リキッド消費(liquid consumption)とは、短命で、アクセスベースで、脱物質的な消費のことです。2017年にフルーラ・バーディ(Fleura Bardhi)とジアナ・エカート(Giana M. Eckhardt)が学術誌Journal of Consumer Researchで提唱しました。対になるのが、永続的で所有ベースで物質的な「ソリッド消費」です。この記事では原典の論文と、日本でこの概念を紹介した久保田進彦氏(青山学院大学)の論文・著書をもとに、定義、ソリッド消費との違い、どんな条件で消費がリキッドになるのか、企業はどこで判断を誤りやすいのかを整理します。
まとめ:リキッド消費の定義とソリッド消費との違い
- リキッド消費は「短命性」「アクセス・ベース」「脱物質」の3つで定義される。提唱は Bardhi & Eckhardt(2017)、下敷きは社会学者バウマンの「リキッド・モダニティ」。
- ソリッド消費は「永続的・所有ベース・物質的」。原典は両者を二者択一ではなくスペクトラム(連続体)の両端として扱い、同じ人の中でも両方が混在する。
- どちらに寄るかを考える手がかりとして、原典は自己との関連性、社会関係の性質、移動ネットワークへのアクセス、不安定さの種類という4つの条件を挙げている(網羅ではないと断り書きつき)。世代は条件に入っていない。
- 「不景気だから所有を避けてリキッド化する」という説明は原典と合わない。経済的な不安定はむしろ所有・貯蓄へ向かわせ(ソリッド化)、リキッド化を招くのはフリーランスなど職業上の不安定のほうだとされる。
- 日本でも長期調査で「仲間欲求」が1994年14.02%から2018年11.05%へ下がり、「マイペース欲求」が4.36%から6.07%へ上がった(久保田 2020)。
以下、定義の中身から順に見ていきます。
リキッド消費の定義と提唱者
リキッド消費は、Bardhi & Eckhardt「Liquid Consumption」(Journal of Consumer Research 44巻3号、582〜597ページ、2017年。著者受理稿)で示された概念です。論文は消費を「リキッド」と「ソリッド」に分け、リキッド消費を ephemeral(短命)、access based(アクセスベース)、dematerialized(脱物質)と定義しました。デジタル環境での消費、所有を伴わない利用、国境を越えて移動する暮らしを説明するために、この新しい枠組みが必要だというのが論文の主張です。
土台になっているのは、社会学者ジグムント・バウマンが2000年の著書『Liquid Modernity』で示した「液状化する近代」という見方です。家族・地域・職業のように長く続くと思われていた枠組みが溶け、変化が速く不安定になった社会を、バウマンは液体(liquid)にたとえました。リキッド(liquid)は液体、ソリッド(solid)は固体という意味で、リキッド消費という名前はこの比喩を消費に当てはめたものです。
3つの特徴の中身は次のとおりです。
| 特徴 | 原語 | 意味 | 身近な例 |
|---|---|---|---|
| 短命性 | ephemeral | 価値が特定の文脈でだけ生じ、有効期限が短い | 流行服をすぐ手放す・フリマで転売 |
| アクセス・ベース | access based | 所有権を移さずに利用する | カーシェア・レンタル・定額配信 |
| 脱物質 | dematerialized | 同じ機能をより少ない物質で得る | 紙の本から電子書籍・CDから配信 |
久保田(2020)の訳では、短命性は「リキッド消費では特定の文脈においてのみ消費者に価値がもたらされ,しかもこの価値の有効期限はますます短くなっている」こと、アクセス・ベースは「市場が介入できるものの,所有権の移転が生じない取引」、脱物質は同じ水準の機能を得るために物質をより少なくしか(あるいはまったく)使わないことを指します。3つは互いに関連していて、たとえば音楽配信は脱物質であり、同時に所有ではなくアクセスでもあります。
日本では、久保田進彦氏が2020年に日本マーケティング学会の『マーケティングジャーナル』39巻3号(「消費環境の変化とリキッド消費の広がり」)で概念を紹介し、2025年2月15日に新潮新書『リキッド消費とは何か』を出しています。新書では原典の3特徴に加え、手間を減らしたいという「省力化」を4つめの特徴として論じています。
ソリッド消費との違い
原典は特徴の3項目以外にも、両者の違いを複数の軸で対比しています。主な軸を抜き出すと次のようになります。
| 比較軸 | ソリッド消費 | リキッド消費 |
|---|---|---|
| 時間 | 永続的 | 短命 |
| 所有 | 所有・所持が中心(多いほど良い) | アクセス・共有・借用が中心(少ないほど良い) |
| 物質性 | 物質的 | 脱物質的 |
