。
第三に、人材育成と業績向上の連動です。現場の課題解決やイノベーションの場が育成の場ともなるため、人材育成施策が直接的に事業成果につながりやすくなります。社員が経験から学んだことをすぐ業務改善に活かすことで生産性向上や問題解決が進み、企業業績への貢献が期待できます。総じて、70:20:10モデルは研修コストの有効活用と現場力の強化を同時に実現できるアプローチであり、企業にとって人材育成のROI(投資対効果)を高めるメリットがあると言えるでしょう。

70:20:10モデルの限界と誤解:数値を絶対視せず柔軟に捉える必要性

70:20:10モデルは有用な指針ではありますが、数値をそのまま絶対的なものと捉えるのは誤りです。まず、この「70-20-10」という比率自体が各社共通の万能解ではないことを理解しましょう。実際の最適な学習配分は、個人の職種やキャリア段階、組織の状況によって異なります。例えば、新入社員や未経験分野に取り組む場合は、基本知識を習得するために一時的に研修の比重(10%)を高める方が効果的なケースもあります。一方で、ベテラン社員であれば研修よりも現場での実践課題や部下への指導を通じた学びが中心になるかもしれません。重要なのは、70・20・10という数字を杓子定規に当てはめるのではなく、学習と成長の原則として柔軟に応用することです。
また、「70:20:10」は経験学習・非形式学習の重要性を示す経験則であり、厳密な科学法則ではない点にも注意が必要です。提唱者自身もこのモデルは「科学的事実でもなければ処方箋でもない」と述べており、裏付けとなる大規模な実証研究が不足しているとの指摘もあります。したがって、「70%やれば必ず成長する」「研修は10%しか効果がないから不要だ」といった極端な解釈は誤解です。実際には各要素は相互に補完関係にあり、70%の経験から最大の学びを得るために20%の指導と10%の研修が存在すると捉えるのが適切です。このモデルの限界を理解しつつ、自社の文化や人材像に合わせてカスタマイズして活用することが求められます。
例えば、業種や職種によるカスタマイズも必要でしょう。高度な専門知識が求められる研究開発職では研修や自己学習(10%)の割合を高めた方が良い場合がありますし、顧客対応が中心の営業職では現場経験や先輩からのフィードバック(70%・20%)比率を高める方が効果的でしょう。既に整備された研修プログラムがある企業ではそれを活かしつつ、経験学習の要素を強化する形でモデルを適用するのが現実的です。このように数値にとらわれすぎず、状況に応じて柔軟に運用することが、70:20:10モデルを正しく活用するポイントとなります。

リーダー育成への応用など70:20:10モデルの幅広い活用領域と展開

70:20:10モデルは、もともとリーダーシップ開発(経営幹部の成長要因分析)から提唱された経緯があり、現在ではあらゆる人材育成領域で応用されています。例えば次世代リーダー育成プログラムでは、このモデルに沿って「難度の高いプロジェクトへの抜擢(70%)」「メンターによる継続指導(20%)」「リーダーシップ研修受講(10%)」を組み合わせた体系が組まれています。実際、アメリカの有名企業では幹部候補生に対し、重要プロジェクトへのアサインとメンタリング、MBA派遣などの研修を組み合わせる形でこのモデルを活用しているケースが多々あります。こうした「大人の学習モデル」とも呼ばれる考え方は、アメリカでは30年以上にわたり研究・実証され、リーダー育成の黄金ルールとして定着しています。
さらにこのモデルは一般社員のキャリア開発や現場でのOJT制度にも応用可能です。個人が自身の成長目標を立てる際にも、「新たな仕事に挑戦する」「信頼できる先輩にフィードバックを求める」「定期的に研修や読書でインプットする」といった形で70:20:10の視点を取り入れることができます。また、人材育成だけでなく組織学習の観点でも幅広く展開できます。社員が経験から得た教訓を社内のナレッジとして共有する仕組みや、他部署との人事交流で多様な経験を積ませる取り組みなど、70:20:10の考え方は組織全体の学習力向上に資するアイデアを生み出します。
日本においても、「自己啓発を促し主体的に学ぶ社員を育てる」という流れの中でこのモデルへの関心が高まっています。社内研修だけでなくOJTやメンター制度を強化しようとする企業、学習する組織風土を醸成しようとする企業にとって、70:20:10モデルは具体的な指針として機能します。「経験」「薫陶」「研修」のバランスを常に意識して人材育成施策を企画・実施することで、社員の成長とエンゲージメントを高め、変化への適応力を備えた人材を育てることができるでしょう。

ロミンガーの法則の基本概要:70:20:10モデルが提唱された背景と由来を解説

ロミンガーの法則とは、前述の70:20:10モデルのことを指す別名で、米国の人材コンサルティング会社ロミンガー社(Lominger社)によって提唱された人材育成に関する法則です。この名称は、同社の創業者であるマイケル・ロンバルド氏 (Michael M. Lombardo) と ロバート・アイヒンガー氏 (Robert W. Eichinger) の両名に由来しています。1990年代、ロミンガー社は様々な企業の経営者・幹部クラスを対象に「リーダーとしての成長に最も役立ったものは何か」という調査・インタビューを行いました。その結果、「仕事上の経験」と答えた人が圧倒的多数を占め、次いで「上司・メンターからの指導や薫陶」、「研修などの formal な学習」という順であることが分かったのです。この調査結果を元にまとめられたのが70:20:10モデルであり、これが「ロミンガーの法則」として知られるようになりました。

ロミンガー社とは何か?米国発の人材コンサル企業による調査概要

ロミンガー社は米国ミネソタ州に拠点を置いていたリーダーシップ開発の専門企業で、1991年にロンバルド氏とアイヒンガー氏によって設立されました。両氏はそれ以前にリーダー育成で著名なCCL(Center for Creative Leadership、リーダーシップ育成機関)で研究者を務めており、人材開発分野での豊富な知見を持っていました。ロミンガー社は数々の企業向けにリーダーシップ研修プログラムやアセスメントツールを提供しており、その中で「人材はどのように成長するのか」というテーマの調査研究を行っていたのです。
彼らの代表的な調査は、1990年代半ばに実施された成功した経営幹部約200人へのインタビュー調査でした。質問内容は「あなたのキャリアの中で、成長に最も寄与した学習経験は何か」というもので、自由回答から共通項を分析しています。この調査の結果、経営幹部の成長要因として「業務上の挑戦的な経験」が突出して多く挙げられ、次に「上司やメンターからのアドバイス・指導」「研修や読書などの学習」が続くという傾向が明らかになりました。この定性的な調査結果を定量的な比率に落とし込んだものが「70:20:10」という数字なのです。

経営幹部の成長要因分析から導き出された「70:20:10」の学習比率

ロンバルド氏とアイヒンガー氏の調査では、前述のように幹部たちの回答を分析する中で「およそ7割:2割:1割」の比率が浮かび上がりました。すなわち「実践的な経験からの学びが約70%、人からの学びが約20%、研修など公式な学習からが約10%」という割合です。この結果は彼らが執筆した書籍『The Career Architect Development Planner(邦訳なし)』にまとめられ、1996年に初版が出版されました。同書の序文では、「人材の成長は、約70%が仕事上の経験(課題や問題に取り組む中での経験)から、20%がフィードバックや良い悪い手本といった周囲との関わりから、そして10%が講座や読書からもたらされる」と述べられています。これはロミンガー社の調査に基づく経験則として提示されたものであり、後に70:20:10モデルとして広く知られるようになりました。
この学習比率は、当時の人材育成の常識に一石を投じるものでした。それまで企業の人材育成と言えば研修(Off-JT)中心で、「仕事での成長は本人任せ」という風潮もありました。しかし本調査は、計画的な経験の付与こそが人材育成で極めて重要であることを示唆し、研修偏重だった企業に実務経験を重視した育成への転換を促したのです。この発見は画期的であり、多くの企業が育成施策の見直しを迫られる契機となりました。

ロンバルド氏&アイヒンガー氏が提唱した70:20:10理論の内容

ロンバルド氏とアイヒンガー氏が提唱した70:20:10理論の核心は、単に学習源の比率を示すだけでなく「効果的な人材育成には実践(経験)と対話(薫陶)と体系的学習(研修)をバランスよく組み合わせる必要がある」というメッセージにあります。彼らは、このモデルを硬直的な数値ルールではなく人材開発の原則として位置づけました。実際、『The Career Architect Development Planner』の中でも、成長のきっかけは「現状や将来の必要性に気づき何とかしようと思うこと」であり、そのきっかけは「フィードバック」や「失敗」など経験から生じるものが多い、と述べられています(つまり経験が成長の原動力になる)。ただし同時に、そうした経験から最大限に学ぶためには周囲からのフィードバックや良い手本・悪い手本から学ぶこと(20%)、そして理論や知識を習得すること(10%)が欠かせないとも説明されています。
要するに、70:20:10理論は「人は経験だけでも知識だけでも片手落ちで、経験を軸にしつつ人から学び、知識を補充することで効果的に成長する」というコンセプトを数値化したものです。現場での経験を積みっぱなしにせず、振り返りとフィードバックによって経験を学びに昇華させ、さらに研修や読書で得た知識を現場で試して定着させる——このサイクルが重要であることをロンバルド氏らは強調しました。したがって、70:20:10の数値自体よりも、「経験・薫陶・研修の3要素を組み合わせることが成長に効果的だ」という理論内容こそが肝要なのです。

ロミンガーの法則が人材開発の常識に与えたインパクトと評価

ロミンガーの法則(70:20:10モデル)は、人材開発の世界に大きなインパクトを与え、その後の企業研修や人材育成戦略に広く影響を及ぼしました。まず評価すべき点は、このモデルが従来軽視されがちだったOJTやメンタリングの価値を可視化したことです。それまで多くの企業では研修予算やリソースの大半が集合研修に投じられ、現場での経験や上司の指導は「暗黙知」として捉えられていました。70:20:10モデルはそれに数値で光を当て、「現場経験や指導こそが最大の学習源泉である」と示したため、企業は研修体系の見直しを迫られました。具体的には、研修だけでなく計画的なOJTやメンター制度に力を入れ始めたり、研修後のフォロー研修や現場実践課題をセットにしたプログラム設計が増えるなどの変化が生まれました。
一方で、批判的な評価も存在します。最大の指摘は実証的エビデンスの乏しさです。70:20:10は成功者の自己申告に基づく調査結果であり、「人材育成に最適な比率」を科学的に実験で証明したものではありません。そのため「70:20:10という数字が奇妙に丸すぎる」「証拠がないまま一人歩きしている」との批判があります。また、一部の企業ではこの法則を誤解して「研修予算を削減する口実」に使ったケースもあり、「研修は重要ではない」と短絡的に解釈されたりもしました。しかしその結果、研修を軽視しすぎて現場で非効率なやり方が蔓延するなど弊害も報告されています。
総合的には、ロミンガーの法則は人材開発におけるパラダイムシフトをもたらしたとの評価が一般的です。人が成長するプロセスを包括的に捉え直し、企業に対して研修と現場実践の統合的なアプローチを促した点でその功績は大きいと言えます。ただし、「絶対視は禁物、あくまでガイドライン」という注意書き付きで受け止めることが重要であり、現在の人材育成担当者はこのモデルのメリットと限界の両方を理解した上で活用していくことが求められます。

日本におけるロミンガーの法則への関心と導入事例

日本でも2000年代以降、ロミンガーの法則(70:20:10モデル)への関心が高まりました。人材育成の分野で知られる専門書やセミナーで紹介されたほか、企業の人事部門でも研修内でこの概念を取り上げる例が増えています。特に若手社員の早期育成や次世代リーダー育成に課題を感じている企業が、このモデルを参考に育成体系を再構築するケースが見られます。例えば、新入社員研修後のフォローとして計画的OJTを強化したり、メンター制度を正式導入する企業が増えてきました。また、学習を記録・共有する仕組み(ナレッジマネジメントツール等)を導入して、社員同士が経験から学んだことを社内SNS等で発信・共有する試みを行う企業もあります。これは70:20:10モデルの考え方を下敷きに、「経験からの学び」を組織知として活かそうとする動きと言えるでしょう。
具体的な導入事例としてよく知られるのは富士ゼロックスです。同社は人材開発に70:20:10モデルをベースとするフレームワークを取り入れており、特に「70%を占める業務経験のデザイン」を重視しています。社員一人ひとりが成長できるよう、組織横断の人材育成フォーラムを活用して適材適所の配置(ストレッチな業務へのアサイン)を計画的に進めるなど、経験学習の仕組み作りを行っています。後述するように、富士ゼロックスはモデル導入によって大きな成果を上げた企業の一つで、日本企業における成功事例として注目されています。

70%は実務経験からの学び:現場経験による成長が人材育成の大部分を占める理由と効果

70:20:10モデルにおいて最大の割合を占める「70%=実務経験からの学び」。なぜ現場での経験がそれほどまでに人の成長を促すのでしょうか?ここでは、現場で挑戦することが成長につながる理由や、経験から学ぶ効果、そして経験学習を最大化する方法について詳しく解説します。

現場の挑戦が成長につながる理由:実務経験から学ぶ意義と効果

現場での挑戦的な業務は、個人の成長を加速させる強力なエンジンです。第一の理由は、実務経験が「自ら考え、行動する」機会を提供する点にあります。難しい課題や未知のプロジェクトに取り組むと、成功・失敗にかかわらず何らかの結果が出ます。その結果に対して本人は真剣に向き合わざるを得ず、何が上手くいき何が問題だったのかを深く考えることで学びが生まれます。単に過去から続けて慣れきった業務やルーチンワークを繰り返すだけでは成長につながらないのに対し、少し背伸びしないと達成できないような仕事に挑戦することで初めて大きな成長が得られるのです。現場での難局(例:赤字事業の立て直し、新製品開発プロジェクトなど)は、知識だけでは太刀打ちできない複雑な問題解決力やリーダーシップを鍛える絶好の機会となります。
第二の理由は、経験による学びは実践を伴うため定着しやすい点です。人は自分で試行錯誤した末に得た教訓を強く記憶に刻みます。例えばクレーム対応に失敗した経験は、以降同じミスを繰り返さないよう強烈な学習効果を残すでしょうし、大成功を収めたプロジェクトの達成感は次の挑戦への自信と知恵となって蓄積されます。単なる知識のインプットに比べて行動を伴う経験学習は記憶への定着度が高く、長期的な成長に寄与するのです。また実務経験は常にリアルタイムのフィードバックを伴います。市場の反応や業績といった結果が即座に返ってくるため、学んだことの有効性や不足点が明確になり、学習サイクルを高速で回すことができます。こうした理由から、現場での挑戦なくして本当の成長なしと言えるほど、経験からの学びは大きな意義と効果を持っています。

