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界隈消費とは?意味と2つの型・界隈の種類、界隈マーケティングの進め方と企業事例

界隈消費とは?意味と2つの型・界隈の種類、界隈マーケティングの進め方と企業事例

界隈消費とは、SNS上にできた「界隈」と呼ばれるゆるやかな集団を起点に生まれる消費のことです。「消費界隈」という語順で調べる人もいますが、この記事では博報堂のレポートで使われている「界隈消費」という名称で説明します。言葉としての「界隈」は2024年のユーキャン新語・流行語大賞でトップテンに選ばれましたが、流行語で終わってはいません。博報堂とSHIBUYA109 lab.が全国の10〜50代男女1,000人に行った調査では、10代女性の56.3%が界隈で見聞きした情報をもとに商品やサービスを買った経験があると答えています。

この記事では、界隈消費の定義と2つの型、界隈の種類と具体例、年代別の数値、従来型消費との違い、界隈マーケティングの進め方と企業の実例、失敗する条件までを、一次資料で確認できる範囲で整理します。

まとめ:界隈消費の要点

  • 界隈消費=SNS上の「界隈」の中で情報が回り、ときに別の界隈へ伝わることで生まれる消費
  • 型は2つ。界隈の中だけで流行る「界隈内消費」と、流行が他の界隈へ広がる「界隈伝播消費」
  • 「界隈」という言葉の認知は10代女性で80.6%、全体でも45.8%。界隈にいると答えた人は30代でも男女とも25%以上
  • 回答者全体の74.1%が「大きな界隈より人数の絞られた小さな界隈が望ましい」と回答。企業は人数の拡大を目標にする前に、参加者が望む関わり方を確かめる必要がある
  • 界隈マーケティングは、ターゲットを「作る」のではなく、自社ブランドと関われる界隈を「見つける」ところから始まる。博報堂のレポートは見つける・学ぶ・盛り上げる・広がるの4プロセスを示している

界隈消費の意味と2つの型

博報堂レポートが定義する界隈消費

界隈消費という言葉を広めたのは、博報堂のFuture EvangelistチームとSHIBUYA109 lab.が2024年11月15日に公開した共同レポート「Future Evangelist Report vol.3 界隈消費」です。レポートは「界隈」を、「好き」や興味関心を軸に形成されるゆるやかな集団と説明しています。推し活やファッションに限らず、趣味や職業などを軸にした界隈もあります。

界隈消費は、SNSのアルゴリズムによって形成された界隈の中で情報が回り、ときにある界隈から別の界隈へ情報が伝わることで生まれる、界隈を起点とした消費と位置づけられています。SHIBUYA109 lab.は、若者へのヒアリングで「〇〇界隈で流行ってる」という言葉がよく聞かれるようになった2022年頃から、この傾向が表れ始めたと書いています。レポートは「界隈とは何か」「界隈消費とは」「界隈消費の拡がりの兆し」「企業と界隈の付き合い方」の全4章です。

界隈内消費と界隈伝播消費の違い

レポートは、いま確認されている界隈消費には2つのタイプがあるとしています。ある界隈の中での発信をきっかけに界隈内で流行する「界隈内消費」と、ある界隈で起きた流行が他の界隈に伝わっていく「界隈伝播消費」です。

観点 界隈内消費 界隈伝播消費
広がる範囲 その界隈の内側 別の界隈へ
買う理由 みんながいいと言っている あの界隈で流行っている
起きやすい界隈 熱量・共感・個別のニーズ 外から好意的・重なりが多い
例 水色界隈 アームカバー

界隈内消費は、界隈内の誰かが商品をSNSですすめ、それに同調する声や試した人の口コミが重なって「今これが流行っているらしい」という空気ができ、界隈内の多数派まで購入が広がる流れです。起点はインフルエンサーが多いものの、一般の人の投稿がバズって起点になることもあります。レポートは起きやすい界隈の特徴として、熱量の高い人が一定数いること、ある程度の共感でつながっていること、界隈の外では満たされない個別具体的なニーズがあること(スキンケア界隈の成分マニアなど)の3つを挙げています。