| 重視する価値 | 自己表現・つながり | 使用価値(実用) |
| 愛着 | 長く続く愛着・ロイヤルティ | 流動的な愛着・ロイヤルティが弱い |
| 消費の意味 | 文脈が変わっても安定 | 文脈によって変わる |
| 弱点 | 負担が重い | 不安定・不確実 |
見落とされやすいのは最後の行です。原典はリキッド消費を「進んだ消費」、ソリッド消費を「古い消費」とは位置づけていません。ソリッド消費はモノを抱える負担が、リキッド消費は足場の不安定さが弱点で、どちらにもコストがあります。また原典は、リキッド消費をする人が市場から距離を置いているわけではなく、これは消費者の抵抗や市場からの疎外ではないと明記しています。
もう一つの前提が、両者はスペクトラムの両端だという点です。同じ人が、車はカーシェアで済ませながら、趣味の道具は買って長く使う、ということは普通に起こります。久保田(2020)は、デジタル化で紙の写真から解放された人が、今度は写真データを大量に貯め込む(収集というソリッドな行動)例を挙げています。リキッド消費は消費スタイルの「置き換え」ではなく「幅の拡張」だと久保田は整理しています。
リキッドになる条件とソリッドに戻る条件
原典は、消費がどちらに寄るかを考える条件として4つを挙げています。ただし、著者らはこれらが条件のすべてではないと断っています。自社の商材について、顧客が所有と利用のどちらに価値を感じるかを検討する手がかりになります。
| 条件 | リキッドに寄る場合 | ソリッドに寄る場合 |
|---|---|---|
| 自己との関連性 | 低い(例:カーシェアの車) | 高い(例:思い入れのある持ち物) |
| 社会関係の性質 | 道具的・金銭化された関係(SNS上のつながり) | 強い紐帯(ブランドコミュニティ) |
| 移動ネットワークへのアクセス | 高い(グローバル都市・国際的な移動層) | 低い(孤立した町・農村部) |
| 不安定さの種類 | 職業上の不安定(クリエイティブ職・ギグワーク) | 経済的な不安定(中間層の下降移動) |
自己との関連性が低いもの、たとえばA地点からB地点へ移動するための車は、所有せずに済ませやすくなります。逆に自分らしさと結びつく持ち物は、手元に置き、長く使おうとします。社会関係では、オンライン上でゆるくつながる関係はリキッド寄り、ブランドへの強い忠誠で結ばれたコミュニティはソリッド寄りで、オンラインコミュニティはその中間とされています。
「不況で所有離れ」は原典の整理と逆
リキッド消費の背景として「経済の先行きが不安だから、人は所有のリスクを避ける」と説明されることがあります。原典の整理はこれと一致しません。原典は、中間層が経済的に下降していくような経済的不安定のもとでは、人は安定と安心を取り戻すためにむしろ消費をソリッド化させる(節約し、持ち物や家を大切に維持する)としています。資金に制約がある消費者ほど長持ちする物を欲しがるという研究(Tully ほか 2015)も引かれています。
リキッド化と結びつくのは、契約や案件単位で働く職業上の不安定です。仕事の場所や形が頻繁に変わる人は、資源を所有するよりアクセスで済ませ、コワーキングスペースや持ち運べる機器で仕事を回します。ギグエコノミーの広がりは、この意味でリキッド消費を後押しします。
原典はさらに、ギリシャの例を挙げています。2008年以降の経済崩壊で、住まいの共有や物々交換の場づくりなどリキッドな消費が広がりましたが、2014年までには家族とのつながりや定職のようなソリッドなものを求める動きに戻りました。原典の著者は、すべての消費がいずれリキッドになるとは考えていないと明言しています。
リキッド消費を左右する状況条件と世代論の限界
リキッド消費は「Z世代の消費」として紹介されることが多いのですが、原典の4条件に年齢や世代は含まれていません。論文の本文にも世代についての議論はありません。条件はあくまで、その商品が自分にとってどれだけ意味を持つか、どんな関係の中で消費するか、どれだけ移動するか、どんな不安定さを抱えているかです。
実務上の意味は、「若い層向けだからサブスク」という発想では外れることがある、という点です。若い人でも思い入れのある趣味の品は買って持ちますし、出張の多い中高年はカーシェアや宿泊サービスを使います。世代ごとの人口や価値観のデータはZ世代とは?1996〜2012年生まれの年齢早見と特徴で、Z世代向けの施策設計はZ世代マーケティングの記事で扱っています。
日本のリキッド化に関連する代理指標
長期調査「CORE」と検索量の推移
リキッド消費が本当に広がっているかを確かめるには、消費スタイルを長期間記録したデータが要ります。久保田(2020)はそれが簡単ではないとしたうえで、近い現象を示す代理指標として2つのデータを分析しています。
