「Z世代はTikTok」「Z世代は社会課題に敏感」という前提のまま企画書を書くと、媒体も訴求も外れます。総務省が2025年6月に公表した令和6年度の調査では、10代のTikTok利用率は前年の70.0%から65.7%へ下がり、同じ10代でInstagramが75.0%と上回りました。休日にソーシャルメディアへ使う時間も、10代女性130.3分に対し10代男性は32.9分で、約4倍の開きがあります。ここでは年代別の実数値と、2023年10月に始まったステルスマーケティング規制の運用実務に絞って、Z世代向け施策の決め方を整理します。
まとめ
- 媒体選定は世代名ではなく年代・性別の実数で決めます。10代はInstagram 75.0%>TikTok 65.7%、20代はX・Instagramが同率78.0%でTikTokは58.7%です。
- インターネット利用項目の中で最も時間を使うのはSNSではなく動画共有サービスです(平日10代116.0分、20代90.2分)。テレビのリアルタイム視聴は10代39.7分にとどまります。
- インフルエンサー施策の明示は、投稿する媒体ごとに要ります。大正製薬は、依頼したInstagram投稿を抜粋して自社ECサイトへ掲載した表示で措置命令を受けています。
- 口コミ投稿への謝礼は、その投稿を事業者の表示に変えます。医療法人社団スマイルスクエアは、星5投稿を条件に5,000円分のQUOカードや治療費割引を伝えた行為で措置命令を受けました。
- 環境配慮や「イミ消費」の訴求は、掲げるだけでは選ばれません。消費者庁の白書コラムは、品質が劣るという印象や売場での認識されにくさを障壁として挙げています。
以下では、この判断の根拠となる数値と条文の運用を順に見ていきます。
「Z世代」の年齢レンジと、世代名で括ると外れる理由
出典ごとに揺れる年齢レンジと、統計側にある年代区分
Z世代は、一般に1990年代半ばから2010年代初頭までに生まれた層を指す用法が広く使われていますが、開始年・終了年は出典によって数年ずれます。企画の前提として押さえておきたいのは、公的な統計がこの呼称で集計していない点です。総務省情報通信政策研究所の「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」は、10代から70代までの年代区分と男女別で結果を示しており、世代呼称では集計していません。つまり、Z世代向け施策の根拠に数値を使おうとすると、最終的には年代区分へ翻訳する作業が必ず発生します。
実務では、そこを先に決めてしまうのが早道です。「Z世代」を対象とする企画は、着手時点で「10代」「20代前半」「20代後半」のどれを指すのかを言語化しておく。上の世代との境界が気になる場合はアルファ世代(α世代)とは?年齢(何歳)・特徴・Z世代との違いをわかりやすく解説で下の世代との切れ目も確認できます。
同じ10代で4倍開く男女差
年代だけでも足りません。同調査の休日のインターネット利用項目別平均利用時間を見ると、「ソーシャルメディアを見る・書く」は10代女性が130.3分、10代男性が32.9分です(休日の標本は10代女性68人・10代男性72人)。同じ10代でおよそ4倍の差があります。20代でも女性100.4分に対し男性77.3分。一方で「オンラインゲーム・ソーシャルゲームをする」は10代男性57.6分、10代女性38.6分と逆向きに開きます。
「Z世代はSNSに何時間も浸かっている」という一般化は、実は女性側の数値に引っ張られた像です。男性10代へ届けたいなら、SNSのフィードよりゲーム実況や動画共有側に接点があります。ペルソナを1枚だけ作って全施策を通す進め方は、この段階で破綻します。
年代別のSNS利用率と平均利用時間(令和6年度・総務省)
利用率で見た媒体の優先順位
まず、どこに人がいるのかを押さえます。次の表は同調査の表5-1-1(令和6年度)から、全年代・10代・20代を抜き出したものです。
| サービス | 全年代 | 10代 | 20代 |
|---|---|---|---|
| LINE | 91.1% | 93.6% | 97.7% |
| YouTube | 80.8% | 95.7% | 97.2% |
| 52.6% | 75.0% | 78.0% | |
| X(旧Twitter) | 43.3% | 62.1% | 78.0% |
| TikTok | 33.2% | 65.7% | 58.7% |
| 26.8% | 13.6% | 22.9% | |
