DECAX(デキャックス)は、発見(Discovery)→関係作り(Engage)→確認や注意(Check)→行動(Action)→体験と共有(eXperience)の頭文字をとった、コンテンツマーケティングの消費行動モデルです。2015年12月に電通報で公開された鼎談記事で紹介されたもので、電通デジタル・ホールディングス(DDH)シンガポール支社の内藤敦之氏が、東南アジアでコンテンツマーケティングを説明するために組み立てました。この記事では原典の記述をもとに、5段階それぞれの意味、AIDMA・AISASとの違い、事例の読み方、DECAXが合わない場面を整理します。
まとめ:DECAXの定義と使いどころ
- DECAXは「Discovery→Engage→Check→Action→eXperience」の5段階で、eXperienceから次のDiscoveryへ戻るループを持つ。
- 出どころは電通報「コンテンツマーケティングの現場から」の前編(2015年12月9日公開)と後編(同24日公開)。考案者はDDHシンガポール支社の内藤敦之氏。
- 原典は「仮説であり、実証的なものではありません」と明記している。KPIの根拠として扱うときは、実証済みのモデルではない点を前提にする。
- AIDMA・AISASとの最大の違いは起点。広告に気づかされる(Attention)のではなく、生活者が自分で見つける(Discovery)ところから始まる。
- 本記事の判断として、検索・比較が購買の中心になる商材ではAISASを優先し、購入後のコンテンツを出し続けられない体制ではDECAX全体を主軸にしない設計を勧める。
以下、出どころ、5段階の中身、他モデルとの違い、事例、設計手順、合わない場面の順に説明します。
DECAXの出どころ:2015年12月の電通報と「仮説」という位置づけ
原典の書誌:DDHシンガポール支社・内藤敦之氏の鼎談
DECAXが紹介されたのは、電通報の連載「コンテンツマーケティングの現場から」の22回目と23回目です。郡司晶子氏、青木圭吾氏、内藤敦之氏による鼎談を前後編で掲載しています。
| 項目 | 前編 | 後編 |
|---|---|---|
| タイトル | 本当のところ、みんな、どんな行動をしている? | 日本の企業はコンテンツマーケティングと相性がいい? |
| 公開日 | 2015年12月9日 | 2015年12月24日 |
| 連載回 | 22/34 | 23/34 |
| 主な内容 | 5段階の定義と考案の経緯 | 日本企業との相性・KPI・チーム運営 |
出典:電通報「本当のところ、みんな、どんな行動をしている?」(2015年12月9日)、「日本の企業はコンテンツマーケティングと相性がいい?」(2015年12月24日)。以下、本記事の引用はこの2本からです。
前編の冒頭で、内藤氏は「電通デジタル・ホールディングス(DDH)シンガポール支社」の所属として紹介されています。DECAXの解説記事には「電通が提唱」「電通デジタルが提唱」と書くものが多くあります。しかし株式会社電通デジタルの設立は2016年7月1日で、原典の公開時点ではまだ存在しません。DDHは、2000年設立の株式会社電通ドットコムが2010年1月5日に改組・社名変更して発足した会社で、電通デジタルとは別の会社です。原典の記述に沿うなら「電通グループのDDHシンガポール支社に所属していた内藤氏が考案し、電通報で紹介した」が正確です。
考案の背景:東南アジアでのコンテンツマーケティングの説明課題
内藤氏は当時、東南アジアでSSPやアドエクスチェンジを使ったディスプレイ在庫の開発を担当していました。Outbrainのようなコンテンツディスカバリープラットフォームを提案に組み込むと「単なるCPC型商品」に見えてしまう。そこで「AISASのようなモデルを作る必要がある」と考えたのが出発点です。
前編の「なぜDECAXが必要になったのか」では、動機がさらに率直に語られています。東南アジアの生活者はAIDMAやAISASと違う形で動いているのに、それを説明するモデルがない。「コンテンツマーケティングがどう新しいのかを説明する、言い方を変えると過去との断絶感が必要だった」。つまりDECAXは、学術的な調査から導いた行動モデルではなく、クライアントとパートナーに新しい広告商品を説明するための枠組みとして生まれています。
原典が自ら付けた2つの限定
原典には、DECAXの適用範囲を絞る記述が2か所あります。DECAXを説明するときは、この限定も併せて示す必要があります。
- 前編:「既に始まっている生活者の情報行動の変化と、その延長線上にある将来像に関する仮説であり、実証的なものではありません」
- 後編の編集後記:「DECAXは2015年のこの時点におけるモデルに過ぎません」
「AIDMAやAISASに代わる最新モデル」という紹介は、この2点と合いません。社内資料や提案書でDECAXを使うなら、「2015年に示された、コンテンツ起点の購買行動を整理する仮説フレーム」と位置づけておくと、根拠を問われたときに説明が崩れません。