界隈伝播消費の例としてレポートが取り上げたのが、SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2022のファッション部門に選ばれたアームカバーです。Y2Kスタイルに欠かせないアイテムとしてまずストリート界隈で楽しまれ、夏ごろにレースやメッシュ素材が出たことで、量産系やフレンチガーリーなどガーリーな界隈にも広がりました。レポートは、ストリート界隈で熱量高く楽しまれたという実績が、失敗したくない若者にとって「私たちの界隈でも取り入れていいかも」と思える安心材料になったと分析しています。伝播しやすい界隈の特徴は、界隈の外から好意的に見ている人が多いこと、他の界隈と重なっている人が多いこと(K-POP界隈やVTuber界隈など)の2つです。

表の水色界隈は、SHIBUYA109 lab.所長の長田麻衣氏がForbes JAPANの記事で界隈内消費の例に挙げたもので、水色・白・グレーを基調にゆるめのアイテムを好む人たちの界隈です。企業にとって2つの型の区別が効くのは、狙う型で施策の形が変わるからです。界隈内消費を狙うなら、その界隈の作法に合わせて内側で話題になる形をつくります。界隈伝播消費を狙うなら、まず一つの界隈で「しっかり楽しまれている」実績をつくり、複数の界隈にまたがる人を起点に外へ渡します。

「界隈」の意味と関連語の使い分け

界隈・界隈民・界隈化・他界隈と界隈文化

元来の「界隈」は「渋谷界隈」のように場所の周辺を指す言葉でした。SNSで使われる「〇〇界隈」は、場所ではなく興味関心でつながる人の集まりを指します。その界隈に属する人が「界隈民」、あるジャンルや行動に名前が付いて界隈として認識されるようになる現象が「界隈化」、自分のいる界隈から見た別の界隈が「他界隈」です。

界隈ごとに固有の用語、呼び名、投稿の作法が積み重なります。これが界隈文化で、内側の人には共通言語として、外側の人には見えない壁として働きます。企業の発信が「流行り言葉を借りただけの広告」と受け取られるのは、この界隈文化を飛ばして言葉だけを使うからです。

呼び名の出どころがはっきりしない界隈が多い点も、企業側には重要です。代表例の「風呂キャンセル界隈」は2024年4月下旬に話題になり、J-CASTの記事によると、Googleトレンドでは4月28日からの1週間で検索が急増し、同じ週にXのトレンドにも入りました。ただし、この記事で確認した資料からは、誰がこの呼び名を言い出したのかは特定できません。

推し活・リキッド消費・コト消費・エシカル消費との違い

概念 消費を説明する軸 界隈消費との関係
推し活 特定の対象への応援 界隈は対象が無くても成立
リキッド消費 所有より一時的な利用 軸が別で両立する
コト消費 モノより体験 体験を界隈で共有すると重なる
エシカル消費 社会や環境への配慮 動機が別
界隈消費 誰と共有するか ―

推し活はアイドルやキャラクターなど特定の対象を応援する行動で、中心に対象があります。界隈は「サウナ界隈」「編み物界隈」のように、行動や好みの共有だけで立ち上がります。所有より利用に価値を置くリキッド消費とは説明する軸が違うので、同じ人が界隈の中で共有できる体験に対してリキッドな消費をする、という形で両立します。

コト消費は、旅行、フェス、サウナ、ライブのように、モノを持つことより体験に価値を置く消費です。界隈消費と重なるのは、その体験を界隈の中で共有するときで、サウナ界隈の「ととのい」投稿やフェス界隈の参戦レポートがその例です。社会や環境への配慮を基準に選ぶエシカル消費は、動機が社会的意義にある点で、界隈内での共有を動機とする界隈消費とは別の軸です。