経験学習サイクルとは?経験を振り返り次に活かすプロセスを解説

現場での経験から最大限の学びを引き出すには、経験学習サイクル(Experiential Learning Cycle)を意識することが重要です。これは米国の教育学者デービッド・コルブが提唱した理論で、「経験」→「内省(振り返り)」→「概念化(一般化)」→「実践(試行)」という4つのステップを回すことで経験を学習に昇華させるプロセスを指します。まず何かを体験し、その出来事について内省(何が起こり、なぜそうなったのか、自分はどう感じたか等をじっくり振り返る)します。次にその気づきを概念化し、一般化できる教訓や原理を導き出します。そして最後に、それらを踏まえて新たな行動計画を立て、実際に試行(実践)してみるのです。このサイクルを何度も回すことで、経験から継続的に学び、成長し続けることができます。
例えば営業担当者がプレゼンで失敗したとしましょう。単に「次も頑張ろう」で終わらせず、まず経験を振り返ります(内省:「なぜ失敗したか?準備不足だったか、相手ニーズを誤解したか」)。次に学びを言語化します(概念化:「顧客の課題をもっと事前に分析すべきだった」)。そして次回のプレゼンでその教訓を生かす計画を立て実践します(試行:「事前に顧客ヒアリングシートを作成し提案内容をすり合わせる」)。結果、次はうまくいったら、またその経験を振り返り…というように、このPDCAに似たサイクルを回すことで経験が単なる出来事で終わらず知識・スキルとして定着していくのです。企業が70%の業務経験からの学びを重視する際には、この振り返りと教訓化のプロセスを組織としてサポートすることが大切です。後述する上司のサポートやフィードバック文化は、この経験学習サイクルを促進する役割を果たします。

実務経験で得た知識が定着しやすい理由と長期的成長への寄与

人は座学で聞いた知識よりも、自分で体験して得た知識の方が忘れにくいものです。実務経験で得た知識が定着しやすい主な理由としては、(1)体験に感情が伴うこと、(2)実際に行動することで身体感覚を伴って覚えること、(3)結果を踏まえて即座にフィードバックが得られること、が挙げられます。例えば大きなミスをして取引先に迷惑をかけた経験は、悔しさや責任を痛感するため強烈な感情記憶となり、同じ間違いを二度と繰り返さないよう深く心に刻まれます。また実際に手や身体を動かして覚えたスキル(例:工場作業の手順や接客の所作)は、頭で理解しただけの場合に比べてスムーズに再現できます。「習うより慣れよ」という言葉通り、経験を積むことで知識がスキルとして体に染み込み、長期にわたり活用可能なものとなるのです。
さらに、実務経験で得た知識は他の知識や経験と結びつきやすい点も定着を促します。現場での学びは往々にして断片的ではなく、業務の文脈や人間関係の中で得られるため、複合的なネットワークとして記憶されます。例えば新人営業が実際の顧客対応を通じて「商品知識」と「プレゼンのコツ」と「顧客心理への理解」を同時に学んだとすれば、これらは現実の一連の流れとして脳内に記録されるため、知識同士が有機的に結びつき思い出しやすくなります。さらに、その経験で得た知識をすぐ次の業務で使ってみることで記憶はより強化されます(「学んだら即使う」が定着には効果的)。研修で学んだことでも、現場ですぐ実践に移すと習熟度が格段に上がるのはこのためです。
以上のように、実務経験は長期的な成長の土台を築きます。経験の蓄積はスキルの熟達につながり、10年選手のベテランが新人より高い成果を出せるのは単に知識量の差だけでなく、経験知の集積がモノを言うからです。もちろん現代では環境変化が速いため経験だけに頼るのは危険ですが、根幹となるスキルや判断力はやはり多くの場数を踏むことで磨かれていくものです。ゆえに企業は社員に豊富な実務経験の機会を与え、そこで得た学びを長期的な成長へと繋げていけるよう支援する必要があります。

ストレッチ課題の重要性:高難度プロジェクトで学びを促進する効果

「ストレッチ課題(ストレッチアサイン)」とは、社員の現在の能力レベルよりやや高い難度の仕事や役割を意図的に与えることを指します。このストレッチな経験こそが、社員の潜在力を引き出し成長を飛躍的に促進すると言われています。例えば、若手社員に小規模プロジェクトのリーダーを任せたり、普段とは異なる部署との協働タスクを経験させたりすることがこれに当たります。ストレッチ課題の重要性は、社員に適度なプレッシャーと学習機会を与える点にあります。簡単すぎる業務では新たな学びは生まれにくいですが、少し頑張らないと達成できない課題ならば、本人は不足する知識を補おうと勉強し、周囲に助言を求め、創意工夫を凝らします。その過程で多くの新しいスキルや知見が得られるのです。
実際、外資系企業の元日本代表である西原哲夫氏は、自身が米国勤務時代に「次々と新しいプロジェクトや困難な業務を任された」ことで大きく成長し、結果として若くして経営幹部に登用された経験を語っています。上司から「この問題のある事業を君の力で立て直してみないか?」と次々にストレッチ課題を振られ、その度に「Yes」と引き受けて挑戦したところ、様々な経験を積んで力がつき、昇進もとんとん拍子だったというのです。これはストレッチ課題が成長機会となり、やり遂げた人にはさらに大きなチャンスが巡ってくる好循環を表しています。逆に言えば、多くの人は大変な仕事は避けたい心理がありますが、敢えて手を挙げて挑戦する社員だけが得難い経験を積み、抜きん出た成長を遂げることになります。
企業にとっては、人材育成の観点から計画的にストレッチ課題を与える仕組みを作ることが重要です。各社員の成長段階を見極め、「少し背伸びすれば届く」レベルの仕事をタイミングよく提供できれば、社員は効果的に学習し成長できます。その際、単に「難しい仕事を投げる」だけでなく、「その経験を通じて何を学んでほしいのか」という育成目標を明確にすることも大切です。例えば「このプロジェクトでリーダーシップを磨いてほしい」「このタスクで専門知識を深めてほしい」といった意図を本人と共有し、挑戦を支援することで、ストレッチ課題の学習効果は最大化します。

実務経験から最大限に学ぶための環境づくりと上司のサポート

社員が経験から最大限の学びを得るには、企業として適切な環境づくりと上司のサポートが欠かせません。まず環境面では、心理的安全性の高い職場風土を醸成することが重要です。社員が新しい挑戦に臆せず取り組み、失敗してもそれを糧にできるようにするには、失敗を過度に責めない文化や「何を学んだか」に焦点を当てて議論する文化が必要です。上司や周囲が失敗した人を嘲笑したり懲罰を与えるような環境では、誰もリスクを取らなくなり挑戦が促されません。逆に「失敗歓迎」「チャレンジ奨励」の姿勢が組織に浸透していれば、社員は安心して難しい課題にも取り組めます。失敗から学ぶ機会を提供するにはこの心理的安全性の確保が前提条件であり、上司が率先して失敗談を共有したり、挑戦する部下を擁護する姿勢を示すことが大切です。
上司のサポートとしては、まず部下に適切な経験機会を与える役割が挙げられます。上司は部下の現在の習熟度や成長ニーズを把握し、「今のこの部下にはどんな経験が成長につながるか」を考えて仕事をアサインする必要があります。先述のストレッチ課題も、上司が部下の状態を見極めて与えてこそ効果を発揮します。また、上司自身が忙しすぎてOJTを見る余裕がないといった状況では、いくら良い経験を与えても放置になり学びが深まりません。したがって、上司は定期的な1on1ミーティングや業務の振り返りセッションなどを設けて、部下が経験を振り返り教訓化するのを支援するべきです。例えばプロジェクトが一段落するごとに上司と部下で「今回上手くいったこと・課題となったこと」を対話で洗い出す時間を取れば、部下は自分だけでは気づかなかった学びを得ることができます。
さらに、多様な視点からのインプットを得られるよう上司が環境を整えることも有効です。例えば部門内での勉強会や、部下を他部署の会議にオブザーブ参加させるなど、日常業務に学びの場を意図的に組み込む工夫が挙げられます。週一回のチームミーティングでメンバー同士が「最近学んだこと」を共有する時間を作るだけでも、互いに刺激を受け学習意識が高まります。リモートワーク時代でもオンラインツールを活用してこうした学びの場を作ることが可能でしょう。このように、上司は部下の経験からの学びを最大化するファシリテーターとしての役割を果たすべきであり、組織としても上司がそうしたコーチングに時間を割けるよう支援する(例:上司向けのコーチング研修を実施、業務量を調整)必要があります。

20%は薫陶・フィードバック:上司や先輩からの指導が成長に果たす役割と重要性

次に、学習の20%を占める「薫陶」(人からの指導・フィードバック)について解説します。上司や先輩、メンターといった存在からの働きかけが、なぜ人の成長を加速させるのか。その理由と、効果的な薫陶を得る具体的な方法、フィードバックの威力、社内メンター制度の役割、そして薫陶の効果を最大化するための信頼関係の築き方などを見ていきましょう。

上司・先輩からの指導が自己成長を加速させる理由とは

どれだけ優秀な人でも、「自分一人で成し遂げられることには限界がある」とよく言われます。上司や先輩からの指導が成長を加速させる理由はまさにそこにあり、他者が関与することで自分では気づけない学びを得られる点にあります。まず、上司や先輩は本人より豊富な経験と知識を持っているため、効率の良いコツや判断のポイントを教えてくれます。本人が試行錯誤して数年かかるところを、先輩の一言アドバイスで短期間で克服できることも少なくありません。例えば「資料作成のコツ」や「顧客交渉の押さえ所」など、ベテランから学んだテクニックですぐ業務スキルが向上するケースは多いでしょう。
さらに、他者からのフィードバックは自己認識を深める鏡となります。どれほど多くの経験を積んでも、それをきちんと振り返りフィードバックをもらわなければ、経験はただの経験で終わり、成長につながらない可能性があります。上司やメンターから「先日のプロジェクトで君のリーダーシップはこう見えたよ」とフィードバックをもらって初めて、自分の強みや改善点に客観的に気づくことができます。このように他者の目を通すことで、本人には見えていなかった課題や癖が明らかになり、新たな学びが生まれます。例えば、自分では「うまく説明できた」と思っていたプレゼンも、先輩から「専門用語が多くて伝わりづらかった」と指摘されれば、以降の改善につながるでしょう。
最後に、上司・先輩の存在は精神的な支えと動機づけにもなります。日頃から指導してくれる先輩がいると、困ったときに相談できる安心感から難しい仕事にも挑戦しやすくなります。また「成長を期待しているよ」という上司の一言は、本人のやる気を引き出し学習意欲を高めます。以上のように、上司や先輩からの薫陶は、気づきと学習意欲を与え、経験からの学びを深める触媒として機能するため、自己成長を加速させる大きな理由となるのです。

メンタリングとコーチング:薫陶による学びを得る具体的な方法

薫陶を得る具体的な方法として代表的なのがメンタリングとコーチングです。メンタリングとは、経験豊富な先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティー)に対して長期的・継続的に助言やサポートを行う関係を指します。メンターは自身の知見や経験談を共有し、メンティーのキャリアやスキルアップについて幅広く支援します。一方のコーチングは、コーチ役の上司・先輩が対話を通じて本人の目標達成や課題解決をサポートする方法で、問いかけによって本人の中から答えを引き出すスタイルが特徴です。いずれも「人からの学び」を得る有効な手段であり、企業でも公式にメンター制度やコーチ養成を導入する例が増えています。
具体例を挙げると、ある企業では新入社員一人ひとりに年次の離れた先輩社員がメンターとして付き、月に一度の面談や日々のチャット相談などを行っています。新人はメンターに対し業務の悩みやキャリアの不安を気軽に相談でき、メンターは自身の経験を踏まえて適切なアドバイスを提供します。また別の企業では、管理職に対してコーチング研修を実施し、各課長が部下と定期的に1on1面談を行って目標設定や振り返りの対話を行う仕組みを整えています。こうしたメンタリング・コーチングの文化が根付くと、社員は日常的に指導やフィードバックを受けることが当たり前になり、組織全体の学習能力が向上します。
社外のリソースを活用する方法もあります。例えば西原氏の例では、会社から公式にメンターを付けてもらえる機会に、社内人事部門のトップや社外の経営経験者にメンターを依頼したといいます。また360度フィードバックを活用し、上司・同僚・部下など様々な立場から意見をもらう試みもされています。このように、メンタリングやコーチングは一対一が基本形ではありますが、場合によっては複数のメンターから多角的なアドバイスを受けたり、専門の外部コーチに相談したりすることも、薫陶による学びを得る有効な方法です。重要なのは、自ら積極的にメンターやコーチを活用する姿勢です。成長意欲のある社員ほど、先輩との面談機会を求めたり、フィードバックを欲しがるものです。企業側もそうした文化を奨励し、制度としてバックアップすることが望まれます。