DECAXの5段階:原典の定義と各段階で企業が打つ手
原典の訳語と、各段階について内藤氏が挙げた手段を一覧にします。
| 段階 | 原典の訳語 | 何が起きるか | 原典が挙げる手段 |
|---|---|---|---|
| Discovery | 発見 | 関心に沿ってコンテンツを見つける | レコメンド、インタレストグラフ |
| Engage | 関係作り | コンテンツに引きつけられる | Heroコンテンツ、ネイティブ記事 |
| Check | 確認や注意 | 真偽・出自・意図を見極める | 理性的に見ても価値のある情報 |
| Action | 行動 | オンライン・オフラインで購買 | 指名される状況づくり |
| eXperience | 体験と共有 | 購入後に使い方を知り、共有する | How-to・Tips(Hub/Help) |
前編の本文の定義では1段階目を「Discovery」と書き、段階ごとの小見出しでは「発見:Discover」と動詞にしています。どちらで書いても意味は同じです。
Discovery(発見):自分で見つけたと感じさせる仕組み
内藤氏は、ある自動車会社への印象を大きく変えたのはテレビCMよりも、レコメンドで表示されたブランデッドコンテンツだったと振り返っています。自分で発見し、能動的にクリックした情報は一度の接触でも残る。そこで1段階目を「生活者が自身の好奇心や関心に基づいてコンテンツを発見すること」、マーケター側から見れば「生活者が自分自身で発見したと思わせるテクノロジー・仕組み」と定義しました。
この段階の狙いは、顕在ニーズの刈り取りではなく潜在ニーズの掘り起こしです。施策としては、関心データに基づくレコメンド配信、コンテンツディスカバリー広告、検索やSNSで見つかる記事・動画の整備が該当します。
Engage(関係作り):コンテンツそのものが引きつける力
原典では、能動的に発見したコンテンツへのEngageは「ほぼ同時に起きます」とされています。Discoveryが出会いを作る技術を指すのに対し、Engageはコンテンツ自体が人の心をつかむ力です。内藤氏は、企業名と媒体社名のどちらを主語にするかといった形式の議論は大きな問題ではなく、オーディエンスを引きつけてパーセプションを変えられたかに尽きると述べています。
YouTubeが提唱したHHH(Hero/Hub/Help)戦略のうち、Heroコンテンツがこの段階の担い手として挙がっています。YouTubeのブランド向けプレイブックでは、Heroは商品発売など年に数回の機会に幅広い視聴者へ届けるコンテンツ、Hubは定期的に制作するコンテンツ、Helpは視聴者が検索する疑問に常時答えるコンテンツと区分されています。記事広告の形を取る場合は、ネイティブ広告とは?IABの3分類と費用構造・広告表記の実務基準を解説で整理した広告表記の基準を満たしたうえで、中身で引きつける設計にします。
Check(確認や注意):ステマ以後の生活者が行うフィルタリング
Checkの正式な訳は「(理性的態度による)確認や注意」です。内藤氏は、ステルスマーケティングなどの影響でコンテンツの社会的信頼性が下がり、生活者は「情報の真偽、出自、裏の意図を瞬時のうちに見極め、無意識のうちにフィルタリングしています」と説明しています。単なる商品比較ではなく、発信者が誰で、何を意図しているかを確かめる段階です。
後編でも、コンテンツで持ち上げてもCheckで見破られる、だから発信者を明らかにして専門家として語るほうが説得力が増す、という議論が続きます。日本では2023年10月1日から景品表示法のステルスマーケティング告示(令和5年内閣府告示第19号)が施行され、事業者が自己の供給する商品・役務の取引について行う表示のうち、一般消費者が事業者の表示だと判別することが困難なものが不当表示に指定されました。Checkを「すり抜ける」発想は法的にも成り立たないので、広告主体を明示したうえで判断材料を出すのが前提です。規制の範囲はステルスマーケティング(ステマ)とは?定義・規制・罰則と見分け方で確認できます。
Action(行動):ファネルを経ずに指名される状態
Actionは購買で、オンラインかオフラインかは問いません。原典が強調するのは、Actionそのものより「それ以前のDECのプロセスできっちりニーズを固めきれているのか」です。内藤氏はコミュニケーションの役割を「選ばれるための必然性を創ること」とし、ファネルを経ずに指名される状況が理想だと述べています。フォーム改善やLPOはこの段階の施策ですが、DECの3段階が弱いまま導線だけ磨いても効果は限られます。
eXperience(体験と共有):購入後のコンテンツから次の発見への循環
購入後に、How-toやTipsのコンテンツで商品の新しい使い方を知る。これがeXperienceです。HHH戦略ではHub/Helpコンテンツに当たり、内藤氏は、その制作には従来の代理店とは違う量・速度・コストが求められると指摘しています。