界隈の種類と具体例

博報堂レポートの界隈7分類

レポートは、界隈を動機の違いで分類し、種類ごとにコミュニケーションの要点が違うと整理しています。

分類 強い動機 界隈の例
情報交換系 最新・リアルな情報を交換 投資界隈、コスメ界隈
趣味系 同じ趣味で一緒に楽しむ ゲーム界隈、日本酒界隈
推し活・オタ活系 一緒に盛り上がる K-POP界隈、VTuber界隈
世界観系 視覚的な世界観を共有 天使界隈、水色界隈
連帯系 同じ状況の人と連帯 ママ垢界隈、闘病界隈
ミーム系「あるある」 言いにくいあるある 風呂キャンセル界隈
ミーム系「ネタ」 瞬間的な楽しさ R界隈、回転界隈

要点は分類ごとに違います。情報交換系は共感より実利の比重が大きく、情報の専門性や信頼性、界隈で支持されているマイクロインフルエンサーに拡散してもらえるかが効きます。推し活・オタ活系は界隈ごとのルールやマナーが細かく、トーンを外すと逆効果です。世界観系はブランドが世界観に溶け込むビジュアルが、連帯系は悩みに寄り添う誠実な情報発信が求められます。ミーム系はバズをきっかけに突発的に生まれる界隈で、ネタ系についてはレポートも、企業が波にうまく乗れれば瞬間的に盛り上がる界隈をつくれる可能性があるとしています。

企業企画の界隈一覧と2026年のトレンド予測

界隈の名前は無数にありますが、企業が実際に使った一覧が公開されている例があります。旭化成ホームプロダクツが2025年9月3日に始めた「ジップロック® ありなし国民大調査」では、推し活界隈、ガチャ界隈、ボドゲ界隈、アート界隈、サウナ界隈、大阪おばちゃん界隈、DIY界隈、旅行界隈、キャンプ界隈、コスプレ界隈、カメラ界隈、ペット界隈、筋トレ界隈、釣り界隈、登山界隈、編み物界隈、子育て界隈、ぬい活界隈、読書界隈、フェス界隈の20種類が提示されました。

この一覧からわかるのは、界隈が「オタク界隈」のような大分類ではなく、趣味や生活行動の単位まで細かく分かれていることです。過ごし方を軸にした界隈もあり、高原や川など自然のある場所に出かけて「#自然界隈」を付けて投稿する自然界隈は、SHIBUYA109 lab.がaround20(15〜24歳)女性443名への調査をもとにまとめた「トレンド予測2024」のモノ・コト部門に入りました。

2026年の予測では、魔法少女をテーマにした世界観やファッションを楽しむ「魔法少女界隈」と、ダイソーの保険証・お薬手帳カバーに推しの写真やアクリルスタンドを入れてデコレーションする「お薬手帳界隈」が挙がっています。お薬手帳界隈は推し活の「トレカデコ」から派生したもので、推し活界隈の楽しみ方が日用品へ移った例です。名前は毎年入れ替わるので、一覧を覚えるより「粒度が細かく、軸が複数あり、派生して増える」という性質を押さえておくほうが実務では役立ちます。

界隈化しやすいジャンルの条件

レポートは15のジャンルで界隈の大きさと消費力を測り、興味を持つ人が界隈化しやすいジャンルの特徴を3つ挙げています。トレンドの流れが速く情報の鮮度が重要になること(上位5ジャンルに共通)、細分化されたニーズがあり個別具体的な情報が求められること(美容、投資・株、ファッションなど)、実在する対象への推し活が成り立つこと(アイドル・ミュージシャン、YouTuber・VTuber、スポーツ・スポーツ選手)です。