建設的なフィードバックがもたらす気づきと能力開発の効果

フィードバックは、他者から自分の行動や成果について意見・評価をもらうことを指します。中でも建設的なフィードバックは、単なる称賛や批判に留まらず、具体的な改善点や良かった点を明示してくれるため、受け手に大きな気づきを与え能力開発につながります。フィードバックがもたらす主な効果として、(1) 自己認識の深化, (2) 行動改善の促進, (3) モチベーション向上が挙げられます。
まず(1)自己認識の深化について。人は自分のことを客観的に見るのが難しいものですが、フィードバックを通じて自分の強み・弱みを教えてもらうことで自己理解が深まります。例えば「プレゼン資料は論理的で分かりやすかったが、声が小さく自信なさそうに見えたよ」と上司から言われれば、自分では気づかなかった課題(声の大きさや姿勢)に気づけます。この気づきこそが次の行動改善への出発点です。
(2)行動改善の促進について。建設的フィードバックは具体的な改善策を伴うことが多いです。たとえば「次回は結論から先に話すともっと伝わるよ」とアドバイスされれば、すぐに次の行動で試すことができます。西原氏も自身の経験として「耳の痛い内容も多々あったが、それを振る舞いを見直す絶好のチャンスと捉え、大いに学びになった」と述べています。フィードバックは時に厳しい指摘も含みますが、それを謙虚に受け止めて改善に活かすことで飛躍的な成長が可能になります。
(3)モチベーション向上について。適切なフィードバックは頑張りを認め、さらなる成長意欲を引き出します。例えば「今回の提案書、前回より格段に良くなったね」といった肯定的なフィードバックは自信につながり、「もっと工夫してみよう」という意欲を湧かせます。また、たとえ指摘中心のフィードバックでも、「君ならできると思うから言っているんだ」という期待の裏返しであることが伝われば、悔しさをバネに頑張ろうという前向きな気持ちが生まれます。フィードバック文化がある組織は、互いに成果や課題をオープンに共有し、高め合う風土ができるため、社員の成長スピードとエンゲージメントが高まる傾向にあります。
重要なのは、フィードバックする側も受ける側も、それを成長の糧にする姿勢を持つことです。上司や先輩は人格否定ではなく行動にフォーカスした建設的なコメントを心がけ、部下や後輩は防衛的にならず素直に耳を傾ける。この双方向の努力により、フィードバックは単なる評価ではなく「気づきと成長のトリガー」として大きな効果を発揮します。

社内メンター制度やOJT指導担当によるサポートの重要性

企業が組織的に20%の薫陶を支援する施策として社内メンター制度やOJT指導担当制度があります。社内メンター制度は、経験豊富な社員をメンターとして公式に任命し、若手・中堅社員の相談役・助言者となってもらう仕組みです。メンターとメンティーのペアを固定し、定期的な面談や随時の相談を行うことで、日常的に助言が得られる環境を提供します。これにより、忙しい現場の上司だけに頼らずとも誰かしら面倒を見てくれる先輩がいる状態を作り出し、若手社員の孤立を防ぐ効果もあります。
一方、OJT指導担当制度は、新入社員などに対して配属先部署の先輩社員を正式な教育担当者として割り当てるものです。日本企業では昔から「世話役」「トレーナー」など様々な呼称で行われてきましたが、現在では人事制度として位置付け、評価や手当を与える企業もあります。指導担当者は日々の業務を教えながら、必要に応じてフィードバックやフォローアップを行います。これにより、新人は業務を通じて実践的に学べると同時に、困ったときにすぐ質問できる相手がいる安心感があります。
これらの制度の重要性は、薫陶を属人的な善意や縁任せにしない点にあります。制度としてメンターや指導担当が定められていれば、「教える側」も責任を持って部下・後輩の成長に向き合うようになりますし、「教わる側」も遠慮なく相談できます。また社内メンター制度では、上司と離れた立場のメンターに相談できるため、上司には言いにくい悩み(例えばキャリアチェンジの希望や人間関係の悩み)も打ち明けられるメリットがあります。これが社員のメンタルヘルス向上や早期離職防止につながったケースもあります。
企業はメンターやOJT指導員に対して、指導スキル研修を実施したり、指導に割いた時間を評価・報奨に組み込んだりすることで、制度を定着させる工夫をしています。例えば「優秀メンター表彰」を行ったり、メンター担当期間を昇進要件に加味する企業もあります。こうした組織ぐるみのサポート体制により、20%の薫陶部分が充実すれば、社員一人ひとりの経験からの学び(70%部分)が深化し、人材育成全体の効果が高まります。つまり、「人が人を育てる仕組み」を制度化して支えることが、70:20:10モデルにおける20%の学びを最大化する鍵なのです。

20%の学びを最大化するために必要な信頼関係とコミュニケーション

上司・先輩からの指導(20%の薫陶)を最大限効果的にするためには、土台となる信頼関係と良好なコミュニケーションが欠かせません。いくら優れたメンターがいても、メンティーとの間に信頼がなければ心に響くアドバイスは届けられませんし、フィードバックも反発を招くだけになりかねません。以下に、信頼関係とコミュニケーションのポイントを挙げます。

傾聴と共感

信頼関係構築の第一歩は、上司・先輩が部下・後輩の話に耳を傾け、その気持ちや視点を理解しようと努めることです。例えば部下が失敗して落ち込んでいる時、頭ごなしに叱るのではなく「今回は悔しかったね。どうしてそうなったか一緒に考えてみようか」と共感を示せば、部下は「この人は自分を分かってくれる」と感じます。そうした安心感があって初めて、率直な悩み相談やフィードバックの受容が可能になります。

日常的なコミュニケーション

信頼は一朝一夕には築けません。日頃から雑談も含めたコミュニケーションを重ねることで徐々に形成されます。西原氏も上司と毎週のように1on1を行い、ビジネスの話だけでなく世界の文化・政治の話まで様々に議論した経験が「上司の頭の中にある知識やものの見方を吸収する有益な機会だった」と述べています。このように日常的に色々な話題で対話しておくと、いざという時に腹を割った相談やフィードバックがしやすくなります。

約束を守る・秘密を守る

メンターとメンティーの関係では、相談内容の秘密保持が重要です。メンティーが安心して悩みを打ち明けられるよう、メンターは「ここでの話は他言しないよ」と伝え、実際に守る必要があります。逆に信頼を裏切ると一気に心の距離が開きます。また、上司が部下に「来週フォローする」と約束したことを忙しさで流してしまうと信頼を損ないます。小さな約束を守る積み重ねが信頼関係を築くことを忘れてはいけません。

ポジティブなコミュニケーション

フィードバックでは課題指摘も必要ですが、同時に良い点を認めることも大事です。「叱ってばかり」「文句ばかり」では部下は心を閉ざしてしまいます。良い成果はちゃんと褒め、努力はねぎらい、成長を喜ぶ言葉を伝えることで、指導者へのポジティブな感情が育まれます。その上で改善点を伝えれば、相手も素直に受け入れやすくなります。

双方向のフィードバック

信頼関係が強いペアでは、部下から上司へのフィードバックも活発になります。上司が「何か困っていることはない?私にも改善点があれば教えて」と促すことで、コミュニケーションが双方向になり、お互い学び合う関係性が生まれます。こうした関係は非常に健全で、組織に学習文化を浸透させる原動力となるでしょう。
総じて、20%の薫陶部分を最大化するには、お互いを尊重し信頼し合える人間関係を築くことが前提となります。その上で活発で前向きなコミュニケーションを図り、日常的に知識や経験を共有し合う。そうすることで、上司・先輩からの指導は単なる一方通行の命令ではなく、共に成長するための協働作業となり、結果的に人材育成効果が飛躍的に高まるのです。

10%は研修の役割:フォーマルな研修・自己啓発が人材育成に果たす補完的な役割と意義

最後に、学習の10%を占める「研修」(formalな研修および自己啓発学習)について掘り下げます。研修やトレーニングから得られる知識・スキルの特徴、集合研修やセミナー参加のメリット、eラーニングや読書による自主学習の重要性、そして研修で学んだことを現場で活かす工夫や研修効果を高めるポイントなど、10%の学びを有効に機能させるための考え方を解説します。

研修やトレーニングで得られる知識・スキルの特徴とは

フォーマルな研修やトレーニングは、現場経験やOJTだけでは得にくい体系的・網羅的な知識を提供してくれるのが大きな特徴です。研修では専門の講師や教材によって、あるテーマについて初心者にも分かるよう順序立てて教えてもらえるため、独学や現場経験では数年かかる知識習得が短時間で可能になります。例えば新人向け研修でビジネスマナーや基本的な法律知識を一通り学べば、現場に出る前に最低限の土台が身につくでしょう。同様に、マネジメント研修でリーダーシップ理論やコーチング手法を体系的に学べば、初めて管理職に就く際の戸惑いを減らせます。
また、研修で得られる知識・スキルは汎用性や再現性が高い場合が多いです。現場経験から得たノウハウはその場限りで他に応用しにくいこともありますが、研修で学ぶ理論やフレームワークは様々な状況で活用できます。例えば問題解決研修で学んだフレームワーク(ロジックツリーやMECEなど)は、どんな業務の課題分析にも応用可能です。さらに、研修では最新の業界知識や他社事例など現場では入手困難な情報も提供されるため、社員の視野を広げる効果もあります。
研修で得られるスキルには、「その場で練習して身につけるもの」と「知識として習得し後で実践するもの」があります。前者の例としては営業研修でのロールプレイングなどがあり、その場で実際にやってみることでスキルが身につきます。後者は座学中心の技術研修などで、研修中は理解が中心で、現場復帰後に実践してみて習熟するタイプです。どちらにせよ、研修で扱う内容は現場直結であることが望ましく、参加者が「明日からこれを使ってみよう」と思える具体的なノウハウやツールが提供される研修ほど効果的です。例えば営業研修で実際の商談を想定したロールプレイを行えば、学びの実用性が高まります。
総じて、研修やトレーニングは知識とスキルの基盤づくりを担い、社員が現場経験や人からの学びを積む上で土台となる部分を補完します。研修でしっかり基礎を固めておけば、現場での70%の経験から得られる学びの質も向上します。まさに「10%の研修が残り90%を支える基盤になる」とも言え、研修で何を得たかによってその後の成長曲線が変わってくるのです。

集合研修やセミナーのメリット:体系的学習と社内ネットワーキング

集合研修(クラスルーム研修)や各種セミナーに参加することには、単に知識習得以外にも様々なメリットがあります。まず挙げられるのが体系的に学習できる点です。一人で学ぼうとすると興味の赴くまま断片的になりがちな知識も、集合研修ではカリキュラムに沿って網羅的に学べます。たとえば新任マネージャー研修では、「1.マネジメントの役割」「2.目標設定と評価」「3.部下指導のスキル」「4.チームビルディング」…といった形で段階的・体系的に学べるため、マネジメント業務の全体像を掴みやすくなります。複数回に分けた研修なら、前回の復習や宿題の発表から始まるため、計画的・段階的な成長を促すこともできます。
次に社内ネットワーキングのメリットです。集合研修や社外セミナーに参加すると、普段の職場を離れて他部署の社員や外部の参加者と交流する機会が生まれます。社内の集合研修では、部署を超えた同期や同世代とのつながりができます。研修中のグループワークや休憩時間の雑談を通じて、「普段は接点がないが困りごとを共有できる仲間」ができることは大きな財産です。研修後も人脈が残り、情報交換や協力関係が生まれるケースもあります。特に大企業では部署間の壁が厚くなりがちですが、研修が内部ネットワーキングの場として機能し、組織全体の一体感向上に寄与する側面もあります。
社外セミナーや他社合同の研修では、異業種・異分野の人との交流が刺激になります。他社の事例を直接聞けたり、自社にはない発想を持つ人とディスカッションできたりするため、視野が広がり新たな気づきが得られます。また同期入社の社員が揃う新人研修などでは、一緒に学ぶことで連帯感や競争心が芽生え、お互い励まし合いながら成長するモチベーションとなります。このように、集合研修には人的ネットワーク構築とモチベーション喚起という効果があるのです。
さらに、コロナ禍でリモートワークが増えた近年においては、対面研修で得られる交流の意義が再認識されています。オンライン研修ではどうしても用件中心になりがちで、受講者同士が悩みを共有したり雑談したりする機会が減ってしまいます。そのため、状況が許す限り集合形式で顔を合わせる研修を実施し、同期や他部門社員とのコラボレーション・情報交換の場を設けることが、人材育成上重要とされています。
以上のように、集合研修やセミナーには体系的な知識習得に加え人脈形成と視野拡大というメリットがあり、これらは現場経験や個人学習では代替しづらい価値となっています。企業も研修を単なるお勉強の場ではなく、社員同士のネットワーク作りや文化醸成の機会として捉えることで、より大きな効果を引き出せるでしょう。

eラーニングや読書による自己啓発:自主学習としての10%活用

70:20:10モデルの「10%」には、会社主催の研修だけでなく、社員個々人が自発的に行う自己啓発学習も含まれます。具体的にはeラーニング(オンライン講座の受講)や読書、資格取得の勉強、業務時間外でのセミナー参加などが該当します。こうした自主学習は「研修」というより自己投資に近い性格を持ちますが、現代では企業もその重要性を認め、積極的に支援する傾向にあります。
eラーニングの利点は、時間と場所の制約を受けずに学べることです。社員は仕事の合間や通勤時間、自宅からでも手軽にオンライン教材で新しい知識を得ることができます。最近ではプログラミングスキルや語学スキル、ビジネススキルに至るまで様々なeラーニング講座が充実しており、社員が興味・必要に応じて好きなテーマを学べる環境があります。企業によってはeラーニングの受講を奨励し、受講履歴を人事評価に組み込んだり、受講費用を補助したりすることで、社員の自主学習を促進しています。
読書も古典的ながら強力な自己啓発手段です。専門書やビジネス書から得られる知識は、著者の豊富な経験や研究に基づいて凝縮されたものですから、コストパフォーマンスの高い学習と言えます。読書習慣がある社員は、常に最新の知見や他社事例に触れることで、視座の高い仕事ができる傾向にあります。上司が部下に「この本を読んでみたら?」とおすすめの書籍を渡すのも一つの薫陶であり、実際に読んで感想をディスカッションすれば20%と10%の学びが融合した効果が得られます。
資格取得も自己啓発の典型例です。業務に関連する資格の勉強を通じて体系知識が身につき、合格すれば自信にもつながります。資格取得支援制度を設けている企業も多く、受験料補助や報奨金支給で社員のチャレンジを後押ししています。
重要なのは、社員自身が自律的に学ぶ姿勢を持つことです。70:20:10モデルの10%は強制ではなく「自主的な10%」ですので、ここを怠るかどうかが同じ経験・同じ指導を受けても成長速度に差を生むポイントになります。「忙しくて自己啓発する時間がない」という声もありますが、変化の激しい現代では学び続けること自体が仕事の一部と認識すべきでしょう。日常的に少しずつでも本を読んだり、新しいスキルをオンラインで学んだりする習慣がある人は、そうでない人に比べて長期的に見た知識ストックが大きく異なります。企業としても「社員の自律的学習を促す文化」を醸成し、社内図書館の充実やオンライン学習プラットフォームの提供、自己啓発に取り組んだ社員への評価など、環境とインセンティブを整えることが求められます。