| ニコニコ動画 | 10.8% | 20.0% | 24.3% |
コンテンツを届ける面として最大なのはYouTubeで、10代95.7%・20代97.2%。20代だけはLINEが97.7%とわずかに上回りますが、LINEは配信面というより連絡手段です。TikTokは10代でも3人に1人が使っていません。20代に限ればTikTokはXとInstagramに20ポイント近く離されています。Facebookは10代13.6%で、若年層向け施策の候補からは外して構いません。
可処分時間は動画がソーシャルメディアを上回る構造
利用率の次は、どれだけ時間を使っているかです。平日・休日の1日あたり平均利用時間(分)を、表2-1-1・表2-1-2(インターネットの利用項目別)と図1-1-1-5・図1-1-1-6(主なメディア)から並べます。
| 項目 | 10代 平日 | 10代 休日 | 20代 平日 | 20代 休日 | 全年代 平日 |
|---|---|---|---|---|---|
| 動画投稿・共有サービスを見る | 116.0 | 165.4 | 90.2 | 132.6 | 50.8 |
| ソーシャルメディアを見る・書く | 67.0 | 80.2 | 67.0 | 88.6 | 34.7 |
| テレビ(リアルタイム)視聴 | 39.7 | 41.7 | 52.6 | 62.7 | 154.7 |
| メールを読む・書く | 15.5 | 18.5 | 33.6 | 16.7 | 38.9 |
10代の平日は、動画共有サービス116.0分に対してテレビが39.7分。おおよそ3倍です。制作予算の配分を決めるとき、この比率は説得材料になります。もう一点、見落とされやすい変化があります。10代・20代のインターネット利用時間そのものは前年から減っており、平日の10代は257.8分から243.4分、20代は275.8分から257.2分へ下がりました。若年層のオンライン時間は無限に伸び続けるという前提は、すでに実測と合いません。奪い合いの対象は、増える時間ではなく固定された時間です。
「Z世代=TikTok」が外れる場面と、公開事例の読み替え方
前年から低下した10代のTikTok利用率
時系列で見ると、10代のTikTok利用率は令和5年度70.0%から令和6年度65.7%へ低下しました。同じ10代のXも65.7%から62.1%へ下がっています。全年代では27.8%から33.2%へ増えているので、TikTokは「若年層で伸び続けている媒体」ではなく「上の年代へ広がっている媒体」です。20代では52.1%から58.7%へ増えており、10代と20代で動きが逆を向いています。
ここは言い切ります。10代女性を主対象にした認知施策で、Instagramを外してTikTok単独に寄せる設計は採用すべきではありません。利用率で10ポイント近い差(75.0%対65.7%)があり、しかも差は前年より開いています。TikTokを主軸に据えて合理性があるのは、10代男女の広い認知を短尺動画で取りに行く場合と、20代前半の音楽・コスメ・食品カテゴリのように短尺と相性が実証されている領域です。
公開事例をそのまま転用しないための判断基準
「Z世代マーケティング 成功事例」で見つかる記事の多くは、施策の内容と結果だけを書き、対象の年代・性別・媒体の内訳を明かしていません。転用の可否は次の3点で判断できます。第一に、事例の対象が10代なのか20代なのか。第二に、成果指標が認知(リーチ・再生数)なのか行動(購入・来店)なのか。第三に、その企業がすでに持っていた指名検索やファン基盤の量です。
3点目が最も見落とされます。既存ブランドの短尺動画が伸びた事例は、動画の作り方ではなく元の知名度が効いている場合があります。1点目の重さも数値で確かめられます。同じ10代でも休日のソーシャルメディア利用は女性130.3分・男性32.9分で、対象の内訳が書かれていない事例は、この4倍差のどちら側で成立したのかを判定できません。
インフルエンサー施策で先に固めるステマ告示の運用
大正製薬の措置命令が示した「自社サイトへの転載」
2023年10月1日、景品表示法第5条第3号の告示が施行され、一般消費者が事業者の表示だと判別することが困難な表示が違反行為になりました。ここで実務上の分かれ目になるのが、SNSの投稿そのものではなく、その二次利用です。