ただし、これらの特徴がないことだけで界隈化しにくいとは判断できません。自社商品について継続的な情報交換や界隈との接点が確認できない場合は、界隈マーケティングを主戦略に置く前に、「自社商品が別の界隈の中で、本来と違う用途で使われていないか」を探すほうが現実的です。ジップロックは食品保存袋ですが、推し活やガチャの界隈での使われ方を拾って接点をつくりました。

数字で見る界隈消費の広がり

年代別の認知・所属・購入経験

博報堂とSHIBUYA109 lab.の調査は、マクロミルモニターの全国10〜50代男女1,000人(各年代・男女100人ずつ)を対象に2024年6月10〜11日に行われた定量調査です。定量調査の集計には、各対象者の出現率と人口構成比を加味したウェイトバックが行われています。あわせて同年7月9〜10日に、1人60分のオンラインデプスインタビューを6名に実施しています。主な年代の結果は次のとおりです。

年代 認知(男性) 認知(女性) 所属(男性) 所属(女性)
10代 68.9% 80.6% 45.6% 61.2%
30代 54.4% 46.6% 33.0% 26.2%
40代 43.7% 35.9% 32.0% 8.7%
50代 28.2% 26.2% 15.5% 18.4%
全体 45.8% 28.1%

認知は「インターネットやSNSで使われる『界隈』という言葉を知っていた」、所属は「自分は何かしらの界隈にいる人だと思う」の割合です。界隈で見聞きした情報をもとに商品やサービスを買った経験は、全体で22.5%、10代女性で56.3%、10代男性で38.8%でした。30代男性は18.4%、40代男性は17.5%で、レポートは30〜40代でも2割弱いると書いています。

読み取れることは3つあります。10代女性は認知80.6%に対して購入経験56.3%で差が24.3ポイントにとどまり、界隈が言葉遊びで終わらず購買のきっかけになっています。所属は男性が40代でも32.0%あり、レポートのインタビューでも40代男性が投資界隈での情報交換を語っています。一方で40代女性の所属は8.7%と低く、同じ年代でも性別で所属の自己認識に大きな差があります。ただし、これは所属の自己認識の数値で、個別の商材への反応差まではわかりません。年代・性別の数値は対象を絞る参考にとどめ、「Z世代向けの手法」と一括りにしないことが大切です。

小さな界隈志向74.1%が示す施策設計の前提

同じ調査で、回答者全体の74.1%が「大きな界隈よりも、より人数の絞られた小さな界隈が望ましい」と答えています。10代でも男性55.3%、女性61.2%と過半数で、男性は年代が上がるほど高く50代では82.5%でした。約4人に3人という水準は、リーチを広げる方向で組まれがちな通常の施策と前提が食い違います。

企業が界隈に関わるときは、一つの界隈を膨らませるより、小さいままの複数の界隈へ横断的に届く形、つまり界隈伝播消費の経路を考えるほうが、この回答と整合します。

従来型消費と界隈消費の違い

従来のマス型の流行は、テレビや雑誌など同じ情報源を多くの人が見ることで、一つの流行が全国に同時に広がる構造でした。界隈消費では、情報はまず界隈の内側で回り、そこから別の界隈へ飛び火します。

観点 従来型のマス消費 界隈消費
情報の流れ マスから一斉に 界隈内から他界隈へ
ターゲットの捉え方 ペルソナを作る 界隈を見つけに行く
比較の中心 多数への共通訴求 界隈ごとの文脈
広がり方 広く浅く 狭く深く
流行の持続性 商品・テーマによる 商品・界隈の性質による

実務上の結論は、界隈消費では年齢や性別による区切りが効きにくいということです。「20代女性」という括りの中に、交わらない界隈が何十とあります。

Z世代の消費行動と界隈の関係

界隈消費がZ世代と結び付けて語られる理由

界隈消費がZ世代と結び付けて語られるのは、SNSが情報収集の起点になっている世代だからです。界隈の形成そのものが、興味関心の近い投稿を集めて表示するSNSのアルゴリズムに依存しています。前掲の調査で10代の認知率と所属率が突出しているのも、SNSに触れる時間の長い層ほど界隈に触れる機会が多いと考えれば説明がつきます。レポートも、Z世代の消費をつかむには界隈を大事にすることが欠かせないと書いています。