研修で得た知識を現場で活かすための工夫と仕組み

研修の効果は、受講して終わりではなく、研修で学んだことを実際の業務で活用して初めて発揮されます。しかし往々にして、せっかく研修で良いことを学んでも現場に戻ると忙しさに追われ、研修内容を実践しないまま忘れてしまうことがあります。これを防ぐためには、研修後の職場での工夫や仕組みが必要です。
一つ目の工夫は、研修直後にアクションプランを作成することです。研修が終わったらその場で「明日から職場で何を試すか」「一週間以内にどんな改善を行うか」といった具体的な行動目標を参加者に書き出させます。例えばリーダーシップ研修を受けた人なら「来週のチーム会議で、本研修で学んだファシリテーション手法を試す」と計画する、といった具合です。こうすることで、学んだ知識がすぐ実践につながり、机上の空論で終わらなくなります。
二つ目は、上司や人事によるフォローアップです。研修参加者の上司は研修内容を把握し、研修後に部下と面談して「何を学んだか?今後どう活かすか?」を話し合うと良いでしょう。また1〜3か月後に人事部門がフォローアップ研修やアンケートを実施し、研修効果の定着状況を確認する方法もあります。富士ゼロックスでは研修終了後も定期的に現場を訪ね、インタビュー等で効果が出ているかフォローする取り組みを行っていたと報告されています。このように、研修後の追跡をすることで、参加者も「ちゃんと実践しなくては」と思い行動に移しやすくなります。
三つ目は、職場内での知識共有です。研修参加者が属する部署内で、研修内容を簡単に発表・展開する場を設けるのも有効です。例えば「●●研修報告会」を開き、参加者が学んだエッセンスを同僚に共有すれば、本人の理解も深まり周囲の社員にも学びが波及します。さらに同僚から「ぜひそれを一緒にやってみよう」と協力が得られるかもしれません。研修参加者だけが浮いてしまわないよう、チームぐるみで新しい知識を実践するムードを作ることが大切です。
最後に、小さな成功体験を重ねることもポイントです。研修で得た知識を初めて現場で試すときは誰しも不安ですが、上司や同僚がサポートして小さな範囲から試行し、うまくいったら称賛する、というサイクルで自信をつけさせると良いでしょう。例えば新人が研修で学んだアイデアを提案したら、まずはチーム内のミニプロジェクトとして採用し、成果が出たら「研修の学びを活かした好例」として社内で紹介する、といった具合です。こうした成功体験が「研修で学んだことは実際に役立つ」という実感となり、さらなる学習意欲にもつながります。
以上のように、研修と実務の橋渡しを意識した工夫と仕組みが研修効果の最大化には欠かせません。研修担当者と現場上司が連携し、「学びっぱなしにしない仕掛け」を用意しておくことで、10%の研修が70%の現場にしっかり結びつき、結果として人材育成全体の質が向上します。

研修効果を高める参加姿勢とフォローアップの重要性

研修から得られるものは、受講者本人の参加姿勢によって大きく左右されます。同じ研修を受けても、「受け身で聞いているだけ」の人と「積極的に関わり発言し練習する」人とでは、習得度合いに雲泥の差が出ます。研修効果を高めるために、まず受講者は主体的に臨む心構えを持つことが重要です。具体的には、研修前に「何を学び取りたいか」目標を設定し、研修中は疑問に思ったら講師に質問し、グループ討議では積極的に発言する、といった態度です。特に体験型・参加型の研修では、自ら動いて練習したりディスカッションに参加したりすることで知識の定着率が大幅に向上することが知られています。一方的な講義を受けるだけでは20~30%しか覚えていない内容も、グループワークや発表を行えば定着率が70~80%に上がるという研究結果もあります(いわゆる「学習ピラミッド」の考え方)。従って、受講者は研修を学びの場として最大限活用すべく、積極性と好奇心を持って臨むべきです。
また、研修主催側(企業や人事部門)にとっては、研修後のフォローアップが研修効果を真に定着させるために不可欠です。前述したアクションプラン策定や上司からのフォローに加え、人事部が研修参加者同士のフォロー会を開催するのも一手です。例えば研修参加者を再び集めて「研修で学んだことを実践してみてどうだったか」を共有する場を設ければ、お互いの体験からまた新たな学びが得られます。あるいはオンライン上で受講者コミュニティを作り、研修内容に関するQ&Aや実践報告を継続できるようにする仕組みも有効でしょう。
さらに、研修効果を客観的に測定する試みも行われています。研修前後で知識テストや業務KPIの変化を追跡し、効果が見られなければ研修内容を改良するといったPDCAを回すことも重要です。社員からすれば、「研修を受けたら仕事の成果が上がった」と実感できれば研修への信頼感が増し、次回以降も積極的に参加しようという意欲につながります。逆に研修を受けても何のフォローもなく成果に結びつかないと、「研修なんて時間の無駄だ」という風潮になりかねません。そうした事態を防ぐためにも、研修効果の見える化と継続的改善は重要です。
まとめると、研修で最大の成果を上げるには、参加者の主体性と組織側のアフターケアの両輪が必要です。参加者一人ひとりが「せっかくの機会だから吸収しよう」という前向きな姿勢で臨み、組織としても研修後の実践・定着まで面倒を見る。この両者がかみ合ったとき、10%の研修は単なる座学の場を超えて、現場に変化を起こす原動力となるでしょう。

経験・薫陶・研修の具体例:各要素における人材育成の実践事例を詳しく紹介

ここでは、70:20:10モデルの各要素(経験・薫陶・研修)が実際にどのように人材育成に活かされたか、具体的なエピソードをいくつか紹介します。実例に触れることで、このモデルの効果やポイントがよりイメージしやすくなるでしょう。

新規プロジェクトのリーダー経験で飛躍的成長を遂げた事例

ある中堅メーカーの事例です。入社5年目のAさん(技術者)は、それまでずっと与えられた開発業務をこなす日々でしたが、あるとき社内ベンチャープロジェクトのリーダーに抜擢されました。これは上司がAさんの潜在力に期待して与えたストレッチ課題でした。プロジェクトは新製品の開発で、メンバーは年上社員ばかり。最初Aさんはリーダーシップを発揮できず苦労しましたが、試行錯誤する中で計画策定やチームマネジメントのスキルを身に付けていきました。例えば、自ら進んでマーケティング部や営業部にヒアリングに行き、市場ニーズを反映した開発目標をチームに示すなど、主体的な働きかけを行ったのです。メンバーとの衝突も経験しましたが、その都度上司やメンターに相談し、フィードバックをもらいながら乗り越えました。結果としてプロジェクトは成功し、新製品はヒット商品に。Aさん自身も「リーダーを任されて視野が広がり、自信がついた」と語り、以前とは見違えるほど成長しました。この経験によりAさんは飛躍的な成長を遂げ、翌年には課長職に昇進しています。まさに挑戦的な現場経験が人を育てた好例と言えるでしょう。

大きな失敗から学びを得て成長に繋げた実務経験のエピソード

次は商社B社の若手営業、Bさんのエピソードです。Bさんは入社3年目、初めて大口顧客案件を任されました。しかしプレッシャーから慎重になりすぎ、提案に時間をかけすぎた結果、競合に先を越され契約を逃してしまいました。会社にとっても大きな損失で、Bさんは大きな挫折感を味わいます。しかし上司は「なぜ失敗したのか一緒に考えよう」とBさんを責めずに振り返りの機会を設けました。Bさんはこの失敗を通じて「スピードの重要性」「顧客との密なコミュニケーション不足」という教訓を学びました。上司からも「完璧を期すあまり時機を逃すのは本末転倒だ」というフィードバックを受け、自身の課題を客観的に認識できたのです。その後Bさんは教訓を活かし、別の顧客案件では迅速かつこまめな提案活動を心がけました。その結果、見事大型契約を獲得し、失地回復を果たしました。Bさんは「あの大失敗があったからこそ、営業として大切なことに気づけた」と振り返っています。失敗も経験のうちとはよく言いますが、まさにBさんは大きな失敗から貴重な学びを得て成長に繋げたのです。このケースからは、失敗時に上司が責めるのではなく学びに変えるサポートをしたことも成功のポイントだと分かります。

先輩社員の指導でスキルアップを果たした若手社員の事例

製造業C社の事例です。新人のCさんは生産ラインのオペレーターとして配属されましたが、最初はミスが多く落ち込んでいました。そこで現場のベテラン社員DさんがOJT指導担当として付き、マンツーマンで指導を開始します。DさんはまずCさんの作業手順を観察し、なぜミスが起きるのか一緒に原因分析しました。その上で「ここは自分の経験ではこうするとミスが減る」とコツを伝授したり、難しい工程は隣で見守りながら練習させたりしました。さらに毎日作業後に5分間の簡単な振り返りを行い、「今日良かった点・明日気をつける点」をフィードバックしました。CさんはDさんから逐一きめ細かいフィードバックとアドバイスをもらえたことで、自分の癖や弱点を早期に克服できました。例えば、ミスの原因だったチェック漏れについてDさんから「指差し呼称を習慣化しよう」と教わり、それを実践した結果、ミスが激減しました。またDさんは「自分も新人の頃同じ失敗をしたよ」とエピソードを話してくれたり、うまくできた日は「成長したね!」と褒めてくれたりしたため、Cさんは心の支えを得て前向きに努力を続けられました。半年後、Cさんは新人ながら職長代理を任されるほどスキルアップし、自信もつきました。このように先輩社員のマンツーマン指導(20%の薫陶)が若手の早期戦力化に大きく貢献した好例と言えます。

定期的なフィードバックでパフォーマンスが向上したケース

IT企業D社では、若手エンジニアの育成策として定期的な1on1ミーティングを取り入れています。入社2年目のEさんは1on1で上司から毎週フィードバックを受ける中で、めきめきと力をつけた一人です。Eさんは当初プログラミングのコーディング速度が遅く悩んでいました。上司との1on1でその悩みを打ち明けると、上司はコードレビューの結果を踏まえて「設計段階でもっと全体像を描いてから書き始めてみては?」と具体策を提示しました。また良い部分は「この書き方は読みやすくていいね」と褒め、改善点は「変数名の付け方に工夫の余地あり」と指摘するといった具合に、毎週細かなフィードバックを与えました。Eさんはそれを素直に吸収し毎回実践に移した結果、3か月後には明らかに生産性が上がりました。さらに上司との対話を通じて、自らのキャリア目標(将来的にフルスタックエンジニアになりたい)も明確になり、必要なスキル習得計画を立てることができました。Eさんは「週一回上司と話す中で、自分の成長を実感できモチベーションが維持できた」と言います。定期的なフィードバックにより課題の早期発見と対処ができ、継続的な改善でパフォーマンス向上につながったケースです。D社では他の社員も1on1導入後、ミスの減少や生産性向上がみられ、人材育成と業績の両面で効果が出ています。

研修で得た知識を現場業務の改善に活かした成功例

最後に研修と現場を連動させた成功例を紹介します。物流会社E社の管理職Fさんは、外部の業務改善研修に参加しました。研修では業務プロセスの可視化やボトルネック解消の手法(いわゆるLeanやTPSの手法)を学びました。Fさんは研修直後、その知識を活かして自部署の倉庫作業の見える化に取り組みました。現場スタッフを集めて研修で習ったフロー図を一緒に作成し、無駄な工程を洗い出したのです。さらに、「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の考え方も研修で学んだ通り実践しました。最初は現場スタッフも戸惑いましたが、Fさんは研修資料を見せながら根気強く説明・指導し、一緒に改善アクションを実行しました。その結果、倉庫内の動線が大幅に短縮されピッキング作業時間が平均30%短縮、在庫ミスも激減するという劇的な改善効果が得られました。経営陣もこれを評価し、Fさんは社内表彰を受けました。Fさんは「研修で得た知識が現場改善にここまで役立つとは正直驚いた。学んだ理論を現場に合わせて工夫したことが成功の鍵」と振り返っています。この例は、研修(10%)の知識を現場で即実践し成果に結びつけた好例です。研修単体ではなく、現場の70%部分と結合させることで大きな成果が出たことがわかります。

70:20:10の法則を導入する流れ:自社でモデルを導入するための具体的ステップを詳しく解説

70:20:10モデルを自社の人材育成に取り入れようとする場合、どのような手順で進めればよいでしょうか。ここでは導入の一般的な流れを5つのステップに分けて解説します。現状分析から始まり、施策設計、経営層の合意形成、現場への展開、そして効果測定・改善まで、一連のプロセスを具体的に見ていきましょう。