消費者庁は2024年11月13日、大正製薬株式会社に措置命令を出しました。サプリメント「NMN taisho」について、第三者へ商品の無償提供と対価の提供を条件にInstagramへの投稿を依頼し、その投稿の一部を抜粋して自社の「大正製薬ダイレクトオンラインショップ」に掲載した表示が対象です。表示期間は2024年4月3日と、同月19日から5月22日まで。依頼した投稿であることを明らかにしていなかったため、事業者の表示であることが明瞭になっていないと判断されました。
命令が問題としたのはInstagramの投稿そのものではなく、自社ウェブサイトへ抜粋掲載した表示で依頼関係を明らかにしていなかった点です。インフルエンサーの投稿を自社LPやECの「お客様の声」欄へ載せる運用は珍しくありませんが、表示は媒体ごとに判断されるため、転載先には転載先の明示が要ります。ステマ規制の全体像はステマとは?意味・手口・2023年規制と違反事例をわかりやすく解説で整理しています。
PR表記の位置と表現の具体
消費者庁のQ&Aは、表記の文言と置き場所の両方に触れています。文言は「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」のほか、「A社から商品の提供を受けて投稿している」のように関係性を説明する書き方でも構いません。判断基準は、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示だと明瞭になっているかどうかです。
置き場所には明確な注意が付いています。動画で冒頭に「広告」と表記するだけでは見逃されるおそれがあるとされ、示されている方法は画面上への常時表示。投稿本文ではなくツリーや返信に書く形も、通常は気付かれないおそれがあるとされます。運用に落とすなら、動画は画面内に常時表示、テキスト投稿は本文の冒頭、という2点を発注要件に書き込むのが確実です。
責任を負うのは広告主という前提
同じQ&Aは、インフルエンサーやアフィリエイター自身は規制の対象外だと明記しています(商品を共同で供給している場合を除く)。表示内容の決定に関与した事業者、つまり広告主が責任を負います。
この非対称性は契約設計に直結します。表記漏れを起こしたのがインフルエンサー側でも、行政処分を受けるのは発注した企業です。投稿前の原稿確認と、掲載後のスクリーンショット保管を発注フローに組み込んでおく。代理店任せにせず、広告主が最終確認の責任者を1名決めておくのが現実的です。
UGCと口コミを軸にした設計と、指標の置き方
謝礼と引き換えの口コミが招く処分
消費者庁は2025年3月17日、医療法人社団スマイルスクエアに措置命令を出しました(公表は3月18日)。同法人が経営する歯列矯正歯科で、来院者に対し、Googleマップのプロフィールの口コミ投稿欄に星5の評価と感想を投稿すること、または星5を投稿することを条件に、5,000円分のQUOカードの提供、もしくは治療費総額から5,000円の割引を伝えていた行為です。別表に挙げられた投稿は18件で、表示期間は2024年5月15日(うち4件は5月29日)から9月11日までとされています。
違反とされたのは対価の提供そのものではなく、対価を伝えたことで表示内容の決定に関与したと認められ、その投稿が事業者の表示であることが明瞭になっていなかった点です。裏を返せば、対価を渡すなら投稿側にその関係を明示させない限り成立しません。レビュー数を買う発想は、ここで行き止まりになります。UGCを増やしたいなら、投稿への対価ではなく、投稿したくなる商品側の理由を作る方向へ進むほかありません。UGCとCGMの区別はUGCとCGMの違いとは?VOC・eWOMとの関係と使い分けを解説で整理しています。
口コミ量を指標に置くときの落とし穴
UGC施策のKPIを投稿件数だけに置くと、現場は件数を作る方向へ動きます。前項の処分は、その圧力が制度違反まで到達した形です。前項の命令で対象になった投稿も18件で、数としては小規模です。件数の代わりに置くなら、指名検索数、保存数、投稿に含まれる商品名の言及率のように、量ではなく態度変容を映す指標が向きます。
UGCが購買につながる経路を設計する枠組みとしてはULSSAS(ウルサス)とは?6つのステップとAISASとの違い・実践手順を解説が使えます。配信面をそのまま購買へつなぐならライブコマースとは何か?動画配信とECが融合した新たな購買体験のような形式も選択肢に入ります。
コスパ・体験価値・環境配慮への向き合い方
「イミ消費」を掲げる前に確認する障壁