共感が購買理由になる条件

ただし「Z世代は共感を重視する」で止めると、実務では使えません。レポートの界隈伝播消費の説明では、「誰がおすすめしたのか」と「この界隈なら共感できる・信頼できる」という地盤が、他の界隈まで消費が広がるかを左右するとされています。共感を訴求する際は、対象者が誰の情報を信頼し、何を購入理由にしているかを商材ごとに確認します。

Z世代の購買行動を段階で捉える枠組みとしては、日本マーケティング学会のワーキングペーパーで示されたEIEEB(Z世代の消費行動モデル)があり、界隈での情報接触が購入までのどの段階に効くかを考える補助線になります。Z世代の次の世代との違いはアルファ世代(α世代)の解説で扱っています。

界隈マーケティングの進め方

ペルソナ型・ファンマーケティングとの違い

界隈マーケティングとは、年齢や性別といった属性ではなく、特定の興味関心でつながる集団を単位にして施策を設計する手法です。レポートは従来型との違いを、ターゲットの捉え方と市場との向き合い方の2点で対比しています。従来型は属性や価値観から顧客像(ペルソナ)を作り、自社ファンを育てて囲います。界隈発想では、生活者が自発的につくった集まりを「見つけに行き」、その界隈での活動を生活者がもっと楽しめるように自社ができることを提案して、界隈を「盛り上げる・支える」側に回ります。

自社ブランドのファンを育てるファンマーケティングと違い、界隈はブランドの外に先にあり、企業は後から加わる立場です。この立場の違いが、後述する4原則の前提になっています。

見つける・学ぶ・盛り上げる・広がるの4プロセス

レポートが示す「界隈」発想のマーケティングプロセスは次の4段階です。

  1. 見つける:自社ブランドと関わりうる生活者の集まりを見つける
  2. 学ぶ:見つけた人びとの中での常識や困りごとを知る
  3. 盛り上げる:人びとがより楽しく快適に過ごせる仕組みやサービスを提案する
  4. 広がる:最初の人びとの間で広がり、やがて他の界隈にも広がっていく

出発点は「見つける」です。レポートは、SNSのプロフィールや投稿写真、XやTikTokで特定の人々を「〇〇界隈」と呼ぶ投稿が手がかりになるとし、「推しのライブに行くときに気合を入れるために飲む」のような意外な使われ方が見つかれば新しい界隈を開拓する機会だとしています。実務では、SNS上の言及を「商品名+界隈」や商品の略称で調べるのが最初の一手です。言及が見つからない場合は、用途や関連ジャンルでも検索し、利用者へのインタビューと併せて接点を探します。それでも接点を確認できなければ、別の手法を検討します。

「見つける」と「学ぶ」の観測から投稿の設計までを外部に任せる場合は、SNS運用代行のように言及の観測と投稿の運用を一体で扱える体制を選ぶと、界隈の言葉を投稿へ反映しやすくなります。SNS全体の施策設計はSNSマーケティングの解説で整理しています。

界隈にアプローチする際の4原則

レポートは、界隈にアプローチするときは「界隈ファースト」で考えることが何より重要だとして、次の4原則を挙げています。

  • カテゴライズしない:自分から「〇〇界隈」と名乗るのはよくても、人から言われると抵抗感を持つ人が少なくない。「〇〇好き」「ファンダム名」など熱量を肯定する言葉で発信する
  • リスペクトを忘れない:推し活・オタ活系では「オタクなら何でもお金を出す」という企業側の驕りに敏感。払ったお金が価値に還元される環境をつくる
  • ポジティブ文脈で発信する:界隈消費は「同じ界隈の人にも知ってほしい」という利他の気持ちでシェアされる。何かを下げる発信や界隈内外にヒエラルキーを作る発信はシェアされにくい
  • 界隈における活用シーンを提案する:効能だけでなく、界隈の活動の中でどう使うかを具体的に描く