現状の人材育成課題を分析し70:20:10モデル適用を検討する

Step1

現状分析 – 最初のステップは、自社の人材育成の現状と課題を把握することです。具体的には、現在の育成施策が「経験:薫陶:研修」のどの部分に偏っているかを評価します。例えば、「研修中心でOJTがおろそかになっていないか」「上司の指導負担が大きすぎて現場まかせになっていないか」などを点検します。可能であれば社員アンケートやヒアリングを行い、育成に関する定量・定性データを集めます。その上で、「社員の成長が頭打ちになっているのは経験機会不足では?」「フィードバック文化がなく若手が悩みを抱えがちでは?」といった課題仮説を洗い出します。
次に、現状の育成リソース(研修予算・トレーナー人員など)を棚卸しし、70:20:10モデルを適用することで改善できそうなポイントを検討します。例えば、「研修は充実しているが学んだ後の実践の場が無い」という課題には70%部分の施策を補強する必要があるでしょうし、「現場任せにしていて育成成果が不透明」という課題には20%・10%部分を充実させ計画性を持たせる必要があるでしょう。このように、現状と理想のギャップを明確化し、70:20:10モデルでどこを強化すべきか方向性を定めます。この段階での分析により、導入の目的(例:「研修偏重から経験重視への転換」「上司による育成力向上」など)が見えてきます。ここをしっかり行うことで、後の施策設計が的確になり、モデル導入後の効果測定の指標(KPI)も設定しやすくなります。

経営層や管理職への説明と導入に向けた合意形成のプロセス

Step2

経営層・管理職への合意形成 – モデル導入の方向性が決まったら、次にトップマネジメントや関係者の理解と支持を得るプロセスが不可欠です。70:20:10モデルの導入は、人材育成の考え方そのものを変革する試みでもあるため、経営陣にその意義をしっかり説明し、コミットメントを引き出す必要があります。具体的には、現状分析で浮き彫りになった課題と、70:20:10モデル導入による解決策を資料にまとめ、経営会議等でプレゼンテーションを行います。「なぜ今このモデルが必要なのか」「導入によってどんな効果(例:社員のスキル向上、生産性向上、人材流出防止など)が期待できるのか」を、データや他社事例も交えて説得力を持って伝えます。
経営層のゴーサインが出たら、管理職への説明会も実施しましょう。70:20:10モデルでは管理職(現場の上司)の役割が特に重要になるため、彼らの理解と協力なしには成り立ちません。管理職に対しては、「日常の人材育成におけるあなた方の役割が明確になる」というメリットや、「部下育成力向上はマネージャーとしての成長にもつながる」ことなどを強調し、前向きに受け止めてもらう工夫が必要です。中には「現場に余計な負担が増えるのでは?」と懸念する声も出るでしょうから、「最初は段階的に導入し、混乱を最小限にする」「人事部がしっかりサポートする」といったフォロー策も伝え安心感を与えます。
合意形成段階では、キーパーソンの巻き込みも大切です。影響力のあるベテラン管理職や現場リーダーを早期にプロジェクトメンバーとして取り込み、一緒に方針策定を行うと、現場の声を反映しやすくなるとともに現場受けも良くなります。要は、トップダウンとボトムアップのバランスを取りながら、組織全体で「やってみよう」という機運を醸成することがこのステップの目標です。経営層から現場までが同じ方向を向いたら、いよいよ具体的な施策設計・実行段階に移ります。

現場で70:20:10モデルを実践する人材育成計画の策定

Step3

育成施策の設計 – ここでは、70:20:10モデルに沿った具体的な人材育成計画を立案します。前ステップで得た合意を基に、経験機会の創出(70%)・薫陶の仕組み構築(20%)・研修プログラムの見直し(10%)を柱とする施策をまとめます。たとえば:

経験(70%)強化策

若手社員に年間○件のストレッチ課題を与える計画、ジョブローテーション制度の導入、社内公募型プロジェクトの新設、現場改善提案制度の強化など。これらによって社員が計画的に多様な経験を積めるようにします。現状経験不足が課題だったなら、この部分に重点を置きます。

薫陶(20%)強化策

1on1面談の全社導入(頻度と面談ガイドラインを設定)、公式メンター制度の開始(メンター選抜とトレーニング実施)、360度フィードバックの導入、管理職研修でのコーチングスキル習得など。これにより上司・先輩が部下育成に積極関与する仕組みを作ります。特に管理職向けには、70:20:10モデル下での自分の役割を理解してもらう研修を行うことも盛り込みます。

研修(10%)強化策

研修体系の全面見直し(新たに必要な研修の追加、不必要な研修の縮小)、OJTと連動した研修カリキュラム策定(例:研修で学んだ内容を現場実習で確認するスケジュール)、eラーニングプラットフォーム導入による自主学習支援、研修後フォローアップ体制の構築など。現行研修が形骸化していたり、研修ばかりで実践が伴っていない場合には、質と量の両面で適正化を図ります。
これら施策の優先順位も決めます。全部を一度に始めると現場が混乱しますので、例えば第一フェーズではメンター制度と1on1だけ導入し、第二フェーズでジョブローテーションと新研修プログラム実施、といった段階的導入計画にします。表などにまとめると、「誰が何をいつまでに実行するか」「期待される効果」を明確に示せます。この計画書は、人事部門だけで作るのではなく、現場代表者も交えてワークショップ形式で作成すると実態に沿ったものになります。
策定した育成計画は、再度経営層や管理職に提示し了承を得ます。ここで投入するリソース(予算・人員)も明確にしましょう。例えばメンター制度ならメンターに〇時間の業務専念免除を与える、研修見直しなら講師依頼費用は〇〇万円などです。バランスの取れた育成プログラムが構築できれば、いよいよ現場での実践に移ります。

管理職・メンターの育成とサポート体制の準備

Step4

管理職・メンター育成および体制整備 – 現場で70:20:10モデルを円滑に回すには、それを担う管理職やメンターの力量とサポート体制が重要になります。このステップでは、管理職・メンターに対するトレーニングや、育成を支援する仕組みを整備します。
まず、管理職研修の実施です。モデル導入に先立ち、全管理職を対象に70:20:10の考え方や実践方法に関する研修を行います。ここでは「日常業務で部下育成を行う具体的方法(OJTの計画立てや1on1でのコーチング手法など)」を学んでもらいます。併せて、新たに導入する制度(メンター制度やフィードバック制度等)の趣旨と手順も説明します。例えば1on1導入なら「毎月最低30分、業務以外のキャリアや悩み相談を行う」などルールを伝え、ロールプレイ練習もします。管理職自身の意識改革とスキルアップなくしてモデルは機能しないため、この研修は必須と言えます。
次に、メンターの選定と育成です。新任メンターには別途研修やガイダンスを実施し、メンターとしての心構え・具体的支援方法を共有します。例えば「経験を一方的に押し付けるのではなく話を聴くこと」「守秘義務を守ること」などメンタリングの基本を教え、ケーススタディで練習します。社内から適任者を募る場合は手挙げ制にするなどし、意欲ある人を起用します。
そして、サポート体制の準備です。人事部内にプロジェクトチームや専任担当者を置き、現場からの質問や困り事に対応できるようにします。例えば、「OJT計画の立て方が分からない」という管理職にはフォーマット提供や個別相談を、人材育成の進捗状況をモニタリングする仕組み(定期アンケートやヒアリング)も用意します。研修・メンター・OJTの各要素を記録・共有するためのシステム(ナレッジ共有ツールや進捗管理表など)も整備すると良いでしょう。
また、段階的導入も具体化します。例えば「まず一部の部署(パイロット部門)で試行し、課題を洗い出してから全社展開する」といった計画です。これによりいきなり全社で混乱が起きるリスクを下げ、成功パターンを横展開できます。パイロット部門には理解のある管理職を配置し、人事も密にサポートしてモデルの形を作ります。
最後に、現場への周知と教育です。一般社員に対しても説明会やイントラ掲示で、新しい人材育成施策を知らせます。「これからは現場での経験や上司からの指導にも重点を置く」「皆さんも自己啓発に取り組んでね」といったメッセージを伝え、社員の協力も仰ぎます。現場の協力が得られやすいよう、成功イメージを共有することも有効です。例えば「〇〇課では1on1導入で若手の離職がゼロになりました」など先行事例を紹介すると、他部署も前向きになります。
以上の準備を経て、組織は70:20:10モデルを動かすための準備が整います。この段階までにしっかり人と仕組みの準備ができていれば、導入初期の混乱を最小限に抑え、スムーズなスタートを切ることができるでしょう。

導入後のフォローアップ:効果測定と継続的な改善の取り組み

Step5

効果測定と継続的改善 – モデルを導入して終わりではなく、実施後のフォローアップが成功には不可欠です。ここでは、導入した施策の効果を定期的に測定し、フィードバックを収集して改善サイクルを回すプロセスを解説します。
まず、効果測定です。導入時に設定した指標(KPI)に基づき、定期的にデータを収集します。例えば、「若手社員の半年以内離職率」「昇進者の平均研修受講時間」「1on1実施率」「従業員エンゲージメント調査スコア」「事業部ごとの人材育成評価」など、モデル導入によって改善を狙った項目をモニタリングします。定量データだけでなく、社員からの声も重要です。アンケートやインタビューで「上司からフィードバックをもらえるようになったか」「研修で学んだことを活かせているか」「成長実感はあるか」等を尋ね、現場感覚での効果も把握します。
次に、フィードバックの収集です。管理職やメンター、一般社員から、それぞれの立場で感じている課題や提案を集めます。例えば「メンター間で情報交換したい」「OJT計画が形骸化してきた」「研修内容をもっと実務に即したものに」など、現場目線のフィードバックは改善に欠かせません。これらは定期的な会議体(育成委員会など)で議論し、解決策を検討します。
そして、継続的な改善の取り組みです。効果測定とフィードバック結果を踏まえ、何を維持し何を改良すべきかを判断します。例えば、「1on1面談は概ね定着したので継続強化」「ただしメンター制度はマッチング精度に課題があるので改良」などです。必要に応じて施策を追加・修正します。実施計画当初から柔軟性を持たせ、「軌道修正を前提とする」くらいの姿勢が望ましいでしょう。70:20:10モデル自体も絶対ではなく原則なので、自社に合った最適比率や運用を探る継続的努力が必要です。
また、成功事例の横展開も行います。うまくいっている部門の工夫(例:「営業部では週1の振り返り会を導入して経験共有している」)を社内報で紹介したり、成功した社員に発表してもらったりして、組織全体に良いプラクティスを広げます。逆に上手くいかなかったケースも共有し、教訓とします。学習する組織としてモデルそのものを社員みんなで育てていくイメージです。
最後に、経営層への報告とフィードバックも忘れずに。導入後一定期間が経ったら、測定結果と改善計画を経営層に報告します。ポジティブな効果(例えば「若手定着率が○ポイント向上」など)は経営層から全社に発信してもらうと士気が上がりますし、課題点は資源投入の追加判断などを仰ぐ場ともなります。経営陣が引き続き関心を持ってコミットしていると示すことは、施策を風化させないためにも重要です。
以上、導入後はPDCAサイクルを回し続けることが肝要です。人材育成は一度形を作って終わりではなく、常に改善と適応が必要な取り組みです。70:20:10モデルも自社用にアレンジしつつ、継続的に磨き上げていくことで、長期にわたり効果を発揮し続けるでしょう。

効果的な人材育成のポイント:70:20:10モデルを最大限に活かすための取り組み方とコツ

70:20:10モデルを導入・運用する上で、モデルの効果を最大化するためのポイントやコツがいくつかあります。OJTと研修の連携、現場経験を成長機会に変える仕組み、フィードバック文化の醸成、人事制度との連動、社員の自律的学習の促進など、重要な取り組み方について整理します。

OJTと研修を連携させた学習環境を構築する重要性

Off-JT(研修)とOJT(オンザジョブトレーニング)を切り離さず連携させることは、70:20:10モデルを活かす上で非常に重要です。研修でインプットした知識を、すぐさまOJTでアウトプット&実践し、その結果をまた研修や振り返りでフィードバックするというループを回すことで、学習効果が飛躍的に高まるからです。具体的なコツとしては:

研修前後にOJTをセットにする

例えば新人研修で基本知識を教えた直後に、職場でその知識を使う課題を与える。あるいは管理職研修で学んだマネジメント手法を、研修後すぐ部下との面談で試してもらう。研修→OJTへのスムーズな橋渡しを計画的に組み込みます。

研修カリキュラムを現場ニーズに直結させる

現場で直面している課題に対する解決策を研修で扱うようにし、受講者が「明日から職場で試してみたい」と思える内容にする。また、可能なら研修中に職場の実データや事例を持ち込んで演習する(例:自部署の業務プロセスを題材に問題解決演習を行う)と、研修内容がそのまま現場改善に活かせます。

新しいスキル習得時は研修→OJTの順で

全く未経験のスキルやツールを導入する際は、最初に研修で基本を教え、その後現場で使ってみる方が効率的です。例えば新システム導入時は集中的研修で基本操作を学び、その後現場OJTで応用力を養う、といった流れです。基本を押さえてから実践した方が学習の質が向上するからです。

OJT成果を研修で振り返る

研修と研修の間隔が空く場合、その間の現場実践経験を次回研修で発表・振り返りする場を設ける。例えば半年間のOJT成果を集合研修で共有し、講師や他の参加者からフィードバックをもらう。これにより経験がきちんと学びとして定着します。
以上のように、研修(10%)と現場(70%)が車の両輪として噛み合う仕組みを作ることが大切です。従来、研修部門と現場は分断しがちでしたが、70:20:10モデルでは両者が密接に連携することが前提となります。富士ゼロックスの例でも、研修後に現場に赴きフォローするなど研修と現場の結び付けを重視していました。企業は研修企画段階から現場管理職と協議し、「研修→OJT→研修」の循環がうまく回る学習環境を構築することが重要です。

社員の現場経験を成長機会に変える仕組み作り

社員が日々の現場経験から確実に学びを得られるようにするには、経験を成長機会に変える仕組みが必要です。ポイントは、社員が単に業務をこなすのではなく、そこから学習サイクルを回せるようにすることです。

挑戦的な目標設定

各社員に対して、平常業務の延長線上ではない少し高い目標を設定します。これは前述のストレッチ課題とも関連しますが、例えば営業なら「今年は新規顧客○件開拓」など敢えてチャレンジングなKPIを与える。目標が高いと試行錯誤が必要になり、その過程で学びが発生します。「人は困難に直面して初めて創意工夫する」ため、意図的に挑戦を組み込むのです。