消費者庁の令和7年版消費者白書は、コラムで消費価値観の変化を扱っています。有限会社インフィニティの牛窪恵氏は、SNSの普及に伴って「意味合い」や「人間関係」が重視され、自身の購買が社会や自分自身に良い影響を与えるかに価値を置く「イミ消費」へ変化していると述べ、この価値観を重視する世代としてZ世代を挙げています。企業や社会に求められる観点として挙げられているのは、消費者目線の楽しさ(共感)・つながり・透明性です。
一方、同じ白書のコラムで慶應義塾大学の白井美由里教授は、サステナブル商品が選ばれにくい理由として、身近に感じられないこと、品質が劣る・負担がかかるという印象、日常のルーティンへ取り入れにくいこと、売場で認識されにくいこと、他商品との違いの分かりにくさを挙げています。訴求の方向としては、サステナブルが何かを分かりやすく提示する、サステナブルに意識が向く買物環境を構築する、「ときには」商品性能とサステナビリティ情報を分けて提示する、といった複数のアプローチが並列で挙げられており、優先順位までは示されていません。
ここは自社の判断として言い切ります。品質面の不安を残したまま環境配慮だけを前に出す訴求は、Z世代向けでも選ばれません。白書が挙げる「商品性能とサステナビリティ情報を分けて提示する」は、その不安を切り離す手として先に試す価値があります。
コスパ訴求と体験訴求の使い分け
価格の安さを軸に据えるか、体験の濃さを軸に据えるかは、対象カテゴリの購買頻度で決まります。日用品や食品のように反復購入が前提なら価格と入手しやすさ、所有ではなく一時的な利用や参加が価値になるカテゴリなら体験側。後者の行動特性はZ世代が牽引するリキッド消費の新しい価値観と行動様式で扱っています。
趣味嗜好が細分化した集団に売る設計は界隈消費とは?定義・具体例とZ世代の消費行動、界隈マーケティングの進め方、購買までの心理段階を分解した枠組みはEIEEBとは?Z世代の消費行動モデル5ステップと提唱者が参考になります。
よくある質問
Z世代は何歳から何歳までですか?
1990年代半ばから2010年代初頭生まれという用法が広く使われています。この範囲で数えると、2026年時点の年齢はおおむね10代半ばから30歳前後まで広がります。学生と社会人が同居する幅なので、可処分所得も接触メディアも一枚岩ではありません。開始年・終了年は出典によって数年ずれるため、企画では「10代」「20代前半」のように年代へ言い換えてから統計を当てるのが実務的です。
Z世代向けにまず使うべきSNSはどれですか?
配信面として選ぶならYouTubeです。令和6年度調査の利用率は10代95.7%、20代97.2%(20代のみLINE 97.7%がわずかに上回ります)。フィード型の接点を追加するなら、10代はInstagram(75.0%)、20代はXとInstagram(ともに78.0%)が候補です。TikTokは10代65.7%、20代58.7%で、対象が10代女性中心の場合はInstagramを主、TikTokを従に置く構成が実数と整合します。
Z世代は本当にコスパ重視ですか?
価格だけを見る層という理解は正確ではありません。消費者庁の白書コラムでは、購買が社会や自分に良い影響を与えるかに価値を置く「イミ消費」への変化が指摘される一方、環境配慮商品については品質が劣るという印象や負担感が選ばれにくさの理由として挙がっています。価格の納得感と品質の不安解消は同時に必要で、どちらか一方の訴求では動きません。
インフルエンサーに「#PR」を付けてもらえば問題ありませんか?
表示は媒体ごとに判断されるため、その投稿を自社サイトへ転載するなら転載先にも明示が要ります。大正製薬は、依頼したInstagram投稿を抜粋して自社ECサイトに掲載した表示で2024年11月13日に措置命令を受けました。置き場所にも条件があり、消費者庁のQ&Aは、動画で冒頭に表記するだけでは見逃されるおそれがあるとして画面上への常時表示を挙げ、投稿のツリーや返信への記載は通常気付かれないおそれがあるとしています。
Z世代マーケティングの成功事例はどう探せばよいですか?
公開事例は、対象の年代・性別の内訳と既存の知名度が書かれていないことが多く、そのままでは自社に当てはめられません。実務では、事例を探す時間を自社データの小規模検証に振り替えるほうが早く答えが出ます。同じ訴求を2案作り、対象を10代女性と20代女性に分けて少額配信し、保存率と指名検索の動きを見る。総務省の調査でも接触時間は年代と性別で大きく割れるため、他社の1事例より自社の1回のテストのほうが判断材料になります。