1つめは、株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントが1982年から毎年3,000人に行っているライフスタイル調査「CORE」です。1994年から2018年までの25年分(延べ約75,000人)を見ると、12の欲求への配分で測った「欲求シェア」について、人とのつき合いを大事にしたいという仲間欲求の平均値は14.02%から11.05%へ約3ポイント下がり、自分の思い通りに過ごしたいというマイペース欲求は4.36%から6.07%へ上がりました。どちらも2012年ごろから変化が大きくなっています。「利益に繋がらない情報にはお金をかけない」「価格は時間や手間を含めたトータルコストで比較する」という実利志向の項目も、肯定率が年々上がっています。
2つめはGoogleトレンドです。検索件数そのものではなく、地域・期間の総検索数に対する割合を正規化した相対指標です。2004年1月から2019年8月までの日本の相対検索量を見ると、「所有」は下がり、「借りる」と「コスパ」は上がっていました(「借りる」の2016年の急増は住宅ローン金利の低下によるものと推察されています)。同論文では、世界全体の「value for money」の相対検索量についても、12か月移動平均で長期的な上昇傾向が示されています。
ただし、これらはリキッド消費を直接測ったものではない、と論文自体が断っています。社会の液状化と整合する変化が観察できる、という水準の根拠として読むのが適切です。
久保田(2020)の分析以降の公的データもあります。消費者庁「消費者意識基本調査」(2025年度)では、過去1年間にインターネットで商品・サービスを購入・申し込んだ3,569人のうち71.6%がサブスクリプション契約の経験を持っていました。年齢層別では20歳代88.9%、30歳代84.2%と若い層が高い一方、50歳代でも70.9%、70歳以上でも55.2%です(消費者庁『令和7年度 消費者政策の実施の状況』2026年6月、図表I-2-2-3)。同じ調査では、契約経験者の約2割が解約トラブルを経験していました。また情報通信総合研究所とシェアリングエコノミー協会の共同調査(2025年1月公表)では、2024年度の国内シェアリングエコノミー市場規模は3兆1,050億円で、2022年度から18.7%増えています。
久保田による「4つの消費」と省力化
久保田氏は、リキッド消費の広がりとともに見られるようになった行動を「4つの消費」としてまとめています(久保田研究室の解説ページ)。
- 軽く選ぶ消費:深く考えず、ひとまず買ってみる
- いろいろ楽しむ消費:特定のブランドにこだわらず、少しずつ多くを試す
- ひと手間かけない消費:同じ結果なら手間を省き、成果だけを求める
- 持たざる消費:アクセス・ベース消費とほぼ同じ意味で、所有せずに使う
このうち「ひと手間かけない」は原典の3特徴には無い要素で、新書では「省力化」としてリキッド消費のもう1つの特徴に位置づけられています。選ぶ・買う・使う、それぞれの手間を減らす仕組みが受け入れられやすい、という見方です。
リキッド消費の具体例
3つの特徴のどれが強く出ているかで、サービスを分けると次のようになります。多くのサービスは複数の特徴を同時に持っています。
| 分野 | 例 | 強く出ている特徴 |
|---|---|---|
| 音楽・動画 | 定額配信サービス | 脱物質・アクセス |
| 移動 | カーシェア・シェアサイクル | アクセス |
| 衣服 | ファッションレンタル・フリマアプリでの転売 | アクセス・短命 |
| 住まい・宿泊 | 民泊・短期賃貸 | アクセス・短命 |
| 書籍・ソフトウェア | 電子書籍・SaaS | 脱物質・アクセス |
カーシェアは、原典の著者自身が2012年に研究した題材です(Bardhi & Eckhardt「Access-Based Consumption: The Case of Car Sharing」Journal of Consumer Research 39巻4号)。同研究が調べたZipcar利用者には、車そのものと自己を結びつけず、使用価値を重視する傾向がありました。この知見が、自己との関連性という条件の根拠の一つになっています。
フリマアプリは見落とされがちな例です。新品を買う行為そのものはソリッドに見えますが、短期間使って売る前提で買うなら、価値の有効期限が短い短命性の消費になります。
企業・マーケティングへの影響
久保田(2020)は、リキッド消費がブランドに及ぼす影響として、使用価値の重視、量的な意味での物質主義の強まり、活発なブランドの乗り換え、自分だけのものにする志向(専有志向)の弱まり、ロイヤルティとコミットメントの希薄化、つかず離れずの関係、流動的な愛着、コミュニティの変化の8つを挙げています。共通するのは、「一度選ばれたら長く使い続けてもらえる」という前提が崩れることです。
以上の研究を踏まえ、本記事では実務上の検討事項を次の3点に整理します。