原典の例は、シンガポールのある会社がスーパーマーケットのオリジナルブランドの調味料や食材を使った短編料理番組を毎日制作・配信しているケースです。既存顧客向けのコンテンツが、新しい生活者のDiscoveryにもなる。この循環を原典は「フィードバック・ループ」と呼んでいます。eXperienceを口コミ投稿やUGCだけに狭めず、企業が出す購入後コンテンツまで含めて設計するのが原典に沿った読み方です。
AIDMA・AISAS・SIPSとの違い:起点と購入後の扱い
| モデル | 起点 | 共有・体験の段階 | 想定する接点 |
|---|---|---|---|
| AIDMA | Attention(注意) | なし | マス広告 |
| AISAS | Attention(注意) | Share(共有) | Web検索 |
| SIPS | Sympathize(共感) | Share & Spread | SNS |
| DECAX | Discovery(発見) | eXperience→Discovery | コンテンツ |
違いが最も大きいのは起点です。AIDMAとAISASは、企業が出した広告に生活者が気づかされるところから始まります。DECAXは、生活者が自分の関心で見つけるところから始まります。後編で内藤氏は、AIDMAが有効だった時代は「認知率が全て」で、同じ割合で棚に並んだ商品なら最も認知率の高いものが買われるという前提があったと説明しています。DECAXが認知以外の指標を求めるのは、この前提が崩れたという認識からです。
もう1つの違いは、検索の位置づけです。AISASはSearchを独立した段階に置きますが、DECAXには検索だけを独立させた段階がなく、検索はDiscoveryやCheckを支える手段として位置づけられます。代わりにCheck(信頼性の見極め)が独立した段階になっています。AIDMAとAISASの段階の対応はAIDMAとAISASの違いとは?5段階の対応関係・使い分けと後継モデルを解説、共感を起点とするSIPSはSIPSとは?電通の原典で読む4ステップとAISASとの違い・使いどころで詳しく扱っています。
なお、電通は2011年のSIPS発表時に、AISASを今後もコミュニケーションの土台となる消費行動モデルとして提唱すると明記しています。後から出たモデルが前のモデルを置き換えたわけではありません。どのモデルを使うかは、商材の買われ方で決めます。選び方の全体像は購買プロセスとは?5段階モデルと購買行動フレームワークの使い分けと分析手順にまとめています。
DECAXの事例:原典の2例と「成功事例」の読み方
原典に出てくる2つの例
原典がDECAXの説明に使った具体例は、前の章で触れた2つです。自動車会社のブランデッドコンテンツはDiscovery→Engageの例、シンガポールのスーパーマーケットの料理番組はeXperience→Discoveryのループの例として出てきます。どちらも企業名は伏せられており、売上などの成果指標も示されていません。原典はこの2例を、モデルの成果を証明する材料ではなく、段階の意味を説明する材料として使っています。
当てはめ事例を読むときの確認点
Web上の「DECAX成功事例」には、有名企業のオウンドメディアやSNS運用をDECAXの5段階に当てはめて解説したものが多くあります。ただし、検索上位の解説記事が挙げる事例を確認した範囲では、どれも記事の書き手による解釈で、その企業が「DECAXで設計した」と述べた資料が示されているわけではありません。事例を自社の企画に引用する前に、次の3点を確かめてください。
- 企業自身の発表やインタビューでDECAXに言及しているか
- 成果の数値に出典と期間が付いているか
- 5段階のうち、実際に施策があったのはどの段階か(企業自身による設計の説明と、記事の書き手による事後的な分析を区別する)
当てはめ自体は無意味ではありません。自社に近い商材のコンテンツ施策を5段階に分解し、どこに投資が偏っているかを見る分析の型として使えます。
DECAXで施策を設計する手順と段階別の指標
後編では、DECAXの使い道として「チームの共通言語」が挙がっています。コンテンツマーケティングのチームにはクリエーティブ、データ計測、デジタル広告など出自の違う人が集まり、同じ言葉でも指す内容がずれる。どの段階にブランディング施策、どの段階にダイレクト施策を置くかを先に決めれば、このずれを抑えられるという指摘です。ここからの手順と指標例は、原典を踏まえた本記事の設計案です。設計は次の順で進めます。
- 商材が「検索して比較して買う」型か、「見つけて引きつけられて買う」型かを判定する
- 5段階ごとに、生活者が接するコンテンツと接点(検索、SNS、レコメンド、店頭)を書き出す
- 段階ごとに指標を1〜2個決め、ブランディング指標とコンバージョン指標の役割を分けたうえで、両者の関係も検証する