経験を記録・共有する

社員が自分の経験からの学びを振り返り、言語化して残せるようにします。例えば「学習日誌」や「振り返りレポート」の仕組みを導入し、月次やプロジェクト終了時に「経験したこと・学んだこと・次に活かすこと」を書き出してもらう。これを上司やチームと共有すれば、本人の学びがチームの知財にもなりますし、本人の中でも経験が整理され定着します。

内省の場を設ける

組織として定期的に振り返りの時間をスケジュールに組み込むことも有効です。例えば毎週金曜の終業前15分を各自の内省タイムに充てたり、月1回チームで「失敗共有会」や「Good & New発表(最近の成功と新発見を共有)」を行ったりする。忙しいと振り返りは後回しになるので、仕組みとして時間をブロックするのです。この投資が次のサイクルでのパフォーマンス向上につながります。

経験学習のファシリテーター配置

現場にOJTリーダーやトレーニング担当を置き、社員の経験学習を促す役割を担わせるのも一案です。彼らは現場で困っている社員に寄り添い、一緒に問題解決を考えたり、必要な経験機会をコーディネートしたりします。まさに「現場の教育係」であり、70:20:10モデルではこの70%部分をサポートする重要な役割です。富士ゼロックスでも、人材開発部門が現場のSBP(ストラテジックビジネスパートナー)としてビジネスリーダーと協力し、組織業績向上に寄与する課題設定や経験付与の仕組みづくりを進める役割を果たしていました。

成功・失敗事例の集約と展開

社内で蓄積された経験からの学びをナレッジマネジメントすることも有効です。例えば社内Wikiやナレッジデータベースに、「成功事例集」「失敗からの教訓集」など社員の実体験に基づく知見を蓄積し、誰でもアクセスできるようにする。これにより、ある人の経験から他の人も学べ、組織全体が学習する基盤ができます。
要は、経験を放置せず意識化・共有化する仕掛けが肝心なのです。70%の経験は黙っていても起きますが、それを糧にできるかは環境次第です。モデル導入企業はこの点に知恵を絞り、社員の現場経験が宝の山になるよう仕組みを工夫するとよいでしょう。

フィードバック文化の醸成:組織全体で学び合う風土を育む

フィードバック文化とは、組織の中でお互いに建設的な意見やアドバイスを伝え合い、学び合う風土のことです。70:20:10モデルの20%を充実させるためには、このフィードバック文化を醸成することが不可欠です。いくつかのポイントを挙げます。

トップのコミットメント

経営トップ自らが「フィードバックを推奨する」姿勢を示すことです。例えば社長メッセージで「失敗から学ぶ会社にしよう」「上司は遠慮なく部下にフィードバックを」と発信したり、自らも社員の声に耳を傾けるオープンドアを実践したりする。トップが率先すると現場も動きやすくなります。

フィードバックスキル研修

全社員に基本的なフィードバックのスキルとマインドセットを教育します。批判ではなく事実に基づき具体的に伝えること、相手の人格ではなく行動にフォーカスすること、良い点もきちんと伝えること、などです。特に管理職にはコーチング研修等で深く身につけてもらい、部下指導に活かしてもらいます。

双方向フィードバックの場

上司→部下だけでなく、部下→上司や同僚同士でもフィードバックを言い合える場を設けます。例えば「360度フィードバック」を年1回実施し、お互いの強み弱みを匿名アンケートで収集して本人に返す仕組みを導入する。またプロジェクト後に関係者間で相互フィードバックセッションを開催し、チーム内で良かった点・改善点を率直に議論する。こうした機会を通じて、フィードバックへの抵抗感を下げていきます。

フィードバックを促す仕掛け

日常で自然にフィードバックが発生するような仕掛けも有効です。例えば「フィードバックカード」制度を導入し、感謝や改善提案などを気軽に書いて相手に渡せるようにする(社内電子カードでも可)。あるいは「上司に提案キャンペーン」を行い、部下から上司へ業務改善提案や率直な意見を募集するなど、上下の壁を越えたコミュニケーションを促進するイベントを企画する。

フィードバックを称賛する

ただ競争を煽るだけでなく、仲間に良いフィードバックをした人やフィードバックを受けて成長した人を評価・表彰します。例えば「ベストメンター賞」や「フィードバック奨励賞」などを設け、陰日向に部下を育てた先輩社員や、フィードバックを活かして大きく成長した若手社員を表彰する。これにより、学び合う行動が報われる文化を作ります。
こうした取り組みによって、徐々に社内でオープンな対話が根付き、ミスや課題も共有して前向きに改善する空気が醸成されます。フィードバック文化が醸成されると、社員同士が教え合い、高め合う自走式の人材育成が実現します。70:20:10モデルは、単なる制度ではなく学び合う風土があってこそ最大の効果を発揮するものです。したがって、組織開発の視点からフィードバック文化づくりにも注力することが成功のカギとなります。

人事評価・目標管理と人材育成計画を連動させる戦略

70:20:10モデルの取り組みを組織に定着させるには、人事評価制度や目標管理制度と連動させることが有効です。人材育成の努力や成果が評価・報酬と結びつけば、社員も管理職も本腰を入れて取り組むようになるからです。

育成目標の設定

期初の目標管理において、業績目標だけでなく育成・成長目標を織り込ませます。例えば各社員に「今年新たに習得するスキル」や「取り組むチャレンジ課題」を宣言させ、上司と合意する。また管理職には「部下育成目標」(例:部下の○○さんを主任に育て上げる)を持たせる。こうすることで、育成が目標管理サイクルに組み込まれ、優先度が上がります。

評価項目に育成を含める

人事評価シートに「人材育成への貢献」や「自己研鑽」といった項目を設けます。管理職評価では部下の成長やチーム育成への取り組み度合いを評価し、賞与・昇進に反映する。一般社員評価でも、新たな資格取得や難関業務への挑戦と成果など自己成長に繋がる行動を評価ポイントにします。これにより、みなが育成や学習に向け努力するインセンティブが働きます。

キャリア面談の活用

人事制度の一環であるキャリア面談や人材アセスの場を、70:20:10モデルと関連づけます。上司と社員の面談で、「最近どんな経験から何を学んだか?」「次にどんな経験を積みたいか?」といった問いを入れ、経験・薫陶・研修の観点でキャリア対話をします。これを昇格要件や異動配置にも反映させ、希望と育成計画をすり合わせます。そうすればモデルが形骸化せず、個人のキャリア成長と組織の育成施策が一致して進みます。

表彰制度との連動

社内表彰で育成面を評価するのも効果的です。「若手育成に貢献したで賞」「自己研鑽努力賞」等を設け、育成モデルを体現した社員・部門を称えます。評価のみならず表彰という形でスポットライトを当てれば、他の社員にも好影響を与えます。
このように評価・目標制度と人材育成を連携させることで、70:20:10モデルの活動が社員の「やらされ仕事」ではなく「自分のキャリア&評価に直結する重要事項」になります。富士ゼロックスでも、人材開発部門が経営戦略と連携し研修と人事制度を連動させる難しさに直面していましたが、逆に言えばそこを連動させることが成功のポイントでもあるわけです。
組織としては、業績(ハード)と育成(ソフト)のバランスをとることが求められます。短期業績だけではなく長期的人材力強化を評価する文化を根付かせることが、ひいては持続的競争力につながるという視点で、評価・目標管理をデザインすることが戦略となります。

社員の自律的な学習を促すキャリア支援とインセンティブ策

最後に、社員一人ひとりが自律的に学ぶモチベーションを高く維持できるような支援策とインセンティブについてです。70:20:10モデルの成功には、社員自身が学びの主導権を握りキャリアオーナーシップを発揮することが理想です。組織はそれを後押しする環境作りを行います。

キャリア自律支援

社員が自分のキャリア目標を明確にし、必要なスキルや経験を計画的に積めるよう支援します。たとえばキャリア研修やキャリアカウンセリングを提供し、「5年後にどうなりたいか」「そのためにどんな経験・資格が必要か」を整理させます。これが各自の学習計画の指針となり、70:20:10モデル内の経験・研修の選択にも活かされます。社内公募制度や社内FA制度を設けて、自主的に異部署で経験を積む機会を提供することも有効でしょう。

学習インセンティブ

自主学習に対して報奨を与える仕組みです。資格取得や難関研修修了者に報奨金や一時昇給を与えたり、自己啓発ポイント制で一定ポイントを貯めたら褒賞休暇を付与したりします。ある企業では「年間読書冊数○冊以上の社員を表彰」「オンライン学習修了時間トップ10に賞品」といったユニークな制度もあります。こうしたインセンティブは外発的動機づけですが、学習のきっかけとしては有効に機能します。

学習リソース提供

社員がいつでも学べるよう、会社が学習リソースを充実させます。具体的には、社内図書館・電子書籍サービス、オンライン学習ツール、社内勉強会の推進、資格取得補助金制度などです。最近では、社員が自由に各種オンライン講座を受講できるよう学習プラットフォーム(LMS)を導入する企業も増えています。また社内の専門家が講師となるランチ勉強会等も開催し、社内知見を共有する文化を作るのも良いでしょう。

時間と場所の柔軟性

自主学習を促すには、学習のための時間的・空間的融通も必要です。忙しすぎては学ぶ余裕がなくなります。そこでノー残業デーに学習時間確保を奨励したり、在宅勤務制度で通勤時間を学習に充てられるようにしたり、1年に1日の「自己啓発休暇」を認めたりする工夫があります。時間を与えればあとは本人の主体性次第というスタンスです。

失敗を許容し挑戦を称える文化

これはインセンティブというより文化醸成ですが、社員が新しい学びに挑戦して失敗しても、それを責めず挑戦したこと自体を評価することも大切です。たとえば新しい資格試験に挑んだが不合格だった社員に対し、「挑戦したことが素晴らしい。次も頑張れ」と励ます風土です。これによって社員は安心して未知の学習や業務に挑戦できます。
以上のような施策を通じて、社員の内発的な学習意欲を高めていきます。結局のところ、人が成長する最大の原動力は「もっと成長したい」「キャリアを切り拓きたい」という本人の意思です。組織はその火に油を注ぎ、環境を整えてあげる役割を担います。70:20:10モデルは社員の主体的な学びと相性が良く、上手くハマれば社員が勝手に成長していく好循環が生まれます。社員の自主性を信じ、それを支援・奨励する仕組みを持つことが、長期的には最も効果的な人材育成戦略と言えるでしょう。

70:20:10モデルの活用方法:研修計画、OJT制度、メンター制度への組み込みと現場での運用アイデアを解説

70:20:10モデルを実際に社内の様々な人材育成施策に組み込んで運用するにはどうすればよいでしょうか。この章では、研修計画への取り入れ方、OJT制度の整備、メンター制度・コーチング制度の導入と運用、さらには学習記録の共有とナレッジマネジメントまで、具体的なアイデアを解説します。

70:20:10モデルを自社の人材育成計画に組み込む具体的な方法

自社の人材育成計画全体に70:20:10モデルの視点を組み込むには、まず既存の育成プログラムを3つの要素に分類してみることから始めます。例えば、現在の育成施策リストを作り、「これは研修(10%)」「これは現場実習(70%)」「これはメンタリング(20%)」と色分けします。そうすると、どの領域が手薄でどの領域に偏り過ぎかが見えてきます。その上で、バランスが取れるようプログラムを再設計します。
具体的な組み込み方法としては:

人材育成基本方針にモデルを明記

社内の人材育成基本方針や教育体系図に、「70:20:10の考え方に基づき育成を行う」と明記し、全社共有します。これにより関係者が常に3要素のバランスを意識するようになります。

年間育成計画に各要素の目標比率を設定

年間の教育計画を立てる際、「研修●時間」「OJT計画●件」「メンター面談●回」といった目標値を盛り込みます。例えば研修時間は全体の10%程度に抑え、残り90%はOJTや自己啓発に充てるイメージで計画します。これにより、計画段階からモデル比率を反映できます。

各施策相互の関連を設計

育成カレンダーの中で、研修とOJTとフォローアップ(薫陶)を一連のものとして設計します。例えば4月研修→5〜6月OJT→7月フォロー研修、といったサイクルです。またメンター制度と研修を連動させ、研修前後にメンターとの面談を義務付けるなど、施策間の連携を強化します。

現場巻き込み型の計画

人事部だけでなく、現場管理職や若手代表を交えたワークショップで育成計画を作ります。70:20:10を説明し、「現場でどんな経験機会を提供できるか」「どんなフィードバック機会が欲しいか」など意見を出してもらい計画に反映します。これにより、机上の空論ではない実行可能な計画になります。

PDCAループに組み込む

育成計画の実施・評価の際、70:20:10それぞれについてモニタリングし、次年度計画に反映します。例えば今年の研修実績は予定通りだったがOJT計画達成率が低かった→来年はOJT達成に向け管理職KPIに組み込む、などです。
ポイントは、育成計画全体をモデルの観点で俯瞰し、バランスよく配置することです。これにより、「研修ばかりで現場置き去り」「現場任せで体系立った教育なし」といった偏りを是正できます。また全社計画にモデルを組み込んでおけば、各部門もそれに沿って詳細計画を立てるため、組織全体で足並みが揃います。最終的には、モデルの考え方が人材育成戦略そのものに溶け込み、一体化することが理想です。

社内研修プログラム設計に70:20:10の視点を取り入れるポイント

社内研修プログラムそのものを設計・改善する際にも、70:20:10モデルの視点を活かせます。研修は10%の要素ですが、それを70%・20%と連携させるデザインにすることが重要です。以下がポイントです:

研修前の実務課題ヒアリング

研修企画段階で、受講予定者の上司や本人に「現場での課題」や「身につけたいスキル」をヒアリングします。それらを研修内容に反映することで、研修が70%(現場)の課題解決に直結したものになります。「研修で学んだら現場のこの問題を解決できる」というラインを意識します。

実践課題付き研修

講義だけでなく、実践課題を組み込んだ研修にします。例えば、研修内で自部署の業務改善計画を作成させ、研修後1ヶ月以内に実行・報告させる。あるいは営業研修で模擬提案書を作って持ち帰り、上司にレビューしてもらう、といった具合です。これにより研修の学びが70%部分と結びつきます。