- 訴求の軸:ブランドの世界観や所有する喜びより、使って何が楽になるか(使用価値)を先に示す。
- 継続の測り方:乗り換えが前提になるため、獲得数より解約率とLTV(顧客生涯価値)で事業を評価する。顧客ロイヤルティの指標も、愛着より「戻ってきやすさ」を見る設計に寄せる。
- 手間の削減:省力化の観点から、選ぶ・申し込む・使い始める工程を短くする。ただし定期購入の申込画面には法的な表示義務があり、2022年6月施行の改正特定商取引法で最終確認画面の表示が厳しくなっている。
サブスク化が裏目に出やすい商材
原典の4条件を事業判断に当てはめて裏返すと、リキッド型のビジネスに切り替えないほうがよい場面が見えてきます。自己との関連性が高い商材(愛用品・趣味の道具・贈答品)では所有そのものに価値を感じる顧客が多いため、レンタルや定額制に切り替えるより購入の選択肢を残すべきです。移動ネットワークが弱い地方市場や、経済的な不安を抱えた中間層が主な顧客である場合も、原典の整理ではソリッド寄りになります。このような層に月額課金を持ち込むと、「払い続けても手元に何も残らない」ことが不満の原因になりえます。
反対に、自己との関連性が低く、使う頻度にばらつきがあり、都市部の移動の多い層が顧客である商材は、アクセス型へ寄せる余地が大きいと判断できます。
リキッド消費のメリットとデメリット
リキッド消費の典型である定額サービスと物品レンタルについて、消費者側と企業側で生じやすい利点と欠点をまとめます。継続課金は定額サービス、在庫・保守・回収の負担は主に物品レンタルの論点で、リキッド消費全般に共通する性質ではありません。
| 立場 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 消費者 | 初期費用・保管・維持の負担が小さい | 長く使うと割高・手元に残らない |
| 消費者 | 必要なときに必要な分だけ試せる | 定額課金が積み上がり総額を把握しにくい |
| 企業 | 試してもらう敷居が低く新規獲得しやすい | 乗り換えが容易で離脱も速い |
| 企業 | 継続課金で収益の見通しが立てやすい | 在庫・保守・回収の運用負荷を自社で抱える |
原典が指摘する欠点は「不安定さ・不確実さ」です。所有しないことは身軽さと引き換えに、サービスの終了や値上げ、アカウント停止で使えなくなるリスクを利用者が負うことを意味します。配信サービスの終了で購入済みのデジタル作品が見られなくなる、といった事態はその典型です。
リキッド消費の環境負荷と評価条件
「持たない消費だから環境負荷が小さい」という説明もよく見られますが、単純にそうとは言えません。原典は、リキッド消費は物を持つ数が少なく期間も短いので物質主義的でない、という見方と、アクセスによって物が次々に入れ替わるのでむしろ物質主義的だ、という見方の両方を示し、結論は今後の研究課題だとしています。久保田(2020)も、さまざまな財やサービスを次々に消費する点で「量的な意味では物質主義的」だと整理しています。
環境への効果は、稼働率や買い替え周期だけでは判断できません。製造・輸送・使用・廃棄の負荷に加え、共有サービスが従来の利用を何に置き換えるかも含めて評価する必要があります。脱物質やアクセスをサーキュラーエコノミーの文脈で語るなら、回収・再利用の仕組みに加え、従来の消費と比べて資源使用や排出量を減らせるかまで確かめて、初めて環境面の利点として示せます。
よくある質問
リキッド消費とソリッド消費の違いは何ですか?
リキッド消費は短命・アクセスベース・脱物質の消費、ソリッド消費は永続的・所有ベース・物質的な消費です。両者は二者択一ではなく連続体の両端で、同じ人がカテゴリによって使い分けます。
リキッド消費は誰が提唱しましたか?
フルーラ・バーディとジアナ・エカートが、2017年の論文「Liquid Consumption」(Journal of Consumer Research 44巻3号)で提唱しました。社会学者ジグムント・バウマンの「リキッド・モダニティ」が理論的な下敷きです。
リキッドとソリッドはどういう意味ですか?
英語でリキッド(liquid)は液体、ソリッド(solid)は固体という意味です。形が定まらず流れていく消費と、形が定まって長く続く消費を、液体と固体にたとえています。
リキッド消費の具体例にはどんなものがありますか?
定額制の音楽・動画配信、カーシェア、ファッションレンタル、民泊、電子書籍などです。短期間使って売る前提でフリマアプリを使う買い方も、価値の有効期限が短い点でリキッド消費にあたります。
リキッド消費はZ世代に特有の現象ですか?
特有ではありません。原典は世代で定義しておらず、消費がリキッドに寄るかソリッドに寄るかの条件として、自己との関連性・社会関係・移動ネットワークへのアクセス・不安定さの種類という状況を挙げています。消費者庁の調査でも、ネットで買い物をした50歳代の70.9%にサブスクリプション契約の経験があります。