1つ目の「カテゴライズしない」は、広告の呼びかけ方を確認する際の基準になります。企業が「あなたたちは〇〇界隈」と呼びかける形の広告は、それ自体が原則に反します。

界隈マーケティングの企業事例

ジップロックの「ありなし国民大調査」

旭化成ホームプロダクツは、2025年9月3日から21日まで、特設サイトで20種類の界隈での使い方を示し、来訪者に「あり/なし」で投票してもらう企画を行いました。あわせて、推し活界隈向けに9月6〜7日にタワーレコード渋谷店で、ガチャ界隈向けに9月13〜14日に#C-pla渋谷センター街店で、ジップロック®とストラップを配るリアルサンプリングを開催しています。

この施策は新しい界隈をつくろうとしていません。リリースは、推し活でのグッズ管理やガチャで手に入れたコレクションの収納など「見せながら持ち歩く」シーンが増えているという、すでに起きていた使われ方を出発点に挙げています。4原則の「活用シーンを提案する」をそのまま形にし、使い方の判定を投票で界隈側に委ねた設計です。

特設サイトには、「あり」の押下数をもとにした上位3つとして、ガチャ界隈、推し活界隈、旅行界隈が掲載されました。上位2つはリアルイベントを開いた界隈と一致します。ただし、イベント会場でも投票を促していたため、順位には接触機会の違いが影響した可能性があり、界隈選定の妥当性を順位だけで判断することはできません。

博報堂グループの界隈向けソリューション

レポートを出した博報堂グループは、界隈発想を2つのソリューションにしています。1つ目は、博報堂と博報堂キースリーが2025年3月26日に発表した、Pontechを開発パートナーとする界隈限定の購買体験です。Web Proof(zkTLS)という技術で、利用者が許可したうえでWebサービス上の活動履歴を第三者に証明し、特定の界隈の一員だと証明できた人だけが買えるようにします。デモの界隈限定ECサイトでは、次の条件が使われています。

界隈 証明する条件
暗号資産界隈 Binance Japanに100USD以上の資産
風呂キャンセル界隈 Xで「風呂キャン」を含む投稿
生成AI界隈 ChatGPTのPlusまたはPro加入

2つ目は、博報堂生活者発想技術研究所とスパイスボックスが2025年10月24日に提供を始めた「界隈ENGAGEMENT™」です。レポートの4プロセスに沿って、SNS投稿データの分析とパネル調査で自社と親和性の高い界隈を見つけて「界隈MAP」を作り、界隈内で実際に反応を集めている投稿をまとめて界隈ごとの「共感文脈」を可視化し、インフルエンサーやメディアを使った発信まで一貫して設計します。

2つの事例では、購入条件となる行動履歴の証明と、投稿データによるマーケティング対象の分析という、異なる目的でデータを使っています。界隈限定の特典を出すなら、前者のように誰を界隈の一員とみなすかの基準を先に決めておく必要があります。

界隈マーケティングが失敗する3つの条件

ここまでの数値と4原則から、失敗しやすい条件を3つ挙げます。

第一に、人数の拡大を参加者の満足と取り違えることです。小さな界隈を望む回答が74.1%ある以上、「この界隈をもっと盛り上げよう」という呼びかけは、当事者が望む関わり方とずれるおそれがあります。レポートの「盛り上げる」は人数を増やすことではなく、界隈の活動をより楽しく快適にすることを指しています。

第二に、企業が外から界隈を名付けて当てはめることです。企業が「あなたは〇〇界隈」とくくると、4原則の「カテゴライズしない」に反します。呼び名については、誰が言い出したかより、当事者がその呼び名を受け入れているかを確かめる必要があります。例外はバズをきっかけに瞬間的に盛り上がるネタ系の界隈で、レポートも生活者発のバズに企業がうまく乗れた場合に限って可能性を認めていますが、熱量は期間限定です。