研修講師に現場リーダーを起用

研修講師として、現場で結果を出している管理職や熟練者を招きます。彼らは自らの経験談(70%)や指導ノウハウ(20%)を交えて話すため、内容が具体的で腑に落ちやすくなります。また講師自身も教えることで整理・学習になり、教わる側も身近なロールモデルから学べる利点があります。

研修後のフォローセッション

研修終了○ヶ月後にフォローアップセッション(集合またはオンライン)を開催し、受講者同士や講師と再集結します。そこで研修後の実践状況を共有し、講師や仲間から追加のフィードバックをもらいます。これは20%の要素を研修に組み込む動きです。フォローまでセットで研修プログラムとすることで、単発で終わらない学びを設計します。

現場上司向けブリーフィング

受講者の上司に対して、研修で何を教えたか・職場でどう支援してほしいかを伝えるブリーフィング資料を提供します。例えば「〇〇研修で部下は△△スキルを学びました。現場で実践を促すため、次のような業務を任せ、定期的にフィードバックしてください。」といった具体的依頼を書きます。上司が研修内容を知らないと現場で活かされないため、ここで20%との連携を図ります。

研修内容の現場適用性評価

研修アンケートで「学んだことを職場で活かせそうか?」を必ず問うようにします。低いようならカリキュラムを現場ニーズに合わせ再構成します。モデルの視点から、研修内容は常に現場実務と接続したものであることを確認し続けます。
要は、研修を現場経験とフィードバックの文脈に位置付けることがポイントです。単に知識伝達で終わらず、「研修→現場実践→フィードバック→研修…」のループの一部としてデザインします。そのため研修担当者は現場と緊密に連絡を取り、双方向からプログラムを作るようになります。結果として、研修効果が高まり、参加者にも「研修10:実践90の黄金バランス」を体感してもらえるようになるでしょう。

OJT制度を整備し現場での経験学習を仕組み化する取り組み

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)制度をしっかり整備することは、70%の経験学習を仕組み化する上で極めて重要です。漫然と「現場に任せる」のではなく、OJTも計画と制度に乗せることで、誰にどんな経験を積ませるかをマネジメントできるようになります。具体的な取り組み例:

OJT計画書の策定

新入社員や若手転配属者などに対し、一定期間のOJT計画書を作成します。例えば「入社1年目:半年で○○の業務を一人でできるように」「3年目:△△プロジェクトを経験させる」等、年次や個人別に必要な経験リストと達成目標を定めます。これを基に、上司やOJT担当者が仕事を割り振ることで、経験の抜け漏れを防ぎ、体系的にスキルを身につけさせられます。

OJT担当者の任命と育成

各部署で新人や若手に対してOJT担当者(トレーナー)を任命し、役割を明確化します。担当者には、仕事の教え方・計画の立て方など簡単なトレーニングを提供します。担当者が評価や手当で報われる仕組みも用意し、やりがいを持って取り組んでもらいます。これにより、「忙しい中教える余裕がない」という現場でも誰かが責任を持って指導にあたる体制ができます。

ジョブローテーション制度

特に大企業では、社員が広い経験を積めるよう計画的な異動(ジョブローテ)を制度化することも有効です。若手のうちは2〜3年で様々な部署・職種を経験させ、ゼネラリスト的素養を育てるとか、将来の管理職候補は海外・本社・現場の3つ全てを経験させる、といった方針を決めます。これも広義のOJT制度の一環で、社員に多面的な70%経験を提供する仕組みです。

OJT進捗チェックと支援

人事部や教育担当者が、各現場のOJT状況を定期チェックします。例えば新人研修後3ヶ月でフォローアップ面談を行い、「計画通り経験積めているか」「指導者との関係はどうか」などヒアリングします。問題があれば上司にフィードバックしたり、配置転換などで調整します。OJTを現場任せにしっぱなしにせず、組織としてモニタリングすることで質を担保します。

OJT事例共有

各部署のOJT成功事例(新人が育った話、工夫した指導法など)を社内で共有します。例えばトレーナー経験者の座談会を開いて社内報に載せたり、トレーナー向け勉強会を開催して情報交換する場を提供します。これにより、OJTのノウハウが組織知となり、全体のレベルアップにつながります。
このように、OJTを制度としてデザインし、マネジメントすることがポイントです。日本企業ではOJTは昔からありますが属人的に任される場合も多く、ばらつきがちです。それを敢えて制度化・標準化することで、70%の経験学習を誰もが等しく得られるようにします。富士ゼロックスの例でも「計画的な経験の付与」を重要視し、人材開発フォーラム等で最適配置を進めたとされます。OJT制度整備はまさにその文脈です。これがしっかり回れば、研修やメンターで補いきれない実戦力が着実に社員に身につき、強い現場力を持つ組織が育ちます。

メンター制度・コーチング制度の導入と効果的な運用方法

メンター制度やコーチング制度は20%部分を組織的に強化する代表的な施策です。導入時と運用時のポイントを整理します。
導入時のポイント:

目的と対象を明確に

まずメンター制度の目的を明確に定義します。「新人の早期戦力化支援」「女性社員のキャリア支援」「幹部候補の育成」などターゲットを決めます。それによりメンターに求める役割も変わるので、目的に応じた制度設計をします。

メンターの選抜と任命

メンター役は人望・経験ともに豊富な社員から選抜します。推薦や公募を経て人事が任命し、本人にはその役割の重要性と期待を伝えます。メンター自身の上司にもその役割を考慮した業務調整をお願いし、メンター活動に十分時間を割けるようにします。

メンティーのマッチング

誰が誰のメンターになるかを慎重にマッチングします。キャリアの方向性や性格の相性、部署が被らないようにする等配慮します。メンター・メンティー双方の希望も可能な限り取り入れると成功率が高まります。例えば「営業志望の若手には営業部長経験者をメンターに」など。

ガイドライン整備

メンター制度のガイドラインを作ります。面談頻度(月1回1時間推奨など)、守秘義務、相談内容の範囲(業務だけでなくキャリアや悩みOK)等を定め、最初の顔合わせの場で三者(上司含む)確認すると良いでしょう。これで制度趣旨の誤解を防ぎます。

メンター研修

メンターとなる人に対し短期のメンタースキルトレーニングを実施します。傾聴・質問・アドバイスの仕方、若手心理の理解、倫理(秘密厳守等)を共有します。コーチング的アプローチも教え、アドバイスだけでなく引き出すスキルも身に付けてもらいます。
運用時のポイント:

定期面談と記録

メンター・メンティーには最低月1回程度は面談するよう推奨し、その実施有無を人事がフォローします。内容記録は秘密保持のため本人たちに任せますが、差し支えない範囲でメンタリング計画(例えば「○○スキルの向上支援中」等)を提出してもらい、人事が全体傾向を把握します。

人事との情報連携

メンターはメンティーの許可を得た上で、人事にフィードバックすべき事項(例えばメンティーのキャリア希望、配置に関する悩みなど)を伝えるルートを設けます。人事はそれを踏まえて適切な異動や研修を検討するなどサポートに活かします。メンター→人事のパイプを作っておくイメージです。

トラブル対応

メンター・メンティーの関係がうまく行っていない場合や、メンティーが深刻な悩み(メンタル不調など)を抱えている場合は、人事が早期に介入します。必要ならメンター変更や専門部署の紹介など柔軟に対応します。

評価と報奨

メンターの活動を評価に反映したり、メンタリング成功事例を表彰したりします。例えば「今年3名の新人をメンタリングし定着率100%だった」といった功績は人事考課でプラス評価します。これによりメンターのモチベーションを維持します。

コーチング制度

メンター制度とは別に、プロのコーチ資格者や外部コーチを起用して、幹部や次世代リーダーにコーチングを受けさせる制度もあります。これも20%支援です。運用としては月1回1対1セッションを6ヶ月間など契約し、目標達成を支援する形です。メンター制度と併用するときは、対象層や目的を差別化して運用します。
メンター/コーチング制度は運用が軌道に乗るまで手厚くフォローすることが大事です。最初のうちは面談リマインドやアンケートなどできめ細かく状況を把握し、不具合はすぐ対処します。制度が文化として定着すれば、徐々に自走し始めます。最終的には「困ったらメンターに相談」「キャリアの節目にはコーチを活用」が当たり前になるよう根付かせるのが目標です。

学習記録の共有:ナレッジマネジメントで70:20:10を支える工夫

70:20:10モデルを組織的に発展させるには、学習の履歴や知見を組織で共有・活用していくことも重要です。せっかく得られた経験からの教訓や研修内容が個人に留まるだけではもったいないため、ナレッジマネジメントの手法を取り入れて組織全体の学習能力を高めます。

ナレッジデータベース構築

社内にナレッジ共有システムを構築します(例えば社内WikiやSharePointサイト、専門のナレッジDBツールなど)。そこに「業務ノウハウ」「成功事例集」「トラブル事例と対策」などカテゴリを設け、社員が経験から得た知見を書き込めるようにします。例えば営業なら「提案活動で役立つTips」、製造なら「生産トラブル事例集」のように部門ごとに蓄積します。これを全社員が検索・閲覧できるようにし、困った時はまず社内DB検索が習慣になるよう促します。

学習履歴の可視化

各社員の研修受講履歴や資格取得、OJT経験、メンター面談記録などを一元管理するシステム(LMS

Learning Management System 等)を導入します。社員と上司、人事がそれを閲覧できるようにし、定期面談等で参考にします。例えば「今年これだけ研修受けました」「OJTでこんな経験しました」が見えると、上司も次に何を経験させるか計画しやすくなりますし、本人の成長実感にも繋がります。

事例発表・共有会

口頭・リアルの場での知見共有も大切です。定期的に社内勉強会やLT(ライトニングトーク)大会を開き、社員が自分の学びや成功事例・失敗談を発表します。特に大きなプロジェクト後には振り返り会(After Action Review)を実施し、学んだことを関係者で洗い出し、それを資料化してナレッジDBに登録します。個人の学びを組織の学びに昇華させるプロセスです。

メンター・トレーナー間の情報共有

メンター同士、OJTトレーナー同士が、メンティーや新人の状況・育成ノウハウを共有するコミュニティを作ります。例えばメンター座談会を定期開催し、「こんな相談があった」「私はこうアドバイスした」と経験を交換する。それを人事がフィードバックし制度改善にも役立てます。コミュニティで学び合うことで、育成者自身も成長します。

ナレッジマネジメント推進役

大きな組織では、知識共有を専門に推進する役割(CKO: Chief Knowledge Officer やナレッジマネジメントチーム)を設けることもあります。彼らが社内知の収集・整理・発信を行い、社員に利活用を促進します。こうした体制整備も一考です。
学習記録や知見を共有する工夫は、70:20:10モデルにおける相乗効果を生みます。ある人の70%経験からの教訓が他の人の20%(薫陶)に活かされたり、10%研修資料が現場OJTのテキストになるなど、要素間の垣根を越えた知識循環が起きます。情報が閉じずに流通することで、組織全体が学習するLearning Organizationに近づいていくのです。
また、共有することで社員も「自分の経験は組織の役に立つ」と実感でき、学ぶ意欲がさらに高まります。富士ゼロックスでも人材開発フォーラム等を活用し知恵を結集していたとされますが、現代ではITツールを用いてそれを一層効率的に行えます。
以上、ナレッジマネジメントを70:20:10モデルの裏側で支えることで、個人の学びを組織の財産に転換し、人材育成の効果を底上げすることが期待できます。

導入時の注意点と成功事例:70:20:10モデル定着に向けた課題と成功した企業の取り組み事例を紹介

70:20:10モデルを組織に根付かせるには、乗り越えるべき課題や注意すべきポイントがあります。また、実際に導入に成功した企業の共通点や事例から学べることも多いです。この章では、導入時に陥りがちな誤解・失敗パターン、現場任せのリスクや研修軽視の弊害などを押さえつつ、成功企業の取り組みと、日本における具体的な成功例として富士ゼロックスの事例を紹介します。

70:20:10モデル導入で陥りがちな誤解と失敗パターン

まずは、モデル導入に際して陥りやすい誤解や失敗パターンを認識しておきましょう。主なものとして:

「経験が全て」と誤解し過度に研修を削減

数字の印象から「研修は10%しか効果がないのだから不要だ」と極端に解釈し、研修機会をほぼ無くしてしまうケースがあります。これは誤りで、研修は残り90%の学習を下支えする重要な基盤です。研修を軽視し過ぎると基礎知識不足や視野狭窄が起き、長期的に見て人材力が低下する恐れがあります(詳細は後述)。

「現場に任せればOK」と支援を怠る

OJT重視になるあまり、具体的な計画や支援策を講じずに「各現場でよろしく」と属人的運用にしてしまうパターンです。この場合、忙しい現場では結局育成が後回しになり、経験から体系立てて学ぶ前にただ業務が流れてしまいます。現場任せにしすぎるリスクです。人事主導の計画・フォローや、OJT担当者の任命を怠らないことが必要です。

数値を機械的に当てはめる

70:20:10を杓子定規に運用し、「研修時間の上限は業務時間の10%まで」などと機械的ルール化するのも危険です。状況によって柔軟に変えるべきものを固定化すると、かえって非効率になりかねません。例えば新入社員研修は10%以上のウェイトをかけるべきでしょうし、逆にベテランには研修より経験共有の場を増やすほうがいいかもしれません。各人各社で最適比率は異なるとの前提を忘れないことです。

トップや管理職の理解不足

導入担当者(多くは人事)がモデルをよく理解していても、経営者や現場管理職に正しく伝わらないと「何だか難しそう」「また人事の流行りか」程度の認識で終わってしまいます。すると形だけ制度を作っても協力が得られず失敗します。キーパーソンの理解不足はよくある失敗要因です。丁寧な説明会やトライアル導入で腹落ちさせる工夫が必要です。

短期で成果を求めすぎる

モデル導入は組織風土の転換でもあり、効果が出るまでに時間がかかります。にもかかわらず、すぐに数値成果が見えないと焦ってやめてしまったり、担当者が異動して継続されなかったりするケースがあります。短期志向による腰折れは避けるべきです。最低数年スパンで定着を図る覚悟がいります。