- eXperienceのコンテンツが次のDiscoveryにつながっているか(流入元として計測できるか)を確かめる
| 段階 | 指標の例 | 主な施策 |
|---|---|---|
| Discovery | 新規ユーザー数、表示回数 | SEO記事、レコメンド広告 |
| Engage | 読了率、平均視聴時間 | Hero動画、特集記事 |
| Check | 指名検索数、比較ページ閲覧 | 仕様・価格・第三者評価の開示 |
| Action | 購入数、CVR | 購入導線、店頭連動 |
| eXperience | リピート率、投稿数 | How-to記事、使い方動画 |
表の指標は代理指標です。たとえば指名検索数や比較ページの閲覧数は、生活者が信頼性を確かめた(Check)ことを直接示すものではないため、閲覧後の行動や顧客への聞き取りと組み合わせて読みます。後編でも、ブランド好意度のような態度変容をサイト行動と合わせてどう測るかは試行錯誤中だと語られています。
指標の置き方でもう1つ注意したいのはEngageです。後編で青木氏は、Outbrain幹部が「エンゲージ=コンバージョンではない」と繰り返し強調していたと紹介しています。Engageの段階にCVRを置くと、動画再生数やページ回遊数を無理に成果へ結びつける「座りの悪い」KPIになりがちです。段階の考え方はマーケティングファネルとは?4つの型と使い分け・指標の置き方、コンテンツ施策そのものの設計はコンテンツマーケティングとは?戦略設計・手法の使い分け・KPIまで実務目線で解説も参考になります。
DECAXが合わない場面と、使う前に決めておくこと
DECAXはどの商材にも当てはまる汎用モデルではありません。次の3つに当てはまるなら、DECAXを主軸にしないほうが設計がぶれません。
検索で比較して買う商材
型番指名や価格比較で買われる家電、保険の見積もり比較のように、生活者が明確なニーズを持って検索から入る商材では、Discoveryで潜在ニーズを掘り起こす余地が小さくなります。Search(情報収集)を独立した段階として持つAISASのほうが、検索を通じた比較検討への施策を整理しやすくなります。
購入後のコンテンツを出し続けられない体制
DECAXの循環はeXperienceのHub/Helpコンテンツが支えます。原典自身が、このコンテンツには量・速度・コストの面で従来と違う体制が要ると述べています。キャンペーン単位で予算が切れ、購入後の使い方記事や動画を更新し続けられないなら、ループは回りません。その場合はDiscoveryからActionまでを当面の施策範囲とし、購入後から次の発見につなぐ部分は未整備であると明示しておくほうが、計画と実態のずれを説明しやすくなります。
実証データとして提示する場面
DECAXは原典の段階で「実証的なものではありません」とされています。経営会議で予算配分の根拠に使う、学術レポートで消費者行動の実態として引用する、といった用途では、自社の計測データや調査で裏付けを取るまで、DECAXは仮説の整理に使うにとどめます。UGCを起点に据えるモデルを検討しているなら、提唱元が定義を公開しているULSSAS(ウルサス)とは?6つのステップとAISASとの違い・実践手順を解説と比べてから選ぶとよいでしょう。
DECAXに関するよくある質問
DECAXの読み方は?
「デキャックス」です。原典の電通報でも「DECAX(デキャックス)」と読みが併記されています。
DECAXは誰がいつ提唱したモデルですか?
電通デジタル・ホールディングス(DDH)シンガポール支社の内藤敦之氏が考案し、2015年12月9日公開の電通報の鼎談記事で紹介されました。「電通が2015年に提唱」と書かれることが多いものの、原典では内藤氏個人の仮説として示されています。
DECAXの「発見」とAIDMA・AISASの「注意(気づき)」は何が違いますか?
主体が違います。AIDMA・AISASのAttentionは、企業が出した広告に生活者が気づかされる段階です。DECAXのDiscoveryは、生活者が自分の好奇心や関心に沿ってコンテンツを見つける段階で、企業側はその出会いが起きる仕組みを整えます。
DECAXは今でも使えますか?
段階の整理としては使えますが、原典自身が「2015年のこの時点におけるモデルに過ぎません」と書いています。2015年当時に想定されていたコンテンツディスカバリー広告やネイティブ記事に加え、現在は短尺動画やSNS検索も発見の経路になっています。5段階の枠は残し、各段階の接点は自社の現在のデータで置き直して使ってください。
DECAXとULSSASの違いは何ですか?
起点と構造が違います。DECAXは企業や媒体が出すコンテンツとの出会いを起点にし、購入後のeXperienceから次のDiscoveryへ戻ります。ULSSASはホットリンクが提唱したモデルで、ユーザーの投稿(UGC)を起点に、いいね、SNS検索、検索エンジン検索、購買、拡散と進み、拡散が次のUGCを生むフライホイール型です。