第三に、界隈の用語を借りただけの発信は届きません。中身が従来の商品訴求のままなら、界隈民には流行り言葉を使っただけの広告として処理されます。4原則の「活用シーンを提案する」が欠けた状態です。

2026年の変化=アテンション・デトックスと界隈の細分化

界隈消費を2024年時点の理解のまま扱うと、今の状況とずれます。SHIBUYA109 lab.がaround20(15〜24歳)女性401名へのWEBアンケート(2025年10〜11月)をもとにまとめ、2025年12月9日に発表した「トレンド予測2026」は、キーワードに「アテンション・デトックス」を挙げました。情報やコミュニケーションの量に疲れ、不特定多数からの注目を避ける傾向です。モノ・コト部門では、少人数やオフラインで楽しむ体験が多く入っています。

不特定多数からの注目を避ける傾向は、先の「小さな界隈が望ましい」74.1%と同じ向きの結果です。ただし、対象者も設問も異なる調査のため、この比較だけで界隈全体の縮小や閉鎖化が進んだとは判断できません。同じ予測の魔法少女界隈やお薬手帳界隈も、具体的な楽しみ方の例であって、参加人数の減少を示すものではありません。

企業側は、界隈施策をリーチ数や露出量だけで評価せず、対象者の反応、利用意向、購入など、施策の目的に対応する指標も併せて確認します。界隈が閉じるほど内部の情報は同質化しやすい点にも注意が必要です。この構造はフィルターバブルとエコーチェンバーの解説で扱っており、界隈の中で盛り上がった話題が外では知られていないという乖離は、施策を評価するときに織り込んでおくべき点です。

よくある質問

界隈消費と界隈マーケティングは何が違いますか?

界隈消費は生活者の側で起きている現象を指し、界隈マーケティングはその現象を前提に企業が設計する手法を指します。界隈消費の理解なしに界隈マーケティングだけを実行すると、用語を借りただけの発信になりやすくなります。

「風呂キャンセル界隈」は誰が言い出したのですか?

この記事で確認した資料からは、発案者は特定できません。報道によると、2024年4月下旬にXで話題になり、Googleトレンドでは4月28日からの1週間で検索が急増し、同じ週にXのトレンドにも入りました。

界隈の一覧や種類はどこで確認できますか?

網羅的な公式一覧はありません。種類の整理としては博報堂のレポートが示す7分類(情報交換系・趣味系・推し活・オタ活系・世界観系・連帯系とミーム系の2種)が、実在の一覧としてはジップロックの企画で示された20種類の界隈や、SHIBUYA109 lab.のトレンド予測が毎年挙げる界隈名が参考になります。名前は年単位で入れ替わるため、最新の調査をその都度確認するのが現実的です。

Z世代以外にも界隈消費は広がっていますか?

広がっています。博報堂とSHIBUYA109 lab.の調査では、界隈にいると答えた人は30代で男性33.0%・女性26.2%、40代男性でも32.0%でした。ただし40代女性は8.7%と低く、10代女性の61.2%とは大きな差があります。年代・性別の数値は対象を絞る参考にし、予算は自社商品の需要や小規模施策の反応も確認して決めます。

自社ブランドが界隈で話題になっているか確認するには?

SNSで「自社商品名+界隈」と、商品名の略称や愛称で言及を検索するのが最初の一手です。プロフィールや投稿写真、特定の人々を「〇〇界隈」と呼ぶ投稿も手がかりになります。企業が想定していない用途で使われている場合、その用途を表す言葉が界隈民の投稿に現れます。言及が見つからない場合も、用途や関連ジャンルの投稿、利用者へのインタビューを調べ、接点の有無を確認してから手法を選びます。

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