「育成=人事部の仕事」のまま

人事部が主導するあまり、現場は「言われたからやってます」状態で、主体性がないまま進む場合も失敗しがちです。現場が自分事として捉えず、表面的に報告書だけ出すようになれば、本質的な成長は起きません。現場巻き込みの工夫と、現場の裁量をある程度認める柔軟さが必要です。
これらの失敗パターンに共通するのは、モデルの本質を見誤ることとコミュニケーション不足です。対策としては、導入前にこれらの誤解を関係者と共有し、「ここは間違えないようにしよう」と合意しておくことです。また、導入後も定期的に振り返り「いま偏った運用になっていないか?」をチェックする仕組みを入れると良いでしょう。

現場任せにしすぎることによるリスクとバランス確保の重要性

前項の失敗例でも触れましたが、現場任せにし過ぎるリスクは特に注意が必要です。70:20:10モデルでは70%を現場経験からの学習に期待しますが、それを各現場の自助努力だけに委ねてしまうと、期待通りの成果が出ないことが多々あります。その理由と対策を整理します。
リスクの詳細:

OJTが形骸化

忙しい現場では、本来計画すべきOJTが後手に回ったり、「ついて見て覚えろ」状態になりかねません。管理職が部下育成に手が回らないと、70%の経験からの学習が偶発的・断片的になり、効率が悪いです。極端に言えば、現場任せ=育成放棄と紙一重の状況も起こり得ます。

属人化・不公平

現場任せにすると、優秀な上司の下についた部下は伸びるが、指導が苦手な上司の部下は放置され伸びない、といった属人的・不公平な状況が生まれます。これではモデルの恩恵が全社に行き渡りません。育成が上司ガチャになってしまうのは避けるべきです。

短期業績優先で育成後回し

現場は往々にして目先の業績目標に追われます。人材育成は長期投資なので、上司によっては「今期の数字が先、人材育成は後で」となりがちです。このままだと70%部分は常に後回しにされ、結局10%の研修しか機能しないことにもなりかねません。

学習効果の未検証

現場が勝手にやっているだけだと、その育成施策が本当に効果を上げているか検証されません。効果測定・改善がないため、せっかくのモデルもブラックボックス化し、続ける意義が見えづらくなります。
バランス確保の重要性:
以上を踏まえ、現場主体と組織的支援のバランスを取ることが重要です。具体策として:

組織としての枠組み提供

OJT計画テンプレート、メンター制度、1on1推奨など、組織として「こういう形でやってください」という枠組みを提供します。しかし実際の内容実施は各現場が創意工夫できるよう裁量も残します。つまり仕組みは中央で用意、運用は現場主導のバランスです。

定期フォロー

現場任せにしっぱなしにせず、人事や上層部が定期的に育成状況をフォローします。半期ごとに育成ミーティングを開き、各部署の進捗をヒアリングしたり、達成度低いところは支援策を講じたりします。こうすることで「任せるけど見ているよ」というメッセージを伝え、放置にはなりません。

現場の負荷考慮

経営は現場に育成を任せる以上、そのリソースに配慮する責任があります。例えば人員計画に育成時間を織り込み、忙しすぎて育成できない状況を避ける。新人を受け入れる部署にはその分手厚く人を配置する、などです。現場に押し付けるのではなく、負荷を一緒に引き受ける姿勢が求められます。

短期成果との両立目標

現場管理職には業績目標と並んで育成目標も課し、両方達成して初めて高評価となる人事評価体系にします。これにより、短期と長期のバランスを取るインセンティブが働きます。育成をおろそかにすると長期的には組織が弱体化し、自らの業績にも跳ね返ることを意識づけるのです。
バランス確保とは即ち、現場主導と組織主導のハイブリッドです。極端に振れないよう中庸を保つことがモデル成功の鍵と言えます。70:20:10モデルの提唱者も「これは処方箋ではない」と述べており、適用の仕方は各組織で調整すべきものです。「任せる」と「支援する」の絶妙な両立が、現場の力を引き出しつつ全社最適化するポイントになります。

研修を軽視することが招く弊害:10%の重要性を再確認

70:20:10の数値だけを見ると、「研修はたった1割か…それほど重要ではないのでは?」と思われがちですが、それは大きな誤解です。研修(10%)は他の90%を支える土台であり、これを軽視・縮小しすぎると様々な弊害が生じます。ここで10%の重要性を改めて確認しましょう。

理論・基礎知識の欠如

研修を減らしすぎると、社員が系統だった知識を得る機会が失われます。現場経験だけでは習得が難しい最新理論や全社的視点が育たず、行き当たりばったりな対応になりがちです。例えばマネジメント研修無しで現場経験だけで管理職になった人は、組織行動論や人事制度の理解が浅く、自己流のマネジメントで問題を起こすことがあります。

モチベーション喚起の機会損失

前述のように、研修は気づきややる気の着火剤としての役割もあります。忙しい日常から離れて学ぶことで新鮮な刺激を受け、「もっと頑張ろう」という意欲が湧きます。研修ゼロでずっと現場だけだと、そうしたモチベーション転換の機会が無くなり、社員が疲弊・燃え尽きするリスクがあります。実際、「研修がない会社はきつい仕事ばかりでつらい」という心理的圧迫にもつながりかねません。

社内ネットワーク構築不足

研修は異部署の社員と交流する貴重な場でもあります。研修機会が減ると、社内ネットワークが乏しくなり部署間連携が弱まったり、社員の帰属意識が部門に閉じて全社視点を持ちにくくなります。集合研修では得られる横の繋がりも重要な資産であり、それを失うのは惜しいです。

自己啓発だけに頼る負荷

研修を会社が用意しないと、社員は必要知識を自分で探して学ぶしかありません。しかし皆が自発的・効率的にできるわけではなく、個人任せでは学習格差が開く恐れがあります。またプライベート時間を大量に割く必要も出てきてワークライフバランスを損ねます。会社が研修としてある程度提供することで、社員の負担を軽減しつつ全体の底上げが図れます。

企業文化の醸成機会喪失

研修は単にスキル習得だけでなく、企業のバリューや理念を伝え共有する場でもあります。研修削減によりそうした文化醸成の機会が減ると、社員が共通の価値観や指針を持ちにくくなり、組織としてまとまりを欠く可能性があります。
以上のように、研修10%とはいえ影響は大きいのです。たとえるなら、研修は残り90%を繋ぎとめ方向付けする要です。エンジン(経験)がフルパワーでも、ハンドル(研修)が無ければ車は暴走しますし、燃料(モチベーション)補給しないと止まってしまいます。研修には知識提供・方向付け・モチベーション充電・ネットワーキング・文化伝達など多面的役割があり、それがあって初めて経験と薫陶が実を結ぶのです。
従って、モデル導入時も研修を安易に削減せず、むしろ研修の質を高め、位置づけを明確にすることが重要です。「研修は10%でいいから、ただしその10%は選りすぐりの良質なものを提供する」「10%で90%を支える」といった視点が求められます。先述したように、研修は経験とフィードバックを結ぶハブとしてデザインし直し、その価値を関係者に訴えることも大切です。そうすれば、「研修はやはり必要だ」という再認識が生まれ、モデル全体が健全に機能するでしょう。

70:20:10モデル導入に成功した企業に共通するポイント

世界中で多くの企業が70:20:10モデルを導入し、その中には成功を収めている企業も数多くあります。そうした企業に共通するポイントを挙げてみます:

トップの強力なコミットメント

成功企業では、CEOをはじめ経営陣が人材育成とこのモデルの意義を深く理解し、率先して旗を振っています。単に人事任せではなく、経営戦略の一部としてモデルを位置づけ、メッセージを発信し続けています。トップダウンの推進力が全社浸透の原動力となっています。

企業文化との整合

もともと学習志向の企業文化がある、あるいはモデル導入に合わせて「学び続ける組織になる」というカルチャー転換に注力しています。例えば「失敗から学ぶことを奨励する」「上司はコーチである」という文化を醸成しており、70:20:10モデルが受け入れられやすい土壌を整えています。

現場主導の巻き込み

成功例では、人事が枠組みを作りつつも現場の声をよく聞いてカスタマイズしています。現場リーダーたちが自発的に工夫しながら実践し、そのベストプラクティスを全社展開するという形で進んでいる企業が多いです。現場の協力が得られやすいよう、モデルの柔軟適用を許容し「自部門用70:20:10計画」を作らせるなど、ボトムアップを活かしています。

メンター・OJT体制の充実

メンター制度や1on1、OJT指導者制度など20%・70%部分の制度がしっかり整っており、運用も回っています。管理職のコーチングスキルが高く、日常的に部下との対話や指導が行われています。その結果、社員はいつも誰かから薫陶を受けられる状態にあり、経験から学ぶ速度が上がっています。

学習環境への投資

成功企業は研修施設やオンライン学習環境、ナレッジ共有システムなど学習インフラに積極投資しています。社員が学びやすい環境(時間的余裕や資源)を提供し、自己啓発も支援しています。「人こそ資本」という考えが経営に根付いているため、教育費用をコストではなく将来への投資と捉え、惜しまず注いでいます。

効果測定と改善のサイクル

導入して終わりではなく、データに基づく改善を続けています。人材の成長や業績との相関を分析し、「この取り組みは有効だ」「ここはもっと改善が必要だ」とPDCAを回しています。例えば社内アンケートで学習文化の浸透度を定期チェックしたり、離職率や昇進スピードの変化を追ったりして、人材育成施策の成果を見える化しています。

成功体験の積み重ね

小さくても成功事例を着実に作り、それを社員にフィードバックして「効果があるんだ」と納得感を積み重ねています。例えばモデル導入後に「新人研修とOJTの連携で、新人の生産性が従来比20%アップした」等の実績を紹介し、社員の信頼を勝ち得ています。こうした成功体験の共有がさらなる定着につながる好循環です。
要約すれば、成功企業は経営・文化・制度・環境・検証の全方位で抜かりなく手を打っています。逆にここを怠ると失敗しやすいとも言えます。特に日本企業の場合、現場主義と研修中心主義のバランス取り、管理職の育成力強化が鍵になりそうです。「うちはモデルを導入した」という形式ではなく、モデルの精神が日々の仕事の中に溶け込んでいる状態に持っていくことが、成功企業に共通する点と言えましょう。

成功事例:富士ゼロックスが70:20:10モデルで人材育成に成功した要因

日本企業の具体的成功事例としてよく挙げられるのが富士ゼロックス(現:富士フイルムビジネスイノベーション)のケースです。同社は比較的早期に70:20:10モデルを取り入れ、人材育成を抜本的に強化したことで知られます。その成功要因を探ってみます。

人材開発ビジョンと組織体制

富士ゼロックスでは、人材開発部門が「事業戦略実現のためのプロフェッショナル組織になる」というビジョンを掲げ、教育機能を一元化して知恵を結集し、事業成果に直結する人材育成フレームワーク構築を進めました。この中核に70:20:10モデルを据え、「特に70%を占める業務経験のデザインを重視」し、人材開発フォーラム等で最適配置を進めるなど、組織ぐるみでモデルを推進する体制を整えました。

計画的な経験付与

同社は計画的OJTの徹底に取り組みました。社員一人ひとりにどんな経験を積ませるかをデザインし、単に現場に配属するだけでなく、ジョブローテーションや社内公募、複数部門に跨るプロジェクトアサインなどで意図的にチャレンジ機会を与えました。その際、人材開発フォーラムという場で現場部門と人事が連携し、適切な人材を適切な経験機会に配置する調整を行ったといいます。これにより社員は放置されず、皆がストレッチを経験できる環境が整いました。

現場と人事の協働(SBP制度)

人材開発部門内にストラテジック・ビジネスパートナー(SBP)という役割を設け、経営層や部門リーダーと協力して事業ニーズを突き詰め、組織業績向上に貢献する人材開発施策を推進しました。SBPは現場の信頼を得られる人事プロフェッショナルで、現場課題を把握し、研修だけでなく業務プロセス改善提案なども行い、終了後も定期フォローするなどコンサルタント的に関わりました。現場任せにせず、人事部門が社内コンサルとなって寄り添ったことが成功要因の一つです。

研修とOJTの連動・効果測定

研修も見直し、「良い研修たくさん実施すれば従業員の行動成果が改善する」という前提を捨て、研修だけでなく職場環境や能力ニーズを把握し、成果につながるソリューション提供にシフトしました。研修後は現場に出向いてインタビュー等で効果フォローを行い、研修と職場実践のギャップを埋める努力をしました。結果、研修で学んだ知識がしっかり現場定着し、長期的成果につながったと考えられます。

経営層の支持と企業風土

上記を可能にしたのは、経営層が人材育成を経営の重要課題と捉え、リソース投下を惜しまなかったことが大きいでしょう。トップの支持の下、教育予算も確保され、慢性的な人手不足や限られた権限といった人材開発部門の悩みを突破できたようです。また、同社はもともと提案活動活発な企業風土があり、社員が自律的に動く下地もあったと言えます。モデル導入がその風土とマッチしたのでしょう。

具体的成果

これら施策により、例えば富士ゼロックスでは新入社員の早期戦力化や管理職候補の質向上、社員エンゲージメント向上などの成果が出たとされています。社内調査でも70:20:10の考え方が社員に浸透し、「成長には経験・薫陶・研修のバランスが大事」という認識が共有されました。さらに同社は自社の人材開発白書等でこれを公開し、他社のモデル導入にも影響を与えました。
富士ゼロックスの例から学べるのは、人材育成を経営戦略そのものとして捉え、大胆に改革を断行した点です。70:20:10モデルを単なる比率の話でなく、組織開発のフレームワークとして活用し、現場と人事が一体となって取り組んだことが成功の決め手でした。同社の成果に刺激を受け、日本でも多くの企業が追随しています。もっとも、富士ゼロックスほど徹底するのは容易ではないため、自社なりにできる範囲でモデルを参考に柔軟に導入する企業が増えている状況です。

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